説明

導電性高分子膜の製造方法、導電性高分子フィルムおよび被覆膜の形成方法

【課題】 平滑かつ緻密であるとともに電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、π共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボンを含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極上に導電性高分子膜を形成する導電性高分子膜の製造方法であり、更に電極上の該高分子膜を剥がす導電性高分子の製造方法、および導電性高分子被覆膜の製造方法である。
前記フルオロカーボンとしては、炭素数1〜3のハイドロフルオロカーボンが好ましく、1,1−ジフルオロエタンが更に好ましい。単量体としては、ピロール、チオフェンまたはそれらの誘導体が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子膜の製造方法に関し、特に、緻密で表面平滑性に優れるとともに機械的強度に優れた導電性高分子膜の製造方法に関する。また本発明は、その導電性高分子膜から形成される導電性高分子フィルムおよび被覆膜の形成方法、並びに導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる工程を有する固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、その特性を活かして各種の用途への応用が期待されている。例えば、導電性高分子膜は、固体電解コンデンサ、有機ELディスプレイ、ポリマー電池、太陽電池、各種センサー材料、電磁波シールド材料、帯電防止材料、人口筋肉など、幅広い分野での利用が期待されている。
【0003】
導電性高分子としては、ポリアニリンや、ポリピロール、ポリチオフェンなど種々の樹脂系が知られているが、何れも高分子でありながらほとんどの有機溶媒に不溶かつ不融であるため加工成形性に乏しく、目的に適した形態の導電性高分子膜を得るために、様々な合成法および合成条件が検討されてきた。例えば、従来、モノマー分子に化学的酸化剤を作用させて重合を行う方法と、モノマー分子を電気化学的に酸化する電解重合を行う方法が知られている。一般に前者の方法で得られる導電性高分子は粒子状の沈殿物となるため二次加工が必要となるが、後者の方法では電極上に薄膜として導電性高分子が生成するため、直接導電性フィルムや被覆膜などを形成することが可能である。
【0004】
電解重合法では、通常、支持電解質を含む水電解液または有機電解液中に単量体を加え、この電解液中に作用電極を含む一対の電極を設置して両電極に電圧を印加することで作用電極上に導電性高分子を析出させて薄膜を形成する。しかしながら、水電解液を用いる電解重合法では、水の電気分解により陽極に発生する酸素あるいは塩素や、陰極に発生する水素ガスが析出ムラや析出欠けの原因となり、均一な高分子膜が得られなかった。一方、有機電解液を用いた場合は、モノマーや支持電解質の溶解・拡散が十分ではなく、重合が不均一に進むため粒塊の絡み合った粗雑な高分子膜しか得られなかった。このため、従来の導電性高分子膜は、複雑な形状の基板上に均一な薄膜を形成することが難しく、また、膜密度が低いため電気特性および機械的強度が十分ではなく、高い機械的強度が要求される用途への応用は困難であった。
【0005】
このような問題を解決するため、各種の方法が提案されている。例えば、特許文献1および2には、均一かつ緻密な導電性高分子膜を得るために、超音波の照射下にモノマーを電解酸化重合する方法が開示されている。この方法によれば、アニリンの重合により得られた導電性高分子膜の密度は、通常の10倍にも達することが確認されている。また、超音波の有する物質移動促進効果を利用すれば細孔内部への効率的なモノマー輸送も可能となり、複雑形状の基板上に均一な薄膜を形成することも期待される。しかしながら、導電性高分子膜の担体が脆弱な場合には、超音波の有する力学的作用によってその基板を破壊してしまう恐れがある。
【0006】
また、特許文献3には、超臨界二酸化炭素−水系乳濁液を電解媒体として電解酸化重合する方法が開示されている。この方法によれば、気泡として発生した水素あるいは酸素は超臨界二酸化炭素に溶解するため、気泡の陽極への付着や移動を防止することができ、電導性高分子膜の緻密化を促進することができる。しかしながら、超臨界二酸化炭素を水に乳濁させるために系内に添加される界面活性剤の作用により薄膜化が促進されるため、その用途はごく薄い被覆膜の形態に限定され、機械的強度に優れた厚膜や、フィルムの形成は困難であった。
【0007】
更に、特許文献4には、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基などを有する有機化合物を溶媒として含む電解液を用い、特定の支持電解質および作用電極を用いて電解酸化重合を行う方法が開示されている。この方法によれば、安息香酸メチルや、1−オクタノール、1,2−ジメトキシエタン、2−フェノキシエタノール、プロピレンカーボネートなどの有機化合物を反応溶媒に用いることにより、引っ張り強度60MPa以上の機械的強度に優れたポリピロールフィルムが得られることが示されている。しかしながら、この方法では溶媒中の溶質の拡散が十分ではないため、重合反応が電極表面上で均一に起こらず、微細な凹凸を有する担体や複雑な形状の担体に平滑で緻密な被覆膜を形成することは困難であった。また、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ヒドロキシル基などは親水性であるため、これらを有する有機化合物は概して親水性が高く、不純物として水を含んでいる場合がある。水が存在すると電解重合の際に水素等のガスが発生するため、親水性の高い溶媒では含まれる水を除去する工程が必要となる。更に、安息香酸メチルや、1−オクタノール、2−フェノキシエタノール、プロピレンカーボネートなどは沸点が高いため、得られたポリピロールフィルムや被覆膜に残留する溶媒を完全に除去することが困難であった。また、1−オクタノール、プロピレンカーボネートは刺激性、1,2−ジメトキシエタンは毒性を有する溶媒であり、安全衛生上および環境への影響においても好ましいものではなかった。
【0008】
一方、発明者らは、反応媒体として超臨界フルオロホルムを用いて電解酸化重合を行う方法を提案している(特許文献5参照)。超臨界流体は通常の液体と比べ非常に高い拡散性を有するため、超臨界流体を反応媒体に用いることにより重合反応における物質移動速度が大きくなり、重合膜を形成する電極表面へのモノマー輸送が効率的に行われる。このため、重合析出核が電極表面全体にわたって形成され、その後の核成長も均一に起こるため平滑で緻密な導電性高分子膜が得られる。しかしながら、超臨界媒体は液体と比較して小さな比誘電率しか示さないため、超臨界フルオロホルムを反応媒体として用いた場合、支持電解質を溶解するために高い圧力を必要とした。さらに、このようにして得られた導電性高分子膜はごく薄い被覆膜の形態に限定され、機械的強度に優れた厚膜のものや、フィルム状のものの形成は困難であった。
【0009】
【特許文献1】特開2000−124075号公報
【特許文献2】特開2000−100665号公報
【特許文献3】特開2004−143570号公報
【特許文献4】特開2004−190027号公報
【特許文献5】特願2004−007255号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の目的は、より温和な条件下に、平滑かつ緻密であるとともに電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜を製造する方法を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の第2の目的は、より温和な条件下に、平滑かつ緻密であるとともに電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜から構成される導電性高分子フィルムおよび導電性高分子被覆膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極上に導電性高分子膜を形成することを特徴とする導電性高分子膜の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、前記フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)が、炭素数1〜3のハイドロフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)であり、好ましくは1,1−ジフルオロエタンであることを特徴とする導電性高分子膜の製造方法である。
また、本発明は、前記単量体がピロール、チオフェンまたはそれらの誘導体であることを特徴とする導電性高分子膜の製造方法である。
【0014】
また、本発明は、反応媒体として、臨界点より低温高圧の亜臨界フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行うことを特徴とする導電性高分子膜の製造方法である。
【0015】
更にまた、本発明は、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極上に導電性高分子膜を形成し、形成された導電性高分子膜を剥離することにより導電性高分子膜から構成されるフィルムを得る工程を含む導電性高分子フィルムの形成方法である。
【0016】
また、本発明は、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極として用いた導電性基材表面に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成する工程を含む導電性高分子被覆膜の形成方法である。
【0017】
また、本発明は、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極として用いた導電性の多孔質体基材の表面および細孔内部に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成する工程を含む導電性高分子膜の形成方法である。
【0018】
また、本発明は、導電性の多孔質体基材として、炭素繊維を含む繊維質基材を用いることを特徴とする導電性高分子膜の形成方法である。
また、本発明は、導電性の多孔質体基材として、エッチング処理が施された金属体又は微粒子を焼き固めた焼結体であって、その表面に誘電体酸化被膜と予備導電層が順に形成された金属体基材を用いることを特徴とする導電性高分子膜の形成方法である。
【0019】
また、本発明は、弁作用金属からなる金属体の表面を酸化して誘電体酸化被膜を形成させる工程と、該誘電体酸化被膜を形成させた弁作用金属表面に予備導電層を形成させる工程と、該予備導電層を形成させた弁作用金属を作用電極として、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合させることにより、該予備導電層上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる工程とを有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボンを含む電解媒体中で電解重合を行うことにより、平滑かつ緻密であるとともに電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜を、従来の方法に比べてより温和な条件下に効率よく製造することができる。特に、従来困難であった膜の厚さの大きい厚膜やフィルム状に形成したものを製造することができる。
【0021】
ここで、亜臨界フルオロカーボンは、超臨界フルオロカーボンに劣るものの液体と比べて格段に高い拡散性を有し、更に、液体中における比誘電率と同程度の高い比誘電率が得られ、支持電解質は解離した状態で系内に存在することができる。このため、反応媒体として亜臨界フルオロカーボンを用いることにより、電解重合が、より温和な条件下に均一かつ効率的に進み、電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に用いるフルオロカーボンとしては、環境の面から、塩素原子や臭素原子を含まず、オゾン破壊係数が実質ゼロとされるハイドロフルオロカーボン(以下、「HFC」と記載する。)が好ましく、炭素数1〜3のHFCが好ましい。好ましいHFCの具体的な例としては、ジフルオロメタン(臨界点:78.1℃、5.78MPa)、1,1−ジフルオロエタン(臨界点:113.3℃、4.51MPa)、1,1,1−トリフルオロエタン(臨界点:72.7℃、3.76MPa)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(臨界点:101.1℃、4.06MPa)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(臨界点:66.0℃、3.62MPa)などが挙げられる。これらの中でも、ジフルオロメタン、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタンは比誘電率が高く好ましく、中でも、1,1−ジフロロエタンは地球温暖化係数が他のHFCと比較して小さいため、環境面で最も好ましい。なお、フルオロホルム(臨界点:26.2℃、4.85MPa)は臨界点付近における比誘電率が十分ではなく、支持電解質が溶解しないため本発明の反応媒体としては適さない。
【0023】
単量体として用いられる置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物としては、アニリン、アルキルアニリン類、アルコキシアニリン類、ハロアニリン類、o−フェニレンジアミン類、2,6−ジアルキルアニリン類、2,5−ジアルコキシアニリン類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのアニリンおよびアニリン誘導体;ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロールなどのピロールおよびピロール誘導体;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのチオフェンおよびチオフェン誘導体などを挙げることができる。これらの中でも、ピロール、チオフェンおよびこれらの誘導体が好ましい。これらの単量体は、安価で入手しやすく化学的に安定であり、良質な導電性高分子膜を製造することができる。これらの単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
電解重合に用いられる支持電解質としては、一般に支持電解質として用いられるものを広く用いることが可能である。具体的には、ヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム、ヘキサフルオロリン酸テトラメチルアンモニム、ヘキサフルオロリン酸テトラエチルアンモニムなどのヘキサフルオロリン酸塩;テトラフルオロホウ酸テトラn−ブチルアンモニム、テトラフルオロホウ酸テトラメチルアンモニム、テトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニムなどのテトラフルオロホウ酸塩;過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム、過塩素酸テトラメチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウムなどの過塩素酸塩;トリフルオロメタンスルホン酸テトラn−ブチルアンモニム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラメチルアンモニム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラエチルアンモニムなどのトリフルオロメタンスルホン酸塩;p−トルエンスルホン酸テトラn−ブチルアンモニウム、p−トルエンスルホン酸テトラメチルアンモニウム、p−トルエンスルホン酸テトラエチルアンモニウムなどのp−トルエンスルホン酸塩などを挙げることができる。これらの中でも、ヘキサフルオロリン酸n−ブチルアンモニム、テトラフルオロホウ酸テトラn−ブチルアンモニム、過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラn−ブチルアンモニム、p−トルエンスルホン酸テトラn−ブチルアンモニウムなどのテトラn−ブチルアンモニウム塩は、亜臨界フルオロカーボンに対する溶解性が高く好ましい。これらの支持電解質は1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。支持電解質の添加量は特に限定されるものではないが、通常、所望の電流密度が得られるように電解媒体中に0.01〜1.0mol/lの濃度範囲で設定される。
【0025】
電解重合の反応圧力および温度は、用いる種々のフルオロカーボンの種類に応じて、それぞれの臨界点以下の亜臨界領域となるよう適宜設定することができる。
【0026】
本発明の方法は、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボンを含む電解媒体を使用する。
亜臨界フルオロカーボン流体の比誘電率は、温度が低いほど、また圧力が高いほど高くなるので、反応温度は臨界温度より低ければ低いほどよく、反応圧力は臨界圧力を超えて高いほどよい。従って、亜臨界フルオロカーボンを用いる場合、電解重合は用いるフルオロカーボンの臨界点より低温高圧の条件下で行うことが好ましく、温度が低いほど、また圧力が高いほど好ましい。
【0027】
即ち、反応媒体として、臨界点より低温高圧の亜臨界フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で重合電解を行うことにより、亜臨界フルオロカーボンの比誘電率をより高くすることができ、電解重合をより温和な条件下で均一かつ効率的に進めることができ、電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜を製造することができる。
【0028】
通常反応温度は、上記の要件を満たす範囲であれば特に限定されるものではないが、過度に温度が低いと、モノマーや支持電解質の溶解性および拡散性が低くなり、重合反応の速度が著しく低下する可能性がある。また、温度制御も困難となる。従って、反応温度は0〜200℃の範囲が好ましく、30〜150℃の範囲がより好ましい。また、反応圧力は臨界圧力より高い圧力が必要であるが、通常20MPa以下で十分重合反応が進行する。
【0029】
従って、反応媒体として亜臨界フルオロカーボンを用いる場合(即ち、臨界温度未満で反応させる場合)は、臨界温度の比較的高いフルオロカーボンを用いるほうが、好適な温度範囲内で反応温度との温度差をより大きくすることができ、本発明の効果をより高められるので好ましい。
【0030】
更に、本発明においては、作用電極上に導電性高分子膜を形成し、形成された導電性高分子膜を剥離することにより導電性高分子膜から構成されるフィルムを得ることが可能であり、また、作用電極として用いた導電性基材表面に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成することが可能である。得られた導電性フィルムおよび導電性高分子被覆膜は、緻密で平滑性に優れ、更に、電気特性および機械的強度に優れるため、機械的強度が必要とされる用途および複雑な形状の担体に高分子電解質層を形成する工程を要する用途に広く応用することができる。
【0031】
電解重合は、公知の電解重合法を用いることが可能であり、定電流法、定電圧法、電位走査法のいずれを用いてもよい。定電流法では、電極に析出する導電性高分子の膜厚を通電時間によって制御することが可能である。一方、定電圧法は導電性高分子膜の特性が再現性よく得られる重合法であり、電位走査法は重合に必要な電位範囲がわかるとともに酸化還元に伴うドーパントの挙動が見え、導電性高分子膜の生成・成長がわかる重合法である。
【0032】
電解重合条件は、例えば、定電流法を用いる場合、電流密度は0. 01〜50mA/cm2の範囲で重合可能であり、0.1〜10mA/cm2の範囲が好ましく、1〜5mA/cm2の範囲がより好ましい。また、電位走査法においては、電位幅を媒体および支持電解質の分解しない範囲内で行う必要があるため、媒体や支持電解質の種類に応じて電位範囲が設定される。通常、電位範囲は−2〜2Vvs.Agの範囲で重合可能であり、−0.5〜1.2Vvs.Agの範囲がより好ましい。
【0033】
本発明において電解重合に用いる電解槽は、亜臨界状態下で電解重合反応させることができるものであれば特に制限はないが、フルオロカーボンを導入する設備および温度制御設備を備えた密閉可能な圧力容器が好ましい。反応容器の内部には、作用電極を含む一対の電極が配置される。
【0034】
電解重合に用いられる電極は特に限定されるものではなく、一般的に電解重合に用いられているものを使用できる。具体的な電極の例としては、白金、チタン、ステンレス、ニッケル、金、タンタル、アルミニウムなどの金属電極およびITOガラス電極、炭素繊維電極などを挙げることができる。
【0035】
本発明の導電性高分子膜の製造方法においては、単量体と支持電解質を電解槽に導入し、更にフルオロカーボンを所定の圧まで導入して加温することにより、亜臨界状態のフルオロカーボンを反応媒体として電解重合することができる。単量体は、電解重合法により作用電極上で重合・析出し、作用電極上に導電性高分子膜を形成する。
【0036】
本発明の導電性高分子膜の製造方法により得られる導電性高分子膜は高い機械的強度を有するので、作用電極上に導電性高分子膜を形成し、形成された導電性高分子膜を剥離することにより、独立した導電性高分子フィルムを得ることができる。導電性高分子膜を剥離する方法としては、例えば、導電性高分子膜が形成された作用電極を有機溶媒または水に浸漬し、電極のふちをカッターなどで切り取ることにより容易に剥離することが可能である。フィルム形成のために電解重合に用いる作用電極としては、板状または箔状の金属電極が好ましく、板状または箔状の白金電極がより好ましい。また、電極の配置は一般的に平行配置で電解重合反応が行われるが、同心円配置、スイスロール配置にすることにより電極面積を大きくすることで、フィルムの形状を大きくすることも可能である。
【0037】
また、本発明において、作用電極に所望の導電性基材を用いることにより、導電性基材表面に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成し、導電性高分子被覆膜とすることができる。導電性基材としては、作用電極に用いることが可能な導電性基材であれば特に限定されるものではなく、被覆膜が形成される部分以外が塗装されていてもよいし、あらかじめ導電性の下地層等が形成されていてもよい。またその形状も、導電性基材の用途に応じて板状、箔状、繊維状、多孔質、粒状など種々の形状のものを用いることが可能である。
【0038】
例えば、電解重合の作用電極として用いる導電性の多孔質体基材として、織り合わされた炭素繊維或いは不織の絡み合った炭素繊維からなり、繊維間に微細な空隙を有するような繊維質基材、表面にエッチング処理が施されて表面に凹凸や微細孔を有する多孔質体となった金属体、あるいは微粒子を焼き固めた焼結体であって、その表面にあらかじめ誘電体酸化皮膜と予備導電層を形成させた金属体基材などを利用することができる。
【0039】
このような導電性の多孔質体基材を用いて本発明方法により得られる導電性高分子被覆膜は、炭素繊維やエッチング処理した金属表面、微粒子の焼結体などのような細孔や微細な、或いは複雑な表面構造を有する導電性基材に対しても、細孔内部や微細な凹凸の内部まで均一かつ緻密に被覆することが可能である。このため本発明は、多孔質体基材をはじめ、複雑な形状の基材や、微細な表面構造有する基材に高分子電解質層を形成する用途に特に好適に用いることができる。
【0040】
このような用途の具体例としては、固体電解コンデンサの電解質層を形成する工程等が挙げられる。以下に、本発明方法を利用した固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0041】
一般に、固体電解コンデンサの基本構造は、弁作用金属からなる陽極と、この弁作用金属の上に形成した誘電体酸化被膜と、この誘電体酸化被膜の上に形成された導電性高分子からなる固体電解質層にて構成される。
【0042】
本発明方法を用いる固体電解コンデンサの製造方法は、弁作用金属からなる金属体の表面を酸化して誘電体酸化被膜を形成する工程(1)と、該誘電体酸化被膜を形成させた弁作用金属表面に予備導電層を形成させる工程(2)と、該予備導電層を形成させた弁作用金属を作用電極として電解重合させることにより、該予備導電層上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる工程(3)とを有する。
【0043】
弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、チタン、ジルコニウム、ニオブ、及びこれらの合金が挙げられ、平板状の弁作用金属または微粒子を焼き固めた焼結体等の該弁作用金属を、必要に応じてエッチング処理により表面粗面化させて用いる。
【0044】
工程(1)では、必要に応じエッチング処理された該弁作用金属に酸化処理を施し、表面に誘電体酸化被膜を形成させる。
【0045】
工程(2)では、工程(3)で電解重合により導電性高分子膜からなる固体電解質層を形成させるに先立ち、予め、該誘電体酸化被膜の表面に予備導電層を形成させる。予備導電層は、従来公知の方法により、例えば、過硫酸アンモニウム等の酸化剤を用いてピロール、チオフェン等の導電性高分子モノマーを化学重合させて導電性高分子膜を形成させる方法、または、マンガン塩を熱分解させて二酸化マンガンからなる導電性金属酸化物薄膜を形成させる方法等により形成することができる。
【0046】
工程(3)では、該予備導電層を形成させた弁作用金属からなる金属体を作用電極として本発明方法により電解重合を行い、該予備導電層上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる。即ち、該予備導電層を形成させた弁作用金属を作用電極として、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合させることにより、該予備導電層上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる。
【0047】
電解重合により導電性高分子を形成させた後は、固体電解質層上にカーボンペースト及び導電性ペースを順次塗布して陰極導電層を形成させ、弁作用金属を陽極端子に、また、陰極導電層を陰極端子に接続し、エポキシ樹脂などの樹脂成分でモールドあるいはステンレスケース等を用いて外装を施して固体電解コンデンサを得ることができる。
【0048】
本発明方法によれば、亜臨界状態のフルオロカーボンの作用により、粗面化処理により形成された弁作用金属表面の微細な凹凸の内部や、微粒子を焼き固めた焼結体基材の多孔質孔内に導電性高分子が十分に充填され、かつ緻密で均一な導電性高分子膜を形成することができるので、優れた特性の固体電解質コンデンサを得ることができる。
【0049】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
なお、実施例にて得られた導電性高分子膜の諸物性は、以下の測定方法をもちいて測定した。
(1)膜厚: マイクロメーター(三豊製作所製、M−110型)およびレーザーフォーカス変位計(キーエンス製、LT−8010型)を用いて測定した。
(2)導電率: 4端子法により測定を行った。
(3)引張強度および伸び率: 以下の条件にて、オリエンテック製「テンシロンUCT−30T型」を用いて測定した。
試験片:長さ20mm幅5mm
試験片の掴み具間距離:13mm
試験速度5mm/分
試験室雰囲気:温度23℃、湿度52%RH
【実施例1】
【0051】
(本発明例1)
作用電極および対向電極として一対の白金電極(2×2cm2)と、参照電極として銀ワイヤーとを備えたオートクレーブ(サファイア窓付き、内容量96cm)に、単量体としてピロール9.60×10-4molと、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム3.84×10-3 molとを投入した(ピロール濃度:10mM、支持電解質濃度40mM)。ついでオートクレーブを密閉し、水浴により60℃に加熱した後、1,1−ジフロロエタンを内圧が6MPaになるまで導入して亜臨界状態とし、ピロールと支持電解質を溶解させた。その後、電流密度2.5mA/cm2の定電流重合法による電解重合を行った。反応終了後、作用電極の表面に析出したポリピロール膜をアセトンで洗浄し、電極の4辺をカッターで切り取って作用電極からポリピロール膜を剥離した後、真空ポンプを用いて8時間減圧乾燥し、膜厚50μmのポリピロールフィルムを得た。得られたポリピロールフィルムの導電率、引張強度および伸び率を表1に示す。
【0052】
(本発明例2〜7)
表1〜2に記載された単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は実施例1と同様の方法により亜臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として電解重合を行い、導電性高分子フィルムを作製した。得られた導電性高分子フィルムの物性は表1〜表2に記載した。
【0053】
(比較例1)
表2に記載された単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は本発明例1と同様の方法により液体の1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として電解重合を行い、導電性高分子フィルムを作製した。得られた導電性高分子フィルムの物性を表2に記載した。
【0054】
(比較例2〜3)
表3に記載された単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は本発明例1と同様の方法により超臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として電解重合を行い、導電性高分子フィルムを作製した。得られた導電性高分子フィルムの物性を表3に記載した。なお、比較例2では、支持電解質が全く溶解せず、電流が流れなかったため、ポリピロール膜を得ることができなかった。
【0055】
(比較例4)
ガラス製ビーカー型セルに単量体としてピロール4.00×10-4mol、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム1.60×10-3 molを投入し、更に、反応媒体としてアセトニトリル40mlを加えて電解溶液とした(ピロール濃度10mM、支持電解質濃度40mM)。電解溶液に、作用電極および対向電極として一対の白金電極(2×2cm2)と、参照電極として銀ワイヤーを浸漬し、セルを密閉して水浴により60℃に加熱しながら、電流密度2.5mA/cm2の定電流重合法による電解重合を行った。反応終了後、作用電極の表面に析出したポリピロール膜をアセトンで洗浄し、電極の4辺をカッターで切り取って作用電極からポリピロール膜を剥離した後、真空ポンプを用いて8時間減圧乾燥し、膜厚118μmのポリピロールフィルムを得た。得られたポリピロールフィルムの導電率、引張強度および伸び率を表4に示す。
【0056】
(比較例5〜7)
表4に記載された単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は比較例4と同様の方法により導電性高分子フィルムを作製した。なお、比較例5では、剥離後のポリピロール膜が脆く、破れてしまったため、引張強度測定および伸び率を測定することができなかった。また、比較例7(単量体としてチオフェンを使用)では、定電流重合中、電位が3V以上に上昇してしまったため重合反応を中止した。反応後の作用電極は焦げ茶色に変色し、電解溶液には茶色の粉体が沈殿しており、ポリチオフェン膜は得られなかった。得られた導電性高分子フィルムの物性は表4に記載した。
【0057】
なお、表1〜6の支持電解質の表記は、以下の通りである。
TBAPF6:ヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム
TBAClO4:過塩素酸テトラn−ブチルアンモニウム
TBACF3SO3:トリフルオロメタンスルホン酸テトラn−ブチルアンモニウム
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
本発明例1〜7は、亜臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として用いた場合の導電性高分子フィルムの製造例を示している。この結果(表1〜2参照)に示されるように、亜臨界1,1−ジフロロエタンを反応媒体とした場合、得られたポリピロール膜(本発明例1〜6)の引っ張り強度は反応圧力が高いほど、また温度が低いほど良い値を示し、20〜40MPaを越える高い値を示した。これは、通常の液体1,1−ジフルオロエタンを反応媒体に用いた場合(比較例1)と比較して5〜10倍以上高い値であった。また導電率も3〜16S/cmの値が得られており、液体1,1−ジフルオロエタンを反応媒体に用いた場合と比較して機械的強度および電気的特性に優れたポリピロール膜が得られることが確認された。更に、チオフェンを単量体とした場合(本発明例7)には70MPaを超える高い値が得られた。
【0063】
また、表3に示されるように、超臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として用いた場合は、臨界圧に近い低い圧力では支持電解質が溶けず、電流が流れないためポリピロール膜が得られなかった(比較例2)。比較例3では、圧力を上げることにより支持電解質が溶解し、ポリピロール膜を得ることができたが、得られたポリピロール膜は非常に脆く、導電率も低いものしか得られなかった。
【0064】
一方、比較例1および比較例4〜7に示されるように、通常の液体状態の1,1−ジフルオロエタンを反応媒体とした場合やアセトニトリルなどの極性溶媒を反応媒体とした場合には、厚くて脆い膜しか得られず、導電率ならびに引張強度を測定することが困難であるか、あるいは、測定できたとしても極めて低い値を示した(表4参照)。このことは、溶媒の比誘電率が高くてもそれだけでは不十分であり、亜臨界または超臨界媒体における拡散性の向上効果が極めて重要であることを示している。
【0065】
次に、本発明例および比較例で得られたポリピロール膜およびポリチオフェン膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、比較例4で、アセトニトリルを反応媒体として電解重合を行い得られたポリピロール膜には、いたるところに大きさの異なる粒塊が存在していることが確認された(図1参照)が、本発明例3で、亜臨界1,1−ジフロロエタンを反応媒体として電解重合を行い得られたポリピロール膜ではほぼ同じ大きさの粒塊が均一に並び、平滑かつ緻密な膜が得られていることが確認された(図2)。更に、本発明例7で、亜臨界1,1−ジフロロエタンを反応媒体として電解重合を行い得られたポリチオフェン膜でも、本発明例3および本発明例6と同様に、平滑かつ緻密な膜が得られていることが確認された(図3)。
【実施例2】
【0066】
ポリピロール被覆膜の製造
作用電極および対抗電極として一対の白金電極(1×1cm2)と、参照電極として銀ワイヤーとを備えたオートクレーブ(サファイア窓付き、内容量96cm)に、単量体としてピロール9.60×10-4molと、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸n−ブチルアンモニム3.84×10-3 molとを投入した(ピロール濃度:10mM、支持電解質濃度40mM)。ついでオートクレーブを密閉し、水浴により60℃に加熱した後、1,1−ジフロロエタンを内圧が15MPaになるまで導入して亜臨界状態とし、ピロールと支持電解質を溶解させた。次いで、走査速度100mV/s、参照電極に対する電位の走査幅0.5〜1.2V、走査回数60サイクルで電位走査電解重合を行い、作用電極上にポリピロール被覆膜を形成した。次に、ガラス製ビーカー型セルに支持電解質としてヘキサフルオロリン酸n−ブチルアンモニム1.60×10-3 mol、反応媒体としてアセトニトリル10mlを投入して電解溶液とし(支持電解質濃度40mM)、ポリピロール被覆膜を形成した作用電極と、対向電極として白金電極(2×2cm2)と、参照電極として銀ワイヤーを浸漬した。セルを密閉して、室温で1.0V、10分の定電位反応を行い、ドーピング処理を行った。反応終了後、得られたポリピロール被覆膜を真空ポンプで10時間減圧乾燥した。得られたポリピロール被覆膜は、膜厚9μm、導電率1.5S/cmであり、電極表面に均一に付着していることが確認された。
【実施例3】
【0067】
ポリチオフェン被覆膜の製造
(本発明例8)
作用電極として日本カーボン(株)製カーボロンフェルトGF−20−3F(1×1×0.3cm)、対向電極として白金電極(2×2cm)と、参照電極として銀ワイヤーとを備えたオートクレーブ(サファイア窓付き、内容量96cm)に、単量体としてチオフェン9.60×10−4molと、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム3.84×10−3 molとを投入した(チオフェン濃度:10mM、支持電解質濃度40mM)。ついでオートクレーブを密閉し、水浴により50℃に加熱した後、1,1−ジフロロエタンを内圧が6MPaになるまで導入して亜臨界状態とし、チオフェンと支持電解質を溶解させた。その後、電流1.0mAの定電流重合法による電解重合を行った。反応終了後作用電極をアセトニトリルに浸漬し、1時間攪拌洗浄を3回繰り返し後、一昼夜アセトニトリルに浸漬した後、真空ポンプを用いて8時間減圧乾燥した。得られたポリチオフェン被覆膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維電極の表面および内部繊維まで均一にコーティングしていることが確認された。ポリチオフェン被覆膜の膜厚を表5に示す。
【0068】
(本発明例9〜10)
表5に記載された炭素繊維電極と単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は本発明例8と同様の方法により、超臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として電解重合を行った。得られたポリチオフェン被覆膜を走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維電極の表面および内部繊維まで均一にコーティングしていることが確認された(図4及び図5参照)。また、本発明例10に使用した作用電極[日本カーボン(株)製カーボロンフェルトGF−20−5F(1×1×0.5cm)]の炭素繊維は表面に深い縦溝を有しているが、この溝部分にも粒塊のない均一な膜が形成されていることが確認された(図6及び図7参照)。ポリチオフェン被覆膜の膜厚を表5に示す。
【0069】
(比較例8)
ガラス製ビーカー型セルに単量体としてチオフェン4.00×10−4mol、支持電解質としてヘキサフルオロリン酸テトラn−ブチルアンモニム1.60×10−3 molを投入し、更に、反応媒体としてアセトニトリル40mlを加えて電解溶液とした(チオフェン濃度10mM、支持電解質濃度40mM)。電解溶液に、作用電極として日本カーボン(株)製カーボロンフェルトGF−20−3F(1×1×0.3cm)、対向電極として白金電極(2×2cm)、参照電極として銀ワイヤーを浸漬し、セルを密閉して水浴により50℃に加熱しながら、電流密度1.0mAの定電流重合法による電解重合を行った。反応終了後作用電極をアセトニトリルに浸漬し、1時間攪拌洗浄を3回繰り返し後、一昼夜アセトニトリルに浸漬した後、真空ポンプを用いて8時間減圧乾燥した。走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維電極の表面にポリチオフェン膜は確認できず、所々に粒塊が確認された(図8)。また、電極内部には膜および粒塊も存在していなかった(図9)。
【0070】
(比較例9)
表6に記載された炭素繊維電極と単量体と支持電解質、重合条件を用いたこと以外は比較例8と同様の方法によりアセトニトリルを反応媒体として電解重合を行った。走査型電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維電極の表面にポリチオフェン膜は確認できず、所々に粒塊が確認された(図10)。また、電極内部には膜および粒塊も存在していなかった(図11)。
【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
本発明例8〜10は、亜臨界1,1−ジフルオロエタンを反応媒体として用い、作用電極として炭素繊維電極のような多孔質体基材を用いた場合の導電性高分子被覆膜の製造例を示している。この結果に示されるように、亜臨界1,1−ジフロロエタンを反応媒体とした場合、炭素繊維電極内部の炭素繊維の一本一本にまでナノオーダーの膜厚で導電性高分子膜がコーティングされていた。特に、本発明例10では、炭素繊維電極に、表面に深い溝を有する炭素繊維が使用されていたが、このような複雑な表面形状を有する炭素繊維表面にも粒塊のない均一で緻密な導電性高分子膜が形成されていた。これは、反応媒体として亜臨界フルオロカーボンを反応媒体に用いることにより、高い溶解性を保持したまま拡散性を向上させることができ、炭素繊維電極のような多孔質体基材においても細孔内部や空隙にまでモノマー輸送が効率的に行われ、均一で緻密な導電性高分子膜が形成されることを示している。このことは、本発明が、多孔質体基材をはじめ、複雑な形状の基材や、微細な表面構造有する基材に高分子電解質層を形成する用途に好適に用いることができることを示しており、比表面積拡大のためエッチング処理が施されたサブマイクロオーダーの微細孔を有する金属体基材や、微粒子を焼き固めた焼結体基材などに導電性高分子を充填またはコーティングする用途にも好適に適用可能であることを示している。
【0074】
本発明によれば、電解重合反応を用いた導電性高分子膜の製造方法において、亜臨界フルオロカーボンを反応媒体に用いることにより、高い溶解性を保持したまま拡散性を向上させることができるため、より温和な条件下で均一かつ効率的に電解重合反応を行うことが可能であり、平滑かつ緻密であるとともに、電気特性および機械的強度に優れた導電性高分子膜を得ることが可能である。
【0075】
また、本発明の導電性高分子膜の製造方法を用いれば、緻密で平滑性に優れ、電気特性および機械的強度に優れた導電性高分子フィルムおよび導電性高分子被覆膜を形成することができるので、機械的強度が必要とされる用途および複雑な形状の担体に薄膜を形成する工程を要する用途に広く応用することができる。
【0076】
特に、本発明の導電性高分子膜の製造方法は、炭素繊維電極のような多孔質体基材の内部まで均一に導電性高分子膜を被覆することが可能であり、多孔質体基材をはじめ、複雑な形状の基材や、微細な表面構造を有する基材に高分子電解質層を形成する用途に特に好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の方法によれば平滑かつ緻密であるとともに電気的特性および機械的強度に優れた導電性高分子フィルムおよび導電性高分子被覆膜を得ることができる。このような導電性高分子フィルムや被覆膜は、固体電解コンデンサ、有機ELディスプレイ、ポリマー電池、太陽電池、各種センサー材料、電磁波シールド材料、帯電防止材料、人口筋肉など、幅広い分野での利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】比較例4で得られたポリピロール膜の表面の電子走査顕微鏡写真である。
【図2】本発明例3で得られたポリピロール膜の表面の電子走査顕微鏡写真である。
【図3】本発明例7で得られたポリチオフェン膜の表面の電子走査顕微鏡写真である。
【図4】本発明例9で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の表面付近の電子走査顕微鏡写真である。
【図5】本発明例9で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の断面(電極内部)の電子走査顕微鏡写真である。
【図6】本発明例10で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の表面付近の電子走査顕微鏡写真である。
【図7】本発明例10で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の断面(電極内部)の電子走査顕微鏡写真である。
【図8】比較例8で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の表面付近の電子走査顕微鏡写真である。
【図9】比較例8で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の断面(電極内部)の電子走査顕微鏡写真である。
【図10】比較例9で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の表面付近の電子走査顕微鏡写真である。
【図11】比較例9で得られたポリチオフェンを被覆した炭素繊維電極の断面(電極内部)の電子走査顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極上に導電性高分子膜を形成することを含む導電性高分子膜の製造方法。
【請求項2】
前記フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)が、炭素数1〜3のハイドロフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【請求項3】
前記フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)が、1,1−ジフルオロエタンであることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子膜の製造方法。
【請求項4】
前記単量体がピロール、チオフェンまたはそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の導電性高分子膜の製造方法。
【請求項5】
反応媒体として、臨界点より低温高圧の亜臨界フルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行うことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の導電性高分子膜の製造方法。
【請求項6】
置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極上に導電性高分子膜を形成し、形成された導電性高分子膜を剥離することにより導電性高分子膜から構成されるフィルムを得る工程を含む導電性高分子フィルムの形成方法。
【請求項7】
置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極として用いた導電性基材表面に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成する工程を含む導電性高分子被覆膜の形成方法。
【請求項8】
置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合を行い、作用電極として用いた導電性の多孔質体基材の表面および細孔内部に導電性高分子膜から構成される高分子電解質層を形成する工程を含む導電性高分子膜の形成方法。
【請求項9】
導電性の多孔質体基材が、炭素繊維を含む繊維質基材であることを特徴とする請求項8に記載の導電性高分子膜の形成方法。
【請求項10】
導電性の多孔質体基材が、エッチング処理が施された金属体又は微粒子を焼き固めた焼結体であって、その表面に誘電体酸化被膜と予備導電層が順に形成された金属体基材であることを特徴とする請求項8に記載の導電性高分子膜の形成方法。
【請求項11】
弁作用金属からなる金属体の表面を酸化して誘電体酸化被膜を形成させる工程と、該誘電体酸化被膜を形成させた弁作用金属表面に予備導電層を形成させる工程と、該予備導電層を形成させた弁作用金属を作用電極として、置換もしくは非置換のπ共役系複素環式化合物、共役系芳香族化合物およびヘテロ原子含有共役系芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種の単量体を、支持電解質の存在下に、反応媒体として亜臨界状態のフルオロカーボン(フルオロホルムを除く)を含む電解媒体中で電解重合させることにより、該予備導電層上に導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる工程とを有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−46033(P2007−46033A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368153(P2005−368153)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】