説明

導電性積層体

【課題】透明性及び導電性に優れる導電性積層体であって、層の密着性が良好であり、かつ耐擦傷性が高く、繰り返し力が負荷されるような条件下の使用においても導電性が低下しにくい導電性積層体を提供すること。
【解決手段】本発明は、透明樹脂基体(A)、該透明樹脂基体(A)の少なくとも一方の面に設けられたアンカーコート層(B)、および該アンカーコート層(B)の表面に設けられた導電層(C)を有し、該アンカーコート層(B)が、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物でなり、そして該導電層(C)が、π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含む導電性樹脂組成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性積層体に関する。さらに詳しくは、耐擦傷性に優れ、繰り返し力が負荷される抵抗膜式スイッチなどの分野に好適に使用され得る導電性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、タッチスクリーンなどの透明電極や、電子波シールド材として、あるいは偏光フィルムなどの機能性フィルムの帯電防止用フィルムとして、導電性能を有するフィルムが好適に用いられている。このようなフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)などのポリマーでなる透明フィルムを基体とし、その表面の少なくとも片面に、無機金属酸化物(例えば、酸化インジウムおよび酸化スズの混合焼結体(ITO))でなる導電層が形成された積層フィルムが汎用されている。無機金属酸化物層の形成には、ドライプロセスまたはウエットプロセスが利用される。
【0003】
このような無機金属酸化物層を有するフィルム、例えばITOフィルムの形成において、特にウエットプロセスでは、基体と導電層との密着を良好にする目的で、透明樹脂基体上にさまざまなアンカーコート層を設ける場合がある。このようなアンカーコート層として、例えば、特許文献1には、エポキシ基を有するアルコキシシラン、アミノ基またはイミノ基を有するアルコキシシランなどを重縮合させて得られる樹脂でなるアンカーコート層を有する導電性積層体が記載されている。このアルコキシシラン類から形成される重縮合体は、分子中に有機部分と無機部分とを有するため、基体ポリマーおよびITOのいずれにも密着性を有する。そのため、アンカーコート層の素材として好適に用いられる。
【0004】
ところで、ITOの原料であるインジウムは希少金属であり、近年、透明電極用途としての需要も高まっていることから、原料価格が高騰しているのが現状である。従って、これに代わる導電層として導電性高分子層を有するフィルムの研究が行われている。このような導電性高分子膜を有する導電性フィルムは、ITOフィルムよりも可撓性に優れるため、タッチスクリーンなどの透明電極などに、より好適に利用され得るという利点もある。
【0005】
例えば、導電性フィルムを形成するための導電性コーティング剤として、特許文献2には、ポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとの複合体、水溶性化合物、および自己乳化型ポリエステル樹脂を含有する帯電防止コーティング剤が記載されている。このコーティング剤をプラスチック基体表面に付与(塗布)すると、密着性および耐久性に優れ、導電性ならびに透明性が良好な塗膜が形成されることが記載されている。また、特許文献3には、導電性能を向上させたポリチオフェン誘導体とポリ陰イオンとの複合体の水分散体の製造方法が記載されており、これを用いることで、透明性および導電性が良好な塗膜が形成されることが知られている。しかしながら、このような導電性コーティング剤を付与して得られる導電性フィルムを繰り返し力が負荷される条件下で使用する場合、導電層が剥がれ、導電性が低下することがある。繰り返し力が負荷される条件下での耐久性を向上させるためには、導電層の密着性のみならず、導電層の耐擦傷性を向上させることが必要である。
【0006】
基体と導電層との密着性、および導電層の耐擦傷性を高めるためには、これらの層の間にアンカーコート層を設けることも考えられる。しかし、例えば、上記特許文献1に記載したようなアルコキシシラン類から形成される重縮合体でなるアンカーコート層は、ITOのスパッタリング工程に適するように構成されているため、導電層としてITOではなく導電性高分子を用いる場合、上記のような過酷な条件下での使用を行なうと、密着性および耐擦傷性が不充分となる。
【0007】
また、塗膜とアンカーコート層との相互作用を利用して、塗膜の耐久性を向上させることが考えられる。例えば、特許文献4には、アンカーコート層に両性化物を配合し、塗膜であるカチオン樹脂との湿潤時の耐擦傷性を向上させることを提案している。しかし、繰り返し力が負荷されるような機械的特性が要求される用途には十分な耐擦傷性は得られていない。さらに、このようなアンカーコート層と塗膜との相互作用を利用する技術は、塗膜が塗料などの用途のみに限定され、現在のところ導電性ポリマーなどの導電性膜への適用は達成されていない。
【特許文献1】特開平10−180928号公報
【特許文献2】特開2002−60736号公報
【特許文献3】特開2006−28214号公報
【特許文献4】特開2004−181935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的は、透明樹脂基体上に、導電性ポリマーを主成分とする導電層を有する積層体であって、透明性および導電性に優れ、かつ導電層と基体との密着性が良好であり、さらに、耐擦傷性が高く、繰り返し力が負荷されるような条件下の使用においても導電性能が低下しにくい導電性積層体を提供することにある。本発明の他の目的は、上記優れた性質を有し、抵抗膜式スイッチ用導電性フィルムなどとして好適な導電性積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、透明樹脂基体上に、導電性ポリマーを主成分とする導電層を設けた導電性積層体フィルムについて、繰り返し力が負荷される条件下での耐久性を検討した。その結果、これまで知られている導電性積層体フィルムにおいては、基体と導電層との密着性は十分であるものの、繰り返し力が負荷される条件下での使用においては、導電性能が低下することが大きな問題であることがわかった。
【0010】
これについてさらに検討を重ねたところ、次の事柄が見出された。つまり、導電層と透明樹脂基体との間にアンカーコート層を設けることにより、テープ剥離試験のような一時的な密着性を評価する試験において良い評価を得ることができ、導電層とアンカーコート層との層間及び/又はアンカーコート層と透明樹脂基体との層間の密着性が飛躍的に向上することを見出した。しかしながら、繰り返し力が負荷されるような状況下においては、導電層とアンカーコート層との層間及び/またはアンカーコート層と透明樹脂基体との層間で徐々にはがれが生じ、導電性能が低下することが分かり、各層間の密着性の耐久性は充分でないことがわかった。抵抗膜式スイッチにおいては、必然的に押圧により繰り返し力の負荷を受ける部分が存在するため、上記現象が起こり、導電性能が低下することも判明した。
【0011】
本発明者らは、上記知見に基づき、さらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の導電性積層体は、透明樹脂基体(A)、該透明樹脂基体(A)の少なくとも一方の面に設けられたアンカーコート層(B)、および該アンカーコート層(B)の表面に設けられた導電層(C)を有し、該アンカーコート層(B)が、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物でなり、そして該導電層(C)が、π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含む導電性樹脂組成物からなる。
【0013】
ある実施態様によれば、上記π共役系導電性ポリマーは、ポリアルキルジオキシチオフェンであり、かつ前記アクセプターは、ポリスチレンスルホン酸である。
【0014】
ある実施態様によれば、上記バインダー樹脂は、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂である。
【0015】
ある実施態様によれば、上記カチオン系の官能基を有する物質は、アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体である。
【0016】
ある実施態様によれば、上記アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体の重量平均分子量は100〜50000である。
【0017】
ある実施態様によれば、上記アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体は、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヒドラジノイソシアヌレート、ポリアリルアミン、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化イオウ共重合物、およびアクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物からなる群より選択される少なくとも一種である。
【0018】
本発明はまた、導電性積層体の製造方法を提供し、該方法は、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物塗料を、透明樹脂基体(A)上に付与し、乾燥してアンカーコート層(B)を形成する工程、π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含有する導電性樹脂組成物塗料を、該アンカーコート層(B)上に付与し、乾燥して導電層(C)を形成する工程を包含する。
【0019】
本発明の抵抗膜式スイッチ用フィルムは、上記方法によって得られる導電性積層体からなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の導電性積層体は、透明樹脂基体と、π共役系導電性ポリマーとドーパントしてのアクセプターとの複合体を主成分とする導電層との間に、アンカーコート層が形成される。このアンカーコート層には、複合体中のアクセプターと静電的な引力で引き合うカチオン系の官能基を有する物質、およびバインダー樹脂が含まれているため、導電層とアンカーコート層との層間で静電的な相互作用(引力)が生じ、導電層とアンカーコート層との密着性に優れる。このような導電層とアンカーコート層との強固な密着性により、テープ剥離試験のような一時的な密着性を評価する試験において良好な結果が得られるのみならず、繰り返し力が負荷される条件下(例えば、耐擦傷性試験の条件下)においても導電層とアンカーコート層との間に剥離が生じることなく、導電性能が低下しにくい。このような導電性積層体は、抵抗膜式スイッチ用フィルムなどとして好適に利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の導電性積層体を形成する各層を構成する材料、およびこれを用いて得られる導電性積層体について、順次説明する。
【0022】
(導電性積層体の材料)
(1)透明樹脂基体(A)
本発明に利用可能な透明樹脂基体(A)(以下、単に「基体」と記載する場合もある)としては、透明な樹脂で構成される基体であれば特に制限はなく、樹脂の種類、ならびに基体の形状、構造、大きさ、厚みなどについては目的に応じて適宜選択することができる。なお、本明細書において「透明」には、無色透明のほか、有色透明、無色半透明、有色半透明などが含まれる。
【0023】
透明樹脂基体(A)の材料としては、基体として必要な強度を有し、透明性を有する樹脂であれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、次の樹脂が使用可能である:ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブタジエン樹脂、酢酸セルロース、硝酸セルロース、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂など。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、透明性および可撓性に優れる点で、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0024】
透明樹脂基体(A)の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、板状などが好適に挙げられる。
【0025】
透明樹脂基体(A)は、例えば、単独の部材で形成されていてもよいし、2種以上の部材で形成されていてもよい。2種以上の部材で形成される場合には、積層構造などとするのが好ましい。例えば、2種の樹脂フィルムからなる積層体、金属フィルムと樹脂フィルムとの積層体などが挙げられる。このような積層体を構成する層のうちの1以上は、ハードコート層、反射防止層、ギラツキ防止層など、所定の機能を有する層であり得る。
【0026】
(2)アンカーコート層(B)
本発明の積層体に含まれるアンカーコート層(B)は、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含み、必要に応じて、フィラー、その他の成分などを含み得るアンカーコート剤組成物でなる。本明細書において、アンカーコート層(B)は、アンカーコート剤組成物に溶剤を加えたアンカーコート剤組成物塗料を、透明樹脂基体(A)に付与し、乾燥することによって得られる。
【0027】
(2.1)バインダー樹脂
バインダー樹脂は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。バインダー樹脂は、透明樹脂基体(A)とアンカーコート層(B)との密着性、成膜性の向上に寄与する。
【0028】
バインダー樹脂は、水溶性ポリマーあるいは水分散性ポリマーであることが好ましい。即ち、水もしくは、多少の有機溶剤を含有する水に可溶であるか、または分散可能なポリマーであることが好ましい。このようなバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フルオロカーボン系樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはこれらの混合物もしくは共重合物が挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂(水溶性のポリエステル樹脂、水分散性のポリエステル樹脂)およびポリウレタン樹脂(水溶性のポリウレタン樹脂、水分散性のポリウレタン樹脂)が好ましく用いられる。水分散性ポリマーを用いる場合、その粒子径は、所望のアンカーコート層の膜厚に比べて小さく、かつ浴中で容易に凝集しない程度の大きさのものを使用することが好ましい。通常、50〜300nm程度の粒径であることが好ましい。
【0029】
水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂としては、例えば、多官能イソシアナートとヒドロキシル基含有化合物との反応により得られるが、これらに限定されない。多官能イソシアナートとしては、例えば、トリレンジイソシアナート、ジフェニルメタンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナートなどの芳香族ポリイソシアナート、およびヘキサメチレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナートなどの脂肪族ポリイソシアナートが挙げられる。ヒドロキシル基含有化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、およびポリアクリレートポリオールが挙げられる。
【0030】
水溶性または水分散性のポリウレタン樹脂の具体的な商品名としては、スーパーフレックス(登録商標)150、スーパーフレックス(登録商標)300、スーパーフレックス(登録商標)420(以上、第一工業製薬株式会社製)、ニカゾール(登録商標)RX−7004(以上、日本カーバイド工業株式会社製)、エバファノール(登録商標)HA−11、エバファノール(登録商標)HA−15(以上、日華化学株式会社製)、ハイドラン(登録商標)AP−20、ハイドラン(登録商標)WLS−201、ハイドラン(登録商標)WLS−221、ボンディック1230NE、ボンディック2210(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
水溶性または水分散性のポリエステル樹脂は、例えば、以下に示す多塩基酸とポリオールとから得られるが、これらに限定されない。
【0032】
多塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などが挙げられる。中でも、これら多塩基酸を2種類以上用いる共重合ポリエステルが好ましい。なお、若干量であればマレイン酸、イタコン酸などの不飽和多塩基酸、p−ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸が含まれていてもよい。
【0033】
ポリオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、ジメチロールプロパンなどが挙げられる。ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
【0034】
水溶性または水分散性のポリエステル樹脂の具体的な商品名としては、バイロナール(登録商標)MD−1100、バイロナール(登録商標)MD−1500、バイロナール(登録商標)MD−1930(以上、東洋紡績株式会社製)、ニチゴポリエスターWR−901、ニチゴポリエスターW−0005(以上、日本合成化学工業株式会社製)、ガブセン(登録商標)ES−901A、ガブセン(登録商標)ES−210、ガブセン(登録商標)SR−150(以上、ナガセケムテックス株式会社製)、ぺスチレンA−100、ぺスチレンA−510(以上、高松油脂株式会社製)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
バインダー樹脂は、アンカーコート剤組成物(アンカーコート層)中に、通常、30〜99質量%、好ましくは50〜90質量%含有される。バインダー樹脂が30質量%未満の場合、得られる積層体の密着性が低下したり、繰り返し力が負荷される条件下での使用において導電性が低下する恐れがある。バインダー樹脂の含有量は、バインダー樹脂が単独で用いられる場合には、その樹脂の量であり、複数のバインダー樹脂が含有される場合には、それらの樹脂の合計量である。バインダー樹脂の量は、アンカーコート層(B)を構成する材料全体(アンカーコート剤組成物)の質量を基準とする固形分換算量である。後述のカチオン系の官能基を有する物質、他の樹脂、フィラー、およびその他の成分についても同様である。
【0036】
(2.2)カチオン系の官能基を有する物質
カチオン系の官能基を有する物質は、上述のように、アンカーコート層(B)中に含まれ、導電層(C)中に含まれる複合体に存在するドーパントとしてのアクセプターと静電的な引力により引き合う。そのため、アンカーコート層(B)と導電層(C)との強力な密着が可能となる。このようなカチオン系の官能基を有する物質としては、例えば、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、アミジノ基、ヒドラジノ基などを有する化合物(アミン、アミド、イミン、イミド、アミジン、ヒドラジド、ピペリジン、ピリジンなど)およびその誘導体、ピラジン、ピリミジン、ピリダジンなどが挙げられる。また、これらの化合物およびその誘導体はポリマーであってもよい。カチオン系の官能基を有する物質は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
カチオン系の官能基を有する物質の中でも、アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物(ヒドラジド)、およびそれらの誘導体が好ましく用いられる。
【0038】
アミノ基を有する化合物およびその誘導体は、特に制限されず、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アミンのいずれも使用可能である。水溶性のアミノ基を有する化合物が好ましく、具体的には、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0039】
アミド基を有する化合物およびその誘導体としては、ヘキサンアミド、オクタンジアミド、シクロヘキサンカルボキサミド、スクシンアミド、ベンゼンスルホンアミド、メタンスルフィンアミド、エタンスルフェンアミド、ベンゼンセレネンアミド、オキサミド、エタンジアミド、N−メチルアセトアミド、ベンズアニリド、ヘキサンアニリド、シクロヘキサンカルボキサニリド、ベンゼンスルホンアニリド、2,4’−ジクロロアセトアニリド、オキサニリドなどが挙げられる。
【0040】
イミノ基を有する化合物およびその誘導体としては、ヘキサン−1−イミン、プロパン−2−イミン、エタン−1,2−ジイミン、N−メチルエタンイミン、メタンジイミンなどが挙げられる。
【0041】
イミド基を有する化合物およびその誘導体としては、N−フェニルフタルイミド、シクロヘキサ−3−エン−1,2−ジカルボキシミド、シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシミドなどが挙げられる。
【0042】
アミジノ基を有する化合物およびその誘導体としては、アセトアミジン、ベンズアミジンなどが挙げられる。
【0043】
ヒドラジノ基を有する化合物(ヒドラジド)およびその誘導体は、水溶性の化合物であり、具体的には、アセトヒドラジド(酢酸ヒドラジド)、ベンゾヒドラジド(安息香酸ヒドラジド)、ペンタノヒドラジド(ペンタン酸ヒドラジド)、シクロヘキサンカルボヒドラジド(シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド)、ベンゼンスルホノヒドラジド(ベンゼンスルホン酸ヒドラジド)、チオベンゾヒドラジド(ベンゼンカルボチオヒドラジド、ベンゼンカルボチオ酸ヒドラジド)、ペンタンイミドヒドラジド(ペンタンイミド酸ヒドラジド、ペンタノヒドラジド=イミド)、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヒドラジノイソシアヌレートなどが挙げられる。カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、またはヒドラジノイソシアヌレートは、100℃において不揮発性である点および第一級アミノ基を有する点で、好ましく用いられる。
【0044】
ピペリジンおよびその誘導体としては、メチルピペリジン、ジメチルピペリジン、2−プロピルピペリジン、ピペリジノン、ピペリジン−2−オン、ピペリジン−2,6−ジオン、(2−ピペリジル)アセトンなどが挙げられる。
【0045】
ピリジンおよびその誘導体としては、ピリジニル、ピリジニリデン、ピリジンジイル、1,2−ジヒドロピリジン−2−オン、1,4−ジヒドロピリジン−4−オン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、4−エチル−2−メチルピリジン、3−エチル−4−メチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3−(1−メチルピロリジン−2−イル)ピリジン、1−メチル−5−(3−ピリジル)−2−ピロリドン、1,2,3,6−テトラヒドロ−2,3’−ビピリジン、3−(2−ピペリジル)ピリジン、1−メチル−5−(3−ピリジル)−2−ピロリドン、3−(1−メチルピロリジン−2−イル)ピリジンなどが挙げられる。
【0046】
カチオン系の官能基を有する物質は、上述のようにポリマーであってもよい。例えば、アミノ基を有するポリマーとしては、ポリアリルアミン、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化イオウ共重合物、およびアクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物などが好ましく用いられる。このようなカチオン系の官能基を有するポリマーの分子量は、バインダー樹脂との相溶性の観点から、重量平均分子量で100〜50000であることが好ましく、100〜20000であることがより好ましい。なお、重量平均分子量は、GPC法(分子量マーカー:ポリスチレンスタンダード)で測定した値である。
【0047】
本発明においては、例えば、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物塗料を透明樹脂基体(A)に塗布した後、乾燥することによって、アンカーコート層(B)を形成するが、100℃において揮発性のカチオン系の官能基を有する物質を用いる場合、乾燥温度によっては揮発し得る。そのため、100℃において不揮発性のカチオン系の官能基を有する物質が好ましく用いられる。また、カチオン系の官能基を有する物質の目的は、上層の導電層(C)中の複合体に存在するアクセプターと静電的な引力で引き合うことにあり、さらにアンカーコート層(B)の上部に導電性樹脂組成物塗料を塗布した後、導電層(C)を形成するための乾燥工程を行うに際し、導電層に対し耐擦傷性に有利なモルホロジー変化を起こすことにある。このため、アクセプター(ドーパント)との静電的な相互作用を起こすのに必要なカチオン性を有することが好ましく、この点で第一級アミンであることが特に好ましい。
【0048】
カチオン系の官能基を有する物質は、アンカーコート剤組成物(アンカーコート層)中に、通常、1〜70質量%、好ましくは5〜60質量%含有される。これらの物質が1質量%未満の場合、得られるアンカーコート層(B)と導電層(C)との密着性が低下して十分な耐擦傷性が得られなくなる。70質量%を超えると、アンカーコート剤組成物塗料中のバインダー樹脂との相溶性が悪くなる。
【0049】
(2.3)フィラーおよびその他の成分
アンカーコート層に含有され得るフィラーとしては、次の無機あるいは有機材料でなる微粒子が挙げられる:炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデンなどでなる無機微粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンワックスなどでなる有機微粒子。これらのうち、水不溶性の固体物質は水分散液中で沈降するのを防ぐため、比重が3を超えないものを用いるのが好ましい。
【0050】
フィラーが含有される場合には、通常、アンカーコート剤組成物(アンカーコート層)中に50質量%以下の割合で含有される。
【0051】
アンカーコート剤組成物(アンカーコート層)中には、さらに必要に応じて、界面活性剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤などのその他の成分が含有され得る。これらの成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの成分がアンカーコート剤組成物(アンカーコート層)中に含有される場合には、通常、10質量%以下の割合で含有される。
【0052】
(2.4)アンカーコート剤組成物塗料
上記アンカーコート層(B)を形成する各材料(アンカーコート剤組成物)と溶剤とを混合することにより、アンカーコート剤組成物塗料が得られる。このアンカーコート剤組成物塗料を用いて、本発明の導電性積層体のアンカーコート層(B)が形成される。
【0053】
上記溶剤の種類は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。上記ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂は、水に分散させた状態で市販されている場合が多いので、その場合には、水をそのまま溶剤として利用することが可能であり、必要に応じて、上記水以外の有機溶媒を加えることができる。水を希釈する溶媒としては、メタノール、エタノール、および2-プロパノールが好ましい。溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
溶剤の量は、上述の各材料を溶解あるいは均一に分散させて、基体表面に塗布可能な量であればよい。通常、アンカーコート剤組成物塗料中の材料の固形分濃度が40質量%以下となるような量の溶剤が用いられる。固形分濃度は、好ましくは、0.1〜40質量%である。固形分濃度が0.1質量%未満であると、基体表面への濡れ性が不足することがあり、一方、40質量%を超えると均一に塗工するのが難しくなり、従って、その上に形成される導電性樹脂組成物層が不均一になる場合がある。さらに、アンカーコート剤組成物塗料の貯蔵安定性が劣る場合がある。
【0055】
(3)導電層(C)
導電層(C)は、導電性ポリマーであるπ共役系導電性ポリマーと、ドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含み、必要に応じて、バインダー樹脂、導電性向上剤、架橋剤、塗布性向上剤、その他の成分などを含み得る導電性樹脂組成物で形成される。具体的には、π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体に、必要に応じて、バインダー樹脂、導電性向上剤、架橋剤、塗布性向上剤、その他の成分などを含む導電性樹脂組成物塗料を、アンカーコート層上に付与(塗布)し、乾燥することにより形成される。本明細書において、導電層(C)は、導電性樹脂組成物に溶剤を加えた導電性樹脂組成物塗料を、アンカーコート層(B)に付与し、乾燥することによって得られる。
【0056】
(3.1)複合体
上記導電性ポリマーであるπ共役系導電性ポリマーと、ドーパントとしてのアクセプターとの複合体とは、π共役系導電性ポリマーに、ドーパントとしてのアクセプターをドーピングした状態のものを言う。
【0057】
π共役系導電性ポリマーとしては、ポリチアジル、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリ(p−フェニレン)、ポリ(p−フェニレンサルファイド)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、ポリアズレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリアルキルジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、これらの誘導体、およびこれらを2以上組み合わせた共重合物などが挙げられる。特に電気伝導度に優れる点から、好ましくは、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリアルキルジオキシチオフェン、ポリアニリン、およびそれらの誘導体であり、より好ましくは、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、およびポリアルキルジオキシチオフェンである。
【0058】
上記π共役系導電性ポリマーは、有機溶剤との相溶性により、有機溶剤可溶性ポリマー(水溶性ポリマーなど)および有機溶剤分散性ポリマー(水分散性ポリマーなど)に分類されるが、好ましくは有機溶剤分散性ポリマー、より好ましくは水分散性ポリマーである。
【0059】
アクセプターとしては、例えば、Cl、Br、I、ICl、ICl、IBr、IFなどのハロゲン化物、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr、SOなどのルイス酸、HF、HCl、HNO、HSO、HClO、FSOH、CFSOHなどのプロトン酸、FeCl、FeOCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、NbF、NbCl、TaCl、MoF、MoCl、WF、UF、LnClなどの遷移金属化合物、Cl、Br、I、ClO、PF、AsF、SbF、BFなどの電解質アニオン、およびポリカルボン酸類(ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸など)、ポリスルホン酸類(ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などのポリ陰イオンが挙げられるが、これに限定されない。ポリカルボン酸類およびポリスルホン酸類は、他の重合可能なモノマー類(例えば、アクリレート類、スチレンなど)などとから得られる共重合物であってもよい。
【0060】
アクセプターの中でも、特にポリ陰イオンが好ましく用いられる。このポリ陰イオンの数平均分子量は、好ましくは1,000から2,000,000の範囲であり、より好ましくは2,000から500,000の範囲であり、さらに好ましくは10,000から200,000の範囲である。
【0061】
上記π共役系導電性ポリマーと上記アクセプターとを適宜組み合わせて複合体を得る。好ましくは、π共役系導電性ポリマーとしてポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、またはポリアルキルジオキシチオフェンと、アクセプターとしてポリ陰イオンとの組み合わせであり、より好ましくはπ共役系導電性ポリマーとしてポリアルキルジオキシチオフェンと、アクセプターとしてポリスチレンスルホン酸との組み合わせである。
【0062】
上記π共役系導電性ポリマーと上記アクセプターとの複合体は、例えば、π共役系導電性ポリマー100質量部に対して、アクセプターが50〜3,000質量部、好ましくは100から1,000質量部、より好ましくは150から500質量部の割合で組み合わせることによって得られる。具体的には、π共役系導電性ポリマーを、溶剤に分散させ、アクセプターを上記の割合で分散させることによって得られる。使用される溶剤は、導電性樹脂組成物塗料に用いられる溶剤を使用することができ、例えば、上述のアンカーコート剤組成物塗料に用いた溶剤を適宜選択することができる。
【0063】
導電性樹脂組成物中の複合体の含有量は、特に制限されない。充分な導電性を確保する点から、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは、30〜70質量%である。この含有量は、導電性樹脂組成物全体の質量から、導電性向上剤および溶媒(水、有機溶媒など)の質量を除いた質量を基準とする。後述のバインダー樹脂、架橋剤、および塗布性向上剤の含有量についても同様である。
【0064】
(3.2)バインダー樹脂
バインダー樹脂は、導電層の成膜性および熱的耐久性を向上させる目的で導電性樹脂組成物中に含まれ得る。バインダー樹脂は、特に制限されず、アンカーコート剤組成物に用いられるバインダー樹脂と同様の樹脂が用いられる。
【0065】
バインダー樹脂は、導電性樹脂組成物中に、通常、1〜80質量%、好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜40質量%含有される。バインダー樹脂の含有量が80質量%を超える場合、複合体(導電成分)の不足による導電性低下のおそれがある。
【0066】
(3.4)導電性向上剤
導電性向上剤は、導電性樹脂組成物を用いて形成した導電層(導電性フィルム)の表面抵抗率をより低くする目的で含有される。
【0067】
導電性向上剤は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、およびN−メチルホルムアミドが好ましく用いられる。導電性向上剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
導電性樹脂組成物中の導電性向上剤の含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜設定される。好ましくは、複合体1質量部に対して、導電性向上剤が通常、0.1〜50質量部、好ましくは1〜40質量部の割合で含有される。
【0069】
(3.5)架橋剤
架橋剤は、導電性樹脂組成物中に含まれる上記バインダー樹脂などを架橋させて、得られる導電層(C)全体の強度を高める目的で含有される。
【0070】
架橋剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、水溶性アクリルモノマー、水溶性アクリルオリゴマー、水溶性アクリルポリマー、水溶性メラミンモノマー、水溶性メラミンオリゴマー、水溶性メラミンポリマー、水溶性エポキシオリゴマー、水溶性エポキシポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、水溶性アクリルモノマーおよび水溶性メラミンモノマーが好ましい。架橋剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
導電性樹脂組成物中の架橋剤の含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜設定される。好ましくは、複合体1質量部に対して、導電性向上剤が通常、1〜60質量部、好ましくは3〜40質量部の割合で含有される。
【0072】
(3.6)塗布性向上剤
塗布性向上剤は、導電性樹脂組成物の各成分と溶剤(後述)とを混合して導電性樹脂組成物塗料を形成した場合に、これをアンカーコート層(B)表面に塗布することを容易にする機能を有する。
【0073】
塗布性向上剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、例えば、水溶性アクリル系共重合物、シリコン変性水溶性アクリルポリマー、ポリエーテル変性水溶性ジメチルシロキサン、フッ素系変性ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ポリエーテル変性水溶性ジメチルシロキサンが好ましい。塗布性向上剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0074】
導電性樹脂組成物中の塗布性向上剤の含有量は、特に制限されず、目的に応じて適宜設定される。好ましくは、導電性樹脂組成物中に、塗布性向上剤が0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.1質量%〜1質量%の割合で含有される。
【0075】
(3.7)フィラーおよびその他の成分
導電性樹脂組成物に含有され得るフィラーとしては、例えば、酸化インジウム、酸化アンチモン酸などの他、アンカーコート剤組成物に用いられるフィラーを用いることができる。フィラーが含有される場合には、通常、導電性樹脂組成物中に50質量%以下の割合で含有される。
【0076】
導電性樹脂組成物中に含有され得るその他の成分は、特に制限されず、当該分野で用いられる一般的な添加剤などを適宜選択することができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、表面改質剤、脱泡剤、可塑剤、抗菌剤、界面活性剤、金属微粒子などが挙げられる。上記その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0077】
(3.8)導電性樹脂組成物塗料
上記導電性樹脂組成物を形成する各材料と溶剤とを混合することにより、導電性樹脂組成物塗料が得られる。この塗料を用いて、本発明の導電性積層体の導電層(C)が形成される。溶剤は特に制限されず、アンカーコート剤組成物塗料に用いた溶剤を適宜選択することができる。水、エタノールが好ましく用いられる。溶剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
溶剤の量は、上述の各材料を溶解あるいは均一に分散させて、アンカーコート層(B)上に塗布可能な量であればよい。通常、導電性樹脂組成物塗料の固形分濃度が20質量%以下、好ましくは0.1〜10質量%となるような量の溶剤が用いられる。固形分濃度が0.1質量%未満の場合、アンカーコート層(B)への濡れ性が不足することがある。20質量%を超える場合、均一に塗工するのが難しくなり、形成される導電層(C)の外観が劣る場合がある。さらに、導電性樹脂組成物塗料の貯蔵安定性に劣る場合がある。
【0079】
(導電性積層体の製造方法)
本発明の導電性積層体の製造方法は、例えば、透明樹脂基体(A)の少なくとも一方の面(表面)に、上記アンカーコート剤組成物塗料を付与(塗布またはコーティング)し、乾燥してアンカーコート層(B)を形成する工程、上記導電性樹脂組成物(塗料)をアンカーコート層(B)表面上に付与し、乾燥して導電層(C)を形成する工程を包含する。
【0080】
アンカーコート剤組成物塗料を透明樹脂基体(A)に付与するにあたっては、塗布性を向上させるための予備処理として、基体(A)表面にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理などの物理処理を施してもよい。
【0081】
アンカーコート剤組成物塗料の付与方法は特に制限されない。例えば、当業者が通常用いる塗布法、印刷法、あるいはコーティング法が用いられる。
【0082】
塗布法またはコーティング法としては、例えば、グラビアコート法、小径グラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法、ローラコート法、バーコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、ニーダーコート法などが利用される。特にグラビアコート法および小径グラビアコート法が好ましい。
【0083】
印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法などが挙げられる。
【0084】
透明樹脂基体(A)の表面に付与されたアンカーコート剤組成物塗料は、次いで乾燥される。乾燥方法は、特に制限されず、当業者が通常用いる方法で行われる。例えば、熱風乾燥法、赤外線乾燥法、真空乾燥法、ホットプレート乾燥法などが用いられる。特に、熱風乾燥法および赤外線乾燥法を採用することが好ましい。乾燥温度は特に制限されないが、基体(A)の耐熱性に応じて適宜選択される。通常、80℃〜150℃の温度で行われる。このようにしてアンカーコート層(B)が形成される。アンカーコート層(B)は、基体(A)上の全面に形成されていてもよいし、一部(部分的)に形成されていてもよい。
【0085】
アンカーコート層(B)の厚み(乾燥後)は、通常、0.003〜0.10μm、好ましくは0.01〜0.05μmの範囲である。アンカーコート層(B)の厚みが0.003μm未満の場合、基体(A)および導電層(C)に対する密着力が低下する場合がある。0.10μmを超える場合、ブロッキングを起こしたり、ヘイズ値が高くなったりする可能性がある。
【0086】
次いで、透明樹脂基体(A)上に形成されたアンカーコート層(B)表面上に、導電性樹脂組成物塗料を付与し、乾燥する。
【0087】
導電性樹脂組成物(塗料)をアンカーコート層(B)に付与するにあたっては、塗布性を向上させるための予備処理として、アンカーコート層(B)表面にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理などの物理処理を施してもよい。
【0088】
導電性樹脂組成物塗料の付与方法および乾燥方法は、特に制限されない。アンカーコート剤組成物塗料で用いた付与方法(塗布法、印刷法、コーティング法)および乾燥方法のいずれも採用することができる。導電性樹脂組成物(塗料)の付与にあたっては、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。このようにして導電層(C)が形成される。導電層(C)は、アンカーコート層上の全面に形成されていてもよいし、一部(部分的)に形成されていてもよい。
【0089】
導電層(C)の厚み(乾燥後)は、通常、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜1μmの範囲である。導電層(C)の厚みが0.01μm未満の場合、充分な導電性が得られない、あるいは導電性能が不均一となるおそれがある。10μmを超える場合、アンカーコート層(B)との密着性に劣る場合がある。
【0090】
(導電性積層体)
本発明の導電性積層体は、上記透明樹脂基体(A)、該透明樹脂気体(A)の少なくとも一方の面に設けられた上記アンカーコート層(B)、および該アンカーコート層(B)の表面に設けられた上記導電層(C)を有する。
【0091】
本発明の導電性積層体の一態様の模式断面図を図1に示す。この積層体は、透明樹脂基体1の一方の表面上に、アンカーコート層2を有し、該アンカーコート層2の表面上に導電層3を有する。この導電性積層体は、例えば、上記のように、透明樹脂基体1の表面にアンカーコート層2および導電層3を順次形成することにより調製され得る。上記透明樹脂基体1、アンカーコート層2、および導電層3の材料は、上述した材料の中から目的に応じて選択され、所望の性質、形状、構造、および大きさを有する導電性積層体が得られる。
【0092】
光学的な観点からは、透明樹脂基体(A)上に、透明性に優れたアンカーコート層(B)および導電層(C)を形成して、透明な導電性積層体を得ることが好ましい。そのため、上述の材料の中から適宜選択して、有色透明、無色半透明、有色半透明などの導電性積層体とすることが可能である。さらに目的によっては、全体を不透明とすることも可能である。あるいは、目的に応じて、導電性積層体の基体表面にハードコート層、反射防止層、ギラツキ防止層などを形成することも可能である。そのような積層体は、あらかじめ、一方の表面に、ハードコート層、反射防止層、ギラツキ防止層など有する透明樹脂基体(A)を用い、他方の面にアンカーコート層(B)と導電層(C)とを形成することによっても調製可能である。
【0093】
上述のようにして得られた本発明の導電性積層体は、充分な導電性を有する。用いられる導電性樹脂組成物の成分を適宜調整することにより、また、導電性樹脂組成物層の厚みを調整することにより、所望の導電性が得られる。通常、導電性積層体の表面抵抗率は、50Ω/□〜5,000Ω/□、好ましくは100Ω/□〜2,000Ω/□である。表面抵抗率は、例えば、JIS K6911などに準拠して測定することができ、また、市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することもできる。
【0094】
この導電性積層体は、上述のように、導電層(C)に含まれる複合体に存在するドーパント(アクセプター)と、アンカーコート層(B)に含まれるカチオン系の官能基を有する物質とが静電的な引力で引き合うため、導電層(C)とアンカーコート層(B)との密着性に特に優れている。さらに、アンカーコート層(B)と透明樹脂基体(A)との間の密着性にも優れる。そのため、繰り返し力が負荷される条件下での使用においても、導電層およびアンカーコート層が容易に剥離することはない。
【0095】
本発明の導電性積層体において、上記アンカーコート層(B)はまた、透明樹脂基体(A)と導電層(C)とを分離・遮断する役割を果たす。そのため、例えば、得られた導電性積層体を高温条件下で使用した場合に、透明樹脂基体(A)中に残存しているモノマー成分、あるいは透明樹脂基体(A)が分解して生じる分解物が導電層(C)に移行することが阻止される。そのため、基体(A)のモノマー成分または分解物により、導電層(C)における導電性に悪い影響を与えることが阻止される。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースなどでなる基体(A)、特にポリエチレンテレフタレートでなる基体(A)を用いる場合に、このような効果が顕著である。そのため、例えば、この導電性積層体を用いた後述の抵抗膜式スイッチにおいて、繰り返しの使用を行っても導電性が経時的に低下することが極めて少ない。
【0096】
(導電性積層体の用途)
本発明の導電性積層体は、上述のように、透明性および導電性に優れ、かつ積層体中の各層の密着性にも優れ、しかも繰り返し力が負荷するような条件下においても導電性が経時的に低下することが極めて少ない。また、高温高湿の条件下で長時間保持した場合であっても表面抵抗率が高くなることが効果的に抑制される。この導電性積層体は、所望の形状に低コストで量産可能であり、可撓性にも優れる。そのため、各種分野に好適に使用することができる。例えば、タッチスクリーン、コンデンサー、二次電池、導電性の接続用部材、高分子半導体素子、帯電防止フィルム、ディスプレイ、エネルギー変換素子、レジスト、e−ペーパー、太陽電池などの分野に好適に使用することができる。これらの中でも、タッチスクリーンなどの抵抗膜式タッチパネルの用途に特に好適に用いられる。
【0097】
本発明の導電性積層体に用いられる導電性樹脂組成物自体もまた、帯電防止材料として使用することが可能である。この組成物を所望の製品の表面に塗付し、外観に影響を与えることなく、該製品の表面に帯電防止機能を付与することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、特に記載のない限り、各々「質量部」および「質量%」を示す。
【0099】
以下の実施例および比較例においては、透明樹脂基体(A)として、100mm×150mmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(東レルミラーT60:厚み188μm、東レ株式会社製)を使用した。
【0100】
得られた導電性積層体の各種の評価は次の方法によって行った。
【0101】
(1)層密着性
層密着性は、JIS K5400に記載の碁盤目テープ試験の方法に準じて以下のようにして評価した:得られた導電性積層体の表面を、基体であるポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムの層まで貫通するようにして、カッターナイフで1.0mm間隔の格子状の切り込みを入れる。切り込みを入れた導電性積層体にセロハンテープを接着して、剥離する。その結果について、以下の評価基準に基づいて評価を行なう。
【0102】
○: 導電性樹脂組成物層が全く剥離しなかった
△: 導電性樹脂組成物層が僅かに剥離した
(剥離片は認められないが、切り込みに沿って剥離が認められた)
×: 導電性樹脂組成物層の剥離が目立った(剥離片個数:1個以上)
【0103】
(2)表面抵抗率
表面抵抗率は、JIS K6911の方法に従い、三菱化学株式会社製ロレスタ−GP(MCP−T600)を用いて測定した。
【0104】
(3)耐擦傷性(擦傷試験後の表面抵抗率の上昇率)
耐擦傷性は次のようにして評価した。縦10cmおよび横5cmの試験片を作成し、試験片の初期表面抵抗率を5点測定し、平均値を算出した(初期表面抵抗率平均値)。その後、学振型染色摩擦堅牢度試験機(株式会社安田精機製作所製)の試験片台にセットした。試験片台は水平なものを用い、摩擦子の重量は200gとし、摩擦用白綿布は縦8cm、横8cmにカットしたハクジュウジガーゼ(白十字株式会社製)を用いた。100回の往復試験後、試験箇所5点の表面抵抗率を測定し平均値を算出した(試験後表面抵抗率平均値)。擦傷試験後の表面抵抗率の上昇率(耐擦傷性上昇率)R(倍)を下記の式(1)に従って算出した。
【0105】
【数1】

【0106】
上昇率Rの小さいものは、耐擦傷性が高いことを示し、上昇率Rが大きいものは、耐擦傷性が低いことを示す。
【0107】
(実施例1−1)
(1)アンカーコート層の形成
エバファノール(登録商標)HA−15(ポリウレタン系水分散体 ポリウレタン樹脂含量30%:日華化学株式会社製)を、イオン交換水で固形分が10%となるように希釈した。この水分散体を、ソルミックスAP−7(工業用変性アルコール:日本アルコール販売株式会社製)を用いて1.0%に希釈した。この希釈液に、HCIC(ヒドラジノカルボニルエチルイソシアヌレート:株式会社日本ファインケム製)をHA−15の固形分換算100部に対して、100部となる割合で加え、アンカーコート剤組成物塗料(a´)を得た。このアンカーコート剤組成物塗料(a´)を、透明樹脂基体(A)上に、ワイヤーバーNo.4(ウエット膜厚6μm)を用いてバーコート法により塗布し、100℃で2分間乾燥させることにより、該基体(A)上にアンカーコート層(a)を形成した。
【0108】
(2)導電性積層体の調製
特許文献3の実施例1.5に準ずる方法にて製造した、ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体10.4部(固形分換算量)に、2.7部のバイロナール(登録商標)MD−1500(ポリエステル系水分散体;ポリエステル含量30質量%;東洋紡績株式会社製)、4.2部のメラミン系架橋剤(住友化学株式会社製:SumitexResinM−3)、48部のN−メチルホルムアミド、少量の界面活性剤、少量のレベリング剤、適量の水、および変性エタノールを加え、1時間攪拌した。これを400メッシュのSUS製の篩にてろ過し、導電性樹脂組成物塗料1−1を得た。
【0109】
この導電性樹脂組成物塗料を、上記(1)項で形成したアンカーコート層上に、ワイヤーバーNo.8(ウエット膜厚12μm)を用いてバーコート法により塗布、乾燥した。次いで、これを130℃のオーブンにて15分間加熱し、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0110】
この積層体フィルムについて、層密着性、表面抵抗率、および耐擦傷性についての評価を上記の方法により行った。上記各試験の結果を表1に示した。
【0111】
後述の各実施例および比較例においても、得られた積層体フィルムについて、同様の評価を行い、その結果を併せて表1に示す。
【0112】
(実施例1−2)
HCIC100部の代わりに、HCIC10部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(b´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(b)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0113】
(実施例1−3)
HCIC100部の代わりに、ADH(アジピン酸ジヒドラジド:株式会社日本ファインケム製)100部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(c´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(c)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0114】
(実施例1−4)
HCIC100部の代わりに、ADH10部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(d´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(d)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0115】
(実施例2−1)
エバファノール(登録商標)HA−15の代わりに、バイロナール(登録商標)MD−1500(ポリエステル系水分散体 ポリエステル樹脂含量30%:東洋紡績株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(e´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(e)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0116】
(実施例2−2)
HCIC100部の代わりに、HCIC10部を用いたこと以外は、実施例2−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(f´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(f)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0117】
(実施例2−3)
HCIC100部の代わりに、ADH100部を用いたこと以外は、実施例2−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(g´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(g)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0118】
(実施例2−4)
HCIC100部の代わりに、ADH10部を用いたこと以外は、実施例2−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(h´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(h)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0119】
(実施例3)
HCIC100部の代わりに、PAA−1(ポリアリルアミン:日東紡績株式会社製)10部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(i´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(i)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0120】
(実施例4)
HCIC100部の代わりに、PAS−J−81L(アクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物:日東紡績株式会社製)10部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(j´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(j)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0121】
(実施例5)
HCIC100部の代わりに、PAS−92A(ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合物:日東紡績株式会社製)10部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、アンカーコート剤組成物塗料(k´)を得、基体(A)上にアンカーコート層(k)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0122】
(実施例6−1)
ポリ(3、4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体の水分散体10.4部(固形分換算量)に、48部のN−メチルホルムアミド、少量の界面活性剤、少量のレベリング剤、適量の水、および変性エタノールを加え、1時間攪拌した。これを400メッシュのSUS製の篩にてろ過し、導電性樹脂組成物塗料6−1を得た。次に、実施例1−1で得られたアンカーコート層(a)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(a)上に、導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0123】
(実施例6−2)
実施例1−2で得られたアンカーコート層(b)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(b)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0124】
(実施例6−3)
実施例1−3で得られたアンカーコート層(c)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(c)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0125】
(実施例6−4)
実施例1−4で得られたアンカーコート層(d)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(d)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0126】
(実施例7−1)
実施例2−1で得られたアンカーコート層(e)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(e)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0127】
(実施例7−2)
実施例2−2で得られたアンカーコート層(f)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(f)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0128】
(実施例7−3)
実施例2−3で得られたアンカーコート層(g)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(g)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0129】
(実施例7−4)
実施例2−4で得られたアンカーコート層(h)を形成した基体(A)を用い、アンカーコート層(h)上に、実施例6−1で調製した導電性樹脂組成物塗料6−1を塗付、乾燥し、130℃のオーブンにて加熱することにより、導電性樹脂組成物からなる導電層を有する導電性積層体フィルムを得た。
【0130】
(比較例1)
HCICを用いなかったこと以外は、実施例1−1と同様にして、エバファノール(登録商標)HA−15を2.0%含むアンカーコート剤組成物塗料(l´)を得た。このアンカーコート剤(l´)を用いて、基体(A)上にアンカーコート層(l)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0131】
(比較例2)
HCICを用いなかったこと以外は、実施例2−1と同様にして、バイロナール(登録商標)MD−1500を2.0%含むアンカーコート剤組成物塗料(m´)を得た。このアンカーコート剤(m´)を用いて、基体(A)上にアンカーコート層(m)を形成した。さらに、実施例1−1で調製した導電性樹脂組成物塗料1−1を用いて、実施例1−1と同様に操作して導電性積層体フィルムを得た。
【0132】
【表1】

【0133】
本発明の導電性積層体は、アンカーコート層(B)に、カチオン系の官能基を有する物質を配合することにより、導電層(C)とアンカーコート層(B)との間に静電的な引力が生じ、強固な密着を得ることができた。これにより、繰り返し力が負荷される条件下での耐久性試験である耐擦傷性試験において、実施例1−1〜1−4、実施例2−1〜2−4、および実施例3〜5は、比較例1および2に比べて、耐擦傷性が優位に優れていた。また、導電層(C)にバインダー樹脂および架橋剤を含まない、実施例6−1〜6−4および実施例7−1〜7−4においても耐擦傷性に優れた結果が得られた。このことから、導電層(C)とアンカーコート層(B)との間に作用している、繰り返し力が負荷される条件に耐えうる密着は、導電層(C)に含まれる複合体に存在するアクセプターと、アンカーコート層(B)に含まれるカチオン系の官能基を有する物質との相互作用であると考えられる。本発明の導電性積層体は、繰り返し力が負荷されるタッチスクリーンなどに好適に用いられることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の導電性積層体は、タッチスクリーン、コンデンサー、二次電池、導電性の接続用部材、高分子半導体素子、帯電防止フィルム、ディスプレイ、エネルギー変換素子、レジスト、e−ペーパー、太陽電池などの分野に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明の導電性積層体の一態様を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0136】
1 透明樹脂基体
2 アンカーコート層
3 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂基体(A)、該透明樹脂基体(A)の少なくとも一方の面に設けられたアンカーコート層(B)、および該アンカーコート層(B)の表面に設けられた導電層(C)を有する導電性積層体であって、
該アンカーコート層(B)が、バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物でなり、そして
該導電層(C)が、π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含む導電性樹脂組成物からなる、導電性積層体。
【請求項2】
前記π共役系導電性ポリマーが、ポリアルキルジオキシチオフェンであり、かつ前記アクセプターが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1に記載の導電性積層体。
【請求項3】
前記バインダー樹脂が、ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂である、請求項1または2に記載の導電性積層体。
【請求項4】
前記カチオン系の官能基を有する物質が、アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体である、請求項1から3のいずれかの項に記載の導電性積層体。
【請求項5】
前記アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体の重量平均分子量が100〜50000である、請求項4に記載の導電性積層体。
【請求項6】
前記アミノ基を有する化合物、ヒドラジノ基を有する化合物、またはそれらの誘導体が、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヒドラジノイソシアヌレート、ポリアリルアミン、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化イオウ共重合物、およびアクリルアミド・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項4または5に記載の導電性積層体。
【請求項7】
バインダー樹脂およびカチオン系の官能基を有する物質を含むアンカーコート剤組成物塗料を、透明樹脂基体(A)上に付与し、乾燥してアンカーコート層(B)を形成する工程、
π共役系導電性ポリマーとドーパントとしてのアクセプターとの複合体を含有する導電性樹脂組成物塗料を、該アンカーコート層(B)上に付与し、乾燥して導電層(C)を形成する工程
を包含する、請求項1から6のいずれかの項に記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項7の方法によって得られる導電性積層体からなる、抵抗膜式スイッチ用フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−158410(P2009−158410A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338117(P2007−338117)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】