説明

導電性樹脂シート

【課題】車輪がついたような台車や自動車等を使用する場所に敷設する際、繰り返し人や車両の荷重が負荷しても破壊しにくく、2次加工することなく優れた導電性を有する樹脂製のシートを提供する。
【解決手段】PAN系炭素繊維において、その繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下であって、その繊維長であるPAN系炭素繊維を、重量比7〜20%含有し、炭素繊維を交絡させた導電性樹脂シートを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維を含有し、導電性を有する樹脂シートの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、カーボンブラックを含有された導電性樹脂シートは、敷設し、帯電した人体や物などが、その上に乗ることや触れることで、静電気を除電することは知られている。その他、扉のプラスチック取っ手に用いて帯電防止効果を得るものやゴム製のアース線等に加工して静電気を導電および除電するものなど、帯電防止材料、除電用シートとして広く普及されている。
【0003】
また、特許文献1には、炭素繊維を有する布や不織布を用いて除電する方法、具体的には、人体の静電気を中和する方法が開示されている。さらに特許文献2には、除電用ゴム成形構造体およびその用途として、炭素繊維等を利用し、除電を行うものが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−300396
【特許文献2】特開平7−26069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カーボンブラックを含有させる導電性樹脂シートは、導電性を得るために、それを多量に配合する必要がある。このことで、材料の引張強度等が低下することや製造する際の成型性が不安定になり、意匠性が低下することがある。さらに、これら強度や意匠性を維持しながら、表面抵抗値が10Ω以下のような優れた導電体樹脂シートを得ることはできなかった。
【0006】
ところで、特許文献1の記載の布や不織布では、炭素繊維を混合することにより導電性が認められるが、敷設する時では、布製のため、破れることがあった。具体的には、車輪がついたような台車や自動車等を使用する場合を例に挙げると、それに対する破壊強度が低いことから、シートの耐久性を維持することはできなかった。
【0007】
さらに、特許文献2の記載の除電用ゴム成形構造体では、炭素繊維を用いて除電を行うものであるが、条件によっては除電や導電効果が、得られなかった。説明では、その中の炭素繊維を露出制御するもので炭素繊維の長さが5μmから30μm程度のものが好ましく用いられるとあるが、このような短い繊維では、通常の樹脂またはゴムに対して、粒子が細かいため、かなり大量に炭素繊維を配合させる方法でないと、除電や導電に必要な表面抵抗値等の電気特性を得ることができない。さらに炭素繊維の露出の一部が髭状に突出した状態が好ましいとあるが、炭素繊維を交絡させた上で、髭状に突出した状態を作ることは困難である。それに加えて、髭状に突出した状態にするために、例えば成形体の表面を砥石にて研磨することを説明しているが、研磨することで、キズによる意匠性が低下してしまう。特に、軟質系樹脂やエラストマーやゴムでは、やわらかいため、研磨する際に応力が分散され研磨しがたい。その上、これらの問題点の他に、産業上利用する上では、コストがかかる問題点もあり、このような2次加工を避ける必要があった。
【0008】
そこで、本発明は、敷設する際、人や車両の荷重が繰り返して負荷されても破壊されにくく、2次加工することなく、優れた導電性を得ることができる導電性樹脂シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明では次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、請求項1に記載の発明は、PAN系炭素繊維において、その繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下であって、その繊維長であるPAN系炭素繊維を、重量比7〜20%含有することを特徴とする導電性樹脂シート。
【0011】
さらに、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の導電性樹脂シートにおいて、0.5〜3mmの厚みを有することを特徴とする導電性樹脂シートである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、PAN系炭素繊維において、その繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下であって、その繊維長であるPAN系炭素繊維を、重量比7〜20%含有することで、炭素繊維を交絡させることができ、炭素繊維の一部が表面から多く露出できることから、樹脂シートの導電性が、最大限に発揮できる。すなわち、カーボンブラック等に比べると炭素繊維の含有量が少なくても、良好な導電性を持たせることができる。よって、製造する際の成型性が安定し、意匠性の低下を防止できる。もちろん、樹脂が主成分であることから、敷設した場合等でも、人や車両の荷重が繰り返して負荷されても破壊されにくい。
【0013】
一方、PAN系炭素繊維の含有量が7%より少ないと、除電等に必要な導電性は得られない。逆に、含有量が20%より多いと、成型性や意匠性が大幅に低下する。さらに、炭素繊維の繊維長の中心分布が、0.2mmより小さいものになると、樹脂内での炭素繊維同士の交絡が非常に少なくなり、必要な導電性が得られない。逆に、炭素繊維の繊維長の中心分布が、シート厚さ以上になると、炭素繊維の一部が、表面より露出できなくなり、効率の良い導電性が得られない。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、導電性樹脂シートは、フレキシブル性を有することができ、ロール状等に巻くことで収納性を向上できる。しかも、一定の厚みがあることで、プラスチックやゴムの樹脂特性により優れた引張強度等を有することから、シートの耐久性を維持することができる。よって、運搬性に優れた、耐久性のある導電性樹脂シートを得ることができる。
【0015】
一方、厚さが0.5mmより薄いと引張強度が小さいので、破れるやすくなるなど、耐久性は低下する。逆に、厚さが3mmより厚いと、耐久性は問題ないが、巻き径が大きくなり、また重量も大きくなり、運搬性が悪くなる。
【0016】
なお、本発明品の導電性樹脂シートでは、PAN系炭素繊維を用いることによって、カーボンブラックやPICHI系炭素繊維を含有させたものより優れた導電性を得ることができる。よって、含有量を少なくできることから、成型性が安定し、意匠性の低下を防止でき、耐久性のある導電性樹脂シートができる。
【0017】
また、本発明における含有する炭素繊維の長さとは、あらかじめカットする場合と、製造する際にスクリュー等で応力が加わる事で、せん断される場合があり、それら加わった後の製品等に含有する炭素繊維の長さを意味する。なお、それらの長さ測定の方法は、マイクロスコープ「オムロン 形VC4500 3Dデジタルファインスコープ」を使用して、300倍拡大にて長さ測定し、サンプル数10個の平均値を用いた。
【0018】
さらに、本発明品の樹脂としては、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、ナイロン樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(UR)、その他ブレンドゴム、エラストマー等が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1および第2の実態の形態に係わる樹脂シートの断面図である。
【図2】本発明の第1および第2の実施の形態に係わる凹凸のエンボス加工を付与した樹脂シートの断面図である。
【図3】せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が、1.5mmでかつ塩化ビニル樹脂シートの厚みが3mm厚である平面における300倍拡大写真(オムロン 形VC4500 3Dデジタルファインスコープにて)である。
【図4】せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が、1.5mmでかつ塩化ビニル樹脂シートの厚みが1mm厚である平面における300倍拡大写真(オムロン 形VC4500 3Dデジタルファインスコープにて)である。
【図5】せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が、0.1mmでかつ塩化ビニル樹脂シートの厚みが3mm厚である平面における300倍拡大写真(オムロン 形VC4500 3Dデジタルファインスコープにて)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0021】
せん断後の繊維長の中心分布が、0.1mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ0.1mm)を10%および15%含有させた塩化ビニル樹脂シート(以下塩ビシートとする。)と、せん断後の繊維長の中心分布が、1.5mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を10%および15%および20%それぞれ含有させた塩ビシートを作製し、表面抵抗値を測定した。なお、カーボンブラックと比較をするために、導電性カーボンブラック(東海カーボン製のトーカブラック♯5500)を20%含有させた塩ビシートを作製した。
【0022】
続いて、表面抵抗値の測定を実施し、その測定は、温度23℃、湿度50%下、測定機器であるアドバンステスト製R8340を用いた。主電極50φ、対向電極70φを使用し5kg加重下、JISK6911に準じて、電圧500Vを測定条件とした。なお、表面抵抗値が低い導電体領域の場合(表1では10〜10Ωを示している)は、電圧1Vを測定条件とした。
【0023】
【表1】

【0024】
樹脂シートが、静電気が帯電しがたく、除電できる表面抵抗値は、10Ω付近以下であることが知られている。なお、表面抵抗値が低いほうが、導電性が高いことになる。よって、測定方法は、表面抵抗値は10Ω以下を合格とした。表にも、10Ω以下の合格を○で示し、10Ω以上の不合格を×で示した。以下の全ての試験において、表面抵抗値は、10Ω以下を合格とした。
【0025】
前記の表1の結果を考察する。炭素繊維の含有量が多いと表面抵抗値は下がる傾向が一部に見受けられるが、著しく変化することはない。特に重要なことは、せん断後の炭素繊維の繊維長は長い方が、導電性の向上に寄与することであった。ただし、シート厚さに対して、その長さは小さいことが導電性の向上に寄与する重要な条件となる。注目すべきことは、せん断後の繊維長の中心分布が、1.5mmの炭素繊維を15%および20%を含有させた塩ビシートの場合、表面抵抗値が10Ωと、カーボンブラック等では、得ることができないような優れた導電性を得ることができた。なお、導電性カーボンブラック(トーカブラック♯5500)を20%含有させた塩ビシートは、導電性が低く、不合格であった。
【実施例2】
【0026】
表2の試験では、塩ビシートの厚さに対して、炭素繊維の長さの影響を確認するための試験を実施した。塩ビシート1mm厚と2mm厚に対して、実施例1と同じPAN系炭素繊維を用い、含有量は10%と一定にさせ、サンプルを作製した。PAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を用いて、塩ビシートとの混合時間により、せん断後の繊維長を制御させ、せん断後の繊維長の中心分布は、表2のとおり、0.25〜1.5mmの5種類と0.1mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ0.1mm)とのそれぞれ合計6種類サンプルを作った。前記表1と同様方法にて、表面抵抗値を測定した。
【0027】
【表2】

【0028】
前記の表2の結果を考察する。塩ビシート1mm厚では、せん断後の繊維長の中心分布が、0.25mmと0.6mmと0.9mmの場合、電気抵抗値が低くなり、導電性は高く合格できた。塩ビシート2mm厚では、せん断後の繊維長の中心分布は、0.25〜1.5mmの場合、電気抵抗値が低くなり、導電性は高く合格できた。しかし、いずれのシート厚でも、せん断後の繊維長の中心分布は0.1mmであると電気抵抗値が高くなり、導電性は低く不合格であった。これらの事から、この繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下の繊維長の中心分布にすることが、導電性の寄与する重要な条件となると言える。なお、この繊維長はシート厚さを超えてはならないが、できるだけ長くするほうが好ましく、電気抵抗値は低くできる。
【実施例3】
【0029】
表3の試験では、PAN系炭素繊維とPICHI系炭素繊維についての比較試験を行った。PAN系炭素繊維については、原料は東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μmのせん断前長さ3mmと6mmを用いた(せん断後長さ1.1mm)。また、PICHI系炭素繊維については、大阪ガスケミカルの品番S−231(炭素短繊維太さ13μm、せん断前長さ3.3mm)およびS−232(炭素短繊維太さ13μm、せん断前長さ5.5mm)を用いた(せん断後長さ1.1mm)。含有量は10%と一定にさせた。表3のとおりに塩ビシート2mm厚のサンプルを作り、前記表1の方法と同様に表面抵抗値を測定した。
【0030】
【表3】

【0031】
前記表3の結果を考察する。PAN系炭素繊維を用いたシートの表面抵抗値は、10Ω以下であるので、導電性は合格できた。一方、PICHI系炭素繊維を用いたシートの表面抵抗値は、10Ω以上であるので、不合格であった。よってPAN系炭素繊維は、PICHI系炭素繊維よりも少ない量で、導電性の向上に寄与できることがわかった。
【実施例4】
【0032】
表4の試験では、せん断後の繊維長の中心分布が、1.1mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を、5%、7%、10%、15%、20%、30%それぞれ含有させた塩ビシート2mm厚のサンプルを作製した。これら溶融押出成型後の成型性を確認し、さらに前記表1の方法と同様に表面抵抗値を測定した。
【0033】
【表4】

【0034】
表4の評価方法の成型性は、○とは、ヒビ割れや塊がなく、外観も良好である。また、×とは、ヒビ割れや塊があり、外観も悪い。表に合格を○で示し、不合格を×で示した。なお、表面抵抗値においては、前記の試験と同様に10Ω以下を合格とした。表にも、10Ω以下の合格を○で示し、10Ω以上の不合格を×で示した。
【0035】
前記表4の結果を考察する。PAN系炭素繊維の配合量は、重量比7〜20%含有したものは、成型性が良く、さらに、塩ビシートの表面抵抗値は、10Ω以下であり、導電性についても合格できた。
【実施例5】
【0036】
表5の試験では、せん断後の繊維長の中心分布が、1.1mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を、10%と20%それぞれ含有させ溶融押出成型した塩ビシートに対して、引張試験を行い、抗張力を求めた。測定機器は、ORIENTEC 万能引張試験機 テンシロン RTC−1250Aを用い、測定条件は、室温23℃、50%下、引張スピード200mm/min、つかみ間隔115mmにて、試験サンプルは、ダンベル1号−A型を用いた。また、試験サンプルを作製するための溶融押出成型の際、樹脂が連続し押出する長尺方向を縦とし、その直交する幅方向を横とした。
【0037】
【表5】

【0038】
評価方法は、40Nmm以上を合格とした。表に合格を○で示し、不合格を×で示した。
【0039】
前記表5の結果を考察する。抗張力に関しては、炭素繊維の含有量が増えることで低下することがわかった。PAN系炭素繊維の含有率が、縦および横ともに20%で合格できたことから、含有量の低いものは、全て問題なく合格できると判断できる。
【実施例6】
【0040】
表6の試験では、前記の表5での抗張力(引張試験)と実際に施工する必要な強度との相関性を確認するために、試験施工を行った。ガソリンスタンドに想定したコンクリート床面の上に、大きさ1m×2mにて、表5における炭素繊維を重量比20%含有させた塩ビシートを接着剤で固定し、車両を1日約50台停車させ、約2ヶ月後、試験サンプルの状況を目視観察した。
【0041】
【表6】

【0042】
表6の評価方法は観察によるものである。○とは、特に破損なく、2ヶ月では合格するが、さらに経時により破損の心配があると想定されるもの。◎とは、特に破損なく、さらに1年経過しても、破損の心配はないと想定されるもの。
【0043】
前記表6の結果より、厚みは、0.5mm以上であれば、使用できると判断できる。なお、好ましくは、2mm厚以上である。
【実施例7】
【0044】
表7の試験では、せん断後の繊維長の中心分布が、0.4mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を10%含有させ、可塑剤(DOP)を一定にした軟質塩ビシートについて、0.5mm、1mm、2mm、3mm、4mm厚のものを押出成型した。なお、それぞれシートは、幅1mにて押出し、長さ2mにてカットを行った。さらにこの幅1m×長さ2mのものを、長さ方向へロール状に巻いていき、その巻き作業が問題なくできるかどうかを確認した。
【0045】
【表7】

【0046】
表7の評価方法は、◎とは、特に問題なく巻ける。○とは、特に問題なく巻けるが、少し硬い感がある。△とは、巻けるが、巻き径が大きくなるので、注意が要するもの。◎および○を合格とした。
【0047】
表7の結果より、0.5〜3mmの軟質塩ビシートであれば、巻く事ができ、運搬し易い導電樹脂シートができる。なお、表5および表6の結果より、厚みによる破損強度も問題ないと判断できる。
【実施例8】
【0048】
表8の試験では、せん断後の繊維長の中心分布が、1.1mmのPAN系炭素繊維(東レ製のPAN系炭素短繊維太さ7μm、せん断前長さ12mm)を7%、10%、15%それぞれ含有させた塩ビシート2mm厚のものを作製した。これらを使って静電気の除電をできるかどうか確認するために、JIS L 1023に準じ、人体帯電圧測定を行った。なお、測定場所は、大阪府立産業技術総合研究所で測定した。また、比較のために、三菱化学製ファーネスカーボンブラック5%含有させた塩ビシートをブランクとし、さらに東北ゴム製品名テックシートを比較させた。
【0049】
室温23℃、湿度20%下、それぞれの試験片に所定の歩行を行い、人体帯電圧を測定し、その後、帯電減衰状況を測定しながら3秒後電圧を求めた。なお、被験者は身長約170cm、約65kgの男性の成人で、靴は、一般に販売されている発泡クッション層がある運動靴を使用した。
【0050】
【表8】

【0051】
表8の結果より、本発明品は、優れた除電効果を得られることがわかった。
【実施例9】
【0052】
図1は、本発明の第1および第2の実施の形態に係わる樹脂シートの断面図であり、炭素繊維11は表面から露出している。なお、炭素繊維12は樹脂シート10の中に埋没し交絡している。
【0053】
また、図中10は、樹脂であり、シート化したものである。一般的に生産の優れた連続押出成形が適応可能であり、長尺シートを生産することができる。
【実施例10】
【0054】
図2は、本発明の第1および第2の実施の形態に係わる樹脂シートの断面図であり、成型時に凹凸のエンボス加工を付与しており、炭素繊維11は表面から露出している。なお、炭素繊維12は樹脂シート10の中に埋没し交絡している。図中100は、凹凸のエンボスを付与しており、その露出された炭素繊維を間隔は、まばらになることから、除電等する際の先端の電界は上昇することから、その性能が向上できる。
【実施例11】
【0055】
図3は、せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が、1.5mmでかつ塩化ビニル樹脂シートの厚みが3mm厚である平面における300倍拡大写真である。これは、炭素繊維の一部がシートの表面から露出されていることがわかり、図4は、1mmシート厚では、ほとんど炭素繊維が露出していないことも認められた。すなわち、せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が、シートの厚みより小さいと表面より露出されていることが認められた。
【実施例12】
【0056】
図5は、せん断後のPAN系炭素繊維長の中心分布が0.1mmで、かつ塩化ビニル樹脂シートの厚みが3mm厚である平面における300倍拡大写真である。炭素繊維の一部がシートの表面から露出されていることが認められた。これは、せん断後の炭素繊維長の中心分布が、厚みより小さいと表面より露出されていることになる。しかしながら、炭素繊維を重量比7〜20%含有しているが、その含有する炭素繊維長は、本発明における繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmの範囲内でないため、表1からもわかるように表面抵抗値が高く、導電性が低い。
【0057】
前記の表1からと図3から図5より、まとめると、PAN系炭素繊維において、その繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下であって、その繊維長であるPAN系炭素繊維を、重量比7〜20%含有することによって、炭素繊維を交絡することができ、炭素繊維の一部が表面から多く露出できることから、炭素繊維を含有する樹脂シートの導電性が、最大限に発揮できる。
【0058】
記述したこれらの実施例からもわかるように、導電性を付与させるための炭素繊維の含有量は、カーボンブラック等と比べ少なくできる。よって、製造する際の成型性が安定し、意匠性の低下を防止できる。本発明によって、確実に、炭素繊維の交絡できることと炭素繊維の一部が表面から多く露出できることから、PAN系炭素繊維を含有する樹脂シートは、カーボンブラックやPICHI系炭素繊維を含有させたものより優れた導電性を得ることができる。また、樹脂が主成分であることから、敷設の際にも、人や車両の荷重が繰り返して負荷されても破壊されにくい。
【0059】
以上の実施例は、塩化ビニル樹脂(PVC)について記述したが、その他樹脂として、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、ナイロン樹脂(PA)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート樹脂(PC)、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(UR)、その他ブレンドゴム、エラストマー等も同じように配合することで同等に近い効果が得られると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明品では、屋内外問わず広く、高い導電性又は除電効果の高いシートが提供できる。特に軟質塩化ビニル樹脂のようなフレキシブル性があり、高い導電性へ制御したものは、静電気をはじめとする優れた除電効果を得ることができ、そのフレキシブル性を活かし、不陸調整が簡素化されるOAフロアー等の床下にも施工に応用できる。さらに、導電性から半導電性の性質に制御したものは、ガソリンスタンドや溶剤倉庫等の除電マットとして床面に敷設することで、人体や車両が除電され、静電気による火災の防止が期待できる。その他、運搬時の静電気放電によって故障するようなIC等の精密機器でも、本発明品をその運搬台車の下へ敷設、すなわち、床面に敷設することによって、静電気放電を抑えることができ、よって、運搬時の静電気放電による故障を未然に防止することができる。しかも、持ち運びができるため、必要な箇所に簡易に施工が可能である。
【0061】
さらに加えて、飛行機や自動車の材料に炭素繊維が応用され始めていることから、本発明品に、それらの不良品や使用後に再利用でき、原料とすることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 樹脂シート
11 一部表面から露出した炭素繊維
12 埋没し交絡した炭素繊維
100 凹凸のエンボス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PAN系炭素繊維において、その繊維長の中心分布が0.2〜1.5mmで、かつ、シート厚さ以下であって、その繊維長であるPAN系炭素繊維を、重量比7〜20%含有することを特徴とする導電性樹脂シート。
【請求項2】
前記請求項1に記載の導電性樹脂シートにおいて、0.5〜3mmの厚みを有することを特徴とする導電性樹脂シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36284(P2012−36284A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176837(P2010−176837)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(591100448)パネフリ工業株式会社 (31)
【出願人】(597151390)株式会社大石コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】