説明

嵌め合いを安定化したドッグクラッチ歯

【課題】チャンファの高さ或いはチャンファの角度を変えた非正規歯を配設することによって、相手側のスリーブ歯との噛合い始めるきっかけ作りを促進し、シフトフィーリング性を改善するとともに、延いては安定した回転を得るようにした変速機用歯車を提供することを目的とする。
【解決手段】ドッグクラッチ歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設し、具体的には、歯根元からチャンファの先端までの高さを低くし、或いは、チャンファの角度を小さくした非正規歯を配設することを特徴とする変速機用歯車である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として自動車変速機用の歯車に関し、ドッグクラッチ歯のチャンファ形状を工夫した変速機用歯車に関する。詳しくは、マニュアルトランスミッションに使用される変速機用歯車において、ドッグクラッチ歯列の中に他の歯よりチャンファ高さの低い歯を配置することによって、或いは、他の歯よりチャンファ角度を小さくした歯を配置することによって、相手側のスリーブ歯との噛合い始めるきっかけ作りを促進し、シフトフィーリング性を改善するとともに、嵌め合いを安定化したドッグクラッチ歯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速機用歯車は、機械加工によって歯面の加工を施すことが主流であった。そのために、機械加工の容易さのために、ドッグクラッチ歯の全周の歯において歯根元からの高さを同じにすることが通常行われる。即ち、全周の歯において歯根元からのチャンファまでの高さが同じである。このようなドッグクラッチ歯の使用例について図8を参照しながら説明する。同図(a)では、下段のドッグクラッチ歯2の歯列に上方からスリーブ歯3が嵌入する状態を平面に展開して示す。ドッグクラッチ歯2における歯列の夫々の歯は歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さHが同じである。同図(b)では、ドッグクラッチ歯2の歯列を平面図で示したもので、図示の通り歯先面21も歯底面26からの高さGが同じである。ドッグクラッチ歯2の歯列の歯がこのように高さが同一場合、ドッグクラッチ歯列にスリーブ歯列が嵌入する瞬間、一度に全部の歯同士嵌め合うことになる。一方、ドッグクラッチ歯の機械加工による歯切りの精度の面から見ると、加工による精度誤差があるので、歯根元24からチャンファ23の先端までの高さH、或いは、歯先面21から歯底面までの歯丈Gが正確には同じではなく、不規則に高さが異なる。同様に、スリーブ歯においても機械加工によって不規則に高さが異なる。従って、夫々の歯毎の高さのバラツキによって、歯同士の噛合い当たりの不均一が生じてシフトフィーリング性が悪化し、遂には安定した回転が得られなくなる。曳いては、回転軸を有しない浮いた状態で作動するスリーブ歯はドッグクラッチ歯列から外れてギヤ抜けが生じる。
【0003】
ところで、自動二輪車の用途であるが、ドッグクラッチ歯にスリーブ歯が嵌め合い始めるきっかけ作りをすることによってギヤ抜けを防止する以下のような特許の提案がなされている。即ち、ドッグクラッチ歯の構造において、係合凸部が突出量大の凸部で係合出来なかった場合に、次に来る突出量小の凸部との係合を回避し、その後に来る突出量大の凸部の係合の機会を高めることが出来るため、平均して、係合に要する時間を短縮することが可能となる。また、突出量の大きい凸部と接触面を形成するように係合するので、面圧が低くなり、耐磨耗性が向上する。そして、加速時には、高回転領域で変速操作を行うため、変速による回転数差が大きく、また変速開始時の回転数も高いため、第一歯車の凸部が第二歯車の凸部を通過する時間が短い。したがって、加速時に上記構成となるようにすることによって、一層、突出量大の凸部の係合の機会を高め、係合部の面圧を低減することが出来る。また、減速時には、回転数差が小さく、変速開始時の回転数も低いので、凸部の間隔による係合チャンスの増加よりも、凸部の高さの違いによる係合の傾向の方が大きい。この際、間隔の狭い側に係合できるので、係合状態での第一歯車の凸部間隔における第二歯車の凸部の遊びを出来るだけ低減でき、減速から加速に移る場合の応答性を向上させることが出来る。(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008―248914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上の通りであって、特許文献に代表されるように、従来のドッグギヤには次のような問題点がある。
【0006】
ドッグクラッチ歯の機械加工による歯切りの精度から見ると、加工による精度誤差が生じ、歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さH、或いは、歯先面21も歯底面26からの高さGが正確には同じではなく不規則に高さが異なる。同様に、スリーブ歯においても機械加工によって不規則に高さが異なる。従って、双方の歯毎の高さのバラツキによって、歯同士の嵌め合い当たりの不均一が生じてシフトフィーリング性が悪化し、遂には安定した回転が得られなくなる。曳いては、回転軸を有しない浮いた状態で作動するスリーブ歯はドッグクラッチ歯列から外れてギヤ抜けが生じる。
【0007】
そこで、本出願発明は以上のような課題に着目してなされたもので、ドッグクラッチ歯の歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設することによって、詳しくは、チャンファの高さ或いはチャンファの角度を変えた非正規歯を配設することによって、相手側のスリーブ歯との嵌め合い始めるきっかけ作りを促進し、シフトフィーリング性を改善するとともに、延いては安定した回転を得るようにした変速機用歯車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
変速機用歯車は、機械加工によって歯面の加工を施すことが主流であった。そのために、機械加工を容易にするために、ドッグクラッチ歯の全周の歯において歯根元からチャンファまでの高さを同一にすることが通常行われる。しかしながら近年では、鍛造技術の進歩によって様々な形状の歯車を鍛造によって成形することが可能となってきた。そこで、本出願発明者等は、ドッグクラッチ歯の歯列の中に、歯の形状が異なる非正規歯を意図的に配置することに着目し、試作したところ安定した回転が得られるという知見を得た。本出願発明の変速機用歯車はかかる知見を基に具現化したもので、請求項1の発明は、ドッグクラッチ歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設することを特徴とする変速機用歯車である。請求項2は、請求項1に記載の特徴に加えて、前記非正規歯は、歯根元からチャンファの先端のまでの高さを低くしたことを特徴とする変速機用歯車である。また、請求項3は、請求項1に記載の特徴に加えて、前記非正規歯は、チャンファの角度を小さくしたことを特徴とする変速機用歯車である。
【発明の効果】
【0009】
ドッグクラッチ歯の歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設することによって、詳しくは、チャンファの高さ或いはチャンファの角度を変えた非正規歯を配設することによって、相手側のスリーブ歯と噛合い始めるきっかけ作りをしてシフトフィーリング性を改善し、延いては安定した回転を促進するようになった。このことに伴って減速から加速に移る場合の応答性を向上させることができ。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本出願発明の実施例1を示すもので、変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。
【図2】同上、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。
【図3】同上、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。
【図4】同上、チャンファ高さの異なるドッグクラッチ歯の歯列の説明図である。
【図5】同上、チャンファ高さの異なるドッグクラッチ歯の配置図である。
【図6】同上、チャンファ高さの異なるドッグクラッチ歯の他の異なる配置図である。
【図7】実施例2を示すもので、チャンファ角度の異なるドッグクラッチ歯の歯列の説明図である。
【図8】従来例によるドッグクラッチ歯の歯列の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本出願発明の実施の形態を、添付図面に例示した本出願発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例について、図1〜図6を参照しながら説明する。図1は、本実施例における変速機用歯車の製造過程を示す工程図である。図2は、ドッグクラッチ歯の製造に係る好ましい実施形態を示す説明図である。図3は、外周にヘリカル歯と内側にドッグクラッチ歯を有する変速機用歯車の一例を示す斜視図である。図4は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の詳細図である。図5は、逆テーパ付きドッグクラッチ歯の作用説明図である。図6は、チャンファ高さの異なるドッグクラッチ歯の他の異なる配置図である。
【0013】
本出願人は、内側のドッグクラッチ歯の歯根元が軸方向に対して外周のヘリカル歯の歯端面より沈んだ複合の歯車ブロック(以下沈みヘリカルモノブロック)を既に開発している。本実施例の変速機用歯車の製造プロセスを、この沈みヘリカルモノブロックを例にして図1の工程図に基づき説明する。先ず、工程(1)に示すように、変速機用歯車に適した円柱素材を所定の軸長に例えばビレットシャーによって切断した素材W1を得る。この場合、素材の材質として変速機用歯車に適した鋼材、例えば、SC鋼、SCR鋼、SCM鋼、SNC鋼、SNCM鋼等を使用することができる。次に、工程(2)に示すように、素材W1を例えば1150℃に加熱して熱間鍛造を施すことによって下側に出っ張った凸部W21を有する円盤状の素材W2を得る。次に、工程(3)に示すように、素材W2上段の大径部D1の部位に熱間鍛造を施して軸方向に対して捩じれた荒ヘリカル歯10が荒形成され、同時に下段の小径部D2の部位にコーン50を形成するとともに外周の荒ヘリカル歯10と内周のコーン50との間に同心円上に荒沈み溝40が形成される。その他、コーン50の内周に断面円形に凹んだ内径部W31が形成され、外歯の荒ヘリカル歯10の形成によって上面外周に円板状にはみ出し鍔状のバリW32を有する素材W3が得られる。ここで、外歯はヘリカル歯の他にスパー歯でもよく、以降の説明でも同様である。次に、工程(4)に示すように、同じく熱間鍛造によってコーン50の外周に凹んだ沈み溝4を仕上げ形成し、同時にこの底面に歯根元が立設する荒ドッグクラッチ歯20がストレート状に形成された素材W4を得る。次に、工程(5)に示すように、素材W4の上面のバリW32を旋削し除去するとともに、内径部W31の中バリを打ち抜いて荒軸孔30が貫通した素材W5を得る。次に工程(6)において、素材W5に焼きならしの熱処理、ショットブラスト処理及び潤滑剤を塗布するボンデライト処理を施して素材W6を得る。次いで工程(7)において、外周の荒ヘリカル歯10は冷間しごき成形によって歯面の傾斜がストレートに仕上げ形成される。一方、内周の荒ドッグクラッチ歯20はコイニング或いはサイジング処理を施すことによって歯面がストレートに形成され、かつ、歯先にチャンファが形成された素材W7を得る。次の工程(8)において、外側の荒ヘリカル歯に冷間しごき成形によって歯面にクラウニングが施され、かつ、歯端面の稜線部にR面取りが施されてヘリカル歯1が完成する。最後に工程(9)において、工程(7)でストレートに成形された荒ドッグクラッチ歯に、チャンファから歯根元に向かって細くなるように冷間しごき成形が施されて逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。同時に、ドッグクラッチ歯は左右歯面の傾斜角度が異なるように逆テーパ状に形成される。この時、ドッグクラッチ歯の歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設する。具体的には、非正規歯は歯根元からチャンファの先端のまでの高さを低くしたものであり、或いは、非正規歯は、チャンファの角度を小さくしたものである。非正規歯の等ピッチの配設は、具体的にはドッグクラッチ歯の歯列の中、120度間隔で3箇所のみを高さを低くしたものであり、或いは、チャンファの高さを一歯置きに他より低くしたドッグクラッチ歯を得る。その他、ドッグクラッチ歯の歯列の中、同様なピッチでチャンファ角度が小さいドッグクラッチ歯を得る。ドッグクラッチ歯の逆テーパは、左右同時に形成され、その際、元のストレートの荒ドッグクラッチ歯からの逆テーパ角度が大きくなるにつれ、その分加工変形量が増えるので、金型の寿命が短かくなり、或いは歯形の精度が悪くなるので金型材質の改良などに注意を要する。以上の工程をまとめると、工程(2)、(3)、(4)及び(5)は熱間鍛造であり、工程(7)、(8)及び(9)は冷間しごき及び冷間コイニング成形による冷間鍛造である。なお、前述した工程(4)の歯形成の詳細については以下に説明する。
【0014】
図2では、素材W3から素材W4へ熱間鍛造により荒ドッグクラッチ歯20を成形する工程(4)を示す。右半分の図(a)、(b)、(c)に示すように、ダイQ2に荒ドッグクラッチ歯20を形成する歯型T2を備え、上パンチP1を下降させて素材W3が圧潰され、小径部B2に荒ドッグクラッチ歯20が成形され、左図(c)の素材W4を得る。荒ヘリカル歯10がストレ−トの場合はダイQ1の外へ抜き出すことができるが、捩じれたヘリカル10の歯の部分はダイQ1に対して相対的な回転を必要とするため真上へ抜き出すことができない。ここで、ダイQ1と内側のダイQ2の下方にエジェクタP5を出没可能に備え、この外周に上記のヘリカルの歯型T1とリードを同じくするヘリカルガイドT3を有する。本実施例では、ダイQ1の下方からエジェクタP5を回転させ、かつ、スクリュー運動をさせながら昇降するようにし、成形された荒ヘリカル歯10を強制的に回転させると効率良く取り出すことができる。この工程(4)において、荒コーン50の外周に対応する部分に、ドッグクラッチ歯形成用歯型T2を有したダイに対して相対的に押し込むといった熱間鍛造手段によって荒ドッグクラッチ歯20を形成することができるとともに、沈み溝4が同心円上に凹んで形成される。かつ、軸方向に平行な荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に形成され、荒ドッグクラッチ歯20の歯根元24は沈み溝4の底面に対して直立する。この荒ドッグクラッチ歯20を荒成形する過程で、沈み溝4の深さ及びこの溝の開き角度42の最適な組合せによって荒ヘリカル歯10における歯端面の欠肉を無くすことができる。この場合、沈み溝4の深さを前述した工程(3)における荒沈み溝40の深さより大きくし、かつ、沈み溝4の溝開き角度42を工程(3)における角度より小さくすることによって、熱間鍛造の際にファイバフローが荒ヘリカル歯10の歯端面まで流れ、歯端面の欠肉を無くすことができる。以上の通り、工程(3)における荒ヘリカル歯10の形成、及び工程(4)における荒ドッグクラッチ歯20を形成する過程で、金型において沈み溝の深さと溝の開き角度との最適なバランスを設定することによって、熱間鍛造の際のファイバフローの発生を改善し欠肉のない沈みヘリカルモノブロックの複合歯車を得ることができた。以上のようにして本工程(4)では、荒ドッグクラッチ歯20の左右歯面がストレートに成形される。あと、工程(9)において、荒ドッグクラッチ歯に冷間しごき成形が施されることよってチャンファから歯根元に向かって細くなる逆テーパ状のドッグクラッチ歯2が完成する。この時、ドッグクラッチ歯の歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設する。具体的には、非正規歯は歯根元からチャンファの先端のまでの高さを低くしたものであり、或いは、非正規歯は、チャンファの角度を小さくしたものである。非正規歯の等ピッチの配設は、具体的にはドッグクラッチ歯の歯列の中、120度間隔で3箇所のみを高さを低くしたものであり、或いは、チャンファの高さを一歯置きに他より低くしたドッグクラッチ歯を得る。その他、ドッグクラッチ歯の歯列の中、同様なピッチでチャンファ角度が小さいドッグクラッチ歯を得る。
【0015】
工程(8)及び(9)において、最終仕上げ加工を施された変速機用歯車Wの詳細形状を図3に示す。図では変速機用歯車Wを斜視図として示し、外周のヘリカル歯1が軸方向に対して捩じれて形成され、この内周に軸方向に対して逆テーパの歯を有するドッグクラッチ歯2が形成される。これらの歯の間には窪んだ沈み溝4が同心円上に形成され、ドッグクラッチ歯2の歯根元24は沈み溝4の底面まで形成される。ドッグクラッチ歯2の内周側には円錐台状のコーン5が同軸上に突設され、この内周は上下に軸孔3が貫通する。ヘリカル歯1と同心円上に配設された内側のドッグクラッチ歯2は軸方向に対してヘリカル歯1の歯端面14より沈んで形成される。以上のように、外周のヘリカル歯1と沈み溝4と内側のドッグクラッチ歯2及びこの内周側のコーン5が夫々同軸上に熱間鍛造及び冷間鍛造によって一体成形されるとともに、コーン5はドッグクラッチ歯2のチャンファ23より上方に突設され、かつ、沈み溝4はヘリカル歯1とドッグクラッチ歯2との間にヘリカル歯1の歯端面より沈むように同心円上に設けられる。ドッグクラッチ歯2における歯車の各部位の名称を以下の通り定義する。ドッグクラッチ歯2は、歯筋方向に歯先面21、その左右に歯面22、22、先端が尖ったチャンファ23、沈み溝4の面上の歯根元24、フランジ8の外周面に位置する歯底元25及び歯底面26、歯厚27から構成される。
【0016】
本実施例によるドッグクラッチ歯は以上のようにして形成され、歯列の詳細について図4を参照しながら説明する。同図(a)では、ドッグクラッチ歯の歯列を側方から見て平面に展開した図を示し、左側から順にドッグクラッチ歯の配列における歯位置D21、D22、D23、D24のように符号を付す。左端の歯位置D21における歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さは高さH2であり、歯位置D22、D23、D24のチャンファ23の先端のまでは歯根元24からチャンファ23の先端のまでは高さが同一で高さH1である。図示のとおり、左端の歯位置D21の高さH2は、右方の歯位置D22、D23、D24の高さH1より低い。隣同士のドッグクラッチ歯2、2の間は歯底面26を示す。同図(b)では、この歯列における歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さの区分を模式的に示したものである。ドッグクラッチ歯の歯列において、他と形状が異なる左端の歯位置D21の高さH2は低く記号■で示し、右方の歯位置D22、D23、D24の高さH1は高く夫々記号○で示す。ここで、記号■は、他と形状が異なる非正規歯を示し、記号○は正規歯を示す。
【0017】
図5および図6では、ドッグクラッチ歯2における歯列の全周を軸方向から見た平面図で模式的に示したものである。外周にドッグクラッチ歯2の歯列を示し、これらの外側には歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さの区分を模式的に示す。記号■の部位は歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さが低く高さH2であり、これらを120度間隔で3箇所配置する。他の記号○の部位は歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さは高く、高さH1である。図6では、歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さが低い高さH2のドッグクラッチ歯の配置を密にし、一箇所毎に配置したものである。図5の場合と同様に、外周にドッグクラッチ歯2の歯列を示し、これらの外側には歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さの区分を模式的に示し、ドッグクラッチ歯の一箇所毎の記号■の部位は歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さが低く高さH2である。他の記号○の部位は歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さは高く、高さH1である。同様に、記号■は、他と形状が異なる非正規歯を示し、記号○は正規歯を示す。
【実施例2】
【0018】
本実施例2の実施例1との差異は、ドッグクラッチ歯列のチャンファ角度を変えたところにある。
【0019】
図7では、ドッグクラッチ歯2の歯列の一部を側方から見て平面に展開して示したものである。ドッグクラッチ歯2の歯列の歯根元24からチャンファ23の先端のまでの高さは夫々同じである。隣同士のドッグクラッチ歯2、2の間は歯底面26を示す。夫々のチャンファ23の角度が異なり、真ん中のドッグクラッチ歯2のチャンファ角度Yは、左右のドッグクラッチ歯2、2のチャンファ角度X、Xよりも小さい。チャンファ角度Yが小さいドッグクラッチ歯は、他と形状が異なる非正規歯である。チャンファ角度Yが小さいドッグクラッチ歯の配列は、実施例1の図5又は図6の場合と同様である。即ち、チャンファ角度Yが小さいドッグクラッチ歯を120度間隔で3箇所配置する。或いは、チャンファ角度Yが小さいドッグクラッチ歯の配置を密にし、一箇所毎に配置する。
【0020】
ドッグクラッチ歯の構成を以上の通りとし、以下に非正規歯の作用について述べる。実施例1及び2で述べたドッグクラッチ歯の歯列における非正規歯の形状、或いは、非正規歯の配置は以下の発想に基づく。ドッグクラッチ歯の歯列において、詳細に観察すると個々の歯の形状は加工誤差又は熱処理の歪によって均一ではなく、不正規な歯が無秩序に配置されている。ドッグクラッチ歯の歯列においては、いかに注意して製作しても個々のドッグクラッチ歯に形状誤差が生じるので、正規歯と思われる歯同士の噛合いはうまくいかず、ドッグクラッチ歯に相手側のスリーブ歯が安定して噛合わなかった。そこで、逆転の発想で、ドッグクラッチ歯の歯列における非正規歯を意図的に形成し、即ち、歯同士間のニゲを意図的に形成し、それを等ピッチに配置することを着想した。その製造方法としては、最近の技術の進歩によって、非正規歯を等ピッチに形成した金型を製作することがでるようになり、かつ、その金型を使って鍛造によって非正規歯を有するドッグクラッチ歯を量産的に製造することが可能となった。
【0021】
実施例1及び2で述べたドッグクラッチ歯の歯列についてまとめると、以下の通りになる。一案は、歯根元からチャンファの先端のまでの高さHが低い非正規歯の配置を120度ピッチとし、全周の三箇所に設ける。二案は、歯列の一箇所毎に高さHの低い非正規歯を設ける。三案は、チャンファの角度を小さくした非正規歯を設ける。一般的に、非正規歯の配置が三箇所の場合に噛合いの安定化に優れ、実施例1の一案がドッグクラッチ歯へ相手側のスリーブ歯の噛合い効率が良く、二案の交互の歯位置は安定化が劣りその次に良かった。これらの、歯根元からチャンファの先端までの高さを変えた方案は、次のチャンファ角度を変える場合より歯同士の噛合う確率を高めることがでた。実施例2の三案は二案の次の順位であった。以上、ドッグクラッチ歯の歯列において、非正規歯を等ピッチに配置することによって、同期からシフトインへの移行をスムーズにしてその時の噛合いの確率を高めることができた。即ち、非正規歯を等ピッチに配置することにより、シフトイン時におけるシフト操作力とシフト操作時間の力積が小さくなって変速操作力が軽減され、延いてはシフトフィーリング性が向上した。
【符号の説明】
【0022】
○、■ 記号
X、Y 角度
G 歯丈
H、H1、H2 高さ
W 変速機用歯車
W1、W2、W3、W4、W5、W6、W7、W8 素材
W21 凸部、W31 内径部、W32 端面バリ、W33 中バリ
B2 小径部
D21、D22、D23、D24 歯位置
P1 上パンチ、P5 エジェクタ
Q1、Q2 ダイ
T1、T2 歯型、T3 ヘリカルガイド
1 ヘリカル歯、10 荒ヘリカル歯
2 ドッグクラッチ歯、20 荒ドッグクラッチ歯
21 歯先面
22 歯面
23 チャンファ、24 歯根元、25 歯底元
26 歯底面、27 歯厚
3 軸孔、30 荒軸孔
4 沈み溝、40 荒沈み溝
5 コーン、50 荒コーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドッグクラッチ歯列において、等ピッチ間隔で非正規歯を配設することを特徴とする変速機用歯車。
【請求項2】
前記非正規歯は、
歯根元からチャンファの先端のまでの高さを、他の歯より低くしたことを特徴とする請求項1記載の変速機用歯車。
【請求項3】
前記非正規歯は、
チャンファの角度を、他の歯より小さくしたことを特徴とする請求項1記載の変速機用歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92232(P2013−92232A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235805(P2011−235805)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(390035770)大岡技研株式会社 (17)
【Fターム(参考)】