説明

導電性ペーストおよびこれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】内部電極を薄層化しても単位体積当たりの静電容量低下を抑えることができる導電性ペーストおよびそれを用いた積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、Niを主成分とする卑金属粒子と少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなる導電性ペーストであって、そのNi粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むことを特徴とするものであり、これによって、従来の球状のNi粒子を用いた場合に比べて、電極の印刷膜の密度を向上させることができ、焼成後においても、内部電極を薄くすることができるというものである。また、Ni粒子が球状でないために、印刷時のNi粒子が面上に重なりやすいため、焼成時にとぎれにくくなり、その結果、内部電極を薄くしても容量の低下を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に小型大容量の積層セラミックコンデンサにおいて、内部電極を薄層化しても単位体積当たりの静電容量低下を抑えることができる導電性ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、電極と誘電体材料とが層状に構成されているもので、セラミック作製技術により一体化、固体化されるため、小型、大容量のものが得られる。さらに電極が内蔵されるため、磁気誘導成分が少なく高周波用途にも優れた性能を示す。またチップ型はリード線がないため、部品実装の際直付けが可能で電子機器の小型軽量化への要求にもマッチし、今後益々発展が期待される。
【0003】
小型化に対しては、チップ形状が、3.2mm×1.6mmから2.0mm×1.25mmや1.6mm×0.8mmさらには、1.0mm×0.5mm、0.6mm×0.3mmへという取組みがなされている。
【0004】
低価格化については、内部電極を卑金属化することが行われている。特に、薄層高積層からなる大容量品においては、生産コストに占める内部電極材料コストの比率が極めて高く、内部電極の卑金属化、特にニッケル(Ni)化が目覚しく進展している。
【0005】
大容量化に向けては、現在、積層セラミックコンデンサとしての容量域の拡大、同じ容量をより小型の形状で実現するための取組みが精力的に進められており、誘電体材料の高誘電率化、高積層化、誘電体層の薄層化が有効な手段である。
【0006】
とりわけ誘電体層の薄層化は、規格寸法内でできるだけ大きな容量を得ようとする時に最も有効な方法である。そのため工法面から多くの取組みがされている。
【0007】
次に、誘電体層を薄層高積層化するに当たって、重要な鍵となるのが、内部電極の存在である。積層セラミックコンデンサは、既によく知られているように、内部電極を有する誘電体層が多数積み重ねられ、内部電極が積層体の端面に交互に引き出された構造をしている。すなわち、積層方向に並列接続した形となり、積層数が多くなれば多くなるほど取得容量を大きくすることができる。
【0008】
しかし、積層セラミックコンデンサは上記の構造をとるため、内部電極は全面に形成することができない。すなわち、素体側面と内部電極との間には絶縁性を確保するための一定幅のマージンを必要とし、また素体端面と、その端面とは反対の端面に引き出される内部電極層との間にも同じ理由で一定幅のマージンが必要となる。そのため、内部電極層の存在する部分と、存在しない部分では本来厚みが異なることとなる。実際は、積層プレス時に、内部電極層の厚みは、誘電体層の圧縮により吸収されることとなるが、誘電体層が薄層化した際には、充分に吸収することができず、積層不良の原因となる。そのため、誘電体層の薄層化を実現するには、同時に内部電極層も薄層化しなければならない。
【0009】
また、取得静電容量に着目した場合、内部電極層を厚みの観点からだけ薄くすることはできない。未焼結のNi電極層が焼結する過程において焼結収縮が進行し、内部電極層を面で見た場合、網目状となり、実質的に容量取得のために有効に働かなくなる。
【0010】
そのため、内部電極には設計上の容量を確保しつつ、焼結後の厚みを薄くすることが求められる。
【0011】
内部電極層の薄層化については、薄膜形成法により内部電極を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1、2、3参照)。また、内部電極層を無電解メッキ法により形成する方法が開示されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【0012】
また、従来のペースト工法によるものであるが、焼結後の導電粒子が、一対の誘電体層間で一個ずつ連なって形成されてなる積層セラミックコンデンサが開示されている(例えば、特許文献6参照)。この特許文献6では、このような構成を採用することにより、焼成時における内部電極と誘電体層とのストレスを緩和し、コンデンサ素体内部のクラックやデラミネーションの発生を防止できることが述べられている。
【特許文献1】特開平1−42809号公報
【特許文献2】特開平6−61090号公報
【特許文献3】特開平8−124787号公報
【特許文献4】特開平6−231999号公報
【特許文献5】特開平6−232000号公報
【特許文献6】特開2000−269066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、内部電極を薄膜形成法や無電解メッキ法で形成した場合、誘電体層と電極層の接着が不十分となり、積層不良が発生するという問題が生じる。また、焼結のタイミングや収縮率があわずに、焼成後の積層セラミックコンデンサにデラミネーションやクラックなどの内部構造欠陥を発生させるという問題が生じる。ペースト工法を用いて作製された焼結後の導電体層の形状を規定したものについては、焼成時における内部電極と誘電体層とのストレスを緩和し、コンデンサ素体内部のクラックやデラミネーションの発生を防止する効果はあるものの、電気特性、とりわけ、取得静電容量に対する影響については言及されておらず、これが課題であった。
【0014】
本発明は、前記課題を解決するもので、内部電極を薄層化しても単位体積当たりの静電容量低下を抑えることができる導電性ペーストを提供することを目的とする。さらに、本発明の導電性ペーストにより小型大容量で信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0016】
本発明の請求項1に記載の発明は、Niを主成分とする卑金属粒子と少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなる導電性ペーストであって、Ni粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むことを特徴とするものであり、これによって、従来の球状のNi粒子を用いた場合に比べて、電極の印刷膜の密度を向上させることができ、焼成後においても、内部電極を薄くすることができるという作用効果が得られる。また、Ni粒子が球状でないために、印刷時のNi粒子が面上に重なりやすくなるため焼成時にとぎれにくくなり、その結果、内部電極を薄くしても容量の低下を抑制できるという作用効果が得られる。
【0017】
本発明の請求項2に記載の発明は、Niを主成分とする卑金属粒子と無機酸化物を含有し、さらに少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなる導電性ペーストであって、Ni粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むことを特徴とするものであり、無機酸化物を含有することで、Niの焼結収縮を抑え、誘電体層への拡散により電極層との接着を強める作用効果があり、これによって、構造欠陥を起こしにくい薄層高積層の積層セラミックコンデンサが得られる。
【0018】
本発明の請求項3に記載の発明は、針状あるいは平板状あるいは扁平状のNi粒子の長径が、短径の2倍以上であることで、従来の球状のNi粒子を用いた場合に比べて、電極の印刷膜の密度を向上させることができ、焼成後においても、内部電極を薄くすることができるという作用効果が得られる。また、Ni粒子が球状でないために、印刷時のNi粒子が面上に重なりやすくなるため焼成時にとぎれにくくなり、その結果、内部電極を薄くしても容量の低下を抑制できるという作用効果が得られる。
【0019】
本発明の請求項4に記載の発明は、内部電極層が、請求項1から3のいずれか1つに記載の導電性ペーストからなり、これによって、内部電極が卑金属のNiであることから、安価で信頼性に優れた小型大容量の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の導電性ペーストは、内部電極を薄層化しても単位体積当たりの静電容量低下を抑えることができ、小型大容量で信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、一実施の形態を用いて、本発明の導電性ペーストおよび積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0022】
図1は本発明における導電性ペーストを内部電極層に用いた焼成前の未焼結積層セラミックコンデンサの例を示す一部切欠斜視図である。図1において1は未焼結積層セラミックコンデンサを、11は誘電体層を、12は内部電極層を示す。まず、誘電体層11となる誘電体グリーンシートは、誘電体材料に樹脂成分、可塑剤、溶剤などを添加し、混合して作製した誘電体スラリーをドクターブレード法、マイクログラビア法、ダイコーター法などのグリーンシート成型法によりPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどのベースフィルムの上に任意の厚みに塗工して作製する。
【0023】
この誘電体材料としては一般に積層セラミックコンデンサ用に使用される材料系であれば温度特性なども特に限定されない。しかし、誘電率が高くかつ誘電率の温度特性が良好な、少なくともチタン酸バリウム、アルカリ土類金属化合物、希土類酸化物、遷移金属酸化物からなる誘電体材料を用いることが望ましい。なお、樹脂成分としては、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などが利用可能である。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレートなどが用いられる。溶剤は酢酸ブチル、
ブチルセロソルブ、1ブタノール、IPAなどが利用可能である。
【0024】
また、水系のスラリーを作製する場合には、ポリビニルアルコール等の樹脂、グリセリンなどの可塑剤を使用できる。このように一般的にスラリー化に用いられるものが本発明においても使用可能であり、特に限定されるものではない。
【0025】
次に、導電性ペーストは、Niを主成分とする卑金属粒子と少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなり、そのNi粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含んでいる。さらに、無機酸化物を含有してもよく、針状あるいは平板状あるいは扁平状のNi粒子の長径が、短径の2倍以上であることが望ましい。
【0026】
ここで、長径と短径の比が2倍以上のNi粒子は、出発原料としてそのような形状のものを利用できるのはもちろんであるが、球形のNi粒子を、媒体攪拌ミルなどにより、分散する過程で作り出すことも可能である。
【0027】
上記導電性ペーストは、Ni粒子として針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むが、球状の粒子を同時に含有しても良い。しかしながら、球状粒子の含有率は75重量%以下が望ましい。また、Ni球状粒子の平均粒径は特に限定されないが、0.4μm以下が望ましい。
【0028】
また、針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子の短径は、特に限定されるものではないが、本発明の目的が、小型大容量の積層セラミックコンデンサにおいて、電極層を薄層化しても取得静電容量の低下を抑制することにあるため、0.4μm以下が好ましい。導電性ペーストに用いる樹脂としては、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ブチラール樹脂などが使用可能である。溶媒としては、テルピネオール、酢酸ブチル、ブチルカルビトール、ブチルセロソルブなど公知のものが利用できる。また、可塑剤を添加して、印刷体の膜の性状を変えることも可能である。
【0029】
次に導電性ペーストを前記誘電体グリーンシートの上にスクリーン印刷法やグラビア印刷法などの方法により印刷する。本導電性ペーストを用いて印刷形成される電極層は2μm以下が好ましい。
【0030】
次に、内部電極パターンを形成した誘電体グリーンシートを所望の層数に積層して図2に示す未焼結積層体を得る。図2は未焼結積層体の斜視図であり、図2において2は未焼結積層体を、11は誘電体層を、12は内部電極層を示し、3は積層時の支持体を示している。
【0031】
また、PETなどのベースフィルム上に印刷した内部電極パターンと誘電体グリーンシートを交互に加熱、加圧の下で転写しながら所望の層数に転写積層する方法でも図2に示す未焼結積層体2を得ることができる。
【0032】
なお、図2の未焼結積層体2の上下には、電極パターンが形成されていないグリーンシートも積層する。この転写積層は一般に温度と圧力をかけて一軸加圧により行われ、その条件は誘電体グリーンシートの性状等により最適条件は決定されるが、温度;50〜130℃、圧力;100kg/cm2前後が一般的である。
【0033】
なお、この積層条件は、誘電体グリーンシートや導電性ペーストに使用した樹脂などの種類によって決定されるものであり、積層時の接着性と積層時の変形に注意して条件を設定する必要がある。
【0034】
このようにして作製した未焼結積層体2を縦横に切断し、未焼結積層セラミックコンデンサの個片に分割する。その後、これらの未焼結積層セラミックコンデンサを脱バインダ、焼成し、積層セラミックコンデンサを得る。
【0035】
こうして得られた積層セラミックコンデンサは、内部電極層の電極の連続性が高く、これによって内部電極の塗着量が少ないにもかかわらず静電容量の低下が抑制される。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこのような実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
次に、本発明の実施の形態をより具体化した実施例と、それらに対する比較例について説明する。
【0038】
誘電体グリーンシートにはチタン酸バリウムを主成分として炭酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化マンガン、ガラスフリットを添加した平均粒径約0.3μmの誘電体材料粉末と有機バインダ、可塑剤、溶剤を混合分散して作製したスラリーを用い、このスラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上に成形した。このとき、有機バインダにはポリビニルブチラール樹脂、可塑剤にはベンジルブチルフタレート、溶剤には酢酸ブチルを用いた。この誘電体グリーンシートは乾燥後約3μmの厚みになるように調節した。
【0039】
次に、未焼結積層体2の上下に積層される無効層を形成するための誘電体グリーンシートとして、上記のスラリーで乾燥後約50μmの厚みの誘電体グリーンシートも成形した。
【0040】
導電性ペーストは市販の平均粒径0.2μmの球状Ni粉と扁平状のNi粒子を表1に示すような配合比率で秤量し、Ni粒子100重量部に対して、バインダとしてエチルセルロースを9重量部、溶剤としてテルピネオールを100重量部添加し、均一に混合、分散し、導電性ペーストを作製した。図3はPETフィルムに印刷した内部電極パターンの断面図の例を示している。このようにして作製した導電性ペーストを用いて、図3に示すように、PETフィルム4上にスクリーン印刷法で内部電極パターン21を印刷した。この内部電極パターン21は最終的に3.2mm×1.6mmの積層セラミックコンデンサを作製することを想定して設計した。ここで、内部電極パターン21の印刷体として、印刷条件を変えることによって、Niの塗着量を種々変えたものを用意した。ここで、Niの塗着量とは、印刷パターンの単位面積当たりに印刷されているNiの重量で表すものである。その測定には、蛍光X線を用い、あらかじめ既知のNi薄膜で検量線を作製し、測定値から換算してNi量を求めるものである。測定に用いたプローブの径は0.1mmである。
【0041】
以上のようにして準備した誘電体グリーンシート、内部電極パターンを用いて、未焼結積層体を作製した。なお、未焼結積層体のワークサイズは7cm×7cmとし、積層セラミックコンデンサの構成は上下の無効層が50μmシートを3枚積層し、誘電体層を100層積層した。この未焼結積層体の積層はSUSのプレートの上に発泡シートを貼り付け、その後積層セラミックコンデンサ部が上記構成になるように無効層用の誘電体グリーンシート、誘電体グリーンシート、内部電極パターンを順次転写積層した。このようにして積層した未焼結積層体を個片に切断し未焼結積層セラミックコンデンサを得た。切断はトムソン切断を行い、120℃で10分間乾燥機に入れ、発泡シートから分離すると共に個片化した。
【0042】
このようにして作製した未焼結積層セラミックコンデンサを脱バインダ、焼成した。脱バインダ方法は未焼結積層セラミックコンデンサを厚み1mmのアルミナ基板の上に載せ、熱風循環式のオーブンを用いて窒素雰囲気中で行った。そのときの昇温スピードは50℃/h、450℃で4時間保持し、終了後は放冷した。雰囲気ガスである窒素の流量は全域50l/minで行った。
【0043】
次に、焼成は雰囲気調整が可能な管状の電気炉を用いて焼成を行った。このときの焼成条件は昇降温速度;200℃/h、焼成温度;1250℃、保持時間;2時間で行い、雰囲気は一定量の窒素ガスをキャリアとした上で焼成温度での酸素濃度がニッケルの平衡酸素分圧に対して約2桁還元側の雰囲気となるように水素と水蒸気により調節した。なお、降温時に1000℃以下の温度領域では水素と水蒸気を止め、窒素ガスのみを流して再酸化を行った。この窒素ガス中には約10ppmの酸素を含有している。
【0044】
以上のようにして図4に示す積層セラミックコンデンサを作製した。図4は本発明の積層セラミックコンデンサの斜視図であり、図4において、100は積層セラミックコンデンサ全体を、101は誘電体層を、102は内部電極層を示している。前述のようにして作製した積層セラミックコンデンサの各種条件を(表1)に示した。
【0045】
次に、比較例の作製方法について説明する。導電性ペーストは市販の平均粒径0.2μmの球状Ni粒子100重量部に対して、バインダとしてエチルセルロースを9重量部、溶剤としてテルピネオールを100重量部添加し、均一に混合、分散し、導電性ペーストを作製した。このようにして作製した導電性ペーストを用いて、PETフィルム上にスクリーン印刷法で内部電極パターンを印刷した。比較例においても、Niの塗着量を種々変えたものを用意した。この内部電極パターンを用いて、実施例と同様に積層セラミックコンデンサを作製した。比較例として作製した積層セラミックコンデンサの条件も(表1)に記載した。
【0046】
以上のようにして作製した比較例の積層セラミックコンデンサと前述の本発明の積層セラミックコンデンサを用い種々の評価を行った。(表1)に作製した積層セラミックコンデンサの評価結果もあわせて記載した。(表1)において※印を付けた試料NO.は本発明の範囲外のものであり、比較例として記載したものである。
【0047】
次に、評価項目および評価方法について説明する。
【0048】
まず、それぞれの条件で作製した積層セラミックコンデンサの試料から無作為に100個を選び出し、外部電極としてIn−Gaを付けて、ショート品の選別と同時に容量測定を行った。容量は50個測定し、その平均値を求めた。容量測定は、20℃の恒温室の中で、プレシジョンLCRメーター(アジレント社製4284A)を用い、周波数1kHz、信号電圧1Vrmsの条件下で行った。なお、測定はALC(オートレベルコントロール)をONにして、信号電圧を1Vrmsに維持して行った。
【0049】
次に、内部構造の確認を行った。内部構造の確認は作製した積層セラミックコンデンサの中から別に無作為に選択したものをL(長手)方向とW(幅)方向に各50個ずつエポキシ樹脂に埋め、研磨の後、光学顕微鏡により内部構造の確認を行った。研磨はL方向であれば内部電極が見えはじめる位置(端部)と素体中央部の2点で確認した。またW方向の場合は対向電極が見えはじめる位置(端部)と素体中央部の2点で確認した。その結果、全ての試料において内部構造欠陥は認められなかった。また、同試料により焼成後の誘電体層の厚みを測定したところ約2μmであった。
【0050】
【表1】

【0051】
(表1)の結果よりも明らかなように、本発明の導電性ペーストを用いることにより、0.4mg/cm2という低塗着量にもかかわらず、高い容量達成率を得ることができる。ここで、容量はNiの塗着量が多ければ多いほど高くなるというものではない。Ni塗着量0.6mg/cm2は、容量を100%取得する上では十分な塗着量であるといえる。一定量以上のNi塗着量では内部電極層が面を形成し、容量は飽和してしまう。これは、本発明の導電性ペーストに限らず、球形のNi粒子による導電性ペーストを用いた比較例14においても確認される。それ以上のNi塗着量は容量取得という意味合いからは不要であり、必要以上のNi塗着量は、内部電極層を厚くし、規格寸法の中で一定の容量を得る場合電極層の占める割合が高くなり、誘電体層を薄くする必要が生じ、信頼性の低下を招くこととなる。また、Ni塗着量が多いことにより、内部電極層厚みが厚くなる場合、積層時に誘電体グリーンシートによる電極段差の吸収が困難となり、未焼結積層体の積層不良や、焼成後の内部構造欠陥の原因となり好ましくない。積層セラミックコンデンサの内部電極としては、容量を設計値に対して低下させることなく得られるのであれば、Ni塗着量はできるだけ低いことが望ましいのである。
【0052】
(表1)から明らかなように、球状のNi粒子の含有率はNi粒子全体の75重量%以下が好ましい。球状のNi粒子の平均粒径は0.2μmが好ましいが、0.4μm程度までは本発明の導電性ペーストにおいて同様の効果を得ることができる。また、扁平粒子の長径と短径の比率、長径/短径比は2から4が好ましい。
【0053】
なお、(表1)のショート率の項で示したように、本発明の導電性ペーストによってショート率を低下させるものではない。しかし、Ni粒子が大きくなるに従って若干ではあるが、ショート率が高くなる傾向にある。これは、Ni粒子の粒子径が大きくなるにつれ内部電極パターンの表面粗さが大きくなり、積層時によって誘電体グリーンシートをへこませる程度が大きくなるためと考えられる。
【0054】
以上のように、本発明の導電性ペーストによって、内部電極が薄層化しても静電容量の低下が抑制されたNi内部電極積層セラミックコンデンサを実現することができる。
【0055】
(実施例2)
さらに、本発明の実施の形態をより具体化した実施例と、それらに対する比較例について説明する。
【0056】
誘電体グリーンシートは実施例1同様に乾燥後約3μmのものを作製した。
【0057】
次に、未焼結積層体の上下に積層される無効層を形成するための誘電体グリーンシートも実施例1と同様に、乾燥後約50μmの厚みのものを成形した。
【0058】
導電性ペーストは市販の平均粒径0.2μmの球状Ni粉と長径0.4μm、短径0.2μm、長径/短径比が2の扁平状のNi粒子を重量比で1対1のものを用い、添加物として無機酸化物を添加したものを(表2)に示すような配合比率で秤量し、Ni粒子100重量部に対して、バインダとしてエチルセルロースを9重量部、溶剤としてテルピネオールを100重量部添加し、均一に混合、分散し、導電性ペーストを作製した。ここで、無機酸化物としては、堺化学製の平均粒径0.1μmのチタン酸バリウム(BaTiO3)と、誘電体グリーンシートに用いた誘電体材料を使用した。このようにして作製した導電性ペーストを用いて、PETフィルム上にスクリーン印刷法で内部電極パターンの印刷体を作製した。なお、印刷性を考慮して、導電性ペーストの粘度を溶剤により調整した。印刷した内部電極パターン21は最終的に2.0mm×1.25mmの積層セラミックコンデンサを作製することを想定した設計した。ここで、Niの塗着量は0.5mg/cm2とした。
【0059】
以上のようにして準備した誘電体グリーンシート、内部電極パターンを用いて、未焼結積層体を作製した。なお、未焼結積層体のワークサイズは7cm×7cmとし、積層セラミックコンデンサの構成は上下の無効層が50μmシートを3枚積層し、誘電体層を300層積層した。積層以降の工程は実施例1と同様にして行った。
【0060】
以上のようにして作製した積層セラミックコンデンサの条件を(表2)に示した。比較例は無機添加物を加えずに導電性ペーストを作製した。
【0061】
以上のようにして作製した比較例の積層セラミックコンデンサと前述の本発明の積層セラミックコンデンサを用い種々の評価を行った。(表2)に作製した積層セラミックコンデンサの評価結果もあわせて記載した。(表2)において※印を付けた試料NO.は本発明の範囲外のものであり、比較例として記載したものである。
【0062】
このようにして作製した積層セラミックコンデンサ試料を用いて実施例1と同様に容量測定を行った。
【0063】
次に、内部構造の確認を行った。内部構造確認は作製した積層セラミックコンデンサの中から別に無作為に選択したものをL(長手)方向とW(幅)方向に各50個ずつエポキシ樹脂に埋め、研磨の後、光学顕微鏡により内部構造の確認を行った。研磨はL方向であれば内部電極が見えはじめる位置(端部)と素体中央部の2箇所で確認した。またW方向の場合は対向電極が見えはじめる位置(端部)と素体中央部の2箇所で確認した。上記の確認方法によって、L方向、W方向の計100個の試料中で内部構造欠陥が確認された試料の個数を(表2)に示した。
【0064】
なお2箇所の研磨位置のどちらか一方でも内部構造欠陥が確認されたものをカウントした。
【0065】
【表2】

【0066】
(表2)の結果よりも明らかなように、本発明の導電性ペーストを用いることにより、300層という高積層にもかかわらず構造欠陥は非常に抑制されていることがわかる。内部構造欠陥の抑制の観点からは、添加物の種類によらず、添加量としては10重量%以上が好ましい。しかしながら、30重量%においては、若干の容量低下が認められるため、添加物の量は添加物の種類にかかわらず25%以下が好ましい。以上の結果より、無機添加物の量は10重量%以上25重量%が適量である。
【0067】
以上のように、本発明の導電性ペーストによって、内部電極が薄層化し、高積層化されても内部構造欠陥のないNi内部電極積層セラミックコンデンサを実現することができる。
【0068】
本実施例においては、内部電極の形成方法としてスクリーン印刷法を用いたが、グラビア印刷法においても同様の結果が得られる。
【0069】
また、本実施例においては、導電性ペーストをPETフィルム上に印刷したものを用意したが、誘電体グリーンシート上に導電性ペーストを印刷したものにおいても同様の結果が得られることが確認できた。
【0070】
さらに、導電性ペーストに添加する無機酸化物としては、本実施例に記載したものに限定されるものではなく、誘電体材料の特性を変化させることが無く、Niの焼結を遅らせるかあるいはNiの焼結時の収縮を立体的に阻害するものであればよいこと。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の導電性ペーストは、従来の球状のNi粒子を用いた場合に比べて、電極の印刷膜の密度を向上させることができ、焼成後においても内部電極を薄くすることができるという特徴を有し、特に、小型高積層の積層セラミックコンデンサに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の一実施の形態における未焼結積層セラミックコンデンサの一部切欠斜視図
【図2】本発明の一実施の形態における未焼結積層体の斜視図
【図3】本発明の一実施の形態におけるPETフィルムに印刷した内部電極パターンの断面図
【図4】本発明の一実施の形態における積層セラミックコンデンサの斜視図
【符号の説明】
【0073】
1 未焼結積層セラミックコンデンサ
2 未焼結積層体
3 支持体
4 PETフィルム
11 誘電体層
12 内部電極層
21 内部電極パターン
100 積層セラミックコンデンサ部
101 誘電体層
102 内部電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを主成分とする卑金属粒子と少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなる導電性ペーストであって、Ni粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項2】
Niを主成分とする卑金属粒子と無機酸化物を含有し、さらに少なくとも樹脂と可塑剤と溶媒からなる導電性ペーストであって、Ni粒子が少なくとも針状あるいは平板状あるいは扁平状の粒子を含むことを特徴とする導電性ペースト。
【請求項3】
針状あるいは平板状あるいは扁平状のNi粒子の長径が、短径の2倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
チタン酸バリウムを主成分とする誘電体材料と内部電極層が交互に積層されてなる積層セラミックコンデンサにおいて、前記内部電極層は、請求項1から3のいずれか1つに記載の導電性ペーストを用いてなる積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−194158(P2007−194158A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13375(P2006−13375)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】