説明

導電性多孔質フィルム

【課題】導電性の良い導電性多孔質フィルムを提供する。
【解決手段】多孔質フィルム10をアルコール、次に界面活性剤溶液中に浸した後に、多孔質フィルムの繊維間に形成された細孔11a内に導電性部材である粒子状のカーボン12と撥水剤13を含有させ、界面活性剤とアルコールを除去して乾燥して得られる導電性多孔質フィルムとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性多孔質フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば固体高分子型燃料電池(以下、燃料電池とする)に用いるガス拡散層には、燃料電池のアノード、カソードでの水分を調整するためにガス拡散層と触媒層との間に撥水性を有する多孔質層を設けたものがある。
【0003】
多孔質層には撥水性とともに導電性を有することが必要となる。そこで多孔質層を形成する方法としてはガス拡散層のカーボンペーパに、カーボンと撥水性を有するフッ素樹脂とを含む分散液を塗布し、焼結することでカーボンペーパに多孔質層を形成する方法がある。
【0004】
また、多孔質層として多孔質PTFEフィルムを基体として、例えば粒子状の触媒層材料をアルコール溶媒に分散させた分散液に多孔質PTFEフィルムを浸すことにより、多孔質PTFEフィルムの細孔内に触媒層材料を含有させるものが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平8−213027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、分散液を塗布する湿式の塗布方法では、カーボンペーパに分散液が染み込むことにより、水素または空気などの反応ガスの拡散性が低下するといった問題点がある。
【0006】
また、カーボンと撥水剤と界面活性剤とを含んだ分散液に多孔質PTFEフィルムを浸す場合に分散液の溶媒としてアルコールを用いると、撥水剤として例えばPTFEを用いた場合に、分散液中でPTFEの微粒子が凝集するため溶媒としては純水を用いなければならない。しかし、多孔質PTFEフィルムは、水をはじくために多孔質PTFEフィルム内にカーボンや撥水剤が容易に浸透しないといった問題点がある。
【0007】
また、多孔質PTFEフィルム内にカーボン粒子とPTFE微粒子を浸漬させるため、へら等で押し込んだり、他方から吸引するなどで、PTFE微粒子にせん断力がかかると、PTFE微粒子は容易に繊維化してしまう。このように繊維化したPTFEは容易に伸び縮みできるので、剛性がなくなってしまい、燃料電池で起動停止を繰り返すと、このようなカーボン層はクリープしてしまうといった問題点がある。
【0008】
本発明ではこのような問題点を解決するために発明されたもので、フッ素樹脂からなる多孔質フィルム、例えば多孔質PTFEフィルムを構成する繊維間の細孔に例えばカーボンとPTFE粒子とを存在させ、導電性とガス透過性を確保し、かつ剛性の高い導電性多孔質フィルムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、フッ素樹脂からなる多孔質フィルムの繊維間に形成された細孔内に、少なくともカーボンを含む導電性材料と粒子状のテフロン(登録商標、以下同じ)微粒子とを含ませる。
【0010】
また、導電性多孔質フィルムを、フッ素樹脂からなる多孔質フィルムに親水処理を施す親水処理工程と、水を主成分とする溶媒に少なくともカーボンを含んだ導電性材料とテフロン微粒子とを分散させた分散液を、親水処理を施した多孔質フィルムの細孔内に染み込ませる工程と、により製造する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、フッ素樹脂からなる多孔質フィルムの繊維間に形成された細孔内に導電性を有するカーボンと粒子状のフッ素樹脂微粒子とを含有することで、多孔質フィルムに導電性を付与し、例えば水素や空気などの反応ガスのガス拡散性に優れた導電性多孔質フィルムを得ることができる。
【0012】
多孔質フィルムの細孔内に含有されたカーボンと剛性の高いフッ素樹脂微粒子とによって構成されているため、剛性の高い導電性多孔質フィルムを得ることができる。
【0013】
また、多孔質フィルムに親水処理を行い、その後少なくともカーボンを含んだ導電性材料を、親水処理を施した多孔質フィルムの細孔内に染み込ませることにより、導電性多孔質フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この実施形態では、導電性多孔質フィルムを燃料電池に用いるが、燃料電池の使用に限られるものではない。
【0015】
燃料電池は、膜電極接合体の片面に水素、もう一方の面に酸素を含んだ例えば空気などの酸化剤ガスが供給され、水素と酸素との電気化学反応によって発電を行う。本発明の実施形態の膜電極接合体1の概略構成を図1を用いて説明する。膜電極接合体1は、電解質膜2と、電解質膜2の両主面に設けたガス拡散電極3によって構成する。ガス拡散電極3は電解質膜2に当接する触媒層4と、触媒層4の外側に設けたガス拡散層5と、を備える。
【0016】
電解質膜2は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜であり、例えばパーフルオロスルホン酸の電解質膜である。
【0017】
触媒層4は、触媒と電解質とによって構成され、触媒は例えば白金などの触媒を担持したカーボン、または白金黒などを用い、触媒層には更にカーボンや撥水剤を含んでも良い。
【0018】
ガス拡散層5について図2の概略図を用いて説明する。ガス拡散層5は導電性の多孔質層6とカーボンペーパ7とを接合して構成する。なお、カーボンペーパ7の代わりにカーボンクロスを用いても良い。また、ガス拡散層5を多孔質層6のみで構成しても良い。
【0019】
多孔質層6は、フッ素樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなる多孔質フィルム10の内部に少なくとも導電性のカーボン12と撥水剤13とを含んだ層である。多孔質層6の詳細について図3の概略図を用いて説明する。
【0020】
多孔質層6は多孔質フィルム10の繊維10aの間に形成される細孔(空隙)11aに、後述する方法によって粒子状のカーボン12と撥水剤13とが含有されている。多孔質フィルム10は、例えばPTFEなどを二軸で延伸することで形成される。PTFEなどを二軸延伸した多孔質フィルム10は、粒状の節と放射状に延びる繊維10aからなり、細孔11aを含む、連結した多孔質構造となる。また繊維10aの節部10bの近傍に細孔11aよりも径が小さい細孔11bが形成される。細孔11bには、カーボン12と撥水剤13とは含有されず、水素または酸素などの反応ガスのみが細孔11bを通過する。つまり、多孔質フィルム10にカーボン12を多く含む細孔11aと、細孔11aよりも径が小さくカーボン12を含有しない細孔11bと、を形成することで、多孔質フィルム10の導電性を良くし、例えば水素または酸素などの反応ガスの拡散性を良くすることができる。なお、カーボン12が粒子状であれば、より反応ガスの拡散性が良くなるため好ましい。
【0021】
また、多孔質層6は、撥水性の多孔質フィルム10を用い、さらに多孔質フィルム10内の細孔11aに撥水剤13を含有することで、ガス拡散層5における排水性を良くし、フラッディングを抑制することができる。また、多孔質フィルム10の細孔11a内に含有されたカーボン12や撥水剤13は石垣状に構成されているため、剛性の高い導電性多孔質フィルムを得ることができる。
【0022】
なお、多孔質フィルム10は、例えばジャパン・ゴアテックス社製のゴアテックスフィルムを用いる。カーボン12は、例えばアセチレンブラックやバルカンなどのカーボン粉体を用いる。撥水剤13は例えばPTFE微粒子などのフッ素樹脂微粒子である。多孔質フィルム10はゴアテックスフィルムに限られることはなく、多孔質フィルム10は十分に薄く、厚みムラが少なく、また含有させるカーボン12と撥水剤13の粒径よりも大きな細孔径を持ち、また十分な電気導電性を示せるだけのカーボンを付与させることができる空孔率を持ち、また製造工程や燃料電池の使用環境に耐えうるだけの物理的、化学的安定性があればこれに限らない。また、カーボン12、および撥水剤13も上記部材に限られるものではなく、導電性または撥水性を有する部材であればよい。
【0023】
以上の構成により、膜電極接合体1のガス拡散層5に導電性と撥水性を有する多孔質層6を備えることで、燃料電池の発電効率を良くし、フラッディングを抑制することができる。
【0024】
次に多孔質層6の製造方法の実施例について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
ステップS100では、多孔質フィルム10をイソプロピルアルコールに数秒程度浸す。これによって多孔質フィルム10の細孔11a、11bの空気をイソプロピルアルコールに置換する。なお、多孔質フィルム10は厚さ100μm、細孔11aの径が約3μmのゴアテックスフィルムを用いる。なお、この実施形態ではイソプロピルアルコールを用いたが、これに限られることはなく、例えばエチルアルコールなどのアルコールを用いてもよい。
【0026】
ステップS101では、界面活性剤であるダウ・ケミカル社製のTritonX100(登録商標)を純水で希釈し、界面活性剤濃度3%の界面活性剤水溶液を調整し、この界面活性剤水溶液中に多孔質フィルム10を約10秒浸す。これを5回繰り返す。ステップS100において細孔11a、11bの空気をイソプロピルアルコールに置換し、細孔11a、11bをイソプロピルアルコールで充足することで、多孔質フィルム10の内部に位置する細孔11a、11bまで界面活性剤を容易に浸透させることができる。
【0027】
その後、新たな界面活性剤濃度が3%の界面活性剤水溶液中に約10秒浸す。これを5回繰り返す。これにより多孔質フィルム10の細孔内に界面活性剤が浸透する。なお、界面活性剤としてはTritonX100に限定されるものではない。
【0028】
ステップS102では、界面活性剤を含浸した多孔質フィルム10を50℃で乾燥させる。ステップS101とステップS102によって多孔質フィルム10に界面活性剤を付着させる。以上の工程により多孔質フィルム10に親水処理を施す(ステップS100からステップS102が親水化処理工程を構成する)。
【0029】
ステップS103では、カーボン12と撥水剤13を含んだディスパージョンとを、純水を溶媒とし界面活性剤を含んだ溶液に攪拌し分散液(以下、分散液Aとする)を調整する。分散液A中のカーボン12と撥水剤13とを含む導電性材料の固形分濃度は15%とする。撥水剤13を含んだディスパージョンは、例えばダイキン工業株式会社製のポリフロン、D1−Eなどが利用できる。そして、親水処理を施した多孔質フィルム10に分散液Aを塗布し、乾燥させる。この工程を3回繰り返す。
【0030】
このとき、分散液Aの塗布方法としては、コーター等で規定量を多孔質フィルム10上に載せていくか、スプレーなどでやはり規定量を載せていく方法が良い。多孔質フィルム10の細孔11a内は親水化処理されているため、分散液Aは容易に細孔11a内に浸漬できる。ここでへら等でせん断力をかけて細孔11a内に押し込む操作をすると、撥水剤13の一部が繊維化し、結果として形成された多孔質層6の剛性を落とすことになる。
【0031】
ここで、本発明を用いた場合の多孔質フィルム10と、本発明を用いずにせん断力をかけて浸漬させた多孔質フィルム、つまり多孔質フィルムの細孔内の撥水剤が繊維化した多孔質フィルムと、の圧縮量を図5に示す。図5は、本発明を用いた多孔質フィルム10と本発明を用いない多孔質フィルムとにそれぞれ加重2MPaをかけて、時間の経過に対する圧縮量の変化を計測した結果を示した図である。図5においては、圧縮量がプラス側に変化するとクリープなどが起こり、多孔質フィルムが潰れていることを示す。また、本発明を用いた多孔質フィルム10の圧縮量の変化を実線で示し、本発明を用いない場合の多孔質フィルムの圧縮量の変化を破線で示す。
【0032】
図5によると、本発明を用いない場合には、本発明を用いた場合と比較して多孔質フィルムの圧縮量が大きくなる。これは本発明を用いない場合にはせん断力をかけて浸漬させることにより、撥水剤13のPTFE微粒子が繊維化し、自由に伸び縮みし、カーボン12の粒子が動くためである。
【0033】
ここで、固形分濃度は分散液A中の重量比であり、以下において同様とする。なお、分散液Aの固形分濃度は、固形分濃度が高いと多孔質フィルム10の細孔11a内にカーボン12と撥水剤13とが浸透し難くなり、固形分濃度が低いと塗布、乾燥させる工程を行う回数が増え作業性が悪くなる。そのため固形分濃度は10%以上50%以下とすることが望ましい。また、分散液A中のカーボン12の粒子径を計測したところ、カーボン12の粒子径の平均は約0.5μmであった。カーボン12の粒子径が小さ過ぎると、多孔質フィルム10の細孔11bにもカーボン12の粒子が含有され、ガス拡散性が低下し、カーボン12の粒子径が大き過ぎると、細孔11a内にカーボン12が浸透し難くなるので、カーボン12の粒子径は0.4μmから0.6μmに設定することが望ましい。
【0034】
多孔質フィルム10に親水処理を施すことにより、カーボン12と撥水剤13とを含む分散液Aを容易に多孔質フィルム10内の細孔11a内に浸透させることができる。これにより、導電性が高い多孔質層6を製造する際の作業性を向上させ、導電性の多孔質層6を容易に製造することができる。なお、多孔質層6ではカーボン12の重量比が少なくとも30%以上となるようにカーボン12と撥水剤13とを多孔質フィルム10に含有させる。なお、カーボン12の重量比は45%以上とすることが望ましい(ステップS103が染み込み工程を構成する)。
【0035】
ステップS104では、カーボン12と撥水剤13とを含有させた多孔質フィルム10をイソプロピルアルコール中に5回浸し、多孔質フィルム10中の界面活性剤を除去する(ステップS104が界面活性剤除去工程を構成する)。
【0036】
ステップS105では、150℃の温度で多孔質フィルム10を焼成し、多孔質フィルム10に付着したイソプロピルアルコールを除去する。
【0037】
以上の方法によって、多孔質フィルム10の細孔11a内にカーボン12と撥水剤13とを含有させ、導電性が良く、ガス拡散性が良く、さらに強度が高い多孔質層6を得ることができる。なお、ロール状の多孔質フィルム10を用いて上記工程により多孔質層6を製造する。ロール状の多孔質フィルム10を用いることで、多孔質層6を製造する際の作業性を良くすることができる。
【0038】
この実施形態ではイソプロピルアルコールによって界面活性剤を除去し、その後イソプロピルアルコールを除去したが、イソプロピルアルコール中に浸す代わりに界面活性剤の気化温度以上の温度で焼成して界面活性剤を除去してもよい。
【0039】
また、界面活性剤の気化温度が撥水剤13の融点以下である界面活性剤を使用した場合には、撥水剤13の融点以上の温度で加熱してもよい。これにより、界面活性剤を除去すると共に撥水剤13をバインダーとしてカーボン12を多孔質フィルム10に固着することができる。
【0040】
なお、この実施形態のステップS100からステップS102において多孔質フィルム10に親水処理を施したが、アルコールであるエタノールとTritonX100を攪拌し、TritonX100の濃度が5%の溶液を作成し、この溶液の中に多孔質フィルム10を浸し、その後、多孔質フィルム10を溶液から取り出し、50℃の雰囲気で乾燥させて多孔質フィルム10に親水処理を施しても良い。なお、エタノールに限らず、アセトンなどのアルコール、ベンゼンなどを用いても良い。
【0041】
また、TritonX100を純水で希釈、攪拌し、固形分濃度が4%である界面活性剤水溶液を調整し、この溶液中に多孔質フィルム10を沈め、ガラスの重しなどで固定する。そして、溶液に沈めた多孔質フィルム10を減圧した後に、常圧に戻す。その後、多孔質フィルム10を溶液から取り出し、50℃の雰囲気で乾燥させて多孔質フィルム10に親水処理を施しても良い。これによって、例えばロール状の多孔質フィルム10を一度に親水処理を施すことができ、作業性を良くすることができる。
【0042】
ガス拡散層5は、多孔質層6と厚さ160μmのカーボンペーパ7とを積層し、撥水剤13の融点以上の温度で加熱・加圧する。この実施形態では360℃、2MPaの条件下で60秒間加熱・加圧し、多孔質層6とカーボンペーパ7とを一体化して形成する。これにより多孔質層6とカーボンペーパ7とを接合する。また多孔質層6においては撥水剤13によってカーボン12を多孔質フィルム10に固着することができる。
【0043】
触媒層4は、白金などの触媒を担持した触媒担持カーボンと、電解質膜2の成分である電解質と、をアルコール、またはアルコールと水を含んだ液で分散させた分散液(以下、分散液Bとする)をガス拡散層5の表面が滑らかな多孔質層6面上に塗布し、その後乾燥させて形成する。このときガス拡散層5を吸引やテープにより固定して塗布することが望ましい。分散液Bの塗布方法としては、例えばスプレー塗布、ダイコーター、ドクターブレード、ローラー転写などを用いる。なお分散液Bに含ませる電解質は電解質膜2の成分に限られることはない。触媒層4は、分散液Bを塗布する塗布工程と乾燥させる乾燥工程を交互に複数回行ってもよい。なお、乾燥工程は、通風雰囲気、または不燃ガス雰囲気、または減圧雰囲気で乾燥させることが望ましい。また、乾燥後に純水にさらし、アルコール成分を溶出させた後に再び乾燥させてもよい。
【0044】
以上により、触媒層4とガス拡散層5とから構成するガス拡散電極3を形成する。なお、分散液Bとして白金などの触媒と、カーボンブラックと、電解質と、をアルコールまたはアルコールと水を含んだ液に分散させた分散液を使用してもよい。
【0045】
触媒層4とガス拡散層5とによってガス拡散電極3を形成した後に、電解質膜2の両主面に触媒層4が当接するようにガス拡散電極3を配置し、電解質のガラス転移以上の温度で加熱・加圧する。これにより電解質膜2とガス拡散電極3とを一体化することで膜電極接合体1を形成する。
【0046】
以上の方法によって多孔質層6の細孔11aにカーボン12を含有し、導電性が良く、ガス拡散性が良いガス拡散電極3を有する膜電極接合体1を形成することができる。
【0047】
なお、この実施形態では導電性多孔質フィルム、または導電性多孔質フィルムよりなる多孔質層6とカーボンペーパ7とを一体化したガス拡散層5の多孔質層6の面上に触媒層4を形成したが、多孔質層6を二軸延伸し、分散液Bを塗布し、延伸により新たに生じた、径が拡張された細孔に触媒を塗布することで、多孔質層6内に触媒層4を形成したものでも良い。
【0048】
また、多孔質フィルム10の一方の面に分散液Aを塗布し、もう一方の面に分散液Bを塗布してもよい。これにより多孔質フィルム10の一方の面にカーボン12と撥水剤13を含有させ、多孔質フィルム10のもう一方の面に触媒担持カーボンと電解質とを含有させてもよい。
【0049】
また、図6に示すように、多孔質層(第1の導電性多孔質フィルム)6の多孔質フィルム10とは異なる多孔質フィルム20の細孔24a内に触媒担持カーボン21と電解質22を含有させて、細孔24aよりも径が小さい細孔24bには触媒担持カーボン21と電解質22を含有させずに触媒層(第2の導電性多孔質フィルム)23を形成してもよい。
【0050】
そしてガス拡散層5と触媒層23と積層し、130℃、2MPaの条件下で加熱・加圧することにより、図7に示すようにガス拡散層5と触媒層23とを一体化する。なお、ガス拡散層5と触媒層23とを一体化する場合には触媒層23に含まれる電解質のガラス転移点以上の温度で加熱することが望ましい。
【0051】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0052】
多孔質フィルム10は、例えばPTFEフィルムなどを二軸で延伸したものであり、粒状の節部10bと放射状に延びる繊維10aとからなり、連結した多孔質構造となる。こにカーボン12や撥水剤13を付与したとき、節や繊維からなる細孔内の大きめの細孔11aにカーボン12や撥水剤13が入り、細かい細孔11bや細孔11aの隅部は空隙のままである。この空隙によりガス拡散性が向上し、また多孔質基材によりガス拡散層の構造が保持されるため、耐久性が向上する。
【0053】
多孔質層6において、カーボン12の重量比を30%以上とすることで、多孔質層6の導電性を良くし、例えば燃料電池の発電効率を向上することができる。
【0054】
多孔質フィルム10内に撥水剤13を含有させることで、多孔質層6における排水性を良くし、高湿度状態でのフラッディングを抑制することができる。
【0055】
多孔質層6を製造する場合に、多孔質層6の多孔質フィルム10に親水処理を行った後に、導電性のカーボン12や撥水剤13を含んだ分散液Aを多孔質フィルム10に塗布し、乾燥させる。これによって多孔質フィルム10の細孔11a内にカーボン12を容易に付与させることができ、導電性の良い多孔質層6を容易に製造することができ、多孔質層6を製造する時の作業性を良くすることができる。
【0056】
親水処理は、まず多孔質フィルム10を、例えばイソプロピルアルコール中に浸すことで行う。事前に多孔質フィルム10の細孔11a、11b内の空気をイソプロピルアルコールに置換することにより、界面活性剤を含む水溶液を容易に細孔11a、11b内に含浸させることができる。界面活性剤水溶液を細孔11a、11b内に含浸した後に、多孔質フィルム10を乾燥させることで、細孔11a、11b内表面が界面活性剤で覆われ、これにより細孔11a、11b内表面に親水性を付与することができる。
【0057】
カーボン12と撥水剤13とを純水に分散させた分散液Aにおいて、カーボン12と撥水剤13との固形分濃度を分散液Aの重量比で10%以上とすることで、分散液Aを塗布する回数を抑え、作業性を良くすることができ、50%以下とすることで、多孔質フィルム10の細孔11aへカーボン12などを容易に浸透させることができる。
【0058】
多孔質層6とカーボンペーパ7とを一体化する際に撥水剤13の融点以上の温度で加熱・加圧することで、撥水剤13がバインダーとなり多孔質層6とカーボンペーパ7とを接合することができる。また、多孔質層6内のカーボン12を固着することができる。
【0059】
表面が滑らかな多孔質フィルム10を用いて多孔質層6を形成するので、多孔質層6の表面に触媒などを含んだ分散液Bを塗布する場合にも、触媒層4を薄く、均一に形成することができ、ガス拡散性に優れ、厚みムラが十分に小さいガス拡散電極3を得ることができる。
【0060】
多孔質層6の一方の面に、分散液Bを塗布して触媒層4を形成する際、多孔質層6と触媒層4の構成材料は液の状態で基材に付与されるので、多孔質層6と触媒層4とは隙間無く一体化するため、ガス拡散層5と電極(触媒層4)との間に間隙が生じることなく、ガス拡散電極3を形成することができる。これによって、間隙による燃料電池の発電効率の低下を防止することができる。
【0061】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
例えば自動車、デジタルカメラ、パソコン、センサーなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態を示す膜電極接合体の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態を示すガス拡散層の概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態を示す多孔質層の概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態の多孔質層の製造方法を示すフローチャートである。
【図5】時間経過と多孔質フィルムの圧縮量との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施形態の変更例を示す触媒層の概略構成図である。
【図7】本発明の実施形態の変更例を示すガス拡散層と触媒層の概略構成図である。
【符号の説明】
【0064】
1 膜電極接合体
2 電解質膜
3 ガス拡散電極
4 触媒層
5 ガス拡散層
6 多孔質層(導電性多孔質フィルム、第1の導電性多孔質フィルム)
7 カーボンペーパ
10、20 多孔質フィルム
10a 繊維
11a、11b、24a、24b 細孔
12 カーボン
13 撥水剤
21 触媒担持カーボン
22 電解質
23 触媒層(第2の導電性多孔質フィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる多孔質フィルムの繊維間に形成された細孔内に、少なくともカーボンを含む導電性材料と、粒子状のフッ素樹脂微粒子を含むことを特徴とする導電性多孔質フィルム。
【請求項2】
前記導電性多孔質フィルムに対するカーボンの重量比が、30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電性多孔質フィルム。
【請求項3】
フッ素樹脂からなる多孔質フィルムに親水処理を施す親水化処理工程と、
水を主成分とする溶媒に少なくともカーボンを含んだ導電性材料とフッ素樹脂微粒子とを分散させた分散液を、前記親水処理を施した前記多孔質フィルムの細孔内に染み込ませる工程と、を備えることを特徴とする導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記親水化処理工程は、前記多孔質フィルムをアルコール中に浸漬させて、前記細孔内に前記アルコールを充足させた後に、前記細孔内の前記アルコールを界面活性剤を含む溶液で置換し、前記界面活性剤を含む溶液を乾燥させることを特徴とする請求項3に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記親水化処理工程は、界面活性剤を含むアルコール中に前記多孔質フィルムを浸し、乾燥させることを特徴とする請求項3に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記親水化処理工程は、界面活性剤を含む溶液に前記多孔質フィルムを浸し、前記多孔質フィルムの雰囲気を減圧した後に、常圧に戻し、乾燥させることを特徴とする請求項3に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記染み込ませる工程は、前記親水処理を施した前記多孔質フィルムを、前記分散液に浸した後、乾燥させることを特徴とする請求項3に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記染み込ませる工程の後に、前記多孔質フィルムに付着した前記界面活性剤を除去する界面活性剤除去工程を備えたことを特徴とする請求項4から7のいずれか一つに記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記界面活性剤除去工程は、前記多孔質フィルムをアルコール洗浄することにより前記界面活性剤を除去することを特徴とする請求項8に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記界面活性剤除去工程は、前記多孔質フィルムを前記界面活性剤の気化温度以上の温度で焼成することにより前記界面活性剤を除去することを特徴とする請求項8に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記界面活性剤は、気化温度が前記フッ素樹脂微粒子の融点以下の界面活性剤であり、
前記界面活性剤除去工程は、前記多孔質フィルムを前記フッ素樹脂微粒子の融点以上の温度で前記多孔質フィルムを加熱することを特徴とする請求項9または10に記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記染み込ませる工程は、前記分散液を前記多孔質フィルムの前記細孔内に染み込ませた後に、前記多孔質フィルムを乾燥させる工程を備え、
前記染み込ませる工程を複数回行うことを特徴とする請求項3から11のいずれか一つに記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記溶媒と前記導電性材料を合わせて100%とした場合に、前記分散液中の前記導電性材料の固形分の重量比が、10%以上50%以下であることを特徴とする請求項3から12のいずれか一つに記載の導電性多孔質フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項1または2に記載の導電性多孔質フィルムと、カーボンペーパまたはカーボンクロスと、を積層し、前記フッ素樹脂微粒子の融点以上の温度で加熱・加圧し、前記導電性多孔質フィルムと、前記カーボンペーパまたはカーボンクロスと、を一体化することを特徴とするガス拡散層の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法により製造したガス拡散層の前記導電性フィルムの表面に触媒と電解質とを付与することを特徴とするガス拡散電極。
【請求項16】
請求項1または2に記載の導電性多孔質フィルムの前記細孔に、電解質とカーボンと触媒、または前記電解質と触媒担持カーボンを含ませることを特徴とするガス拡散電極。
【請求項17】
請求項1または2に記載の導電性多孔質フィルムの一方の面の前記細孔に前記カーボンとフッ素樹脂とを有し、
前記導電性多孔質フィルムのもう一方の面の前記細孔に、電解質とカーボンと触媒、または前記電解質と触媒担持カーボンを含むことを特徴とするガス拡散電極。
【請求項18】
請求項1または2に記載の第1の導電性多孔質フィルムと、
多孔質フィルムの細孔内に、電解質とカーボンと触媒、または前記電解質と触媒担持カーボンを含んだ第2の導電性多孔質フィルムと、を積層し一体化することを特徴とするガス拡散電極の製造方法。
【請求項19】
請求項1または2に記載の導電性多孔質フィルムを延伸する工程と、
延伸により生じた前記導電性多孔質フィルムの細孔内に、電解質とカーボンと触媒、または前記電解質と触媒担持カーボンを付与する工程と、を備えるガス拡散電極の製造方法。
【請求項20】
請求項15から17のいずれか一つに記載のガス拡散電極を電解質膜の両面に付与したことを特徴とする膜電極接合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−56064(P2007−56064A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239848(P2005−239848)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】