説明

導電性ゴムローラ

【課題】導電性の悪化や硬度の上昇といった不具合を伴うことなく、均一な電気特性を有し、かつ低硬度で圧縮永久歪み性に優れた導電性ゴムローラを提供する。
【解決手段】導電性芯金と、該導電性芯金上に積層された、エピクロロヒドリン系ゴムを有する導電性架橋ゴム層とからなる導電性ゴムローラであって、該エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体及びエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群から選択された少なくとも1つの共重合体であり、該エピクロロヒドリン系ゴムのエチレンオキサイドの構成単位は、該エピクロロヒドリン系ゴムに対して40モル%以上90モル%以下であり、該導電性架橋ゴム層について、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、−20℃以上150℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、5mJ/mg以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンター及びファクシミリ等に代表される電子写真装置や静電記録装置などの画像形成装置に使用される帯電ローラ、現像ローラ及び転写ローラ等の導電性ゴムローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンター等の電子写真方式の画像形成装置では、静電潜像にトナーを付着させ、このトナー像を転写紙等の記録媒体に転写して印刷する方式が採用されている。つまり、まず、感光体の表面を均一に帯電させ、この感光体に光学系から映像を投射して、露光部分の帯電を消去することによって潜像を形成する。次いで、トナーの付着によるトナー像の形成(現像)、転写紙等の記録媒体へのトナー像の転写により、プリントする方法がとられている。
【0003】
感光体の表面を均一帯電するための手段としては、電圧(例えば1〜2kV)を印加した帯電部材を所定の押圧力で感光体に当接させて、感光体を所定の電位に帯電させる接触帯電方式が知られている。帯電ローラは、接触帯電方式による均一帯電のための重要なポイントである感光体への一様な接触が二つの回転円筒体同士によりなされるため、ブラシ帯電やブレード帯電などの他の接触帯電方式よりも実現容易であり、採用されている。
【0004】
帯電ローラは、感光体に当接させて均一かつ良好な帯電性を付与するために、帯電ローラと感光体との接触面積(ニップ幅)を大きくかつ均一にすることが要求される。そのため、帯電ローラは、適当な硬さ(低硬度)を有することが要求される。また、帯電ローラは、当接によって変形を受けるが、圧縮力に対して充分な回復性を有する必要がある。一方、帯電ローラに必要なバイアス電圧を印加する為には、帯電ローラは、その体積抵抗を低く、且つ所望の電流値に調整する必要がある。また、帯電ローラが電気的に不均一な場合、感光体に対して、この電気的な不均一性を反映した帯電濃度ムラが生じる。したがって、帯電ローラは、所定の抵抗をもち、かつ電気的に均一であることが要求される。このように感光体と直接接触する帯電ローラには多くの物性が要求される。
【0005】
また、帯電部材に用いられるゴムローラの体積抵抗率は、1×10〜1×1010Ω・cmの所定の半導電性領域が必要である。目的とする導電性を実現するために、従来の帯電部材の製造方法では、カーボンブラック等の導電性フィラーを添加分散する方法や、ゴム自身に導電性を有するものを選択する方法が採用されていた。この導電性フィラーを添加分散する方法は、フィラーの配合量のわずかな差や、分散状態及び配向によって電気特性が影響を受ける。そのため、混練りバッチごとにばらつきが生じ、さらに同バッチ内でもローラごとのばらつきが生じやすくなる。さらには、印加電圧への依存性も大きく、安定した体積抵抗率を得ることが困難であった。しかし、導電性を有するゴム材を使用する方法は、このようなばらつきがほとんど発生しないため、所定の導電性を有するように調整しやすく、かつ安定して得ることができる。そのため、近年では製品の高性能化に伴い、導電性ゴムを用いたローラの製造が増加している。
【0006】
導電性ゴムとしては、一般的に、アクリロニトリルブタジエンゴム、エピクロロヒドリン系ゴム及びアクリルゴム等が挙げられる。なかでも、エピクロロヒドリン系ゴムは、各種ゴムのうち、抵抗値の低いポリマーであることが知られている。
【0007】
エピクロロヒドリン系ゴムとしては、エピクロロヒドリンホモポリマーが知られている。また、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体、エピクロロヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体が知られている。これらエピクロロヒドリン系ゴムでは、これを構成するエチレンオキサイドの共重合の割合を種々変えることにより、抵抗値をコントロールすることが可能であるという特徴があり、共重合の割合が高いほど体積抵抗が低くなることが一般に知られている。
【0008】
しかし、例えば低い体積抵抗が要求される導電性ゴムローラを作成するためにエチレンオキサイドの共重合の割合が高いエピクロロヒドリン系ゴムを用いると、所望の性能を満たす導電性ゴムローラを安定して得ることが非常に困難であった。というのも、上述のエピクロロヒドリン系ゴムを用いてローラを製造すると、ロットごとにローラ性能のばらつきが大きく、十分な体積抵抗の低下が認められず、かつ加硫後のゴム硬度が不安定で、電流値が異常に小さくなる場合があった。電流値が小さいと、要求される帯電能力を満たすことが困難となり、電子写真形成装置に組み込んでも良好な画像が得られない。また、硬度が高くなると、感光体に当接させても十分なニップ幅が確保できず、良好な帯電性が得られないばかりか、感光体自体を傷つけてしまう恐れがある。したがって、導電性ゴムローラの性能を発揮する上で致命的な欠点であった。
【0009】
上述の問題を克服する一例として、特許文献1に開示の材料がある。つまり、この材料は、低抵抗の導電性ゴムローラ用の半導電性材料として23℃及び50%RHでの加硫物の体積固有抵抗が1×10Ωcm〜2×10Ωcmであり、かつその環境依存性が2.5以下のエーテル系共重合体を有する加硫可能な材料である。
【0010】
しかしながら、このような材料から得た導電性ゴムローラは、導電性については確かに上記に示す抵抗値の範囲内で得られるが、材料ロットごとに導電性のばらつきが大きく、画像形成装置用の導電性ゴムローラとしては実用性に乏しいものであった。
【0011】
さらに、適度な硬度を有する導電性ゴムローラを得るための手段として、通常エピクロロヒドリン系ゴムに可塑剤を添加する方法がとられる。しかし、一般的なエピクロロヒドリン系ゴムに使用される可塑剤を用いた場合、長期間感光体と当接することにより導電性ローラから染み出した可塑剤が感光体を部分的に変質(感光体汚染)させ、画像に影響を及ぼす可能性がある。そのため、使用できる可塑剤の種類や配合量が制限されるという問題があった。
【特許文献1】特開2000−063656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、導電性の悪化や硬度の上昇といった不具合を伴うことなく、均一な電気特性を有し、かつ低硬度で圧縮永久歪み性に優れた導電性ゴムローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による導電性ゴムローラは、導電性芯金と、該導電性芯金上に積層された、エピクロロヒドリン系ゴムを有する導電性架橋ゴム層とからなる導電性ゴムローラであって、該エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体及びエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群から選択された少なくとも1つの共重合体であり、該エピクロロヒドリン系ゴムのエチレンオキサイドの構成単位は、該エピクロロヒドリン系ゴムに対して40モル%以上90モル%以下であり、該導電性架橋ゴム層について、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、−20℃以上150℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、5mJ/mg以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、導電性や硬度用の特性を損なうことなく、低抵抗で所望の電気特性を有しつつ、また、低硬度で圧縮永久歪み性に優れた導電性ゴムローラを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の導電性ゴムローラは、導電性芯金と、該導電性芯金上に積層された、エピクロロヒドリン系ゴムを有する導電性架橋ゴム層とからなる導電性ゴムローラであって、該エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体及びエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群から選択された少なくとも1つの共重合体であり、該エピクロロヒドリン系ゴムのエチレンオキサイドの構成単位は、該エピクロロヒドリン系ゴムに対して40モル%以上90モル%以下であり、該導電性架橋ゴム層について、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、−20℃以上150℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、5mJ/mg以下であることを特徴とする。このような構成により、体積抵抗が低く、所望の電流値を示し、かつ適度なゴム弾性を有する導電性ゴムローラを提供することができる。さらに、示走査熱量測定法(DSC)による−20℃以上150℃以下の範囲におけるピークが観察されない導電性架橋ゴム層を有する導電性ゴムローラが最も好適である。導電性架橋ゴム層のDSC特性は、このゴム層の原料となるエピクロロヒドリン系ゴム自身のDSC特性により左右される。上記エピクロロヒドリン系ゴムの製造バッチごとのバラツキによって、実際には架橋ゴム層を測定したときの熱量(エンタルピー:ΔH)が0mJ/mg以上5mJ/mg以下となる。逆に、5mJ/mgを超える場合は、エピクロロヒドリン系ゴムを構成するエチレンオキサイド鎖由来の結晶性が架橋ゴム層の物性に影響すると考えられ、硬度が異常に高くなる。また、結晶性により分子鎖の自由度が制限されるため体積抵抗が高くなり、圧縮永久歪み性が悪化するといった不具合にもつながる。
【0017】
また、本発明において、前記エピクロロヒドリン系ゴムについて、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、0℃以上70℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、15mJ/mg以下であることが好ましい。上記範囲内にあるエピクロロヒドリン系ゴムを有することにより、体積抵抗が低く、所望の電流値を示し、かつ適度なゴム弾性を有する導電性ゴムローラを提供することができる。さらには、上記の熱量が12mJ/mg以下のものを選択することで、目的とする体積抵抗の低下や、ゴム弾性を安定して得ることができ、より好ましい。15mJ/mgを超える場合は、エピクロロヒドリン系ゴムを構成するエチレンオキサイド鎖由来の結晶化が生じて導電性ゴムローラの特性に影響を与えると推測され、その結果、体積抵抗が高くなり、かつ硬度も高くなるために実用上好ましくない。
【0018】
エチレンオキサイドの構成単位が40モル%以上90モル%以下であるエピクロロヒドリン系ゴムを用いて上述の熱量(エンタルピー:ΔH)を15mJ/mg以下とした導電性架橋ゴム層を得るには、エピクロロヒドリン系ゴムの合成温度を適宜調整する。合成温度が高いほど熱量は大きくなる傾向にある。その理由は、おそらく、重合過程でポリマー鎖が長くなるうえに、ポリマー鎖を構成するユニットのランダム性に乏しく、エチレンオキサイド部位のブロック化(部分結晶化)が生じやすいためと推測される。したがって、エピクロロヒドリン系ゴムの電気特性を左右するエチレンオキサイド部位の運動性が規制されるために導電性が低下し、硬度が高くなる。逆に、合成温度が低いと重合反応がゆっくり進むため、ポリマー鎖の長さもランダム性も適度な状態でとなって上記のようなブロック化が生じにくくなると考えられ、導電性や硬度に優れたものになると考えられる。
【0019】
本発明による導電性ゴムローラを構成する導電性架橋ゴム層は、エピクロロヒドリン系ゴムを有する。また、このエピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体及びエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群から選択された少なくとも1つの共重合体を有する。このエピクロロヒドリン系ゴムとしては、特に、体積抵抗の調整に適する点で、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体が好ましい。導電性架橋ゴム層には、上述のほか、公知のエピクロロヒドリン系の化合物を有してもよい。この例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0020】
エピクロロヒドリンホモポリマー
エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体
エピクロロヒドリン−アリルグリシジルエーテル共重合体
エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル共重合体
【0021】
なかでも、重合体の構成単位としてエチレンオキサイドを有するものは、電気的に比較的低抵抗のものが得られやすく他ポリマーとのブレンド等により所望の抵抗値に調整しやすい。但し、ブレンドして使用する場合、エピクロロヒドリン系ゴムが有する体積抵抗特性を損なわない範囲で、エピクロロヒドリン系ゴムを主に有することが好ましい。また、導電性架橋ゴム層に含有されるエピクロロヒドリン系ゴムの構成単位としてアリルグリシジルエーテルを有することが好ましい。その理由は、アリルグリシジルエーテルが不飽和結合を有し、硫黄系加硫剤(硫黄又は硫黄供与体)による加硫が可能となって加硫方法や製造上の条件の制約が少なくできるためである。さらに、熱軟化劣化性や耐オゾン性が改善できるという点が挙げられる。
【0022】
エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体は共重合割合の違いにより多くの種類があるが、本発明では、エピクロロヒドリン系ゴムのエチレンオキサイドの構成単位は、40モル%以上90モル%以下である。エチレンオキサイドの構成単位が40モル%未満であると、所望の体積抵抗に調整することが困難となる。また、90モル%を超えると、エチレンオキサイドの結晶化により体積抵抗が高くなる上に硬度が高くなり、いずれの場合も実用上好ましくない。エチレンオキサイドの構成単位は、65モル%以上85モル%であることが好ましい。65モル%未満であると、本発明の目的である低抵抗値が十分に達成しにくい場合があり、85モル%よりも高いと、上記結晶性を完全に制御しきれず、本発明の効果を安定して得られない場合があるが、材料処方面等の調整により実現可能である。
【0023】
本発明による導電性ゴムローラにおいて、エピクロロヒドリン系ゴムを構成するエピクロロヒドリンの構成単位は、体積抵抗、硬度、又は加工性等に不具合を発生させない範囲であれば特に制限されない。特に、8モル%以上58モル%以下であることが好ましく、13モル%以上33モル%以下であることがより好ましい。エピクロロヒドリンの構成単位が少ないとエチレンオキサイド鎖の結晶化を阻害することができない。またこの構成単位が多いと、エピクロロヒドリン自身の結晶化が生じやすくなり、いずれも体積抵抗が高く、かつ硬度が高くなる要因となる。
【0024】
本発明による導電性ゴムローラにおいて、エピクロロヒドリン系ゴムを構成するアリルグリシジルエーテルの構成単位は、体積抵抗、硬度、加工性等に不具合を発生させない範囲であれば特に制限されない。特に、2モル%以上12モル%以下であることが好ましい。2モル%未満であると硫黄系加硫剤(硫黄又は硫黄供与体)による加硫が困難となる。また、12モル%よりも多いと、熱による硬化劣化を生じてゴム弾性を失って脆くなるといった不具合の要因となる。
【0025】
本発明による導電性ゴムローラにおいて、導電性架橋ゴム層は、上述のエピクロロヒドリン系ゴムの他、種々のゴム材料又はポリマー材料を有していてもよい。このゴム材料として、少なくとも上記エピクロロヒドリン系ゴムを主成分として含むものであれば特に制限されるものではない。例えばエピクロロヒドリン系ゴム単体で使用したり、又はその他のポリマーを1種若しくはそれ以上をブレンドして使用したりしても差し支えない。例えばエチレンプロピレンジエンゴム、ウレタンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、天然ゴム、ブチルゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。
【0026】
また、本発明による導電性ゴムローラにおいて、導電性架橋ゴム層は、導電性ローラに使用されるゴム組成物には、上記成分の他にも各種配合剤を適宜配合することができる。この配合剤としては、イオン導電剤、加硫剤、加硫促進剤、カーボンブラックなどの補強剤、充填剤、老化防止剤、加工助剤等が挙げられる。イオン導電剤としては、特に限定されるものではなく各種塩が使用可能である。例えば、LiClO、LiCF、LiSO、LiBF、LiN(CFSO、NaClO等のLi、Na等の金属塩が挙げられる。また、以下の第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0027】
過塩素酸テトラエチルアンモニウム
過塩素酸テトラブチルアンモニウム
塩化テトラメチルアンモニウム
塩化テトラエチルアンモニウム
塩化テトラブチルアンモニウム
臭化テトラメチルアンモニウム
臭化テトラプロピルアンモニウム
ヨウ化テトラメチルアンモニウム
【0028】
これらのイオン導電剤を単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
【0029】
加硫剤としては、製造工程上及び画像形成装置に使用される部材として弊害を及ぼすものでなければ特に制限されることなく使用できる。エピクロロヒドリン系ゴム使用される加硫剤としては、硫黄のほか、有機過酸化物架橋、トリアジンチオール加硫、2,3−ジメチルキノキサリン加硫等が挙げられる。いずれの加硫方法で作成されたゴムローラであっても本発明の効果を発揮することができるが、有機過酸化物架橋では酸素存在下での使用が困難なために製造工程が制限される。トリアジンチオール加硫及び2,3−ジメチルキノキサリンでは加硫時に発生する塩化水素による加硫阻害を防止するためにゴム組成物中に受酸剤を添加するが、そのために加硫特性及び圧縮永久歪み等への影響が懸念される。また、これらの加硫剤は、一般にスコーチが早いこと及び貯蔵安定性にも劣ることから、製造工程上でも問題が生じる。硫黄加硫ではゴムの加硫方法として最も一般的であり、コスト面や製造面においても好ましく使用できる。
【0030】
また、加硫促進剤を用いてもよい。この加硫促進剤としては、ゴム用として公知な各種加硫促進剤が使用可能である。例えば2−メルカプトベンゾチアゾールやジベンゾチアジルジスルフィド等のベンゾチアゾール類が挙げられる。また、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミドやN−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類が挙げられる。さらに、テトラエチルチウラムジスルフィドやテトラメチルチウラムモノスルフィドやジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム類、ジチオカルバミン酸塩類等が挙げられる。これらを単独或いは2種以上を併用して用いてもよい。
【0031】
補強剤を用いる場合、種々のカーボンブラックを用いることが可能で、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等のゴム用の各種カーボンブラックが挙げられる。これらのほか、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボンブラック等を用いてもよく、これらを単独又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0032】
充填剤としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、炭酸マグネシウム、クレー等が挙げられ、これらを単独又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0033】
導電性ゴムローラの製造方法としては、金型を用いる方法、チューブ状に押出したゴム組成物を加硫した後に芯金に圧入する方法、及び未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法等が挙げられる。これらの導電性ゴムローラの製造方法は加工性やコスト、画像形成装置用部材として要求される寸法精度や物理的及び電気的特性を満たすためにそれぞれ適した製造方法を任意に選択すればよい。近年では、製造ラインの小型化や連続化に適する点で、金型を用いる方法や加硫したチューブを芯金に圧入する方法よりも、未加硫ゴムを芯金に被覆してから加硫する方法が好ましい。
【0034】
芯金上に導電性架橋ゴム層を積層する手段は、特に制限されない。なかでも、製造ラインの連続化又は製造コストを抑えるといった観点から、以下の工程により製造される方法が好ましい。つまり、押出し機を用いて未加硫のゴム組成物を押出すと同時に、連続的に芯金を押出し機のクロスヘッドダイに通過させて芯金の円周上にゴム組成物を配置させてローラ形状にする工程で製造される方法が好ましい。なお、別途未加硫の原料ゴム組成物をチューブ状に押出し、所定長さに切断したものに接着剤を塗布した芯金を押し込むものでもよい。
【0035】
加硫方法に関しては、熱風炉加硫の他、遠赤外線加硫、水蒸気加硫等、従来公知の方法などが挙げられる。また、芯金円周上に未加硫ゴムを配置させた状態でそのまま金型キャビティに投入して加硫する方法も有効である。さらに、時間や温度等の加硫条件を任意に変化させても芯金腐食防止効果や接着力に何ら影響を及ぼさないので自由に工程を設計することができる。
【0036】
さらに、上記導電性ゴムローラの外周上で、少なくともポリオールをポリイソシアネート架橋して得られるポリウレタン層が形成されることが好ましい。ゴム層から上記配合成分が少量染み出した場合でもゴム層の外周上でポリオールとポリイソシアネートを架橋する際にポリイソシアネートにより架橋されて形成したウレタン層から染み出すことを防止できる。
【0037】
このように、本発明で得られる導電性ローラは、均一に低抵抗化出来、且つ低硬度であることから、感光体上を均一に帯電させなければならない帯電ローラに特に好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0038】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、「部」は、質量部を示す。
【0039】
<エピクロロヒドリン系ゴムの調製>
エピクロロヒドリン系ゴムの調製は、表1に記載の単量体組成で、エチレンオキサイド、エピクロロヒドリン及びアリルグリシジルエーテルを用いて、一般の溶液重合法により、調製し、所望の組成比のものを得た。また、結晶性の異なるゴムの作製は、重合反応容器に設けられた器具(オートクレーブ)に備えられたヒートの温度反応容器により行い、それぞれ重合反応の進行をコントロールすることで、得た。
【0040】
<ゴム組成物の調製>
以下の成分を密閉型混練機及びオープンロール機を用いて混練を行なうことにより未加硫のゴム組成物を得た。
【0041】
上記方法により得られたエピクロロヒドリン系ゴム(A乃至G) 100部
酸化亜鉛 5部
[商品名:酸化亜鉛2種 ハクスイテック株式会社製]
ステアリン酸 1部
[商品名:ステアリン酸S 花王株式会社製]
カーボンブラック 5部
[商品名:旭#15 旭カーボン株式会社製]
炭酸カルシウム 40部
[商品名:シルバーW 白石工業株式会社製]
可塑剤 5部
[セバシン酸系ポリエステル 商品名:ポリサイザーP−202 大日本インキ(株)社製]
イオン導電剤 2部
[第4級アンモニウム塩 商品名:KS−555 花王(株)社製]
ジベンゾチアジルジサルファイド 1部
[商品名:ノクセラーDM 大内新興化学株式会社製]
テトラメチルチウラムモノスルフィド 1部
[商品名:ノクセラーTS 大内新興化学株式会社製]
硫黄 1部
[商品名:サルファックス200S 鶴見化学株式会社製]
【0042】
<導電性ゴムローラ(単層ローラ)の作製>
押出し機を用いて上記未加硫ゴム組成物を押出すと同時に接着剤を塗布した、外径6mm長さ250mmの芯金を連続的にクロスヘッドダイを通過させることにより芯金上に未加硫ゴムを被覆した。その後、熱風炉にて180℃で1時間加熱することにより、架橋ゴム層を有する未研磨のゴムローラを作成した。さらに、両端部から10mm位置にカッター刃をいれて両端部のゴム層を剥離した。その後、研磨砥石GC80を取り付けた研磨機にセットし、研磨条件として回転速度2000rpm、送り速度500m/分で外径が外径9mmになるように研磨し、導電性ゴムローラ(1)(図1参照。)を作成した。
【0043】
<導電性ローラ(表層ウレタン層の2層帯電ローラ)の作製>
以下の成分を有する混合液をジルコニアビーズ(平均粒径0.5mm)を分散メディアとして、横型サンドミルを3回通して分散した。
【0044】
ε−カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液 100部
(希釈溶剤:MEK(メチルエチルケトン)、固形分20質量%、水酸基価50)
導電性酸化スズ 20部
【0045】
この分散液からビーズを瀘過分離し、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をOH/NCO=1.0になるように添加して、表層用塗料を調製した。
【0046】
ついで導電性ゴムローラ(1)の導電性弾性層の表面上に表層用塗料を浸漬コートした後、熱風循環乾燥機中、150℃で1時間乾燥した。乾燥後の表層(ウレタン層)の厚みは30μmであった。このようにして得られた導電性ローラを導電性ローラ(2)(表層ウレタン層の2層帯電ローラ;図2参照。)とした。
【0047】
<測定・評価>
測定した各物性及び評価については以下に示す方法で行った。
【0048】
[エピクロロヒドリン系ゴム及び導電性架橋ゴム層の示差走査熱量測定(DSC)]
示差走査熱量測定機 DSC6200(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用い、下記の条件で昇温して得たピークの面積から、エピクロロヒドリン系ゴム及び導電性架橋ゴム層に係る熱量を算出した。
【0049】
温度範囲:−20℃以上150℃以下
昇温速度:10℃/分
【0050】
[未加硫ゴム組成物のムーニー粘度]
JIS K6300−1995の規定に従って、L形ロータを用い100℃にてムーニー粘度[ML1+4/100℃]を測定した。
【0051】
[硬度]
硬度は、JIS K−6253の規定に従って測定した。
【0052】
[圧縮永久歪み率]
圧縮永久歪み率は、JIS K−6262の大型試験片(直径29mm、厚さ12.5mm)を用い、70℃、25%圧縮の条件下で22時間放置後の圧縮永久歪み率を測定した。
【0053】
[導電性ゴムローラ(1)の電気抵抗]
ローラ抵抗は、以下の通り、測定した。まず、導電性ゴムローラ(1)を23℃×53%RHの環境に12時間以上なじませた。その後、ローラの軸体に総圧1kgの荷重が掛かるように外径30mmのアルミニウム製のドラムに圧着した状態で、軸体とアルミドラムとの間に200Vの電圧を印加することによって測定した。
【0054】
[画像評価]
上記方法で得られた導電性ゴムローラ(2)をプロセスカートリッジ(ローラ両端5N荷重でφ30mmの感光体に同軸上で圧接)の帯電ローラとして装着した。これを、電子写真装置(レーザーショットLBP−470(キヤノン株式会社製))に組込みこんで印字し、目視にて画像評価を行った。得られた画像が優秀なものは◎、若干のムラが見られるが実用可能なレベルのものは○、画像不良は×とした。
【0055】
実施例1〜4は、以下の通りのエピクロロヒドリン系ゴム及び導電性架橋ゴム層等を有する導電性ゴムローラについての結果である。
【0056】
エピクロロヒドリン系ゴム: エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元重合体
エチレンオキサイド単位: 65モル%以上85モル%以下
エピクロロヒドリン系ゴムに係る熱量: 15mJ/mg以下
(示差走査熱量測定で0℃以上70℃以下の範囲で得られたピーク)
導電性ゴムローラの架橋ゴム層に係る熱量: 5mJ/mg以下
(示差走査熱量測定で−20℃以上150℃以下の範囲で得られたピークの熱量)
【0057】
実施例1〜3では硬度、電気特性ともに導電性ゴムローラとして優れた特性を示し、得られた画像についてもなんら問題なく良好であった。実施例4については実施例1〜3と比較すると、硬度が高く、電気特性も低下したため、得られた画像にも多少影響したが、十分実用可能なレベルであった。
【0058】
実施例5は、以下の通りのエピクロロヒドリン系ゴム及び導電性架橋ゴム層等を有する導電性ゴムローラについての結果である。
【0059】
エピクロロヒドリン系ゴム: エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元重合体
エチレンオキサイド単位: 46モル%
エピクロロヒドリン系ゴムに係る熱量: 15mJ/mg以下
(示差走査熱量測定で0℃以上70℃以下の範囲で得られたピーク)
導電性ゴムローラの架橋ゴム層に係る熱量: 5mJ/mg以下
(示差走査熱量測定で−20℃以上150℃以下の範囲で得られたピークの熱量)
【0060】
実施例5ではエチレンオキサイド単位が少ないために実施例1〜5の中で最もローラ電流値が小さかったが、硬度は最も低く、かつ圧縮永久歪み性も良好であった。したがって組付けの対象となる画像形成装置のプロセス上、要求される電気特性を満たしていれば十分実用可能と思われる。
【0061】
比較例1及び2は、以下の通りのエピクロロヒドリン系ゴム及び導電性架橋ゴム層等を有する導電性ゴムローラについての結果である。
【0062】
エピクロロヒドリン系ゴム: エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元重合体
エピクロロヒドリン系ゴムに係る熱量: 15mJ/mgを越える値
(示差走査熱量測定で0℃以上70℃以下の範囲で得られたピーク)
導電性ゴムローラの架橋ゴム層に係る熱量: 5mJ/mgを超える値
(示差走査熱量測定で−20℃以上150℃以下の範囲で得られたピークの熱量)
【0063】
比較例1及び2のいずれの場合も、硬度の上昇及び電気特性の低下が顕著に現れた。プロセスカートリッジに組付けて画像を印字しても良好な画像は得られず、実用性に乏しいものであった。
【0064】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の導電性ゴムローラの1つの実施の形態の断面を表す概略図を示す。
【図2】本発明の導電性ゴムローラの1つの実施の形態の断面を表す概略図を示す。
【符号の説明】
【0066】
1 導電性ゴムローラ
1a 導電性芯金
1b 導電性弾性体層(ヒドリンゴム層)
2 導電性ローラ
2a 導電性芯金
2b 導電性弾性体層(ヒドリンゴム層)
2c 表面層(ウレタン層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性芯金と、該導電性芯金上に積層された、エピクロロヒドリン系ゴムを有する導電性架橋ゴム層とからなる導電性ゴムローラであって、
該エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド共重合体及びエピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体からなる群から選択された少なくとも1つの共重合体であり、
該エピクロロヒドリン系ゴムのエチレンオキサイドの構成単位は、該エピクロロヒドリン系ゴムに対して40モル%以上90モル%以下であり、
該導電性架橋ゴム層について、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、−20℃以上150℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、5mJ/mg以下であることを特徴とする導電性ゴムローラ。
【請求項2】
前記エピクロロヒドリン系ゴムについて、示差走査熱量測定法(DSC)により測定して得た、0℃以上70℃以下に現れるピークの示す熱量(エンタルピー:ΔH)は、15mJ/mg以下である、請求項1に記載の導電性ゴムローラ。
【請求項3】
前記エピクロロヒドリン系ゴムについて、前記熱量は、12mJ/mg以下である、請求項2に記載の導電性ゴムローラ。
【請求項4】
前記エピクロロヒドリン系ゴムは、エピクロロヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体であり、
前記エチレンオキサイドの構成単位は、65モル%以上85モル%以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の導電性ゴムローラ。
【請求項5】
当該導電性ゴムローラは、帯電ローラである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の導電性ゴムローラ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−343717(P2006−343717A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61163(P2006−61163)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】