説明

屋根の緑化システム

【課題】屋根に負担を掛けることなく、屋根を劣化から保護することができ、また、屋根を短期間で迅速に緑化することが可能であり、緑化面積を増大させつつ、施設の敷地を有効利用することができ、ひいては地球温暖化防止に寄与することができるようにする。
【解決手段】蔓植物30を用いた屋根の緑化システム1であって、蔓植物30の根31を植えるためのプランター部10と、建物100の折板屋根110に設置され、蔓植物30の成長した茎32を定着させるためのランド部20とを備え、プランター部10が、少なくとも、防水性を有する容器本体12と、この容器本体12内に収納された主培養土14と含むとともに、ランド部20が、少なくとも、折板屋根110に載置又は固定され、折板屋根110との間に通風路Fとなる間隔を形成する支持フレーム21と、この支持フレーム21上に被装された育成ネット24とを含む構成としてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蔓植物を利用した傾斜屋根、陸屋根(屋上)又は折板屋根等の屋根の緑化システムに関し、特に、荷重に対する耐久性が比較的低いトタン屋根、折板屋根又はスレート屋根等の緑化に好適な屋根の緑化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市緑地保全法の改正により、平成13年8月に緑化施設整備計画認定制度が創設された。この緑化施設整備計画認定制度は、都市における良好な環境を保全及び創出するために、建物の屋上、空地その他の屋外での緑化施設整備計画を市町村長が認定し、固定資産税の課税の特例措置等を講じ、屋上緑化等都市における緑化の推進を図ることを目的としている。
【0003】
詳述すると、緑化の推進を重点的に図る地区として定められた地区内の建物の敷地内(当該建物の屋上、空地その他の屋外に限る)において緑化施設を整備しようとする者は、整備する緑化施設の概要等を記載した緑化施設整備計画を作成し、一定の基準(敷地面積1000m2以上、緑化率20%以上等)に適合する場合には、この緑化施設整備計画を市町村長が認定することができる。
【0004】
従来の建物を緑化するための手段として、例えば、特許文献1〜5では、蔦等の蔓植物を建物の外壁面や屋根に定着させる緑化システムが開示されている。以下、これら従来の緑化システムについて簡単に説明する。
【0005】
特許文献1の緑化システムは、建物の外壁面に貫通孔を形成するとともに、建物の内側に土壌収容部を配設し、この土壌収容部に植え付けた蔦等の蔓植物を前記貫通孔から建物の外側に延出させて外壁面又は屋根に定着させる構成となっていた。
【0006】
特許文献2の緑化システムは、竹などの筒状又は樋状の収容体に植生土と遅効性肥料とを収容し、前記植生土に植え付けた蔦によって、コンクリートの擁壁面又は天然の岩盤からなる壁面を緑化する構成となっていた。
【0007】
特許文献3の緑化システムは、水、養分を供給する灌水管を有する緑化基盤材に蔦を植え付けてビニールハウス内で育成し、蔦が十分に生育した後、前記緑化基盤材を植物ユニットとして建物壁面に取り付け、その後、前記植物ユニットの灌水管に水分、養分を供給する供給管を接続するとともに、蔦を建物壁面全体に誘導する誘導ネットによって植物ユニット全体をカバーする構成となっていた。
【0008】
特許文献4の緑化システムは、植物繊維と不織布とを合着させたシートに、長期溶出コーキング肥料と微量要素とを混入し、これに蔦を植生させてハウス栽培で緑化シートを完成させ、この緑化シートを構築物の壁面に施工して緑化する構成となっていた。
【0009】
特許文献5の緑化システムは、複数のアクリル又はABS樹脂製の箱を備え、これら箱を四方へ連続組み合わせして防水防根の水耕槽を形成し、この水耕槽で蔦を水耕栽培して都市建造物を緑化する構成となっていた。
【特許文献1】特開2006−121911号公報
【特許文献2】特開2003−27507号公報
【特許文献3】特開2000−300079号公報
【特許文献4】特開平10−98937号公報
【特許文献5】特開2002−176850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
工場、倉庫、駐車場等が建設された工業プラントなどの施設を緑化する場合には、全く利用されていない屋根を緑化することが、敷地の有効利用の観点から好ましいと考えられる。しかし、工場、倉庫、駐車場等の屋根には、折板屋根、スレート屋根又はトタン屋根等が多用されており、これら折板屋根等を、上述した従来の緑化システムによって緑化することは困難であった。
【0011】
すなわち、特許文献1〜3の緑化システムにより折板屋根等を緑化しようとすれば、蔓植物の茎や葉が、日射を受けて高温となった折板屋根等に直接接触することになるので、蔓植物にとって良好な育成環境を形成することができないという問題があった。
【0012】
また、特許文献4の緑化システムは、シート上で蔓植物を育成する構成となっているので、成長した茎や葉が折板屋根等に直接接触することはないが、蔓植物の不定根(地下茎から生じた根以外の根)がシートを通過して折板屋根等に到達し、根酸等によって折板屋根等が劣化しまうという問題があった。
【0013】
さらに、特許文献5の緑化システムは、アクリル又はABS樹脂製の水耕槽で蔦を水耕栽培する構成となっているので、上述したような二つの問題は生じないが、複数の水耕槽を四方に連続組み合わせして屋根に設置しなければならず、比較的耐久性の低い折板屋根等には、重量が大きすぎて施工することができないという問題があった。
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、屋根に負担を掛けることなく、屋根を劣化から保護することができ、また、屋根を短期間で迅速に緑化することが可能であり、緑化面積を増大させつつ、施設の敷地を有効利用することができ、ひいては地球温暖化防止に寄与することができる屋根の緑化システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る屋根の緑化システムは、蔓植物を用いた屋根の緑化システムであって、前記蔓植物の根を植えるためのプランター部と、建物の屋根に設置され、前記蔓植物の伸長した茎を定着させるためのランド部とを備え、前記プランター部が、少なくとも、防水性を有する容器本体と、この容器本体内に収納された主培養土と含むとともに、前記ランド部が、少なくとも、前記屋根に載置又は固定され、前記屋根との間に通風路となる間隔を形成する支持フレームと、この支持フレーム上に被装された育成ネットとを含む構成としてある。
【0016】
このような構成によれば、容器本体内に主培養土を収納したプランター部を屋根に設けることなく、重量の軽い蔓植物の茎及び葉の部分、育成ネット、支持フレームによって、屋根に負担を掛けることなく緑化することができる。
【0017】
特に、本発明によれば、荷重に対する耐久性が比較的低いトタン屋根、折板屋根又はスレート屋根等を緑化することができ、これらの屋根を備えた工場、倉庫、駐車場等が建設された工業プラントなどの施設において、緑化面積を増大させつつ、敷地の有効利用を図ることができる。
【0018】
また、蔓植物は、比較的成長が早いので(ex.蔦ならば1年で約3〜5mm)、短期間で迅速に茎及び葉で屋根を覆って緑化することができ、茎及び葉によって覆われた屋根が直射日光や降雨等から保護され、その劣化が軽減されるとともに、この屋根を備えた建物内の温度上昇を軽減することができる。
【0019】
さらに、蔓植物と屋根との間には、支持フレームによって通風路が形成されるので、例えば、折板屋根やトタン屋根等の金属製の屋根に本緑化システムを設けた場合には、これら金属製の屋根を通風によって放熱し、蔓植物の良好な育成環境を形成することができる。特に、折板屋根の場合は、支持フレームによって形成される間隔と、折板屋根の連続する凹凸形状により形成される間隔との合計で十分に広い通風路が形成されるので、金属製の屋根を効果的に放熱することができる。
【0020】
ここで、「屋根」には、傾斜屋根、陸屋根(屋上)、折板屋根、スレート屋根、トタン屋根等の様々な形態又は材質のものが広く含まれ、本発明の緑化システムは、これら様々な形態又は材質の屋根を緑化することができる。
【0021】
「蔓植物」には、例えば、茎自体、巻き鬚、刺、鉤、吸盤、根等によって、伸長した茎を育成ネットに定着させる蔦、朝顔、藤、薔薇などの植物が広く含まれる。
【0022】
「支持フレーム」には、屋根と育成ネットとの間に上下方向(傾斜屋根の場合は斜め上下方向も含む)の間隔を形成することが可能な、耐食性に優れた金属製又は合成樹脂製のフレーム構造体が広く含まれる。例えば、屋根に対して水平方向に延びる上下一対のフレーム本体を、屋根に対して垂直方向の束柱で連結した格子状部材を、屋根の四辺及び中央等に組み付けたフレーム構造体とすることができる。支持フレームは、屋根に負担を掛けない観点から、できるだけ軽量であることが好ましい。
【0023】
「育成ネット」は、蔓植物の茎及び葉を定着させるとともに、後述する育成シート及び防根シートを押さえるためのものである。ネットの材質としては、熱による伸縮が少なく、長年の使用により劣化しないものが好ましく、例えば、ポリエステル繊維や樹脂によって形成することができる。また、軽量化の観点から、ネットの編み目を妥当な大きさとし、縦糸部材及び横糸部材を必要最低限の本数にするとよい。
【0024】
「主培養土」は、天然の土のみ、又は肥料、腐葉土、石灰等を一定の割合で混合した土が広く含まれる。なお、蔓植物の定根(地下茎から生じた根)を育成するための「主培養土」と、蔓植物の不定根(定根以外の根)を育成するための後述する「副培養土」とは、便宜的に主、副の関係をつけたにすぎず、いずれも同様の培養土である。
【0025】
好ましくは、前記ランド部が、前記支持フレーム上に敷設された非透水性の防根シートと、この防根シート上に施設された保水性を有する繊維からなる育成シートとを含む構成とする。
【0026】
このような構成によれば、蔓植物の茎から生じた不定根を育成シートに定着させ、この育成シートに蓄えられた水分によって不定根を育成することができる。また、防根シートの非透水性により、屋根を雨水から保護することができるとともに、蔓植物の不定根の屋根への浸食を防止することができる。
【0027】
ここで、「防根シート」は、非透水性を有するものであれば、同時に根の浸食を防止することができると考えられ、例えば、合成樹脂製のシート材、合成繊維又は天然繊維の織布又は不織布を合成樹脂材料でコーティングしたシート材など、非透水性を有し、蔓植物の根を通さない種々のシート材が広く含まれる。例えば、ポリエステル繊維製の織物をポリエステル樹脂でコーティングしたシート材は、熱による伸縮が少なく、高い耐久性を有しており、防根シートに好適である。
【0028】
また、「育成シート」は、水分を蓄えることが可能な合成繊維又は天然繊維の織布又は不織布が広く含まれる。例えば、天然繊維織物である麻製のシート材は、保水性のみならず、後述する副培養土や肥料等の粉体又は粒状体の付着性が良好であり、蔓植物や周囲の環境に悪影響を及ぼすこともない。さらに、産業上、麻袋が広く普及しているので廃材の再利用も可能であり、育成シートに好適である。
【0029】
好ましくは、前記ランド部の育成シートを袋状にし、この袋内に副培養土を収納した構成とする。
【0030】
このような構成によれば、育成シートを袋状としたことにより、副培養土を良好に保持することができ、袋内の副培養土の風雨による流出を低減することができる。また、上述した麻袋を育成シートとして用いる場合には、廃材である麻袋を何ら加工することなく、そのまま再利用することができる。したがって、ローコストであって、手間なく容易に施工することができるとともに、資源の有効利用という公益的な要請をも満たすことが可能となる。
【0031】
好ましくは、前記屋根が折板屋根又はスレート屋根であり、これら折板屋根又はスレート屋根を固定するボルトに、前記ランド部の支持フレームを締結した構成とする。
【0032】
このような構成によれば、特に支持フレームを固定するための専用部品が不要となり、構成の簡単化、部品点数の減少による工数削減及びローコスト化を図ることができる。また、上述したように、工業プラントの建築物に多用されている折板屋根又はスレート屋根を、極めて軽量な構成で負荷なく緑化することができるので、かかる工業プラントの緑化面積を増大させつつ、敷地の有効利用を図ることができる。さらに、上述したように、折板屋根の場合は、支持フレームによって形成される間隔と、折板屋根の連続する凹凸形状により形成される間隔との合計で十分に広い通風路が形成されるので、金属製の屋根を効果的に放熱することができる。
【0033】
好ましくは、前記プランター部が、前記容器本体の内周面に介設された断熱シートを含む構成とする。
【0034】
このような構成によれば、断熱シートにより、周囲の温度変化の影響を低減してプランター部内を所定の温度範囲に保つことができ、年間を通じて蔓植物の根(定根)の育成を良好にすることが可能となる。断熱シートとしては、熱伝導率の低い材質のシート材、例えば、ビニールシートを用いることができる。
【0035】
好ましくは、前記プランター部が、前記容器本体内における前記主培養土の下に収納された非水溶性かつ軽量の粒状部材と、前記主培養土及び粒状部材の間に介設された透水性のフィルタ部材とを含む構成とする。
【0036】
このような構成によれば、粒状部材によって、主培養土を底上げしてプランター部の軽量化を図ることができるとともに、粒状部材が、蔓植物の根(定根)の四方への伸長を妨げることなく、良好な育成環境を形成する。また、フィルタ部材が、主培養土と粒状部材とが混合しないように区画し、多量の雨水が容器本体内に流れ込んだ場合などに、粒状部材の浮き上がり、流出を防止する。
【0037】
ここで、粒状部材は、主培養土を底上げしてプランター部の軽量化することを目的としている。したがって、粒状部材の「軽量」とは、少なくとも主培養土より単位面積あたりの重量が軽いことを意味する。また、「粒状部材」としては、非水溶性であって天然又は合成の中実又は中空の材料を用いることができ、例えば、発泡スチロールをはじめとする中実又は中空の発泡プラスチック粒などが好適である。さらに、「フィルタ部材」として、例えば、合成繊維又は天然繊維の織布又は不織布を用いることができる。なお、フィルタ部材を織布とした場合、その織り目は、主培養土及び粒状部材の通過を概ね阻止できる程度に小さくなければならない。
【0038】
好ましくは、前記プランター部が、前記容器本体内において前記粒状部材を収納するための側壁及び透水性の底壁を備えた育成枠と、この育成枠の底壁を支持して前記容器本体の底部に保水層となる空間を形成する台座枠とを含む構成とする。
【0039】
このような構成によれば、粒状部材を育成枠に収納し、この育成枠にフィルタ部材を覆い被せることによって粒状部材を包囲し、その浮き上がりと流出とをより確実に防止することができる。また、台座枠は、主培養土、フィルタ部材、粒状部材、及び育成枠の底壁を通過した水分を蓄えて保水層を形成する。この保水層は、蔓植物の根(定根)に、直接又は間接的に水分を供給する。
【0040】
ここで、「育成枠」としては、ある程度の強度を有し、耐食性に優れた合成樹脂製とすることが好ましい。育成枠の側壁と底壁とを一体成形してもよいし、例えば、底壁のみを別体の合成樹脂又は金属製の網とし、側壁に組み付ける構成としてもよい。なお、底壁の網目は、粒状部材より小さくしてもよいし、大きくてもかまわない。底壁の網目を粒状部材より小さくした場合は、台座枠によって形成される保水層に粒状部材が充填されない構成となる。逆に、底壁の網目を粒状部材より大きくした場合は、保水層にも粒状部材が充填される構成となる。
【0041】
好ましくは、前記プランター部の前記容器本体に所定の許容保水量を設定し、前記容器本体における前記許容保水量の水位に相当する位置に排水口を設けた構成とする。
【0042】
このような構成によれば、容器本体の許容保水量を上回る余分な水が排水口から排出されるので、容易に許容保水量を維持することが可能となり、極めて簡単な構成で蔓植物の根腐れを防止することができる。
【0043】
ここで、「排水口」は、粒状部材を充填した位置に設けることが好ましく、その形態として、例えば、フィルタ等によって粒状部材の流出防止を図った孔、粒状部材よりも小さな複数の孔、孔にドレンパイプを連結して排水の方向を制御したものなど、種々の形態が広く含まれる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の屋根の緑化システムによれば、屋根に負担を掛けることなく、屋根を劣化から保護することができ、また、屋根を短期間で迅速に緑化することが可能であり、緑化面積を増大させつつ、施設の敷地を有効利用することができ、ひいては地球温暖化防止に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の一実施形態に係る屋根の緑化システムについて、図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の一実施形態に係る屋根の緑化システムを実施した建物を示す斜視図である。図2は上記緑化システムを示す要部断面図である。図3は上記緑化システムを構成するプランター部の側面断面図である。図4は上記プランター部を構成する育成枠及び台座枠を示す斜視図である。図5は上記緑化システムを構成するランド部の分解斜視図である。図6は上記緑化システムを構成するランド部の平面図である。
【0046】
図1及び2において、1は本発明の一実施形態に係る緑化システムであり、主として、プランター部10とランド部20及び蔓植物30からなっている。プランター部10は、建物100の正面壁の上端部に図示しないブラケットによって固定してある。一方、ランド部20は、建物100の折板屋根110の上に設置してある。そして、プランター部10に植えた蔦などの蔓植物30が成長し、伸長した茎32や葉33がランド部20に定着するようになっている。
【0047】
<プランター部10の説明>
図3に示すように、プランター部10は、容器本体12の外側を外装部材11で覆った構成となっている。容器本体12の内部には、蔓植物30(図1及び図2参照)を育成するための後述の手段13〜18が収容してある。
【0048】
外装部材11は、例えば、軽量の化粧板等からなり、好ましくは、建物100にマッチする種々の装飾的なデザインとするとよい。このような外装部材11によって、袋状の耐水シートからなる容器本体12の外観を隠している。
【0049】
容器本体12は、合成繊維にゴムを含浸した耐水シートにより形成された断面略U字状の長手方向に延びる袋状部材である。容器本体12の内側には、図示しないフレームが取り付けてあり、柔軟な容器本体12を所定の容器形状に維持している。
【0050】
また、容器本体12の内面には、ビニールシート等の簡易な断熱シート13を介在させてあり、容器本体12の内外の熱伝達を阻止している。これにより、容器本体12内の温度を、外気と比較して夏は低温、冬は高温とすることができ、蔓植物30の定根31(図2参照、以下同じ)を育成するのに良好な温度環境を形成している。
【0051】
さらに、容器本体12の断熱シート13の内側には、上から順に、主培養土14、フィルタ部材15、粒状部材16を収納した育成枠17及び台座枠18を、互いに積層した状態で収容してある。
【0052】
主培養土14は、蔓植物30を栽培するために好適な肥料、腐葉土、石灰などを一定の割合で混ぜ合わせた土である。主培養土14の配合は特に限定されず、天然又は人工のいずれの土を用いることもできる。
【0053】
フィルタ部材15は、主培養土14と粒状部材16とが混合しないように区画し、多量の雨水が容器本体12内に流れ込んだ場合などに、粒状部材16の浮き上がり、流出を防止するためのものである。このようなフィルタ部材15として、例えば、主培養土14及び粒状部材16の通過を概ね阻止しつつ、透水性を有する不織布又は織布を用いることができる。
【0054】
粒状部材16は、主培養土14を底上げしてプランター部10の軽量化を図るためのものであり、非水溶性であって、少なくとも主培養土14よりも、単位面積あたりの重量が軽い材料、例えば、発泡スチロール粒からなっている。上述した主培養土14に植えた蔓植物30の定根31は、その成長とともにフィルタ部材15を通過し、粒状部材16に到達する。粒状部材16は、定根31の四方への伸長を妨げることなく、良好な育成環境を形成する。
【0055】
このような粒状部材16は、図4に示すような四角形状の育成枠17内に収納してある。育成枠17は、外衝や主培養土14の重さに耐え得るある程度の強度を有し、耐食性にも優れた合成樹脂製としてあり、その底壁には、粒状部材16よりも直径の小さい透孔17aが多数穿設してある。これら透孔17aによって、主培養土14、フィルタ部材15及び粒状部材16を通過した水が、その下の台座枠18へと供給される。なお、台座枠18にも粒状部材16を収容する場合は、育成枠17の透孔17aの直径を粒状部材16より大きくしてもよい。
【0056】
台座枠18は、図3及び図4に示すように、育成枠17と同寸法の四角形状となっており、その中央には、育成枠17の底壁を支持する断面略C型の支柱18aが立設してある。このような台座枠18は、その内部に育成枠17の透孔17aを通過した水を蓄え、保水層18bを形成する。この保水層18bに蓄えられた水は、直接又は蒸発して蔓植物30の定根31の育成に寄与する。
【0057】
なお、図示していないが、上述した一対の育成枠17と台座枠18とは、容器本体12の内部の長手方向に複数並べて配設してあり、容器本体12の容積のほぼ下半分を占めている。
【0058】
ここで、本実施形態では、容器本体12に所定の許容保水量が設定してあり、容器本体12における許容保水量の水位W(図3参照)に相当する位置に排水口(ドレンパイプ)19を設けた構成となっている。この排水口19は、外装部材11、容器本体12及び断熱シート13を貫通して、粒状部材16を収容した育成枠17の内部に連通している。
【0059】
この排水口19から、容器本体12の許容保水量を上回る余分な水が排出されるので、容易に許容保水量を維持することが可能となり、極めて簡単な構成で蔓植物30の根腐れを防止することができる。
【0060】
<ランド部20の説明>
図5に示すように、ランド部20は、建物100の折板屋根110の上に複数の支持フレーム21,21,21…を格子状に組み、これら支持フレーム21の上に防根シート22、育成シート23及び育成ネット24を順番に重ね合わせた構成となっている。
【0061】
単一の支持フレーム21は、互いに平行な一対のフレーム本体21a,21aを、等間隔に配置した複数の束柱21b,21b,21b…により連結した格子状となっている。本実施形態では、この支持フレーム21を鋼材により形成し、良好な耐食性をもたせるために亜鉛メッキした構成としてある。
【0062】
鋼材を亜鉛メッキした場合は、支持フレーム21のローコスト化を図ることができるが、その他、ステンレスや合成樹脂により支持フレーム21を形成してもよい。このような支持フレーム21は、折板屋根110に負担を掛けない観点から、できるだけ軽量であることが好ましい。
【0063】
例えば、図6に示すように、建物100の折板屋根110の寸法が縦5m×横5mであるならば、単一の支持フレーム21の全長L1を2.5mに設定し、各支持フレーム21どうしを折板屋根110の四辺、及びその中央部分で交差するように互いにボルトで組み付けている。
【0064】
また、図2に示すように、各支持フレーム21と折板屋根110とは、折板屋根110を構成する折板110a,110aどうしを連結するボルト111の余長部分にナット112で締結してある(図2中の拡大図参照)。これにより、支持フレーム21によって形成される間隔(束柱21bの全長約10cmにほぼ相当する)と、折板屋根110の連続する凹凸形状により形成される間隔とを合計した間隔(25cm)の通風路Fが、防根シート22の下方に形成される。
【0065】
なお、フレーム本体21aの素材であるL型フレーム、及び束柱21bの素材である円柱パイプは、いずれも汎用品であるから、これらL型フレーム及び円柱パイプの端材又は残材を再利用して、支持フレーム21を製造することができる。
【0066】
次いで、図2及び図5に示すように、防根シート22は、非透水性のシート材、例えば、合成樹脂製のシート材、合成繊維又は天然繊維の織布又は不織布を合成樹脂材料でコーティングしたシート材など、非透水性を有し、蔓植物30の伸長した茎32から生えた不定根32aを通さない(図2中の拡大図参照)種々のシート材により形成することができる。
【0067】
本実施形態では、ポリエステル繊維製の織物をポリエステル樹脂でコーティングしたシート材によって防根シート22を形成してある。このような防根シート22は、良好な非透水性及び不定根32aの遮断性に加えて、熱による伸縮が少なく、高い耐久性を有している。
【0068】
また、防根シート22の四辺には、所定の間隔で複数のアイレット金具22a,22a,22a…が取り付けてあり、これらアイレット金具22aに図示しない紐を通し、支持フレーム21のフレーム本体21aに結び付けることによって、防根シート22を支持フレーム21に張設している。
【0069】
育成シート23,23,23…は、水分を蓄えることが可能な合成繊維又は天然繊維の織布又は不織布からなっている。本実施形態では、他の用途に使用済みの麻袋を各育成シート23としてそのまま再利用している。各育成シート23の中には、蔓植物30の茎32から生えた不定根32aを育成するための少量の副培養土23aを入れてある。この副培養土23aは、上述した主培養土14と同じ成分となっている。
【0070】
天然繊維織物である麻製の育成シート23は、保水性のみならず、副培養土23aや肥料等の粉体又は粒状体の付着性が良好であり、蔓植物30や周囲の環境に悪影響を及ぼすこともない。さらに、産業上、麻袋が広く普及しているので廃材の再利用も可能である。
【0071】
育成ネット24は、蔓植物30の伸長した茎32及び葉33を定着させるとともに、上述した育成シート23及び防根シート22を押さえるためのものである。育成ネット24の材質としては、熱による伸縮が少なく、長年の使用により劣化しないものが好ましく、例えば、ポリエステル繊維や樹脂によって形成することができる。また、軽量化の観点から、育成ネット24の編み目を妥当な大きさとし、縦糸部材及び横糸部材を必要最低限の本数にするとよい。
【0072】
また、育成ネット24の四辺には、所定の間隔で複数のアイレット金具24a,24a,24a…が取り付けてあり、これらアイレット金具24aに図示しない紐を通し、支持フレーム21のフレーム本体21aに結び付けることによって、育成ネット24を支持フレーム21に張設している。なお、アイレット金具24aとアイレット金具22aとに同じ紐を通し、育成ネット24と防根シート22とを一緒にフレーム本体21aに結び付けて張設してもよい。
【0073】
<作用・効果>
上述した本実施形態に係る屋根の緑化システム1によれば、プランター部10に植えた蔓植物30が成長すると、その茎32及び葉33が、図示しない巻き鬚、吸盤又は不定根等を絡ませて育成ネット24に定着し、建物100の折板屋根110全体を緑化することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る屋根の緑化システム1によれば、比較的重量の重いプランター部10を折板屋根110の上に設けることなく、重量の軽いランド部20のみを折板屋根110の上に設けているので、比較的耐久性の低い折板屋根110に負担を掛けることなく緑化することができる。これにより、折板屋根110を備えた工場、倉庫、駐車場等の建物100が建設された工業プラントなどの施設において、緑化面積を増大させつつ、敷地の有効利用を図ることができる。
【0075】
また、蔓植物30は、比較的成長が早いので、短期間で迅速に茎32及び葉33で折板屋根110を覆って緑化することができ、茎32及び葉33によって覆われた折板屋根110が直射日光や降雨等から保護され、その劣化が軽減されるとともに、建物100内の温度上昇を軽減することができる。
【0076】
さらに、蔓植物30と折板屋根110との間には、支持フレーム21によって通風路Fが形成されるので、この通風路Fを通る風によって金属製の折板屋根110を放熱し、蔓植物30の良好な育成環境を形成することができる。特に、折板屋根110の場合は、支持フレーム21によって形成される間隔と、折板屋根110の連続する凹凸形状により形成される間隔との合計で十分に広い通風路Fが形成されるので、金属製の折板屋根110を効果的に放熱することができる。
【0077】
これに加え、蔓植物30の茎32から生じた不定根32aを育成シート23に定着させ、この育成シート23に蓄えられた水分によって不定根32aを育成することができる。また、防根シート22の非透水性により、折板屋根110を雨水から保護することができるとともに、蔓植物30の不定根32aの折板屋根110への浸食を阻止し、根酸などによる折板屋根110の劣化を防止することができる。
【0078】
さらに、本実施形態に係る屋根の緑化システムによれば、支持フレーム21及び育成シート23に端材、残材又は廃材を再利用することができるので、ローコストであって、手間なく容易に施工することができるとともに、資源の有効利用という公益的な要請をも満たすことが可能となる。
【0079】
なお、本発明に係る屋根の緑化システム1は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本緑化システム1は、折板屋根110に限らず、傾斜屋根、陸屋根(屋上)、スレート屋根、トタン屋根等の様々な形態又は材質の屋根に広く適用することができ、本発明の緑化システム1は、これら様々な形態又は材質の屋根を緑化することができる。
【0080】
また、緑化システム1に用いられる蔓植物30は、蔦に限らず、茎自体、巻き鬚、刺、鉤、吸盤、根等により伸びた茎を育成ネットに定着させる朝顔、藤、薔薇等の植物を広く用いることができる。
【0081】
さらに、上記実施形態では、建物100の一方の正面壁にプランター部10を設けたが、例えば、建物100の正面及び背面壁にそれぞれプランター部10を設ければ、蔓植物30が建物100の前後両方から伸長するので、上記実施形態の半分の時間で同じ面積の屋根を緑化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の一実施形態に係る屋根の緑化システムを実施した建物を示す斜視図である。
【図2】上記緑化システムを示す要部断面図である。
【図3】上記緑化システムを構成するプランター部の側面断面図である。
【図4】上記プランター部を構成する育成枠及び台座枠を示す斜視図である。
【図5】上記緑化システムを構成するランド部の分解斜視図である。図6は上記緑化システムを構成するランド部の平面図である。
【図6】上記緑化システムを構成するランド部の平面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 緑化システム
10 プランター部
11 外装部材
12 容器本体
13 断熱シート
14 主培養土
15 フィルタ部材
16 粒状部材
17 育成枠
18 台座枠
18a 支柱
18b 保水層
19 排水口
20 ランド部
21 支持フレーム
22 防根シート
22a アイレット金具
23 育成シート
23a 副培養土
24 育成ネット
24a アイレット金具
30 蔓植物
31 定根
32 茎
32a 不定根
33 葉
100 建物
110 折板屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蔓植物を用いた屋根の緑化システムであって、
前記蔓植物の根を植えるためのプランター部と、
建物の屋根に設置され、前記蔓植物の伸長した茎を定着させるためのランド部と
を備え、
前記プランター部が、少なくとも、防水性を有する容器本体と、この容器本体内に収納された主培養土と含むとともに、
前記ランド部が、少なくとも、前記屋根に載置又は固定され、前記屋根との間に通風路となる間隔を形成する支持フレームと、この支持フレーム上に被装された育成ネットとを含むことを特徴とする屋根の緑化システム。
【請求項2】
前記ランド部が、前記支持フレーム上に敷設された非透水性の防根シートと、この防根シート上に施設された保水性を有する繊維からなる育成シートとを含むことを特徴とする請求項1記載の屋根の緑化システム。
【請求項3】
前記ランド部の育成シートを袋状にし、この袋内に副培養土を収納したことを特徴とする請求項2記載の屋根の緑化システム。
【請求項4】
前記屋根が折板屋根又はスレート屋根であり、これら折板屋根又はスレート屋根を固定するボルトに、前記ランド部の支持フレームを締結したことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の屋根の緑化システム。
【請求項5】
前記プランター部が、前記容器本体の内周面に介設された断熱シートを含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の屋根の緑化システム。
【請求項6】
前記プランター部が、前記容器本体内における前記主培養土の下に収納された非水溶性かつ軽量の粒状部材と、前記主培養土及び粒状部材の間に介設された透水性のフィルタ部材とを含むことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の屋根の緑化システム。
【請求項7】
前記プランター部が、前記容器本体内において前記粒状部材を収納するための側壁及び透水性の底壁を備えた育成枠と、この育成枠の底壁を支持して前記容器本体の底部に保水層となる空間を形成する台座枠とを含むことを特徴とする請求項6記載の屋根の緑化システム。
【請求項8】
前記プランター部の前記容器本体に所定の許容保水量を設定し、前記容器本体における前記許容保水量の水位に相当する位置に排水口を設けたことを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の屋根の緑化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−48676(P2008−48676A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229061(P2006−229061)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(500420971)株式会社サンオウ (9)
【Fターム(参考)】