説明

導電膜の製造方法及び導電膜

【課題】金属ナノワイヤの配線手法を簡易なものとし、導電膜の製造コストを低減することができ、大面積でも低抵抗で抵抗の均一性に優れ、かつ、光透過性が高く、軽量で柔軟性に富む導電膜の製造方法ならびにこの製造方法により得られた導電膜を提供する。
【解決手段】 透明基材上に導電性パターンを有する導電膜を製造する方法であって、
(a)透明基材表面に導電性繊維と導電性ポリマーとを含有する分散液を塗工する工程、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、
を有することを特徴とする、導電膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜の製造方法及び導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明導電膜としては、金、銀、白金、銅などの各種金属薄膜をはじめ、錫や亜鉛をドープした酸化インジウム系(ITO、IZO)、アルミニウムやガリウムをドープした酸化亜鉛系(AZO、GZO)、フッ素やアンチモンをドープした酸化錫系(FTO、ATO)、等の金属酸化物膜が一般的に用いられている。また、透明導電膜は低抵抗を有し、かつ高透過率を有するものが求められている。しかし、上記の導電性酸化物を用いて透明導電膜を作製した場合、スパッタリング法などの真空プロセスを使用することで透明導電膜を形成するため、低抵抗を得るためには、厚く均一な膜を形成しなければならず、その結果、光透過率の減少に加えて、コストの高騰等の問題が生じ、特にフィルム上での低抵抗化には、限界があった。
その改善策として、近年、可視光領域(400nm〜700nm)で透明な導電性材料である金属ナノワイヤに焦点があてられている。金属ナノワイヤは導電性であるため、フィルム等の基材表面に塗布することで、導電層を形成することができるため、基材の表面抵抗を低減させることができる。また、金属ナノワイヤの直径が200nm以下と小さいため、可視光領域での光透過性が高く、金属ナノワイヤとして銀ナノワイヤを用いることで、銀本来の高い導電性と合わせて、良好な導電性と透明性を併せ持つ、金属酸化物膜に代わる透明導電膜としての応用が期待されている。
【0003】
金属ナノワイヤを用いた導電層は、金属ナノワイヤ含有組成物を基材表面に塗布して形成しており、導電ネットワークは金属ナノワイヤ同士が接触することにより形成されるため、直線状の金属ナノワイヤの場合には、うまく絡ませて導電ネットワークを形成することが困難である。また、金属ナノワイヤの凝集防止を図るため、金属ナノワイヤは分散剤等の有機物で被覆されており、金属ナノワイヤ含有組成物を基材表面に塗布した後、アニール処理やプレス処理を施すことにより、金属ナノワイヤ同士の接触を促進させて、導電性を高めているのが現状である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、金属ナノワイヤ以外の導電性材料に関しては、上記の問題を解決するために、以下に挙げるような、開口部分を有する金属メッシュを利用して導電性と透明性を両立しようとする種々の方法がこれまで提案されている。
(1)銀塩感光材料を用いて導電性金属パターンを形成する方法
特許文献2には透明支持体上に設けられた銀塩感光層を露光して現像することによって金属細線メッシュパターンを形成する方法が提案されている。
(2)導電性インキをパターン印刷する方法
特許文献3又は4には金属微粒子を含む導電性インキを用い、印刷によりメッシュパターンを形成する方法が提案されている。また、特許文献5には、導電性ナノ粒子を含む金属ナノインクからなるパターン状ナノインク層を基材上に印刷により形成した後、前記パターン状ナノインク層の周囲にレーザー光を照射して、前記パターン状ナノインク層を基材の表面に定着させて導電性パターンを形成する方法が提案されている。
(3)導電性ペーストをパターン印刷する方法
特許文献6には導電性粒子を含有させた導電性ペーストをスクリーン印刷等によりパターン形成する方法が提案されている。
(4)基材上に網目状金属微粒子積層構造を設ける方法
特許文献7には、特定な条件の表面ぬれ張力である基板に、自己組織化する金属微粒子溶液を特定な条件で塗布することによって、当該基板上に網目状の金属微粒子積層構造を
形成する方法が提案されている。
金属ナノワイヤに関しても、上記のように導電部をパターン化することで、導電性と透明性を両立させた導電層の形成が可能である。例えば、特許文献1には銀ナノワイヤをパターニングした微細メッシュからなる透明電極が開示されている。また、特許文献8には、銀ナノワイヤを用いて、導電層パターンを印刷法により直接形成する方法について提案されている。さらに、非特許文献1には、ナノワイヤインクを用いることで、銀ナノワイヤメッシュ構造をフィルム上に形成した例が掲載されている。
【0005】
しかし、前述した従来の技術には次のような問題点がある。
特許文献1では、特に銀を用いた金属メッシュに関して、銀本来の高い導電率により、良好な導電性と透明性を両立することができる。しかし、金属メッシュ部には高い導電性を有しているが、メッシュ構造であるため、光を透過する部分には導電性を有していないという欠点がある。
また、特許文献8では、グラビア印刷法でパターンを形成することにより、簡便なパターニング性および連続生産性に優れるため、安価に導電膜を作成することが可能であるが、ナノワイヤの特性を活かした微細なパターンの形成には至っておらず、また、配線密度を増加させる方法について、詳細に記載されていない。同様に、非特許文献1に関しても微細なパターンの形成には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−505358号公報
【特許文献2】特開2010−003667号公報
【特許文献3】特開2009−016570号公報
【特許文献4】特開2009−140788号公報
【特許文献5】特開2010−043346号公報
【特許文献6】特開2009−176608号公報
【特許文献7】特開2009−016700号公報
【特許文献8】特開2010−073322号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「日経エレクトロニクス」、日経BP社、2009年8月10日号,p.64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属ナノワイヤの配線手法を簡易なものとし、導電膜の製造コストを低減することができ、大面積でも低抵抗で抵抗の均一性に優れ、かつ、光透過性が高く、軽量で柔軟性に富む導電膜の製造方法ならびにこの製造方法により得られた導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(11)により達成される。
(1)透明基材上に導電性パターンを有する導電膜を製造する方法であって、
(a)透明基材表面に導電性繊維と導電性ポリマーとを含有する分散液を塗工する工程、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、
を有することを特徴とする、導電膜の製造方法。
(2)上記鋳型の凹凸形状を構成する凸部先端部は、尖塔形状を有するものである上記(
1)に記載の導電膜の製造方法。
(3)上記鋳型の凹凸形状を構成する凸部先端部は、弾性体からなるものである上記(1)又は(2)に記載の導電膜の製造方法。
(4)上記弾性体は低表面エネルギー重合体物質である上記(3)に記載の導電膜の製造方法。
(5)上記低表面エネルギー重合体物質は、25mJ/m以下の表面エネルギーを有する上記(4)に記載の導電膜の製造方法。
(6)上記低表面エネルギー重合体物質は、ポリジメチルシロキサンである上記(4)又は(5)に記載の導電膜の製造方法。
(7)上記(b)工程が、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接後、さらに鋳型を押圧して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、である上記(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の導電膜の製造方法。
(8)上記導電性繊維は、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
(9)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載された製造方法により製造されたものである導電膜。
(10)上記導電膜は、導電性パターンの幅が100nm〜10μmである上記(9)に記載の導電膜。
(11)上記導電膜は、隣接する導電性パターン間隔が1〜100μmである上記(9)又は(10)に記載の導電膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、透明基材上に、導電パターンを有し、低抵抗でかつ光透過性が高い透明導電層を、容易かつ安価に作製することができる。
本発明により、有機発光素子、無機電界発光素子、液晶表示素子、電子ペーパー、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル等の各種分野へ好ましく適用可能な導電膜とその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】鋳型と透明基材およびナノワイヤ分散液の配置を示す概略図(側断面図)である。
【図2】鋳型を透明基材に当接した際の概念図(側断面図)である。
【図3】鋳型を押込むことで、弾性体が変形した際の概念図(側断面図)である。
【図4】鋳型をさらに押込んだ際の概念図(側断面図)である。
【図5】ナノワイヤ分散液を加熱した際の概念図(側断面図)である。
【図6】鋳型を透明基板より持ち上げた際の概念図(側断面図)である。
【図7】弾性体が元の形状に戻った際の概念図(側断面図)である。
【図8】鋳型を透明基板より引き離した際の概念図(側断面図)である。
【図9】導電性パターンが形成された際の概念図(側断面図)である。
【図10】実施例で用いた鋳型の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例で作製された導電膜のレーザー顕微鏡写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態等について詳細な説明をする。
【0013】
〔導電性繊維〕
本発明に用いられる導電性繊維とは、導電性を有し、かつ繊維長が繊維径と比較して十
分に長いものであり、繊維長と繊維径の比であるアスペクト比(=繊維長/繊維径)の値が10以上、好ましくは30以上のものを指す。
導電性繊維としては、例えば、金属酸化物繊維、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどがあり、形態としては、ファイバー状、チューブ状、等のものがある。本発明において用いる導電性繊維としては、繊維径が200nm以下であることが好ましく、かつ導電性の観点から金属ナノイワイヤもしくはカーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも一種を含む導電性繊維が好ましい。また、金属ナノワイヤ群から選択する場合には、貴金属元素(例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム)及び鉄、銅、コバルト、錫からなる群に属する少なくとも一種の金属を含むことが好ましく、導電性およびコストの観点より、銀により構成される金属ナノワイヤがより好ましい。
【0014】
〔導電性ポリマー〕
本発明に用いられる導電性ポリマーとしては特に制限はないが、π共役系高分子が好ましく、例えば、ポリアジン、ポリアズレン系、ポリアセチレン系、ポリアセン系、ポリアニリン系、ポリ(イソチアナフテン)系、ポリインドール系、ポリエチレンジオキシチオフェン系、ポリカルバゾール系、ポリジアセチレン、ポリチアジル系、ポリチオフェン系、ポリピリジルビニリン、ポリピリダジン系、ポリピロール系、ポリ(フェニルアセチレン)系、ポリフェニレンサルファイド、ポリフラン系、ポリ(フルオレン)、ポリ(アリーレンエチニレン)、ポリ(ジアセチレン)、ポリ(チエニレンビニレン)、ポリ(パラフェニレン)系、ポリ(パラフェニレンオキシド)、ポリ(パラフェニレンサルファイド)系、ポリ(パラフェニレンビニレン)系、等の導電性ポリマーが利用することができる。中でも、導電性、透明性の観点からポリピロール系やポリエチレンジオキシチオフェン系、ポリアニリン系がより好ましい。
【0015】
〔分散液〕
本発明で用いられる分散液は、上記導電性繊維と導電性ポリマーとを少なくとも1種類ずつ含有するものである。
分散液は、導電性と透明性を両立できる範囲で、添加剤などの第三成分を配合してもよい。第三成分としては、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などを含有することができる。
【0016】
〔透明基材〕
本発明に用いられる透明基材としてはガラスおよびプラスチックを用いることができる。
ここで、本発明において、「透明」とは、JIS K7361−1(ISO 1346
8−1に準拠)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法−」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が70%以上であることをいう。基材の種類としては特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン(PS)樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド(PA)樹脂フィルム、ポリイミド(PI)樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、これらの透明基材を用いて導電膜を作製するにあたり、可視域の波長(400〜700nm)における全光線透過率が80%以上である
樹脂フィルムであれば、本発明に係る導電膜に好ましく適用することができる。
中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレ
フタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0017】
〔鋳型〕
本発明において使用する鋳型は、規則的な凹凸形状を有しており、その凸部先端部は尖塔形状であることが好ましい。尖塔形状とは、先端形状(頂部)が尖っている形状全般を指し、例えば、円錐形状や四角錐(ピラミッド)形状などの錐体形状、V型畝状連続体、が含まれる。さらに、錐体形状のような側面に直線形状を有したものではなく、側面に曲線形状を有した形状でもよい。
上記鋳型の凹凸形状を構成する凸部先端部は、弾性体からなるものであることが好ましい。これにより、力を加えることで変形させることができ、凸部先端部の変形時に分散液を排斥する機構を付与することができるため、効率よく鋳型の凹部に分散液を配置することができる。さらに、弾性体であることから、押圧力を除いた際に元の形状に戻ることが可能であるため、鋳型は再度使用できる。
また、上記弾性体は、導電性繊維を含有する分散液や透明基材の表面張力より低い表面エネルギーを有する低表面エネルギー重合体物質であることが好ましい。具体的には、低表面エネルギー重合体物質の表面エネルギーは40mJ/m以下がよく、好ましくは25mJ/m以下がよい。これにより、鋳型を透明基材から離す際に、鋳型と透明基材の間に形成される構造体が鋳型側に付着することを防止でき、かつ、透明基材からの構造体の剥離を防ぐことができる。
このような低表面エネルギーを有する重合体物質としては、例えば、アクリレート系、シリコーン材料、フッ素化エポキシ樹脂、フッ素化熱可塑性エラストマー、フルオロオレフィン系、などが挙げられる。中でも、弾性特性の面から、シリコーン材料であるポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)が好ましい。
【0018】
〔導電膜の製造方法〕
本発明の導電膜の製造方法は、透明基材上に導電性パターンを有する導電膜を製造する方法であって、
(a)透明基材表面に導電性繊維と導電性ポリマーとを含有する分散液を塗工する工程、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、
を有することを特徴とする。
【0019】
以下、透明導電膜の製造方法に関して、図面を用いて説明する。なお、説明中では導電性繊維としてナノワイヤを用い、かつ、鋳型の凸部先端部が四角錐形状を有する弾性体からなるものである場合について説明する。
図1は鋳型と透明基材およびナノワイヤ分散液の配置を示す概略図である。ナノワイヤ分散液はあらかじめバーコート等の方法により塗工し、透明基材上にナノワイヤをランダムに配置させることができる。塗工時の膜厚は、鋳型の形状およびサイズにより決定する。図1の配置から、鋳型を当接し(図2)、圧力を付与することで、鋳型の凸部先端に設けられた尖塔形状を有する弾性体部分が微変形し、ナノワイヤ分散液を鋳型の凹部に選択的に排斥する(図3)。その後、さらに押圧することで、鋳型の凸部先端に設けられた弾性体部分がさらに変形し、ナノワイヤ分散液を完全に凹部に閉じ込め、ナノワイヤ構造体を
作製する(図4)。押圧後、場合によっては加熱処理し、ナノワイヤ構造体を硬化させた後(図5)、鋳型を徐々に引き上げる(図6、7、8)ことで、ナノワイヤ構造体が透明基材上に形成される(図9)。鋳型を引き上げる際、図7及び図8のように、鋳型の凸部は弾性体であることから、形状が自己復元され、鋳型は連続して使用することができる。以上の方法を用いることにより、所定の位置に配置が困難であった導電性繊維を、鋳型の形状を利用することで所定の位置に配置が可能となり、導電性繊維による任意のメッシュ形状やストライプ形状が容易に作製可能となる。また、印刷法を利用したナノワイヤインクを用いることで形成した、メッシュ形状(特許文献8及び非特許文献1、参照)と比較して、よりアスペクト比が高い長繊維のパターニングが可能である。
【0020】
〔透明導電層〕
本発明によって提供される導電膜において、透明基材上に形成された透明導電層は、導電性繊維と導電性高分子から構成され、導電性繊維及び導電性高分子を含む分散液を用い、トランスファープリント法によって導電性繊維パターンを形成することを特徴とする。
本発明において用いるトランスファープリント法は、ソフトリソグラフィーに分類することができ、鋳型に形成した凹部に転写物を充填し、充填した転写物を基材上に転写する従来のマイクロトランスファーモールディング(μTM)法に類似したものである。従来の方法では、本発明に用いられる導電性繊維を鋳型の凹部に選択的に充填することが困難であった。本発明では、鋳型の凸部の先端に導電性繊維を排斥させる機構を付与させることによって、導電性繊維を鋳型の凹部に選択的に配置させることができる。
また、透明性すなわち光透過性の観点からは、導電性パターンの線幅は細いほうが、また開口率は大きいほうが好ましい。具体的には、線幅は100nm〜10μmの範囲で、10μm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。隣接する導電性パターン間隔は1〜100μmの範囲で、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましい。これらの大きさは鋳型の凹部のピッチおよび線幅を変更することによって制御できる。
大面積に連続的にパターニングする際には、印刷形態をとることが可能であり、尖塔形状を有するロール弾性鋳型などを用いることで、転写を行うことができる。
【0021】
〔導電膜〕
次に、本発明の導電膜について説明する。
本発明の導電膜は、上記本発明の導電膜の製造方法により製造されたものであることを特徴とする。
本発明の導電膜の厚さには特に制限はなく、目的に応じて適宜設定することができるが、一般的に導電パターンの形成部分が10μm以下であることが好ましく、厚さが薄くなるほど透明性が向上するためより好ましい。
本発明の透明導電性フィルムの全光線透過率は、70%以上が好ましく、80%以上であることがより好ましい。全光透過率は、分光光度計やヘイズメーター等を用いた公知の方法に従って測定することができる。
本発明の透明導電性フィルムにおける電気抵抗値としては、表面抵抗率として10Ω/□以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることがより好ましく、10Ω/□以下であることが特に好ましい。表面抵抗率は、例えば、JIS K6911、ASTM D257、IEC 60093等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することもできる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を具体的に示すため、実施例を挙げる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.鋳型の作製
ニッケル合金上に切削加工によって作製したピラミッド形状体を、厚さが0.5mmのポリエーテルサルフォン(スミライト FS−1300、住友ベークライト社製、以下、
PESと略記する)基板に試験用ナノインプリント装置(NanoimPro Type510
、ナノニクス社製)を用いて熱転写した(250℃、1min)。
その後、逆ピラミッド形状体が形成されたPES基板上にPDMS(SYLGARD 184、東レダウコーニング社製)を流し込み、硬化させたのち(80℃、20min)、離型することで、ピラミッド形状体が形成されたPDMSシートを得、これを鋳型とした。
PDMSシート上の形状は、電界放射型走査電子顕微鏡(JSM−7401F、日本電子社製)を用いて観察した。観察結果を図10に示す。また、PDMSシートの表面エネルギーは、型が形成されていないPDMS平滑面部分を用いて、自動接触角計(DM−500、協和界面科学社製)により見積もった結果、12.2mJ/mであった(算出方法は例えば、下記文献参照)。一般的に、使用する透明基材の表面エネルギーは約40mJ/mであることから、本発明において鋳型を透明基材から離す際に、鋳型と透明基材の間に形成される構造体が鋳型側に付着することを防止できる。(文献:C.J.van
Oss,The Properties of Water and their Role in Colloidal and Biological Systems,Interface Sci. Technol.,2008,16,p.13−30.)
【0023】
2.導電膜の作製
<実施例>
2.1 導電膜αの作製
(1)銀ナノワイヤ分散液の調製
銀ナノワイヤ溶液(ClaearOhm、Cambrios Technologies Corp.製)とポリエチレンジオキシチオフェン系の導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS、Clevio
s FE、H.C.Starck社製)およびイソプロピルアルコールを1:2:1で配合し、攪拌したものを銀ナノワイヤ分散液αとした。また、使用した銀ナノワイヤの線径は約100nm、アスペクト比は90〜350であった。
(2)塗工、プレス
得られた銀ナノワイヤ分散液αを、厚さが100μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(コスモシャイン A4100、東洋紡績社製、以下、PETと略記する)フィルムに滴下し、これをナノインプリント装置の下型に真空吸着させた。また、上型には、作製した鋳型を真空吸着させて取り付けた。また、使用したPETフィルムの表面エネルギーは43.2mJ/mであった。フィルムおよび鋳型を取り付けた後、ナノインプリント装置を用いて1.6MPaの圧力をかけることでプレスした。その際、ワークの移動速度を0.005mm・s−1に設定した。その後、さらに2.3MPaまで圧力を上昇させ、加圧後80℃まで上型および下型を加熱した(2min)。所定の時間が経過した後、常温まで冷却し、徐々に減圧して、導電膜と鋳型を分離した。
(3)乾燥
プレスし、導電膜が積層されたPETフィルムを110℃の乾燥機内で乾燥させ(2min)、取り出したものを導電膜αとした。
【0024】
<比較例>
2.2 導電膜βの作製
比較例として、導電膜αで用いた銀ナノワイヤ分散液α中に含まれる銀ナノワイヤ量と同等の銀ナノワイヤを含む分散液βを調製し、プレスを行わずに塗工のみ行った際に得られる導電膜βを作製する。本発明である導電膜αと導電膜βを比較することで、パターニングの有効性を確認する。
(1)銀ナノワイヤ分散液の調製
銀ナノワイヤ溶液と希釈剤(ClearOhm Diluent−A AQ、Cambrios Technologies Corp.製)およびイソプロピルアルコールを1:2:1で配合し、攪拌したものを銀ナノワイヤ分散液βとした。また、銀ナノワイヤ溶液は銀ナノワイヤ分散液αと同様のものを用いた。
(2)塗工
銀ナノワイヤ分散液βをPETフィルム上にバーコータ(K202 Control Coater、RK Print Coat Instruments Ltd.製)に取り付けたフィルムアプリケータ(MODEL 360、ERICHSEN)を用いて、ウェット膜圧が60μmになるように塗工した。
(3)乾燥
銀ナノワイヤ分散液βが塗工されたPETフィルムを110℃の乾燥機内で乾燥させ(2min)、取り出したものを導電膜βとした。
【0025】
3.導電膜の評価方法
下記の方法に従って、導電膜の透過率および表面抵抗を測定し、表面観察結果を合わせて、導電膜を評価した。
(1)透過率の測定
透過率は、紫外可視分光光度計(UV−mini 1240,島津製作所社製)を用いて、光線波長が550nmにおける導電膜部の光線透過率(%)を測定した。
(2)表面抵抗の測定
表面抵抗は、表面抵抗計(RCHEK MODEL#RC2175、Electronic Design to Market,Inc.製)を用いて、導電膜部の表面抵抗(Ω/□)を四端子法によって測定した。なお、本表面抵抗計の測定範囲は0〜19990Ω/□である。
(3)導電膜表面の観察
導電膜の表面は、共焦点レーザー顕微鏡(VK−9710、KEYENCE社製)を用いて観察し、格子の大きさは解析ソフトウェア(VK−Analyzer、KEYENCE社製)を用いて測長した。
4.導電膜の評価結果
以上によって得られた透明導電膜の評価結果を表1に示す。また、図11に作製した導電膜の表面観察結果を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明により、表1に示した性能を有する透明導電膜が得られた。また、導電膜αのレーザー顕微鏡観察結果を図11に示す。これより、基材上にパターン幅1.5μm、パターン間隔13.5μm、また、格子部の高さが500〜800nmを有する、銀ナノワイヤ/導電性高分子の格子パターンが得られていることを確認した。さらに、銀ナノワイヤ塗工量を同等にした導電膜βにおいては、使用した表面抵抗計では抵抗値を表示しなかった(測定範囲外)。これは、銀ナノワイヤのネットワークを組むために十分な銀ナノワイヤの量がなかったことに起因する。
以上のようにして、パターニングする事により、導電膜上に使用する銀ナノワイヤの量を抑えながら、導電膜として必要な性能を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の導電膜の製造方法により、低抵抗かつ高透過率であり、配線ピッチが100μm以下の導電膜を効率よく製造することができる。
本発明の製造方法で得られた導電膜は、太陽電池用透明導電膜をはじめ、有機発光素子、無機電界発光素子、液晶表示素子、などの細線パターンが有効である導電膜に有用に適用できるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 鋳型
2 ナノワイヤ分散液
3 透明基材
4 弾性体
5 導電性パターン
6 ホットプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に導電性パターンを有する導電膜を製造する方法であって、
(a)透明基材表面に導電性繊維と導電性ポリマーとを含有する分散液を塗工する工程、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、
を有することを特徴とする、導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記鋳型の凹凸形状を構成する凸部先端部は、尖塔形状を有するものである請求項1に記載の導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記鋳型の凹凸形状を構成する凸部先端部は、弾性体からなるものである請求項1又は2に記載の導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記弾性体は低表面エネルギー重合体物質である請求項3に記載の導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記低表面エネルギー重合体物質は、25mJ/m以下の表面エネルギーを有する請求項4に記載の導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記低表面エネルギー重合体物質は、ポリジメチルシロキサンである請求項4又は5に記載の導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記(b)工程が、(b)規則的な凹凸形状を有する鋳型を分散液側から透明基材表面に当接後、さらに鋳型を押圧して、透明基材と鋳型の凹部との間に形成される空間に導電性繊維を含有する導電性パターンを形成する工程、である請求項1ないし6のいずれか1
項に記載の導電膜の製造方法。
【請求項8】
前記導電性繊維は、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーから選ばれる少なくとも1種である請求項1ないし7のいずれかに記載の導電膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載された製造方法により製造されたものである導電膜。
【請求項10】
前記導電膜は、導電性パターンの幅が100nm〜10μmである請求項9に記載の導電膜。
【請求項11】
前記導電膜は、隣接する導電性パターン間隔が1〜100μmである請求項9又は10に記載の導電膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−9239(P2012−9239A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143309(P2010−143309)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】