説明

導電性樹脂組成物の調製方法およびその導電性樹脂組成物を用いた燃料電池用セパレータ

【課題】導電性および機械的特性が改良された成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を調製する方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂成分(A1)およびエラストマー成分(A2)を有するポリマー(A)と、炭素質材料(B)を含む導電性樹脂組成物の調製方法において、前記導電性樹脂組成物中の炭素質材料(B)の含有量が80〜90質量%であり、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)とを混練する工程後、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)との混練物に炭素質材料(B)を添加、混練する工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性樹脂組成物の調製方法、ならびにその方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体および燃料電池用セパレータに関する。さらに詳しくは、炭素質材料および複数の種類の熱可塑性樹脂成分を用いた導電性および機械的特性が改良された成形体を得ることができる導電性樹脂組成物の調製方法、ならびにその方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体および燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い導電性が必要とされる用途には、金属材料や炭素材料が主として用いられてきた。しかしながら、近年のエレクトロニクス、電気化学、エネルギー、輸送機器等の分野における導電性材料の用途の多様化に伴い、導電性材料の一種たる導電性樹脂組成物が果たすべき役割が大きくなってきた。その結果、導電性樹脂組成物は高性能化、高機能化において目覚ましい発展を遂げて来た。その重要な要因として、導電性充填材と高分子材料との複合化により成形加工性が大幅に向上したことが挙げられる。
【0003】
導電性樹脂組成物においては、機械的特性や成形性等を実質的に損なわせずに、効果的に導電性を発現させることが重要である。例えば、特許文献1には、マトリックスが完全相容性でない2種以上のポリマーを混合し、より親和性の高いポリマー中へ導電性を付与するフィラーを偏在させることが開示されている。
【0004】
導電性が要求される用途としては、近年では特に回路基板、抵抗器、積層体、電極等の電子材料や、ヒーター、発熱装置部材、集塵フィルタエレメント、PTC素子、エレクトロニクス部品、または半導体部品等が挙げられる。これらの用途においては、導電性と共に高い耐熱性が要求されることとなる。
【0005】
また、導電性樹脂組成物には、成形体としての強度を上げることが重要であり、その手法も多々検討されている。例えば特許文献2では、ブラック試験により区別されるバインダ能力の高い樹脂とバインダ能力の低い樹脂を配合して混練装置で混練し、この後、カーボンブラックや黒鉛等の導電性カーボン系フィラーを混合してさらに混練することで、優れた導電性が得られ、機械的強度や成形性を改善することができる導電性樹脂組成物の製造方法が開示されている。
【0006】
ところで、近年環境問題、エネルギー問題等の観点から、燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素と酸素を利用して電気分解の逆反応で発電し、水以外の排出物がないクリーンな発電装置である。燃料電池は、その電解質の種類に応じて数種類に分類されるが、これらの中でも固体高分子型燃料電池は低温で作動するため、自動車や民生用として最も有望である。このような燃料電池は、例えば、高分子固体電解質、ガス拡散電極、触媒、セパレータから構成された単セルを積層することによって、高出力の発電が達成できる。
【0007】
上記構成を有する燃料電池において、単セルを仕切るためのセパレータには、通常、燃料ガス(水素等)と酸化剤ガス(酸素等)を供給し、発生した水分(水蒸気)を排出するための流路(溝)が形成されている。それゆえに、セパレータにはこれらのガスを完全に分離できる高い気体不透過性と、内部抵抗を小さくするために高い導電性が要求される。更には、このセパレータには、熱伝導性、耐久性、強度等に優れていることが要求される。
【0008】
これらの要求を達成する目的で従来、この燃料電池用セパレータとしては、金属材料と炭素質材料の両方から検討されてきた。これらの材料のうち、金属材料に関しては耐食性の問題から、表面に貴金属や炭素を被覆させる試みがされてきたが、充分な耐久性が得られず、更に被覆にかかるコストが問題になる。
【0009】
一方、炭素質材料に関しても多く検討が成され、膨張黒鉛シートをプレス成形して得られた成形品、炭素焼結体に樹脂を含浸させ硬化させた成形品、熱硬化性樹脂を焼成して得られるガラス状カーボン、炭素粉末と樹脂を混合後成形した成形品等が燃料電池用セパレータ用材料の例として挙げられる。
【0010】
例えば、特許文献3には、炭素質粉末に結合材を加えて加熱混合後CIP成形(Cold Isostatic Pressing;冷間等方圧加工法)し、次いで焼成、黒鉛化して得られた等方性黒鉛材に熱硬化性樹脂を含浸、硬化処理することにより燃料電池用セパレータや集電体に用いられる黒鉛部材の製造方法が開示されている。
【0011】
また、組成物の工夫によって、セパレータの高性能化が試みられてきた。例えば、特許文献4には、樹脂で被覆された炭素質粉末と、該被覆樹脂よりも高耐熱性の樹脂との複合化により、優れた機械的特性および電気的特性を兼ね備えたセパレータが開示されている。特許文献5には、低融点金属、金属粉末、熱可塑性プラスチック、および熱可塑性エラストマーの混合物からなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−263156号公報
【特許文献2】特開平10−87874号公報
【特許文献3】特開平8−222241号公報
【特許文献4】特開2003−257446号公報
【特許文献5】特開2000−348739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した特許文献1および2の導電性樹脂組成物は、少量の導電性充填材で高い導電性を発現することを狙ったものである。そのため導電性充填材の含有量が樹脂組成物中に最大でも60質量%程度であり、燃料電池用セパレータ等の高い導電性が要求される用途には不十分である。特許文献3に開示されている黒鉛部材の製造方法は煩雑であり、さらにこの部材を用いて燃料電池用セパレータを製造するためには溝を切削加工によって彫る工程が必要となるため生産性に劣り低コスト化に不利である。特許文献4に開示されている複合材は、その製造に有機溶媒を用いる必要があり、作業性が悪い。特許文献5の樹脂組成物は導電性充填材として金属を使用するため腐食の問題がある。また、従来の導電性充填材をバインダ樹脂にブレンドさせた導電性樹脂組成物およびそれから成る種々の成形体は、高い導電性を発現させるため、導電性充填材の充填量を大幅に増やす必要が有り、その結果高い導電性が得られても曲げ強度、曲げひずみの低い、脆い導電性樹脂成形体しか得ることができなかった。
【0014】
本発明は、炭素質材料をバインダ樹脂に高充填させた場合であってもその導電性樹脂組成物により良好な機械的特性(特に、曲げ強度、曲げひずみ)を備える成形体を単純な工程で得ることができる導電性樹脂組成物の調製方法を提供することを課題の一つとする。
【0015】
また、本発明の他の課題は、該組成物をモールド成形して得られる、導電性と機械的特性に優れた燃料電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究の結果、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分を含むポリマーと炭素質材料を含む導電性樹脂組成物を調製する際に、材料の混練の順序を工夫することで導電性および機械的特性が改良された成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を調製できることを見出した。すなわち、本発明は以下の実施態様を有する。
【0017】
[1] 熱可塑性樹脂成分(A1)およびエラストマー成分(A2)を有するポリマー(A)と、炭素質材料(B)を含む導電性樹脂組成物の調製方法であって、前記導電性樹脂組成物中の炭素質材料(B)の含有量が80〜90質量%であり、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)とを混練する工程後、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)との混練物に炭素質材料(B)を添加、混練する工程を有することを特徴とする導電性樹脂組成物の調製方法。
[2] 熱可塑性樹脂成分(A1)が融点100℃以上の結晶性の炭化水素系樹脂であり、エラストマー成分(A2)が熱可塑性エラストマーであることを特徴とする[1]に記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
[3] 熱可塑性樹脂成分(A1)がポリプロピレン樹脂であり、エラストマー成分(A2)がスチレン系エラストマーであることを特徴とする[1]または[2]に記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
[4] ポリマー(A)中のエラストマー成分(A2)の配合割合が0.05〜10質量%であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
[5] 炭素質材料(B)が0.05〜5質量%のホウ素を含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体。
[7] [1]〜[5]のいずれかに記載の方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる燃料電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱可塑性樹脂成分、エラストマー成分および炭素質材料の混練を熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との第一の混練後、この混練物と炭素質材料との第二の混練との二段階で行うことで熱可塑性樹脂成分、エラストマー成分、炭素質材料を一括して混練する場合に比べて導電性および機械的特性が改良された成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を調製することができ、特に燃料電池用セパレータ用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に説明する。
【0020】
本発明の導電性樹脂組成物の調製方法は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分および炭素質材料を含む導電性樹脂組成物の調製方法である。すなわち、熱可塑性樹脂成分(A1)およびエラストマー成分(A2)を有するポリマー(A)と、炭素質材料(B)を含む導電性樹脂組成物の調製方法であって、前記導電性樹脂組成物中の炭素質材料(B)の含有量が80〜90質量%であり、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)とを混練する工程後、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)との混練物に炭素質材料を添加、混練する工程を有することを特徴とする。
【0021】
(ポリマー)
本発明で用いられるポリマー(A)は、導電性充填材である炭素質材料のバインダ成分であり、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)を含む。両者を含むことが物理的、化学的、機械的特性等のバランスが優れた燃料電池用セパレータを得る上で好ましい。
【0022】
(熱可塑性樹脂成分(A1))
本発明で用いられる熱可塑性樹脂成分(A1)の具体例としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、その他のポリオレフィン、ポリシクロオレフィン等の炭素原子と水素原子より構成される炭化水素系樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルホン等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、熱可塑性樹脂成分(A1)として融点が100℃以上の結晶性の炭化水素系樹脂を主成分として用いることが好ましい。本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)中に融点が100℃以上の結晶性の炭化水素系樹脂を含有させることにより樹脂組成物の耐加水分解性を向上させることができる。より好ましくは融点が110℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。融点が100℃以上の結晶性の炭化水素系樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、シンジオタックチックポリスチレン等が挙げられる。これらの中で最も好ましい樹脂成分としてはポリプロピレン樹脂が挙げられる。融点100℃未満では、燃料電池用セパレータとして適用する場合にはクリープする傾向があり好ましくない。
【0024】
本発明において融点は、JIS K7121に準拠し、パーキンエルマー社製の示差走査熱量測定(DSC7)を用いて測定した。より具体的には、約30mgの試料を用いて20℃/分の速度で昇温し、観察される融解ピーク温度を融点とした。
【0025】
(エラストマー成分(A2))
本発明で用いられるポリマー(A)中にエラストマー成分(A2)を含有させることにより成形体を割れにくくすることができる。本発明で用いられるエラストマーは、常温付近でゴム状弾性を有する高分子である。このエラストマーとしては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム、水添スチレンブタジエンラバー、エチレンプロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレンプロピレンジエン三元共重合ゴム、エチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、ポリエーテル系特殊ゴム、四フッ化エチレン・プロピレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、ノルボルネンゴム、ブチルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、軟質アクリル樹脂等の中から選ばれた1種または2種以上の組み合わせが使用可能である。
【0026】
上記した中でも、炭化水素系のエラストマーであるスチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレンプロピレンジエン三元共重合ゴム、エチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーから選ばれる1種または2種以上の組み合わせを用いることが耐加水分解性の点から燃料電池用セパレータとして適用する場合に好ましく、特にスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0027】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックコポリマー、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックコポリマー、スチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマーが好ましい。
【0028】
上記ポリマー中のエラストマー成分(A2)の配合割合は0.05〜10質量%とすることが好ましい。この範囲とすることにより良好な機械的強度を有し、かつ割れにくい成形体とすることができる。より好ましくは1質量%〜10質量%であり、更に好ましくは2質量%〜5質量%である。エラストマー成分の含有量が0.05質量%未満では、耐衝撃性が不十分である。2質量%以上であると、30MPa以上の曲げ強度、1%以上の曲げ歪を得ることができより好ましい。エラストマー成分の含有量が10質量%以上では剛性が不足し、燃料電池用セパレータとして適用する場合流路の変形や、ガス不透過性の悪化を招くことがある。
【0029】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(A)中には、上記熱可塑性樹脂成分(A1)およびエラストマー成分(A2)以外の樹脂成分を成形体の特性に悪影響を与えない範囲で必要に応じて含有させることができる。
【0030】
(炭素質材料)
本発明で用いられる炭素質材料としては、導電性を有するものであれば特に制限はないが、人造黒鉛または天然黒鉛を使用することが本発明の効果を発現する上で好ましい。
【0031】
上記した人造黒鉛を得るためには、通常は先ずコークスを製造する。コークスの原料は石油系ピッチ、石炭系のピッチ等が用いられる。これらの原料を炭化してコークスとする。コークスから黒鉛化粉末にするには一般的にコークスを粉砕後黒鉛化処理する方法、コークス自体を黒鉛化した後粉砕する方法、あるいはコークスにバインダを加え成形、焼成した焼成品(コークスおよびこの焼成品を合わせてコークス等という)を黒鉛化処理後粉砕して粉末とする方法等がある。原料のコークス等はできるだけ、結晶が発達していない方が良いので、2000℃以下、好ましくは1200℃以下で加熱処理したものが適する。
【0032】
黒鉛化方法は、粉末を黒鉛ルツボに入れ直接通電するアチソン炉を用いる方法、黒鉛発熱体により粉末を加熱する方法等を使用することができる。
【0033】
(ホウ素)
上記炭素質材料の導電性を向上させるため、炭素質材料中にホウ素を0.05〜5質量%含有させることが好ましい。ホウ素量が0.05質量%未満では、目的とする高導電性の黒鉛粉末が得られ難い傾向がある。ホウ素量が5質量%を超えて含まれていても、炭素質材料の導電性向上に寄与し難くなる傾向がある。炭素質材料に含まれるホウ素の量の測定方法としては特に制限はない。本発明では誘導型プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP」と略す。)または誘導型プラズマ発光分光質量分析法(以下、「ICP−MS」と略す。)により測定した値を用いる。具体的には試料に硫酸および硝酸を加え、マイクロ波加熱(230℃)して分解(ダイジェスター法)し、更に過塩素酸(HClO)を加えて分解したものを水で希釈し、これをICP発光分析装置にかけて、ホウ素量を測定する。
【0034】
ホウ素を含有させる方法としては、コークス、ピッチ、天然黒鉛、人造黒鉛等の単品、あるいはそれらの1種以上の混合物にホウ素源として、B単体、BC、BN、B、HB0等を添加し、よく混合して約2300〜3200℃で黒鉛化処理することによって、炭素質材料中にホウ素を含有させることができる。ホウ素源の混合が不均一な場合には、黒鉛粉末が不均一になるだけでなく、黒鉛化時に焼結する可能性が高くなる。ホウ素化合物を均一に混合させるために、これらのホウ素源は50μm以下、好ましくは20μm以下程度の粒径を有する粉末にしてコークス等の粉末に混合することが好ましい。
【0035】
また、黒鉛中にホウ素および/またはホウ素化合物が混合されている限り、ホウ素の含有の形態は特に制限されないが、黒鉛結晶の層間に存在するもの、黒鉛結晶を形成する炭素原子の一部がホウ素原子に置換されたものも、より好適なものとして挙げられる。また、炭素原子の一部がホウ素原子に置換された場合のホウ素原子と炭素原子の結合は、共有結合、イオン結合等どのような結合様式であっても構わない。
【0036】
(粉砕)
人造黒鉛、天然黒鉛等の粉砕には、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル)や各種ボールミル(転動ミル、振動ミル、遊星ミル)、撹拌ミル(ビーズミル、アトライター、流通管型ミル、アニュラーミル)等が使用できる。また、微粉砕機であるスクリーンミル、ターボミル、スーパーミクロンミル、ジェットミルでも条件を選定することによって使用可能である。これらの粉砕機を用いて人造黒鉛、天然黒鉛等を粉砕し、その際の粉砕条件の選定、および必要により粉末を分級し、平均粒径や粒度分布をコントロールする。
【0037】
(分級)
人造黒鉛、天然黒鉛等の粉末を分級する方法としては、分離が可能であれば何れでも良いが、例えば、篩分法や強制渦流型遠心分級機(ミクロンセパレーター、ターボプレックス、ターボクラシファイアー、スーパーセパレーター)、慣性分級機(改良型バーチュウアルインパクター、エルボジェット)等の気流分級機が使用できる。また湿式の沈降分離法や遠心分級法等も使用できる。
【0038】
(添加剤)
本発明の導電性樹脂組成物中には、酸化防止剤、ハロゲン捕捉剤、紫外線吸収剤などを予め熱可塑性樹脂100質量部に対して、合計量が0.01〜5質量部の範囲で必要に応じて1種以上添加させることができる。さらに、本発明の導電性樹脂組成物には、硬度、強度、導電性、成形性、耐久性、耐候性、耐水性、表面性状などを改良する目的で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、補強材(ガラスファイバー、ウィスカー、有機繊維、炭素繊維など)、難燃剤、界面活性剤、表面改質剤(親水性付与剤、撥水性付与剤、摺動性付与剤など)などから選ばれる1種または2種以上の組合せからなる添加剤を合計量として0.01〜20質量%含有させることができる。
【0039】
(導電性樹脂組成物の調製方法)
本発明は導電性樹脂組成物を調製する際の混練工程に特徴を有する。従来は複数の成分を有するポリマーと炭素質材料を含む樹脂組成物を調製する際これらの原料を一括して混練していたのに対して、本発明では、まず熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)とを混練した後、この混練物に炭素質材料を添加、混練する。ポリマーに熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)以外の成分を含む場合は、これらを一括して混練してもよいし、逐次混練してもよいが、炭素質材料を混練する前に混練しておくことが好ましい。炭素質材料を混練する前にポリマーを構成する複数の成分を十分均一に混練しておくことで多量の炭素質材料を添加しても均一な混練状態を得ることができ、ポリマーと炭素質材料を一括混練する場合に比べて導電性と機械的特性を向上させることができる。本発明で調製される導電性樹脂組成物中の炭素質材料(B)の含有量は80〜90質量%である。炭素質材料(B)の含有量が80質量%未満では燃料電池用セパレータに要求される高い導電性を得るには不十分であるとともに、本発明の効果を殆ど発現しない。炭素質材料(B)の含有量が80質量%以上で本発明の効果が発現する。炭素質材料(B)の含有量が90質量%より多いと良好な成形性が得にくい。
【0040】
本発明の導電性樹脂組成物の調製に用いる混練手段は特に制限されないが、例えば、上記した各成分をロールミル、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の樹脂分野で一般的に用いられている混練機を使用し、なるべく均一に熱可塑性樹脂成分を混練した後炭素質材料を添加・混練させることが好ましい。
【0041】
本発明における導電性樹脂組成物は、上記成分を混練した後、成形機や金型への材料供給を容易にする目的で、粉砕あるいは造粒することができる。粉砕には、ホモジナイザー、ウィレー粉砕機、高速回転粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ケージミル、ブレンダー)等を使用でき、材料同士の凝集を防ぐため冷却しながら粉砕することが好ましい。造粒には、押出機、ルーダー、コニーダー等を用いてペレット化する方法、あるいはパン型造粒機等を使用する方法がある。
【0042】
(導電性樹脂成形体の製造方法)
本発明における導電性樹脂組成物の成形体の製造方法は特に制限されない。製造方法の具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、注型法、射出圧縮成形法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
また、導電性樹脂組成物は、厚み精度の良い成形体を得るために、一度押出機、ロール、カレンダー等を用いて所定の厚み、幅のシートに可塑化する温度で成形してもよい。より厚みを精度良く成形するためには、押出機で成形後、ロールやカレンダーで圧延することが好ましい。
【0044】
得られたシートは目的の大きさにカットまたは、打ち抜き、金型内に1枚、または2枚以上並列に並べるか、重ねて挿入し、圧縮成形機で成形することによって成形体を得ることができる。
【0045】
(導電性樹脂組成物の用途)
本発明の導電性樹脂組成物は、モールド成形が容易なため燃料電池用セパレータのように厚み精度を要求される分野の複合材料として最適である。更に、その成形体は、黒鉛の導電性や熱伝導性を限りなく再現でき、成形精度等に優れる点で極めて高性能なものが得られる。従って、エレクトロニクス分野、電機、機械、車輌等の各種部品等の各用途に有用であり、特に、コンデンサー用または各種電池用集電体、電磁波遮蔽材、電極、放熱板、放熱部品、エレクトロニクス部品、半導体部品、軸受、PTC素子、ブラシおよび燃料電池用セパレータに好適な材料として挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。
【0047】
実施例1
炭素質材料として、非針状コークスであるエム・シー・カーボン(株)製MCコークスをパルベライザー(ホソカワミクロン(株)製)で3mm以下の大きさに粗粉砕した。この粗粉砕品をジェットミル(IDS2UR、日本ニューマチック(株)製)で微粉砕した。その後、篩による分級により64μmより大きな粗粒を除去した。5μm以下の粒子除去は、ターボクラシファイアー(TC15N、日清エンジニアリング(株)製)を用い、気流分級を行った。この調整した微粉砕品の一部に炭化ホウ素(BC)をコークスに対し、1質量%加え、ヘンシェルミキサーにて800rpmで5分間混合した。これを蓋付き黒鉛ルツボに封入し、黒鉛ヒーターを用いた黒鉛化炉に入れて、炉内を一旦真空にしてアルゴンガス置換し、内圧1.2atm、アルゴンガス雰囲気の気流下で2800℃の温度で黒鉛化した。これをアルゴンガス雰囲気で放冷後、粉末を取り出し、黒鉛微粉(b1)を得た。得られた黒鉛微粉の平均粒径は20μmであった。
【0048】
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N、融点168℃)97.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))2.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a1)を得た。
【0049】
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a1)12質量部をラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度220℃、40rpmで5分間混練し、導電性樹脂組成物(c1)を得た。
【0050】
得られた導電性樹脂組成物(c1)を100mm×100mm×1.5mmの平板成形用金型に投入し、50t真空圧縮成形機((株)名機製作所製、MHPC−V−450−450−1−50)を用いて温度240℃、予熱5分後、圧力20MPaで3分間加圧加熱し、その後、加圧したまま10分間冷却させて成形体を得た。
【0051】
実施例2
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)98.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))1.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a2)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a2)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c2)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c2)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0052】
実施例3
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)96.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))3.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a3)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a3)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c3)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c3)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0053】
実施例4
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)95.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))4.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a4)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a4)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c4)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c4)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0054】
実施例5
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)94.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))5.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン社製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a5)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a5)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c5)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c5)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0055】
実施例6
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)89.5質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))10.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a6)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a6)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c6)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c6)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0056】
実施例7
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)97.5質量部、およびスチレン系エラストマー(水添スチレンブタジエンラバー(H−SBR、JSR(株)製、ダイナロン1320))2.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a7)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a7)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c7)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c7)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0057】
実施例8
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に、ポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)98.5質量部、およびスチレン系エラストマー(水添スチレンブタジエンラバー(H−SBR、JSR(株)製、ダイナロン1320))1.0質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.2%、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.2質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.1質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.05質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度200℃、60rpmで5分間混練し熱可塑性樹脂組成物(a8)を得た。
続いて、黒鉛微粉(b1)88質量部、樹脂組成物(a8)12質量部を実施例1と同様の方法にて混練し、導電性樹脂組成物(c8)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c8)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0058】
比較例1
実施例1と同様の方法にて黒鉛微粉(b1)を得た。
次に黒鉛微粉(b1)88質量部およびポリプロピレン(PP、サンアロマー(株)製、サンアロマー(登録商標)PX201N)11.7質量部、およびスチレン系エラストマー(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS、Shell Chemical社製、KRATON(登録商標)G 1652))0.24質量部、および酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)1330)0.024質量部、および耐熱安定剤(イオウ系、チバ・ジャパン(株)製、Irganox(登録商標)PS802FL)0.024質量部、および加工安定剤(リン系、(株)旭電化製、PEP−24G)0.012質量部、および制酸剤(ハイドロタルサイト、協和化学工業(株)製、DHT−4A)0.006質量部を、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、モデル50C150)により温度220℃、40rpmで5分間混練し導電性樹脂組成物(c9)を得た。
得られた導電性樹脂組成物(c9)を用いて実施例1と同様の方法にて成形体を得た。
【0059】
上記実施例1〜8および比較例1で得られた各成形体の物性の測定方法をまとめて以下に示す。
【0060】
体積固有抵抗は、JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。
【0061】
曲げ強度および曲げ歪は、オリエンテック(株)製(旧東洋ボールドウィン)の(TENSILON UTM−5T)を用いて測定を行った。試験片(50mm×10mm×1.5mm)をスパン間隔24mm、曲げ速度1mm/min、温度23℃および70℃の条件で3点式曲げ強度測定法により測定した。
これらの測定結果をまとめて表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1と比較例1との相違は、導電性樹脂組成物の調製方法のみが異なる。すなわち、実施例1では予め2種類の熱可塑性樹脂成分を混合後、黒鉛微粉を添加混合する2段階の工程で調製したのに対して、比較例1では2種類のバインダ樹脂成分と黒鉛微粉を一括混合により調製した。比較例1に比べて実施例1の方が曲げ強度、曲げ歪は高く、体積固有抵抗は小さい値が得られた。これより2段階の混合工程により機械的特性および導電性が向上する効果があることがわかる。
【0064】
実施例1と実施例2〜6との相違は、熱可塑性樹脂(A)を構成するポリプロピレンとスチレン系エラストマーとの混合割合のみであり、それ以外は全く同一である。測定値に多少のバラツキはあるが、スチレン系エラストマーの配合割合が多くなるにしたがって、曲げ強度は徐々に低下、曲げ歪は徐々に増加する傾向がある。曲げ強度は70℃において30MPa以上であれば燃料電池用セパレータとして使用する上で好ましく、この点ではスチレン系エラストマーの含有量は5質量%以下とすることが好ましい。また、曲げ歪は23℃において1%以上であることが好ましく、この点ではスチレン系エラストマーは2質量%以上含有することが好ましい。なお、導電性については、ポリプロピレンとスチレン系エラストマーとの混合割合による顕著な差は認められない。
【0065】
実施例7,8と実施例1,2との相違は、スチレン系エラストマーの種類のみであり、それ以外は全く同一である。使用するスチレン系エラストマーの種類により曲げ強度、曲げ歪、体積固有抵抗は多少異なるが、23℃において0.8%以上の曲げ歪を有しており燃料電池用セパレータとして適用できるレベルである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の方法は、導電性および機械的特性が改良された成形体を得ることができる導電性樹脂組成物を調製するのに利用することができる。本発明の方法により調製される導電性樹脂組成物は、エレクトロニクス分野、電機、機械、車輌等の各種部品等の各用途に有用であり、特に、コンデンサー用または各種電池用集電体、電磁波遮蔽材、電極、放熱板、放熱部品、エレクトロニクス部品、半導体部品、軸受、PTC素子、ブラシおよび燃料電池用セパレータを製造するのに好適に利用することができる。本発明の燃料電池用セパレータは、燃料電池を製造するのに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂成分(A1)およびエラストマー成分(A2)を有するポリマー(A)と、炭素質材料(B)を含む導電性樹脂組成物の調製方法であって、前記導電性樹脂組成物中の炭素質材料(B)の含有量が80〜90質量%であり、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)とを混練する工程後、熱可塑性樹脂成分(A1)とエラストマー成分(A2)との混練物に炭素質材料(B)を添加、混練する工程を有することを特徴とする導電性樹脂組成物の調製方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂成分(A1)が融点100℃以上の結晶性の炭化水素系樹脂であり、エラストマー成分(A2)が熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂成分(A1)がポリプロピレン樹脂であり、エラストマー成分(A2)がスチレン系エラストマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
【請求項4】
ポリマー(A)中のエラストマー成分(A2)の配合割合が0.05〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
【請求項5】
炭素質材料(B)が0.05〜5質量%のホウ素を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性樹脂組成物の調製方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で調製された導電性樹脂組成物を成形して得られる燃料電池用セパレータ。

【公開番号】特開2011−195618(P2011−195618A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60861(P2010−60861)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発事業、実用化技術開発事業、カーボン樹脂モールドセパレータの製造技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】