説明

崩壊遅延が抑制されたパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物

【課題】崩壊遅延が抑制されたパロキセチン塩酸塩水和物の医薬組成物の提供を目的とする。
【解決手段】
パロキセチン塩酸塩水和物;
乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素カルシウム水和物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の賦形剤;およびカルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の崩壊剤;
を含有する経口投与用医薬組成物であって、
a)無水リン酸水素カルシウムを賦形剤として選択し、前記崩壊剤の中から少なくとも任意の1種を選択するか、
b)前記賦形剤の中から少なくとも任意の1種を選択し、カルメロースカルシウムまたは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはその両者を崩壊剤として選択する。パロキセチン塩酸塩水和物をヒプロメロースでコーティングして得た造粒物に賦形剤としてリン酸水素カルシウムと、崩壊剤としてカルボキメチルスターチナトリウムを混合し、打錠してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパロキセチン塩酸塩水和物を含有し、崩壊遅延が抑制された経口投与用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸パロキセチンはうつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害の効能・効果を有する選択的セロトニン再取り込み阻害剤であり、我が国ではフィルムコート錠剤が販売されている。塩酸パロキセチンは水存在下においては変色することが知られており、これを防止することを目的として種々の検討が行われている。特許文献1では、塩酸パロキセチンを乾燥賦形剤と混合し、錠剤形態に直接打錠するか又は塩酸パロキセチンを乾燥賦形剤と混合し、乾燥造粒し、錠剤の形態に圧縮する、水の不存在下で湿式造粒法を用いない製造方法が記載されている。特許文献2ではエタノールまたはエタノールと水の混合溶媒を用いて湿式造粒することで、塩酸パロキセチンの変色が抑制され、かつ簡便な製造方法により含量均一性に優れた製剤が得られることが記載されている。海外においては、経口懸濁液や徐放剤も販売されており、特許文献3には水膨潤可能で水不溶性ポリマーであるポリカルボフィルカルシウム成分と、水との相互作用により形成される反応複合体を含む高分子制御放出組成物により、塩酸パロキセチンが小腸で徐々に放出される経口投与製剤が記載されている。塩酸パロキセチンの変色防止を目的とした検討は種々行われているものの、崩壊遅延の抑制について検討した例は見受けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3037757号公報
【特許文献2】特開2007−186450号公報
【特許文献3】特許3922392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、崩壊遅延が抑制されたパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
パロキセチン塩酸塩水和物;
乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素カルシウム水和物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の賦形剤;およびカルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の崩壊剤;
を含有する経口投与用医薬組成物であって、
a)無水リン酸水素カルシウムを賦形剤として選択し、前記崩壊剤の中から少なくとも任意の1種を選択するか、
b)前記賦形剤の中から少なくとも任意の1種を選択し、カルメロースカルシウムまたは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはその両者を崩壊剤として選択する、
ことによって崩壊遅延が抑制されていることを特徴とするパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物を提供する。
また本発明は、
パロキセチン塩酸塩をヒプロメロースでコーティングして得たコーティング造粒物;
乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素カルシウム水和物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の賦形剤;および
カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の崩壊剤を混合し、打錠してなる経口投与用医薬組成物であって、
a)リン酸水素カルシウム水和物を賦形剤として選択し、前記崩壊剤の中から少なくとも任意の1種を選択するか、
b)前記賦形剤の中から少なくとも任意の1種を選択し、カルボキメチルスターチナトリウムを崩壊剤として選択するか、または
c)賦形剤としてリン酸水素カルシウム水和物を選択し、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムを選択する、
ことによって崩壊遅延が抑制されていることを特徴とするパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物を提供する。
【0006】
本発明者らは、パロキセチン塩酸塩水和物を有効成分とする医薬組成物の崩壊性について検討を行った結果、賦形剤としてリン酸水素カルシウム水和物を使用し、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムを使用した場合に崩壊遅延が引き起こされるという知見を得た。崩壊遅延の抑制を目的として種々検討を行った結果、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムに代えて、カルメロースカルシウム又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することで崩壊遅延が抑制されることを見出した。また、リン酸水素カルシウム水和物に代えて無水リン酸水素カルシウムを使用することで崩壊遅延が抑制されることが分かった。
【0007】
一方、本発明者らは、リン酸水素カルシウム水和物及びカルボキシメチルスターチナトリウムを使用する場合においても、パロキセチン塩酸塩水和物をヒプロメロースでコーティングして造粒することで崩壊遅延が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
パロキセチン塩酸塩水和物がヒプロメロースでコーティングされていればよく、パロキセチン塩酸塩水和物と賦形剤等の他の医薬添加物との混合物をヒプロメロースでコーティングすることによっても、目的とする崩壊遅延抑制効果を得ることができる。また、得られた造粒物は、他の医薬添加物と混合して通常用いられる方法により錠剤の形態とすることもできる。
【0009】
パロキセチン塩酸塩水和物をコーティングするヒプロメロースの量は、本発明の効果が得られる範囲の量であれば特に限定はされないが、パロキセチン塩酸塩水和物に対して20%以上、80%以下、好ましくは30%以上、70%以下、特に好ましくは40%以上、60%以下である。
【0010】
医薬添加物としては特に限定されることはなく、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、可塑剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤などから適宜選択することができる。
【0011】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロースなどが挙げられる。
結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
崩壊剤として、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに加え、カルボキシメチルスターチナトリウムを使用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、崩壊剤としてカルメロースカルシウム又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用することで崩壊遅延を抑制することができる。カルメロースカルシウムと低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは同時に使用してもよい。また、リン酸水素カルシウム水和物に代えて無水リン酸水素カルシウムを選択することでも崩壊遅延の抑制が可能である。本発明によると、パロキセチン塩酸塩水和物をヒプロメロースでコーティングして造粒する工程を含むことで崩壊遅延が抑制された医薬組成物の製造が可能である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例及び比較例により、内容を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0014】
実施例1、2及び比較例1
崩壊剤の選択による崩壊遅延の抑制
表1の処方に従って、ステアリン酸マグネシウム以外を袋混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加え、更に袋混合し、ロータリー打錠機で打錠した。
【0015】
70℃の密閉条件で苛酷試験を行い、試験開始時(0日)、4日、10日に測定した錠剤の崩壊時間(分)の結果を表2に示した。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
表2より、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムの代わりにカルメロースカルシウム又は低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを使用した錠剤は崩壊遅延が抑制されることが認められた。
【0019】
実施例3及び比較例2
賦形剤の選択による崩壊遅延の抑制
表3の処方に従って、ステアリン酸マグネシウム以外を袋混合した後、ビーカー内で精製水を用いて造粒し、55℃下で2時間乾燥を行った。乾燥後30M篩過を行い、ステアリン酸マグネシウムを加えて袋混合し、ロータリー打錠機で打錠した。
【0020】
製造した錠剤は実施例1と同様にして苛酷試験を行った後に崩壊時間(分)を測定し、結果を表4に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
表4より、リン酸水素カルシウム水和物に代えて無水リン酸水素カルシウムを使用することで崩壊遅延が抑制されることが認められた。
【0024】
実施例4〜6
薬物コーティングによる崩壊遅延の抑制
パロキセチン塩酸塩水和物とD−マンニトールをマルチプレックスに仕込み(200g)混合した。ヒプロメロースを精製水で5%になるように溶解させこれをコーティング液とした。表5に示したコーティング率になるように途中でサンプリングし、最終的に60%までコーティングを行った。
【0025】
コーティング造粒物を30M篩過後、直打用リン酸水素カルシウム水和物とカルボキシメチルスターチナトリウムを加えて袋混合した。ステアリン酸マグネシウムを加えてさらに混合し、ロータリー打錠機で打錠した。
【0026】
コーティング率はパロキセチン塩酸塩水和物に対するヒプロメロース量として算出した。
【0027】
実施例4〜6で製造した錠剤について、実施例1と同様にして崩壊時間(分)を測定し、結果を表6に示した。表7に示した比較例2との比較により、パロキセチン塩酸塩水和物を予めヒプロメロースでコーティングすることで崩壊遅延が抑制されることが認められた。
【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パロキセチン塩酸塩水和物;
乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素カルシウム水和物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の賦形剤;およびカルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の崩壊剤;
を含有する経口投与用医薬組成物であって、
a)無水リン酸水素カルシウムを賦形剤として選択し、前記崩壊剤の中から少なくとも任意の1種を選択するか、
b)前記賦形剤の中から少なくとも任意の1種を選択し、カルメロースカルシウムまたは低置換度ヒドロキシプロピルセルロースまたはその両者を崩壊剤として選択する、
ことによって崩壊遅延が抑制されていることを特徴とするパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物。
【請求項2】
パロキセチン塩酸塩をヒプロメロースでコーティングして得たコーティング造粒物;
乳糖、白糖、D−マンニトール、トウモロコシデンプン、部分アルファ化デンプン、結晶セルロース、無水リン酸水素カルシウムおよびリン酸水素カルシウム水和物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の賦形剤;および
カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよびカルボキシメチルスターチナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の崩壊剤を混合し、打錠してなる経口投与用医薬組成物であって、
a)リン酸水素カルシウム水和物を賦形剤として選択し、前記崩壊剤の中から少なくとも任意の1種を選択するか、
b)前記賦形剤の中から少なくとも任意の1種を選択し、カルボキメチルスターチナトリウムを崩壊剤として選択するか、または
c)賦形剤としてリン酸水素カルシウム水和物を選択し、崩壊剤としてカルボキシメチルスターチナトリウムを選択する、
ことによって崩壊遅延が抑制されていることを特徴とするパロキセチン塩酸塩水和物の経口投与用医薬組成物。

【公開番号】特開2011−12018(P2011−12018A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157371(P2009−157371)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】