説明

少なくとも一方の面に耐引掻性架橋コーティングを施したロールアップポリエステルフィルム、及び、そのポリエステルフィルムの生成方法

本発明は、少なくとも片面に耐引掻性架橋コーティングを備えたポリエステルフィルムに関し、好ましくはロールアップフィルムに関する。本発明の目的は、製造が簡単で、経済的な、ポリエステル基材に完璧に付着する耐摩耗層でコーティングされたポリエステルフィルムを提供することである。この目的を達成するため、ポリエステルフィルムに適用される架橋ハードコーティングは、以下のi〜vを含む。i.20重量%〜99重量%の、置換プロトン基を含む(メタ)アクリル酸の少なくとも一つのエステルおよび/またはアミド;ii.20重量%〜99重量%のアクリル樹脂;iii.1%〜40%のポリアルキレンジアクリレート;iv.0〜50%の、ベンゾフェノンファミリーの少なくとも一つの誘導体;v.0〜5%の少なくとも一つの光開始剤。本発明は、耐摩耗硬質層でコーティングされたこのポリエステルフィルムを得るための方法にも関係する。本発明は、ポリエステル/金属(スチール)シートコラミネートの製造におけるポリエステルフィルムの使用にも関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リールに巻き取ることができ、耐引掻性コーティングが施され、場合によっては例えばUVに対する劣化耐性といった他の特性を有する、新規なポリエステルフィルムに関する。
【0002】
本発明は、ポリエステルフィルムに関し、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)(例えば二軸配向したもの)や、ポリエチレンナフタレート(PEN)などの芳香族ポリエステルフィルムに関する。これらのポリエステルフィルムは、熱安定性、寸法安定性、耐薬品性および比較的高い表面エネルギーという、優れた特性を有することが広く知られており、それゆえに、非常に幅広く使用されている。例えば、金属積層シート用のフィルム、ガラススクリーン表面に貼り付けるためのフィルム、および、例えばPETのフィルムとして多種多様な用途に対応した保護フィルムとして用いられている。
【0003】
ポリエステルのフィルム、特にPETのフィルムは、特に包装材において、及び、工業製品(例えば電気絶縁、電子部品および保護フィルム)において、幅広く使用されている。
【背景技術】
【0004】
金属基材または金属シートへのポリエステルフィルムの共積層は現在開発中である。ポリエステルフィルム/金属(鋼鉄)シート積層品は、家庭用電気器具、ドア、化粧パネルもしくはホワイトボード、または屋外建造物の建築要素(屋根、窓)や輸送手段、すなわち列車、ボートもしくは車に組み込まれる金属パネルの保護にとって、特に有用である。この製品では、ポリエステルフィルムが金属を引掻きから保護するためのフィルムとして役立つ。耐擦りきず性(scuff resistance)および耐引掻性(scratch resistance)というこれらの特性は、表面硬度(または耐摩耗性(abrasion resistance))に対応する。
これらの特性を得るために、ポリエステルフィルム自体の構造を変更すること、および/またはポリエステルフィルムと1層以上のポリマー層とを生成させること、および/またはポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にハードコーティングを施すことが提案されている。このハードコーティングは、当然、引掻きまたは摩耗に対してより強い耐性を有するが、粘着性、表面トポロジー、気体透過性、印刷適性および不透明性にも影響を及ぼし得る。
【0005】
アウトドア製品においては、そのポリエステルフィルムが防汚性を有することが、とりわけ望ましく、落書きハジキ性を有することも好適である。現在、ハードコーティングが施された既知のポリエステルフィルムの大半については、耐摩耗性が改善されているが、非粘着性は、落書きハジキ性を生じるほど十分なレベルには達していない。
さらに、1つ以上の硬質層でコーティングされたこれらの既知ポリエステルフィルムには、次に挙げる技術的特徴の一部または全部に関して改善の余地がある。
・耐摩耗性および/または耐擦りきず性および/または耐引掻性(硬度)、
・ポリエステル基材フィルム、例えばPET製フィルムへのハードコーティングの付着性、
・透明性および反射防止性、
・抗UV性の開発、
・ポリエステルフィルムを配向させ、位置決めし、冷却する工程の前および/または後に、ポリエステルフィルムを製造する方法の範囲内で、ハードコーティングを生成させることの実現。
【0006】
ポリエステルフィルム、特にPETフィルム上にハードコーティングを施す技術を例示するために、以下にいくつかの特許文献を挙げる。
【0007】
特許文献1(米国特許第4310600号)には、前もってコロナ処理に付した後、まず最初に熱硬化性ラテックスの層でコーティングされ、次にUV下で架橋することによって得られるシリコーン層でコーティングされた、二軸配向したポリエステルフィルムが記載されている。
【0008】
特許文献2(米国特許第5415942号)には、一方の面が付着性フィルムでコーティングされ、他方の面が架橋性アクリルポリマーを含む一次コーティングでコーティングされていて、その上に耐摩耗性シリコーン層が適用される、耐摩耗性ポリエステルフィルムが記載されている。ポリアクリル一次コーティングは、例えば63%のメチルメタクリレートと32%のエチルアクリレートと3%のメタクリル酸と2%の2−ヒドロキシエチルアクリレートとを含み、架橋剤はメラミン−ホルムアルデヒドタイプである。耐摩耗性シリコーンコーティングは10〜70%のシリカと20%までの重合エポキシシランと30〜90重量%のビニルフェニルグリシドキシプロピル官能基またはメタクリルオキシプロピル官能基を持つ重合シラノールとを含む。
【0009】
特許文献3(欧州特許第1418197号)には、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂とワックスとの混合物から形成されるコーティング層でコーティングされた、芳香族ポリエステルフィルムを含む二軸配向したポリエステルフィルムが開示されている。ポリエステル樹脂は、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、部分硫酸化フタル酸などの酸と、エチレングリコールタイプのポリオール成分、例えば1,4−ブタンジオール−ジエチレングリコールなどとから、減圧下での高温重縮合によって得られる。アクリル樹脂は、50モル%のメチルメタクリレートと40モル%のエチルアクリレートと5モル%のN−メチロールアクリルアミドと5モル%の2−ヒドロキシエチルメタクリレートとを含むアクリルコポリマーであり、重合開始剤を使った重合(60〜70℃で3時間)によって得られる。ワックスは例えばカルナウバワックスまたはパラフィンである。この層は不活性シリカ粒子も含有することができる。
【0010】
特許文献4(国際公開第03/072643号)には、印刷可能であり耐摩耗性を有する二軸配向ポリエステルフィルムが記載されている。このフィルムは、コロイド粒子(例えばシリカのコロイド粒子)を含有する架橋メラミン層でコーティングされている。その架橋メラミン層は、リン酸をベースとする触媒を使って架橋することができるメラミン−ホルムアルデヒド樹脂(場合によってはシランを含有するもの)を含む。
特許文献5(国際公開第2006/069047号)には、ペルオキシドとメラミンをベースとする架橋剤とを含む架橋系を使って得られる耐引掻性コーティングがその上に施されるポリエステルフィルムが記載されている。国際公開第2006/069047号による熱架橋性ハードコーティングの組成物は、六官能性脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー結合剤と、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートタイプのモノマー型希釈剤と、1,1−ジ(tertブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンタイプのペルオキシド熱開始剤と、ヘキサメトキシメチル−メラミンタイプのメラミン架橋剤と、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランタイプのシランと、HF86タイプの置換有機シランおよび/またはPC850タイプのシランエステル混合物によって構成される付着促進剤とを含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4310600号
【特許文献2】米国特許第5415942号
【特許文献3】欧州特許第1418197号
【特許文献4】国際公開第03/072643号
【特許文献5】国際公開第2006/069047号
【特許文献6】米国特許第4041206号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0408042号
【特許文献8】欧州特許第0515096号
【特許文献9】米国特許第6593406号
【特許文献10】欧州特許出願公開第0604075号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Macromolecular Symposia,1999,148,311−319
【非特許文献2】Additives for plastics on book,John Murphy,2nd Edition 2001,Elsevier Advanced Technology
【非特許文献3】Food Science and Nutrition,1999,39(5),457−477頁
【非特許文献4】G.L.Booth,15th Annual IGC European Coating System Conferences,1990,アムステルダム
【非特許文献5】ASTM D1044:「表面摩耗に対する透明プラスチック材料の耐性」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このタイプのコーティングは複雑すぎて、米国特許第4310600号の場合のように数層の製品では生成させることができないか、家庭用電気器具の前面の保護にとって、または屋外応用において、十分な硬度をもたらさない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況にあって、本発明の本質的目的の一つは、少なくとも一方の面に引掻きに対して、すなわち摩耗に対して、完璧に耐性のある架橋ハードコーティングを備えるポリエステルフィルム、特にリールに巻き取ることができるポリエステルフィルムであって、さらに、経済的であり、非粘着性(落書きハジキ性)を有し、凝集性を有し、すなわちポリエステル基材と完全に一体化した耐引掻性コーティングが施されており、場合によっては透明および/または反射防止性および/または抗UV性を有するフィルムを提供することである。
【0015】
本発明のもう一つの本質的目的は、工業的に容易に製造することができる架橋耐引掻性ハードコーティング、特に、ポリエステルフィルムを配向させ、位置決めし、冷却する工程の前および/または後に通常のポリエステルフィルム製造プロセス内で組み込むことができる架橋耐引掻性ハードコーティングを、少なくとも一方の面に備える、ロールアップポリエステルフィルムを提供することである。
【0016】
本発明のもう一つの本質的目的は、ハードコーティングが施された既知のポリエステルフィルムの有利な代替品になるであろう、架橋耐引掻性ハードコーティングを少なくとも一方の面に備えるロールアップポリエステルフィルムであって、特にメラミン系架橋剤を含有せず、ウレタンをベースとする結合剤も、ワックスも含有しないロールアップポリエステルフィルムを提供することである。
【0017】
本発明のもう一つの本質的目的は、少なくとも一方の面に架橋耐引掻性ハードコーティングを備える、好ましくはロールアップタイプの、ポリエステルフィルムであって、金属のシート(例えば鋼鉄製シート)との積層品を製造するのにとりわけ適したフィルムを提供することである。
【0018】
本発明のもう一つの本質的目的は、耐引掻性を有し、上記の目的を満たす架橋ハードコーティングを、少なくとも一方の面に備えるロールアップポリエステルフィルムを得るための方法を提供することである。
【0019】
本発明のもう一つの目的は、耐引掻性架橋ハードコーティングが施された、好ましくはロールアップタイプの、ポリエステルフィルムを得るための方法であって、実施が容易であり、化学線活性化によって、好ましくはUV下で、架橋するための技術を使用する方法を提供することである。
【0020】
これらの目的は、とりわけ、第1態様において、耐引掻性であって、次に挙げる構成要素i〜vをベースとする、化学線照射下で架橋されるコーティングを、少なくとも一方の面に備える、好ましくはロールアップタイプの、ポリエステルフィルムに関する、本発明によって達成される:
i.20〜99重量%の、置換プロトン基を持つ(メタ)アクリル酸の少なくとも一つのエステルおよび/またはアミド、
好ましくは(メタ)アクリル酸と置換プロトン基を持つ少なくとも一つの脂肪族多価アルコールとの少なくとも一つのエステル、
さらに好ましくは、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−アクリロイルオキシメチル−2−ヒドロキシメチルプロパン、2−メタクリロイルオキシメチル−2−ヒドロキシメチルプロパン、ペンタエリトリトールモノアクリレート、ペンタエリトリトールビスアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールモノメタクリレート、ペンタエリトリトールビスメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールジメタクリレート、ジペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールテトラメタクリレートおよびジペンタエリトリトールペンタメタクリレートを含む群から選択された、(メタ)アクリル酸と置換プロトン基を持つ少なくとも一つの脂肪族多価アルコールとの少なくとも一つのエステル;
ii.20〜99重量%のアクリル樹脂;
iii.1〜40重量%のポリアルキレンジアクリレート、好ましくはヘキサメチレンジアクリレート;
iv.0〜50重量%の、ベンゾフェノンファミリーの少なくとも一つの誘導体;
v.0〜5重量%の少なくとも一つの光開始剤。
【0021】
耐摩耗性架橋ハードコーティングを少なくとも一方の面に備える、好ましくはロールアップタイプの、このポリエステルフィルムは、良好な硬度特性を有し、それゆえに良好な耐引掻特性を有し、フィルムとコーティングの間に良好な凝集特性を有し、さらには印刷適性および/または透明性および/または反射防止性および/または抗UV性という特徴を有する場合もある。このポリエステルフィルムは経済的であり製造が容易である。
【0022】
第2態様において、上記の目的を満たすため、本発明は、上に定義したフィルムを得るための方法を提供する。それゆえに、本方法は、本質的に次に挙げる工程a〜eからなることを特徴とする:
a.上に定義した構成要素(i)〜(iii)と、場合によっては(iv)および/または(v)とを含むコーティング組成物を使用すること;
b.場合によっては、乾燥抽出分を50%以下、好ましくは35%以下、さらに好ましくは20%以下にするために、溶剤を加えることによってコーティング組成物を希釈すること;
c.場合によっては、コーティングされるべきポリエステルフィルムの面を、好ましくはUV照射によって、またはコロナ処理もしくはプラズマ処理によって、またはアクリル、ポリエステルおよび/もしくはポリウレタンをベースとする調合物で予めコーティングしておくことによって、前もって処理すること;
d.コーティングされるべきポリエステルフィルムの面を、上記コーティング組成物でコーティングすること;
e.次に、架橋コーティングを得るために、コーティングによって適用された上記コーティング組成物を乾燥し、化学線、好ましくはUV光線を、照射すること。
この方法は、速度と実施の容易さという工業的要件を満たす。
【0023】
第3態様において、本発明は、少なくとも一つの本発明のポリエステルフィルムと少なくとも一つの金属シートとを含むポリエステル/金属シートコラミネート(colaminate)に関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関して、好ましい実施形態に相当する「ロールアップ」という用語は、ポリエステルフィルムを例えばリールのまわりに容易に巻取りかつ巻出すことができ、この巻出し操作が著しい力を必要としないこと、すなわち、「ブロッキング」(すなわちフィルムのシート間に滑りが生じないことによるブロッキング)による溝形成、スクリュー欠陥または他着点などといった、リールに目に見える欠陥がないことを意味する。この「ロールアップ」性は、定量化することが難しい良好な「機械適性」になぞらえることができる。フィルムのリール中の空気の層を干渉法で測定することによって「機械適性」を定量化するための考え得る手段が、Macromolecular Symposia,1999,148,311−319に記載されている。この測定は難しいが、フィルムの粗さが良好な「機械適性」に適した空気の層を獲得する一因になることは周知である。したがって、良好な「機械適性」を有するフィルムを得るには、そしてそれゆえに「ロールアップ」フィルムを得るには、平均粗さ(Ra)が、規格DIN4768に従って測定して、例えば5nm以上であるべきであることが好ましいと考えられる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの固有の性質にはほとんど影響を持たない硬質耐摩耗性架橋コーティングフィルムでコーティングされる。
【0026】
これを行うために、本発明は、少なくとも部分的に、成分(i)〜(iii)と、場合によっては(iv)および/または(v)とをベースとする、硬質架橋コーティング組成物の新規かつ非自明な選択に基づいている。
【0027】
好ましくは、この硬質架橋コーティング組成物はメラミンタイプの架橋剤を含まない。
【0028】
好ましくは、この硬質架橋コーティング組成物はワックスを含まない。
【0029】
好ましくは、この硬質架橋コーティング組成物はウレタン結合剤を含まない。
【0030】
(ポリエステルフィルム)
その上に架橋ハードコーティングが施されるポリエステルフィルムまたはポリエスエル基材は、好ましくは芳香族ポリエステル、さらに好ましくは、芳香族二塩基酸またはその酸から誘導されるエステルとジオールまたはそのジオールから誘導されるエステルとから得られる、本質的に線状の芳香族ポリエステルである。
【0031】
使用されるポリエステルフィルムは二軸配向していると有利である。
【0032】
ベースフィルムを構成するポリエステルは、二軸配向半結晶質フィルムを得るために通常使用されるポリエステルから選択することができる。それらのポリエステルは、配向によって結晶化し得るフィルム形成性線状ポリエステルであり、1つ以上の芳香族ジカルボン酸またはそれらの誘導体(例えば低級脂肪族アルコールのエステルまたはハロゲン化物)と1つ以上の脂肪族ジオール(グリコール類)とから、通常の方法で得られる。
【0033】
芳香族酸の例として、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸を挙げることができる。これらの酸は、それより少量の1つ以上の脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸、例えばアジピン酸、アゼライン酸、テトラヒドロテレフタル酸またはヘキサヒドロテレフタル酸と、組み合わせることができる。
【0034】
脂肪族ジオールの例として、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールを挙げることができる。これらのジオールは、それより少量の、1つ以上の、より炭素数の多い脂肪族ジオール(例えばネオペンチルグリコール)または、脂環式ジオール(シクロヘキサンジメタノール)と、組み合わせることができる。
【0035】
好ましくは、フィルム形成性結晶性ポリエステルは、ポリテレフタレートまたはアルキレンジオールポリナフタレンジカルボキシレート、特にエチレングリコールからのポリエチレンテレフタレート(PET)もしくは1,4−ブタンジオールからのポリブチレンテレフタレート(PBT)または少なくとも80モル%のポリエチレンテレフタレート単位を有するコポリエステルである。ポリエステルは、オルト−クロロフェノール中25℃で測定した固有粘度が0.6〜0.75dl/gであるようなポリエチレングリコールテレフタレートであれば、有利である。
【0036】
二軸配向ポリエステルフィルムは、例えば、
・ポリエチレンテレフタレートによって構成されるか、
・または、エチレン単位の代わりにシクロヘキシルジメチロール単位を含有するポリエチレンテレフタレートコポリエステルの混合物もしくは非混合物によって構成されるか(米国特許第4041206号または欧州特許出願公開第0408042号参照されたい)、
・または、イソフタレート単位を持つポリエステル部分を有するポリエチレンテレフタレートコポリエステルの混合物もしくは非混合物で構成されるか(欧州特許第0515096号);
・または、共押出によって得られる、前述のように化学的性質が異なる、数層のポリエステルによって構成される。
【0037】
芳香族ポリエステルの具体例は、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−(ジメチル−1,4−シクロヘキシレンテレフタレート)およびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである。芳香族ポリエステルは、これらのポリマーのコポリマーであるか、これらのポリマーと少量の他の樹脂との混合物であることができる。これらのポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、物理的性質、機械的性質および光学的性質の間で良いバランスが得られるので、とりわけ好ましい。
【0038】
本発明の架橋ハードコーティングを備えたポリエステルフィルムは、熱結合および/または付着剤を使った結合により、非常に数多くの他の基材に、特に金属シート(例えば鋼鉄製シート)、ガラス製またはガラスに似た他のポリマー製の板またはシートなどに、容易に積層することができる。
【0039】
ポリエステル、特に芳香族ポリエステルは、例えばそのポリエステルがそれ自体に他着するのを防ぐことなどの要求に適した充填剤を(少なくとも表面に)含有することができる。
【0040】
ポリエステルの表面特性を改質するために、これらの粒状充填剤をポリエステルに含めると有利である。
【0041】
ポリエステルフィルム用の既知の潤滑剤である充填材の例として、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、シリカ、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化ケイ素、酸化スズ、架橋アクリル樹脂の粒子、架橋ポリスチレン樹脂の粒子、架橋メラニン樹脂の粒子、架橋シリコーン樹脂の粒子などを挙げることができる。シリカタイプおよび/またはカーボネートタイプの充填材の使用は好ましい。
【0042】
上述の充填剤粒子は0.05〜10ミクロンの平均直径を有することができ、好ましくはポリエステル(例えば芳香族)の総質量に対して0〜2000ppmの量で存在し、より具体的には0.5〜6ミクロンの平均直径を持つことができ、好ましくはポリエステル(例えば芳香族)の総質量に対して200〜1500ppmの量で存在する。
【0043】
透明度の高いフィルムが望まれる場合は、大量の充填剤の組み込みを避けることが好ましい。
【0044】
さらにまた必要であれば、ポリエステルフィルムは少なくとも一つの他の添加剤、好ましくは次に挙げる群から選択されたものを含むことができる:染料、帯電防止剤、酸化防止剤、有機潤滑剤、抗UV添加剤、触媒または他の任意の類似する添加剤。
【0045】
本発明の有利な一形態では、ポリエステルフィルムが、好ましくはそのフィルムまたはポリエステル基材に組み込まれた、少なくとも一つの抗UV添加剤を含む。この抗UV添加剤は、例えば著作物「Additives for plastics on book,John Murphy,2nd Edition 2001,Elsevier Advanced Technology」に記載されているもの、より具体的には米国特許第6593406号に記載されているようなPETフィルム用のものなど、既知の製品のいくつかの群から選択することができる。
【0046】
抗UV添加剤の例として、次の物質を挙げることができる:
・ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、ベンゾオキサジノン類およびトリアジン類などの、酸化防止剤または吸収剤のファミリー;
・単独で使用されるか、酸化防止剤と併用される、「ヒンダードアミン系光安定剤」(HALS)のファミリー。
【0047】
ポリエステルフィルムは、好ましくは少なくとも一つの抗UV添加剤を含み、さらに好ましくはトリアジンタイプの抗UV剤を含むだろう。
【0048】
これらの抗UV添加剤は、UVと酸素がポリエステルフィルムに及ぼす影響を打ち消すために使用される。
【0049】
芳香族ポリエステルフィルムは、芳香族ポリエステルフィルムを製造する溶融押出によって得ることができ、次に、未延伸フィルムを得るために、その押出物を成形ドラム上で冷却し、固化させる。次に、その未延伸フィルムをガラス転移温度TとT+60℃に等しい温度の間の温度で縦方向に1倍以上(例えば3〜6倍)に延伸し、次にそのフィルムをTとT+60℃の間の温度において横方向に3〜5倍の延伸比で延伸する。次に、フィルムを安定化するために、その二軸延伸フィルムを、例えば180〜250℃の温度で1〜60秒間熱処理した後、より低い温度で熱処理する。
【0050】
ポリエステルフィルムは、好ましくは、4〜350ミクロンの厚さを有する。フィルム厚(e)の上限および下限は、さらに好ましくは、それぞれ8ミクロンおよび50ミクロンである。フィルム厚がこの範囲内にある場合、そのフィルムは、特に架橋ハードコーティングの適用という目的には、好ましい機械的強度を有する。
【0051】
ポリエステルフィルムは単純な構造を持つか、共押出されたAB型、ABA型もしくはABC型の、またはさらに複雑な、多層構造を持つことができる(ここで、記号A、BおよびCは、異なる性質および/または異なる組成を持つ層に対応する)。
【0052】
(耐引掻性架橋コーティング)
[コーティング厚]
本発明の好ましい特徴によれば、コーティングは10μm以下、好ましくは1〜7μmの厚さ(e)を有する。
【0053】
[コーティングの組成]
−i−置換プロトン基を持つ(メタ)アクリル酸のエステルおよび/またはアミド
これらの化合物はコーティング組成物の総重量に対して20〜99重量%に相当する。
【0054】
これらの化合物、特に多価アルコールのエステル、ならびにそれらの化合物を製造するための方法は、当業者には周知である。例えば、置換ヒドロキシモノアクリレートエステル、置換ヒドロキシジアクリレートエステルまたは置換ヒドロキシトリアクリレートエステルの製造方法は、過剰量のアクリル酸をジヒドロキシル化化合物、トリヒドロキシル化化合物またはテトラヒドロキシル化化合物と反応させることからなる。したがって、ジアクリルエステルとトリアクリルエステルとテトラアクリルエステルの混合物を製造するために、アクリル酸を例えばペンタエリトリトールと反応させることができ、その混合物から、本発明に最も適したエステル化合物、例えばペンタエリトリトールトリアクリレートを、自体公知の選択的な方法で抽出することができる。
【0055】
−ii−アクリル樹脂
このアクリル樹脂はコーティング組成物の総重量に対して20〜99重量%に相当し、好ましくは水または少量の有機溶剤を含有する水性媒質に可溶であるものから選択されたものである。
【0056】
アクリル樹脂は、重合によって、好ましくはシリカと、カップリング剤としてのシランアクリレートと、次に挙げるアクリルモノマー(限定でないリスト)の1つ以上との共重合によって得ることができる:
・アルキル基がメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、シクロヘキシルなどの基である、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート;
・2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートおよび2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのヒドロキシル化モノマー;
・グリシジルアクリレート類などのエポキシ化モノマー;
・グリシジルメタクリレートおよびアリルグリシジルエーテル;
・アクリル酸およびメタクリル酸、イタコン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸ならびにそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩および3級アミン塩)などといった、カルボキシル基またはカルボン酸塩を含むモノマー;
・アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(ここでアルキル基はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、N−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基などである)、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N,N−ジアルコキシアクリルアミド、N,N−ジアルコキシメタクリルアミド(ここでアルコキシ基はメトキシ、エトキシ、ブトキシ、イソブトキシ基などである);アクリロイル、モルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドおよびN−フェニルメタクリルアミドなどといった、アミド基を含有するモノマー;
・2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリンおよび2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンなどといった、オキサゾリン基を含有するモノマー;
・ならびに、アクリル酸またはメタクリル酸のカルボキシル基にポリオキシアルキレンを付加することによって生じるポリオキシアルキレン鎖を含むモノマー。
【0057】
無水物を含む他の共重合性化合物として、無水マレイン酸および無水イタコン酸などの酸無水物のモノマー、及び、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、アルファ−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸のモノエステル、アルキルマレイン酸のモノエステル、アルキルスマレイン酸のモノエステル、アルキルフマル酸のモノエステル、アルキルイタコン酸のモノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、塩化ビニリデン、酢酸ビニルおよびブタジエンなどのモノマーを使用することができる。
【0058】
好ましくは、アクリル樹脂またはメタクリル樹脂は、メチルアクリレートタイプ、エチルアクリレートタイプ、ブチルアクリレートタイプ、メチルメタクリレートタイプ、エチルメタクリレートタイプまたはブチルメタクリレートタイプのモノマーから構成される。他のビニルモノマーを、アクリル酸類またはメタクリル酸類のエステルと共重合させることができる。それら他のビニルモノマーは、例えば芳香族ビニル化合物およびシアノ基を持つビニル化合物であることができる。
【0059】
−iii−ポリアルキレンジアクリレート
ポリアルキレンジアクリレートはコーティング組成物の総重量に対して1〜40重量%に相当する。
【0060】
ヘキサメチレンジアクリレートはこの化合物iiiポリアルキレンジアクリレートの好ましい例である。成分iiiの他の例として、とりわけ、ブチレンジアクリレート、オクチルジアクリレートを挙げることができる。
【0061】
−iv−ベンゾフェノンファミリーの誘導体
レゾルシノールなどのベンゾフェノンファミリーの誘導体は、コーティング組成物の総重量に対して0〜50重量%の割合で、コーティング組成物中に存在する。
【0062】
好ましくは、ベンゾフェノンファミリーの誘導体は、少なくとも一つのアルコキシシリル基がスペーサー(連結ヒンジ)、例えばアルキレン単位を介してグラフトされているレゾルシノールの誘導体である。これらのレゾルシノール誘導体は、アクリル反応性官能基またはアルケニル反応性官能基を持つ前駆体を経由して、少なくとも一つのアルコキシシリル官能基をレゾルシノールのベンゼン核上にグラフトすることによって得ることができる。レゾルシノールのベンゼン核上の他の3つの置換炭素は、化学線活性化時にノリッシュ型開裂が生じるように、芳香族基、例えばベンゾイル基で置換することができる。
【0063】
レゾルシノールの誘導体のなかでは、[4,6−ジヒドロキシ−5−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−1,3−フェニレン] ビス[フェニルメタノン]が好ましい。
【0064】
−v−光開始剤
コーティング組成物には、そのコーティング組成物の総重量に対して0〜5重量%の割合で、少なくとも一つの光開始剤が存在する。
【0065】
本発明の好ましい一実施形態では、組成物が0.01〜2重量%の、より好ましくは1重量%オーダーの量の、光開始剤を含む。
【0066】
好ましくは、光開始剤は、次に挙げる製品から選択されたものである:単独でまたは互いに混合して使用される上述のベンゾフェノンファミリーの誘導体ivとは異なるベンゾフェノンファミリーの製品、単独でまたは混合して使用されるアルファ−ヒドロキシケトンファミリーの製品、単独でまたは混合して使用されるフェニルグリオキサールファミリーの製品、ビス−アシルホスフィン化合物とアルファ−ヒドロキシケトン化合物の混合物によって形成される製品、およびそれらの混合物。
【0067】
アルファ−ヒドロキシケトンファミリーの光開始剤は、市販品IRGACURE(登録商標)184およびDAROCUR(登録商標)1173に相当する。
【0068】
フェニルグリオキサールファミリーの光開始剤は、市販品IRGACURE(登録商標)754に相当する。
【0069】
ビスアシルホスフィン化合物とアルファ−ヒドロキシケトン化合物の混合物は、IRGACURE(登録商標)2022という名称で販売されている。
【0070】
これらの誘導体(v)を、ベンゾフェノンファミリーの誘導体(iv)を補う光開始剤またはベンゾフェノンファミリーの誘導体(iv)を代替する光開始剤として、有利に使用できること(ただし限定するわけではない)に注意すべきである。
【0071】
本発明のポリエステルフィルムの架橋コーティングは、好ましくは、化学線照射下での架橋によって得られる。上記の光開始剤はUV下での化学線照射に対応する。
【0072】
UV放射線に代えて使用することができる、またはUV放射線と併用することができる、化学線照射による活性化には、例えば近赤外領域もしくは可視領域の電磁放射線またはX線など、他のタイプも存在する。電子衝撃などの粒子放射線は、もう一つのタイプの化学線照射による活性化である。化学線照射によるコーティングの架橋の活性化は、場合によっては、熱活性化と併用することができる。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムの架橋ハードコーティングは、他の添加剤、例えば充填剤、UVの吸収またはフィルムの劣化防止を目的とする抗UV添加剤を含有することができる。これらの充填剤およびこれらの抗UV添加剤は、例えば、ポリエステル基材の考え得る構成要素として上述したものから選択することができる。
【0074】
(フィルムの生成方法)
本発明は、その第3態様によれば、特に上に定義したフィルムを得るための方法に関する。この方法は、本質的に、以下に説明する段階a、b、c、dおよびeを含む。
【0075】
段階a:
架橋ハードコーティングをもたらすコーティング組成物i)〜iii)と、場合によっては(iv)および/または(v)とは、例えば次に挙げる成分を含む:
i)ペンタエリトリトールトリアクリレート
ii)シリカにシランアクリレートをグラフトすることによって得られるアクリル樹脂
iii)ヘキサメチレンジアクリレート
iv)シリカにグラフトすることができる、[4,6−ジヒドロキシ−5−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]−1,3−フェニレン]ビス[フェニルメタノン]。
【0076】
これらの化合物は、例えば、1−メトキシ−2−プロパノールのみ、または2−メトキシ−1−プロパノールと混合された1−メトキシ−2−プロパノールなどの、アルコール溶剤に溶解している。
【0077】
対応する製品は、例えばMOMENTIVE PERFORMANCE MATERIALS社から販売されているものである。
【0078】
段階b:
本発明によれば、乾燥抽出分が50%以下、好ましくは35重量%以下、より好ましくは20%以下になるように、コーティング組成物を希釈することが有利である。
【0079】
うまく選択すれば、この乾燥抽出分は、ポリエステル基材フィルム上に薄いコーティング層を得ることを可能にし、架橋コーティングにとって望ましい薄い厚さをより容易に達成することが可能になる。
【0080】
段階c:
この段階は、粘着性の改善を目的とする処理からなり、この処理では、ハードコーティングでコーティングしようとするフィルムの一面または両面を、UV照射、コロナ処理、もしくはプラズマ処理に付すか、またはアクリル、ポリエステルおよび/もしくはポリウレタンに基づくコーティング剤で予めコーティングしておく。
【0081】
上記の物理的処理は、当業者にとっては自体公知の方法で行われる。実例として、例えばFood Science and Nutrition,1999,39(5),457−477頁の文書を挙げることができる。
【0082】
段階d:
ポリエステルフィルム上に架橋コーティングを形成させることを目的とする液状組成物を、例えばマイヤーバーコーティング、平滑ロールまたはグラビアロールによるコーティング、フレキソコーティング、オフセットコーティング、カーテンコーティングなどといった、自体公知である任意の適切な方法で適用する。
【0083】
好ましくは、ポリエステルフィルム、例えばPETの二軸延伸の操作後に、このコーティング段階を行う。
【0084】
ある変形形態では、第1延伸と第2延伸の間にこのコーティングを行うことができる。
【0085】
理想的には、液状コーティング組成物は、例えば当業者が記載しているように、グラビアロール(rouleau helio)によるコーティングの場合は、10〜5000mPa・sの粘度を有する(G.L.Booth,15th Annual IGC European Coating System Conferences,1990,アムステルダムによる発表を参照されたい)。
【0086】
段階e:乾燥および化学線照射
ポリエステルフィルム上にコーティングされた液状架橋組成物の乾燥は、好ましくは、ポリエステルフィルム上にコーティングされた液状組成物に導かれた熱空気(例えば50〜100℃)で、数分間行う。化学線照射は、自体公知の方法により、好ましくはUVランプを使って、コーティングされた架橋性組成物1cmにつき0.1〜3ワット、好ましくはコーティングされた架橋性組成物1cmあたり0.1〜1ワットの放射照度で、供給されるエネルギーが0.1〜2ジュール/cmになるような方法で行う。
【0087】
さらにまた、フィルム速度(単位:m/分)は重要な基準である。工業生産を最適化するには、供給されるエネルギー、放射照度およびフィルム速度のバランスをとらなければならない。
【0088】
本発明の架橋ハードコーティングを持つポリエステルフィルムの性質を特徴づけるために、硬度および凝集を通常の試験方法に従って測定する。
【0089】
架橋ハードコーティングを持つポリエステルフィルムの取得に関するさらなる詳細については、例えば欧州特許出願公開第0604075号に言及することができる。
【0090】
本発明の好ましい特徴では、ポリエステルフィルムを、少なくとも一つの追加層、好ましくは少なくとも一つのシーリング層および/または印刷可能コーティング層および/または付着剤の層と組み合わせる。ポリエステルフィルムは単純な構造を持つか、共押出されたAB型、ABA型もしくはABC型の構造、または多層などのさらに複雑な構造を持つことができる。
【0091】
本発明のその他の有利な実施形態によれば、コーティングを施そうとするフィルムの一面または両面を、前もって、物理的に(好ましくはUV、コロナまたはプラズマ)処理するか、アクリル、ポリエステルおよび/またはポリウレタンに基づくコーティング剤によるコーティングで化学的に処理することによって、上に定義したフィルムが得られる。
【0092】
この前処理は、ポリエステルフィルムへの架橋コーティングの付着を促進することを目的とする。
【0093】
本発明の硬質層でコーティングされたポリエステルフィルムは、金属シート、例えば鋼鉄製の金属シート、またはプラスチック製のシートもしくはフィルム、またはガラスプレートなどの基材との積層に、特に適している。
【0094】
したがって、金属シート、例えば鋼鉄製の金属シートと共積層(colaminate)された本発明のポリエステルフィルムは、鋼鉄シートが、家庭用電気器具、ドア、化粧パネルもしくはホワイトボードの保護などといった屋内応用において、あるいは建築要素(屋根、窓)を形成する金属パネルまたは列車、ボートもしくは車などの輸送手段に存在する金属パネルを保護するための戸外における応用において、特に有利である良好ないし優れた耐引掻性を有するように、鋼鉄シートに保護を与える。
【0095】
したがって本発明は、第3態様において、上に定義した少なくとも一つのポリエステルフィルムと少なくとも一つの金属シート(例えば鋼鉄製)とを含むポリエステル/金属(例えばスチール)シートコラミネート(colaminate)にも関係する。
【0096】
以下に記載する実施例から、本発明がより良く理解されることになり、その利点が明白になるだろう。
【実施例】
【0097】
数タイプのフィルムを、市販の「ハードコート」ハードコーティングUVHC7000、UVHC3000または無溶剤型のUVHC8600(全てMOMENTIVE社の製品)でコーティングした。
【0098】
UVHC7000とUVHC3000の組成を下記表1に示す。これら2つの製品は、「ハードコート」コーティングの下にあるフィルムの追加保護のためにUVHC3000では抗UV剤が使用されている点が異なる。UVHC8600は、溶剤1−メトキシ2−プロパノールを含まず、抗UV剤も含まないコーティング剤である。
【表1】

【0099】
一例として挙げる光開始剤は、特にCiba社によって販売されている。これらの光開始剤は、製品IRGACURE(登録商標)754、IRGACURE(登録商標)184、IRGACURE(登録商標)2022である。
【0100】
フィルムA=規格ASTM D1003による曇り度が1.04%、DIN4768によってRaで定義される粗さが7.7nmに達するようにシリカ充填剤を含有する、単層のPETを含む36μmのフィルム。
【0101】
フィルムB=2つの層を持つ15μmのフィルム。一方の層は、シリカ充填剤を含有するPETであって、その上にコーティングが施される。他方の層は、例えば金属または他の何らかの表面のシーリングを確実にするPETと、ジメチルシクロヘキシル基とエチレン基とを持つコポリエステルと、シリカ充填剤との混合物に相当する。このフィルムは、規格ASTM D1003による曇り度3.7%と、規格DIN4768によってRaで定義される粗さ44.3nmとによって規定される。
【0102】
フィルムC=2つの層を持つ20μmのフィルム。一方の層は、シリカ充填材を含有し、トリアジンタイプの抗UV剤(Ciba製TINUVIN(登録商標)1577)が添加されているPETであって、その上にコーティングが施される。他方の層は、例えば金属または他の何らかの表面にシーリングを施す、PETと、ジメチルシクロヘキシル単位を持つコポリエステルと、HALSタイプの添加剤と、シリカ充填剤との混合物に相当する。このフィルムの構成要素により、規格ASTM D1003による曇り度4.1%と、DIN4768によってRaで定義される粗さ17.6nmと、380nmで13%の透過率(これに対し、抗UV剤を含有しないPETの場合は、380nmで83%の透過率)とを得ることが可能になる。
【0103】
フィルムD=シリカ充填剤を含有し、トリアジンタイプの抗UV剤(Ciba製TINUVIN(登録商標)1577)が添加されている、単層のPETを含む36μmのフィルム。このフィルムの構成要素により、規格ASTM D1003による曇り度1.4%と、DIN4768によってRaで定義される粗さ10.0nmと、380nmで43%の透過率(抗UV剤を含有しないPETの場合は83%)とを得ることが可能になる。
【0104】
放射照度およびエネルギーはUV Power Puck(登録商標)EITで測定する。
【0105】
付着試験は規格EN ISO 2409に従って行う。使用する付着剤はTESA4651タイプの付着剤(幅25mm、力10N)である。
【0106】
引掻試験は、テーバー試験(ASTM D1044:「表面摩耗に対する透明プラスチック材料の耐性」)により、CS10Fタイプの500gのおもりを負荷したAbraserタイプのモデルを使って、規格が指定する500回ではなく100回の回転数で行う。サンプルの外観を評価するために、規格ASTM D1003に従い、ガードナータイプの装置を使って、テーバー試験の前後に曇り度の測定を行う。
【0107】
試験評価は次に挙げる基準に基づく:
付着性試験では、
◎:極めて良好0〜2、○:3〜4、×:5に相当
耐引掻性試験では、
◎:テーバー試験前後の曇り度の差が4%以下、○:4%より大きく9%以下、×:9%より大きい。
【0108】
実施例1〜3:
所望するコーティング厚に応じて、1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることによってコーティング剤UVHC3000を希釈するか、または希釈しないかを選択する。フィルムBは、前もってUV照射で処理するか、または処理せず、次に半自動機械でマイヤーバーを使ってコーティングし、次に60℃で乾燥し、水銀ランプとガリウムランプによるUV下で照射する。測定エネルギーおよび放射照度に合わせて一定の厚さの層を得る。付着テープによる試験で付着性のレベルを示し、次に耐引掻性に関する試験を行う。
【表2】

その結果、次の結果が得られる:
【表3】

【0109】
実施例4〜6:
1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることによって「ハードコート」コーティングのコーティング剤を希釈する。フィルムのリールを巻出すことが可能な小実験室パイロット装置で、コロナ処理を施していないフィルムBに、ヘリオロールを使って、希釈した「ハードコート」コーティングのコーティング剤の2μmの層を、0.5m/分の速度でコーティングし、次に、最高70℃の熱空気下で5分間乾燥する。このリールからのサンプルを、空気制御を行わずに、Fusion製UVランプ下で照射する。硬度5Hは本発明者らが要求する硬度目標に相当する。
【表4】

【0110】
実施例7〜10:
光開始剤のスクリーニングは、2μmの厚さについて、ガラス板上で、硬度を監視することで行った。H型のランプを用いて、硬度5Hを達成するのに必要なエネルギーは以下の通りである。
【表5】

【0111】
実施例11〜14:
IRGACURE(登録商標)2022光開始剤を、コーティング剤UVHC7000またはUVHC3000に、乾物に基づいて1%の割合で添加し、次に、1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることによって、コーティング剤を希釈する。フィルムのリールを巻出すことが可能な小実験室パイロット装置で、コロナ処理したフィルムBに、ヘリオロールを使って、コーティング剤UVHCの2μmの層を、表6に示す速度でコーティングし、次に、最高70℃の熱空気下で5分間乾燥する。このリールからのサンプルを、空気制御を行わずに、Fusion UV製のH型ランプ下で照射する。鉛筆硬度に関する結果を以下に示す。
【表6】

【0112】
実施例11および14は、工業生産において理想的な速度でフィルムを製造するのに必要なエネルギー量が低く、そのうえ光開始剤の添加が極めて満足のいく硬度を有する良好な架橋をもたらすので、極めて満足のいく結果を与える。
鉛筆硬度をテーバー試験との比較で実証した。実際、実施例11および実施例14については、極めて良好な耐引掻性(◎)が見いだされる。
【0113】
実施例15〜19:
1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることにより、コーティング剤UVHC7000を乾燥抽出分30%から22%に希釈する。フィルムのリールを巻出すことが可能なパイロット装置で、コロナ処理したフィルムBに、ヘリオロールを使って、希釈したコーティング剤UVHC7000の2μmの層を、表7に示す速度でコーティングし、次に、最高70℃の熱空気下で2mにわたって乾燥する。次に、異なるパーセンテージに調節した2つのH型バルブによる240W/cmでの照射下に、空気制御を行わずに、インラインで架橋を行う。0.26J/cmのエネルギーで5Hの硬度が得られる。
【表7】

【0114】
実施例20〜22:
1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることによってコーティング剤UVHC3000を希釈する。フィルムのリールを巻出すことが可能な小実験室パイロット装置で、コロナ処理を施していないフィルムBに、グラビアロールを使って、希釈したコーティング剤UVHC3000の2μmの層を、0.5m/分の速度でコーティングし、次に、最高70℃の熱空気下で5分間乾燥する。このリールからのサンプルを、制御された雰囲気下に、Fusion UV製の高出力H型ランプ(240W/cm)下で照射する。コーティングされたフィルムの硬度およびエネルギーを測定する。
【表8】

【0115】
実施例23〜24:
IRGACURE(登録商標)2022光開始剤を、コーティング剤UVHC7000またはUVHC3000に、乾物に基づいて1%の割合で添加し、次に、1−メトキシ−2−プロパノールタイプの溶剤を加えることによって、コーティング剤を希釈する。フィルムのリールを巻出すことが可能な小実験室パイロット装置で、異なるタイプのコロナ処理フィルムに、グラビアロールを使って、コーティング剤UVHCの2μmの層を、0.5m/分の速度でコーティングし、次に、最高70℃の熱空気下で5分間乾燥する。このリールからのサンプルを、空気制御を行わずに、Fusion UV製のH型ランプ下で照射する。鉛筆硬度に関する結果を以下に示す。
【表9】

【0116】
実施例25〜27:
IRGACURE(登録商標)2022光開始剤をコーティング剤UVHC8600に1%の割合で添加する。パイロット装置で、異なるタイプのコロナ処理フィルムに、グラビアロールを使って、コーティング剤UVHCの3μmの層を、30m/分の速度でコーティングし、次に、最高40℃において、空気下で5分間乾燥する。このリールからのサンプルを、空気制御を行わずに、240W/cmの2灯下、エネルギー5J/cmの90%で、照射する。テーバー試験後の曇り度の差に関する結果を以下に示す。
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学線照射下で架橋され、耐引掻性を有し、かつ次に挙げる構成要素i〜vをベースとするコーティングを、少なくとも一方の面に備えることを特徴とするロールアップタイプのポリエステルフィルム:
i.20〜99重量%の、
置換プロトン基を持つ(メタ)アクリル酸の少なくとも一つのエステルおよび/またはアミド、または、
(メタ)アクリル酸と置換プロトン基を持つ少なくとも一つの脂肪族多価アルコールとの少なくとも一つのエステル、または、
2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−アクリロイルオキシメチル−2−ヒドロキシメチルプロパン、2−メタクリロイルオキシメチル−2−ヒドロキシメチルプロパン、ペンタエリトリトールモノアクリレート、ペンタエリトリトールビスアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールモノメタクリレート、ペンタエリトリトールビスメタクリレート、ペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールジアクリレート、ジペンタエリトリトールトリアクリレート、ジペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールペンタアクリレート、ジペンタエリトリトールジメタクリレート、ジペンタエリトリトールトリメタクリレート、ジペンタエリトリトールテトラメタクリレートおよびジペンタエリトリトールペンタメタクリレートを含む群から選択された、(メタ)アクリル酸と置換プロトン基を持つ少なくとも一つの脂肪族多価アルコールとの少なくとも一つのエステル;
ii.20〜99重量%のアクリル樹脂;
iii.1〜40重量%のポリアルキレンジアクリレート、またはヘキサメチレンジアクリレート;
iv.0〜50重量%の、ベンゾフェノンファミリーの少なくとも一つの誘導体;
v.0〜5重量%の少なくとも一つの光開始剤。
【請求項2】
コーティングの総重量に対して0.01〜2重量%の光開始剤、好ましくは1重量%オーダーの光開始剤を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
4〜350μmの厚さ(e)、好ましくは8〜50μmの厚さ(e)に形成されたことを特徴とする、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
前記コーティングが10μm以下の厚さ(e)、好ましくは1〜7μmの厚さ(e)に形成されたことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
光開始剤vが次に挙げる製品から選択されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム:
単独でまたは互いに混合して使用される請求項1に記載のベンゾフェノンファミリーの誘導体ivとは異なるベンゾフェノンファミリーの製品;
単独でまたは混合して使用されるアルファ−ヒドロキシケトン類;
単独でまたは混合して使用されるフェニルグリオキサール類のファミリーの製品;
ビス−アシルホスフィン化合物とアルファ−ヒドロキシケトン化合物とを混合することによって形成される製品;および
それらの混合物。
【請求項6】
前記コーティングがUV下での架橋によって得られることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
コーティングを施そうとするフィルムの一面または両面の物理的前処理によって、またはアクリル、ポリエステルおよび/もしくはポリウレタンをベースとするコーティング剤で予めコーティングしておくことによる化学的前処理によって、得られたものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
少なくとも表面に充填剤を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
少なくとも一つの追加層、少なくとも一つの熱シーラントの層および/または印刷可能な層および/または付着剤の層と組み合わされることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
染料、帯電防止剤、酸化防止剤、有機潤滑剤、抗UV添加剤、及び触媒から選択された少なくとも一つの他の添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
前記添加剤は、少なくとも一つのトリアジンタイプの抗UV添加剤であることを特徴とする請求項10に記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項におけるフィルムを生成する方法であって、
a.請求項1の構成要素(i)〜(iii)を含み、必要に応じて構成要素(iv)および/または(v)を含むコーティング組成物を用意するステップと
b.コーティング組成物の乾燥重量比率を50%以下、35%以下、または20%以下にするために、必要に応じて溶剤を加えて希釈するステップと、
c.コーティングされるべきポリエステルフィルムの片面または両面を、UV照射によって、またはコロナ処理もしくはプラズマ処理によって、またはアクリル、ポリエステルおよび/もしくはポリウレタンをベースとするコーティング剤で予めコーティングしておくことによって、必要に応じて前処理するステップと、
d.コーティングされるべきポリエステルフィルムの片面または両面を、前記コーティング組成物でコーティングするステップと、
e.架橋コーティングを得るためにコーティングに用いられた前記コーティング組成物を乾燥させ、必要に応じてUV下で、化学線を照射するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
少なくとも一つの、請求項1〜11の少なくとも1項に記載のポリエステルフィルムまたは請求項12に記載の方法によって得られたポリエステルフィルムと、
少なくとも一つの金属シートと、
を含むことを特徴とするポリエステル/金属(スチール)シートコラミネート。

【公表番号】特表2011−509842(P2011−509842A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540121(P2010−540121)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068228
【国際公開番号】WO2009/083552
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(510173292)
【Fターム(参考)】