説明

導電性ポリアミド樹脂組成物及びその成形体

【課題】低吸水性でありながら、十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、かつ導電性に優れ、さらに、従来の脂肪族ポリアミド樹脂に比較して、耐薬品性、耐加水分解性などに優れたポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 ポリアミド樹脂(成分A)と、導電性付与剤(成分B)とを含む導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記成分Aが、ジカルボン酸由来の単位とジアミン由来の単位とが結合してなり、
前記ジカルボン酸が蓚酸(化合物a)を含み、
前記ジアミンが1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を含み、
前記化合物bと前記化合物cのモル比が99:1〜50:50であるであることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な導電性ポリアミド樹脂組成物に関する。詳しくは、ジカルボン酸成分が蓚酸を含み、ジアミン成分が1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を含むポリアミド樹脂と導電性付与剤を含む導電性ポリアミド樹脂組成物であって、成形可能温度幅が広く、成形加工性に優れかつ低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れたポリアミド樹脂に導電性付与剤を配合した導電性ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では吸水による物性変化、酸、高温のアルコール、熱水中での劣化などの問題点も指摘されており、より寸法安定性、耐薬品性に優れたポリアミドへの要求が高まっている。
【0003】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献1)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0004】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0005】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていない。また、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている(特許文献2)。この場合も強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
【0006】
また、ポリアミド樹脂を用いた部品の用途では、帯電防止などの目的で導電性に対する要求がある(たとえば、特許文献3)。
一方、ケーブルハウジングは、ケーブルとの摩擦があることから、それに用いるポリアミド樹脂は、導電性のみならず、より磨耗の少ないものが求められている。
【0007】
特許文献4には、ジカルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを特定の比率で用いたポリアミド樹脂(PA92C)の開示がある。
以上の先行文献においては、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミン及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミンの2種のジアミンを特定の比率で用いたポリオキサミド樹脂の具体的な開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−57033号公報
【特許文献2】特表平5−506466号公報
【特許文献3】特許3036666号
【特許文献4】WO2008/072754
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、低吸水性でありながら、十分な高分子量化が達成され、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く、溶融成形性に優れ、さらに、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、耐薬品性、耐加水分解性などに優れた導電性ポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ジカルボン酸成分が蓚酸を含み、ジアミン成分が1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンとを含み、かつ1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が99:1〜50:50であるポリアミド樹脂が、直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来のポリアミドに比較して耐加水分解性などにも優れるポリアミド樹脂組成物が得られるのみならず、この新規なポリアミド樹脂は、PA92Cと比べて、融点がより高く、曲げ弾性率、荷重たわみ温度などの力学的特性がより優れ、コスト的にも有利でありながら、溶融温度幅の減少は許容範囲内であり、低吸水性は実質的に失われないという特長を有すること、さらにこの新規なポリアミド樹脂に導電性付与剤を配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ポリアミド樹脂(成分A)と、導電性付与剤(成分B)とを含む導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記成分Aが、ジカルボン酸由来の単位とジアミン由来の単位とが結合してなり、
前記ジカルボン酸が蓚酸(化合物a)を含み、
前記ジアミンが1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を含み、
前記化合物bと前記化合物cのモル比が99:1〜50:50であるであることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物、及びその成形体である。
また、本発明は、成分A及び成分Bに加えて、さらに、衝撃改良材(成分C)を含む、上記の導電性ポリアミド樹脂組成物及びその成形体、特にケーブルハウジングである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、低吸水性でありながら、溶融重合による高分子量化が可能であり、成形可能温度幅が25℃以上と広く、さらには60℃以上と広いことが可能であり、溶融成形性に優れ、かつ導電性に優れ、さらに耐薬品性、耐加水分解性にも優れており、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として広範に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の耐熱剤含有樹脂組成物は、低吸水性でありながら、融点と熱分解温度の差から見積もられる成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、更に耐熱性にも優れるため、産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料、中でも、耐熱性が要求される各種自動車部材、電気・電子部材などの用途における成形材料として広範に使用することができる。
【0014】
以下、本発明に関して、詳細に説明する。
[ポリアミド樹脂(成分A)]
(1)成分Aの構成
本発明におけるポリアミド樹脂である成分Aは、
ジカルボン酸成分が蓚酸であり、ジアミン成分が1,6−ヘキサンジアミン及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミンからなる、即ち、
ジカルボン酸由来の単位とジアミン由来の単位とが結合してなるポリアミド樹脂であって、
前記ジカルボン酸が蓚酸(化合物a)を含み、
前記ジアミンが1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を含み、
前記化合物bと前記化合物cのモル比が99:1〜50:50であり、
好ましくは、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlの前記成分Aの溶液を用いて25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0である。
【0015】
成分Aは、化合物a、b及びcを用いて、好ましくはこれらの混合物を用いて重縮合することで、高分子量で、高融点で、融点と熱分解温度の差が大きく溶融成形性に優れ、さらに直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性を損なうことなく、従来のポリアミドに比較して耐薬品性、耐加水分解性ならびに燃料バリア性に優れる。
【0016】
成分Aは、耐薬品性、耐加水分解性及び燃料バリア性を確保する観点から、化合物bと化合物cのモル比は、
好ましくは、99:1〜55:45モル%であり、
より好ましくは、99:1〜60:40モル%である。
なお、以下、化合物b及び化合物cのモル比は、成分A中の化合物b由来の単位と化合物c由来の単位のモル比も意味する。
【0017】
(2)化合物a、b及びc
成分Aの製造で、化合物a(蓚酸)を直接原料として使用すると、化合物a(蓚酸)そのものは熱分解してしまい、成分Aの融点がその熱分解温度を超えることから、製造時には蓚酸源化合物(以下、蓚酸源ともいう)を用い、蓚酸源由来の蓚酸とジアミンとを重縮合して得る。この蓚酸は、蓚酸ジエステル等の蓚酸源由来のものであり、これらはアミノ基との反応性を有するものであればよい。
蓚酸源として、重縮合反応における副反応を抑制する観点から蓚酸ジエステルが好ましく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルがさらに好ましく、
その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルがさらに好ましく、
蓚酸ジブチルがさらに好ましい。
【0018】
(2)成分Aの相対粘度
成分Aは、
カルボン酸成分として化合物aである蓚酸を用い、
ジアミン成分として、化合物bである1,6−ヘキサンジアミンと、化合物cである2−メチル−1,5−ペンタンジアミンを重縮合することで、融点が好ましくは200〜330℃の範囲にすることができ、融点が330℃を超える化合物aと化合物bとを重縮合して得られるポリアミド樹脂(以下、比較成分A2ともいう)に比べ、後述する成分Aの後重合工程での溶融重合において、副反応が起こり高分子量化を阻害するような過度の高温条件にする必要がないため、高分子量化(相対粘度を増加させること)が可能である。
従って、成分Aは、従来のポリアミド樹脂に比べて相対粘度を増大できるので、優れた溶融成形性を有する。
溶融成形後の成形物が脆くなり物性が低下する傾向を避けることと、溶融成形時の溶融粘度が高くなり成形加工性が悪くなる傾向を避ける観点と、相対粘度ηrと溶融粘度が一定以上に高く、過度に高くないことが好ましいとされる自動車部材や電気・電子部品のような用途に好適であるという観点から、成分Aの濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrは、
好ましくは1.8〜6.0であり、
より好ましくは1.8〜4.5であり、
より好ましくは1.8〜3.0であり、
更に好ましくは1.85〜2.5、
更に好ましくは1.85〜2.2であるようにすることができる。
なお、後述する成分Aの後重合工程での溶融重合において、減圧度を上げることで、相対粘度ηrを増大することができる。
【0019】
また、同様の観点から、成分Aの溶融粘度は、
好ましくは100〜700Pa・s、
より好ましくは110〜600Pa・s、
更に好ましくは120〜500Pa・s、
更に好ましくは130〜400Pa・s、
更に好ましくは150〜300Pa・s、
更に好ましくは160〜220Pa・s、
更に好ましくは170〜200Pa・sであり、
【0020】
さらに、同様の観点から、成分Aの数平均分子量は、
好ましくは10000〜50000であり、
より好ましくは11000〜40000であり、
更に好ましくは11000〜35000である。
【0021】
数平均分子量(Mn)は、1H−NMRスペクトルから求めたシグナル強度をもとに、例えば、蓚酸源として蓚酸ジブチル、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を90:10のモル%比で用いて製造したポリアミド〔以下、PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)と略称する〕の場合は下式により算出した。
Mn=np×170.21+n(NH)×115.20+n(OBu)×129.13+n(NHCHO)×29.14
なお、1H−NMRの測定条件は以下の通りである。
・使用機種:ブルカー・バイオスピン社製 AVANCE500
・溶媒:重硫酸
・積算回数:1024回
また、前記式中の各項は以下のように規定される。
・np=Np/[(N(NH)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NH
=N(NH)/[(N(NH)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(NHCHO)
=N(NHCHO)/[(N(NH)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・n(OBu)
=N(OBu)/[(N(NH)+N(NHCHO)+N(OBu))/2]
・Np=Sp/sp−N(NHCHO)
・N(NH2)=S(NH)/s(NH
・N(NHCHO)=S(NHCHO)/s(NHCHO)
・N(OBu)=S(OBu)/s(OBu)
但し、各項は以下の意味を有する。
・Np:PA62(化合物B/化合物C=90/10)の末端ユニットを除いた、分子鎖中の繰り返しユニット総数。
・np:分子1本当たりの分子鎖中の繰り返しユニット数。
・Sp:PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端を除いた、分子鎖中の繰り返しユニット中のオキサミド基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(3.1ppm付近)の積分値。
・sp:積分値Spにカウントされる水素数(4個)。
・N(NH2):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端アミノ基の総数。
・n(NH2):分子1本当たりの末端アミノ基の数。
・S(NH2):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端アミノ基に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(2.6ppm付近)の積分値。
・s(NH2):積分値S(NH)にカウントされる水素数(2個)。
・N(NHCHO):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端ホルムアミド基の総数。
・n(NHCHO):分子1本当たりの末端ホルムアミド基の数。
・S(NHCHO):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)のホルムアミド基のプロトンに基づくシグナル(7.8ppm)の積分値。
・s(NHCHO):積分値S(NHCHO)にカウントされる水素数(1個)。
・N(OBu):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端ブトキシ基の総数。
・n(OBu):分子1本当たりの末端ブトキシ基の数。
・S(OBu):PX6−2(化合物b/化合物c=90/10)の末端ブトキシ基の酸素原子に隣接するメチレン基のプロトンに基づくシグナル(4.1ppm付近)の積分値。
・s(OBu):積分値S(OBu)にカウントされる水素数(2個)。
【0022】
(3)成分Aの物性
成分Aは、さらに、化合物b及びcの重縮合比率を変更することで、
温度差(Td−Tm)を、比較成分A2に比べて大きく、化合物aと化合物cとを重縮合して得られるポリアミド樹脂(以下、比較成分A1ともいう)に比べて小さく、
融点Tmを、比較成分A2に比べて低く、比較成分A1に比べて高く、
1%重量減少温度Tdを、比較成分A1に比べて高く、
飽和吸水率を、比較成分A2に比べて小さく、比較成分A1に比べて大きくすることができる。
【0023】
即ち、成分Aは、従来のポリオキサミド樹脂と比較して、
相対粘度ηr(高分子量化)、
温度差(Td−Tm)から見積もられる成形可能温度幅、
融点Tmから見積もられる耐熱性、
溶融粘度から見積もられる溶融成形性、及び
低吸水性のいずれをも十分に確保することができる。
【0024】
成分Aは、成形可能温度幅、耐熱性、溶融成形性及び低吸水性のいずれをも十分に確保した上で、化合物bの重合比率(モル比)の高さに由来する耐薬品性、耐加水分解性及び燃料バリア性に特に優れる。
【0025】
成分Aは、成形可能温度幅、耐熱性、溶融成形性及び低吸水性のいずれをも十分に確保する観点から、
Tmは、好ましくは260〜330℃であり、より好ましくは265〜330℃であり、
Tdは、好ましくは341〜370℃、より好ましくは345〜370℃、更に好ましくは350〜365℃であり、
温度差(Td−Tm)は、好ましくは10〜95℃、より好ましくは20〜95℃、更に好ましくは25〜95℃であり、
飽和吸水率は、好ましくは0〜2.4、より好ましくは1〜2.4、更に好ましくは2〜2.4、更に好ましくは2.3〜2.4である。
【0026】
(4)成分Aの製造
成分Aは、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができるが、高分子量化および生産性の観点から、
好ましくは、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることであり、
より好ましくは、ジアミン及び蓚酸ジエステルを前重縮合工程と後重縮合工程からなる二段重合法もしくは、WO2008−072754公報記載の加圧重合法によって得ることである。
更に好ましい二段重合法及び加圧重合法としては、具体的には、以下の操作で示される。
【0027】
(4−1)二段重合法
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(化合物b及びc)及び化合物aの蓚酸源である蓚酸ジエステルを混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源成分が共に可溶な溶媒としては、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。
このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、高分子量化の観点から、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0028】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0029】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち好ましくは80〜150℃から、最終的に、
好ましくは295℃以上350℃以下、より好ましくは298℃以上345℃以下、更に好ましくは298℃以上340℃以下の温度範囲にまで到達させる。
昇温時間を含めて好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa〜13.3Paである。
【0030】
(4−2)加圧重合法
まずジアミンを耐圧容器内に入れ窒素置換した後、封圧下において反応温度まで昇温する。その後、反応温度において封圧状態を保ったまま蓚酸化合物を耐圧容器内に注入し、重縮合反応を開始させる。反応温度は、ジアミンと蓚酸化合物の反応によって生じるポリアミドが、スラリー状、もしくは溶液状態を維持でき、かつ熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、成分aの場合、上記反応温度は、150℃から250℃が好ましい。ここで、蓚酸ジブチルとジアミンの仕込み比は、蓚酸ジブチルのモル量/ジアミンの総モル量で、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
次に耐圧容器内を封圧状態に保ちながらポリアミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、成分aの場合、融点は245〜300℃であることから、250℃以上350℃以下、好ましくは255℃以上340℃以下、更に好ましくは260℃以上335℃以下に昇温する。所定温度に到達するまでの耐圧容器内の圧力は、およそ生成するアルコールの飽和蒸気圧から0.1MPa、好ましくは1MPaから0.2MPaに調整する。所定温度に到達後は、生成したアルコールを留去しながら放圧し、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa〜13.3MPaである。
【0031】
(6)成分Aにおけるジカルボン酸として使用できる成分
成分Aにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で化合物a以外の他のジカルボン酸成分を使用する事が出来る。
化合物a(蓚酸)以外の他のジカルボン酸成分としては、
マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、
また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、
さらに、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸
などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
他のジカルボン酸成分を使用する場合、その割合は、化合物a(蓚酸)に対して、25モル%以下であり、15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%(即ち、ジカルボン酸成分が化合物aだけからなること)がさらに好ましい。なお、化合物a(蓚酸)に対する他のジカルボン酸成分のモル比は、成分A中の、化合物a由来の単位と他のジカルボン酸成分由来の単位のモル比も意味する。
【0032】
成分Aにおいて、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物b及びc以外の他のジアミン成分を使用する事が出来る。
1,6−ヘキサンジアミン及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、
1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、
さらに、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、
さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミン、
などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
他のジアミン成分を使用する場合、その割合は、化合物b及びcに対して25モル%以下であり、15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%(即ち、ジアミン成分が化合物b及びcだけからなること)がさらに好ましい。なお、化合物b及びcに対する他のジアミン成分のモル比は、成分A中の、化合物b及びc由来の単位と他のジアミン成分由来の単位のモル比も意味する。
【0033】
[導電性付与剤(成分B)]
本発明に用いる導電性付与剤(成分B)は、特に限定されず、ポリアミド樹脂に配合して導電性を付与できるものであればよい。
導電性付与剤としては、導電性を付与できればよく、限定されないが、カーボンブラック、炭素繊維及び/又は金属繊維が好ましく、カーボンブラック及び/又は炭素繊維がより好ましい。導電性付与剤の量は、ポリアミド樹脂全体100質量部に対して、2〜150質量部が好ましく、2〜100質量部が好ましく、2〜50質量部がより好ましい。
【0034】
本発明で用いることができるカーボンブラックとしては、導電性付与に一般的に使用されているカーボンブラックがすべて包含され、好ましいカーボンブラックとしては、アセチレンガスを不完全燃焼して得られるアセチレンブラックや、原油を原料にファーネス式不完全燃焼によって製造されるケッチェンブラック、オイルブラック、ナフタリンブラック、サーマルブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、ロールブラック、ディスクブラック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でもアセチレンブラック及び/又はファーネスブラック(ケッチェンブラック)が好適に用いられる。
【0035】
カーボンブラックは、その粒子径、表面積、DBP吸油量、灰分等の特性の異なる種々のカーボン粉末が製造されている。該カーボンブラックの特性に制限は無いが、良好な鎖状構造を有し、凝集密度の大きいものが好ましい。カーボンブラックの多量配合は耐衝撃性の面で好ましくなく、より少量で優れた電気伝導度を得る観点から、平均粒径は500nm以下であることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましく、10〜70nmであることがさらに好ましく、また表面積(BET法)は10m/g以上であることが好ましく、300m/g以上であることがより好ましく、500〜1500m/gであることがさらに好ましく、更にDBP(ジブチルフタレート)吸油量は50ml/100g以上であることが好ましく、100ml/100gであることがより好ましく、300ml/100g以上であることがさらに好ましい。また、カーボンブラックの灰分は0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましい。ここでいうDBP吸油量は、ASTM D−2414に定められた方法で測定した値である。また、カーボンブラックは、揮発分含量が1.0質量%未満であることがより好ましい。
【0036】
カーボンブラックの配合割合は、ポリアミド樹脂全体100質量部に対して、2〜50質量部が好ましい。カーボンブラックの配合割合が2質量部未満になると十分な導電性が得られないため好ましくなく、配合割合が50質量部を超えると、溶融粘性が高く流動性が低下し成型加工性が著しく損なわれるため好ましくない。2〜15質量部が好ましい。また、カーボンブラックは、ポリアミド樹脂組成物全体に対して、2〜40質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、2〜15質量%がさらに好ましく、3〜15質量%が特に好ましい。
【0037】
炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系などの炭素繊維が制限なく用いられるが、物性・導電性などの性能からPAN系の炭素繊維のほうが好ましい。
【0038】
炭素繊維長は、用途により短繊維のもののほか、1000mmに及ぶ長繊維でもよいが、混練前の繊維長が0.1〜12mmのものが好ましく、1〜8mmのものが特に好ましい。
【0039】
また、炭素繊維の繊維径は、5〜15μmのものが好ましいが、微細炭素繊維も用いることができる。
【0040】
炭素繊維の配合割合は、ポリアミド樹脂全体100質量部に対して、2〜40質量部が好ましい。配合割合が40質量部を超えると、剛性が高く耐衝撃性が劣るとともに、成形品表面の平滑性が悪く摺動性が低下するおそれがある。炭素繊維の配合割合は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がさらに好ましい。配合割合が少ないと、導電性が低下し静電気を帯び易くなり、ホコリや粉塵が付着し精密製品に不具合を生じる恐れがある。
炭素繊維の配合割合は、樹脂組成物全体に対して、2〜40質量%が好ましく、2〜35質量%がより好ましく、2〜15質量%がさらに好ましく、2〜10質量%が特に好ましい。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物に求められる導電性は、用途に応じて異なってよく、特に限定されない。ポリアミド樹脂の導電率は、1015Ωcm程度である。導電性付与剤を配合することで、たとえば、1012〜10Ωcm程度あるいはそれ以下にすることができるが、用途に応じて、ポリアミド樹脂製品に求められる物性と帯電防止の目的のバランスから決定すればよい。一般的には10〜10Ωcm程度の導電性は1つの好ましい範囲であると考えられる。
【0042】
[衝撃改良材(成分C)]
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、さらに、衝撃改良材(成分C)を含むことができる。衝撃改良材(成分C)は、ポリアミド樹脂(成分A)の耐衝撃性を改良する成分である。衝撃改良剤の量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、5〜100質量が好ましい。また、ポリアミド樹脂組成物中、10〜20質量%が好ましい。
衝撃改良材(成分C)としては、ポリアミド樹脂(成分A)の耐衝撃性を改良するものであれば特に制限されないが、例えば、エラストマーを挙げることができる。当該エラストマーとしては、ASTM D−790に準拠して測定した曲げ弾性率が500MPa以下であることが好ましい。曲げ弾性率がこの値を超えると、衝撃改良効果が不十分となる場合がある。
【0043】
衝撃改良材(成分C)としては、酸変性ポリエチレン、(エチレン及び/又はプロピレン)・α−オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマ−重合体及び芳香族ビニル化合物・共役ジエン化合物系ブロック共重合体からなる群より選定される1種以上が好ましく、酸変性ポリエチレン、(エチレン及び/又はプロピレン)・α−オレフィン系共重合体及び(エチレン及び/又はプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体からなる群より選定される1種以上がより好ましい。
【0044】
酸変性ポリエチレンとしては、エチレン共重合体を酸無水物で変性して得られた酸変性エチレン共重合体などが挙げられる。ケーブルハウジング形成用に特に好ましいのは、密度0.89〜0.94g/ccのエチレン共重合体を酸無水物で変性して得られた酸変性エチレン共重合体である。
【0045】
上記の(エチレン及び/又はプロピレン)・α−オレフィン系共重合体とは、エチレン及び/又はプロピレンと炭素数3以上のα−オレフィンを共重合した重合体であり、炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセン及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
また、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,5−オクタジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、4−エチリデン−8−メチル−1,7−ノナジエン、4,8−ジメチル−1,4,8−デカトリエン(DMDT)、ジシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペンル−2−ノルボルネン、2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−エチリデン−3−イソプロピリデン−5−ノルボルネン、2−プロペニル−2,2−ノルボルナジエンなどの非共役ジエンのポリエンを共重合してもよい。
【0047】
上記の(エチレン及び/又はプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体とは、エチレン及び/又はプロピレンとα,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル単量体を共重合した重合体であり、α,β−不飽和カルボン酸単量体とはしては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられ、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体としては、これら不飽和カルボン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
上記のアイオノマ−重合体とは、オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部が金属イオンの中和によりイオン化されたものである。オレフィンとしてはエチレンが好ましく用いられ、α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸が好ましく用いられるが、ここに例示したものに限定されるものではなく、不飽和カルボン酸エステル単量体が共重合されていても構わない。また、金属イオンはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の他、Al、Sn、Sb、Ti、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Cd等を挙げることできる。
【0049】
また、芳香族ビニル化合物・共役ジエン化合物系ブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックからなるブロック共重合体であり、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックを少なくとも1個と、共役ジエン系重合体ブロックを少なくとも1個有するブロック共重合体が用いられる。また、上記のブロック共重合体では、共役ジエン系重合体ブロックにおける不飽和結合が水素添加されていてもよい。
【0050】
芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位から主としてなる重合体ブロックである。その場合の芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンなどを挙げることができ、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは前記した単量体の1種又は2種以上からなる構造単位を有していることができる。また、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックは、場合により少量の他の不飽和単量体からなる構造単位を有していてもよい。
【0051】
共役ジエン系重合体ブロックは、1,3−ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどの共役ジエン系化合物の1種又は2種以上から形成された重合体ブロックであり、水素添加した芳香族ビニル化合物/共役ジエンブロック共重合体では、その共役ジエン系重合体ブロックにおける不飽和結合部分の一部又は全部が水素添加により飽和結合になっている。ここで共役ジエンを主体とする重合体ブロック中の分布は、ランダム、テーパー、一部ブロック状又はこれら任意の組み合わせであってもよい。
【0052】
芳香族ビニル化合物/共役ジエンブロック共重合体及びその水素添加物の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状、又はそれら任意の組み合わせのいずれであってもよい。そのうちでも、本発明では芳香族ビニル化合物/共役ジエンブロック共重合体及び/又はその水素添加物として、1個の芳香族ビニル化合物重合体ブロックと1個の共役ジエン重合体ブロックが直鎖状に結合したジブロック共重合体、芳香族ビニル化合物重合体ブロック−共役ジエン重合体ブロック−芳香族ビニル化合物重合体ブロックの順に3つの重合体ブロックが直鎖状に結合しているトリブロック共重合体、及びそれらの水素添加物の1種又は2種以上が好ましく用いられ、未水添又は水添スチレン/ブタジエン共重合体、未水添又は水添スチレン/イソプレン共重合体未水添又は水添スチレン/イソプレン/スチレン共重合体、未水添又は水添スチレン/ブタジエン/スチレン共重合体、未水添又は水添スチレン/(イソプレン/ブタジエン)/スチレン共重合体などが挙げられる。
【0053】
また、衝撃改良材(成分C)として用いられる(エチレン及び/又はプロピレン)・α−オレフィン系共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)・(α,β−不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)系共重合体、アイオノマ−重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体は、カルボン酸及び/又はその誘導体で変性された重合体が好ましく使用される。このような成分により変性することにより、ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基をその分子中に含むこととなる。
【0054】
ポリアミド樹脂に対して親和性を有する官能基としては、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、カルボン酸金属塩基、カルボン酸イミド基、カルボン酸アミド基、エポキシ基などが挙げられる。これらの官能基を含む化合物の例として、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンドビシクロ[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸及びこれらカルボン酸の金属塩、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどが挙げられる。
これらの中でも、成分Cは、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性エチレン・ブタジエン共重合体が好ましい。
【0055】
[その他の配合できる成分]
本発明のポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類を混合することが可能である。
【0056】
更に、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマーなども同様に配合することができる。しかし、本発明に用いるポリアミド樹脂は樹脂成分全体の50質量%以上含まれることが好ましい。
【0057】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、導電性付与剤(成分B)以外の補強繊維を配合してもよい。配合する補強繊維は、格別に限定されないが、ガラス繊維、鉱物繊維などの無機繊維、ポリアミド樹脂より強靭なアラミド繊維などの有機繊維を挙げることができる。補強繊維を配合することで、組成物の強度、耐クリープ性などの物性が改良される。特にガラス繊維が好ましい。
【0058】
ガラス繊維は、特に制限されない。ガラス繊維径も限定されないが、5〜15μmのものが好ましい。繊維長は、用途により短繊維のもののほか、長繊維でもよいが、5〜1000μmが好ましい。ガラス繊維は、ブレンドや加工により破砕される場合があるが、破砕されたガラス繊維が前記の繊維長範囲を有するのが好ましい。
【0059】
ガラス繊維の配合割合は、本発明の効果を損なわない範囲であり、用途等により適宜選択される。
【0060】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には必要に応じて、フィラー、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、可塑剤、潤滑剤、分散助剤などを重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0061】
[ポリアミド樹脂組成物の成形加工]
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、ポリアミド樹脂と導電性付与剤及び衝撃改良材等の任意成分を予めブレンドし、あるいは成形機の途中で導電性付与剤及び任意成分を投入するような、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミド樹脂組成物に適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0062】
[ポリアミド成形物の用途]
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物を用いた成形物は、従来ポリアミド樹脂組成物の成形物が用いられてきた各種成形品、シート、フィルム、パイプ、チューブ、モノフィラメント、繊維、容器等として自動車部材、コンピューター及び関連機器、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途に使用できる。とりわけ、自動車、電気・電子機器などの用途に有用である。
【0063】
[ケーブルハウジング]
成形体の具体例として、導電性ケーブルハウジングが挙げられる。以下、これについて説明する。本発明のケーブルハウジング用のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(成分A)、導電性付与剤(成分B)、及び衝撃改良材(成分C)を含有する。このポリアミド組成物は、前記したその他の成分を含むことができる。
【0064】
ケーブルハウジング用のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(成分A)65〜75質量%、導電性付与剤(成分B)として炭素繊維3〜15質量%及びカーボンブラック2〜10質量%、並びに衝撃改良材(成分C)10〜20質量%から実質的になるのが特に好ましい。
【0065】
[ケーブルハウジング用のポリアミド樹脂組成物及びケーブルハウジングの製造]
ケーブルハウジング製造用に用いられるポリアミド樹脂組成物の製造方法は特定の方法に限定されないが、具体的かつ効率的な例として原料の混合物を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロ−ルなど通常公知の溶融混合機に供給して混練する方法などを例として挙げることができる。また、原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練しさらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは二軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0066】
ポリアミド樹脂組成物からケーブルハウジングを成形する方法については特に制限はなく、射出成形機を用いて、ポリアミド樹脂組成物を射出成形するか、プレス成形機を用いてプレス成形することができる。
【0067】
本発明のケーブルハウジングは、ポリアミド樹脂に、炭素繊維及び/又はカーボンブラックなどの導電性付与剤、酸変性エチレン共重合体などの衝撃改良材を配合してなるポリアミド樹脂組成物を用いることにより、摺動性、機械的強度、導電性に優れるとともに、低吸水性、成形加工性、耐薬品性等に優れる。
【実施例】
【0068】
[物性測定、成形、評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
なお、実施例中の測定は以下の方法により行った。
【0069】
(1)相対粘度(ηr):
ηrはポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を使用してオストワルド型粘度計を用いて25℃で測定した。
【0070】
(2)融点(Tm):
Tmは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。
製造例1〜2、比較製造例1のTmは、30℃から350℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、350℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に350℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。
製造例3〜5、ナイロン6とナイロン66のTmは、30℃から310℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、310℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に310℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。
昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0071】
(3)1%重量減少温度(Td):
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
【0072】
(4)溶融粘度:
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESに25mmのコーン・プレートを装着して、窒素中、300℃(製造例3〜5)、340℃(製造例1〜2、比較製造例1)、ナイロン6を用いた場合は260℃、ナイロン66を用いた場合は290℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0073】
(5)フィルム成形:
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いてフィルム成形を行った。500〜700Paの減圧雰囲気下300℃(製造例3〜5)、340℃(製造例1〜2、比較製造例1)、ナイロン6を用いた場合は260℃、ナイロン66を用いた場合は290℃で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0074】
(6)吸水率(飽和吸水率、平衡吸水率):
ポリアミド樹脂を(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;重量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの重量を測定した。フィルム重量の増加率が0.2%以内の範囲で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの重量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの重量(Yg)から式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率(%)=100(Y−X)/X (1)
なお、上記フィルムの成形直後の重量(Xg)と上記フィルムを成形後に湿度65%、温度23℃で平衡に達したときの重量(Yg)から式(1)により算出した吸水率(平衡吸水率)をウェットでの吸水率として表中に記載した。
【0075】
(7)耐薬品性:
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムを以下に列挙する薬品中に7日間浸漬した後に、フィルムの重量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、30%NaOH水溶液、5%K2MnO4のそれぞれの溶液においては23℃、ベンジルアルコールでは50℃において浸漬した試料について試験を行った。
【0076】
(8)耐加水分解性:
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムをオートクレーブに入れ、水(pH=7)、0.5mol/l硫酸(pH=1)、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)中でそれぞれ121℃、60分間処理した後の重量残存率(%)、及び外観変化を調べた。
【0077】
(9)機械的物性:
以下に示す〔1〕〜〔4〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度300℃(製造例3〜5、実施例10〜13)、340℃(製造例1〜2、実施例1〜9と14〜15)、ナイロン6を用いた場合は260℃、ナイロン66を用いた場合は290℃、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。成形後直ちに調湿せずに23℃で評価したものをドライ、成形後に湿度65%、温度23℃で調湿した後に23℃で評価したものをウェットとして表中に記載した
〔1〕 引張試験(引張強度):ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
〔2〕 曲げ試験(曲げ弾性率):試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し、23℃で測定した。
〔3〕 アイゾット衝撃強度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
〔4〕 荷重たわみ温度:試験片寸法127mm×12.7mm×3.2mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0078】
(10)耐塩化カルシウム性:
(5)の条件で成形したフィルムを、23℃の飽和塩化カルシウム水溶液に浸漬した。
一日後、フィルムの外観を目視で観察し、クラックの有無を評価した。
【0079】
(11)耐酸化ガソリン性:
600mlのトルエンと600mlのイソオクタンの混合溶液に0.1gのターシャルブチルパーオキサイドと0.01gのステアリン酸銅を加えた酸化ガソリン溶液を60℃とし、その中に30本の引張試験用試験片を浸漬し、一週間毎に溶液を替え、30日間の物性(引張強度)及び体積固有抵抗値の変化を測定した。
(12)体積固有抵抗:
ASTM D−638に記載のTypeIの試験片を用いて、ASTM D−257に準拠して測定した。酸化処理ガソリン処理後の体積固有抵抗は、(11)で調整した酸化ガソリン溶液を60℃とし、その中に試験片を72時間浸漬した後、測定した。
(13)引張破断点伸び:
ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。
(14)磨耗量
株式会社オリエンテック製摩擦摩耗試験機EFM-III-ENを使用し、リングオンプレート方式(プレート寸法:幅30mm、厚み3mm、長さ100mm、プレート材質:S45C、リングはプレートと同材)で以下の条件で評価した。
荷重:0.5MPa、周速:50cm/sec、時間8hr
【0080】
[製造例1:ポリアミド樹脂(A):PX6−1]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が約150リットルの圧力容器に1,6−ヘキサンジアミン15.407kg(132.58モル)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミンYYY811.1g(6.98モル)の混合物(1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が95:5)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を80℃にした後、シュウ酸ジブチル28.230kg(139.56モル)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、2時間かけて温度を330℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.75MPaに調節した。重縮合物の温度が330℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.1MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=1.95であった。
【0081】
[製造例2:ポリアミド樹脂(A):PX6−2]
1,6−ヘキンジアミン14.717kg(126.64モル)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン1.635kg(14.07モル)の混合物(1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が90:10)を仕込み、シュウ酸ジブチル28.462kg(140.71モル)を仕込んだほかは、製造例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーで、ηr=2.05であった。
【0082】
[製造例3:ポリアミド樹脂(A):PX6−3]
1,6−ヘキサンジアミ12.16kg(104.64モル)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン5.212kg(44.85モル)の混合物(1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が70:30)を仕込み、シュウ酸ジブチル30.238kg(149.49モル)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1.5時間かけて温度を290℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が290℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を310℃にし、310℃において1.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.1MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=2.40であった。
【0083】
[製造例4:ポリアミド樹脂(A):PX6−4]
1,6−ヘキサンジアミン10.294kg(88.583モル)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン6.863kg(59.057モル)の混合物(1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が60:40)を仕込み、シュウ酸ジブチル29.864kg(147.64モル)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1.5時間かけて温度を275℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が270℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を290℃にし、290℃において2時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.1MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=2.68であった。
【0084】
[製造例5:ポリアミド樹脂(A):PX6−5]
1,6−ヘキサンジアミン8.361kg(71.947モル)と2−メチル−1,5−ペンタンジアミン8.361kg(71.947モル)の混合物(1,6−ヘキサンジアミンと2−メチル−1,5−ペンタンジアミンのモル比が50:50)を仕込み、シュウ酸ジブチル29.107kg(143.89モル)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1.5時間かけて温度を260℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が260℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を275℃にし、275℃において3時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.1MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=2.61であった。
【0085】
[比較製造例1:ポリアミド樹脂:PX6−6]
(i)前重縮合工程:撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が1Lのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、脱水済みトルエン500ml、1,6−ヘキサンジアミン58.7209g(0.5053モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、シュウ酸ジブチル102.1956g(0.5053モル)を仕込んだ。次にオイルバスの温度を130℃まで昇温し、還流下、5時間反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は50ml/分の窒素気流下で行った。
【0086】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後、50ml/分の窒素気流下290℃に保った塩浴に移し、直ちに昇温を開始した。1時間かけて塩浴の温度を340℃とした後、容器内を約66.5Paまで減圧し、さらに2時間反応させた。
続いて常圧まで窒素ガスを導入したのち、塩浴から取り出し50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却してポリアミド樹脂を得た。得られたポリマーは黄色のポリマーであり、ηr=1.65であった。
【0087】
製造例1〜5、比較製造例1で製造したポリアミドPX6−1〜PX6−6、並びにナイロン6(宇部興産製、UBEナイロン1015B:PA6)及びナイロン66(宇部興産製、UBEナイロン2020B:PA66)について、相対粘度、融点、1%重量減少温度、溶融粘度、飽和吸水率、耐薬品性、耐加水分解性、ドライ及びウェットにおける機械的特性を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
[実施例1〜15、比較例1〜2]
製造例1〜5で製造したポリアミドPX6−1〜PX6−5、並びに市販のナイロン6(宇部興産製UBEナイロン1015B;PA6)及びナイロン66(宇部興産製UBEナイロン2020B;PA66)と、カーボンブラック(エボニック デグサ ジャパン株式会社とHIBLACK 890B)、炭素繊維(東邦テナックス(株)ベスファイトHTA−C6NR(繊維径7μm)、黄銅繊維(繊維径80μm)、ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインテーナショナル製EC600JD)を用いて、表2に示した割合の混合物を作成した。
【0090】
さらに、それらの混合物をシリンダー径40mmの二軸混練機を用い、実施例1〜9と14〜15ではシリンダー設定温度340℃、実施例10〜13では300℃(ナイロン6を用いた場合は260℃、PA66では290℃)で溶融混練して、ストランド状に押出、水槽で冷却した後ペレタイザーを用いペレットを作成しポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、PX6−6を使用したポリアミド樹脂組成物は、Td−Tmが小さいため溶融混練できず、成形もできなかった。
得られたペレットから射出成形により各種の試験片を作成した。
【0091】
上記で得られた試験片を用いて、体積固有抵抗値、機械的特性、耐燃料性などを評価した。その評価結果を表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
[実施例16〜20、比較例3]
表3に示す組成で、池貝鉄工(株)製2軸混練機PCM−45にて、実施例16〜17ではシリンダー設定温度340℃、実施例18〜20では300℃(PA6においては260℃)、回転速度150rpmで溶融混練し、実施例16〜17では樹脂温度340℃、実施例18〜20では300℃(PA6においては260℃)、金型温度80℃の射出成形により成形して得た試験片を用い、上述の方法で表3中に示す評価を行った。衝撃改良材として使用したU−BOND Z488は、宇部丸善ポリエチレン社製の酸変性ポリエチレンであり、タフマーMC1307は、三井化学社製のポリオレフィン系のエラストマーであり、タフマーMH5010は、三井化学社製の酸変性エチレン・ブタジエン共重合体である。
【0094】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の導電性ポリアミド樹脂組成物は、導電性を有し、かつ、低吸水性、耐薬品性、柔軟性、耐加水分解性などに優れ、溶融成形加工性に優れたものである。産業資材、工業材料、家庭用品などの成形材料として好適に使用することができる。たとえば、各種射出成形品として自動車部材、光学機器部材、電気・電子機器、情報・通信関連機器、精密機器、土木・建築用品、医療用品、家庭用品など広範な用途、特にケーブルハウジングに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(成分A)と、導電性付与剤(成分B)とを含む導電性ポリアミド樹脂組成物であって、前記成分Aが、ジカルボン酸由来の単位とジアミン由来の単位とが結合してなり、
前記ジカルボン酸が蓚酸(化合物a)を含み、
前記ジアミンが1,6−ヘキサンジアミン(化合物b)及び2−メチル−1,5−ペンタンジアミン(化合物c)を含み、
前記化合物bと前記化合物cのモル比が99:1〜50:50であるであることを特徴とする導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記導電性付与剤(成分B)が、カーボンブラック及び/又は炭素繊維である、請求項1に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、衝撃改良材(成分C)を含む、請求項1又は2に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ポリアミド樹脂組成物の成形体。

【公開番号】特開2013−95791(P2013−95791A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237721(P2011−237721)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】