説明

岩盤の亀裂密度と飽和度の推定方法

【課題】 岩盤における不飽和域の生成の有無や、不飽和が生じた場合における分布状況等を正確に把握するために、岩盤の亀裂密度と飽和度とを精度良く推定する。
【解決手段】 岩盤におけるS波速度と亀裂密度との関係を表す第1の関係、P波速度と亀裂密度と飽和度との関係を表す第2の関係、比抵抗値と飽和度との関係を表す第3の関係をそれぞれ予め求めておく。岩盤に対して弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィによる計測と解析を行ってS波速度、P波速度、比抵抗値をそれぞれ測定し、第1の関係に基づいて亀裂密度を算定し、第2の関係に基づいて飽和度の第1算定値を算定し、第3の関係に基づいて飽和度の第2算定値を算定する。第1〜第3の関係を微修正しつつ第1算定値と第2算定値の算定を繰り返してその誤差を一定範囲内に収斂させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は岩盤の亀裂密度と飽和度を推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原油や液化石油ガス、液化天然ガス等の石油類の岩盤内貯蔵方式として、図5に示すような水封式による岩盤内圧力貯蔵方式が一般的になりつつある。これは、地下岩盤に設けた岩盤タンク1を貯槽として貯蔵物を貯蔵するとともに、その周辺の地下水圧による地下水流の動水勾配によって貯蔵物を岩盤タンク1内に封じ込めて周囲への漏洩を防止するものである。このような水封式の岩盤内圧力貯蔵方式においては、自然の地下水圧のみで十分な水封圧を確保できない場合には人工水封方式が採用される。人工水封方式は岩盤タンク1の上方や周囲に設けた多数の水封ボーリング孔から岩盤タンク1まわりに人工的に給水して水封カーテンを形成することにより、自然地下水圧の不足を人工的に補って地下水圧を維持することで水封をより確実にするものである。
【0003】
ところで、上述のような水封式の地下岩盤内圧力貯蔵方式は、自然あるいは人工の地下水圧の水頭h(m)が貯蔵物の設計貯蔵圧力P(kgf/cm)より高い(つまり、h>10P)ことが前提となるが、その場合において地下水圧による水封機能が有効に成立するためには地下水位以深においては岩盤タンク1の周辺岩盤は地下水で飽和されていることが条件となり、地下水位が岩盤タンク1よりも高い場合であっても岩盤タンク1周辺の岩盤が不飽和であると十分かつ安定な水封機能が望めるものではない。したがって、この種の貯蔵施設においては、岩盤タンク1の周辺地盤が常に地下水で飽和状態に保たれて不飽和が生じていないかどうかを調査し確認することが重要な管理項目となる。
【0004】
そのため、従来においては岩盤タンク1の周囲に調査用ボーリング孔を設けてそこに中性子水分計等を挿入して飽和度を直接的に測定することが考えられている。また、たとえば特許文献1のように岩盤の比抵抗を測定することでその飽和度を推定したり、さらには特許文献2のように電磁波トモグラフィによって岩盤の不飽和域をモニタリングするという手法も提案されている。
【特許文献1】特開2001−4576号公報
【特許文献2】特開2004−93397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれにしても岩盤内の不飽和領域の有無を確認し得る有効適切な調査手法は現在のところ確立されておらず、水分計等による直接計測の場合はもとより、特許文献1や特許文献2に示される推定手法によることでも飽和度を精度良くしかも広範囲にわたって推定できるものではない。そのため、従来におけるこの種の施設における岩盤タンクの水封機能の健全性は、周辺地下水位や水圧の分布状況、岩盤タンク内の貯蔵圧や液面変化等の貯蔵状況、周囲への漏出状況等を観測することで間接的に確認せざるを得ないのが実情である。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は岩盤における不飽和域の生成の有無や、不飽和が生じた場合における分布状況等を正確に把握するために、岩盤の亀裂密度と飽和度とを精度良く推定し得る有効適切な手法を確立することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、岩盤の亀裂密度および飽和度を推定するための方法であって、岩盤におけるS波速度と亀裂密度との関係を表す第1の関係、P波速度と亀裂密度と飽和度との関係を表す第2の関係、比抵抗値と飽和度との関係を表す第3の関係をそれぞれ予め求めておき、推定対象の岩盤に対して弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィによる計測と解析を行って岩盤のS波速度、P波速度、比抵抗値をそれぞれ測定し、S波速度の測定値から前記第1の関係に基づいて亀裂密度を算定し、亀裂密度の推定値とP波速度の測定値から前記第2の関係に基づいて飽和度の第1算定値を算定するとともに、比抵抗値の測定値から前記第3の関係に基づいて飽和度の第2算定値を算定し、それら第1算定値と第2算定値とを比較してその差が一定範囲を越えている場合には前記第1〜第3の関係を微修正しつつ第1算定値と第2算定値の算定を繰り返してその差を一定範囲内に収斂させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィを基本とする解析手法により亀裂密度と飽和度とを広範囲にわたって推定することが可能であり、弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィの双方によってそれぞれの特性を生かした総合的な評価が可能であるから、それぞれを単独で実施する場合の推定手法に較べて推定精度をより向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1〜図4を参照して本発明の推定方法の実施形態を説明する。本実施形態の推定方法は図1にフローチャートとして示すように、推定対象の岩盤に対して観測ボーリング孔等を用いた通常の2次元的あるいは3次元的な弾性波トモグラフィと比抵抗トモグラフィによる計測と解析を行うことにより、岩盤のS波速度、P波速度、比抵抗値をそれぞれ測定し、それらの測定値に基づいて岩盤の亀裂密度と飽和度とを推定することを基本とするものであるが、本実施形態では岩盤におけるS波速度、P波速度、比抵抗値、亀裂密度、飽和度の相互関係を予め求めておいて、それらの関係に基づいて、S波速度とP波速度と比抵抗値の測定値から亀裂密度と飽和度とを推定することを主眼としている。
【0010】
すなわち、一般に岩盤におけるS波速度は岩盤内の亀裂の存在の影響を受けるものであって、図2に示すように亀裂密度ρが大きくなるほどS波速度は小さくなって単位長さ当たりの走時Tsは長くなり、したがってこの関係(第1の関係)を予め実験ないし既往の研究成果により求めておくことにより、弾性波トモグラフィによる走時Tsの測定値から亀裂密度ρを推定することができる。なお、S波は剪断波であることから飽和度の影響は受けない。
【0011】
また、岩盤におけるP波速度についてはS波速度と同様に岩盤の亀裂の影響を受けるが、同時に岩盤の飽和度の影響も受けるものであり、一般にはP波走時Tpと亀裂密度ρと飽和度Swとの間には、図3に示すように亀裂密度ρをパラメータとする関係、すなわち飽和度Swが大きくなるほどP波速度は大きくなって走時Tpは短くなり、また亀裂密度ρが大きくなるほど走時Tpが長くなるという関係があり、したがってこの関係(第2の関係)を予め実験ないし既往の研究成果により求めておくことにより、弾性波トモグラフィによる走時Tpの測定値と、走時Tsの測定値から上記第1の関係によって求めた亀裂密度ρの値とから、飽和度Swを算定することができる(この手法で算定する飽和度の算定値を第1算定値とする)。
【0012】
さらに、岩盤の比抵抗値は岩盤の飽和度の影響を受け、一般には飽和度が大きくなると比抵抗値は小さくなる。したがって、予め飽和度と比抵抗値との関係(第3の関係)を実験ないし既往の研究成果により求めておけば、比抵抗トモグラフィによる比抵抗値の計測値からも飽和度Swを算定することができる(この手法で算定する飽和度の算定値を第2算定値とする)。なお、比抵抗値は電気伝導度の逆数であるので、上記の第3の関係を図4に示すような飽和度と電気伝導度ηとの関係に変換して求めておき、比抵抗トモグラフィによる比抵抗値の計測値から電気伝導度ηを算定し、その算定値から飽和度Swを算定することでも良い。
【0013】
以上の手順で求める飽和度についての第1算定値と第2算定値は理論的には合致するべきものであるが、上記の第1〜第3の関係の設定が完全に適切でない場合には差が生じることが想定される。そこで、第1算定値と第2算定値とに予め設定した一定範囲を超えるような差が生じた場合には、上記第1〜第3の関係を微修正して再算定を行い、双方の算定値の誤差が設定範囲内に収斂するまで(双方の算定値がほぼ合致するまで)再算定を繰り返せば良い。すなわち、トモグラフィ解析による観測値から解析モデルを改良してその観測値を最も良く説明するように最適化していくインバージョン解析手法によって、最終的な推定値を決定すれば良い。
【0014】
以上の推定手法によれば、弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィを基本とする計測および解析手法によって亀裂密度と飽和度とを広範囲にわたって高精度で推定することが可能であり、弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィの双方によってそれぞれの特性を生かした総合的な評価が可能であるので、それぞれを単独で実施する場合の推定手法に較べて推定精度をより向上させることが可能である。
【0015】
なお、本発明は上記実施形態で例示したような水封式の岩盤内貯蔵施設に対して適用するのみならず、様々な目的の地盤調査や各種の地下構造物の計画に際して広く適用できるものであることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態である推定方法のフローチャートである。
【図2】亀裂密度とS波速度(S波走時)との関係を示す図である。
【図3】亀裂密度と飽和度とP波速度(P波走時)との関係を示す図である。
【図4】飽和度と比抵抗値(電気伝導度)との関係を示す図である。
【図5】水封式の岩盤内圧力貯蔵施設の概念図である。
【符号の説明】
【0017】
1 岩盤タンク
Ts S波走時
Tp P波走時
ρ 亀裂密度
Sw 飽和度
η 電気伝導度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤の亀裂密度および飽和度を推定するための方法であって、
岩盤におけるS波速度と亀裂密度との関係を表す第1の関係、P波速度と亀裂密度と飽和度との関係を表す第2の関係、比抵抗値と飽和度との関係を表す第3の関係をそれぞれ予め求めておき、
推定対象の岩盤に対して弾性波トモグラフィおよび比抵抗トモグラフィによる計測と解析を行って岩盤のS波速度、P波速度、比抵抗値をそれぞれ測定し、
S波速度の測定値から前記第1の関係に基づいて亀裂密度を算定し、
亀裂密度の推定値とP波速度の測定値から前記第2の関係に基づいて飽和度の第1算定値を算定するとともに、比抵抗値の測定値から前記第3の関係に基づいて飽和度の第2算定値を算定し、それら第1算定値と第2算定値とを比較してその差が一定範囲を越えている場合には前記第1〜第3の関係を微修正しつつ第1算定値と第2算定値の算定を繰り返してその差を一定範囲内に収斂させることを特徴とする岩盤の亀裂密度と飽和度の推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−234740(P2006−234740A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52995(P2005−52995)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】