説明

導電回路を有する合成樹脂製のばね

【課題】ばねの疲労強度を向上させ、導電回路の集積化を容易にする。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を射出成形して板状のばね基体102を成形し、表面に脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散した溶液に、あらかじめバインダを混合したものを塗布して接着層103を形成する。次に接着層103の表面を被覆材で部分的に覆って無電解めっきを行い、導電回路104を形成する。接着層103は、無電電解めっきとの密着性が優れるため、エッチング液等によって表面を粗化する必要がない。このため板状のばね101の疲労強度を向上させる。無電電解めっきを全表面ではなく部分的に行なうことにより、隣接する導電体との電気的接触を回避するための絶縁フィルム等を設ける必要がないので、導電回路の集積化を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂製のばね基体の表面に導電回路を形成した、合成樹脂製のばねに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数枚の基板が所定の間隔をもって積層された、3次元的な導電回路等において、各層の電極等を相互に電気的に接続する手段として、ばね状の接続端子が用いられている(例えば特許文献1〜3参照。)。
【0003】
すなわち特許文献1には、合成樹脂製の支持体1に金属製の板状の端子ピン2を植設した構成が開示されている。端子ピン2の上端部は、支持体1の上面から突出しており、この端子ピンの下端部は、二股状になって、この支持体の下面から突出している。したがって支持体1を上下に積層すると、上側の支持体の下面から突出する端子ピン2の二股状の下端部に、下側の支持体の上面から突出する端子ピンの上端部が挿入係合し、両者が電気的に接続される。
【0004】
一方特許文献2には、半導体チップ1上に形成されたボンデングパッド1aと、基板3上に形成された電極3aとを、この電極の表面上に形成したバネ状の突起状電極2によって、電気的に接続する構成が開示されている。突起状電極2は、ニッケル等の金属ばねの他、電極3aの表面に光硬化性樹脂を複数層積層して、ばね状の突起を形成し、この外表面に無電解めっきをして導電体にするもの、及び金属材料を混合した光硬化性樹脂を複数層積層し、ばね状の突起を形成するものが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、合成樹脂製のロケーティングハウジング3の一側部に、リード状のばね機構3bを一体的に突設し、このばね機構を対向するハウジング4の側面に接触させて、両者を電気的に接続する構成が記載してある。合成樹脂製のロケーティングハウジング3は、表面にめっきを施して導電性を持たせたものであって、これにより電磁妨害対策を行なっている。
【特許文献1】特開平8−31492号公報(第図7等)
【特許文献2】特開平2005−11845号公報(第図5等)
【特許文献3】実開平2−129689号公報(第図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、上述した従来の導電性のばね部材について、さらに改良すべき次の点があることを見出した。すなわちこれらの導電性のばね部材は、いずれも全表面が導電性であるため、例えば集積度が高い導電性回路を、相互に接続する場合には、周辺部品と電気的に隔離するために、導電性のばね部材の側面等に、絶縁フィルム等の絶縁層を挟む必要がある。
【0007】
また上記特許文献2、及び特許文献3に記載の導電性のばね部材は、絶縁性の合成樹脂からなるばね部材の全表面に、無電解めっきを施して導電性を確保する構成が記載されている。いずれの特許文献にも、無電解めっきの施工方法の詳細は記載されていないが、無電解めっきと、合成樹脂からなるばね部材との密着性を確保するために、このばね部材の表面をエッチング等によって粗化することが必要になる。
【0008】
ところでばね部材の使用は、ばね部材が、繰返し弾性変形する機能を発揮させることを目的としているため、疲労強度を十分確保する必要がある。しかるに合成樹脂からなるばね部材の表面を粗化すると、アンカー効果によって、無電解めっきの密着性は向上するが、他方において、粗化面に生じる微小な凹凸がノッチとなって、疲労強度が低下する。特に導電性回路の集積度が高まり、構成部品の微小化が進む現状においては、ばね部材も、可能な限り微小にする必要がある。したがって疲労強度を確保するために、ばね部材の断面積等を大きくすることは、この微小の要請に反するために困難となる。
【0009】
そこで本願発明による第1の目的は、周辺部品との電気的な隔離を容易にする、導電回路を有する合成樹脂製のばねを提供することにある。第2の目的は、合成樹脂からなるばね部材の疲労強度の低下が防止できる、導電回路を有する合成樹脂製のばねを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明による導電回路を有する合成樹脂製のばねの特徴は、合成樹脂製のばね基体の表面に、無電解めっきとの密着性が優れる接着層を設けることにある。また他の特徴は、上記接着層に、無電解めっきによる導電回路を選択的に形成することにある。さらに他の特徴は、上記接着層との接着性が優れる合成樹脂製のばね基体を使用することにある。
【0011】
すなわち本願発明による導電回路を有する合成樹脂製のばねは、射出成形で形成された合成樹脂製のばね基体と、このばね基体の全表面を覆う接着層と、この上記接着層の表面に選択的に形成した無電解めっきによる導電回路とを備えている。上記接着層は、脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散した溶液に、あらかじめバインダを混合したものを塗布して形成してある。
【0012】
上記ばね基体を構成する合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1であることが望ましい。
【0013】
ここで「ばね基体」としては、コイル状のつる巻きばね、及び板状のばね等が該当する。またばね基体として単体のものの他、他の部品の一部分として一体的に形成されたものも含む。また「接着層の表面に選択的に形成した無電解めっき」とは、接着層の全表面ではなく、例えば、板状のばね部材の両端部に無電解めっきで接続端子を形成すると共に、両端部の接続端子に接続する通路を、この板状のばね部材の片面にのみ、無電解めっきで形成することを意味する。
【0014】
「脱ドープ状態のポリピロール樹脂」とは、ポリピロール樹脂について、いわゆる荷電担体を還元除去した状態を意味する。すなわちポリピロール樹脂は、ピロールを酸化することで重合して導電性高分子に成長する。この導電性高分子は、いわゆる自由電子や正孔である荷電担体を有し、導電性を発揮する。「脱ドープ状態」とは、この導電性高分子を還元して、荷電担体を除去し、導電性を喪失させた状態を意味する。「バインダ」とは、ポリピロール系樹脂を接着層に接着させる接着成分を意味し、例えばエポキシ樹脂が該当する。また「塗布」とは、スプレーで噴霧、履け塗り、あるいは溶液に浸漬することを意味する。
【発明の効果】
【0015】
合成樹脂製のばね基体の全表面を、ポリピロール系樹脂を分散した接着層で覆い、この接着層に無電解めっきを付与することによって、次の効果を得ることができる。すなわち、ポリピロール系樹脂は、無電解めっきとの電気化学的な親和力が強く、無電解めっきとの強固な密着性が得られる。したがって無電解めっきの前に、ばね基体の表面を粗化する工程を省くことができる。
【0016】
また上記工程の省力化に加えて、ばね基体の表面を粗化しないことによって、このばね基体の疲労強度の低下を回避することができる。さらに、合成樹脂の表面を粗化する場合には、この合成樹脂にエッチング液で溶解するフィラー等を混入しておく必要があるところ、このようなフィラー等を混入した合成樹脂は、溶解した状態における流動性が低下して、微小な製品を射出成形することが困難になる。本願発明においては、このようなフィラー等を混入する必要性がないため、微小な製品を射出成形することが容易になる。またばね基体の表面粗化においては、クロム酸等のエッチング液を使用するが、このエッチング液は、環境汚染の要因となり、その処分等においても多大なコスト等が必要となる。本願発明においては、このようなエッチング工程を有しないため、耐環境性に極めて優れている。
【0017】
接着層の表面に無電解めっきによる導電回路を選択的に形成することにより、次の効果が得られる。すなわちばね部材の使用は、弾性変形することを目的としているため、回路基板等への組み付け、あるいは使用中において、外表面の位置が多少変動する。またつる巻き状のばね部材の場合には、このばね部材の軸芯が過度にずれないように、ばね部材の中心孔や周囲を、ガイド部材によって支持する必要がある。かかる場合、全表面が導電性になっている従来のばね部材では、隣接する導電回路や支持部材等との電気的接触を確実に避けるためには、ばね部材の表面等を絶縁フィルム等の絶縁手段によって覆う必要がある。このような絶縁手段を設けることは、回路の集積化を著しく阻害する。
【0018】
本願発明においては、絶縁体からなるばね基体の全表面でなく、例えば片面にのみ導電回路を選択的に形成することによって、ばね部材の両側面等の絶縁性を、絶縁体からなるばね基体自身によって容易に確保できる。したがって、隣接する導電回路や部品等との電気的接触を避けるために、絶縁フィルム等の絶縁手段を設ける必要がなく、回路の集積化やコストダウンが可能になる。また絶縁体からなるばね基体の表面に、複数の導電回路を形成することによって、1のばね部材で複数の接続端子等との電気的接続ができるため、さらに回路の集積化やコストダウンが可能になる。
【0019】
ばね基体に、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1を使用することによって、ばね部材として優れた特性を発揮させることができる。すなわちこれらの合成樹脂は、いずれも疲労強度が高く、耐熱性や耐薬品性等にも優れているため、導電回路等に使用するばね部材に極めて適している。
【0020】
またこれらの合成樹脂は、いずれも接着層のバインダであるエポキシ樹脂等との接着性が優れ、この接着層とばね基体との強固な密着性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1〜図6を参照しつつ、本願発明による導電回路を有する合成樹脂製のばね(以下「本発明のばね」という。)の構成等ついて説明する。なお本発明のばねの製造工程は、図7において後述する。さて図1は、本発明のばねを、つる巻き状のばね1に構成したものを示している。つる巻き状のばね1は、まず熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を、素線断面が四角の、つる巻き状のばね基体2に射出成形する。つる巻き状のばね基体2の全表面は、脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散して、エポキシ樹脂からなるバインダを混合したものを塗布した接着層3で覆われている。
【0022】
つる巻き状のばね1の外側面にのみ、接着層3の表面上に、無電解めっきによる導電性回路4が形成してある。つる巻き状のばね基体2の両端面も、無電解めっき2を形成して、相互に対向する電極等との電気的接続を可能にしている。なお上記素線断面は、四角に限らず、円形であってもよく、円形のつる巻き状に限らず、楕円あるいは六角形等の他の多角形のつる巻き状であってもよい。
【0023】
図2は、本発明のばねを、板状のばね101に構成したものを示している。板状のばね101は、略S字状に湾曲した2辺のリード111と、この2辺のリードを連結する一端部112とから構成される。板状のばね101は、まず熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を、板状のばね基体102に射出成形する。板状のばね基体102の全表面は、脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散して、エポキシ樹脂からなるバインダを混合したものを塗布した接着層103で覆われている。
【0024】
2辺のリード111の上側面であって、接着層103の表面上に、無電解めっきによる導電性回路104がそれぞれ形成してある。なお導電性回路104は、板状のばね101の一端部112の前側面と裏面にも、回りこんで形成してあり、相互に対向する電極等との電気的接続を可能にしている。なお2辺のリード111は、単一であっても、三辺以上であってもよい。またリード111は、略S字状に限らず、横向きのU字状や、板状部材をジグザグに形成したもの等であってもよい。
【0025】
図3は、本発明のばねを、他の部品の一部分として、一体的に形成したものを示している。本発明のばねは、板状のパネル205の一端に、一定の間隔を隔てて突設した、略S字状に湾曲したリード状のばね201から構成される。リード状のばね201は、熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を、板状のパネル205と一体的に射出成形して、リード状のばね基体202を成形する。リード状のばね基体202の全表面は、脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散して、エポキシ樹脂からなるバインダを混合したものを塗布した接着層203で覆われている。
【0026】
各リード状のばね基体202の片側面であって、接着層203の表面上に、無電解めっきによる導電性回路204がそれぞれ形成してある。なお導電性回路204は、板状のパネル205の表面にも延長して形成してあり、それぞれ電極等と電気的に接続してある。なおリード状のばね201は、二辺以上に限らず、単一であってもよく、略S字状に限らず、U字状や、略C字状等であってもよい。
【0027】
図4に、図1で説明したつる巻き状のばね基体2を射出成形する、金型の1例を示す。すなわちこの金型は、つる巻き状のばね基体2の内周径と同じ直径の開口孔を有し、かつ180度に2分割された外金型Aと、この開口孔に嵌合挿入する円柱状の中子Bとで構成される。外金型Aの内周面には、つる巻き状のばね基体2の素線断面形状の溝Cを、それぞれ半周ずつ、つる巻き状に形成する。そしてこの2の外金型Aを重ね合わせた状態で、その中心の開口孔に、円柱状の中子Bを嵌合挿入する。つる巻き状のばね基体2は、中子Bの外周面と、つる巻き状の溝Cとで構成されたキャビティ内に、熱可塑性樹脂を射出して形成する。
【0028】
図5に、図2で説明した板状のばね基体102を射出成形する金型の1例を示す。すなわちこの金型は、板状のばね基体102の下側面に沿って上下に2分割した、上金型Dと下金型Eとから構成され、この上金型には、この板状のばね基体が埋設するような窪みFが開口している。そして上金型Dと下金型Eとを重ね合わせ、この上金型の窪みFと下金型とで構成されたキャビティ内に、熱可塑性樹脂を射出して形成する。
【0029】
図6に、図2で説明した板状のばね101の、使用態様の1例を示す。板状のばね101は、所定の間隔をもって相互に対向する基板106、107の間に、圧縮されつつ挿入される。すなわち上方の基板106の上表面には、導電回路141が形成され、下表面には、接続端子143が形成されている。導電回路141と接続端子143とは、導電性めっきを施したスルホール142によって、電気的に接続されている。また下方の基板107の上表面には、導電回路151が形成されている。なお上方の基板106の下表面には、電子部品108が搭載されている。
【0030】
下方の基板107に形成した導電回路151の上面に、板状のばね101の一端部112が搭載され、両者は半田付けによって結合してある。一方、板状のばね101の2辺のリード111の先端部は、上方の基板106の下表面に形成した接続端子143に、それぞれ圧接している。このようにして、上方の基板106の上表面に形成した導電回路141と、下方の基板107の上表面に形成した導電回路151とは、板状のばね101を介して、相互に電気的に接続される。なお板状のばね101の両側面は、無電解めっきが形成されていないため、隣接する電子部品108との絶縁性が確保される。したがって板状のばね101と隣接する電子部品108と間に、絶縁フィルム等を設ける必要はない。
【0031】
次に図7を参照しつつ、本発明のばねの製造方法の具体例を説明する。なお図7は、図2に記載した板状のばね101の断面A−Aを示したものである。さて、まず最初に熱可塑性樹脂であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を、射出成形して板状のばね基体102を製作する(A)。次に板状のばね基体102の全表面を、接着層103で覆う。この接着層103は、次のようにして形成する。
【0032】
まず有機材料であるピロールを、化学的、あるいは電気化学的に酸化反応させて重合し、導電性高分子であるポリピロール樹脂を生成する。生成したポリピロール樹脂は、導電性を有するため、電気的、あるいは化学的に還元反応させて荷電担体を除去し、導電性を失わせる(この操作を「脱ドーピング」という。)。次に、この脱ドーピングしたポリピロール樹脂を微細粉末にし、無機溶剤または有機溶剤のいずれかに分散させて溶液にする。次にこのポリピロール樹脂の溶液に、バインダであるエポキシ樹脂を混合する。接着層103の形成は、エポキシ樹脂を混合したポリピロール樹脂の溶液に、板状のばね基体102を浸漬したり、塗布したりすることで行なう。接着層103を形成した後、この接着層を十分乾燥させる(C)。
【0033】
次に接着層103の表面を、導電回路を形成すべき部分を残して、被覆材aで部分的に被覆する(D)。被覆材aとしては、ポリ乳酸の単体を使用するが、これに限らず、ポリグリコール酸の単体、またはポリ乳酸と脂肪族ポリエステルとの混合体、若しくは共重合体を使用してもよい。これらの樹脂は、アルカリ水溶液で加水分解する性質を有し、酸性水溶液に対して耐性を示す性質がある。被覆の方法としては、射出成形金型内に、接着層103で覆った板状のばね基体102をセットして、この板状のばね基体のうち、所定の導電性回路が形成されるべき部分を金型等で覆い、その部分以外のキャビティ内にポリ乳酸樹脂を注入することにより、この第1の基体の表面上に、被覆材aを一体的に形成する。なお被覆材aの厚さは、0.1〜1mmが望ましく、0.3〜0.5mmが、さらに望ましい。
【0034】
次に被覆材aで被覆した板状のばね基体102の全表面に、パラジウム、金などによる触媒bを付与する(E)。触媒bの付与は、公知の方法で行うが、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、被覆材aで被覆したばね基体102を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15℃〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0035】
板状のばね基体102の表面のうち、被覆材aで被覆されていない露出部分、すなわち所定の導電性回路が形成されるべき部分は、接着層103が露呈しており、この接着層は親水性であるため、触媒bが強固に付着する。一方被覆材aは、疎水性であるため、触媒bは、強固には付着しない。
【0036】
そこで被覆材aで被覆した板状のばね基体102を水洗浄すると、被覆材aの表面に残存する触媒bは、完全に脱落除去される(F)。一方所定の導電性回路が形成されるべき部分は、上述したように、触媒bが強固に付着しているため、水洗浄によっても、触媒が脱落することはない。なおこの水洗浄は、温度15℃〜25℃の水槽に浸して、5〜30秒間、ワークを遥動して行なう。
【0037】
次に板状のばね基体102の表面であって、被覆材aで被覆されていない部分に、浴組成が酸性の無電解ニッケルめっきを行い、導電性回路104を形成する(G)。無電解ニッケルめっきは、例えば、pH4.7、温度90℃の酸性浴に、35分間浸漬して行なう。またこの無電解ニッケルめっきに重ねて順に、無電解銅めっき、第2の無電解ニッケルめっき、及び浴組成を中性にして、無電解金めっきを行なってもよい。なお無電解ニッケルめっき、無電解銅めっき、および無電解金めっきは、酸性または中性の浴組成で行なうため、上述したように耐酸性を有する被覆材aは、めっき液に溶解することはなく、導電性回路104を精密に形成することができる。
【0038】
次に板状のばね基体102の表面を被覆した被覆材aを除去する(H)。上述したように被覆材aのポリ乳酸等は、酸性水溶液に対して耐性を示すが、アルカリ水溶液では簡単に加水分解するので、被覆材aで被覆した板状のばね基体102を、濃度2〜15重量%、温度25℃〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、この被覆材を除去する。したがって手作業によるマスク除去に比べ作業効率が著しく向上する。
【0039】
なお被覆材aの除去前後のいずれかにおいて、無電解ニッケルめっきによる導電回路104の上に、浴組成が酸性または中性の電解めっきを行なって、二次めっき層を形成し、この導電回路の厚みを増加させてもよい。この電解めっきは、例えば酸性の硫酸銅浴を用い、その浴組成は、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。なお被覆材aの除去前においても、この被覆材は、耐酸性を有するので、酸性の電解銅めっき液に溶解することはなく、無電解めっきを形成した導電性回路104の表面上に、正確に二次めっき層を形成することができる。
【0040】
また板状のばね基体102の材料であるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等に、繊維状又は粒子状のフィラーを添加してもよい。繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリュウムウイスカー、ホウ酸アルミニュームウイスカー、炭酸カルシュームウイスカー等、また、粒子状フィラーとしては炭酸カルシューム、ワラストナイト等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による導電回路を有する合成樹脂製のばねは、ばねの疲労強度を向上させ、導電回路の集積化を容易にし、かつ耐環境性に優れるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】つる巻き状のばねの斜視図である。
【図2】板状のばねの斜視図である。
【図3】板状のパネル一端に突設した板状のばねの斜視図である。
【図4】つる巻き状のばねの射出成形用の金型の概略図である。
【図5】板状のばねの射出成形用の金型の概略図である。
【図6】板状のばねの使用態様を示す一部断面図である。
【図7】合成樹脂製のばねの製造工程図である。
【符号の説明】
【0043】
1、101、201 ばね
2、102、202 ばね基体
3、103、203 接着層
4、104、204 導電回路
a 被覆材
b 触媒


【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形で形成された合成樹脂製のばね基体と、
上記ばね基体の全表面を覆う接着層と、
上記接着層の表面に選択的に形成した無電解めっきによる導電回路とを備え、
上記接着層は、脱ドープ状態のポリピロール樹脂を分散した溶液にバインダを混合したものを塗布して形成する
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばね。
【請求項2】
請求項1において、上記ばね基体を構成する合成樹脂は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)、またはポリエーテルイミドとポリイミド(PI)との共重合体のいずれかの1である
ことを特徴とする導電回路を有する合成樹脂製のばね。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−123567(P2009−123567A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297464(P2007−297464)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】