説明

少なくとも1種類の天然Ac−N−Ser−Asp−Lys−Proテトラペプチドまたはその類似体の1つの、毛髪喪失を遅延させ、かつ/または毛髪成長を刺激するための薬剤としての化粧料的使用

本発明は、式(I)[式中、Aは、D−またはL−Serに相当する基であり;Aは、D−もしくはL−Asp、またはGluに相当する基であり;Aは、D−もしくはL−Lys、またはArgもしくはOrnに相当する基であり;Aは、D−またはL−Proに相当する基であり;R、R、Rは、特許請求の範囲で定義される通りである]で示される少なくとも1種類の化合物の、毛髪喪失を制御するための薬剤としての化粧料的使用に関する。


【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類の天然テトラペプチドAc−N−Ser−Asp−Lys−Proまたはその類似体の1つの、毛髪喪失を遅延させ、かつ/または毛髪成長を刺激するための薬剤としての化粧料的使用に関する。
【0002】
本発明は、少なくとも1種類のテトラペプチド化合物または類似体の、毛髪喪失を遅延させ、かつ/または毛髪成長を刺激するための薬剤としての組成物における化粧料的使用に関する。
【0003】
ヒトは頭部に150,000本の毛髪を有している。各毛髪は、毛幹、頭皮の表面に現れている自由部分(free part)、および毛包内に埋まっている毛髪(毛球)からなる。各毛髪は、2〜7年の範囲の寿命を持つ。
【0004】
毛髪は、真皮コンパートメントと表皮コンパートメントからなる複雑な器官である毛包によって生産される。これらの各コンパートメントは、機能的部分コンパートメントに細分される。毛包は、毛包、表皮および皮脂腺を再構築するのに必要な総ての細胞系統を生じ得る幹細胞の「貯蔵庫」として働く。
【0005】
ヒトでは、毛髪の成長と再生は、主として毛包とそれを取り巻く真皮−表皮環境の活性により決定される。毛包は、増殖期(毛幹の生産)、毛が伸びる過程(アナジェニック期(anagenic phase)、または成長が停止したテロジェニック期(telogenic phase)のいずれかにある。テロジェネシス期(telogenesis phase)の後、ネオモルホジェニック過程(neo-morphogenic process)の結果、毛包は幹細胞の貯蔵庫から再生され、新たなアナジェニック期を開始する。絶えず更新される正常な毛髪では、約85%の毛包が増殖期、2%が休止期にあり、そして10%を超えるものが脱落期にある。
【0006】
男性でも女性でも、通常、1日に50〜150本の毛髪が抜ける。しかしながら、これらの毛髪は、毛髪成長周期の関数として新しい成長にとって代わられる。抜け毛が目立つ場合には、抜け毛が過剰である(日に150本を超えるような多い抜け毛)であることを意味し、あるいはより一般には、アンドロゲン性脱毛症の人の場合のように、抜け落ちる毛髪がより細い毛髪にとって代わられるためである。このような場合、毛髪の再生はだんだん薄くなり、次の周期までの頻度が低くなる。
【0007】
毛髪喪失には、癌または狼瘡などの疾病、ホルモンの変化、ストレス、ある種の投薬または食物の欠乏など、多くの原因がある。しかし、大多数の場合、毛髪喪失は遺伝性またはホルモン起源である。女性では、毛髪喪失は特に閉経後に始まる。
【0008】
禿頭症の根本的原因にもよるが、毛髪は多かれ少なかれ容易に再成長する。総てを治癒する処置はなく、毛髪喪失は場合ごとに複雑で、適宜処置しなければならない。
【0009】
男性においても女性においても禿頭症の主因であるアンドロゲン性喪失の場合、早急かつ有効な処置が必要である。何もしなければ、毛包および毛根が徐々に萎縮するとともに、毛髪の直径が小さくなり、脱毛症が進行する。アンドロゲン性脱毛症の治癒的処置は存在しない。この脱毛症は、実際に、毛細血管成長期を短くするジヒドロテストステロン(DHT)に対して過敏な毛包によって起こる。毛包においてテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を担う酵素を遮断するフィナステリド(Propecia(登録商標))などの経口用抗アンドロゲンを投与すると、毛髪喪失を軽減し、再成長を活性化する。しかしながら、この製品に多くの期待がかけられているものの、この製品は女性には禁忌であり、最近では男性でもその使用が問題視されている。実際、臨床試験の結果から、この薬剤を服用する患者において重度の前立腺癌を発症するリスクがあることが示唆されている。
【0010】
現在市販されているもう1つの抗毛髪喪失製剤ミノキシジル(Rogaine(登録商標))は、初期の脱毛症にしか有用でない。これを頭皮に塗布すると、毛髪成長周期の終了従って毛髪喪失が遅延するが、不活性な毛包を再構築するわけではない。処置を止めてから数週間後には毛髪喪失が再開する。
【0011】
薄くなった毛髪にボリュームをもたせる薬剤を含有する化粧料製品もある。しかし、これらの薬剤は成長を刺激するものではない。にもかかわらず、これらの薬剤は、毛幹をコーティングすることによりその径を増すので、毛髪が濃くなった印象を与えることができる。これらの製品は洗髪のたびに取れるので一時的な解決策にしかならない。
【0012】
よって、化粧品業界または製薬業界に毛髪成長を刺激し、かつ/または毛髪喪失を予防するための、副作用のない有効な製品を提供することが有用である。従って、このような製品は脱毛症を軽減し、さらにおそくらくは予防さえすると考えられる。
【0013】
本願は、特に上皮幹細胞を活性化することにより、活発な毛髪機能を刺激する天然テトラペプチドおよび類似体を発見したことから、所望の目的を達成した。これらの誘導体はまた、実施を容易にし、従ってコストのかからないペプチド合成経路により得られる利点も有する。さらに、また、これらの化合物の身体毒性は極めて低いか、おそらくは全くない。
【0014】
本発明の範囲内で使用されるペプチドまたは類似体は、基本構造アセチル−Ser−Asp−Lys−Pro(AcSDKP)を有する誘導体である。それらの治療特性は十分確認されている(WO88/00594およびWO97/28183)。
【0015】
本出願人は最近、それらの脈管形成特性を実証した(WO02/24218)。
【0016】
先行技術の文献に、これらの化合物が化粧料的抗毛髪喪失作用を有すること、また、それらの使用が毛包に存在する幹細胞を刺激する上でプラスの作用をもたらし得ることを記載または示唆するものはない。
よって、本発明は、毛髪喪失を制御するための薬剤としての組成物における、少なくとも1種類の式(I):
【化1】

[式中、
は、D−またはL−Serに相当する基であり、
は、D−もしくはL−Asp、またはGluに相当する基であり、
は、D−もしくはL−Lys、またはArgもしくはOrnに相当する基であり、
は、D−またはL−Proに相当する基であり、
およびRは独立に、水素原子、直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C12アルキル基、置換もしくは非置換型の直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C20アリールアルキル基、RCO−およびRCOO−から選択され、ここで、Rは、直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C12アルキル基、または置換もしくは非置換C7−20アリールアルキルであり、置換基としてはOH、NHおよびCOOHが挙げられ、
およびXは、ペプチド結合または偽ペプチド結合であり、
は、−COおよび−CH−から選択される基であり、
は、−OH、−NH、直鎖または分枝アルコキシC−C12または−NH−X−CH−Zから選択される基であり、ここで、Xは、直鎖または分枝C−C12炭化水素基であり、Zは水素原子または−OH、−COHもしくは−CONHである]
で示される化合物、ならびにそれらの生理学上許容される塩の使用に関する。
本発明の実施に特に好適なアルキル基としては、直鎖または分枝C−Cアルキル基が好ましい。特に、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルおよびtertブチル基が挙げられる。
本発明においてアリール基とは、6〜14個の炭素原子を有する芳香族炭素基を指す。この例として、フェニル、ナフチルおよびアントラセニル基が挙げられる。
本発明の好ましいアリールアルキル基としては、ベンジルおよびフェネチル基が挙げられる。
式(I)に相当するペプチドまたは偽ペプチドは、基本テトラペプチド構造アセチル−Ser−Asp−Lys−Pro(AcSDKP)から誘導される。
「に相当する基」とは、アミノ酸に相当する式:
NH−CH(A)−COOH
の基Aを指す。
よって、Aは、末端アミノ酸Aに関しては、
Serでは、−CHOH、
Aspでは、CHCOOH、
Gluでは、−CH−CH−COOH、
Argでは、−(CH−NH−C(NH)NH
Ornでは、−(CH−NH、および
Lysでは、−(CH−NH
であり、これは構造:
=N−CH(A)−CO−またはNH−(CH)A−CO−
からなる。
「偽ペプチド」とは、1以上のペプチド−CO−NH−結合が、偽ペプチド結合と呼ばれる、ペプチド結合と等価な結合、すなわち、例えば、Ψ(CHNH)で表される、−CH−NH−、−CH−S−、−CH−O−、−CO−CH−、−CH−CO−、−CH−CH−により置き換えられていること以外は参照ペプチドと同様である化合物を指す。
およびR基としては、水素原子またはRCO−基が特に好ましい(ここで、RはC−Cアルキル基、すなわち、CHCOならびにHOOC−CH−CH−CO−Oを表す。同様に、Rは好ましくは、NH、OHまたはNHCHである。
本発明の実施に好適な式(I)の化合物としては、次のものが挙げられる:
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
CHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
H−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
H−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
H−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
H−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
H−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
【0017】
本発明の実施に好適な式(I)の化合物は、天然テトラペプチドCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro(AcSDKP)である。
【0018】
本発明において「生理学上許容される塩」とは、有機酸および無機酸を含む生理学上許容される無毒な酸から製造される塩をさす。このような酸としては、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、粘液酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、酒石酸およびパラトルエンスルホン酸が挙げられる。塩酸を使用するのが有利である。
【0019】
上記で定義された式(I)の化合物は、細胞増殖および幹細胞の供給源となる毛包の上皮鞘の再構築に刺激作用を有することが示されている。式(I)の化合物で処置した毛髪の毛構造中で新生ケラチノサイトおよび未分化細胞の数が著しく増えることが観察されている。
【0020】
本出願人は、本発明に従って使用される化合物の作用が分子レベルで、毛髪の長さに沿ってコラーゲンIVおよびラミニン5の発現の上昇をもたらし、湾曲部と毛球の間に位置する中間部位でより著しい作用を有することを見出した。
【0021】
本発明の一実施形態では、毛髪の上皮鞘において幹細胞および/または新生ケラチノサイトの成長および/または分化を誘発し、かつ/または毛包においてコラーゲンIVおよび/またはラミニン5の産生を刺激するための薬剤としての組成物における、上記で定義された式(I)の化合物の化粧料的使用に関する。
【0022】
より詳しくは、本発明は、毛髪成長を誘発および/または刺激するための薬剤としての組成物における、上記で定義された式(I)の化合物の化粧料的使用に関する。
【0023】
本発明のもう1つの態様では、上記で定義された式(I)の化合物は、毛髪密度を高めるために使用可能である。
【0024】
本発明のもう1つの特定の態様は、禿頭症の予防における上記で定義された式(I)の化合物の使用に関する。
【0025】
天然テトラペプチドCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro(AcSDKP)(WO88/00594)は、通常のペプチド合成により得ることができる。AcSDKP誘導体に関する式(I)のペプチドまたは偽ペプチドはまた、文献WO97/28183に記載されているようなペプチドまたは偽ペプチド合成によって得ることもできる。
【0026】
式(I)の化合物は、本発明の実施のために使用される組成物中に、組成物の総重量の0.001重量%〜10重量%、好ましくは、0.005重量%〜5重量%の範囲の量で存在する。
【0027】
本発明に従って使用される化粧用組成物は局所使用を意図したものであり、この種の適用に通常使用される医薬形態、すなわち、エマルション(水中油型、油中水型、油中水中油型または水中油中水型のトリプルエマルション)、水性ゲル、水溶液、ヒドロアルコール溶液または油性溶液の形態であり得る。これらの組成物は多少流動性があってよく、白色または有色のクリーム、軟膏、ミルク、ローション、漿液、ペースト、ムース、または二相の形態であり得る。これらの組成物はまた、エアゾールの形態であってもよい。本発明の実施に使用される組成物はローション、ゲル、ソープ、エアゾール、シャンプーまたはムースの形態であり得る。
【0028】
本発明の範囲内で使用される組成物は、式(I)の誘導体の他、その処方物中に存在する有効成分と良好な適合性を有する化合物から選択することができる1以上の賦形剤を含む。この賦形剤は例えば、多糖類(キサンタンガム、カロブガム、ペプチンなど)、またはポリペプチド、セルロース誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)などの天然ポリマー、あるいは合成ポリマー、ポロキサマー、カルボマー、PVAまたはPVPであり得る。
【0029】
最後に、本発明の組成物はまた、エタノール、グリセロール、ベンジルアルコールなどの補助溶媒種、湿潤剤(グリセロール)、拡散を容易にする薬剤(トランスクロール、尿素)またはさらには抗菌保存剤(0.15%p−ヒドロキシ安息香酸メチル)の、種々の賦形剤を含み得る。これらの組成物はまた、界面活性剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、補足作用または可能性としては相乗作用を生じる他の有効成分、微量元素、精油、香料、着色剤、コラーゲン、化学またはミネラルフィルター、水和剤または温泉水を含み得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態では、式(I)の誘導体は、少なくとも1種類の他の有効成分と組み合わせる。
【0031】
本発明はまた、上記で定義された少なくとも1種類の式(I)の誘導体を含有する組成物を頭皮に塗布することからなる、毛髪喪失、特に禿頭症の治療および/または予防のための化粧料的方法に関する。
【0032】
次の実施例は単に本発明を例示するために示されるものであり、これに限定されない。
【実施例】
【0033】
実施例1: 試験
ex vivoで生存する状態で維持された単離毛髪の成長に対するテトラペプチドAcSDKPの活性刺激試験。この試験は、頭皮移植術から得られた66のヒト毛髪外植体に対して行った。
【0034】
方法
毛包を含む毛髪を顕微解剖により単離し、個々にウェル(96ウェル培養プレート)に入れ、ウィリアム培地中、通常の組織培養条件下(37℃、5%CO)で15日間、生存状態で維持した。
【0035】
培養培地に加えるテトラペプチドAcSDKPは、10−4M、10−7Mおよび10−10Mの3濃度で試験した。陽性対象として、ミノキシジル(登録商標)(2,4−ジアミノ6−ピペリジノピリミジン3−オキシド)を10−5Mの濃度で用いた。
【0036】
これらの供試化合物を含有する培養培地は3日ごとに更新した。捕捉ソフトウエアおよびアーカイビングに接続した顕微鏡およびCCDカメラを用い、毛髪の写真を撮影した。
0日目、3日目、6日目、8日目、10日目、13日目および15日目にLEICA IM1000測定モジュールを用い、各毛髪をμmとして測定した。
【0037】
処理8日目と15日目に、各バッチ(非処理対照、ミノキシジル(登録商標)、+AcSDKP 10−4M、+AcSDKP 10−7M、+AcSDKP 10−10M)から6本の毛髪を取り出し、組織学的研究向けに準備した。
【0038】
各バッチから3つの外植体を通常のブーアン液(Bouin)で固定し、他の3本の毛髪を凍結させ、−80℃で保存した。
【0039】
各毛髪の長さの測定に加え、各毛髪の一般形態を分析し、基底膜の2つの構成要素であるラミニン5とコラーゲンIVの発現を評価した。さらに、毛包構造の分裂指数を確定するため、有糸分裂中の細胞の抗Ki67抗体(増殖中の細胞で発現される核タンパク質)による免疫標識を行った。
【0040】
結果
1.毛髪のサイズ
各毛髪の写真を撮影し、その長さを、ソフトウエアを用いてμmとして評価した。供試外植体のセットに対して処理15日に行った観察によれば、AcSDKPが培養培地に10−10M濃度で存在すると、毛髪成長を有意に刺激することが示される(図1)。他方、さらに高濃度であっても試験したAcSDKPの存在下では、毛幹に有意な差は見られなかった。
【0041】
2.細胞増殖
この研究は凍結毛髪の切片で行った。上皮鞘に存在する細胞の、抗Ki67抗体による免疫標識により、AcSDKPの細胞分裂促進性作用が明らかになる。表1に示される結果は、AcSDKPは3種類の試験濃度で、対照毛髪に比べ、処理毛髪における細胞分裂の細胞数を有意に増やすことを示す。処理8日目の測定値は、この作用がAcSDKP 10−10Mで最大(+300%)となることを示す。細胞分裂における細胞数の評価はまた、AcSDKPの刺激作用が、特に処理8日目で、ミノキシジル(登録商標)10−5Mで見られるもの(+38%)よりも有意に大きいことを示す。
【0042】
従って、これらの毛髪で見られた所見は、AcSDKPは、毛髪が成長期にある場合に幹細胞が存在している領域である外部上皮鞘において、ミノキシジル(登録商標)よりも速やかにex vivoで細胞増殖を誘発することを証明する。
【0043】
【表1】

【0044】
3.一般形態
皮脂腺の開口部と毛球の間の領域に対する、マッソン・トリクローム染色法で染色した組織学的切片の一般形態の分析。
【0045】
0日目に培養した毛髪は、in vivo移植後に見られるように、生存中に自然に変化を受ける。AcSDKPの再構築効果は、幹細胞が見られる二領域である、毛球と程度は低いが湾曲部から結膜鞘に沿って移動する新生ケラチノサイトの出現によって目で見ることができた。単離毛髪セットの観察から、培養培地中にAcSDKPが存在すると、処理8日目のように、上皮鞘の再構築に至ることが示される。この作用は表皮から毛球まで毛髪の長さに沿った明らかな新生ケラチノサイトの出現をもたらす。このようにして形成された新生ケラチノサイトの構造は均一で層状である。それは処理時間とAcSDKP濃度の関数として変化する。10−10MのAcSDKPで処理して15日目に最も明瞭な活性が見られた。
【0046】
8日目に、対照毛髪において2〜3箇所の新生ケラチノサイト部位を可視化したが、10μMのミノキシジル(登録商標)ならびに10−4MのAcSDKPで処理した外植体には存在しなかった。他方、10−7Mおよび10−10MのAcSDKPで処理した毛髪の全長には、新生ケラチノサイト(細胞5〜6段)が極めて明瞭に出現していた。この上皮は、2種類の有効濃度で試験されるAcSDKPの存在下、生存状態で維持された毛髪における下層コラーゲンに完全に接着していたが、対照ならびに10−4MのAcSDKPおよびミノキシジル(登録商標)の存在下では、この上皮鞘は多かれ少なかれコラーゲンから解離していることを指摘しておかなければならない(図2)。
【0047】
15日目では、新生ケラチノサイトは、供試毛髪において均一で、ある程度の層状の構造を形成する。これは、非処理の毛髪に比べてミノキシジル(登録商標)10−5Mでは、若干構造化されている。これはAcSDKP10−4M、10−7M、特に10−10Mでますます厚くなり、毛球付近は細胞6〜7段、湾曲部では11〜12段までである(図2B)。
【0048】
4. 基底膜コラーゲン(IV型)の発現
上皮コンパートメントと真皮コンパートメントとを隔てるこの基底膜の構成要素を定量するため、対照毛髪およびAcSDKPまたはミノキシジル(登録商標)で処理した毛髪の凍結切片に対してIV型コラーゲンの免疫標識を行った。得られた結果を分析したところ、このテトラペプチドの存在下、生存状態で維持された毛髪におけるこのタンパク質の発現に対するAcSDKPの作用に最小の刺激しか示さないことが明らかとなった。実際、3種類の試験濃度のAcSDKPで処理したものの8日目では、毛球、特に、湾曲部と毛球の間の位置の毛髪の中間部分で、コラーゲンIVの極めて明瞭な増加が見られる。8日目と15日目に見られたコラーゲンレベルの増加は総て、10−10M濃度で試験したAcSDKPでより顕著である。このコラーゲンIVの発現は、ミノキシジル(登録商標)で処理した毛髪では明らかではない場合が多い(図3Aおよび3B)。
【0049】
5. ラミニン5の発現
基底膜のもう1つの構成要素であるラミニン5は、毛球の真皮乳頭周辺ならびに毛髪の中間部分に存在する。ラミニン5を免疫標識したところ、毛髪のAcSDKP暴露後、毛髪構造中のこのタンパク質のレベルが有意に高まることが明らかとなった。この効果は、10−10M濃度のAcSDKPで処理した毛髪の中間部分において処置8日目にかなり著しかった(図4A)。しかしながらやはり、ラミニン5の発現は10−7MのAcSDKPを用いた15日目のほうが高かった(図4B)。
【0050】
6. 上皮幹細胞マーカー発現ケラチン19(CK19)の発現
毛包の外部上皮鞘に存在する未分化の一次細胞(または幹細胞)の割合を評価するため、対照毛髪およびAcSDKPまたはミノキシジル(登録商標)で処理した毛髪の凍結切片に対してケラチン19(CK19)の免疫標識を行った。得られた結果は、K19の発現が、対照毛髪に比べ、特に、ミノキシジル(登録商標)で処理した毛髪に比べて、このテトラペプチドの存在下、生存状態で維持された毛髪において有意に高いことを示す。処理8日目と15日目でのCK19レベルの上昇は、10−10M濃度で試験したAcSDKPの場合に最大となる(図5)。得られた結果を分析したところ、上皮幹細胞におけるAcSDKPの刺激作用は毛包の外部鞘に沿って分布しており、毛髪周期の更新を担っていることを示す。
【0051】
7.テトラペプチドのin vivo単回投与を施した動物における放射性標識AcSDKPの組織局在
当該ペプチドの標的器官のin vivo標識を用いた補足試験を行った。この試験はリシン側鎖で特異的にトリチウム化された[H]AcSDKP(100Ci/ミリモル)を用いて開発したものである。ラットに[H]AcSDKPをin vivo注射した後、動物全体から取った切片のオートラジオグラフィーを行い、動物の皮膚ならびにひげの毛包における当該分子の蓄積を可視化できるようにした(図6)。このAcSDKPの優先部位は、これらの領域でこのテトラペプチドの生物作用が発揮されたことを示唆する。
【0052】
実施例2: ローション
エチルアルコール 50%
AcSDKP 0.1%
水 49.9%
香料 適量
【0053】
実施例3: ローション
ヒドロキシエチルセルロース 0.4%
エチルアルコール 25%
ブタン1,3−ジオール 38.4%
安息香酸パラメチルベンゾ 0.2%
AcSDKP 0.05%
香料 1%
水 適量加えて100%とする
【0054】
実施例4: 水中油型エマルション
油相
ビタミンE 1%
モノオレイン酸ソルビタン 2%
クォーターナム−18 0.5%
パラフィン 6.5%
水相
AcSDKP 0.5%
キサンタンガム 1%
保存剤 0.3%
香料 適量
水 適量加えて100%とする
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪喪失を制御するための薬剤としての組成物における、少なくとも1種類の式(I):
【化1】

[式中、
は、D−またはL−Serに相当する基であり、
は、D−もしくはL−Asp、またはGluに相当する基であり、
は、D−もしくはL−Lys、またはArgもしくはOrnに相当する基であり、
は、D−またはL−Proに相当する基であり、
およびRは独立に、水素原子、直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C12アルキル基、置換もしくは非置換型の直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C20アリールアルキル基、RCO−およびRCOO−から選択され、ここで、Rは、直鎖もしくは分枝型の置換もしくは非置換C−C12アルキル基、または置換もしくは非置換C7−20アリールアルキルであり、置換基としてはOH、NHおよびCOOHが挙げられ、
およびXは、ペプチド結合または偽ペプチド結合であり、
は、−COおよび−CH−から選択される基であり、
は、−OH、−NH、直鎖または分枝アルコキシC−C12または−NH−X−CH−Zから選択される基であり、ここで、Xは、直鎖または分枝C−C12炭化水素基であり、Zは水素原子または−OH、−COHもしくは−CONHである]
で示される化合物、ならびにそれらの生理学上許容される塩の化粧料的使用。
【請求項2】
毛髪の上皮鞘において幹細胞および/または新生ケラチノサイトの成長および/または分化を刺激するための薬剤としての組成物における、請求項1で定義された少なくとも1種類の式(I)の化合物の化粧料的使用。
【請求項3】
毛包においてコラーゲンIVおよび/またはラミニン5の産生を刺激するための薬剤としての組成物における、請求項1で定義された式(I)の化合物の化粧料的使用。
【請求項4】
毛髪成長を誘発および/または刺激するための薬剤としての組成物における、請求項1で定義された式(I)の化合物の化粧料的使用。
【請求項5】
毛髪密度を高めるための、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
脱毛症を予防するための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
式(I)の誘導体が少なくとも1種類の偽ペプチド結合を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
式(I)の化合物が:
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
CHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
CHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
H−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
H−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
H−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−OH、
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−OH、
H−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Ψ−(CHNH)−Asp−Lys−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Ψ−(CHNH)−Lys−Pro−NH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Ψ−(CHN)−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
H−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
H−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NHCH
HOOCCHCHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−NH
からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
式(I)の化合物が、式CHCO−Ser−Asp−Lys−Pro−OHで表される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
式(I)の化合物が、組成物の総重量の0.001重量%〜10重量%の範囲の量で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
毛髪喪失、特に脱毛症の治療および/または予防のための化粧料的方法であって、請求項1で定義された少なくとも1種類の式(I)の誘導体を含有する組成物を頭皮に適用することからなる、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−530181(P2008−530181A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555616(P2007−555616)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060029
【国際公開番号】WO2006/087363
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【Fターム(参考)】