説明

導電性基板の製造方法

【課題】基材へのダメージを回避し、かつ、特殊な設備を用いることなく、大面積で導電性を向上できる導電性基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に、銀粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有する銀ペーストを塗布または印刷して導電層を形成するステップ、前記導電層を硬化させるステップと、硬化した導電層を少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬するステップ、を含むことを特徴とする導電性基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ペーストを塗布または印刷して形成させる導電性基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に回路パターンを形成する際には、基材上の全面に金属膜をまず堆積させ、その後フォトレジストを塗布し、パターンが形成されたマスクを配置して露光し、現像を行い、さらにエッチング法等により金属膜を選択的に除去することにより回路パターンを形成していた。しかしパターンが形成されたマスクを配置して露光し、現像を行い、さらにエッチング法等により金属膜を選択的に除去することは工程が多くコストがかかる。また金属を除去するという工程が必要であるため、材料に無駄が生じたり、環境負荷が大きい等の問題があった。そのため、スクリーン印刷法等により導電性インクを回路パターン状に印刷する方法が近年注目されている。
この種の、導電性インクとして、銀粉、バインダー樹脂、溶媒からなる銀ペーストは、導電性、安定性、及びコストの観点から、電極パターン形成などに広く用いられている。銀ペーストのバインダー樹脂には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられ、塗布または印刷して乾燥または硬化した後に、銀粉どうしが接触することで導電性を発現させるもので、基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)等、比較的低耐熱性基材上に電極パターンを形成する場合に用いられる。
銀ペーストの乾燥または硬化条件は、基材の耐熱性との関係から多くの場合200℃以下である。そのため、導電層(膜)中には、バインダー樹脂である熱可塑性樹脂が残存し、銀粉同士も焼結等により金属結合しているわけではないので、導電性に限界があり、導電性を高めるための方策が種々試みられている。
【0003】
導電性樹脂ペーストを用いて、比抵抗を低減させた配線やビィアなどの導電体の形成方法として、樹脂バインダーと導電粉末を含む樹脂ペーストを用いる導電体を形成するのに、比表面積が2〜5m2/gの貴金属粉末100重量部に対して樹脂バインダー2〜10重量部を含む導電性樹脂ペーストを用い、この導電性ペーストを基体に施して乾燥させた後、圧力を印加しながらまたは印加した後に硬化させる低抵抗導電体の形成方法が開示されている(特許文献1)。
また、特許文献2には、基板の少なくとも片面に、網目状に金属微粒子層が積層された導電性基板の製造において、金属微粒子層を酸で処理する導電性基板の製造方法が提案されている。
さらに、特許文献3には、金属微粒子及び樹脂バインダーを含有するインクを塗布し硬化した表面に超音波振動を与えながら圧力を加えることにより、金属微粒子どうしの接触面積を増加させるステップを備える導電性基板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−245873号公報
【特許文献2】特開2006−313891号公報
【特許文献3】特開2008−86895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の加圧処理による低抵抗導電体の形成方法は、具体的には、導電性樹脂ペーストを基体に施して乾燥させて後に、80〜200℃の範囲で加熱し、10MPa以上の圧力を印加するものであり、例えば細線パターンにおいては、パターン幅の増加、PET基材においては、加熱におけるダメージ等が懸念され、透明性のため細幅化が要請されているPETフィルム基材からなるプラズマディスプレイ用の電磁波シールド材(Electro Magnetic Interferenceシールド材、以下、「EMIシールド材」と記す。)等の用途には必ずしも応用出来ない。
【0006】
また、特許文献2には、塩酸により高導電化する技術が開示され、金属微粒子、金属酸化物微粒子、有機金属化合物から選ばれる少なくとも1種を溶媒に分散または溶解させた溶液を用いた場合、低濃度の酸の溶液により酸の処理の効果が認められるとしている。しかし、金属微粒子を形成しうる化合物を樹脂成分中に練込んだり、樹脂成分中に分散させた後、溶媒を加えて粘度調整したもの等は、低い濃度の酸の溶液を用いても優れた導電性が得られないことが開示されている。さらに、金属微粒子層に含まれる金属微粒子と樹脂成分の混合比は、最も好ましくは、樹脂成分は含まないことであるとしている。そして、実施例の金属微粒子層形成溶液は、全て樹脂成分を含まないものであり、例えば、線厚み3μm、線幅50μm、ピッチ300μmの格子状であって、得られる表面抵抗率は、5〜40Ω/□であり、特に線幅30μm以下の細い線幅の凸状パターンで、高電磁波シールド性が求められている用途などでは、印刷適性付与のために樹脂成分が必須であり、そのような樹脂を含有するパターンを低抵抗化できる方法が望まれていた。
さらに、金属微粒子層をアルコール類やケトン類等の有機溶媒で処理した後、酸で処理することが好ましいとされているが、例えば、酸処理前にアセトンに浸漬処理した場合、バインダー樹脂膜が脆くなり、導電性の向上も不十分であるという問題があった。
【0007】
一方、特許文献3に記載の超音波溶着による高導電化では、インクに含まれる樹脂バインダーが熱可塑性樹脂である場合には、ホーンを力学的に超音波振動させると、摩擦熱により樹脂バインダーが軟化するため、金属粒子間の空隙が垂直方向に減少し、金属微粒子どうしの接触面積が増加し導電性が向上する。また、樹脂バインダーが熱硬化性樹脂である場合、摩擦熱により樹脂バインダーが熱硬化し、熱収縮が進むため、加圧により金属微粒子の接触が増加し導電性が向上する。しかしながら、この技術の場合、ホーンにより超音波振動を印加するので大面積を均一に処理するのが困難である。
【0008】
以上より、導電性基板の製造方法において、特に、近時、透明性の観点から50μm以下の細幅のパターンが要求されるプラズマディスプレイ装置等の前面側に用いられるEMIシールド材用、回路基板、電波方式認識(RFID: Radio Frequency-Identification)タグアンテナ、タッチパネル電極等の導電性基板において、基材へのダメージを回避し、かつ、特殊な設備を用いることなく、大面積で導電性を向上できる導電性基板の製造方法に関する技術が求められていた。
【0009】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、基材上に、銀ペーストを塗布または印刷して導電層を形成し硬化した後、硬化した導電層を、少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬することで、導電性が著しく向上することを見出した。本発明はかかる知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基材上に、銀粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有する銀ペーストを塗布または印刷して導電層を形成するステップ、前記導電層を硬化させるステップと、硬化した導電層を、少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬するステップ、を含むことを特徴とする導電性基板の製造方法、
(2)水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5のアルコール類であることを特徴とする前記(1)に記載の導電性基板の製造方法、
(3)さらに、前記浸漬するステップ後に熱乾燥ステップを有する前記(1)または(2)に記載の導電性基板の製造方法、
(4)前記バインダー樹脂は、アクリル樹脂である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性基板の製造方法、
(5)前記アルコールは、2−プロパノールまたはエタノールである前記(2)〜(4)のいずれかに記載の導電性基板の製造方法、及び
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法で得られたことを特徴とする導電性基板、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性基板の製造方法によれば、基材の表面に銀ペーストを塗布または印刷して形成したパターンを硬化した後、特定の濃度の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬することにより導電性を向上できるので、特定の圧力ロールや超音波振動装置等を要せず、簡易に広幅の状態で連続的に電気抵抗低減化処理が可能である。
また、水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液中で処理するので、従来の始めに有機溶媒処理を行い、その後に酸処理を行った場合に問題となっていたバインダー樹脂の脆化や剥落の不具合がなく、かつ基材との密着性を維持しつつ、水溶性有機溶媒と酸の相乗的効果により導電性を著しく向上できる。
本発明の導電性基板は、低表面抵抗が実現できるので、特に、近時、透明性の観点から50μm以下の細幅のパターンが要求されるプラズマディスプレイ装置等の前面側に用いられるEMIシールド材等の導電性基板に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の導電性基板の層構成の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明の実施の形態に係わる導電性基板の製造方法は、基材上に、銀粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有する銀ペーストを塗布または印刷して導電層を形成するステップ、前記導電層を硬化させるステップと、硬化した導電層を、少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬するステップ、を備える。
【0014】
図1は、本発明の導電性基板1の層構成の一例を示し、基材10上に、銀ペーストを塗布または印刷することにより導電層20が形成されている。
【0015】
(基材)
基材は、耐熱性、機械的物性、透明性が要求される場合には可視光線領域での透明性(光透過性)をも考慮して、公知の材料及び厚みを適宜選択すればよくガラス、セラミックス等の無機物の板、或いは樹脂板など板状体の剛直物、ガラスエポキシ基板、フェノール基板等の積層板であってもよい。ただし、生産性に優れるロール・トゥ・ロールでの連続加工適性を考慮すると、フレキシブルな樹脂フィルム(乃至シート)が好ましい。なお、ロール・トゥ・ロールとは、巻取(ロール)から巻き出して供給し、適宜加工を施し、その後、巻取に巻き取って保管する加工方式をいう。
【0016】
樹脂フィルム、樹脂板の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール−テレフタール酸共重合体、エチレングリコール−テレフタール酸−イソフタール酸共重合体、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリプロピレン、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂等である。
なかでも、ポリエチレンテレフタレートはその2軸延伸フィルムが耐熱性、機械的強度、光透過性、コスト等の点で好ましい。
無機物としては、ソーダ硝子、カリ硝子、硼珪酸硝子、鉛硝子等の硝子、或いはPLZT、石英、アルミナ基板等のセラミックス等が挙げられる。
【0017】
基材の厚みは、基本的には特に制限はなく用途等に応じ適宜選択し、フレキシブルな樹脂フィルムを利用する場合、例えば12〜500μm、好ましくは25〜200μm程度である。樹脂や透明無機物の板を利用する場合、例えば、500〜10000μm程度である。
また、銀ペーストとの密着性を改善するため基材表面に、別途密着性改善のための表面処理や、易接着層、下地層などが設けられていてもよい。
【0018】
(塗布または印刷により形成される導電層)
本発明における導電性基板には、銀ペーストの塗布または印刷により全面が均一な膜厚の導電層、回路パターン層、EMIシールド材用の凸状パターン層等目的に応じて種々の導電層を形成することができる。
【0019】
本発明の導電性基板の製造方法においては、導電性を有する金属微粒子としては、導電率、安定性、及び価格の点から銀粉を用いる。本発明の銀粉には、銀(金属銀)及び銀化合物の銀微粒子状物を含み、銀化合物としては、塩化銀、硝酸銀、及び酢酸銀等の銀塩、脂肪酸銀塩等の有機銀化合物、または有機銀錯体、酸化銀等が使用可能である。銀微粒子の平均粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による体積累積粒径D50(体積累積50%における粒径)を計測して10nmから10μmである。なお、銀微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡等により直接観察し、得られた画像から平均化して計測した値でもよい。銀微粒子は、安定性を付与するため、脂肪酸、脂肪酸塩などに被覆されていてもよい。
【0020】
また、銀粉としての銀微粒子の形状は、球状、フレーク状、鱗片状、あるいはリーフ状であってもよい。例えば、厚みが0.1〜0.8μm、長さが1〜10μmのフレーク状の銀微粒子が使用可能である。
線幅が50μm以下など微細な導電パターンを得るためには、平均粒子径は小さい方が好ましく、この観点から平均粒子径が3μm以下であることが好ましい。また、得られる導電パターンの電気抵抗を低くするためには、平均粒子径は0.1μm以上とすることが好ましい。
また、粒子径の分布については、得られる導電パターンの電気抵抗を低くするために、相対的に大粒子径の粒子と相対的に小粒子径の粒子との混合系とすることもできる。例えば、粒子径が0.01μm〜1μmの範囲の小粒子径粒子と粒子径5〜10μmの範囲の大粒子径粒子との混合系が好ましい。パターンの線幅や厚みよりも大きな粒子が混入すると、印刷時に抜けやスジなどの不良が多発するため、大粒子径粒子の平均サイズ、あるいは最大粒子径はパターン設計により変わってくる。
また、異なる平均粒子径を持つ複数種類の粒子を混合する以外に、ある程度の粒度分布を持った粒子を最初から用いても良い。混合系とすることにより、導電層における銀微粒子の充填率が高くなり、低抵抗のパターンが得られる。
【0021】
銀ペースト中の銀微粒子の含有量は、銀微粒子の導電性や粒子の形態に応じて任意に選択されるが、例えば銀ペーストの固形分100質量部のうち、銀微粒子を40〜99質量部、好ましくは80〜98質量部の範囲で含有させることができる。含有量は、微粒子のサイズや組み合わせにもよるが、40質量部以上では高導電性が得られ、99質量部以下では、印刷適性が向上し、膜としての強度が十分となる。
【0022】
銀ペーストを構成するバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂等の樹脂およびその共重合物、混合物を挙げることができる。なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。
【0023】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー及び/またはプレポリマーが用いられる。
かかるモノマーとしては、ラジカル重合性モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート類、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、ここで(メタ)アクリレートとの表記は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。カチオン重合性モノマーとして、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンなどオキセタン類等が挙げられる。
また、かかるプレポリマー(乃至オリゴマー)としては、ラジカル重合性プレポリマーとして、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコン(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。
これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布(印刷)適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は必要に応じて光重合開始剤を添加してもよい。
【0024】
銀ペーストのバインダー樹脂に用いられる熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の樹脂を挙げることができ、これらを1種単独で、或いは2種以上混合して用いることができる。
上記のバインダー樹脂のうち、基材との密着性、後述するアルコール及び塩酸水溶液との親和性等から、熱硬化性アクリル樹脂または熱可塑性アクリル樹脂或いはこれらの混合物が特に好適に用いられる。
アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル類、 メタクリル酸、メタクリル酸エステル類の重合体、共重合体が挙げられる。 (メタ)アクリル酸エステル類としては、例えば、 メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、 イソボルニル(メタ)アクリレートグリシジル(メタ)アクリレート
等が挙げられる。
【0025】
さらに、銀ペーストには、印刷に適した流動性を得るために、これらのバインダー樹脂は通常、溶剤に溶けたワニスとして使用する。銀ペーストとして用いる溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤の中から印刷方式に合わせて適宜選択して使用できる。用いられる溶剤としては、例えば、へキサン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素、 シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、 トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素 アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。溶剤の含有量は通常、10〜70質量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ないほうが好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤を必要としない。
【0026】
また、銀ペーストの流動性や安定性を改善するために、導電性や、基材またはプライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて適宜充填剤や増粘剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、分散剤、沈降防止剤などを添加してもよい。
【0027】
(銀ペーストの塗布または印刷)
銀ペーストは、例えばスクリーン印刷機、ディスペンサ、ディップコーティング装置、フレキソ印刷機、グラビア印刷機、オフセット印刷機等の塗布装置によって基材上に塗布される。なおインクは、塗布装置によって基材の表面にパターン状に印刷されてもよい。パターンは導電性基板の用途により適宜設計選択される。銀ペーストが熱可塑性樹脂である場合、基材の融点未満の温度、好ましくは、基材が熱変形しない温度で、銀ペーストに含まれている希釈剤(溶剤)を加熱乾燥させると、銀ペーストは硬化する。なおバインダー樹脂が熱可塑性樹脂である場合、「硬化」とは必ずしも化学結合等による硬化を意味せず、乾燥によるインクの固化を意味する。またバインダー樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂が硬化する温度以上の温度を与えると、バインダー樹脂が架橋反応等の熱硬化反応等をおこし、銀ペーストに希釈剤が含まれている場合は希釈剤が揮発し、銀ペーストが硬化する。例えば基材がポリエチレンテレフタレートからなる場合、ポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度は約70℃であり、融点は260℃である。この場合、ポリエチレンテレフタレートの融点以下の温度で、かつポリエチレンテレフタレートの加熱変形や収縮が生じない温度で、銀ペーストを硬化させる必要がある。例えば80℃〜140℃で1分〜60分乾燥させられる。バインダー樹脂が電離放射線硬化性樹脂である場合、紫外線、あるいは電子線等の電離放射線等により、バインダー樹脂が架橋反応等の光硬化反応等をおこし、銀ペーストは硬化する。なお、加熱及び電離放射等を組み合わせて、銀ペーストを硬化させてもよい。また、銀微粒子の一次粒子径が小さく、例えば0.5μm以下の場合、銀微粒子の融点は低いため、硬化の工程において銀微粒子どうしが融着することもある。
【0028】
(水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬するステップ(工程))
硬化した銀ペーストからなる導電層を所定の濃度の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬することステップにより、導電性を高めることができる(以下、このステップを「電気抵抗低減化処理」という。)。
電気抵抗低減化処理は、基材上で硬化した導電層を、少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬することにより行う。水溶性とは、ある割合で水と相溶する溶媒であるが、例えば、水への溶解度(20℃)が20g/L以上、より好ましくは100g/L以上、更に好ましくは任意の割合で水と混合するものが好ましい。
本発明の電気抵抗低減化処理に用いられる水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、 1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、 n−ペンタノール等のアルコール類、 エチレングリコールプロピレングリコール、グリセリン、 1,3−ブタンジオール、 1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、2−エトキシエタノール、2−メトキシエタノール等が挙げられる。 その他、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等の窒素含有溶媒が挙げられる。
なかでも、好ましくは、樹脂に対して貧溶媒であり、かつ、水への溶解度が高い溶媒であり、硬化した導電層のバインダー樹脂への浸透性、水への溶解度等から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール等、炭素数1〜5のアルコールが挙げられ、これらのアルコールは2種以上を混合して用いることもできる。これらのアルコールうち、バインダー樹脂への浸透性、溶解性、及び電気抵抗低減化効果の観点から、2−プロパノール、エタノールが好ましく、特に2−プロパノールが好ましい。
水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液(以下、「処理液」ということがある。)における水溶性有機溶媒濃度は、バインダー樹脂への浸透性、溶解性、及び電気抵抗低減化効果の観点から3〜90質量%が好ましい。樹脂を溶解する溶媒の場合は、有機溶媒含有量は樹脂に対して貧溶媒を用いる場合には、水溶液中の水溶性有機溶媒含有量は20質量%以上とすることが好ましく、50〜85質量%がさらに好ましい。水溶性有機溶媒の濃度が3質量%以上であるとバインダー樹脂へ浸透しやすくなり電気抵抗が低減しやすく、90質量%以下とすることによりバインダー樹脂が溶け出さず膜強度を保持できる。
【0029】
処理液には、塩酸が含まれる。塩酸は水溶性有機溶媒を含む水溶液として用いられ、塩酸の濃度は、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。塩酸の溶液の濃度が高いと、作業性が低下し、生産性が悪化する場合があったり、透明基材として熱可塑性樹脂フィルムを用いた場合には、透明基材を白化させ、透明性を損ねる場合があるため、好ましくない。また、塩酸の濃度が低すぎる場合にも、塩酸による処理の効果が得られないため、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であることが好ましい。
なお、処理液には塩酸が含まれ、塩酸の残渣による悪影響が懸念されるため、処理後にすすぎ、熱乾燥ステップを含めることができる。
【0030】
本手法のメカニズムは定かではないが、塩酸は非常に樹脂への浸透性が高く、樹脂の中でも、アクリル系樹脂への浸透性が非常に高い。また、銀粉へのなじみも高く、銀粉表面処理剤を溶解する作用があると考えられる。
また、含有する塩酸は、プロセス中で銀をイオン化し、 表面の融着を促すと考えられ、実際に処理後銀微粒子どうしが融着する現象が観測されることもある。
同時に水溶性有機溶媒が存在することで、樹脂を溶解し、 銀微粒子どうしの接触を高めることができる。 この効果は、それぞれ単独に浸漬したり、逐次で浸漬して得られるものではなく、同一の水溶液として処理することによって、高い効果を発現するものと考えられる。
【0031】
本発明の導電性基板の製造で用いる所定濃度の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液(以下、「処理液」という。)の組成は、既に述べたように前記の所定濃度範囲の水溶性有機溶媒と所定濃度の塩酸が混合された水溶液である。
処理液による電気抵抗低減化処理は、基材上の硬化した導電層を、処理液が満たされた処理槽中に浸漬したり、処理液を導電層に塗布したり、処理液のミストを導電層にあてたりする方法が用いられる。これらの中でも、処理液の中に導電層を浸したり、処理液を導電層上に塗布したりするなど、導電層と処理液を直接接触させる方法が、導電性向上効果に優れるため好ましい。すなわち、処理液による処理条件としては、10℃〜60℃以下の温度で、処理液の中に導電層を浸したり、処理液を導電層上に塗布したりすることが好ましい。
電気抵抗低減化処理の温度は、処理液には塩酸及びアルコール等の水溶性有機溶媒が含まれ、これらの蒸気による悪影響を防ぐ観点から、60℃以下で行うのが好ましい。10℃以上であると、電気抵抗低減の効果が高いため、好ましい。
【0032】
処理液による導電層の処理時間は数分以下で十分であり、処理時間をより長くしても、導電性の向上効果が高まらない場合や、導電性の向上効果が悪化する場合がある。処理液による処理時間は、15秒〜60分であることが好ましく、より好ましくは15秒〜30分であり、さらに好ましくは15秒から5分であり、特に好ましくは15秒〜3分である。
【0033】
処理液による処理の終了後には、塩酸やアルコール等の水溶性有機溶媒を除去するため、水(温水を含む)で洗浄、すすぎ、熱乾燥ステップを経ることが好ましい。
熱乾燥ステップは、水を蒸発させると同時にバインダー樹脂の熱収縮による緻密化も兼ねるので、基材の耐熱性を考慮して、融点以下の温度で適宜の時間行われる。
この熱乾燥ステップは、いわゆる焼成処理とは異なり、PETなど一般のフィルム基材にダメージを与えるような長時間の加熱処理ではなく、余り高温になるとバインダー樹脂や透明基材の変質、変更を生じることになる為、通常の材料の場合、120℃以下とする。
PETフィルム基材の場合、水洗後、100〜130℃で5〜20分程度の乾燥が好適である。
【0034】
本発明は、前述の製造方法により得られる導電性基板及びEMIシールド材である導電性基板をも提供する。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0036】
(銀ペーストの調製)
平均粒子径が1μmの球形銀微粒子(商品名:AG2−1C、DOWAハイテック(株)製)83質量部、アクリル系バインダー樹脂5質量部、溶剤(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)12質量部を混合し、3本ロールで混練し、ペースト状とした。
(導電層の形成及び硬化)
基材10として、片面に易接着処理がされた厚さ100μmの2軸延伸透明ポリエチレンテレフタレー卜(PET)フィルム〔商品名:東洋紡エステルフィルムE5101、東洋紡績(株)製〕に、アプリケーターを用いて、前記銀ペーストを厚み1ミル(25.4μm)で全面ベタ状に塗布して導電層を形成した。
しかる後、これを120℃で10分間、熱風循環乾燥機中で乾燥し、銀ペーストインキを硬化して、導電層を形成し、膜状の未処理導電性基板を得た。これを5cm×6cmに切断し、処理液への浸漬用サンプルとした。
【0037】
導電性(表面抵抗)測定
以下の実施例及び比較例の導電性(表面抵抗)は、以下に記載の方法で測定した。
導電性を評価するための表面抵抗率は、表面抵抗計((株)ダイアインスツルメンツ製「ロレスタGP」、PSPタイププローブ)を用いて、導電層に4探針を接触させ、4探針法にて表面抵抗を測定した。
【0038】
実施例1、比較例1〜4
表1に示すように、塩酸を2-プロパノール(別名が「イソプロパノール」であり、以下、「IPA」と略記することがある。)で希釈して、塩酸濃度が1.5質量%、IPA濃度が78.8質量%の処理液(実施例1)、塩酸濃度1.5質量%の塩酸水溶液による処理液(比較例1)、80質量%のIPA水溶液の処理液(比較例2)、100%IPAの処理液(比較例3)、純水のみの処理液(比較例4)を準備し、それぞれの処理液を2Lのビーカーに300mL注いだ処理槽を準備した。
各処理槽で処理するサンプルについて、処理前の表面抵抗率を前記の方法で測定した。
処理前の表面抵抗率を測定済みのサンプルを、各処理液に、室温で2分間浸漬(静置)し、水洗後120℃で10分乾燥して処理後のサンプルとした。サンプルは各処理液について5点としてその平均値をもって表面抵抗とした。
また、処理前と処理後の表面抵抗率から低下率を下記の式で求めた。
低下率=(処理前の表面抵抗値−処理後の表面抵抗値)×100/処理前の表面抵抗

これらの結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、比較例3の2−プロパノール100質量%の処理では抵抗低下率は6.3%であり、比較例4の水で処理した場合と大差がない。2−プロパノール80質量%水溶液
による比較例2では、抵抗低下率が13.5%で、比較例3よりは、2倍程低下しているが、未だ不十分な値であった。
また、先ずアルコールにて処理した後、塩酸で処理すると、導電層のバインダー樹脂膜が脆くなって、剥離するなどの問題が見られるが、実施例1のごとく、塩酸とアルコールを含む水溶液に浸漬すると、そのような不具合もなく、塩酸及びアルコールでそれぞれ単独で処理した場合と比較して格段に抵抗低下率が向上した。
このように、本発明の電気抵抗低減化処理方法では、塩酸及びアルコールの処理を1工程で行うので、これらの相乗作用により高い抵抗低下率が得られる上に、設備の短縮化、効率化、省エネ化を図ることもできるという効果も奏する。
【0041】
実施例2〜4、比較例5、6
電気抵抗低減化処理における処理溶液中のアルコールの濃度の影響を調べるため、2−プロパノール(IPA)及びエタノール(EA)について濃度を78.8質量%(実施例1、2)、49.25質量%(実施例3、4)、9.85質量%(比較例5、6)、0質量%で塩酸水溶液のみ(比較例1)とする処理液を準備して、前記同様に表面抵抗率、表面抵抗の低下率を測定した。結果を表2に示す。なお、表2における比較例1及び実施例1は、表1に既述のものであり、比較の利便のため表2中にも再掲したものである。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の比較例5、6の結果から明らかなように、塩酸の溶媒として9.85質量%のアルコール濃度では、処理後の表面抵抗の低下率が塩酸水溶液のみによる比較例1よりも低く、57〜58%台であり、低抵抗化効果は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
実施の形態に係る導電性基板の製造方法で得られた導電性基板は、パターン状の導電層として、電気回路、電極、RFIDタグアンテナ、EMIシールド材等にも使用可能である。
特に、EMIシールド材は、テレビジョン受像装置、各種測定機器や計器類、各種事務用機器、各種医療機器、各種遊戯機器、電算機器、電話機等の表示部等に用いられるプラズマディスプレイ(PDP)、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ装置(LCD)、電場発光(EL)ディスプレイ装置などの画像表示装置の前面フィルタ用として好適であり、特にPDP用として好適である。また、その他、住宅、学校、病院、事務所、店舗等の建築物の窓、車輛、航空機、船舶等の乗物の窓、電子レンジ等の各種家電製品の窓等の電磁波及び赤外線遮蔽用途にも使用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 導電性基板
10 基材
20 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、銀粉、バインダー樹脂及び溶剤を含有する銀ペーストを塗布または印刷して導電層を形成するステップ、
前記導電層を硬化させるステップと、
硬化した導電層を、少なくとも濃度が3〜90質量%の水溶性有機溶媒及び塩酸を含む水溶液に浸漬するステップ、
を備えることを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項2】
水溶性有機溶媒が、炭素数1〜5のアルコール類であることを特徴とする請求項1に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記浸漬するステップ後に熱乾燥ステップを有する請求項1または2に記載の導電性基板の製造方法。
【請求項4】
前記バインダー樹脂は、アクリル樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の導電性基板の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールは、エタノールまたは2−プロパノールである請求項2〜4のいずれかに記載の導電性基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られたことを特徴とする導電性基板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−249036(P2011−249036A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118367(P2010−118367)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】