説明

導電性ペースト、導電性ペーストの製造方法およびセラミック電子部品

【課題】熱分解性が良好で、高粘度であり、しかも、糸引き現象の発生率が低く、十分に緻密な電極を形成しうる導電性ペーストおよびその製造方法、並びに、そのような導電性ペーストからなる外部電極を備えたセラミック電子部品を提供する。
【解決手段】導電性粉末、有機バインダおよび溶剤を含有する導電性ペーストであって、有機バインダは、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に物理的負荷を加えることによって得られた数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂を含む導電性ペースト、そのような導電性ペーストの製造方法、並びに、そのような導電性ペーストを用いて形成された外部電極を備えたセラミック電子部品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ等のセラミック電子部品の電極材料として用いられる導電性ペーストおよびその製造方法、並びに、そのような導電性ペーストを外部電極形成材料として用いたセラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、複数のセラミック層が積層されてなるセラミック素体と、それぞれの端縁が前記セラミック層のいずれかの端面に露出するように前記セラミック層間に形成された複数の内部電極と、露出した前記内部電極に電気的に接続されるように設けられた外部電極とを備えている。外部電極は、例えば有機バインダを溶剤に溶解した有機ビヒクル中に導電性を有する金属粉末を分散させて得られる導電性ペーストをセラミック素体の両端面に塗布し焼き付けることにより形成されている。そして、通常、外部電極上には、はんだ濡れ性やはんだ耐熱性の向上を目的として、ニッケル、スズ、はんだ等の湿式めっきが施される。
【0003】
従来、外部電極用導電性ペーストの有機バインダとしては、エチルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂が用いられていた。しかしながら、このようなセルロース系樹脂を有機バインダとして用いた導電性ペーストは、熱分解性が不良で、温度の低い還元性雰囲気で焼成した場合に、焼成後の外部電極中に炭素分が残留し、導電性が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、熱分解性に優れるアルキル(メタ)アクリル酸エステル樹脂を有機バインダとして用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このアルキル(メタ)アクリル酸エステル樹脂を有機バインダとして用いた導電性ペーストは、熱分解性の問題は解消されるものの、粘度が小さくなり、セラミック層と内部電極との積層体の両端面に塗布すると、塗布後に垂れたり塗布厚が薄くなって、所望の厚みが得られないという問題を生じた。
【0005】
一方、例えば有機バインダとして用いる樹脂成分の分子量を大きくすると、粘度を高めることができ、上記の塗付後の垂れや塗布厚の問題を改善することができる。しかしながら、分子量が大きくなると、分子間の凝集力が増大し、分子間の構造粘性が出現する結果、糸引き現象が生ずるようになる。
【0006】
そこで、近時、さらに、アルキル基にアルキレングリコールを含有するアルキル(メタ)アクリル酸エステルという特定のモノマー成分を含む特定分子量のアルキル(メタ)アクリル酸エステル樹脂を有機バインダとして用いた導電性ペーストが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この導電性ペーストによれば、樹脂成分の分子量を大きくせずに高粘度を達成することができ、糸引き現象の発生を低減することができる。
【特許文献1】特開昭59−199778号公報
【特許文献2】特開2004−79480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特定のモノマー成分を含むアルキル(メタ)アクリル酸エステル樹脂を有機バインダとして用いた導電性ペーストは、最近の小型化が進んだ電子部品に対しては、必ずしも十分な効果が得られないという問題があった。すなわち、糸引きの発生を十分に抑制することができず、また、塗膜密度が低減するという問題があった。塗膜密度が低減すると、塗膜中央が陥没したり、塗膜の緻密性が低減し、その結果、導電性ペースト中に含まれる金属粉末等が焼結しにくくなり、例えば外部電極の表面にめっき膜を形成した際、めっき液が外部電極を介して積層体内に浸入し、絶縁抵抗の低下といった内部欠陥不良が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、熱分解性が良好で、かつ、高粘度であり、そのうえ、小型の電子部品に適用しても、糸引き現象が生じず、十分に緻密な電極を形成しうる導電性ペースト、そのような導電性ペーストを製造する方法、並びに、そのような導電性ペーストを外部電極形成材料として用いたセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の導電性ペーストは、導電性粉末、有機バインダおよび溶剤を含有する導電性ペーストであって、前記有機バインダは、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に物理的負荷を加えることによって得られた数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の導電性ペーストの製造方法は、導電性粉末、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂を含む有機バインダおよび有機溶剤を混合する工程と、前記混合物に物理的負荷を加えることにより、前記数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂を数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂とする工程とを有することを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明のセラミック電子部品は、積層された複数のセラミック層と、前記セラミック層間に形成された複数の内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えるセラミック電子部品であって、前記外部電極は、上記導電性ペーストにより形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱分解性が良好で、かつ、高粘度であり、そのうえ、小型の電子部品に適用しても、糸引き現象が生じず、十分に緻密な電極を形成することができる導電性ペースト、そのような導電性ペーストを製造することができる方法、並びに、そのような導電性ペーストからなる外部電極を備えた高品質、高信頼性のセラミック電子部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電性ペーストは、少なくとも導電性粉末、有機バインダおよび溶剤を含むものである。
【0015】
本発明においては、上記有機バインダとして、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に物理的負荷を加えることによって数平均分子量が400,000以下にまで低分子量化した熱可塑性樹脂を使用する。このような熱可塑性樹脂を使用することにより、高粘度を維持したまま、糸引き現象の発生を抑制し、かつ、塗膜密度を増大させることができる。これは、数平均分子量が600,000以上という高粘度が得られる分子量の大きい熱可塑性樹脂に物理的負荷を加えると、糸引きの要因である長い分子鎖が優先的に切断されるため、粘度を変化させることなく、糸引きの発生や緻密度を低減させる高分子成分を減少させることができるからと考えられる。また、物理的な負荷を加えることにより切断された分子鎖は吸着性に優れるため、分子同士や導電性粒子との凝集力が強くなるが、このことも、緻密度の向上に寄与すると考えられる。
【0016】
なお、熱可塑性樹脂に物理的負荷を加える前の数平均分子量が600,000より小さいと、高粘度が得ることが困難になる。また、物理的負荷を加えた後の熱可塑性樹脂の数平均分子量が400,000より大きいと、糸引き現象が発生しやすくなり、緻密度も低減する。本発明においては、熱可塑性樹脂は、物理的負荷を加える前の数平均分子量が600,000〜1,000,000の範囲であり、物理的負荷を加えた後の数平均分子量が50,000〜400,000の範囲であることが好ましい。
【0017】
ここで、上記熱可塑性樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミッションクロマトグラフィー)法による測定値である。具体的には、測定用試料をテトラヒドロフランに溶解した状態で、セルを通過する時間を、分子量既知の樹脂の通過時間を評価することにより測定した。
【0018】
この熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されるものではないが、熱分解性の観点からは、モノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルである(共)重合体が好ましく、モノマー成分が単一のアルキル(メタ)アクリル酸エステルである重合体がより好ましい。
【0019】
アルキル(メタ)アクリル酸エステルとしては、熱分解性に優れる炭素数が10以下の(メタ)アクリレートが好適であり、なかでもメタクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート,t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
また、このようなアルキル(メタ)アクリル酸エステルに共重合可能なモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸、アクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらのモノマー成分は2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
上記モノマー成分を重合させる方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の公知の方法を用いることができるが、なかでも懸濁重合、乳化重合が分子量の制御が容易であることから好ましい。自己乳化による重合方法は、さらに不純物の混入を防止することができることから、より好ましい。塊状重合は、分子量の制御が困難である。また、溶液重合を用いた場合、モノマーの溶剤に対する溶解性の相違により、分子鎖内で重合形態がブロック化してしまうという問題がある。なお、重合時の重合開始剤としては、熱により分解してラジカルを発生する各種過酸化物や、溶剤可溶のアゾ開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルバレロニトリル、アゾビスシアノペンタン等が用いられる。
【0022】
本発明において、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に物理的負荷を加える方法としては、(1)予めボール状あるいは繊維状とした熱可塑性樹脂粉体を、ボールミル、ハンマークラッシャー、ジェットミル等により粉砕する方法、(2)熱可塑性樹脂の溶液または融液を高速噴霧器で伸張させた状態で破断する方法、(3)溶液またはペーストを調製後、混練ロール、超高速攪拌機(ホモジナイザー)、ビーズミル、アトライターミル等で粉砕乃至破断する方法等を用いることができる。本発明においては、これらの方法のなかでも、(3)の方法が、熱可塑性樹脂の粉砕、破断と同時に、熱可塑性樹脂と導電性粉末との混合を促進することができ、その結果、塗膜乃至電極の緻密性を向上させることできることから好ましく、特に混練ロールの使用が好ましい。混練ロールの材質は特に限定されるものではなく、鉄、鋼鉄、ステンレス、チタニウム等の金属、それらの表面を窒化処理、チルド処理等により硬化させたもの、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、御影石等のセラミック材のいずれも使用可能である。混練ロールを使用する場合、熱可塑性樹脂を実質的にロールに通過させればよいが、効率よく行うには、強混練する必要がある。強混練は、例えばロール締付け圧を増加させるとともに、中央が膨らんだいわゆる樽形状のロールを使用することにより、行うことができる。なお、このように熱可塑性樹脂に物理的負荷を加える際、熱可塑性樹脂の温度があまり高くなると熱分解による分子の切断が発生するおそれがあるため、少なくとも熱可塑性樹脂の熱分解温度より低い温度、好ましくは100℃以下で行うことが好ましい。
【0023】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記熱可塑性樹脂以外の樹脂を有機バインダとして併用することができる。
【0024】
このような有機バインダの添加量は、導電性粉末100童量部に対して1〜20重量部の範囲が好ましい。より好ましくは3〜20重量部であり、5〜10重量部であると特に好ましい。添加量が1重量部未満では、内部電極との密着性が低下する。逆に添加量が20重量部を超えると、脱媒後の固形分が緻密にならずハゼや信頼が低下する。
【0025】
本発明において使用される有機バインダは、従来の有機バインダに比べ少ない添加量で所望の粘度の導電性ペーストを得ることができるため、脱バインダを容易に行うことができ、コストも削減することができる。
【0026】
次に、本発明において用いられる導電性粉末としては、銅、ニッケル、銀、パラジウム、金、白金、これらの合金等の金属粉末や、酸化ケイ素等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。本発明の導電性ペースト、特に有機バインダとしてモノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルである(共)重合体を用いたものは、熱分解性がよく、かつ、糸引き現象を防ぐことができるという効果を有するため、熱分解性が要求される銅、ニッケル等の卑金属粉末を用いた場合に、特に顕著な効果が得られる。すなわち、卑金属粉末を導電性粉末として用いた場合、還元性雰囲気での低温焼成が必要であり、有機バインダが熱分解性に劣ると、導電性ペーストは焼結しにくくなり、例えば積層セラミックコンデンサの外部電極の表面にめっき膜を形成した際、めっき液が外部電極を介して積層体内に浸入し、絶縁抵抗の低下といった内部欠陥不良が発生するが、本発明の導電性ペースト、特に有機バインダとしてモノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルである(共)重合体を用いたものは、熱分解性に優れるため、低温焼成でも十分に焼結することができる。
【0027】
本発明において、導電性粉末は、表面が実質的に酸化物で被覆されていることが好ましい。これは、酸化物で被覆されていない導電性粉末は自己溶着性が大きいため、電極の緻密化を阻害するおそれがあるからである、ここで、表面が実質的に酸化物で被覆されているとは、粉末中の酸素含有量が0.1モル%以上であることをいう。なお、導電性粉末の表面を実質的に酸化物で被覆する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば銅粉末の場合、導電性ペースト中に有機酸や酸化を有するバインダを添加するか、あるいは、溶媒に約0.01重量%以上の水を混合し、その後、80℃以上に加熱する方法が適用可能である。また、酸化チタネートや酸化ケイ素等と混合するようにしてもよい。
【0028】
本発明において用いられる溶剤は、特に限定されるものではないが、導電性ペーストの塗付後の乾燥性を考慮すると、沸点が150℃以上、250℃以下の有機溶剤が好ましい。具体的には、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ジヒドロテルピネ才一ルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート、イソホロン、3−メトキシブチルアセテート、ベンジルアルコール、1−オクタノール、1−ナノオール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−プタンジオ一ル、1,5−ペンタジオール等が使用される。また、脂肪族炭化水素、乳酸ブチル、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸エステル等も用いることができる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。なお、2種以上の有機溶剤を併用する場合には、併用成分として、沸点が150℃未満の有機溶剤を使用することができる。沸点が150℃未満の有機溶剤としては、例えばトルエン、キシレン等の芳香族系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
この溶剤の添加量は、導電性粉末100童量部に対して10〜50重量部の範囲が好ましい。より好ましくは20〜40重量部の範囲である。添加量が10重量部未満では、粘度が高くなって材料の分散が困難になる。逆に添加量が50重量部を超えると、乾燥性が低下したり、塗膜中央が陥没するおそれがある。
【0030】
本発明の導電性ペーストには、以上の各成分の他、導電性粉末の分散性を向上させる目的で分散剤を添加することができ、また、焼成後のセラミック素体等に対する接着力を高める目的でガラスフリットを添加することができる。ガラスフリットは、導電性粉末100重量部に対して、通常、1〜20重量部の範囲で配合される。さらに、セラミック素体等に塗付した際の塗布形状を調整する目的で、分散剤、増粘剤、チクソトロピック付与剤等の有機添加剤を添加することも可能である。これらの有機添加剤は本発明において使用する有機バインダと溶解性が必要であり、有機バインダとしてアルキル(メタ)アクリル酸エステルの(共)重合体を用いた場合には、この(共)重合体と同種のエステル構造を有するものを使用することが好ましい。この他、本発明の導電性ペーストには、焼結性を制御する目的で、金属レジネートを添加することも可能である。これらの添加剤は、いずれも本発明の効果を阻害しない範囲で使用される。
【0031】
本発明の導電性ペーストの調製にあたっては、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に予め物理的負荷を加えることによって得られた数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂を含む有機バインダ成分と、導電性粉末と、溶剤と、必要に応じて配合される各種成分とを十分に混合し分散させる方法を用いることもできるが、前述したように、熱可塑性樹脂と導電性粉末との混合を促進することができ、これにより、塗膜乃至電極の緻密性を向上させることできる等の理由から、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂を含む有機バインダ成分と、導電性粉末と、溶剤と、必要に応じて配合される各種成分とを十分に混合した後、混練ロール等を用いて、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂が、数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂になるまで混練する方法を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の導電性ペーストは、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、積層セラミックサーミスタ等の積層型のセラミック電子部品に用いることができ、また、単板型のセラミック電子部品の導電性ぺーストとしても用いることができる。
【0033】
次に、本発明の導電性ペーストを用いた本発明のセラミック電子部品の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0034】
図1は、本発明のセラミック電子部品の一実施形態の積層セラミックコンデンサを示す断面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施形態の積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体12と、内部電極14と、外部電極16と、めっき膜18とを備えている。
【0036】
セラミック素体12は、誘電体材料、例えばBaTiOを主成分とする、セラミック層12aとなるべきセラミックグリーンシートを複数枚積層し、所定の温度で焼成したものである。このセラミック素体12は、ほぼ直方体の形状を有している。
【0037】
内部電極14は、それぞれの端縁がセラミック素体12の互いに対向するいずれかの端面に露出するようにセラミック層12a間に形成されている。これらの内部電極14は、例えば銅、ニッケル等の導電成分を含む導電性ペーストを所定のセラミックグリーンシート上に、スクリーン印刷やインクジェット方式等により直接所望のパターンに塗布し、同時に焼成することにより形成される。
【0038】
この内部電極14の厚さは、公知の技術により、導電成分を含む導電性ペーストの塗布量を調整することにより制御することができる。具体的には、複数回塗布する方法、固形分濃度を増大または低減する方法、印刷版の深さ、スクリーン版のレジスト厚み等を変更する方法等により制御することができる。
【0039】
外部電極16は、セラミック素体12の内部電極14が露出している両端面に、本発明の導電性ペーストを浸漬法やスクリーン印刷等の公知の方法により塗布し、乾燥させた後、焼き付けることにより形成される。つまり、この外部電極16は、本発明の導電性ペーストの焼結体から構成される。これらの外部電極16は、上記内部電極14と電気的かつ機械的に接合されている。なお、外部電極16用の導電性ペーストの焼成は、セラミック素体12の焼成と同時に行うようにしてもよい。すなわち、内部電極14用の導電性ペーストを塗布したセラミックグリーンシートを積層し、この積層体の両端面に外部電極16用の導電性ペーストを塗布した後、同時に焼成するようにしてもよい。
【0040】
めっき膜18は、外部電極16を覆うように、例えばニッケル、スズ、はんだ等による湿式めっきにより形成される。
【0041】
このように構成される積層セラミックコンデンサ10においては、外部電極16を形成する際の導電性ペーストの糸引き現象の発生が抑えられるとともに、緻密度の高い外部電極16が得られるため、信頼性の高い実装が可能であり、また、めっき液の浸入に伴う内部欠陥不良の発生も防止される。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[樹脂の合成]
モノマー成分として、i−ブチルメタクリレート、メチルアクリレートおよびスチレンを用い、懸濁重合法により表1に示すような樹脂(1)〜(19)を合成した。
【0044】
すなわち、各モノマー成分を表1に示す割合となるように調合したものを100g、80℃に加温した純水200g中に滴下し、高速攪拌機により攪拌して乳化させた。この乳化物に重合開始剤として過硫酸アンモニウムを0.4g滴下し、重合を開始した。80℃を維持しながら2時間、重合させた後、80℃で2時間エージングし、200μmのメッシュで異物を濾過して樹脂溶液を取り出した。この樹脂溶液を窒素雰囲気中で乾燥させて、表1に示すような数平均分子量(Mn)を有する樹脂(1)〜(19)を得た。その後、さらに、樹脂(15)については、直径20mmのジルコニアボールを用いボールミルにより機械的に粉砕し、低分子量化した。また、樹脂(17)および樹脂(18)は、
それぞれ乾燥窒素雰囲気下および露点50℃の水分を含む窒素雰囲気下で200℃に加熱することにより、化学的に分子切断を行った。
【0045】
なお、これらとは別に従来から有機バインダとして使用されているメチルセルロース(信越化学社製 商品名 メトローズSM)を用意し、樹脂(20)とした。
【0046】
実施例1〜17、比較例1〜3
導電性粉末として銅粉末(平均粒径3μm)および銀粉末(平均粒径3μm)、有機バインダとして上記樹脂(1)〜(20)、ガラスフリットしてホウケイ酸系ガラス粉末(平均粒径2.5μm)、溶剤としてαテルピネオールおよびブチルセロソルブを用い、これらの各成分を表2および3で示す配合割合でシグマ型ニーダを用いて混合分散させ、次いで、実施例16および比較例1〜3を除き、さらに三本ロールで強混練して有機バインダとして加えた樹脂を低分子量化し、導電性ペーストを得た。なお、混練に伴い揮散した溶剤は、混練後に補填した。
【0047】
次いで、得られた各導電性ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサを作製した。まず、BaCOとTiOとを1:1.02のモル比となるように秤量し、純水を加えてボールミルによりジルコニアボールとともに16時間、混合粉砕し、乾燥後、1050℃で2.5時間仮焼し、粉砕して仮焼粉を得た。この仮焼粉に、有機バインダ、分散剤、および水を加えてボールミルによりジルコニアボールとともに数時間混合して、セラミックスラリーを得た。このセラミックスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形し、乾燥させてセラミックグリーンシートを得た。次に、セラミックグリーンシートの主面上に、スクリーン印刷により所望のパターンとなるようにNiを主成分とした内部電極用導電性ペーストを印刷し、60℃で20分間乾燥した。この内部電極用導電性ペーストが印刷されたグリーンシート50枚を、内部電極用導電性ペーストが印刷されていないグリーンシート5枚で挟み込み、100℃、200kg/cmの加圧条件で熱圧着し、積層体を形成した。この積層体を、焼成後、長さ1mm×幅0.5mm×厚み0.5mm形状になるように切断し、積層体グリーンチップを得た。なお、内部電極用導電性ペーストについても、長さ1mm×幅0.5mmの積層体グリーンチップに合わせた形状となるように印刷してある。これらをジルコニア粉末が少量散布された焼成用セッター上に整列させ、室温から280℃まで空気中で24時間かけて昇温させて有機バインダを除去した。次に、雰囲気制御が可能な焼成炉に投入し、窒素雰囲気中において最高温度1150℃で1時間の焼成を含む総計約30時間のプロフィールにて焼成を行い、内部電極が形成されたセラミック素体を得た。
【0048】
このセラミック素体をバレルに投入し、端面研磨を施した後、セラミック素体の両端面を片方ずつ導電性ペースト槽に浸漬することにより、セラミック素体の両端面に上記各導電性ペーストを塗布した。次いで、この導電性ペーストが塗布されたセラミック素体を130℃で20分間乾燥した後、窒素雰囲気中において700℃で30分間加熱することにより導電性ペーストを焼き付け、外部電極を形成した。この後、この外部電極上にニッケルめっき膜を電解めっきにより形成し、さらに、このニッケルめっき膜上にスズめっき膜を電解めっきにより形成して積層セラミックコンデンサを作製した。
【0049】
上記実施例および比較例で得られた導電性ペーストおよび積層セラミックコンデンサについて、下記に示す方法で各種特性を評価し、その結果を表2および3に併せ示した。また、有機バインダとして用いた樹脂(1)〜(20)の導電性ペースト調製後の数平均分子量(Mn)を、表1の「処理後」の欄に示す。
【0050】
[糸引き発生率]
導電性ペーストをセラミック素体の両端面に塗布し乾燥させた後、その形状を目視にて観察し、糸引きによる不良の有無を調べ、その発生率を調べた(試料数各1000個)。
[熱分解温度]
導電性ペーストに用いる有機バインダを80℃で24時間乾燥させた後、TGA(熱天秤)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で、有機バインダの重量が1/10に減少した温度を測定し、熱分解温度とした。
[耐めっき液浸透性]
積層セラミックコンデンサの外部電極の断面を走査型電子顕微鏡で観察してその緻密性を調べ、さらに、X線による元素分析でめっき液の浸入の有無を調べ、内部にめっき液の浸入した形跡があるものを不良として、良品率を算出した(試料数各300個)。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
表1〜表3から明らかなように、導電性ペースト中に物理的負荷を加えることにより低分子量化された樹脂を有機バインダとして含有する実施例は、糸引き発生率および耐めっき浸透性がいずれも良好であった。そして、物理的負荷を加える方法としては、三本ロールによる方法が好ましく、有機バインダの樹脂の種類としては、モノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルである樹脂が好ましく、有機バインダの含有量としては導電性粉末100重量部に対して1〜20重量部の範囲が好ましく、3〜10重量部の範囲が特に好ましかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のセラミック電子部品の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10…積層セラミックコンデンサ(セラミック電子部品)、12…セラミック素体、12a…セラミック層、14…内部電極、16…外部電極、18…めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末、有機バインダおよび溶剤を含有する導電性ペーストであって、
前記有機バインダは、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂に物理的負荷を加えることによって得られた数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂を構成するモノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末が、卑金属からなる粉末であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性ペースト。
【請求項4】
導電性粉末、数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂を含む有機バインダおよび溶剤を混合する工程と、
前記混合物に物理的負荷を加えることにより、前記数平均分子量が600,000以上の熱可塑性樹脂を数平均分子量が400,000以下の熱可塑性樹脂とする工程と
を有することを特徴とする導電性ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂を構成するモノマー成分の80重量%以上がアルキル(メタ)アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項4記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記導電性粉末が、卑金属からなる粉末であることを特徴とする請求項4または5記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項7】
混練ロールによって物理的負荷を加えることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項8】
積層された複数のセラミック層と、前記セラミック層間に形成された複数の内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備えるセラミック電子部品であって、
前記外部電極は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の導電性ペーストにより形成されていることを特徴とするセラミック電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246706(P2007−246706A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72686(P2006−72686)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】