説明

導電性組成物及びその製造方法

【課題】
本明細書には、有機ポリマー及びカーボンナノチューブ組成物を含んでなる導電性組成物が開示されている。
【解決手段】
カーボンナノチューブ組成物は、ロープを形成することができ、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有することができるカーボンナノチューブを含んでおり、また本組成物は約1012ohm−cm以下の体積抵抗率と約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーから作成された物品は、静電気消散又は電磁シールドが重要な要件である包装用フィルム、チップキャリア、コンピューター、プリンター及びコピー機部品のような材料取扱及び電子機器に広く利用されている。静電気消散(本明細書中では以後ESDとする)は、異なる電位の物体間の直接接触又は誘導静電場による静電荷の移動と定義される。電磁シールド(本明細書中では以後EMシールドとする)効果は、そのシールドに入射する電磁場がそれを介して伝送される割合(単位デシベル)と定義される。電子素子が小型化され高速化されるにつれて、静電荷に対する感受性が増大し、従って改良された静電気消散性が得られるように改変された有機ポリマーを利用するのが一般に望ましい。同じように、改良された電磁シールドを提供すると同時に有機ポリマーの有利な機械的性質の幾らか又は全部を保持することができるように有機ポリマーを改変することが望ましい。
【0003】
電気的性質を改良し、ESD及びEMシールドを達成するために、ピッチやポリアクリロニトリルから誘導された直径が2マイクロメートルより大きいグラファイト繊維のような導電性充填材が有機ポリマー中に混入されることが多い。しかし、これらのグラファイト繊維はその大きさが大きいために、かかる繊維を混入すると一般に耐衝撃性のような機械的性質が低下する。従って、当技術分野では、適切なESD及びEMシールドを提供しつつ、その機械的性質を保持することができる導電性ポリマー組成物に対するニーズが残されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、導電性組成物は有機ポリマー及びカーボンナノチューブ組成物を含んでおり、このカーボンナノチューブ組成物は、ロープを形成することができかつカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有することができるカーボンナノチューブを含んでおり、前記組成物は約1012ohm−cm以下の体積抵抗率、及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有する。
【0005】
別の実施形態では、導電性組成物は有機ポリマーと、カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ組成物とを含んでおり、カーボンナノチューブ組成物のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有しており、カーボンナノチューブはロープを含む網状組織の形態で有機ポリマー中に存在しており、前記導電性組成物は約10ohm−cm以下の体積抵抗率、及び約10キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有している。
【0006】
さらに別の実施形態では、導電性組成物は有機ポリマーと、カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ組成物とを含んでおり、カーボンナノチューブ組成物のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有しており、カーボンナノチューブはロープと凝集体を含む網状組織の形態で有機ポリマー中に存在しており、導電性組成物は約10ohm−cm以下の体積抵抗率、約10キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さ、及びクラスAの表面仕上げを有している。
【0007】
また、本明細書には、有機ポリマー及び/又は有機ポリマー前駆体組成物をカーボンナノチューブ組成物とブレンドすることを含んでなる組成物の製造方法も開示されており、ここで、カーボンナノチューブ組成物はロープを形成することができるカーボンナノチューブを含んでおり、またカーボンナノチューブ組成物はカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の量の生産関連不純物を含んでいる。
【0008】
また、本明細書には、カーボンナノチューブ組成物を有機ポリマー又は有機ポリマー前駆体とブレンドすることを含んでなる導電性組成物の製造方法も開示されており、ここで、カーボンナノチューブ組成物はロープを形成することができるカーボンナノチューブを含有しており、カーボンナノチューブを含むロープの寸法はブレンドの際に変化する。
【0009】
さらにまた、本明細書には、第1の有機ポリマーとカーボンナノチューブ組成物をブレンドしてマスターバッチを形成し、このマスターバッチを第2の有機ポリマーとさらにブレンドして導電性組成物を形成することを含んでなる、導電性組成物を製造する方法も開示されており、ここで、カーボンナノチューブ組成物はカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の量で生産関連不純物を含んでおり、カーボンナノチューブ組成物はロープを形成することができるカーボンナノチューブを含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書で使用する場合、用語「第1」、「第2」などは順序や重要度を示しているわけではなく、一つの要素を他の要素と区別するために使われており、用語「前記」、「1種」及び「1つ」は量の制限を示すわけではなく、言及されているものが1種以上存在していることを示すことに留意されたい。また、本明細書中に開示されている全ての範囲は端点を含んでおり、独立して組み合わせることができる。
【0011】
本明細書には、1種以上の有機ポリマーと、約1012ohm−cm以下の体積抵抗率を有する一方約5キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性及びクラスAの表面仕上げを示すカーボンナノチューブ組成物とを含む導電性組成物が開示されている。このカーボンナノチューブ組成物は、ロープを形成することができ、かつ当該カーボンナノチューブの総重量を基準にして約1重量パーセント(wt%)以上、約2wt%以上、そして約5wt%以上の量で生産関連不純物を有することができるカーボンナノチューブを含んでいる。一つの有利な特徴として、かかる生産関連不純物の存在により、有機ポリマーのマトリックス内へのカーボンナノチューブの分散が容易になり、及び/又は有機ポリマーのマトリックス全体での導電性網状組織の形成において低減した量のエネルギーを使用することができるようになる。ロープの存在により、より小さい体積分率カーボンナノチューブを用いて、導電性組成物全体で導電性網状組織の形成が可能になる。これらのロープは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、又は単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブの組合せとして存在するのが有利である。一実施形態では、導電性組成物は、ロープを形成することができるカーボンナノチューブを含有するマスターバッチから製造される。
【0012】
一実施形態では、導電性組成物は、約1012オーム/□(ohm/sq)以上の表面抵抗率を有する一方、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有し、また約5キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性とクラスAの表面仕上げを示す。別の実施形態では、導電性組成物は、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有する一方、約10キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性を示す。さらに別の実施形態では、導電性組成物は、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有する一方、約15キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性を示す。さらに別の実施形態では、本組成物は、約10ohm−cm以下の体積抵抗率を有する一方、約20キロジュール/平方メートル以上の耐衝撃性を示す。この導電性組成物は、クラスAの表面仕上げを有する物品に成形することができる。
【0013】
かかる導電性組成物は、静電荷から保護する必要があるコンピューター、電子物品、半導体部品、回路基板などに有利に利用することができる。また、所望により静電塗装することができる自動車の内装及び外装部品用の自動車のボディーパネルにも有利に使用することができる。
【0014】
偶然であったが、様々な粒度と形状の導電性充填材から、低い浸透閾値を有する導電性組成物が生成するということが発見された。カーボンナノチューブは、その管状(高いアスペクト比)形状と強いファンデルワールス相互作用のために、ロープとして凝集する。加工処理中、これらのロープが分散しランダムに分岐して他のロープと結合することにより導電性網状組織を形成するのが望ましい。しかし、この分岐は、ファンデルワールス力が容易には克服できないために、容易には達成されない。本発明により、生産関連不純物の形態で様々な異なる粒度と形状を有するカーボンナノチューブが容易に分散して浸透性網状組織を形成することができるということが発見された。また、有利なことに、様々な大きさと形状を有する粒子を含むカーボンナノチューブ組成物が、より均一な粒度を有するカーボンナノチューブ組成物よりも容易に有機ポリマー中に分散することができるということも発見された。
【0015】
導電性組成物中に使用する有機ポリマーは、多種多様の熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂のブレンド、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドから選択することができる。また、有機ポリマーはポリマーのブレンド、コポリマー、ターポリマー、又は以上の有機ポリマーを1種以上含む組合せであってもよい。熱可塑性樹脂の特定の非限定例としては、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、及び以上の有機ポリマーを1種以上含む組合せがある。
【0016】
熱可塑性樹脂のブレンドの特定の非限定例としては、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン/ナイロン、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル/ポリアミド、ポリカーボネート/ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/ポリオレフィン、及び以上の熱可塑性樹脂のブレンドを1種以上含む組合せがある。
【0017】
一実施形態では、導電性組成物中に使用できる有機ポリマーはポリアリーレンエーテルである。用語ポリ(アリーレンエーテル)ポリマーには、ポリフェニレンエーテル(PPE)及びポリ(アリーレンエーテル)コポリマー、グラフトコポリマー、ポリ(アリーレンエーテル)エーテルアイオノマー、及びアルケニル芳香族化合物とポリ(アリーレンエーテル)、ビニル芳香族化合物、及びポリ(アリーレンエーテル)などとのブロックコポリマー、並びに以上を1種以上含む組合せが包含される。ポリ(アリーレンエーテル)ポリマー自体は、次式(I)の複数の構造単位を含むポリマーである。
【0018】
【化1】

【0019】
式中、各構造単位に対して、各Qは独立して水素、ハロゲン、第一又は第二低級アルキル(例えば、7個以下の炭素原子を含有するアルキル)、フェニル、ハロアルキル、アミノアルキル、炭化水素オキシ、2個以上の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシなどであり、各Qは独立して水素、ハロゲン、第一又は第二低級アルキル、フェニル、ハロアルキル、炭化水素オキシ、2個以上の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシなどである。各Qはアルキル又はフェニル、殊にC1−4アルキルであることができ、各Qは水素であることができる。
【0020】
ホモポリマーとコポリマーのポリ(アリーレンエーテル)が両方とも包含される。代表的なホモポリマーは2,6−ジメチルフェニレンエーテル単位を含有するものである。適切なコポリマーとしては、例えば、かかる単位を2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と組み合わせて含有するランダムコポリマー、又は2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合から誘導されたコポリマーがある。また、ビニルモノマー又はポリスチレンのようなポリマーをグラフト化することにより製造された部分を含有するポリ(アリーレンエーテル)、並びに低分子量のポリカーボネート、キノン類、複素環及びホルマールのようなカップリング剤を2つのポリ(アリーレンエーテル)鎖のヒドロキシ基と反応させてより高い分子量のポリマーを生成させてなるカップル化ポリ(アリーレンエーテル)もある。ポリ(アリーレンエーテル)はさらに、上記のものを1種以上含む組合せを包含する。
【0021】
ポリ(アリーレンエーテル)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより決定して約10000〜約30000グラム/モル(g/モル)の数平均分子量、及び約30000〜約60000g/モルの重量平均分子量を有している。このポリ(アリーレンエーテル)は、クロロホルム中25℃で測定して約0.10〜約0.60デシリットル/グラム(dl/g)の固有粘度を有し得る。また、高い固有粘度のポリ(アリーレンエーテル)と低い固有粘度のポリ(アリーレンエーテル)を組み合わせて利用することも可能である。2つの固有粘度を使用する場合、正確な割合の決定は、使用するポリ(アリーレンエーテル)の正確な固有粘度及び目的とする最終的な物理的性質に依存する。
【0022】
ポリ(アリーレンエーテル)は通例、2,6−キシレノールや2,3,6−トリメチルフェノールのような1種以上のモノヒドロキシ芳香族化合物の酸化カップリングによって製造される。かかるカップリングには一般に触媒系を使用するが、これらは通例、銅、マンガン又はコバルトの化合物のような1種以上の重金属化合物を、通常は様々な他の物質と組み合わせて含有している。
【0023】
多くの目的に特に有用なポリ(アリーレンエーテル)は、1以上のアミノアルキル含有末端基を有する分子を含むものである。このアミノアルキル基は通例ヒドロキシ基に対してオルト位に位置している。かかる末端基を含有する生成物は、ジ−n−ブチルアミンやジメチルアミンのような適当な第一又は第二モノアミンを酸化カップリング反応混合物の構成成分の一つとして混入することによって得ることができる。また、4−ヒドロキシビフェニル末端基が存在することも多く、これは通例、殊に銅−ハロゲン化物−第二又は第三アミン系において、副生物のジフェノキノンが存在する反応混合物から得られる。実質的な割合のポリマー分子、通例ポリマーの約90重量%もを構成する割合が1種以上のアミノアルキル含有末端基及び4−ヒドロキシビフェニル末端基を含有し得る。
【0024】
別の実施形態では、導電性組成物中に使用する有機ポリマーはポリカーボネートであってもよい。芳香族カーボネート連鎖単位を含むポリカーボネートとしては、次式(II)の構造単位を有する組成物がある。
【0025】
【化2】

【0026】
式中、R基は芳香族、脂肪族又は脂環式基である。Rは芳香族有機基、より望ましくは次式(III)の基である。
【0027】
【化3】

【0028】
式中、各A及びAは単環式二価アリール基であり、YはAとAを隔てる0、1、又は2個の原子を有する橋かけ基である。代表的な実施形態では、1個の原子がAとAを隔てる。このタイプの基の具体例は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシル−メチレン、2−[2,2,1]−ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデンなどである。橋かけ基Yは炭化水素基又はメチレン、シクロヘキシリデン若しくはイソプロピリデンのような飽和炭化水素基であることができる。
【0029】
ポリカーボネートは、カーボネート前駆体とジヒドロキシ化合物とのSchotten−Bauman界面反応によって製造できる。通例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水性塩基を、ジヒドロキシ化合物を含有するベンゼン、トルエン、二硫化炭素、又はジクロロメタンのような有機の水不混和性溶媒と混合する。一般に、相間移動剤を用いて反応を促進する。分子量調節剤を単独で又は混合物として反応体混合物に添加してもよい。また、上記枝分れ剤も単独で又は混合物として添加することもできる。
【0030】
本発明で使用することができる芳香族ジヒドロキシ化合物コモノマーは次の一般式(IV)のものからなる。
【0031】
【化4】

【0032】
式中、Aは二価置換及び非置換芳香族基から選択される。
【0033】
幾つかの実施形態で、Aは次式(V)の構造を有する。
【0034】
【化5】

【0035】
式中、Gはフェニレン、ビフェニレン、ナフチレンなどの芳香族基を表す。Eは、メチレン、エチレン、エチリデン、プロピレン、プロピリデン、イソプロピリデン、ブチレン、ブチリデン、イソブチリデン、アミレン、アミリデン、イソアミリデンなどのアルキレン又はアルキリデン基であってもよいし、また、芳香族結合、第三アミノ結合、エーテル結合、カルボニル結合、ケイ素含有結合、又はスルフィド、スルホキシド、スルホンなどのイオウ含有結合、又はホスフィニル、ホスホニルなどのリン含有結合のようなアルキレン又はアルキリデンとは異なる部分によって連結された2以上のアルキレン又はアルキリデン基からなっていてもよい。加えて、Eは環式脂肪族基であってもよい。Rは水素、又はアルキル、アリール、アラルキル、アルカリール、若しくはシクロアルキルのような一価炭化水素基を表す。Yはハロゲン(フッ素、臭素、塩素、ヨウ素)のような無機原子、ニトロのような無機基、アルケニル、アリル、若しくは上記Rのような有機基、又はORのようなオキシ基でよく、必要なことは、Yがポリマーを製造するのに使用する反応体及び反応条件に対して不活性であると共にそれらに影響されないということだけである。文字mは0からG上で置換に利用できる位置の数までの整数を表し、pは0からE上で置換に利用できる位置の数までの整数を表し、「t」は1以上に等しい整数を表し、「s」は0又は1であり、「u」は0を含む任意の整数を表す。
【0036】
Eの適切な例としては、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン、メチルシクロヘキシリデン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチリデン、ネオペンチリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデンなど、スルフィド、スルホキシド若しくはスルホンのようなイオウ含有結合、ホスフィニル、ホスホニルのようなリン含有結合、エーテル結合、カルボニル基、第三窒素基、又はシラン若しくはシロキシのようなケイ素含有結合がある。Aが上記式(IV)で表される芳香族ジヒドロキシコモノマー化合物(III)で、1つより多くのY置換基が存在する場合、それらは同じであっても異なっていてもよい。同じことがR置換基についてもいえる。式(IV)においてsが0で、uが0でない場合、芳香環はアルキリデンその他の橋かけを介在することなく直接結合する。芳香核残渣G上のヒドロキシル基とYの位置はオルト、メタ、又はパラ位で変化することができ、炭化水素残渣の2以上の環炭素原子がY及びヒドロキシル基で置換されている場合その配置は隣接、非対称又は対称の関係であることができる。幾つかの特定の実施形態では、パラメーター「t」、「s」、及び「u」は各々1であり、両方のG基は非置換フェニレン基であり、Eはイソプロピリデンのようなアルキリデン基である。特定の実施形態では両方のG基がp−フェニレンであるが、両方がo−若しくはm−フェニレンであってもよいし、又は一方がo−若しくはm−フェニレンで、他方がp−フェニレンであってもよい。式(IV)の芳香族ジヒドロキシ化合物の適切な例は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(すなわちビスフェノールA)、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−5−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジイソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラクロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジクロロ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジブロモ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−t−ブチル−5−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジイソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラクロロフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジクロロ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジブロモ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−イソプロピルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−t−ブチル−5−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(3−クロロ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−ブロモ−5−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジイソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラクロロフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラブロモフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5,6−テトラメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジクロロ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジブロモ−3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシ−1,1−ビフェニル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチル−1,1−ビフェニル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジオクチル−1,1−ビフェニル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン及び1,4−ビス(2−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−2−プロピル)ベンゼンである。代表的な芳香族ジヒドロキシ化合物はビスフェノールA(BPA)である。
【0037】
式(IV)で表すことができる他のビスフェノール化合物としては、Xが−O−、−S−、−SO−又は−SO−であるものがある。かかるビスフェノール化合物の幾つかの例は、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルエーテルなどのビス(ヒドロキシアリール)エーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホン、又は以上のビスフェノール化合物を1種以上含む組合せである。
【0038】
ポリカーボネートの重縮合に利用できるその他のビスフェノール化合物は次式(VI)で表される。
【0039】
【化6】

【0040】
式中、Rは1〜10個の炭素原子を有する炭化水素基のハロゲン原子又はハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜4の値である。nが2以上である場合、Rは同じであっても異なっていてもよい。式(V)で表すことができるビスフェノール化合物の例は、レゾルシノール、3−メチルレゾルシン、3−エチルレゾルシン、3−プロピルレゾルシン、3−ブチルレゾルシン、3−t−ブチルレゾルシン、3−フェニルレゾルシン、3−クミルレゾルシン、2,3,4,6−テトラフルオロレゾルシン、2,3,4,6−テトラブロモレゾルシンなどの置換レゾルシノール化合物、カテコール、ヒドロキノン、3−メチルヒドロキノン、3−エチルヒドロキノン、3−プロピルヒドロキノン、3−ブチルヒドロキノン、3−t−ブチルヒドロキノン、3−フェニルヒドロキノン、3−クミルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラ−t−ブチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラフルオロヒドロキノン、2,3,5,6−テトラブロモヒドロキノンなどの置換ヒドロキノン、又は以上のビスフェノール化合物を1種以上含む組合せである。
【0041】
次式(VII)で表される2,2,2′,2′−テトラヒドロ−3,3,3′,3′−テトラメチル−1,1′−スピロビ−[IH−インデン]−6,6′−ジオールのようなビスフェノール化合物も使用できる。
【0042】
【化7】

【0043】
代表的なビスフェノール化合物はビスフェノールAである。
【0044】
典型的なカーボネート前駆体には、ハロゲン化カルボニル、例えば塩化カルボニル(ホスゲン)及び臭化カルボニル、ビス−ハロホルメート、例えばビスフェノールA、ヒドロキノンなどの二価フェノールのビス−ハロホルメート、及びエチレングリコールやネオペンチルグリコールのようなグリコールのビス−ハロホルメート、並びにジフェニルカーボネート、ジ(トリル)カーボネート、及びジ(ナフチル)カーボネートのようなジアリールカーボネートがある。界面反応に代表的なカーボネート前駆体は塩化カルボニルである。
【0045】
また、ホモポリマーではなくカーボネートコポリマーを使用したい場合には、2種以上の異なる二価フェノールの重合で得られたポリカーボネート、又は二価フェノールと、グリコール若しくはヒドロキシ−若しくは酸−末端終止ポリエステル若しくは二塩基酸若しくはヒドロキシ酸若しくは脂肪族二酸とのコポリマーを使用することも可能である。一般に、有用な脂肪族二酸は約2〜約40個の炭素を有している。代表的な脂肪族二酸はドデカン二酸である。
【0046】
枝分れポリカーボネート、並びに線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートのブレンドも導電性組成物中に使用することができる。枝分れポリカーボネートは重合中に枝分れ剤を添加することによって製造することができる。これらの枝分れ剤はヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミルなどの官能基を3個以上含有する多官能性有機化合物、並びに以上の枝分れ剤を1種以上含む組合せでよい。特定の例としては、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、トリメリト酸三塩化物、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビス−フェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−エチル)α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸など、又は以上の枝分れ剤を1種以上含む組合せがある。枝分れ剤は、ポリカーボネートの総重量を基準にして約0.05〜約2.0重量パーセント(wt%)のレベルで添加することができる。
【0047】
一実施形態では、ポリカーボネートは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融重縮合反応によって製造することができる。ポリカーボネートを製造するのに利用することができる炭酸ジエステルの例は、ジフェニルカーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート、ビス(2−シアノフェニル)カーボネート、ビス(o−ニトロフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなど、又は以上の炭酸ジエステルを1種以上含む組合せである。代表的な炭酸ジエステルはジフェニルカーボネート又はビス(メチルサリチル)カーボネート)である。
【0048】
ポリカーボネートの数平均分子量は約3000〜約1000000グラム/モル(g/モル)である。一実施形態では、約10000〜約100000g/モルの数平均分子量を有するポリカーボネートを使用するのが望ましい。別の実施形態では、約20000〜約75000g/モルの数平均分子量を有するポリカーボネートを使用するのが望ましい。さらに別の実施形態では、約25000〜約50000g/モルの数平均分子量を有するポリカーボネートを使用するのが望ましい。
【0049】
環式脂肪族ポリエステルは一般にジオールと二塩基酸又は誘導体との反応によって製造される。環式脂肪族ポリエステルポリマーの製造に有用なジオールは直鎖、枝分れ、又は環式脂肪族のアルカンジオールであり、2〜12個の炭素原子を含有することができる。
【0050】
ジオールの適切な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、すなわち、1,2−及び1,3−プロピレングリコール、ブタンジオール、すなわち、1,3−及び1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル,2−メチル,1,3−プロパンジオール、1,3−及び1,5−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、特にそのシス−及びトランス−異性体、トリエチレングリコール、1,10−デカンジオール、並びに以上のものの任意の混合物がある。特に望ましいのはジメタノールビシクロオクタン、ジメタノールデカリン、環式脂肪族ジオール又はその化学的等価体、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール又はその化学的等価体である。1,4−シクロヘキサンジメタノールをジオール成分として用いる場合、一般に約1:4〜約4:1のモル割合のシス−対トランス−異性体の混合物を使用するのが望ましい。この範囲内で、一般に約1:3のモル割合のシス−対トランス−異性体を使用するのが望ましい。
【0051】
環式脂肪族ポリエステルポリマーの製造に有用な二酸は、各々が飽和環内の飽和炭素に結合している2つのカルボキシル基を有するカルボン酸を包含する脂肪族二酸である。環式脂肪族酸の適切な例としては、デカヒドロナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロオクタンジカルボン酸がある。代表的な環式脂肪族二酸は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。線状脂肪族二酸も、ポリエステルが環式脂肪族環を含有する1種以上のモノマーを有するときには有用である。線状脂肪族二酸の具体例はコハク酸、アジピン酸、ジメチルコハク酸、及びアゼライン酸である。二酸とジオールの混合物を使用して環式脂肪族ポリエステルを作成することもできる。
【0052】
シクロヘキサンジカルボン酸及びその化学的等価体は、例えば、炭素又はアルミナの適切な担体に担持されたロジウムのような適切な触媒を用いて、適切な溶媒、水又は酢酸中、室温大気圧で、イソフタル酸、テレフタル酸又はナフタレン酸のようなシクロ芳香族二酸及び対応する誘導体の水素化によって製造することができる。また、反応条件下で酸が少なくとも部分的に可溶である不活性液体媒質を使用し、炭素又はシリカ中パラジウム又はルテニウムの触媒を用いて製造してもよい。
【0053】
通例、水素化中に、カルボン酸基がシス位又はトランス位にある2種以上の異性体が得られる。このシス及びトランス異性体は溶媒、例えばn−ヘプタンを用いる若しくは用いない結晶化により、又は蒸留により分離することができる。シス異性体はより良好にブレンドする傾向があるが、トランス異性体はより高い融解温度及び結晶化温度を有しており、一般により望ましい。シス及びトランス異性体の混合物を使用してもよく、かかる混合物を使用する場合、トランス異性体はシス及びトランス異性体を合わせた総重量を基準にして約75wt%以上からなることができ、シス異性体はその残りからなることができる。1種より多くの二酸の異性体の混合物を用いる場合、コポリエステル又は2種のポリエステルの混合物を環式脂肪族ポリエステル樹脂として使用することができる。
【0054】
エステルを始めとするこれらの二酸の化学的等価体も環式脂肪族ポリエステルの製造に使用することができる。二酸の化学的等価体の適切な例は、アルキルエステル、例えばジアルキルエステル、ジアリールエステル、無水物、酸塩化物、酸臭化物など、又は以上の化学的等価体を1種以上含む組合せである。代表的な化学的等価体は環式脂肪族二酸のジアルキルエステルからなる。適切な化学的等価体は酸のジメチルエステル、特にジメチル−トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートからなる。
【0055】
ジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレートはジメチルテレフタレートの環水素化で得ることができ、この場合カルボン酸基がシス位及びトランス位にある2種の異性体が得られる。これらの異性体分離することができ、トランス異性体が殊に望ましい。
上記に詳述したように異性体の混合物も使用できる。
【0056】
ポリエステルポリマーは一般に、ジオール又はジオール化学的等価体成分と二酸又は二酸化学的等価体成分との縮合又はエステル交換重合により得られ、次式(VIII)の繰返し単位を有している。
【0057】
【化8】

【0058】
式中、Rは直鎖、枝分れ若しくは環式脂肪族アルカンジオール又はその化学的等価体の残基であるアリール、アルキル又はシクロアルキル基を表し、Rは二酸から誘導された脱カルボキシル化残基であるアリール、アルキル又は環式脂肪族基であり、ただしR又はRの1つ以上がシクロアルキル基である。アリール基は所望により置換アリール基であってもよい。
【0059】
代表的な環式脂肪族ポリエステルは、次式(IX)の繰返し単位を有するポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)である。
【0060】
【化9】

【0061】
ここで、式(VIII)中のRはシクロヘキサン環であり、Rはシクロヘキサンジカルボキシレート又はその化学的等価体から誘導されたシクロヘキサン環であり、そのシス−若しくはトランス−異性体又はシス−及びトランス−異性体の混合物から選択される。環式脂肪族ポリエステルポリマーは、一般に、適切な量、通例最終生成物の総重量を基準にして約50〜400ppmのチタンの量のテトラ(2−エチルヘキシル)チタネートのような適切な触媒の存在下で作成することができる。ポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)は一般にポリカーボネートと共に適切なブレンドを形成する。
【0062】
コポリエステルカーボネート又はポリエステルの数平均分子量は約3000〜約1000000g/モルである。一実施形態では、約10000〜約100000g/モルの数平均分子量を有するポリエステルを使用するのが望ましい。別の実施形態では、約20000〜約75000g/モルの数平均分子量を有するポリエステルを使用するのが望ましい。さらに別の実施形態では、約25000〜約50000g/モルの数平均分子量を有するポリエステルを使用するのが望ましい。
【0063】
別の代表的なポリエステルはポリアリーレートである。ポリアリーレートとは一般に、芳香族ジカルボン酸とビスフェノールのポリエステルをいう。アリールエステル結合に加えてカーボネート結合を含むポリアリーレートコポリマーはポリエステル−カーボネートといわれ、これも混合物中に有利に利用できる。ポリアリーレートは溶液中で、又は芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体とビスフェノール又はその誘導体の溶融重合によって製造することができる。
【0064】
一般に、ポリアリーレートは1種以上のジフェノール残基を1種以上の芳香族ジカルボン酸残基と組み合わせて含むのが望ましい。次式(X)に例示する代表的なジフェノール残基は、本明細書を通じてレゾルシノール又はレゾルシノール部分という1,3−ジヒドロキシベンゼン部分から誘導される。レゾルシノール又はレゾルシノール部分には、非置換の1,3−ジヒドロキシベンゼンと置換1,3−ジヒドロキシベンゼンの両者が包含される。
【0065】
【化10】

【0066】
式(X)で、Rは1種以上のC1−12アルキル又はハロゲンであり、nは0〜3である。適切なジカルボン酸残基としては、イソフタル酸、テレフタル酸、又はイソフタル酸とテレフタル酸の混合物のような単環式部分から誘導された芳香族ジカルボン酸残基がある。適切なジカルボン酸はまた、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、及びナフタレン−2,6−ジカルボン酸など、並びに以上の多環式部分を1種以上含む組合せのような多環式部分から誘導される。代表的な多環式部分はナフタレン−2,6−ジカルボン酸である。
【0067】
芳香族ジカルボン酸残基は一般に次式(XI)に示されるようにイソフタル酸及び/又はテレフタル酸の混合物から誘導される。
【0068】
【化11】

【0069】
従って、一実施形態では、ポリアリーレートは次式(XII)に示されるようなレゾルシノールアリーレートポリエステルからなる。
【0070】
【化12】

【0071】
式中、Rは1以上のC1−12アルキル又はハロゲンであり、nは0〜3であり、mは約8以上である。Rは水素であるのが望ましい。一実施形態では、nは0であり、mは約10〜約300である。イソフタレート対テレフタレートのモル比は約0.25:1〜約4.0:1である。
【0072】
別の実施形態では、ポリアリーレートは、次式(XIII)に示されるように多環式芳香族基を有する熱的に安定なレゾルシノールアリーレートポリエステルからなる。
【0073】
【化13】

【0074】
式中、Rは1以上のC1−12アルキル又はハロゲンであり、nは0〜3であり、mは約8以上である。
【0075】
別の実施形態では、ポリアリーレートは共重合して、カーボネートブロックとアリーレートブロックを含むブロックコポリエステルカーボネートを形成している。これらの中には、次式(XIV)の構造単位を含むポリマーがある。
【0076】
【化14】

【0077】
式中、各Rは独立してハロゲン又はC1−12アルキルであり、mは1以上であり、pは約0〜約3であり、各Rは独立して二価有機基であり、nは約4以上である。一実施形態では、nは約10以上、より望ましくは約20以上、最も望ましくは約30〜約150である。一般に、mは約3以上であるのが望ましい。一実施形態では、mは約10以上であることができ、別の実施形態では、mは約20以上〜約200であることができる。代表的な実施形態では、mは約20〜約50であることができる。
【0078】
一般に、ポリアリーレートの重量平均分子量は約500〜約1000000グラム/モル(g/モル)であるのが望ましい。一実施形態では、ポリアリーレートは約10000〜約200000g/モルの重量平均分子量を有する。別の実施形態では、ポリアリーレートは約30000〜約150000g/モルの重量平均分子量を有する。さらに別の実施形態では、ポリアリーレートは約50000〜約120000g/モルの重量平均分子量を有する。ポリアリーレートの代表的な分子量は60000〜120000g/モルである。
【0079】
一実施形態では、ポリマー前駆体はエチレン性不飽和基を含む。使用されるエチレン性不飽和基は重合することができるいかなるエチレン性不飽和官能基であることもできる。適切なエチレン性不飽和官能性としては、ラジカル重合又はカチオン重合により重合することができる官能性がある。適切なエチレン性不飽和の特定の例は、アクリレート、メタクリレート、スチレンのようなビニル芳香族ポリマー、ビニルエーテル、ビニルエステル、N−置換アクリルアミド、N−ビニルアミド、マレイン酸エステル、フマル酸エステルなどを含有する基である。エチレン性不飽和は、アクリレート、メタクリレート、又はスチレン官能性を含有する基によって提供される。
【0080】
ビニル芳香族樹脂は、次式(XV)のモノマーから誘導された構造単位を25重量%以上含有するポリマー前駆体から誘導される。
【0081】
【化15】

【0082】
式中、Rは水素、低級アルキル又はハロゲンであり、Zはビニル、ハロゲン又は低級アルキルであり、pは0〜約5である。これらのポリマーには、スチレン、クロロスチレン若しくはビニルトルエンのホモポリマー、スチレンと、アクリロニトリル、ブタジエン、α−メチルスチレン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン及び無水マレイン酸により例示される1種以上のモノマーとのランダムコポリマー、並びにゴムがポリブタジエン若しくは約98〜70%スチレンと約2〜30%ジエンモノマーのゴム状コポリマーであるブレンド及びグラフトを含むゴムで変性されたポリスチレンが含まれる。ポリスチレンはポリフェニレンエーテルとあらゆる割合で混和性であり、かかるブレンドは本ポリマーの総重量を基準にして約5〜約95wt%、最も多くの場合約25〜約75wt%のポリスチレンを含有する。
【0083】
さらに別の実施形態では、ポリイミドを組成物中の有機ポリマーとして使用してもよい。有用な熱可塑性ポリイミドは次の一般式(XVI)を有する。
【0084】
【化16】

【0085】
式中、「a」は約1以上、望ましくは約10以上、より望ましくは約1000以上であり、Vはいかなる四価リンカーでもよいが、このリンカーはポリイミドの合成又は使用を妨害するものであってはならない。適切なリンカーとしては、(a)約5〜約50個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の飽和、不飽和若しくは芳香族単環式及び多環式基、(b)1〜約30個の炭素原子を有する置換若しくは非置換で線状若しくは枝分れの飽和若しくは不飽和アルキル基、又はこれらの組合せがある。適切な置換及び/又はリンカーとしては、限定されることはないが、エーテル、エポキシド、アミド、エステル、及びこれらの組合せがある。代表的なリンカーとして、限定されることはないが、次式(XVII)のような四価芳香族基がある。
【0086】
【化17】

【0087】
式中、Wは−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数である)、及びこのハロゲン化誘導体、例えばペルフルオロアルキレン基、又は式−O−Z−O−の基からなる群から選択される二価部分であり、−O−又は−O−Z−O−基の二価結合は3,3′、3,4′、4,3′、又は4,4′位にあり、Zとしては、限定されることはないが、次式(XVIII)の二価基がある。
【0088】
【化18】

【0089】
式(XVI)中のRとしては、(a)約6〜約20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基及びそのハロゲン化誘導体、(b)約2〜約20個の炭素原子を有する直鎖若しくは枝分れ鎖アルキレン基、(c)約3〜約20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基、又は(d)次の一般式(XIX)の二価基のような置換若しくは非置換二価有機基がある。
【0090】
【化19】

【0091】
式中、Qとしては、−O−、−S−、−C(O)−、−SO−、−SO−、−C2y−(yは1〜5の整数である)、及びそのハロゲン化誘導体、例えばペルフルオロアルキレン基からなる群から選択される二価部分がある。
【0092】
適切な種類のポリイミドとしては、ポリアミドイミド及びポリエーテルイミド、特に溶融加工処理可能なポリエーテルイミドがある。
【0093】
適切なポリエーテルイミドポリマーは1より多くの次式(XX)の構造単位を含んでいる。一般に、ポリエーテルイミドポリマーは約10〜約1000の式(XX)の構造単位を含有するのが望ましい。一実施形態では、ポリエーテルイミドポリマーは約10〜約500の式(XX)の構造単位を含有するのが望ましい。
【0094】
【化20】

【0095】
式中、Tは−O−又は式−O−Z−O−の基であり、−O−又は−O−Z−O−基の二価結合は3,3′、3,4′、4,3′、又は4,4′位にあり、Zとしては、限定されることはないが、上記定義の式(XVIII)の二価基がある。
【0096】
一実施形態では、ポリエーテルイミドは、上記エーテルイミド単位に加えてさらに次式(XXI)のポリイミド構造単位を含有するコポリマーであってもよい。
【0097】
【化21】

【0098】
式中、Rは式(XVI)に対して既に定義したとおりであり、Mとしては、限定されることはないが、次式(XXII)の基がある。
【0099】
【化22】

【0100】
ポリエーテルイミドは、次式(XXIII)の芳香族ビス(エーテル無水物)と次式(XIV)の有機ジアミンとの反応を始めとする方法のいずれによっても製造することができる。
【0101】
【化23】

【0102】
【化24】

【0103】
式中、T及びRは式(XVI)及び(XX)で上記した通り定義される。
【0104】
式(XXIII)の芳香族ビス(エーテル無水物)の具体例としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4′−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4′−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニル−2,2−プロパン二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゾフェノン二無水物及び4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)−4′−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、並びにこれらの様々な混合物がある。
【0105】
ビス(エーテル無水物)は、双極性非プロトン性溶媒の存在下、ニトロ置換フェニルジニトリルと二価フェノール化合物の金属塩との反応生成物の加水分解とその後の脱水によって製造することができる。上記式(XXIII)に包含される代表的な種類の芳香族ビス(エーテル無水物)としては、限定されることはないが、Tが次式(XXV)のものであり、エーテル結合が、例えば3,3′、3,4′、4,3′、又は4,4′位にある化合物、及びこれらの混合物がある。
【0106】
【化25】

【0107】
式中、Qは上記定義の通りである。
【0108】
ポリイミド及び/又はポリエーテルイミドの製造にはいかなるジアミノ化合物でも使用できる。適切な化合物の例は、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、4−メチルノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2、2−ジメチルプロピレンジアミン、N−メチル−ビス(3−アミノプロピル)アミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、ビス(3−アミノプロピル)スルフィド、1,4−シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレン−ジアミン、5−メチル−4,6−ジエチル−1,3−フェニレン−ジアミン、ベンジジン、3,3′−ジメチルベンジジン、3,3′−ジメトキシベンジジン、1,5−ジアミノナフタレン、ビス(4−アミノフェニル)メタン、ビス(2−クロロ−4−アミノ−3、5−ジエチルフェニル)メタン、ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,4−ビス(b−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−b−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−b−メチル−o−アミノフェニル)ベンゼン、ビス(p−b−メチル−o−アミノペンチル)ベンゼン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル及び1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンがある。これらの化合物の混合物が存在することもできる。代表的なジアミノ化合物は芳香族ジアミン、殊にm−及びp−フェニレンジアミン、及びこれらの混合物である。
【0109】
代表的な実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、各Rが独立してp−フェニレン若しくはm−フェニレン又はこれらの混合物であり、Tが次式(XXVI)の二価基である式(XX)の構造単位を含んでいる。
【0110】
【化26】

【0111】
一般に、反応はo−ジクロロベンゼン、m−クレゾール/トルエンなどの溶媒を用いて行い、約100〜約250℃の温度で式(XVIII)の無水物と式(XIX)のジアミンを反応させることができる。また、ポリエーテルイミドは、出発物質の混合物を同時に撹拌しながら高温に加熱することにより、式(XVIII)の芳香族ビス(エーテル無水物)と式(XIX)のジアミンとの溶融重合によって製造することもできる。一般に、溶融重合では約200〜約400℃の温度を使用する。連鎖停止剤及び枝分れ剤もこの反応に使用できる。ポリエーテルイミド/ポリイミドコポリマーを使用する場合、ピロメリト酸無水物のような二無水物をビス(エーテル無水物)と組み合わせて使用する。場合により、ポリエーテルイミドポリマーは、ジアミンが反応混合物中に約0.2モル以下の過剰、より望ましくは約0.2モル未満の過剰で存在する芳香族ビス(エーテル無水物)と有機ジアミンの反応で製造することができる。かかる条件下で、ポリエーテルイミド樹脂は、氷酢酸中33重量パーセント(wt%)の臭化水素酸溶液を用いるクロロホルム溶液による滴定で示されるように約15マイクロ当量/グラム(μeq/g)未満の酸で滴定可能な基、より望ましくは約10μeq/g未満の酸で滴定可能な基を有する。酸で滴定可能な基は本質的にポリエーテルイミド樹脂中のアミン末端基に起因する。
【0112】
一般に、有用なポリエーテルイミドは、6.6キログラム(kg)の荷重を用いて295℃で米国材料試験協会(ASTM)D1238によって測定して約0.1〜約10グラム/分(g/min)のメルトインデックスを有する。代表的な実施形態では、ポリエーテルイミド樹脂は、ポリスチレン標準を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定して約10000〜約150000グラム/モル(g/モル)の重量平均分子量(Mw)を有する。かかるポリエーテルイミドポリマーは一般に、m−クレゾール中25℃で測定して約0.2デシリットル/グラム(dl/g)より大きく、より望ましくは約0.35〜約0.7dl/gの量の固有粘度を有している。
【0113】
さらに別の実施形態では、ポリアミドを組成物中の有機ポリマーとして使用してもよい。ポリアミドは一般に4〜12個の炭素原子を有する有機ラクタムの重合によって誘導される。代表的なラクタムは次式(XXVII)で表される。
【0114】
【化27】

【0115】
式中、nは約3〜約11である。代表的なラクタムはnが5に等しいε−カプロラクタムである。
【0116】
ポリアミドはまた、4〜12個の炭素原子を有するアミノ酸から合成することもできる。代表的なアミノ酸は次式(XXVIII)で表される。
【0117】
【化28】

【0118】
式中、nは約3〜約11である。代表的なアミノ酸はnが5に等しいε−アミノカプロン酸である。
【0119】
ポリアミドはまた、4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸と2〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンから重合することもできる。代表的な脂肪族ジカルボン酸はポリエステルの合成に関して上記したものと同じである。代表的な脂肪族ジアミンは次式(XXIX)で表される。
【0120】
【化29】

【0121】
式中、nは約2〜約12である。一つの代表的な脂肪族ジアミンはヘキサメチレンジアミン(HN(CHNH)である。ジカルボン酸とジアミンのモル比は約0.66〜約1.5であるのが望ましい。一実施形態では、約0.81〜約1.22のモル比を使用するのが望ましい。別の実施形態では、約0.96〜約1.04のモル比を使用するのが望ましい。代表的なポリアミドはナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,12、ナイロン10など、又は以上のナイロンを1種以上含む組合せである。
【0122】
また、ポリアミドエステルの合成は、4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ラクトンと4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ラクタムとからでも達成できる。脂肪族ラクトンはポリエステル合成に関して上記したものと同じであり、脂肪族ラクタムはポリアミドの合成に関して上記したものと同じである。脂肪族ラクトンと脂肪族ラクタムの比は、最終コポリマーの所望の組成及びラクトンとラクタムの相対的反応性に応じて広く変化し得る。脂肪族ラクタムと脂肪族ラクトンの代表的な初期モル比は約0.5〜約4である。この範囲内で約1以上のモル比が望ましい。また、約2以下のモル比が望ましい。
【0123】
本組成物はさらに触媒又は開始剤を含んでいてもよい。一般に、対応する熱重合に適切ないかなる公知の触媒又は開始剤でも使用し得る。また、重合は触媒も開始剤も用いないで行ってもよい。例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンからのポリアミドの合成では触媒は必要とされない。
【0124】
ラクタムからのポリアミドの合成の場合、適切な触媒としては水及びその合成に使用した開環した(加水分解した)ラクタムに対応するω−アミノ酸がある。他の適切な触媒としては、金属アルミニウムアルキラート(MAl(OR)H、ここでMはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、RはC〜C12アルキルである)、ナトリウムジヒドロビス(2−メトキシエトキシ)アルミネート、リチウムジヒドロビス(tert−ブトキシ)アルミネート、アルミニウムアルキラート(Al(OR)R、ここでRはC〜C12アルキルである)、N−ナトリウムカプロラクタム、ε−カプロラクタムのマグネシウム塩化物又は臭化物塩(MgXC10NO、X=Br又はCl)、ジアルコキシアルミニウム水素化物がある。適切な開始剤としては、イソフタロイルビスカプロラクタム、N−アセタールカプロラクタム、イソシアネートε−カプロラクタム付加物、アルコール(ROH、ここでRはC〜C12アルキルである)、ジオール(HO−R−OH、ここでRはC〜C12アルキレンである)、ω−アミノカプロン酸、及びナトリウムメトキシドがある。
【0125】
ラクトンとラクタムからのポリアミドエステルの合成の場合、適切な触媒としては、式LiAl(H)(Rを有するリチウムアルミニウム水素化物触媒のような金属水素化物化合物がある。ここで、式中のxは約1〜約4であり、yは約0〜約3であり、x+yは4に等しく、RはC〜C12アルキル及びC〜C12アルコキシからなる群から選択される。適切な触媒には、LiAl(H)(ORもあり、ここでRはC〜Cアルキルからなる群から選択される。殊に望ましい触媒はLiAl(H)(OC(CHである。その他の適切な触媒及び開始剤としては、ポリ(ε−カプロラクタム)とポリ(ε−カプロラクトン)の重合に関して上記したものがある。
【0126】
ポリアミドの代表的なタイプは、第1のポリアミドと、第2のポリアミド、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリ(アルケニル芳香族)ホモポリマー、ゴム変性ポリ(アルケニル芳香族)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)グラフトコポリマー、ブロックコポリマー、並びに以上のものを2種以上含む組合せからなる群から選択されるポリマー材料との反応によって得られるものである。第1のポリアミドは式(XXX)を有する繰返し単位を含む。
【0127】
【化30】

【0128】
式中、Rは9個の炭素を有する枝分れ又は非枝分れアルキル基である。Rは1,9−ノナン及び/又は2−メチル−1,8−オクタンであり得る。ポリアミド樹脂は、カルボン酸とアミンの縮合生成物であるアミド基(−C(O)NH−)の存在によって特徴付けられる。第1ポリアミドは通例、炭素数9のアルキル部分を含む1種以上のジアミンをテレフタル酸(1,4−ジカルボキシベンゼン)と反応させることによって作成される。1種より多くのジアミンを使用する場合、それらジアミンの比は得られるポリマーの融解温度のような物理的性質の幾つかに影響を及ぼす可能性がある。ジアミンとジカルボン酸の比は通例等モルであるが、末端基官能性を決定するためにいずれか一方を過剰に使用してもよい。加えて、反応はさらに、連鎖停止剤として機能し、少なくとも部分的に末端基官能性を決定するモノアミン及びモノカルボン酸を含むことができる。一実施形態では、アミン末端基の含量は約30meq/g以上であるのが望ましい。一実施形態では、アミン末端基含量は約40meq/g以上であるのが望ましい。
【0129】
第2のポリアミドは次式(XXXI)及び/又は次式(XXXII)を有する繰返し単位を含んでいる。
【0130】
【化31】

【0131】
【化32】

【0132】
式中、Rは4〜7個の炭素を有する枝分れ又は非枝分れアルキル基であり、Rは6個の炭素を有する芳香族基又は4〜7個の炭素を有する枝分れ又は非枝分れアルキル基である。Rは式XXXIでは1,6−ヘキサンであることができ、式XXXIIでは1,5−ペンタンであることができる。Rは1,4−ブタンであることができる。
【0133】
第1のポリアミドは、他のポリアミドと比較してより良好な寸法安定性、耐熱性、耐吸湿性、耐磨耗性及び耐薬品性を有する。従って、第1のポリアミドを含む導電性組成物は、第1のポリアミドの代わりに他のポリアミドを含有する匹敵する組成物と比較したときにこれらの改良された性質を示す。幾つかの実施形態では、第1及び第2のポリアミドの組合せでは、多相組成物においてポリアミド相とポリ(アリーレンエーテル)のような他の相との相溶性が改良され、そのため耐衝撃性が改良される。理論に縛られることはないが、第2のポリアミドは利用できる末端アミノ基の量を増大させると考えられる。この末端アミノ基は、場合によって、他の相の成分と反応するか、又は他の相と反応するように官能化されることにより、相溶性を改良することができる。
【0134】
有機ポリマー(樹脂ブレンドを含む)は一般に組成物の総重量を基準にして約5〜約99.999重量パーセント(wt%)の量で使用する。一実施形態では、有機ポリマーは組成物の総重量を基準にして約10〜約99.99の量で使用するのが望ましい。別の実施形態では、有機ポリマーは組成物の総重量を基準にして約30〜約99.5の量で使用するのが望ましい。さらに別の実施形態では、有機ポリマーは組成物の総重量を基準にして約50〜約99.3の量で使用するのが望ましい。
【0135】
カーボンナノチューブ組成物中に使用するカーボンナノチューブはロープを形成することができ、単層カーボンナノチューブ(SWNT)及び/又は多層カーボンナノチューブ(MWNT)であることができる。カーボンナノチューブ組成物中に使用するカーボンナノチューブは、グラファイトのレーザー蒸発、化学蒸着、炭素アーク合成又は高圧一酸化炭素変換プロセス(HIPCO)法によって製造することができる。
【0136】
SWNTは一般に、外径約0.7〜約2.4ナノメートル(nm)のグラフェンシートからなる単一の壁を有している。一般に、SWNTは2000ワット/メートル・ケルビン(W/m−K)以上の固有熱伝導率を有し、SWNTロープは10ジーメンス/センチメートル(S/cm)の固有導電率を有するのが望ましい。また、一般に、SWNTは80ギガパスカル(GPa)以上の引張強さ及び約0.5テラパスカル(TPa)以上の剛性を有するのが望ましい。
【0137】
別の実施形態では、SWNTは金属ナノチューブと半導体ナノチューブの混合物を含んでいてもよい。金属ナノチューブは金属に似た電気特性を示すものであり、一方半導体ナノチューブは電気的に半導体であるものである。一般に、グラフェンシートを巻き上げることにより、様々な螺旋構造のナノチューブが生成する。ジグザグ型及び椅子型のナノチューブは2つの可能な立体構造を構成する。組成物中に利用するSWNTの量を最小にするために、一般に、金属ナノチューブが組成物中に使用するSWNTの総量の大きな割合を構成するのが望ましい。一般に、組成物中に使用するSWNTが、SWNTの総重量の約1wt%以上の量で金属ナノチューブを含むのが望ましい。一実施形態ではSWNTの総重量の約20wt%以上の量で金属ナノチューブを有するのが望ましく、一方別の実施形態では約30wt%以上の量で金属ナノチューブを有するのが望ましい。さらに別の実施形態ではSWNTの総重量の約50wt%以上の量で金属ナノチューブを有するのが望ましく、一方別の実施形態では約99.9wt%以上の量で金属ナノチューブを有するのが望ましいる。
【0138】
ある種の状況では、一般に、組成物中に使用するSWNTがSWNTの総重量の約1wt%以上の量で半導体ナノチューブを含むのが望ましい。一実施形態ではSWNTの総重量の約20wt%以上の量で半導体ナノチューブを有するのが望ましく、一方別の実施形態では約30wt%以上の量で半導体ナノチューブを有するのが望ましい。さらに別の実施形態ではSWNTの総重量の約50wt%以上の量で半導体ナノチューブを有するのが望ましく、一方別の実施形態では約99.9wt%以上の量で半導体ナノチューブを有するのが望ましい。
【0139】
MWNTは一般に、外径約1.4〜約500ナノメートル(nm)のグラフェンシートからなる複数の壁を有している。MWNTは、内部中空コアの少なくとも一部分の回りに結合した2以上のグラフェン層を有している。一実施形態では、MWNTは2つだけのグラフェン層を有していてよく、一方別の実施形態では、MWNTは3つだけのグラフェン層を有していてもよい。2つだけのグラフェン層を有するMWNTは二重壁(二層)カーボンナノチューブといわれ、一方3つだけのグラフェン層を有するMWNTは三重壁(三層)カーボンナノチューブといわれる。一般に、半球状キャップがMWNTの両端を閉鎖しているが、1つだけの半球状キャップを有するMWNT又は両方のキャップを欠くMWNTを使用するのが望ましいことがある。一般に、約40nm以下の平均直径を有するMWNTを使用するのが望ましい。一実施形態では約30nm以下の直径を有するMWNTを使用するのが望ましく、一方別の実施形態では約20nm以下の直径を有するMWNTを使用するのが望ましい。
【0140】
約5以上のアスペクト比を有するカーボンナノチューブが一般に組成物中に利用される。一実施形態では、アスペクト比は100以上であり、別の実施形態では、アスペクト比は1000以上である。カーボンナノチューブは一般に中央部を含んでおり、これは中空であるが無定形炭素で充填されていてもよい。
【0141】
代表的な実施形態では、カーボンナノチューブを有機ポリマー中に分散させる目的は、カーボンナノチューブをほぐして、カーボンナノチューブのアスペクト比にできるだけ近い有効アスペクト比を得るためである。有効アスペクト比とアスペクト比の比は、分散の効果の尺度である。有効アスペクト比は、単一のカーボンナノチューブの回転半径の二倍をそれぞれ個々のナノチューブの外径で割った値である。一般に、有効アスペクト比とアスペクト比の比の平均値は、約10000倍以上の倍率の電子顕微鏡写真で測定して約0.5以上であるのが望ましい。一実施形態では、有効アスペクト比とアスペクト比の比の平均値は、約10000倍以上の倍率の電子顕微鏡写真で測定して約0.75以上であるのが望ましい。別の実施形態では、有効アスペクト比とアスペクト比との比の平均値は、約10000倍以上の倍率の電子顕微鏡写真で測定して約0.9以上であるのが望ましい。さらに別の実施形態では、有効アスペクト比とアスペクト比との比の平均値は、約10000以上の倍率の電子顕微鏡写真で測定して約1.0以上であるのが望ましい。
【0142】
代表的な実施形態では、カーボンナノチューブを分散させる目的は、大きい凝集体又は大きいロープをほぐしてロープ状網状組織を形成することである。導電性組成物とするためには、有機ポリマーの塊中に浸透するロープ状網状組織を得るのが望ましい。カーボンナノチューブの分散は、大きい凝集体又は大きいロープをずっと小さいロープに崩壊させるのに十分有効でなければならないが、網状組織が確立できなかったり破壊されたりするほどであってはならない。可能な最も細いロープ状網状組織を確立するのが望ましい。例えば、一つの代表的な実施形態では、浸透性網状組織を構成するロープは、たった数ナノメートルの太さであり得る数本のカーボンナノチューブからなるであろう。これらのロープは互いに高度に絡み合って広範囲にわたる浸透性網状組織を形成し得る。
【0143】
一実施形態では、導電性組成物を達成するために、分散過程中に直径と長さが低減したロープから浸透性網状組織を形成することができる。別の実施形態では、浸透性網状組織は、カーボンナノチューブのロープ、ロープを形成してない個別のカーボンナノチューブ、分散してないカーボンナノチューブの凝集体、及び生産関連不純物を含んでいる可能性がある。網状組織内の様々なカーボンナノチューブ間の接触点は節といわれる。この節の数は、網状組織が有効に形成されない(すなわち、カーボンナノチューブの凝集体が有効に分散しない)で、従って浸透性網状組織が生成しないようにすることができる。一方、混合中あまりに強い剪断がかけられると、節の数は再び浸透性網状組織が生成しないようなものになる。カーボンナノチューブを分散させて、約1012ohm−Cm以下の体積電気抵抗率を生成するのに有効な節の数を得るのが望ましい。カーボンナノチューブを分散させて、約10ohm−Cm以下の体積電気抵抗率を生成するのに有効な節の数を得るのがより望ましい。
【0144】
一実施形態では、溶融ブレンドした後の組成物は、カーボンナノチューブ網状組織の形態でカーボンナノチューブを含有するのが好ましい。カーボンナノチューブ網状組織は三次元網状組織であるのが好ましく、組成物中を流れる電流の通過を促進する。網状組織内に存在するカーボンナノチューブ間で電子トンネル効果が起こることもある。また、電子トンネル効果は網状組織内のカーボンナノチューブと他の導電性粒子(例えば、カーボンブラック、MWNTなど)との間でも起こり得る。カーボンナノチューブ網状組織は、個々のカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブロープが物理的に接触する節を含んでいる。
【0145】
一実施形態では、カーボンナノチューブはロープ様凝集体の形態で存在し得る。これらの凝集体は一般に「ロープ」といわれ、個々のカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力の結果として形成される。ロープ内の個々のナノチューブは互いに対して滑り動くことができ、自由エネルギーが最小になるようにロープ内で自ら再配列するし得る。一般に2〜10のナノチューブを有するロープを組成物中に使用することができる。この範囲内で一般に、ロープは約10以上のナノチューブを有するのが望ましい。別の実施形態では、ロープは約100以上のナノチューブを有するのが望ましい。また、約10以下のナノチューブを有するロープが望ましい。別の実施形態では、ロープは約5000以下のナノチューブを有するのが望ましい。
【0146】
カーボンナノチューブは一般に導電性組成物の総重量の約0.001〜約50wt%の量で使用する。一実施形態では、導電性組成物の総重量を基準にして約0.25〜約30wt%の量でナノチューブを使用するのが望ましい。別の実施形態では、導電性組成物の総重量を基準にして約0.50〜約10wt%の量でナノチューブを使用するのが望ましい。別の実施形態では、ナノチューブは導電性組成物の総重量を基準にして約1.0〜約5wt%の量で使用するのが望ましい。
【0147】
本明細書で使用する場合、「生産関連不純物」とは、実質的又は全体的にカーボンナノチューブの生産に関連する工程中に生成した不純物を意味する。上述したように、カーボンナノチューブは、例えばレーザーアブレーション、化学蒸着、炭素アーク、高圧一酸化炭素変換プロセスなどのプロセスで製造される。また、実質的又は全体的にカーボンナノチューブの生産に関連する工程はカーボンナノチューブの精製工程も含む。生産関連不純物は、前記プロセス又は類似の製造方法によるカーボンナノチューブの製造中に必然的に形成されるか又は意図的に形成される不純物である。必然的に形成される生産関連不純物の例はカーボンナノチューブの生産に使用した触媒粒子である。意図的に形成される生産関連不純物の別の例は、製造工程中に意図的に添加される小量の酸化剤によるカーボンナノチューブの表面上に形成されるぶら下がり結合である。生産関連不純物のさらに別の例は、カーボンナノチューブの製造中又はカーボンナノチューブの精製中に生成し得る黒鉛型ナノシートである。
【0148】
生産関連不純物としては、例えば、欠陥カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、枝分れ又はコイル状多層カーボンナノチューブ、無定形炭素、煤煙、ナノ−オニオン、ナノホーン、コークなどの炭素質反応副生物、製造工程で利用される触媒に由来する残基、例えば金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物 など、又は以上の反応副生物を1種以上含む組合せがある。実質的にカーボンナノチューブの生産に関連する方法は、カーボンナノチューブの割合が生産関連不純物のいかなる他の割合と比較しても大きいものである。ある方法が実質的にカーボンナノチューブの生産に関連するというためには、カーボンナノチューブの割合が上記反応副生物又は触媒残渣のいずれの割合より大きくなければならないであろう。例えば、カーボンナノチューブの割合は煤煙の割合、又はカーボンブラックの割合より大きくなければならないであろう。その方法が実質的にカーボンナノチューブの生産用であると考えられるためには、カーボンナノチューブの割合が、生産関連不純物の任意の組合せの割合の合計より大きい必要はないであろう。
【0149】
生産関連不純物には、カーボンナノチューブの製造工程前又は工程中にカーボンナノチューブに添加されるいかなる添加剤(かかる添加剤はカーボンナノチューブを改変することがない)も含まれない。また、カーボンナノチューブの製造又は精製後カーボンナノチューブに添加される添加剤も含まれない。さらに、生産関連不純物には、導電性組成物の製造工程中にカーボンナノチューブ又は有機ポリマーに添加される添加剤も含まない。
【0150】
SWNTは一般にMWNTより欠陥が少ない(おそらくは隣接する壁内の不飽和炭素原子価間で橋かけを形成することにより欠陥を補う隣接する壁をもたないため)が、幾らかの欠陥はある。かかる欠陥はロープの形成を可能にする隣接カーボンナノチューブ間のファンデルワールス力を破壊し得る。カーボンナノチューブの欠陥の例はカーボンナノチューブの壁上に形成されるぶら下がり炭素結合である。ぶら下がり炭素結合がカーボンナノチューブの壁上の別の炭素原子に共有結合した第1の末端を有しており、第2の末端が反応性官能基に結合している欠陥(かかる結合はカーボンナノチューブの製造中に起こる)は本発明の範囲内である。適切な官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン化物、殊に フッ素、硫酸基、硝酸基、エポキシ、無水物、エステル、アミドなどがある。かかる反応性官能基の欠陥カーボンナノチューブへの結合は、カーボンナノチューブを製造する反応チャンバーに適当な反応体を添加することによって行うことができる。カーボンナノチューブの生産中のかかる官能化により製造されたカーボンナノチューブは、生産後に官能化されたカーボンナノチューブとは異なる生成物を生成することが判明した。
【0151】
ロープにならない多層カーボンナノチューブ、無定形炭素、煤煙、ナノ−オニオン、ナノホーン、コークなど、又は以上を1種以上含む組合せのような炭素質副生物は、カーボンナノチューブの生産工程の炭素質副生物である。多層カーボンナノチューブはナノチューブの長さの少なくとも一部分で単一より多くの壁を有するものである。これらの壁は「年輪」構造又は「魚の骨」構造を有し得る。
【0152】
触媒残渣は一般に、カーボンナノチューブの生産で触媒として使用した金属を含有している。触媒として使用される金属は一般に、鉄、銅、ニッケル、コバルト、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、クロム、モリブデン及びタングステンなど、又は以上の金属を1種以上含む組合せのような遷移金属である。非遷移金属も触媒として使用することができる。かかる非遷移金属の適切な例、アルミニウム、インジウムなど、又は以上の非遷移金属を1種以上含む組合せである。一実施形態では、カーボンナノチューブの製造中に生成する不純物は、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルトなど、又は以上の酸化物を1種以上含む組合せのような金属酸化物である。金属炭化物不純物の適切な例としては、炭化鉄、炭化タングステンなど、又は以上の金属炭化物を1種以上含む組合せがある。
【0153】
一般に、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1〜約80wt%の不純物を含み得る。一実施形態では、カーボンナノチューブ組成物はカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約3〜約50wt%の不純物を含み得る。別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物はカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約7〜約45wt%の不純物を含み得る。さらに別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約8〜約40wt%の不純物を含み得る。
【0154】
一実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1〜約50wt%の量の触媒残渣を含み得る。一実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約3〜約48wt%の触媒残渣を含み得る。別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物はカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約7〜約45wt%の触媒残渣を含み得る。さらに別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約8〜約40wt%の触媒残渣を含み得る。
【0155】
場合により、VGCF、カーボンブラック、導電性金属充填材、固体非金属導電性充填材、黒鉛型ナノシート(GNS)など、又は以上を1種以上含む組合せのような他の導電性充填材を組成物中に使用することもできる。VGCFは、直径が約3.5〜約2000nmで、アスペクト比が約5以上である小さい黒鉛型又は部分的に黒鉛型の炭素繊維である。VGCFを使用する場合、約3.5〜約500nmの直径を使用するのが望ましい。別の実施形態では、約3.5〜約100nmの直径を有するVGCFを使用するのが望ましい。さらに別の実施形態では、約3.5〜約50nmの直径を有するVGCFを使用するのが望ましい。また、約100以上の平均アスペクト比を有することも望ましい。一実施形態では、約1000以上のアスペクト比を有するVGCFを使用するのが望ましい。
【0156】
VGCFは一般に、導電性組成物の総重量の約0.001〜約50wt%の量で使用する。一実施形態では、組成物は導電性組成物の総重量を基準にして約0.25〜約30wt%のVGCFを含み得る。一実施形態では、組成物は、導電性組成物の総重量を基準にして約0.5〜約10wt%のVGCFを含み得る。一実施形態では、組成物は、導電性組成物の総重量を基準にして約1〜約5wt%のVGCFを含み得る。
【0157】
導電性組成物中に利用されるカーボンナノチューブはまた、その生産後に官能基で誘導体化して有機ポリマーとの相溶性を改良すると共にそのポリマーとの混合を促進することもできる。カーボンナノチューブは、側壁を構成するグラフェンシート、半球状キャップ、又は側壁と半球状末端キャップの両方で官能化することができる。官能化されたカーボンナノチューブは次式(XXXIII)を有するものである。
【0158】
【化33】

【0159】
式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満の数であり、各Rは同一であり、−SOH、−NH、−OH、−C(OH)R′、−CHO、−CN、−C(O)Cl、−C(O)SH、−C(O)OR′、−SR′、−SiR′、−Si(OR′)R′(3−y)、−R”、−AlR′、ハロゲン化物、エチレン性不飽和官能性、エポキシド官能性などから選択され、yは3以下の整数であり、R′は水素、アルキル、アリール、シクロアルキル、アラルキル、シクロアリール、ポリ(アルキルエーテル)などであり、R”はフルオロアルキル、フルオロアリール、フルオロシクロアルキル、フルオロアラルキル、シクロアリールなどである。炭素原子Cはカーボンナノチューブの表面炭素である。
【0160】
不均一に置換されたカーボンナノチューブも導電性組成物中に使用することができる。これらには、前記式(XXXIII)の組成物が包含され、式中のn、L、m、R及びカーボンナノチューブ自体は上記定義の通りであるが、各Rは酸素を含有しないか、又は各Rが酸素含有基である場合、COOHは存在しない。
【0161】
さらにまた、次式(XXXIV)を有する官能化されたカーボンナノチューブも包含される。
【0162】
【化34】

【0163】
式中、n、L、m、R′及びRは上記と同じ意味を有する。カーボンナノチューブの表面層にある殆どの炭素原子は基底平面炭素である。基底平面炭素は化学的な攻撃に対して相対的に不活性である。例えば黒鉛型平面がカーボンナノチューブの回りに十分に伸張していない欠陥部位には、グラファイト平面の縁部炭素原子に類似した炭素原子がある。この縁部炭素は反応性であり、炭素の原子価を満たすために幾らかのヘテロ原子又は基を含有しているはずである。
【0164】
上記の置換されたカーボンナノチューブは有利なことにさらに官能化することができる。これらは次式(XXXV)のナノチューブを包含することができる。
【0165】
【化35】

【0166】
式中、n、L及びmは上記の通りであり、Aは−OY、−NHY、−CR′−OY、−C(O)OY、−C(O)NR′Y、−C(O)SY、又は−C(O)Yから選択され、Yはタンパク質、ペプチド、酵素、抗体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、抗原、又は酵素基質、酵素 阻害剤 又は酵素基質の遷移状態類似体の適当な官能基であるか、又は−R′OH、−R′NH、−R′SH、−R′CHO、−R′CN、−R′X、−R′SiR′、−RSi−(OR′)−R′(3−y)、−R′Si−(O−SiR′)−OR′、−R′−R”、−R′−NCO、(CO)Y、−(CO)H、−(CO)R′、−(C6O)wR′及びR”から選択され、ここでwは1より大きく200未満の整数である。
【0167】
また、構造(XXXIV)の官能性カーボンナノチューブを官能化して次式(XXXV)を有するナノチューブを製造することもできる。
【0168】
【化36】

【0169】
式中、n、L、m、R′及びAと上記定義の通りである。
【0170】
また、ナノチューブには、ある種の環状化合物が吸着している他のカーボンナノチューブが包含される。これらには、次式(XXXVII)を有するナノチューブが含まれる。
【0171】
【化37】

【0172】
式中、nは整数であり、Lは0.1n未満の数であり、mは0.5n未満であり、aは0又は10未満の数であり、Xは多核芳香族、ポリ異核芳香族又は金属ポリ異核芳香族部分であり、Rは上記の通りである。代表的な環状化合物は、ポルフィリン類及びフタロシアニン類のような平面状の大環状化合物である。
【0173】
吸着された環状化合物は官能化されていてもよい。かかる組成物は次式(XXXVIII)の化合物を含む。
【0174】
【化38】

【0175】
式中、m、n、L、a、X及びAは上記定義の通りであり、炭素はカーボンナノチューブ上にある。
【0176】
特定の理論に縛られることはないが、官能化されたカーボンナノチューブは、その改変された表面特性によりそのカーボンナノチューブが有機ポリマーとより相溶性になり得るため、又は、改変された官能基(特にヒドロキシル又はアミン基)が末端基として直接有機ポリマーに結合するため、より良好に有機ポリマー中に分散する。このようにして、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルイミドなどの有機ポリマーが結合カーボンナノチューブに直接結合し、従ってカーボンナノチューブは有機ポリマーに対する改良された接着性をもってより容易に分散することになる。
【0177】
一般に、カーボンナノチューブの外面に官能基を導入するには、それぞれの外面を、カーボンナノチューブの表面を酸化するのに充分な時間強い酸化剤と接触させ、さらにそれぞれの外面を、その酸化された表面に官能基を添加するのに適した反応体と接触させればよい。代表的な酸化剤はアルカリ金属塩素酸塩の強酸溶液からなる。代表的なアルカリ金属塩素酸塩は塩素酸ナトリウム又は塩素酸カリウムである。使用される代表的な強酸は硫酸である。酸化に充分な時間は約0.5〜約24時間である。
【0178】
場合により、カーボンブラックも導電性組成物中に使用できる。代表的なカーボンブラックは約200nm未満、より望ましくは約100nm未満、最も望ましくは約50nm未満の平均粒度を有するものである。また、代表的な導電性カーボンブラックは約200平方メートル/グラム(m/g)より大きい、より望ましくは約400m/gより大きい、最も望ましくは約1000m/gより大きい表面積を有し得る。さらに、代表的な導電性カーボンブラックは約40立方センチメートル/100グラム(cm/100g)より大きい、より望ましくは約100cm/100gより大きい、最も望ましくは約150cm/100gより大きい細孔容積(フタル酸ジブチル吸収)を有し得る。代表的なカーボンブラックとして、Columbian Chemicalsから商標Conductex(登録商標)で市販されているカーボンブラック、Chevron Chemicalから商標S.C.F.(Super Conductive Furnace)及びE.C.F.(Electric Conductive Furnace)で入手できるアセチレンブラック、Cabot Corp.から商標Vulcan XC72及びBlack Pearlsで入手できるカーボンブラック、並びにAkzo Co.Ltdから商標Ketjen Black EC 300及びEC 600で市販されているカーボンブラックがある。代表的な導電性カーボンブラックは導電性組成物の総重量を基準にして約2〜約25wt%の量で使用できる。
【0179】
固体導電性金属充填材も場合により導電性組成物中に使用できる。これらは、有機ポリマー中に混入する際、及びそれから完成品を製造する際に使用する条件下で融解しない導電性金属又は合金でよい。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及び以上の金属のいずれか1種を含む混合物のような金属を導電性充填材として有機ポリマー中に混入することができる。物理的混合物及びステンレス鋼、青銅などの真の合金も導電性充填材粒子として機能することができる。加えて、これらの金属のホウ化物、炭化物などの数種の金属間化合物(例えば、二ホウ化チタン)も導電性充填材粒子として機能し得る。また、場合により、酸化スズ、インジウムスズ酸化物などの固体非金属導電性充填材粒子を添加して有機ポリマーを導電性にすることもできる。これらの固体金属及び非金属導電性充填材は、粉末、針金、ストランド、繊維、チューブ、ナノチューブ、フレーク、積層体、小板、楕円体、ディスク、その他当技術分野で一般に公知の市販されている幾何学的形状の形態で存在し得る。
【0180】
固体導電性金属の密着した(コヒーレントな)層でその表面の実質的な部分が被覆された非導電性非金属充填材も場合により導電性組成物中に使用できる。この非導電性非金属充填材は一般に基材といわれ、固体導電性金属の層で被覆された基材は「金属被覆充填材」ということができる。アルミニウム、銅、マグネシウム、クロム、スズ、ニッケル、銀、鉄、チタン、及び以上の金属のいずれか1種を含む混合物のような典型的な導電性金属を使用して基材を被覆することができる。基材の例は当技術分野で周知であり、「Plastic Additives Handbook、5th Edition」、Hans Zweifel編、Carl Hanser Verlag Publishers、Munich、2001に記載されているものがある。かかる基材の非限定例としては、溶融石英及び結晶質シリカのようなシリカ粉末、窒化ホウ素粉末、ホウケイ酸塩粉末、アルミナ、酸化マグネシウム(すなわちマグネシア)、表面処理ウォラストナイトを始めとするウォラストナイト、硫酸カルシウム(無水物、二水和物三水和物)、一般に粉砕微粒子の形態のチョーク、石灰石、大理石及び合成沈降炭酸カルシウムを始めとする炭酸カルシウム、繊維状、モジュラー、針状、及びラメラ状タルクを始めとするタルク、中空及び中実両方のガラス球、硬質、軟質、カ焼カオリン、及びポリマーマトリックス樹脂との相溶性を促進することが当技術分野で公知の様々なコーティングを含むカオリンを始めとするカオリン、雲母、長石、シリケート球、煙塵、セノスフェア、フィライト、アルミノケイ酸塩(アーモスフェア)、天然珪砂、石英、石英岩、真珠岩、トリポリ石、ケイ藻土、合成シリカ、並びに以上のいずれか種を含む混合物がある。以上の基材は全て導電性組成物中に使用するために金属材料の層で被覆することができる。
【0181】
固体金属及び非金属導電性充填材粒子の正確な大きさ、形状及び組成に関わりなく、これらは所望の場合導電性組成物の総重量の約0.001〜約50wt%の充填量で有機ポリマー中に分散させることができる。一実施形態では、組成物は、導電性組成物の総重量を基準にして約1〜約50wt%の固体金属及び非金属導電性充填材粒子を含み得る。別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、導電性組成物の総重量を基準にして約1.5〜約30wt%の固体金属及び非金属導電性充填材粒子を含み得る。さらに別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物は、導電性組成物の総重量を基準にして約2〜約25wt%の固体金属及び非金属導電性充填材粒子を含み得る。
【0182】
導電性組成物中に使用するGNSは一般に、カーボンナノチューブの精製過程中に生成し、スタック(積み重ね)中で互いに平行に配列された炭素シートからなることができる。このスタックは、立方体、板状、柱状、円筒状などの、アスペクト比約1以上の任意の幾何学的形状を有することができる。加工処理する前のスタックのアスペクト比は約5以上、約10以上、約50以上、より望ましくは約100以上である。
【0183】
スタックは一般に互いに平行に配列された炭素のシートからなる。炭素シート間の間隔は一般に約3.35〜約4.0オングストロームである。一実施形態では、炭素の個々のシートは、図1に示されているようにスタックの縦軸に対して平行に配列されている。別の実施形態では、炭素の個々のシートはスタックの縦軸に対して垂直に配列されている。さらに別の実施形態では、炭素の個々のシートはスタックの縦軸に対して約1〜約179度の角度θで配列されている。さらに別の実施形態では、スタックは、炭素の1以上のシートが縦軸に対して平行に配列され、炭素の1以上のシートが縦軸に対して垂直に配列され、さらに1以上のシートがスタックの縦軸に対して約1〜約179度の角度θで配列されていてもよい。
【0184】
スタックは一般に、幅と広さがそれぞれ約0.5〜約1000ナノメートル(nm)であり得る。この範囲内で、幅と広さは一般に約2nm以上、そして約5nm以上でよい。また、この範囲内で、幅と広さは望ましくは約500ナノメートル以下、より望ましくは約100ナノメートル以下、より望ましくは約50ナノメートル以下である。
【0185】
一実施形態では、縦軸に垂直な平面内におけるスタックの断面積は様々な形状をとり得る。かかる形状の例は正方形、長方形、菱形、多角形(例えば、4辺より多い)、円形、楕円形など、又は以上の形状を1以上含む組合せである。
【0186】
スタックは実質的にまっすぐであってもよいし、又は捻れていても若しくは曲がっていてもよい。実質的にまっすぐなスタックは一般に、屈曲点又は捻れ点間のアスペクト比が約2以上、より望ましくは約3以上、最も望ましくは約5以上である。
【0187】
有機ポリマーと、生産関連不純物を含むカーボンナノチューブ並びにカーボンブラック、固体金属及び非金属導電性充填材粒子のような他の任意所望の導電性充填材は、一般に、限定されることはないが溶融ブレンド法、溶液ブレンド法など、又は以上のブレンド法を1種以上含む組合せのような幾つかの異なる方法で加工処理することができる。組成物の溶融ブレンド法では、剪断力、伸張力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー又は以上の力若しくはエネルギー形態を1種以上含む組合せを利用し、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合式同方向回転型又は逆方向回転型スクリュー、非噛合式同方向回転型又は逆方向回転型スクリュー、往復運動型スクリュー、ピン付きスクリュー、スクリーン付きスクリュー、ピン付きバレル、ロール、ラム、ヘリカルローター、又は以上を1種以上含む組合せにより前記力を働かせる加工処理装置で行われる。
【0188】
前記力を利用する溶融ブレンド法は、限定されることはないが、単軸若しくは多軸押出機、Buss混練機、Henschel、ヘリコーン、Rossミキサー、Banbury、ロールミル、射出成形機、真空成形機、ブロー成形機などの成形機、又は以上の機械を1種以上含む組合せのような機械で実施することができる。
【0189】
一実施形態では、粉末形態、ペレット形態、シート形態などの有機ポリマーを、最初にカーボンナノチューブ組成物及び所望によりその他任意の充填材と、Henschel又はロールミルでドライブレンドした後に、押出機又はBuss混練機のような溶融ブレンド装置に供給することができる。一般に溶融ブレンド装置内の剪断力はカーボンナノチューブ組成物を全体として有機ポリマー中に分散させるのが望ましいが、溶融ブレンドプロセス中にカーボンナノチューブのアスペクト比を保存することも望ましい。そのためには、カーボンナノチューブ組成物をマスターバッチの形態で溶融ブレンド装置中に導入するのが望ましいであろう。かかるプロセスにおいて、マスターバッチは有機ポリマーの下流で溶融ブレンド装置中に導入することができる。
【0190】
メルトブレンドは、有機ポリマーの少なくとも一部分が、ブレンドプロセス中に、樹脂が半結晶質有機ポリマーの場合はほぼ融解温度、又は樹脂が非晶質樹脂の場合は流動点(例えば、ガラス転移温度)以上の温度に達しているものである。ドライブレンドは、有機ポリマー全体が、ブレンドプロセス中に、樹脂が半結晶質有機ポリマーの場合はほぼ融解温度以下の温度、又は有機ポリマーが非晶質樹脂の場合は流動点以下の温度にあって、有機ポリマーが実質的に液体様流体を含まないものである。本明細書中で定義される溶液ブレンドは、有機ポリマーがブレンドプロセス中、例えば溶媒又は非溶媒のような液体様流体中に懸濁しているものである。
【0191】
マスターバッチを使用する場合、カーボンナノチューブ組成物は、マスターバッチの総重量を基準にして約1〜約50wt%の量でマスターバッチ中に存在し得る。一実施形態では、マスターバッチは、マスターバッチの総重量を基準にして約1.5〜約30wt%のカーボンナノチューブ組成物を含むことができる。別の実施形態では、マスターバッチは、マスターバッチの総重量を基準にして約2〜約10wt%のカーボンナノチューブ組成物を含むことができる。さらに別の実施形態では、マスターバッチは、マスターバッチの総重量を基準にして約2.5〜約5wt%のカーボンナノチューブ組成物を含むことができる。
【0192】
マスターバッチを使用する一実施形態では、カーボンナノチューブ組成物を含有するマスターバッチはストランドの形態で押し出されたとき又はドッグボーン(犬用の骨)形態に成形されたとき測定可能な体積又は表面抵抗率をもたないが、得られるマスターバッチが混入された組成物は、組成物中のカーボンナノチューブの重量割合がマスターバッチより低いにもかかわらず測定可能な体積又は表面抵抗率を示す。マスターバッチを使用する別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物を含有するマスターバッチは、得られるマスターバッチが混入された組成物中のカーボンナノチューブの重量割合がマスターバッチより低いにもかかわらずその組成物の体積又は表面抵抗率未満の測定可能な体積又は表面抵抗率を有している。
【0193】
かかるマスターバッチ中の有機ポリマーは半結晶質であるのが好ましい。これらの特性を示しマスターバッチ中に使用できる半結晶質有機ポリマーの例は、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステルなど、又は以上の半結晶質有機ポリマーを1種以上含む組合せである。
【0194】
有機ポリマーのブレンドを含む導電性組成物の製造の際にマスターバッチを使用する別の実施形態では、導電性組成物の連続相を形成する有機ポリマーと同じ有機ポリマーを含むマスターバッチが望ましいことがある。この特徴により、連続相のみが導電性組成物に必要な体積及び表面抵抗率を付与するカーボンナノチューブを含むので、実質的により少ない割合のカーボンナノチューブを使用することが可能になる。ポリマーブレンド中にマスターバッチを使用するさらに別の実施形態では、導電性組成物中に使用される他の有機ポリマーとは化学が異なる有機ポリマーを含むマスターバッチが望ましいであろう。この場合、マスターバッチの有機ポリマーはブレンド中の連続相を形成する。さらに別の実施形態では、ロープにならない多層ナノチューブ、気相成長炭素繊維、カーボンブラック、導電性金属充填材、固体非金属導電性充填材など、又は以上を1種以上含む組合せを含む別個のマスターバッチをマスターバッチ中に使用するのが望ましいことがある。
【0195】
有機ポリマー及びカーボンナノチューブ組成物を含む導電性組成物は、所望により、複数のブレンド及び成形段階に付すことができる。例えば、導電性組成物は最初に押し出してペレットに成形してもよい。その後このペレットを成形機に供給することができ、そこではコンピューターのハウジング、静電塗装することができる自動車用パネルなどの他の望ましい形状に成形することができる。或いは、単一のメルトブレンダーから出て来た導電性組成物をシート又はストランドに成形し、アニーリング、一軸又は二軸配向のような押出後の処理にかけてもよい。
【0196】
後処理を使用する一実施形態では、導電性組成物をさらに、約2〜約1000000の延伸比を利用して非軸方向で超延伸にかける。高い超延伸比は一般に、非晶質領域内にカーボンナノチューブを含有し得るシシカバブ状半結晶質構造の形成を促進する。別の実施形態では、導電性組成物にさらに一軸又は二軸方向に応力をかけて、約0.01〜約5000マイクロメートルの厚さのフィルムを製造する。フィルムが半結晶質有機ポリマーからなる場合、一般に配向フィルムは約θ=0度〜約θ=80度の方位方向に配向した結晶を有するのが望ましい。溶融ブレンド後の後処理に関連するさらに別の実施形態では、組成物を、ブレンド後約2分〜約2時間の間融点より約1〜約100℃低い温度に過冷する。過冷した導電性組成物は一般に、カーボンナノチューブからなるスフェルライトのような巨視的な半結晶質構造を有し得る。
【0197】
半結晶質ポリマー中で、カーボンナノチューブは核生成剤として振る舞うことができる。導電性組成物の強度を改良するためには、クリスタライト(微結晶)がカーボンナノチューブ上で核を生成するのが望ましいであろう。一般に、1wt%以上のクリスタライトがカーボンナノチューブ上で核を生成するのが望ましい。一実施形態では10wt%以上のクリスタライトがナノチューブ上で核を生成するのが望ましく、別の実施形態では15wt%以上のクリスタライトがカーボンナノチューブ上で核を生成するのが望ましい。代表的な実施形態では、核生成剤の使用に関して、核生成剤(カーボンナノチューブ核生成剤とその他の核生成剤の両方)の使用が、カーボンナノチューブを含有する組成物の電気的性能を改良するように作用することができるということが観察されている。結晶構造を構築するやり方を変えることによって、より導電性の網状組織を構築することができる。次に、この導電性の網状組織がより連続な構造を構築することができ、これは核生成剤を含まない類似の組成物より低い電気抵抗を示す。
【0198】
溶液ブレンド法も導電性組成物を製造するのに使用することができる。また溶液ブレンド法では、剪断、圧縮、超音波振動などの追加のエネルギーを使用してカーボンナノチューブと有機ポリマーとの均一化を促進することもできる。一実施形態では、流体に懸濁した有機ポリマーをカーボンナノチューブと共に超音波処理機中に導入することができる。この混合物を、カーボンナノチューブを有機ポリマー粒子上に分散させるのに有効な時間音波処理することによって溶液ブレンドすることができる。所望により、その後有機ポリマーをカーボンナノチューブと共に乾燥し、押し出し、成形することができる。一般に、音波処理工程中に流体が有機ポリマーを膨潤させるのが望ましい。有機ポリマーの膨潤により、一般に、カーボンナノチューブが溶液ブレンドプロセス中に有機ポリマーに含浸する能力が改良する、その結果分散が改良される。
【0199】
溶液ブレンドに関連する別の実施形態では、カーボンナノチューブ組成物を有機ポリマー前駆体と一緒に音波処理する。有機ポリマー前駆体は、反応して有機ポリマーを形成することができるモノマー、ダイマー(二量体)、トリマー(三量体)などであることができる。場合により、溶媒のような流体をカーボンナノチューブ及び有機ポリマー前駆体と共に音波処理機中に導入してもよい。音波処理のための時間は一般に、有機ポリマー前駆体によるカーボンナノチューブのカプセル化を促進するのに有効な量である。カプセル化後、有機ポリマー前駆体を重合させて、カーボンナノチューブ組成物が中に分散している有機ポリマーを形成する。カーボンナノチューブ組成物を有機ポリマー中に分散させるこの方法は、カーボンナノチューブのアスペクト比の保存を促進し、従って組成物はより少ない充填量のカーボンナノチューブで導電率を示すことが可能になる。また、カプセル化されたカーボンナノチューブ組成物を含有する有機ポリマーをマスターバッチとして使用してもよく、すなわち別の有機ポリマーと共にブレンドしてもよい。さらに別の実施形態では、有機ポリマー、有機ポリマー前駆体、任意の流体及びカーボンナノチューブ組成物の混合物を音波処理してカーボンナノチューブをカプセル化した後、有機ポリマー前駆体を重合させる。
【0200】
このカプセル化及び分散の方法を容易にするのに使用できる有機ポリマー前駆体の適切な例は、限定されることはないが、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂の合成に使用されるものである。一般に、上記混合物を約1分〜約24時間音波処理するのが望ましい。一実施形態では、上記混合物を約5分〜約15時間音波処理するのが望ましい。別の実施形態では、上記混合物を約10分〜約10時間音波処理するのが望ましい。さらに別の実施形態では、上記混合物を約15分〜約5時間音波処理するのが望ましい。
【0201】
一実施形態では、高めの割合の不純物を有するカーボンナノチューブ組成物を、低めの割合の不純物を有するカーボンナノチューブ組成物と比べてより少ないエネルギーを用いて分散させることができる。理論に縛られることはないが、ある種の有機ポリマーの場合、不純物同士が相互作用してファンデルワールス力の低下を促進することにより、ナノチューブの有機ポリマー内へのより容易な分散が促進されると考えられる。
【0202】
別の実施形態では、低めの割合の不純物を有するカーボンナノチューブ組成物を、高めの割合の不純物を有するカーボンナノチューブ組成物と比べてより多いエネルギーを使用して分散させることができる。一般に、不純物を有するカーボンナノチューブ組成物は、不純物をもたない組成物の場合と比べて異なる量の混合を必要とし得る。これらの導電性組成物は、流動性、衝撃性、及び伝導率の優れたバランスを必要とする用途に使用することができる。またこれらは、燃料電池、静電塗装用途などのように、導電性材料が使用され、かつその導電性材料が非常に小さいレベルの導電性充填材を有する用途にも使用できる。
【0203】
上記導電性組成物は多種多様の工業用途に使用できる。これらは、静電気消散から保護する必要があるコンピューター、電子製品、半導体部品、回路基板などの電子部品の包装用フィルムとして有利に利用できる。また、コンピューターその他の電子製品の内部に使用して、コンピューターの外部に位置するパーソネルその他の電子機器に対する電磁シールドを提供すると共に内部のコンピューター部品を他の外部の電磁障害から保護することができる。さらにまた、所望により静電塗装することができる自動車の内装用及び外装用の両方の部品として自動車用ボディーパネルにも有利に使用することができる。
【実施例】
【0204】
例示であって限定の意味のない以下の実施例で、本明細書に記載した様々な実施形態の導電性組成物の幾つかの導電性組成物及び製造方法を例証する。
【0205】
実施例1
この実施例では、カーボンナノチューブ組成物を熱可塑性樹脂とブレンドしたときに達成され得る伝導率のレベルに対する剪断の影響及び不純物の影響を実証する。この実施例では、約17000グラム/モルの数平均分子量及びMw約41000の重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂を、DACAミニ二軸押出機で1wt%のカーボンナノチューブとブレンドした。このDACAミニ二軸押出機は最大混合体積が5立方センチメートルであり、スクリュースピードが約10〜約360rpmであり、これは1rpmずつの増分でデジタル式に制御可能である。カーボンナノチューブ組成物は3wt%又は10wt%の不純物を含有していた。3wt%の不純物を含有するカーボンナノチューブ組成物はSWNT−3と称し、10wt%の不純物を含有するものはSWNT−10と称する。
【0206】
これらの不純物レベルは試料を燃焼させる熱重量分析(TGA)で決定した。この分析では、機器中に残留する重量が一般に不純物を構成する。より正確に不純物を分析するために、2つの試料をXRF(X線蛍光)によって分析して不純物の組成と含量を決定した。不純物含量を表1aに示す。
【0207】
押出機のスクリュースピードは75、150又は300rpmのいずれかに調節した。押出機の温度は285℃であった。押し出した試料の伝導率を混合時間1、3、5、7、及び10分で測定した。混合時間約1〜約2分は押出機内の滞留時間とほぼ同様である。次に、押し出されたストランドを用いて体積固有抵抗率を測定した。表1bと2に、それぞれSWNT−3とSWNT−10カーボンナノチューブ組成物を含有する組成物に対する体積固有抵抗率(SVR)の測定値を示す。
【0208】
【表1】

【0209】
上の表から、SWNT−10を含有する組成物の場合、殆どの不純物が、カーボンナノチューブの製造の際に触媒として用いた鉄であることが分かる。
【0210】
【表2】

【0211】
【表3】

【0212】
表1(b)と2から分かるように、より少ない重量パーセントの不純物を有するカーボンナノチューブ組成物は一般に、伝導率を示すためにより少ない混合を利用する。これらのカーボンナノチューブ組成物は、より多い不純物を有するカーボンナノチューブ組成物と比べてずっと速く、そしてずっと少ない労力でロープ状網状組織を確立する。しかし、表1(b)から分かるように、3wt%の不純物を含有するカーボンナノチューブ組成物は、5分間混合すると伝導率のレベルが低下し、さらに300rpmで7分間混合すると伝導率を示さない。これは、少なめの不純物のカーボンナノチューブ組成物は組成物が伝導率を失う点まで過度に分散する可能性があることを示唆している。これらのカーボンナノチューブ組成物はロープ状網状組織が崩壊する点まで分散する。こうして、少なめの量の不純物を含有するカーボンナノチューブ組成物の場合、DACAミニ二軸押出機による追加の混合時間で低めの伝導率が得られ得ることが分かる。
【0213】
理論に縛られることはないが、純度の高いカーボンナノチューブ組成物(SWNT−3)は、速やかに導電性網状組織を構築することができるが、表1(b)の150及び300rpmの場合7分及び10分で上昇した抵抗率から分かるように、追加のコンパウンディングで伝導率が低下する傾向がある。75rpmという低めの混合スピードでは、この過程が拡散によって支配され、すなわち、有機ポリマーのカーボンナノチューブ中への拡散がロープからの分離を促進し、これが分散を促進すると考えられる。低めの毎分回転数(rpm)の設定では、高度の絡み合いを促進するのに十分な剪断力がないと考えられる。
【0214】
表2の結果はSWNT−10を含有する組成物の場合の異なる筋書きを反映している。1分の混合時間では、約10000以上のロープからなる非常に大きい凝集体を破壊するのに十分なエネルギーが提供されない。しかし、rpmの設定を75から150へ、そして300へと上昇すると、3分、5分及び7分の混合時間で伝導率に改良(より低い抵抗)が見られる。3分、5分及び7分における追加の剪断が、カーボンナノチューブの大きい凝集体を、良好に連結されたロープ状網状組織に破壊するのに役立っている。連結(接続)性は複合材の伝導率を担う。7分を超える追加のコンパウンディングは、網状組織が崩壊する傾向があることを示している。ロープ状網状組織が崩れ始め、導電率が低下する。このプロセスにより、有機ポリマーの塊全体に浸透していない網状組織が得られ、従ってより低い伝導率が得られる。この挙動は最低のrpm設定では見られない。というのは、かかる低いrpm設定では強制的な絡み合いが形成されないからである。
【0215】
類似のデータが、DACA押出機を用いて混合時間の関数として体積抵抗率を測定した3%カーボンナノチューブ組成物/ナイロン6,6混合物で得られる。追加の混合時間は純度の低いカーボンナノチューブ組成物がより有効に分散するのを促進し、この場合伝導率は3%不純物(高純度のケース)の場合と比較して同じままである。このデータを図2も示す。図では、2つの異なるタイプのナノチューブ(すなわち、高度に精製したものと低純度のもの)を有する3wt%カーボンナノチューブ組成物/ナイロン6,6混合物の場合の体積抵抗率を混合時間に対してプロットしてある。曲線は両方共、DACAミニ二軸押出機で150のRPM設定を用いて285℃の温度で作成した。試料はストランドから得た。ストランドを液体窒素で破砕し、銀導電性塗料を塗り、Flukeマルチメーターを用いて抵抗を測定した。
【0216】
分散の違いを図3の顕微鏡写真に示す。SWNT−10を含有する組成物の体積固有抵抗率は382ohm−cmであり、一方SWNT−3を含有する組成物のSVRは38240ohm−cmである。少なめの不純物を含有する試料はより高度に絡み合ったカーボンナノチューブ構造示し、そのため高めの抵抗率を示す。満足できる電気的性質を得るためには、SWNT−10を含有する組成物の顕微鏡写真に示されている開放網状組織カーボンナノチューブ構造が望ましい。
【0217】
これらの結果はまた、所与のカーボンナノチューブ組成物で不純物のレベルが低くなるほど、当初に電気的性能を達成するのがより困難になることを示している。しかし、追加の混合を使用すると、SWNT−10を含有する組成物で、SWNT−3を含有する組成物とほぼ同じレベルの伝導率が達成されることが分かる。
【0218】
また、混合の量を増大するにつれて、一般に、最初は伝導率のレベルが低下し、次いで上昇し、増大した混合(すなわち、7分より長い時間の混合)では、カーボンナノチューブが、カーボンナノチューブの導電性領域間の接触が低減する点まで分散することを示していることも分かる。また、混合が増大するにつれて、カーボンナノチューブがより多く絡み合い又は凝集するようになり、そのため網状組織の連結性の低下が助長される可能性もあるであろう。言い換えると、理論に縛られることはないが、最低の抵抗率を得るためには、所与の組成物に与える必要があるエネルギーに最適なレベルがあると仮定することができる。
【0219】
実施例2
この実験は、樹脂の分子量及び得られるブレンドのSVRに対する混合の影響を決定するために行った。この実施例では、DACAミニ二軸押出機で約1〜約10分の時間ポリカーボネート樹脂を1wt%のカーボンナノチューブ組成物とブレンドした。組成と製造方法は実施例1で使用したものと同様であった。使用した試験方法は上で詳述したものと同様であった。ポリカーボネートの数平均(M)及び重量平均(M)分子量はGPCで測定した。値を下記表3と4に示す。
【0220】
【表4】

【0221】
【表5】

【0222】
上の表3と4から、SWNT−3を含有する組成物は一般に非常に小量の混合でかなりの伝導率を示すことが分かる。また、これらの表から、ブレンドプロセス中の分子量の低下が同等の量の場合、より少ない不純物を含有する試料はより多い量の導電率を含有する試料と比べてより高い導電率を示すことも分かる。このように、所与の組成物に対して不純物の適当なレベルを選択することによって、望ましいレベルの導電率を達成しつつ有機ポリマーの物理的性質の低下を最小にすることが可能である。
【0223】
実施例3
これらの実験は、ナイロン6,6の分子量及び得られるブレンドのSVRに対するカーボンナノチューブの影響を決定するために行った。この実施例では、DACAミニ二軸押出機で下記表5と6に示すように約1〜約7分の時間ナイロン6,6樹脂を3wt%のカーボンナノチューブ組成物とブレンドした。押出温度は275℃であり、スクリュースピードは150rpmであった。使用した試験方法は上で詳述したのと同様である。ナイロン6,6樹脂の数平均(M)及び重量平均(M)分子量はGPCで測定した。データを下記表5と6に示す。
【0224】
【表6】

【0225】
【表7】

【0226】
上の表5と6から、SWNT−3を有する組成物は一般に非常に小量の混合で導電率を示すことが分かる。加えて、SWNT−3を含有する組成物は一般に、混合時間に多少呼応する導電率を示す。しかし、SWNT−10を有する組成物は3分以下の混合時間で導電率を示さない。SWNT−10を含有する組成物で一旦導電率が発現すると、この導電率または表面体積抵抗率は混合時間に大きく依存することが分かる。これは、この組成物から誘導される物品の導電率の調整が可能になるので有利である。SWNT−10を含有する組成物は樹脂中に浸透性電気網状組織を生み出す前に一定の量の混合をすることができるので、有機ポリマーと混合する前に異なる重量パーセントの不純物を含有するカーボンナノチューブ組成物をブレンドしてもよいと考えられる。これにより、組成物に対する目的とするレベルの導電率及び表面体積抵抗率を調整することが可能になるであろう。
【0227】
ナイロン6,6の分子量はさらに、経時的に限られた低下を示す。表5と6から分かるように、SWNT−3及びSWNT−10を含有する組成物を押し出したとき、数平均分子量(M)が多少低下する。さらに、分子量の低下はSWNT−3を含有する試料よりSWNT−10を含有する組成物の方が大きいことが分かる。質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC−MS)を押し出した組成物について実施した。GC−MSの結果をそれぞれ表7と8に示す。
【0228】
【表8】

【0229】
【表9】

【0230】
表7と8から分かるように、ナイロン6,6の分解の結果としてGC−MSで検査した化合物はヘキサン、シクロペンタノン、フェノール、ナフタレン、4−(1−メチルエチル)フェノール、及びナイロン6,6環状モノマーであった。表から分かるように、いずれの組成物でも環状ダイマーの重量パーセントは混合時間と共に増大している。組成物中に環状ダイマーが存在することは、押出中にカーボンナノチューブの存在により分解が起こることを示唆しており、SWNT−10を有する組成物中に大量の環状ダイマーが存在することは、不純物の存在が数平均分子量の低下の一因であり得ることを示唆している。
【0231】
実施例4
この実施例は、MWNT(ロープを形成しない)とSWNT(ロープを形成する)から作成したマスターバッチについて、かかるマスターバッチを例えば30mmのWerner and Pfleiderer二軸押出機のような高剪断条件下で作成したとき、これらの間の性能の違いを決定するために行った。この実施例では、3wt%のMWNTまたはSWNTを含むマスターバッチを最初に30mmのWerner and Pfleiderer二軸押出機で押し出した。30mmのWerner and Pfleiderer二軸押出機でマスターバッチを調製するのに利用した条件は、バレル温度280℃、スクリュースピード350rpm、出力30lbs/hrであった。ポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンド中に用いたポリアミドはナイロン6,6であった。このポリフェニレンエーテルポリアミドブレンドを最初に290℃において30mmのWerner and Pfleiderer二軸押出機でコンパウンディングした。スクリュースピードは350rpmに維持し、ブレンドは50lbs/hrで製造した。
【0232】
それぞれのマスターバッチに対する体積固有抵抗率を下記表9に示す。
【0233】
【表10】

【0234】
表から分かるように、SWNT−3を含有するマスターバッチは電気的性質を示す一方、SWNT−10を有するマスターバッチは体積抵抗率を示さない。また、同等の充填量で、SWNT−3を含有する試料はMWNTよりほぼ3のオーダーも優れている。これは、ロープを形成するカーボンナノチューブがロープにならないカーボンナノチューブと比べてより迅速に導電率を改良することができることを示している。
【0235】
次に、3wt%マスターバッチを、30mmのWerner and Pfleiderer二軸押出機で追加のナイロン6,6と混合することにより低減して表10に示す中間の導電性組成物を形成した。次いで、この組成物を追加の成分とブレンドして表11に示す組成物を得た。別の実験で、表11に示したポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンドを30mm二軸押出機で押し出した。ナイロン6,6とナノチューブの最終含量を表10に示す。導電率(SVR)の結果を表12に示す。
【0236】
ポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンド並びにナノチューブを含有するポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンドの調製に使用した押出機の条件はバレル温度が290℃、スクリュースピードが350rpmで、出力が50lbs/hrであった。ナノチューブを含有するポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンドの電気的性質を表12に示す。表12から分かるように、MWNTを含有する試料は導電率を示さないが、SWNTを有する試料は導電率を示す。
【0237】
【表11】

【0238】
【表12】

【0239】
【表13】

【0240】
これらの結果は明らかに、SWNT−10を含有するマスターバッチがMWNTを含有するもの又はSWNT−3を含有するものとは異なって振る舞うことを示している。これらの結果から分かるように、SWNT−10を含有するマスターバッチは導電性でないが、MWNTを含有するマスターバッチは導電性である。SWNT−3を含有するマスターバッチもまた、測定された体積抵抗率で立証されているように導電性である。しかし、このマスターバッチをポリフェニレンエーテル−ポリアミドブレンドとさらにコンパウンディングすると、MWNTを有する組成物は非導電性であるが、SWNT−10を含有する組成物はかなり低いレベルの体積抵抗率を示す。SWNT−3を有する組成物は一般に電気的に導電性ではない。
【0241】
理論に縛られることはないが、SWNT−10の存在は単層ナノチューブの絡み合いを解きその後分散させるのを促進することにより、導電率を改良すると推測される。SWNT−10は、ロープの連結した網状組織を構築するために追加の剪断力又は混合が必要であった。一方、SWNT−3はマスターバッチ中で既に非常に良好に連結したロープ状網状組織を構築していたが、追加の混合によってその網状組織が崩れ、従って連結性が
破壊され、ひいては伝導率が失われた。従って、低めの割合の不純物を伴うSWNTを有するポリフェニレン−エーテルポリアミドブレンドは一般に、前記のように分散させたとき電気的性質を示さない。ここでも理論に縛られることはないが、MWNTの場合、マスターバッチとポリフェニレンエーテルポリアミドブレンドのブレンド中に加えられる追加の剪断は網状組織の連結性の低下を促進し、試料の電気的性質を損なうと考えられる。
【0242】
実施例5
この実施例は、MWNTを含む組成物とSWNT−10を含むものとの間の電気的性質の違いを実証するために行った。特に、この実験は、MWNT又はSWNTのいずれかを含有する組成物の電気的性質及び耐衝撃性に対する半結晶質ポリマーの影響を検討するために行った。約0.46dl/gの固有粘度を有するポリフェニレンエーテル樹脂、スチレンブタジエンスチレントリブロックコポリマー、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)及びポリプロピレン用のTuftec衝撃改良剤からなる予め押し出した組成物を、Werner and Pfleidererの30mm二軸押出機で製造した。ポリプロピレン(PD403)及びMWNT又はSWNTのいずれかを含む別のマスターバッチを16mmのPrism二軸押出機で調製した。次に、予め押し出した組成物をマスターバッチと共に16mmのPrism二軸押出機で押し出した。このとき予め押し出した組成物とマスターバッチは両方共喉部で押出機に供給した。試料を15トンのBoy射出成形機で射出成形してアイゾット試験片にした。これらの試験片にノッチを付け、ノッチ付アイゾット衝撃試験にかけ、また体積固有抵抗率を測定した。
【0243】
【表14】

【0244】
表13のデータから分かるように、MWNTを含有する組成物は測定可能な導電率の存在を示さなかった。しかし、SWNTを含有する試料は1及び2wt%で電気抵抗率を示す。これらの結果は明らかに、一定の条件下で不純物を有するSWNTが半結晶質樹脂で電気的性質を生成するのにMWNTより好ましいことを実証している。これは、ロープ状カーボンナノチューブの網状組織を形成する能力を反映している。
【0245】
実施例6
この実験は、SWNT組成物中に存在する不純物がポリカーボネート樹脂とSWNT組成物を含む組成物の電気的性質に及ぼす影響を実証するために行った。このSWNTはCarbon Nanotechnologies社から入手したものであり、残留TGAバーンオフを基準にして10wt%の不純物(SWNT−10)又は残留TGAバーンオフを基準にして3wt%の不純物(SWNT−3)を含有していた。これらの試料は音波処理プロセスで得られた。すなわち、SWNTをジクロロエタン中で30分音波処理し、ポリマーを加え、その後得られた混合物を再び30分間音波処理した。この試料を乾燥し、粉砕した後、小規模の実験室用混合及び成形機(Atlas USA)を用いてストランドを形成し、液体窒素を用いてストランドを破砕し、次に破砕した末端に導電性銀塗料を塗り、Flukeマルチメーターを用いて電気抵抗を測定した。
【0246】
SWNT組成物を下記表14に示す。組成物の残部はGeneral Electric社から市販されているPC−175ポリカーボネート樹脂である。
【0247】
【表15】

【0248】
表14から分かるように、高めの割合の不純物を有するSWNT組成物を含有する組成物は一般により良好な電気的性質を示す。すなわち、SWNT−10を有する組成物は電気抵抗率を示すが、SWNT−3を有する組成物は電気抵抗率を示さない。SWNT−3をSWNT−10と組み合わせる場合、低いレベルの不純物を有するカーボンナノチューブより高いレベルの不純物を有するカーボンナノチューブを組み合わせることによって網状組織の連結性が変化する。SWNT−3は混合すると凝集する傾向があるが、SWNT−10はより多くの網状組織構造を形成する傾向がある。従って、得られる浸透性網状組織は、細いロープより多くの凝集体を有するカーボンナノチューブ組成物と、凝集体より多くの細いロープを有するカーボンナノチューブ組成物との組合せである。このように、細いロープは凝集体を連結するのを補助することができる。全体としての結果は、異なる網状組織が構築されるのでより低い体積抵抗率になる。これにより、有機ポリマーの塊全体に浸透することができる網状組織構造中にナノチューブをより効率的に充填するのが促進される。
【0249】
以上の実験から分かるように、SWNT組成物中に存在する不純物は、混合時間を変え、組成物の電気的性質を調整し、そして組成物の物理的性質を改変する各種の機会を提供する。一実施形態では、組成物を様々なレベルの混合にかけて系内に様々な電気的網状組織を構築し、これが有機ポリマーのマトリックス内に様々なレベルの電気抵抗率を生じるようにできることが分かる。別の実施形態では、高めのレベルの不純物を有するSWNT組成物を低めのレベルの剪断混合でポリカーボネートのような有機ポリマー内に分散させることができる。さらに別の実施形態では、ナイロン6,6のような有機ポリマーで、低めの重量割合の不純物を含有する組成物は一般に混合により導電率が変化しないが、高めの重量割合の不純物を含有する組成物は混合時間と共に高めのレベルの導電率を示すことが分かる。
【0250】
理論に縛られることはないが、一般に、不純物のレベルはSWNTを分散する際の有効性に対して大きな役割をすると考えられる。高純度のSWNTは、より低い純度のSWNTと同じくらい容易にロープから分離することはできない。二軸押出で使用するような剪断力は、高度に絡み合っているクラスターから短時間内にSWNTを脱ロープ、又は脱凝集する助けになることができるようである。押出プロセス中に見られる剪断力は、高純度のSWNTにより形成されたSWNTの凝集体を破壊するほどに有効ではない。しかし、SWNT−3の場合、押出機での混合中の拡散効果は導電性SWNT網状組織を大いに改良することができる。言い換えると、ポリマー鎖がSWNT間に拡散し、ロープを破壊するのに役立つことができる。多めの不純物を有するカーボンナノチューブ(例えばSWNT−10グレード)は、その凝集体又は大きいロープから破壊するのがより困難であるが、分散させるには追加の剪断が必要である。少なめの不純物を有するカーボンナノチューブはずっと速く網状組織を構築するが、この網状組織は追加の剪断/混合で崩れる傾向がある。これにより、導電性組成物を得ようとする人は、カーボンナノチューブ組成物中の不純物の量を変化させることによって所望のレベルの伝導率を調整することが可能になる。
【0251】
高純度のSWNTを組成物中に使用しようとする場合、SWNTは有機ポリマーとドライブレンドした後に押出機に供給する。当初非常に大きいロープ(>10000SWNT)はこの押出機によって容易により小さいロープに破壊される。これは導電性経路を構築することができるが、通常非常に低い充填量ではできない。追加のコンパウンディングはさらに多くのロープをより小さいものに分離し始めることができる。しかし、最終的には、分離されたロープ構造が絡み合ってまとまり、又は凝集するようになる点に至る。これは図3に示されている。この作用は網状組織の連結性を破壊し、従ってかかる高純度のSWNTの組成物中における導電性要素としての効力を低下させる。
【0252】
残留TGAバーンオフを基準にして3wt%より多い不純物を有するカーボンナノチューブを使用する場合、押出機によって非常に大きいロープ構造(>10000SWNT)がより小さいロープに破壊される。追加のコンパウンディングにより、この凝集体がさらに、有機ポリマーのマトリックス全体により容易に浸透することができるより網目タイプの構造に破壊される。これは押出操作において非常に都合がよい。というのは、かかるSWNTと有機ポリマーの混合物に対してより多くの剪断力が極めて容易にかけられるからである。これらの構造は高度に精製された構造のようには高度に絡み合ったクラスターを形成しないが、良好に連結された良いロープ状網状組織を形成する。最終結果は導電性複合材である。かかるナノチューブ中に存在する不純物がこの理由であり得る。
【0253】
代表的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、また本発明の構成要素に代えて等価物を用いることができるということは当業者には理解されるであろう。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正をなすことができる。従って、本発明は、本発明を実施する際に考えられる最良の態様として開示した特定の実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0254】
【図1】図1は、黒鉛型ナノシートの構造を描いた概念図である。
【図2】図2は、SWNT−3及びSWNT−10を有するナイロン6,6試料に対する体積固有抵抗率のグラフ表示である。
【図3】図3は、組成物中のSWNTの分散を示す電子顕微鏡写真であり、SWNTはそれぞれSWNT−3及びSWNT−10である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマー、及び
カーボンナノチューブ組成物
を含んでなる導電性組成物であって、
前記カーボンナノチューブ組成物が、ロープを形成することができ、当該カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有することができるカーボンナノチューブを含んでおり、前記導電性組成物が約1012ohm−cm以下の体積抵抗率及び約5キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有する、前記導電性組成物。
【請求項2】
組成物が約10ohm−cm以下の電気体積抵抗率及び約10キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有する、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
カーボンナノチューブ組成物が導電性組成物の総重量を基準にして約0.001〜約50wt%からなる、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項4】
カーボンナノチューブ組成物が単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ又は以上のカーボンナノチューブを1種以上含む組合せを含む、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記生産関連不純物が炭素質反応副生物、触媒残渣、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、又は以上の残渣を1種以上含む組合せからなる、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記炭素質反応副生物が欠陥単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、枝分れ及び/又はコイル状多層カーボンナノチューブ、無定形炭素、煤煙、コーク、又は以上の反応副生物を1種以上含む組合せである、請求項5記載の導電性組成物。
【請求項7】
さらに、ロープにならない単層カーボンナノチューブ、ロープにならない多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、黒鉛型ナノシート又は以上のものを1種以上含む組合せを含む、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項8】
前記生産関連不純物が前記カーボンナノチューブ組成物の総重量の約0.1〜約80wt%からなる、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項9】
前記有機ポリマーがホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、又は以上のタイプの有機ポリマーを1種以上含む組合せからなる、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項10】
前記有機ポリマーが相分離した形態を有しており、前記カーボンナノチューブ組成物の実質的な割合が単一相内に存在する、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブ組成物の少なくとも一部分が、官能基で誘導体化されたカーボンナノチューブからなる、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブ組成物が、1以上の半球状末端を有する単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブを含む、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項13】
前記有機ポリマーが熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂のブレンド、又は熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のブレンドである、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項14】
前記有機ポリマーがコポリマー、ターポリマー、ポリマーのブレンド、又は以上の有機ポリマーを1種以上含む組合せである、請求項1記載の導電性組成物。
【請求項15】
熱可塑性樹脂が、ポリアセタール、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルエーテルケトン、又は以上の熱可塑性樹脂を1種以上含む組合せである、請求項13記載の導電性組成物。
【請求項16】
有機ポリマー、及び
カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ組成物
を含んでなる導電性組成物であって、前記カーボンナノチューブ組成物のカーボンナノチューブが当該カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有しており、前記カーボンナノチューブがロープを含む網状組織の形態で前記有機ポリマー中に存在しており、前記導電性組成物が約10ohm−cm以下の体積抵抗率、及び約10キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さを有している、前記導電性組成物。
【請求項17】
クラスAの表面仕上げを有する、請求項16記載の導電性組成物。
【請求項18】
導電性組成物の総重量を基準にして約0.001〜約50wt%のカーボンナノチューブ組成物を含む、請求項16記載の導電性組成物。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブ組成物が単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ又は以上のカーボンナノチューブを1種以上含む組合せを含む、請求項16記載の導電性組成物。
【請求項20】
前記生産関連不純物が炭素質反応副生物、触媒残渣、又は以上のものを1種以上含む組合せからなり、前記触媒残渣が金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、又は以上の残渣を1種以上含む組合せからなる、請求項16記載の導電性組成物。
【請求項21】
有機ポリマー、及び
カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ組成物
を含んでなる導電性組成物であって、前記カーボンナノチューブ組成物のカーボンナノチューブがカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の生産関連不純物を有しており、前記カーボンナノチューブがロープ及び凝集体を含む網状組織の形態で有機ポリマー中に存在しており、前記導電性組成物が約10ohm−cm以下の体積抵抗率、約10キロジュール/平方メートル以上のノッチ付アイゾット衝撃強さ及びクラスAの表面仕上げを有している、前記導電性組成物。
【請求項22】
導電性組成物の総重量を基準にして約0.001〜約50wt%のカーボンナノチューブ組成物を含む、請求項21記載の導電性組成物。
【請求項23】
前記カーボンナノチューブ組成物が単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ又は以上のカーボンナノチューブを1種以上含む組合せを含む、請求項21記載の導電性組成物。
【請求項24】
前記生産関連不純物が炭素質反応副生物、触媒残渣、又は以上のものを1種以上含む組合せからなる、請求項21記載の導電性組成物。
【請求項25】
前記触媒残渣が金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、又は以上の残渣を1種以上含む組合せからなる、請求項21記載の導電性組成物。
【請求項26】
前記炭素質反応副生物が欠陥単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、枝分れ及び/又はコイル状多層カーボンナノチューブ、無定形炭素、煤煙、コーク、又は以上の反応副生物を1種以上含む組合せである、請求項24記載の導電性組成物。
【請求項27】
請求項1乃至請求項26のいずれか1項記載の組成物を含んでなる物品。
【請求項28】
有機ポリマー及び/又は有機ポリマー前駆体組成物をカーボンナノチューブ組成物とブレンドすることを含んでなる、組成物の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ組成物がロープを形成することができるカーボンナノチューブを含んでおり、前記カーボンナノチューブ組成物がカーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の量の生産関連不純物を含んでいる、前記方法。
【請求項29】
ブレンドすることが、溶融ブレンド、溶液ブレンド、又は以上のブレンド法を1種以上含む組合せを含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記有機ポリマー前駆体組成物がブレンドする間に有機ポリマーを形成する、請求項28記載の方法。
【請求項31】
ブレンドすることが、超音波周波数で行う音波処理を含む、請求項28記載の方法。
【請求項32】
ブレンドすることが剪断力、伸張力、圧縮力、超音波エネルギー、電磁エネルギー、熱エネルギー、又は以上の力及びエネルギーを1種以上含む組合せを使用して加工処理装置で行われ、単一のスクリュー、複数のスクリュー、噛合式同方向回転型若しくは逆方向回転型スクリュー、非噛合式同方向回転型若しくは逆方向回転型スクリュー、往復運動型スクリュー、ピン付きスクリュー、ピン付きバレル、スクリーンパック、ロール、ラム、ヘリカルローター、又は以上を1種以上含む組合せによって前記力を働かせる、請求項28記載の方法。
【請求項33】
カーボンナノチューブ組成物を有機ポリマー又は有機ポリマー前駆体とブレンドすることを含んでなる導電性組成物の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ組成物がロープを形成することができるカーボンナノチューブを含有しており、カーボンナノチューブを含むロープの寸法がブレンドする際に変化する、前記方法。
【請求項34】
前記ロープが2〜10のカーボンナノチューブを含んでいる、請求項33記載の方法。
【請求項35】
ブレンドすることが、溶融ブレンド、溶液ブレンド、又は以上のブレンド法を1種以上含む組合せを含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
前記有機ポリマー前駆体組成物がブレンドする間に有機ポリマーを形成する、請求項33記載の方法。
【請求項37】
ブレンドすることが超音波周波数で行う音波処理を含む、請求項33記載の方法。
【請求項38】
第1の有機ポリマーをカーボンナノチューブ組成物とブレンドしてマスターバッチを形成し、
さらに前記マスターバッチを第2の有機ポリマーとブレンドして導電性組成物を形成する
ことを含んでなる導電性組成物の製造方法方法であって、
前記カーボンナノチューブ組成物が当該カーボンナノチューブ組成物の総重量を基準にして約0.1wt%以上の量で生産関連不純物を含んでおり、前記カーボンナノチューブ組成物がロープを形成することができるカーボンナノチューブを含んでいる、前記方法。
【請求項39】
前記マスターバッチが当該導電性組成物の電気体積抵抗率より高い電気体積抵抗率を有しているか、又は、前記マスターバッチが当該導電性組成物の電気体積抵抗率より低い電気体積抵抗率を有している、請求項38記載の方法。
【請求項40】
カーボンナノチューブ組成物中に存在するカーボンナノチューブロープの寸法がマスターバッチを形成するためにブレンドする間に変化するか、又は、カーボンナノチューブ組成物中に存在するカーボンナノチューブロープの寸法が導電性組成物を形成するためにブレンドする間に変化する、請求項38記載の方法。
【請求項41】
請求項28乃至請求項40のいずれか1項記載の方法によって製造された物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−512658(P2007−512658A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523262(P2006−523262)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/025651
【国際公開番号】WO2005/015574
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】