説明

導電性ポリウレタン成形体の製造方法および導電性ロール

【課題】良好な導電性と成形性を両立することができ、あるいはこれに代えて、適度の成形性を確保しながら高い導電性を得ることができる導電性ポリウレタン成形体の製造方法および導電性ロールを提供する。
【解決手段】2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを60質量%以上含むイソシアネートおよびポリオールを主原料とし、少なくとも導電性付与剤を配合して反応、成形して導電性ポリウレタン成形体を得る。このとき、発泡剤を添加して反応して得られる導電性ポリウレタンフォームは、導電性ロールに好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリウレタン成形体の製造方法および導電性ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばファクシミリや複写機等のOA機器に用いられるロール部材は、トナーを電気的に吸着して搬送する等の用途に使用される。このため、ロール部材には、適度の導電性が求められる。また、ロール部材には、接触する相手部材を傷つけない程度の低い硬度が求められる。
このようなロール部材(以下、これを導電性ロールという。)の材料として、イソシアネートとポリオールを反応させて得られるポリウレタン成形体(導電性ポリウレタン成形体)が広く用いられる。
【0003】
この場合、イソシアネートとしてトリレンジイソシアネート(以下、TDIという。)を用いることがある。
しかしながら、TDIは、反応性が低いため生産性が低い。また、TDIは、成形を行う温度域において蒸気圧が高いため、高温下での作業が安全面や衛生面で好ましくなく、特定化学物質に指定されている。
【0004】
この不具合を避けるために、イソシアネートとしてTDIに代えてジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIという。)を用いる方法も種々提案されている。
この場合、複数存在する異性体(構造異性体)のうちの1つである4,4′−MDIを主成分とするMDIを用いることが多い。
しかしながら、4−4′MDIを主成分とするMDIを用いて得られる導電性ロールは、硬度が必ずしも十分に低いものではなく、また、電子機器の進展に伴って高度化するさらなる低硬度の要求に応えきれないという問題がある。また、TDIに代えてMDIを用いた場合、粘度が高くなることによって、成形性に影響を及ぼすことも指摘されている。
【0005】
これらの問題を改善するために、イソシアネートとしてMDIの異性体の混合物を用いる方法が提案されている。
例えば、低硬度化を図ることを目的として、イソシアネートとしてMDIの異性体の混合物を用いて電子写真用導電性弾性部材を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。具体的には、4,4′−MDI50mol%〜80mol%と2,4′−MDI20mol%〜50mol%を混合して用いることが好ましく、2,4′−MDIが20mol%未満では低硬度化が十分に図れず、2,4′−MDIが50mol%を超えると機械特性が低下し、表面にタック(べたつき)を生じる場合があるとされている。
また、この方法で得られる電子写真用導電性弾性部材について、ポリオール原料100質量部に対して導電性カーボンであるケッチェンブラックを1質量部配合したときの硬度が低いことは示されているが、導電性の程度については不明である。
【0006】
また、上記特許文献1とは視点が異なり、表面ソフト感覚、サポート性、耐久性、幅広い硬度および密度のポリウレタンスラブフォームを得るために、特定のイソシアネートおよびポリオールの配合条件の1つとして、2,4′−MDIを5質量%〜30質量%含有するMDIをイソシアネートの一部に用いる方法が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、この場合、得られるポリウレタンスラブフォームは、導電性カーボンであるケッチェンブラックの配合条件が示されていない。このため、イソシアネートの一部として2,4’−MDIを用いたときにケッチェンブラックの添加量がポリウレタンスラブフォームの特性に与える影響、言い換えれば2,4’−MDIとケッチェンブラックの添加量との関係については何ら開示されていないが、得られるポリウレタンスラブフォームの導電性は必ずしも高くないように思われる。
【0007】
また、TDIを用いた場合の問題点であった作業環境問題を改善するとともに、ポリウレタンフォームのさらなる物性向上を図るために、イソシアネートとしてMDIを用いるとともに、このとき、4,4′−MDI以外の異性体である2,4′−MDI、2,2′−MDIの総量をMDI全体の10質量%〜50質量%とすることが提案されている(特許文献3参照)。
しかしながら、この場合においても、導電性カーボンであるアセチレンブラックがポリオールの内数として3質量%〜6質量%配合される条件で、得られるポリウレタンフォームの導電性は必ずしも高くないように思われる。
【特許文献1】特開2001−51525号公報
【特許文献2】特開2001−2749号公報
【特許文献3】特開2004−292718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、イソシアネートとしてMDIの異性体の混合物を用いる特許文献1〜特許文献3の各技術は、いずれも、導電性のさらなる向上を直接の目的としたものではないこともあって、得られる電子写真用導電性弾性部材等の導電性が必ずしも良好ではなく、また、例えば導電性を確保するために導電性カーボンを多量に配合することによって、成形性が低下する不具合を生じているように思われる。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、良好な導電性と成形性を両立することができ、あるいはこれに代えて、適度の成形性を確保しながら高い導電性を得ることができる導電性ポリウレタン成形体の製造方法および導電性ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法は、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを60質量%以上含むイソシアネートおよびポリオールを主原料とし、少なくとも導電性付与剤を配合して反応、成形することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法は、好ましくは、さらに発泡剤を添加して反応することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法は、好ましくは、上記発泡剤が水であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る導電性ロールは、上記の製造方法で得られる導電性ポリウレタン成形体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法は、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを60質量%以上含むイソシアネートおよびポリオールを主原料とし、少なくとも導電性付与剤を配合して反応、成形するため、良好な導電性と成形性を両立することができ、あるいはこれに代えて、適度の成形性を確保しながら高い導電性を有する導電性ポリウレタン成形体を得ることができる。
また、本発明に係る導電性ロールは、上記の製造方法で得られる導電性ポリウレタン成形体を用いたものであるため、上記導電性ポリウレタン成形体の効果を好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法および導電性ロールの好適な実施の形態について、以下に説明する。
【0016】
本実施の形態に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法は、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、2,4′−MDIという。)を60質量%以上含むイソシアネートおよびポリオールを主原料とし、少なくとも導電性付与剤を配合して反応、成形するものである。
【0017】
ここで、上記主原料としてのイソシアネート(イソシアネート成分)は、2,4′−MDI以外の残余のイソシアネート成分を特に限定するものではない。すなわち、残余のイソシアネート成分として、例えば異性体である4,4′−MDIを用いることが好適であるが、これに限らず、本発明の目的を奏するものである限り、例えば、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートを用いてもよく、あるいはまた、トリレンジイソシアネートを適当量用いてもよく、さらにまた、他の各種ポリイソシアネートを適当量用いてもよい。また、残余のイソシアネート成分として、イソシアネートの変性体やプレポリマーを適当量用いてもよい。
【0018】
上記イソシアネートに含まれる2,4′−MDIの含有量は、60質量%以上であり、多ければ多いほど好ましい。但し、例えば異性体である2,2′−MDI等の不可避的な混入を考慮すると、上限は99.9質量%程度である。なお、望ましくは2,2′−MDIを極力取り除き、例えば0.5質量%以下程度とすることが、成形性の良好な成形体を得るうえで、より好ましい。
【0019】
また、上記主原料としてのポリオールについては、特に限定するものではなく、例えば、各種のポリエーテル系ポリオールやポリエステル系ポリオール等のなかから適宜選択して用いることができる。
【0020】
本実施の形態に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法において、上記の主原料のほかに、少なくとも導電性付与剤を副資材として配合し、得られる成形体に導電性を付与する。
使用する導電性付与剤の配合量は、成形体に所望の導電性を付与するのに必要な量であればよい。実施の形態において、例えばイソシアネート成分中の2,4′−MDIの含有量を50質量%以下とした従来の例と同程度の導電性を確保するためには、従来の例に比べて導電性付与剤の配合量を減少することができ、これにより、成形体製造時に反応粘度が低減され、成形性の良好な成形体を得ることができる。また、粘度上昇による成形性への影響を生じない範囲で導電性付与剤の配合量を増加することにより、従来の例に比べて高い導電性を成形体に付与することができる。
【0021】
配合する導電性付与剤は特に限定するものではなく、例えば、導電性カーボンやイオン導電剤等を用いることができ、また、これらは併用してもよい。
導電性カーボンは、高導電性を有するカーボンブラックであるケッチェンブラック、アセチレンブラック、その他のカーボンブラックを用いることができる。導電性への寄与を考慮すると、このなかでもより好ましいのはケッチェンブラックである。ケッチェンブラックを用いる場合、BET比表面積が200m/g以上、より好ましくは600m/g以上のものが好適である。
導電性カーボンは、高導電性を有するカーボンブラックであるケッチェンブラックを用いることが好適であるが、これに限らず、アセチレンブラックその他のカーボンブラックを用いることができる。
イオン導電剤は、イミドリチウム、特に本出願人の提案するカリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを用いることが好適である。その他の添加物として、フィラーとして金属酸化物を用いることもできる。
【0022】
本実施の形態に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法において、必要に応じて、上記導電性付与剤以外の副資材を適宜配合する。
【0023】
導電性ポリウレタン成形体として導電性ポリウレタンフォームを得る場合は、副資材として発泡剤を添加して反応する。この場合、発泡剤は、特に限定するものではなく、各種の物理的あるいは化学的発泡剤を用いることができるが、環境保護の観点からは、水発泡あるいは反応工程で機械撹拌する際に気体を反応液に混入するメカニカルフロス方式とすることが好ましい。
また、導電性ポリウレタン成形体に求められる特性や生産性に応じて、触媒、整泡剤、鎖延長剤、架橋剤、難燃剤、安定剤等の適宜の副資材を適宜の量配合することができる。
【0024】
本実施の形態に係る導電性ポリウレタン成形体の製造方法によって得られる導電性ポリウレタン成形体の用途は特に限定するものではないが、例えば、発泡品については、導電性ロール用途が好適であり、導電性と成形性のバランスに優れた、あるいは成形性を確保しつつ高い導電性を有する導電性ロールを得ることができる。
ここでいう導電性ロールは、例えば、電子写真装置に用いられる、トナー搬送用ロール、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、クリーニングロール等である。
【実施例】
【0025】
導電性ポリウレタンフォームを製造する実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0026】
(イソシアネート末端プレポリマーの合成)
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた、100L容量の反応器に、イソシアネート成分を仕込み、撹拌しながら80℃の温度で4時間反応させて、イソシアネート末端プレポリマーを得た。
このとき、2,4′−MDIの含有量が99質量%以上のMDIを21.25部、FA−103(公称官能基数3、数平均分子量3400、EO(エチレノキサイド)含量70%、三洋化成株式会社製)を6.20部、GL−600(公称官能基数3、数平均分子量600、EO含量20%、三洋化成株式会社製)を9.59部およびPL−2100(公称官能基数2、数平均分子量2000、EO含量10%、三洋化成株式会社製)を5.75部配合してプレポリマー1を得た。また、プレポリマー1の配合条件のうち4,4′−MDIの含有量が99質量%以上のMDIを21.25部とした以外はプレポリマー1と同様の条件で配合してプレポリマー2を、プレポリマー1の配合条件のうちFA−103を6.20部配合するのに代えてFA−103を3.07部およびGL−3000(公称官能基数3、数平均分子量3000、EO含量20%、三洋化成株式会社製)を3.07部配合とした以外はプレポリマー1と同様の条件で配合してプレポリマー3を、プレポリマー2の配合条件のうちFA−103を6.20部配合するのに代えてFA−103を3.07部およびGL−3000を3.07部配合とした以外はプレポリマー2と同様の条件で配合してプレポリマー4を、それぞれ得た。
【0027】
(ポリオールプレミックスの調製)
GL−3000を100部、TELA(トリエタノールアミン)を2.0部、水を0.3部、L−5309(シリコーン整泡剤、GE東芝シリコーン社製)を0.63部、NC−IM(KAOLIZER No.120、花王株式会社製)を1.26部および触媒(ToyocatT−ET、東ソー株式会社製)を0.31部容器に仕込み、撹拌、混合してポリオールプレミックスを得た。
【0028】
(導電性ポリウレタンフォームの製造)
上記プレポリマー1〜プレポリマー4のうちのいずれかのプレポリマーと上記ポリオールプレミックスに、さらに導電性付与剤として、ケッチェンブラック(カーボンECP ライオン株式会社製)、VXC−72R(キャボットジャパン株式会社製)およびアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業株式会社製)の3種のカーボンブラックならびにイミドリチウム(三光化学工業社製、サンコノールNEF268−20R)のうちから選ばれるいずれかの導電性付与剤を混合撹拌した後(INDEX:100)、混合液を金型に注型することにより、導電性ポリウレタンフォームのシート材を得た。
【0029】
得られた導電性ポリウレタンフォームのシート材について、以下の諸物性を測定し、あるいは評価した。
体積抵抗率(体積固有抵抗):JIS K 6911に基づき、測定器(アドヴァンテスト社製R8340)を用い、印加電圧250Vで測定した。なお、測定雰囲気は23℃、55RHとした。
密度:JIS K 6401に準じた。
硬度(アスカー硬度):アスカー硬度計Cタイプにより測定した。
反発弾性:JIS K 7312に準じて測定した。
外観(フォーム外観):目視にて外観を評価し、ひけ(肌荒れ)を生じたものを不良とし、そうでないものを良好とした。
【0030】
本発明の実施例および比較参考例の原料配合条件および諸物性の結果を表1〜表4にまとめて示す。なお、表1〜表4中、単位:部は、いずれも質量部である。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートを60質量%以上含むイソシアネートおよびポリオールを主原料とし、少なくとも導電性付与剤を配合して反応、成形することを特徴とする導電性ポリウレタン成形体の製造方法。
【請求項2】
さらに発泡剤を添加して反応することを特徴とする請求項1記載の導電性ポリウレタン成形体の製造方法。
【請求項3】
前記発泡剤が水であることを特徴とする請求項2記載の導電性ポリウレタン成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法で得られる導電性ポリウレタン成形体を用いることを特徴とする導電性ロール。

【公開番号】特開2008−179030(P2008−179030A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13392(P2007−13392)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】