説明

導電性樹脂組成物の製造方法

【課題】少量の導電材で導電性に優れ、かつ所望の色に着色可能な導電性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】酸化アルミニウム・酸化マグネシウム固溶体、酸化亜鉛、酸化錫等の白色導電材40〜80重量%とポリエチレン系樹脂60〜20重量%の混合物を溶融混練してポリエチレン系樹脂組成物を得た後、該ポリエチレン系樹脂組成物50〜80重量%とポリプロピレン系樹脂50〜20重量%の混合物を溶融混練することを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレンやポリエチレンなどの樹脂は電気絶縁性であり、静電気によって非常に帯電しやすい材料である。このため、静電気対策が求められる用途に使用する場合には、各種の帯電防止剤や導電材を添加して使用されている。導電材としては、カーボンブラックが一般的に使用されている。
しかしながら、高い導電性を発現させるには、カーボンブラックを多量に添加した樹脂組成物を用いる必要があるため、シートやフィルムなどへの成形性が損なわれたり、機械的強度が低下するという問題があった。
【0003】
近年、このようなカーボンブラックの高濃度添加に起因する問題に関しては、非相溶のポリマーブレンド系において2重パーコレーション現象を利用することにより、カーボンブラックの添加量を低減できることが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】Advances in Polymer Technology,Vol.21,No.4,299-313(2002)
【0005】
例えば、カーボンブラックとの界面張力が低い樹脂Aと、該樹脂Aと非相溶の樹脂Bとを用い、予め樹脂Aとカーボンブラックを溶融混練したのち、樹脂Bと溶融混練すると、カーボンブラックが樹脂A中に偏在した導電性樹脂組成物が得られる(図1参照)。このような導電性樹脂組成物は、樹脂A中にカーボンブラックが高濃度に偏在し電気回路を形成するため、同量の導電材を1種類の樹脂に溶融混練して得られる樹脂組成物と比較して、少量のカーボンブラックで優れた導電性を発現することができる。このような現象を2重パーコレーションという。
逆に樹脂Bとカーボンブラックを溶融混練したのち、樹脂Aと溶融混練すると、カーボンブラックが樹脂Aと樹脂Bの両方に均一に分散してしまい、カーボンブラックの粒子と粒子の近接度が低くなり、1種類の樹脂に溶融混練して得られる樹脂組成物と同等の導電性を示す樹脂組成物しか得られない。
このような2重パーコレーション現象を制御するには、樹脂A、樹脂Bとカーボンブラックとの相互間の界面張力の値を測定することが必要であり、前記文献には各種のポリマーについての研究結果が総説されている。
【0006】
また、樹脂に添加する導電材としてカーボンブラックを用いた場合には、得られる樹脂組成物の色が黒色に限定されるといった色調の問題もあった。色調の問題は、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)や錫をドープした酸化インジウム(ITO)などの白色導電材を用いることで解決することができる。しかしながらこれら白色導電材は、カーボンブラックに比べて密度が大きいため、カーボンブラックと同等の導電性を発現させるためには、カーボンブラックよりも多量に添加する必要があった。白色導電材の添加量を減少させる方法として、前記した2重パーコレーション現象を利用することが考えられるが、カーボンブラック以外の導電材を用いた系においては、界面張力の値が報告されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、白色導電材を使用し、2重パーコレーション現象を利用して、少量の導電材で導電性に優れ、かつ所望の色に着色可能な導電性樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、白色導電材40〜80重量%とポリエチレン系樹脂60〜20重量%の混合物を溶融混練してポリエチレン系樹脂組成物を得た後、該ポリエチレン系樹脂組成物50〜80重量%とポリプロピレン系樹脂50〜20重量%の混合物を溶融混練することを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性樹脂組成物の製造方法によれば、少量の導電材で導電性に優れ、かつ所望の色に着色可能な導電性樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明で用いる白色導電材に関して説明する。白色導電材としては、公知の導電材を使用することができ、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)やガリウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、さらにはATOやITOなどの導電材を酸化アルミニウムや酸化チタンなどのフィラー表面に被覆したものなどを使用することができる。
安全性を考慮すると、アンチモンやインジウムなどの有害物質を含まない、酸化アルミニウム・酸化マグネシウム固溶体や酸化亜鉛、酸化錫が好ましい。白色導電材は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0011】
酸化錫としては、導電性とその経時安定性の観点から、例えば特開2006−59806号公報に記載されているような、特定の有機化合物で表面改質した酸化錫を使用することがさらに好ましい。
【0012】
酸化亜鉛としては、導電性や機械的強度の安定性の観点から、特開平5−25323号公報に記載されているような、シランカップリング剤などで表面改質したヒゲ状またはテトラポッド状の酸化亜鉛ウイスカを使用することがさらに好ましい。
【0013】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体等の公知の樹脂を用いることができる。ただしエチレンと炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体を用いる場合、該共重合体中のエチレン由来の構成単位の含有量は50モル%以上である。使用するポリエチレン系樹脂は1種類であってもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
特に、JIS K6760に従って測定される密度が0.920g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を用いることが好ましく、密度0.940g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を用いることがより好ましい。これは溶融状態から固化する際に、導電材が結晶部からはじき出され、少ない非結晶部に導電材が高濃度に偏在することによって、導電性が向上しやすくなるためである。なおポリエチレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物の密度が前記範囲であることが好ましい。
【0014】
また、本発明で用いるポリエチレン系樹脂のMFR(190℃)は、20〜80(g/10min)であることが好ましく、30〜50(g/10min)であることがより好ましい。ここでMFR(190℃)とは、190℃におけるメルトフローレートであり、JIS K7210に従って、温度190℃、荷重2.16kgfで測定される値である(単位 g/10分)。なおポリエチレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物のMFRが前記範囲であることが好ましい。
前記範囲のMFRのポリエチレン系樹脂を用いることにより、導電材の分散性が向上し、かつ、得られる組成物を成形した場合には機械的強度に優れる成形品となる。特に導電材がヒゲ状またはテトラポッド状の酸化亜鉛ウイスカのように球状ではない場合には、ポリエチレン系樹脂のMFRが低すぎると、溶融混練中に導電材が折損してしまうことがある。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、例えばプロピレン単独重合体、プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4〜20のα−オレフィン等のコモノマーとの共重合体、またはこれらに非晶性のエチレン・α−オレフィン共重合体が分散している重合体などが挙げられる。なお、プロピレンと他のコモノマーとの共重合体を使用する場合、該共重合体中のプロピレン由来の構成単位含有量は50モル%以上である。
ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)は1〜30(g/10min)であることが好ましく、5〜20(g/10min)であることがより好ましい。ここでMFR(230℃)とは、230℃におけるメルトフローレートであり、JIS K7210に従って、温度230℃、荷重2.16kgfで測定される値である(単位 g/10分)。なおポリプロピレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物のMFRが前記範囲であることが好ましい。
前記範囲のMFRのポリプロピレン系樹脂を用いることにより、導電材の分散性が向上し、かつ、得られる導電性樹脂組成物を成形した場合には機械的強度に優れる成形品となる。
【0016】
次に、前記の白色導電材、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂を用いる導電性樹脂組成物の製造方法に関して説明する。
まず、予め、白色導電材40〜80重量%とポリエチレン系樹脂60〜20重量%を混合し、押出機やバンバリーミキサーなどの混練機を用いて溶融混練することによって、導電材を分散させたポリエチレン系樹脂組成物を製造する。以下、ポリエチレン系樹脂組成物を製造する該工程を、第一工程と称することもある。
白色導電材が40重量%より少ないと、ポリプロピレン系樹脂を混合させた最終的に得られる樹脂組成物の導電性が不十分になりやすい。また、白色導電材が80重量%よりも多いと、得られる導電性樹脂組成物を成形した成形品の機械的強度が不十分となることがある。
白色導電材の割合は、50〜70重量%であることが好ましい。なお、前記した白色導電材とポリエチレン系樹脂の割合は、白色導電材とポリエチレン樹脂の合計重量を100%としたときの値である。
押出機としては、単軸や多軸の公知の押出機を使用することができ、複数の押出機を組み合わせたタンデム押出機も使用可能である。スクリューデザインや押出条件などは特に限定されないが、導電材の分散を充分に行うため高せん断が加えられるようにすることが好ましい。この観点から、同方向回転2軸押出機を用いることが好ましい。
【0017】
次に前記ポリエチレン系樹脂組成物50〜80重量%と、ポリプロピレン系樹脂50〜20重量%を混合し、押出機やバンバリーミキサーなどの混練機を用いて溶融混練することによって、最終的な導電性樹脂組成物を製造する。以下、最終的な導電性樹脂組成物を製造する該工程を、第二工程と称することもある。
ポリエチレン系樹脂組成物が50重量%より少ないと導電性が不十分になりやすい。また、ポリエチレン系樹脂組成物が80重量%よりも多いと機械的強度が不十分になりやすい。ポリエチレン系樹脂組成物の割合は、60〜70重量%であることが好ましい。なお、前記したポリエチレン系樹脂組成物とポリプロピレン系樹脂の割合は、ポリエチレン樹脂組成物とポリプロピレン系樹脂の合計重量を100%としたときの値である。
押出機としては、単軸や多軸の公知の押出機を使用することができ、複数の押出機を組み合わせたタンデム押出機も使用可能である。スクリューデザインや押出条件などは特に限定されないが、混練を行い過ぎると導電材がポリプロピレン系樹脂にも移行しやすくなると考えられるため、低せん断で行えるようにすることが好ましい。この観点からは、単軸押出機を用いることが好ましい。
【0018】
第一工程および/または第二工程においては、必要に応じて各種の添加剤を配合してもよい。例えば、難燃剤、充填剤、酸化防止剤、銅害防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、発泡剤、接着性改良剤等が挙げられる。
【0019】
前記第一工程と第二工程とは、連続して行ってもよく、第一工程でいったんポリエチレン系樹脂組成物をペレットにした後、該ペレットを用いて第二工程を行ってもよい。
また、第一工程で用いる押出機または混練機と、第二工程で用いる押出機または混練機は、別々の装置であってもよいし、または装置形状や製造条件を工夫することによって同一の装置で行うこともできる。例えば、同方向回転2軸押出機と単軸押出機を組み合せたタンデム押出機や、同方向回転2軸押出機の上流と下流で役割を分担させ押出機途中からポリプロピレン系樹脂をサイドフィードする装置などが挙げられる。生産性の観点からは、第一工程と第二工程を、同一の装置を用いて連続で行うことが好ましい。
【0020】
前記した方法により得られる導電性樹脂組成物は、白色導電材がポリエチレン系樹脂中に高濃度で偏在している。これは、一般的な透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて確認することができる。ここで偏在とは、導電材の全てがポリエチレン系樹脂中に存在するということではなく、大半がポリエチレン系樹脂中に存在することを意味する。
【0021】
本発明で得られる導電性樹脂組成物を用い、公知の成形加工技術、例えば押出成形、射出成形、発泡成形などによって、シートやフィルム等各種の成形品を製造することができる。具体的には、壁材や床材、IC用の静電気対策を施した各種製品(通函、仕切り、トレーなど)、複写機やファクシミリの静電気対策部材等が挙げられる。また、該導電性樹脂組成物を表層にのみ使用した積層成形物、積層シートや積層フィルムも製造することができる。導電性樹脂組成物を成形して得られる成形品の導電性は、通常表面抵抗率で103〜109(Ω/□)であり、導電性に優れる。さらに得られる導電性樹脂組成物は白色系であるので、一般的な顔料を添加することによって所望の色調の成形品を製造することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0023】
(1)密度
JIS K6760に従って測定を行った。単位はg/cm3
【0024】
(2)MFR(190℃)
JIS K7210に従い、温度190℃、荷重2.16kgfで測定した。単位はg/10分。
【0025】
(3)MFR(230℃)
JIS K7210に従い、温度230℃、荷重2.16kgfで測定した。単位はg/10分。
【0026】
(4)表面抵抗率
試験片は90mm×90mm、装置はケスレー社製絶縁計を使用し、23℃で50%相対湿度下、印加電圧100Vにおいて測定した。
【0027】
[実施例1]
白色導電材として酸化錫(三菱マテリアル株式会社製、S−2000)を、ポリエチレン系樹脂として高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、ノバテックHJ590N)を用いた。なお、高密度ポリエチレンの密度は0.960(g/cm3)であって、MFR(190℃)は40(g/10min)であった。また、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン単独重合体に非晶性のエチレン・α−オレフィン共重合体が分散した樹脂(住友化学株式会社製、ノーブレンAZ630V4)を用いた。ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)は25(g/10min)であった。
酸化錫50重量%と高密度ポリエチレン50重量%の混合物を、株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミル(温度230℃、回転数100rpm、混練時間10分)を用いて溶融混練してポリエチレン系樹脂組成物を得た。引き続き、ポリエチレン系樹脂組成物80重量%とポリプロピレン系樹脂20重量%を混合し、ラボプラストミル(温度230℃、回転数50rpm、混練時間5分)を用いて溶融混練して導電性樹脂組成物を得た。
本導電性樹脂組成物を熱プレスにて50μmのフィルムを作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察を行ったところ、酸化錫がポリエチレン系樹脂中に偏在していることが確認できた。また、該フィルムの表面抵抗率は2×108(Ω/□)であった。
【0028】
[比較例1]
酸化錫40重量%とポリプロピレン系樹脂60重量%を混合し、株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミル(温度230℃、回転数100rpm、混練時間10分)を用いて溶融混練して、実施例1と導電材含有量が同量の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を熱プレスにて50μmのフィルムを作成した。該フィルムの表面抵抗率は2×1010(Ω/□)であった。なお、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察を行ったところ、酸化錫はポリプロピレン系樹脂中に概ね均一に分散していた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】樹脂Aにカーボンブラックが偏在した導電性樹脂組成物の概念図
【符号の説明】
【0030】
1:カーボンブラックが偏在した樹脂A
2:樹脂B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色導電材40〜80重量%とポリエチレン系樹脂60〜20重量%の混合物を溶融混練してポリエチレン系樹脂組成物を得た後、該ポリエチレン系樹脂組成物50〜80重量%とポリプロピレン系樹脂50〜20重量%の混合物を溶融混練することを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記白色導電材が、酸化アルミニウム・酸化マグネシウム固溶体、酸化亜鉛および酸化錫から選択される1種以上の導電材であることを特徴とする請求項1記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂の密度が0.920(g/cm3)以上であり、かつMFR(190℃)が20〜80(g/10min)であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)が1〜30(g/10min)であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の導電性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−184574(P2008−184574A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21178(P2007−21178)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(597075823)住化プラステック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】