説明

導電性ペーストおよびその製造方法

【課題】積層セラミック電子部品の内部導体膜形成のために有利に用いられるものであって、導電性金属粉末の表面に、たとえば100nm以下と粒径が非常に小さい焼結抑制用のセラミック粉末を凝集させることなく均一に付着させることができる、導電性ペーストの製造方法を提供する。
【解決手段】導電性金属粉末、セラミック粉末、有機溶剤、有機樹脂成分および分散剤を用意し、有機溶剤および有機樹脂成分を含む有機ビヒクルを得、分散剤を含む有機溶剤中でセラミック粉末を分散させ、次いで、この分散状態を安定化させるため、セラミック粉末を分散させた有機溶剤に有機ビヒクルの一部を添加することによって、セラミックスラリーを作製し、他方、分散剤を含む有機溶剤中に、導電性金属粉末が分散させてなる金属粉末スラリーを作製し、その後、セラミックスラリーと金属粉末スラリーと有機ビヒクルの残部とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性ペーストおよびその製造方法に関するもので、特に、積層セラミック電子部品の内部導体膜形成のために有利に用いられるものであって、導電性金属粉末の焼結抑制用としてセラミック粉末を含有させた導電性ペーストおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味ある導電性ペーストとして、たとえば特開2003−115416号公報(特許文献1)に記載されたものがある。特許文献1には、平均粒径が0.2μm以下の導電性金属粉末と、導電性金属粉末の平均粒径以下の平均粒径を有し、かつ1.5〜12.5重量%の含有量をもって含有する、セラミック粉末と、有機ビヒクルとを含む、導電性ペーストが記載されている。
【0003】
特許文献1の記載によれば、この導電性ペーストを用いて、たとえば積層セラミック電子部品の内部導体膜を形成すると、内部導体膜となる乾燥後の導電性ペースト膜の表面に良好な平滑性を与えることができ、また、焼成時において、導電性金属粉末の過焼結をセラミック粉末によって確実に抑制することができる、とされている。したがって、内部導体膜のカバレッジ(連続性)を高く維持することができるとともに、積層セラミック電子部品において、セラミック層および内部導体膜の薄層化が進んでも、デラミネーションやクラックといった構造欠陥を生じにくくすることができる。そのため、この導電性ペーストが積層セラミックコンデンサに適用されたときには、誘電体セラミック層および内部導体膜の薄層化によって、小型化かつ大容量化を有利に進めることができる。
【0004】
特許文献1に記載の実験例によれば、導電性ペーストは、導電性金属粉末とセラミック粉末と有機ビヒクルとを一括で3本ロールミルにより分散混合処理を行なうことによって製造されている(段落[0061]参照)。また、特許文献1には、導電性ペーストにおいて添加されるセラミック粉末の均一分散および微粒化が、導電性ペースト膜の乾燥後の表面の平滑性の向上だけでなく、セラミック粉末による焼結抑制効果を高めるのに有効であると記載されている(段落[0040]参照)。
【0005】
しかし、セラミック粉末が微粒になるほど、セラミック粉末の凝集性あるいは再凝集性が顕著となる。よって、内部導体膜のさらなる薄層化のため、導電性ペーストに含まれるセラミック粉末の粒径がたとえば100nm以下と極めて微粒化されると、特許文献1に記載のような一括分散混合処理を適用して導電性ペーストを製造した場合、この導電性ペーストを塗布し、乾燥して得られた導電性ペースト膜中において、微粒のセラミック粉末を均一に分散させることが困難となり、その結果、内部導体膜について、薄層化および高カバレッジ(連続性)を実現することが困難となる。
【0006】
一方、特開2009−266716号公報(特許文献2)では、ニッケル粉末とセラミック粉末と有機バインダと溶剤を含む導電性ペーストであって、セラミック粉末として0.05μmと0.10μmとの2種の微粒のチタン酸バリウム粉末を用いて、ロールでの分散を繰り返すことにより、ニッケル粉末表面をセラミック粉末で被覆できることが記載されている(段落[0014])。しかしながら、このような方法を用いても、微粒のチタン酸バリウム粉末の凝集性は強く、ニッケル粉末の表面をチタン酸バリウム粉末で被覆することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−115416号公報
【特許文献2】特開2009−266716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の目的は、積層セラミック電子部品の内部導体膜形成のために有利に用いられるものであって、導電性金属粉末の表面に、たとえば100nm以下と粒径が非常に小さい焼結抑制用のセラミック粉末を凝集させることなく均一に付着させることができる、導電性ペーストの製造方法を提供しようとすることである。
【0009】
この発明の他の目的は、上述の製造方法によって得ることができる導電性ペーストを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、導電性金属粉末、セラミック粉末、有機ビヒクルおよび分散剤を含む、導電性ペーストの製造方法にまず向けられる。
【0011】
この発明に係る導電性ペーストの製造方法は、導電性金属粉末、セラミック粉末、有機溶剤、有機樹脂成分および分散剤を用意する工程と、有機溶剤および有機樹脂成分を含む有機ビヒクルを得る工程とをまず備える。そして、この発明に係る製造方法では、前述した技術的課題を解決するため、分散剤および有機ビヒクルの一部を含む有機溶剤中に、セラミック粉末が分散されてなるセラミックスラリーを作製する工程と、分散剤を含む有機溶剤中に、導電性金属粉末が分散させてなる金属粉末スラリーを作製する工程とがそれぞれ別に実施され、その後、セラミックスラリーと金属粉末スラリーと有機ビヒクルの残部とを混合する工程とが実施されることを特徴としている。
【0012】
好ましくは、上記セラミックスラリーを作製する工程において、まず、分散剤を含む有機溶剤中でセラミック粉末を分散させ、次いで、この分散状態を安定化させるため、セラミック粉末を分散させた有機溶剤に有機ビヒクルを添加し混合することが行なわれる。
【0013】
セラミックスラリーを作製する工程において有機溶剤中に含まれる有機ビヒクルの量は、当該導電性ペーストにおいて最終的に含まれるべき有機ビヒクルの2〜50%であることが好ましい。
【0014】
この発明に係る製造方法は、セラミック粉末の平均粒径が、導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下であるとき、特に有利に適用される。
【0015】
この発明は、また、導電性金属粉末、セラミック粉末および有機ビヒクルを含む、導電性ペーストにも向けられる。この発明に係る導電性ペーストでは、セラミック粉末の平均粒径が、導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下であり、当該導電性ペーストの乾燥塗膜の表面において、視野内に観察されるセラミック粉末を構成するセラミック粒子の50%以上が導電性金属粉末を構成する金属粒子の表面上に付着していることを特徴としている。
【0016】
この発明に係る導電性ペーストは、その乾燥塗膜の表面において、セラミック粒子と有機ビヒクルのみからなる領域のうち、金属粒子の表面上で金属粒子の径方向に2つ以上のセラミック粒子が連なっているセラミック粒子の凝集領域が占める面積の合計が、観察視野面積全体の20%以下であることが好ましい。
【0017】
また、より平滑性に優れた導体膜が得られる点で、導電性金属粉末の平均粒径は600nm以下であることが好ましい。
【0018】
また、焼成時において、より効果的に導電性金属粉末の焼結を抑制し得る点で、セラミック粉末の平均粒径が導電性金属粉末の平均粒径の1/4以下であることが好ましい。
【0019】
また、より効果的な導電性金属粉末の焼結抑制と導電性金属粉末の導体膜内での孤立防止の点で、セラミック粉末の体積が、セラミック粉末と導電性金属粉末の合計体積の3〜30%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、導電性ペーストを用いて形成された導体膜となる導電性ペースト膜中に導電性金属粉末とセラミック粉末と均一に分布させることができるので、導電性金属粉末の焼結を効果的に抑制することができる。また、セラミック粉末の凝集に起因する導体膜の連続性低下を防止することができる。
【0021】
したがって、この導電性ペーストを用いると、連続性が高くかつ薄い内部導体膜を有する積層セラミック電子部品を、構造欠陥の発生を抑制しながら、高い良品率をもって製造することができる。また、導電性ペースト膜の表面において良好な平滑性を得ることができるので、積層セラミック電子部品の小型化かつ高性能化、たとえば積層セラミックコンデンサの小型化かつ大容量化に、高い信頼性をもって十分に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の一実施形態による導電性ペーストの製造方法を図解するフロー図である。
【図2】金属粒子11の表面上で金属粒子11の径方向12に2つ以上のセラミック粒子13が連なっている「セラミック粒子の凝集領域」を説明するためのもので、金属粒子11とセラミック粒子13とを拡大して模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1を参照して、この発明の一実施形態による導電性ペーストの製造方法について説明する。
【0024】
まず、導電性金属粉末、セラミック粉末、有機溶剤、有機樹脂成分および分散剤が用意される。
【0025】
導電性金属粉末としては、好ましくは、銅、ニッケル、銀およびパラジウムのいずれかの金属、またはそれらの少なくとも1種を含む合金からなる粉末が用いられる。これらの金属または合金によれば、導電性ペーストを積層セラミック電子部品の内部導体膜を形成するために用いたとき、焼成工程において、内部導体膜中の金属成分がセラミック層側に実質的に拡散しないようにすることができる。
【0026】
導電性金属粉末の平均粒径は600nm以下であることが好ましい。より表面平滑性に優れた導体膜が得られるからである。
【0027】
次に、セラミック粉末としては、好ましくは、ABO3(Aは、Ca、BaおよびSrのうちの少なくとも1種であり、Bは、Zr、TiおよびHfのうちの少なくとも1種である。)を主成分とするセラミックからなるものが用いられる。このような組成のセラミック粉末によれば、焼成時において、導電性金属粉末との間で生じ得る反応を少なく抑えることができる。
【0028】
上述のセラミック粉末は、上記ABO3を主成分としながら、添加物として、Mn、Mg、Si、Y、Dy、Gd、SmおよびEuのうち少なくとも1種を含むセラミックからなるものであることがより好ましい。焼成した場合に、セラミック粒子の粒成長が抑制され、金属粒子の焼結をより有効に阻害することができるからである。
【0029】
また、セラミック粉末が、上記のように、ABO3を主成分とするセラミックからなるとき、たとえば積層セラミックコンデンサに備える誘電体セラミック層のための誘電体セラミックとして同様のABO3を主成分とするセラミックを用いることができるので、焼成時において、導電性ペーストに含まれるセラミック粉末の成分がセラミック層へ拡散しても、それによる影響を最小限に留めることができる。
【0030】
また、セラミック粉末が、前述したように、ABO3を主成分とするセラミックからなり、このセラミックが、Mn、Mg、Si、Y、Dy、Gd、SmおよびEuのうち少なくとも1種のような添加物元素を含んでいる場合、セラミック層を構成するセラミックが共通する添加物元素を含んでいると、焼成時において、導電性ペースト側のセラミックとセラミック層側のセラミックとが異常反応することがなく、そのため、導体膜の連続性を損なうことを確実に防止することができる。
【0031】
セラミック粉末の平均粒径は、導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下とされる。好ましくは、セラミック粉末の平均粒径は、導電性金属粉末の平均粒径の1/4以下とされる。焼成時において、より効果的に導電性金属粉末の焼結を抑制し得るからである。
【0032】
次に、図1に示すように、用意された有機溶剤および有機樹脂成分を用い、これらを混合することによって、有機樹脂成分を有機溶剤中に溶解してなる有機ビヒクルが作製される(「混合処理」工程1)。
【0033】
次に、用意されたセラミック粉末、分散剤および有機溶剤を用い、分散剤を含む有機溶剤中でセラミック粉末を分散させる工程(「分散処理」工程2)と、次いで、セラミック粉末を分散させた有機溶剤に、上述した「混合処理」工程1によって得られた有機ビヒクルの一部を添加し混合することによって、分散状態を安定化させる工程(「混合処理」工程3)とを実施する。これによって、セラミックスラリーが作製される。
【0034】
上述の「混合処理」工程3において添加される有機ビヒクルの量は、得ようとする導電性ペーストにおいて最終的に含まれるべき有機ビヒクルの2〜50%であることが好ましく、10〜15%であることがより好ましい。
【0035】
なお、セラミックスラリーを作製するにあたって、上述のように、「分散処理」工程2と「混合処理」工程3との2段階に分けるのが能率的であるが、処理時間の長短を問わないならば、分散剤および有機ビヒクルの一部を含む有機溶剤中に、セラミック粉末を投入して、一挙に分散処理を実施し、セラミックスラリーを得るようにしてもよい。
【0036】
他方、用意された導電性金属粉末、有機溶剤および分散剤を用い、分散剤を含む有機溶剤中に、導電性金属粉末が分散させてなる金属粉末スラリーを作製する工程が実施される(「分散処理」工程4)。
【0037】
そして、最終的に、セラミックスラリーと金属粉末スラリーと有機ビヒクルの残部とを混合する工程が実施される(「混合処理」工程5)。このとき、分散処理がさらに施されてもよい。
【0038】
以上のようにして、目的とする導電性ペーストが得られる。
【0039】
なお、上述した「分散処理」工程2および4ならびに「混合処理」工程3および5のいずれかの工程において、アセトンのような沸点の比較的低い希釈用溶剤を使って、分散・混合処理される液体の粘度を下げ、分散・混合処理の能率化を図るようにしてもよい。得られた導電性ペーストは、希釈用溶剤を蒸発させることによって、所望の粘度に調整される。
【0040】
以上の工程を経て製造された導電性ペーストにおいては、前述のように、セラミック粉末の平均粒径が、導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下である。また、後述する実験例で明らかにされるように、この導電性ペーストの乾燥塗膜の表面において、視野内に観察されるセラミック粉末を構成するセラミック粒子の50%以上が導電性金属粉末を構成する金属粒子の表面上に付着している。
【0041】
このような導電性ペーストによれば、導体膜となる導電性ペースト膜中において導電性金属粉末とセラミック粉末と均一に分布させることができるので、焼成時に、導電性金属粉末の焼結を効果的に抑制することができるとともに、セラミック粉末の凝集に起因する導体膜の連続性低下を効果的に防止することができる。したがって、この導電性ペーストを積層セラミック電子部品の内部導体膜を形成するために用いると、連続性が高くかつ薄い内部導体膜を形成することができる。
【0042】
導電性ペーストは、以下のような構成を備えることが好ましい。
【0043】
導電性ペーストの乾燥塗膜の表面において、セラミック粒子と有機ビヒクルのみからなる領域のうち、図2に示すように、金属粒子11の表面上で金属粒子11の径方向12に2つ以上のセラミック粒子13が連なっている領域を、セラミック粒子の凝集領域と定義したとき、この凝集領域が占める面積の合計が、観察視野面積全体の20%以下であることが好ましい。これによって、導体膜の連続性をより高くすることができるとともに、より薄い導体膜を得ることができる。
【0044】
導電性ペーストにおいて、セラミック粉末の体積は、セラミック粉末と導電性金属粉末の合計体積の3〜30%の範囲内であることが好ましい。これによって、より効果的な導電性金属粉末の焼結抑制と導電性金属粉末の導体膜内での孤立防止をより確実に実現することができる。
【0045】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0046】
[実験例1]
〈導電性ペースト〉
1.導電性金属粉末
表1の「導電性金属粉末」における「金属種」の欄に示す金属からなり、「平均粒径」の欄に示す平均粒径を有する、導電性金属粉末を用意した。
【0047】
2.セラミック粉末
表1の「セラミック粉末」における「組成」の欄に示す組成を有し、「平均粒径」の欄に示す平均粒径を有する、セラミック粉末を用意した。たとえば試料1について言えば、表1の「組成」の欄に「CaZrO+Si,Mn」と表示され、「平均粒径」の欄に「25」と表示されているが、これは、平均粒径25nmのジルコン酸カルシウムに添加物としてSiおよびMnを含有させた平均粒径25nmのセラミック粉末であることを示している。
【0048】
3.導電性ペーストの作製
導電性ペーストの作製にあたっては、表1の「製法」の欄に示されるように、以下の製法A、B、Cのいずれかを採用した。
【0049】
3−1.製法A
セラミック粉末と、有機溶剤としてのジヒドロターピネオールと、分散剤としてのアニオン系高分子分散剤とを、無媒体攪拌式ミルで予備混合した後、媒体攪拌式ミルで分散処理し、1次セラミックスラリーを得た。
【0050】
他方、有機樹脂成分としての重量平均分子量14万のエチルセルロース樹脂と有機溶剤であるジヒドロターピネオールとを混合して、有機ビヒクルを得た。
【0051】
次に、得ようとする導電性ペーストに最終的に含まれるべき有機ビヒクルの量に対して、表1の「セラミックスラリーに添加する有機ビヒクルの割合」の欄に示す割合の有機ビヒクルを、上記1次セラミックスラリーに添加し、無媒体攪拌式ミルで混合し、それによって、分散安定化を図った2次セラミックスラリーを得た。
【0052】
他方、導電性粉末とジヒドロターピネオールとアニオン系高分子分散剤とを3本ロールミルにて分散処理し、金属粉末スラリーを得た。
【0053】
次に、セラミック粉末と導電性金属粉末の合計体積に対するセラミック粉末の体積が表1の「固形分中の割合」となるように、上記金属粉末スラリーに上記2次セラミックスラリーを加えるとともに、上記有機ビヒクルの残部を加え、混合・分散処理し、導電性ペーストを得た。
【0054】
3−2.製法B
セラミック粉末とジヒドロターピネオールとアニオン系高分子分散剤とを、プラネタリミキサで予備混合した後、3本ロールミルで分散処理し、1次セラミックスラリーを得た。
【0055】
他方、製法Aの場合と同様、重量平均分子量14万のエチルセルロース樹脂とジヒドロターピネオールとを混合して、有機ビヒクルを得た。
【0056】
次に、得ようとする導電性ペーストに最終的に含まれる有機ビヒクルの量に対して、表1の「セラミックスラリーに添加する有機ビヒクルの割合」の欄に示す割合の有機ビヒクルを、上記1次セラミックスラリーに添加し、3本ロールミルで混合・分散処理し、それによって、分散安定化を図った2次セラミックスラリーを得た。
【0057】
他方、製法Aの場合と同様、導電性粉末とジヒドロターピネオールとアニオン系高分子分散剤とを3本ロールミルにて分散処理し、金属粉末スラリーを得た。
【0058】
次に、セラミック粉末と導電性金属粉末の合計体積に対するセラミック粉末の体積が表1の「固形分中の割合」となるように、上記金属粉末スラリーに上記2次セラミックスラリーを加えるとともに、上記有機ビヒクルの残部を加え、混合・分散処理し、導電性ペーストを得た。
【0059】
製法Bは、製法Aと比較して、媒体を用いない3本ロールミルで分散処理することによって、1次セラミックスラリーを得た点で異なっている。
【0060】
3−3.製法C
導電性粉末とセラミック粉末とを、セラミック粉末の体積が表1の「固形分中の割合」となるように配合するとともに、これに、ジヒドロターピネオールと、アニオン系高分子分散剤と、重量平均分子量14万のエチルセルロース樹脂およびジヒドロターピネオールからなる有機ビヒクルとを加え、これらを一挙にプラネタリミキサで予備混合した後、3本ロールミルで分散処理し、導電性ペーストを得た。
【0061】
製法Cは、この発明の範囲外のものである。
【0062】
【表1】

【0063】
表1において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の比較例である。
【0064】
〈積層セラミックコンデンサ〉
以下のようにして、試料となる積層セラミックコンデンサを作製した。
【0065】
平均粒径0.2μmの耐還元性誘電体セラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよび有機溶剤としてのエタノールを加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを得た。次に、このセラミックスラリーをドクターブレード法により、焼成後の厚みが2μmになるようにシート状に成形し、セラミックグリーンシートを得た。
【0066】
ここで、上記誘電体セラミック原料粉末として、試料1〜39では、CaZrOを主成分とし、副成分として、Si、Mn、SrおよびTiの各元素を含むものを用い、試料40〜49では、BaTiOを主成分とし、副成分として、Dy、Mg、MnおよびSiの各元素を含むものを用いた。
【0067】
次に、セラミックグリーンシート上に、上記導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部導体膜となるべき導電性ペースト膜を形成した。このとき、印刷塗膜の厚みを、蛍光X線膜厚計で計測して0.3μmとなるように設定した。
【0068】
次に、導電性ペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層し、熱プレスして一体化し、その後、所定の寸法にカットすることにより、生の積層体を得た。
【0069】
次に、生の積層体を、窒素雰囲気中において350℃の温度に加熱し、バインダを分解させた後、H−N−HOガスからなる還元性雰囲気中において、最高温度1250℃で焼成し、焼結した積層体を得た。
【0070】
次に、積層体の、内部導体膜の露出面上に、銅を導電成分とする導電性ペーストを塗布し、窒素雰囲気中において700℃の温度で焼き付け、内部導体膜と電気的に接続された端子電極を形成した。
【0071】
このようにして、試料となる積層セラミックコンデンサを得た。
【0072】
〈評価〉
1.導電性ペースト段階での評価
各試料に係る導電性ペーストを、ガラス基板上にドクターブレードで成膜し、乾燥した塗膜表面をFE−SEM(電界放射型電子顕微鏡)で観察し、導電性金属粉末およびセラミック粉末の配置状態を観察した。塗膜表面の電子顕微鏡写真から、所定の視野内に観察されるセラミック粒子の全数を数えるとともに、導電性金属粉末を構成する金属粒子の表面に付着していると確認できるセラミック粒子の数を数え、前者のセラミック粒子の全数に対する、後者の金属粒子の表面に付着しているセラミック粒子の割合を算出した。その結果が、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「金属粒子上の割合」の欄に示されている。
【0073】
また、画像解析により、セラミック粒子と有機ビヒクルのみからなる領域のうち、金属粒子の表面上で金属粒子の径方向に2つ以上のセラミック粒子が連なっている、セラミック粒子の凝集領域(図2参照)が占める面積を算出した。セラミック粒子の凝集により、セラミック粒子が付着している下地が不明確な場合も、凝集領域とした。そして、観察視野面積全体に対する、セラミック粒子の凝集領域が占める面積の割合を算出した。その結果が、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「凝集面積率」の欄に示されている。
【0074】
2.積層セラミックコンデンサ状態での評価
各試料に係る積層セラミックコンデンサについて、内部導体膜の厚みを測定するとともに、内部導体膜の連続性を評価した。
【0075】
内部導体膜の厚みは、積層セラミックコンデンサを研磨して内部導体膜と垂直な断面を露出させ、露出した内部導体膜の厚みを電子顕微鏡で観察して測定した。その結果が、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」の欄に示されている。
【0076】
内部導体膜の連続性は、内部導体膜の被覆率を求めることによって評価した。すなわち、積層セラミックコンデンサを内部導体膜に沿って剥離し、露出させた内部導体膜を光学顕微鏡で観察することによって、導体被覆面積を画像処理により求め、導体被覆面積から被覆率を算出した。その結果が、表2の「焼成後内部導体」における「被覆率」の欄に示されている。
【0077】
また、焼成後の積層セラミックコンデンサについて、クラックまたはデラミネーション等の構造欠陥の発生の有無を目視にて評価した。そして、全試料数10000個に対する、構造欠陥が発生している試料数の比率を求めた。その結果が、表2の「構造欠陥発生率」の欄に示されている。
【0078】
【表2】

【0079】
表2において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の比較例である。
【0080】
〈考察〉
この発明の範囲内の試料1〜4、11〜44および46〜49では、まず、表1からわかるように、「セラミック粉末」の「平均粒径」が、「導電性金属粉末」の「平均粒径」以下であって、100nm以下であった。また、これら試料では、表1の「製法」の欄に示すように、セラミックスラリーと金属粉末スラリーとを別々に作製し、これらを後で混合する、「A」または「B」の製法が採用された。その結果、これらの試料によれば、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「金属粒子上の割合」は50%以上と、セラミック粉末が優れた分散性を示した。
【0081】
このような試料1〜4、11〜44および46〜49によれば、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」および「被覆率」からわかるように、内部導体膜は、薄い膜厚となるとともに、高い被覆率を示した。また、これらの試料では、表2の「構造欠陥発生率」は1%未満と低く抑えられた。
【0082】
この発明の範囲内の試料のうち、試料1、2および3は、その作製条件に関して、表1の「セラミックスラリーに添加する有機ビヒクルの割合」のみが、それぞれ、10%、2%および50%と異なっている。しかし、いずれの試料も、導電性ペーストにおいてセラミック粉末が良好な分散性を示した。このことから、「セラミックスラリーに添加する有機ビヒクルの割合」は2〜50%であれば良いことがわかる。
【0083】
この発明の範囲内の試料であって、試料4および17を除く試料では、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「凝集面積率」が20%以下であった。このことは、導電性ペーストにおけるセラミック粉末の分散性がより優れていることを意味している。よって、試料4または17と、「凝集面積率」以外の条件が同等の他の試料とを比べた場合、他の試料の方が、内部導体膜については、薄い膜厚であっても、高い被覆率を示し、「構造欠陥発生率」はより低くなった。
【0084】
また、この発明の範囲内の試料であって、試料33〜39および49を除く試料では、表1の「導電性金属粉末」における「平均粒径」が600nm以下であった。このことは、内部導体膜表面の平滑性の向上に寄与するため、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」の低減および「被覆率」の向上ならびに「構造欠陥発生率」の低減につながった。
【0085】
この発明の範囲内の試料であって、試料19および46を除く試料では、表1の「導電性金属粉末」における「平均粒径」および「セラミック粉末」における「平均粒径」からわかるように、「セラミック粉末」の「平均粒径」が「導電性金属粉末」の「平均粒径」の1/4以下であった。このことは、セラミック粉末による導電性粉末の焼結抑制に対して、より効果的に作用するため、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」の低減および「被覆率」の向上につながった。
【0086】
この発明の範囲内の試料であって、試料22、25、29、32、36、3947および49を除く試料では、表1の「セラミック粉末」における「固形分中の割合」が1〜30%の範囲内にあった。このことは、導電性金属粉末の焼結抑制および導電性金属粉末の導体膜内での孤立防止に対して、より効果的に作用するため、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」の低減および「被覆率」の向上につながった。
【0087】
これらに対して、この発明の範囲外の試料5〜10および45では、表1の「製法」の欄に示すように、セラミック粉末と金属粉末とを一挙に分散処理する、「C」の製法が採用された。その結果、これらの試料では、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「金属粒子上の割合」は50%未満と、セラミック粉末の分散性が劣っていた。また、これらの試料では、表2の「塗膜表面のセラミック粉末」における「凝集面積率」についても、20%を超える値を示した。
【0088】
その結果、この発明の範囲外の試料5〜10および45によれば、表2の「焼成後内部導体」における「膜厚」および「被覆率」からわかるように、内部導体膜は厚くなるとともに、被覆率が低くなった。また、これらの試料では、表2の「構造欠陥発生率」は1%を大きく超えた。
【0089】
このように、この発明の範囲外の試料5〜10および45において、内部導体膜の膜厚の増加および被覆率の低下が生じたのは、次のような理由によると考えられる。
【0090】
薄くかつ被覆率が高い導体膜を得るためには、導電性金属粉末を構成する金属粒子同士が接触した連続膜を形成することが必要である。導電性ペースト膜中において、金属粒子の表面上で金属粒子の径方向に2つ以上のセラミック粒子が連なっている、セラミック粒子の凝集領域では、焼結過程で金属粒子同士の接触が断たれ、そこを起点に導体膜の連続性が損なわれる。このように接触が断たれた箇所が存在しても、焼結の面方向収縮により、導体膜の連続性が回復することもあるが、接触が断たれた箇所、すなわち、セラミック粒子の凝集領域が、塗膜表面の面積で見たとき、20%を超えて存在すると、連続性の回復が困難となると推測される。その結果、金属粒子が玉化して、導体膜の膜厚の増加をもたらし、これに伴い、被覆率の低下が生じると考えられる。
【0091】
[実験例2]
実験例2では、積層セラミックコンデンサにおけるセラミック層の厚みによる影響を調査した。
【0092】
実験例2においては、実験例1で作製した試料1、5、44および45に係る積層セラミックコンデンサについて、表3に示すように、さらに、「積層体厚み」、「静電容量」および「絶縁破壊電圧」を測定した。なお、表3には、表2に示した「構造欠陥発生率」が転記されている。
【0093】
「積層体厚み」については、マイクロメータで測定し、「静電容量」については、インピーダンスアナライザで測定し、「絶縁破壊電圧」については、直流電圧を印加して測定した。
【0094】
試料1、5、44および45においては、前述のように、セラミック層の厚みは2μmであったが、これら試料1、5、44および45の各々に対応して、表3の「セラミック層厚み」の欄に示すように、セラミック層の厚みが1μmと薄くされた試料1−2、5−2、44−2および45−2を作製した。
【0095】
そして、試料1−2、5−2、44−2および45−2についても、表3に示すように、「積層体厚み」、「静電容量」、「絶縁破壊電圧」および「構造欠陥発生率」を求めた。
【0096】
【表3】

【0097】
表3において、試料番号に*を付したものは、この発明の範囲外の比較例である。
【0098】
一般に、セラミック層が薄くなるほど、絶縁破壊電圧が低くなり、また、構造欠陥発生率が高くなる傾向がある。試料1、5、44および45と試料1−2、5−2、44−2および45−2との間で比較したときも、同様の傾向が現れた。
【0099】
しかし、セラミック層が薄くなったことによる影響を見ると、この発明の範囲内にある、試料1と試料1−2との間の差および試料44と試料44−2との間の差は、この発明の範囲外にある、試料5と試料5−2との間の差および試料45と試料45−2との間の差より、小さかった。
【0100】
このことからわかるように、この発明に係る導電性ペーストは、積層セラミックコンデンサの小型化かつ大容量化に適した、より特定的には、セラミック層の薄層化に適した、内部導体膜形成のための導電性ペーストとすることができる。
【符号の説明】
【0101】
1,3,5 「混合処理」工程
2,4 「分散処理」工程
11 金属粒子
12 径方向
13 セラミック粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属粉末、セラミック粉末および有機ビヒクルを含む、導電性ペーストであって、
前記セラミック粉末の平均粒径が、前記導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下であり、
当該導電性ペーストの乾燥塗膜の表面において、視野内に観察される前記セラミック粉末を構成するセラミック粒子の50%以上が前記導電性金属粉末を構成する金属粒子の表面上に付着している、導電性ペースト。
【請求項2】
当該導電性ペーストの乾燥塗膜の表面において、前記セラミック粒子と前記有機ビヒクルのみからなる領域のうち、前記金属粒子の表面上で前記金属粒子の径方向に2つ以上の前記セラミック粒子が連なっている前記セラミック粒子の凝集領域が占める面積の合計が、観察視野面積全体の20%以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性金属粉末の平均粒径が600nm以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記セラミック粉末の平均粒径が前記導電性金属粉末の平均粒径の1/4以下である、請求項1ないし3のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記セラミック粉末の体積が、前記セラミック粉末と前記導電性金属粉末の合計体積の3〜30%の範囲内である、請求項1ないし4のいずれかに記載の導電性ペースト。
【請求項6】
導電性金属粉末、セラミック粉末および有機ビヒクルを含む、導電性ペーストの製造方法であって、
導電性金属粉末、セラミック粉末、有機溶剤、有機樹脂成分および分散剤を用意する工程と、
前記有機溶剤および前記有機樹脂成分を含む有機ビヒクルを得る工程と、
前記分散剤および前記有機ビヒクルの一部を含む前記有機溶剤中に、前記セラミック粉末が分散されてなるセラミックスラリーを作製する工程と、
前記分散剤を含む前記有機溶剤中に、前記導電性金属粉末が分散させてなる金属粉末スラリーを作製する工程と、
前記セラミックスラリーと前記金属粉末スラリーと前記有機ビヒクルの残部とを混合する工程と
を備える、導電性ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記セラミックスラリーを作製する工程は、
前記分散剤を含む前記有機溶剤中で前記セラミック粉末を分散させる工程と、次いで、
前記セラミック粉末を分散させた前記有機溶剤に前記有機ビヒクルを添加し混合することによって、分散状態を安定化させる工程と
を備える、請求項6に記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項8】
前記セラミックスラリーを作製する工程において前記有機溶剤中に含まれる前記有機ビヒクルの量は、当該導電性ペーストにおいて最終的に含まれるべき前記有機ビヒクルの2〜50%である、請求項6または7に記載の導電性ペーストの製造方法。
【請求項9】
前記セラミック粉末の平均粒径が、前記導電性金属粉末の平均粒径以下であって、100nm以下である、請求項6ないし8のいずれかに記載の導電性ペーストの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−221640(P2012−221640A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84190(P2011−84190)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】