説明

工作機械の物理データの表示機能を備えた数値制御装置

【課題】加工速度等の加工条件の変化によらず、所定位置でのデータ比較を可能とする表示機能を備えた数値制御装置の提供。
【解決手段】数値制御装置14は、予め定めた位置指令に基づいて各駆動軸12を制御する数値制御部16と、各駆動軸12及び工作機械の工具の代表点の位置データを取得する位置データ取得部18と、取得された位置データ及び工作機械10の機械構成の各部の寸法等の情報から、各駆動軸及び工具の代表点の移動距離を算出する移動距離算出部20と、各駆動軸12及び工作機械の工具の物理データを取得する物理データ取得部22と、取得された時間軸基準の物理データを、移動距離算出部20が算出した移動距離を用いて移動距離基準のデータに変換するデータ変換部24と、該移動距離基準のデータを記憶する距離基準データ記憶部26と、記憶された距離基準データを画面表示する表示部28とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の駆動軸及び工具の代表点の速度等の物理データを、該駆動軸及び該工具の移動距離基準で表示する機能を備えた数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、同じ加工プログラムを、加工速度等の加工条件を変えて実行する場合がある。このような場合に工作機械を調整する際は、調整後のデータを調整前の過去のデータと比較することが重要になる。そのため、数値制御装置から取得した駆動軸及び工具先端点の速度等の時系列データを重ねて表示する波形表示装置が提案されている。例えば特許文献1には、制御装置から取得したサーボ情報に基づいて、2つのサーボ情報波形を同一の表示枠内に重ねて表示する技術が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、射出成形機のモニタ装置において、第1軸を時間、第2軸を射出圧力等の変量、第3軸を成形サイクルとして、各サイクル変化パターンを、3次元的にグラフ表示する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−75472号公報
【特許文献2】特開2004−216715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
指令軌跡の形状が同じでも加工速度が変化すると、加工時間もそれに合わせて変化する。従って異なる複数の加工条件について工具先端点の速度等の物理情報を時系列データとして重ねて比較する場合、同加工位置で比較することは困難であった。例えば特許文献1には、時間軸基準の重ね合せについての記載はあるが、時間軸によらない移動距離基準のデータの重ね合わせに関する言及はない。また特許文献2の発明は、第3軸に成形サイクルをとることで各サイクル間の変化パターンを重ねて比較するものであるが、横軸時間の時系列データを比較するものであり、移動距離基準でデータを重ね合わせて比較するものではない。
【0006】
そこで本発明は、加工速度等の加工条件の変化によらず、工作機械の物理情報のデータを、移動距離基準で比較することを可能とする表示機能を備えた数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願第1の発明は、工作機械が有する少なくとも1つの駆動軸を制御する数値制御部と、前記駆動軸及び前記工作機械の工具の代表点の位置データを取得する位置データ取得部と、前記駆動軸及び前記工具の代表点の物理データを取得する物理データ取得部と、前記位置データに基づいて前記駆動軸及び前記工具の代表点の移動距離を算出する移動距離算出部と、前記物理データ取得部が取得した前記物理データを時間軸基準のデータから移動距離基準のデータに変換するデータ変換部と、前記移動距離基準のデータを記憶する距離基準データ記憶部と、前記移動距離基準のデータを画面表示する表示部と、を備え、前記表示部は、該表示部に表示された前記移動距離基準のデータに、前記距離基準データ記憶部に記憶した過去の移動距離基準のデータを少なくとも1つ以上重ねて表示する、数値制御装置を提供する。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記移動距離算出部は、前記移動距離基準のデータの移動距離を、基準となる移動距離基準のデータの移動距離に合わせて調整し、前記表示部は、前記調整された移動距離に基づいて移動距離基準のデータを表示する、数値制御装置を提供する。
【0009】
第3の発明は、第2の発明において、前記移動距離算出部は、基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割し、該複数の区間の移動距離に合わせて、前記基準となる加工条件と異なる加工条件での対応する区分の移動距離を調整し、前記表示部は、前記調整された移動距離に基づいて移動距離基準のデータを表示する、数値制御装置を提供する。
【0010】
第4の発明は、第3の発明において、前記移動距離算出部は、加工プログラムに含まれる複数のプログラムブロックの各々の開始点に応じた点において、前記基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割する、数値制御装置を提供する。
【0011】
第5の発明は、第3の発明において、前記移動距離算出部は、前記駆動軸及び前記工具の代表点の軌跡から曲率を算出し、該曲率が極大又は極小となる点に応じた点において、前記基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割する、数値制御装置を提供する。
【0012】
第6の発明は、第1〜第5のいずれか1つの発明において、前記移動距離算出部は、前記数値制御部の位置指令情報から前記駆動軸及び前記工具の代表点の移動距離を算出する、数値制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加工速度等の加工条件の異なる複数のデータ(波形)を重ねて表示する際に、駆動軸の位置に関する時系列データから駆動軸及び工具代表点の積算移動距離を計算し、積算移動距離を基準に重ねて表示することができるので、加工速度によらず、同一加工位置でのデータ比較が可能となり、駆動軸や各種パラメータの適切な調整を行うことができるようになる。
【0014】
移動距離基準のデータの移動距離を、基準となる他の移動距離基準のデータの移動距離に合わせて調整することにより、より正確に同一加工位置での比較ができるようになる。
【0015】
基準となる加工条件での移動軌跡を複数の区分に分割し、該複数の区間の移動距離に合わせて、他の加工条件での対応する区分の移動距離を調整することにより、さらに正確に同一加工位置での比較ができるようになる。
【0016】
加工プログラムに含まれる複数のプログラムブロックの各々の開始点に応じた点において移動軌跡を複数の区分に分割することにより、容易かつ適切な移動距離の調整ができるようになる。
【0017】
例えば移動軌跡がコーナ部を有する場合、該移動軌跡の曲率が極大又は極小となる点に応じた点において移動軌跡を複数に分割することにより、該コーナ部での重ね合わせ表示や異なる加工条件の比較をより正確に行うことができるようになる。
【0018】
加工条件での移動距離算出の際に、数値制御部から得られる位置指令の情報を用いることにより、特にフィードフォワード制御においては、データ間の移動距離の誤差を最小に抑えることができ、データの重ね合せを高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る数値制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】数値制御装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】工作機械の工具代表点の移動軌跡を3次元表示したグラフである。
【図4】異なる2つの加工条件による工具代表点の移動距離と速度を、時間軸基準で表したグラフである。
【図5】図4の加工条件による工具代表点の速度を、移動距離基準で表したグラフである。
【図6】異なる3つの加工条件による工具代表点の速度を、時間軸基準で表したグラフである。
【図7】図6の加工条件による工具代表点の速度を、移動距離基準で表したグラフである。
【図8】異なる2つの加工条件による工具代表点の移動軌跡を模式的に表した図である。
【図9】図8の加工条件による工具代表点の移動軌跡の一方を、他方の移動距離を用いて調整した後の状態を模式的に表した図である。
【図10】異なる2つの加工条件による工具代表点の移動軌跡を3次元表示したグラフである。
【図11】図10の移動軌跡をX−Y平面に投影したグラフであって、移動軌跡の一方を、他方の移動距離を用いて調整する旨を説明するグラフである。
【図12】図10の加工条件による工具代表点の移動速度を、移動距離を用いて調整して同一座標に表示したグラフである。
【図13】異なる2つの加工条件による工具代表点の移動軌跡を模式的に表した図であって、該移動軌跡に特徴点を設定する旨を説明する図である。
【図14】図13の加工条件による工具代表点の移動軌跡の一方を、他方の移動距離を用いて調整した後の状態を模式的に表した図である。
【図15】丸みを有するコーナ部に沿った工具代表点の移動軌跡を、異なる3つの加工条件毎に表示したグラフである。
【図16】図15のコーナ部の曲率を時間軸基準で表したグラフである。
【図17】異なる2つの加工条件による工具代表点の移動軌跡を3次元表示したグラフである。
【図18】図17の移動軌跡をX−Y平面に投影したグラフであって、加工プログラムを3つのブロックに分割し、移動軌跡の一方を、他方の移動軌跡の各ブロックに相当する移動距離を用いて調整する旨を説明するグラフである。
【図19】図17の加工条件による工具代表点の移動速度を、移動距離を用いて調整して同一座標に表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る工作機械の物理データの表示機能を備えた数値制御装置を含むシステム構成例を示す図である。工作機械(機構部)10は、少なくとも1つ(図示例では5つ)のサーボモータ等の駆動軸12を有し、駆動軸12の各々は数値制御装置(CNC)14によって制御される。数値制御装置14は、予め定めた位置指令に基づいて各駆動軸12を制御する数値制御部16と、数値制御部16により駆動制御される各駆動軸12及び工作機械の工具の代表点(例えば工具先端点)の位置データを取得する位置データ取得部18と、取得された位置データ及び工作機械10の機械構成の各部の寸法等の情報から、各駆動軸及び工具の代表点の移動距離を算出する移動距離算出部20とを有する。
【0021】
数値制御装置14はさらに、各駆動軸12及び工作機械の工具の物理データを取得する物理データ取得部22と、取得された時間軸基準の物理データを、移動距離算出部20が算出した移動距離を用いて移動距離基準のデータに変換するデータ変換部24と、該移動距離基準のデータを記憶するメモリ等の距離基準データ記憶部26と、記憶された距離基準データを画面表示するモニタ等の表示器又は表示部28とを有する。なお各駆動軸12の物理データとしては例えば、各軸を駆動する電動機やサーボモータ等の駆動手段の電流値、電圧値及びトルクが挙げられ、また工具の物理データとしては、工具代表点の位置、速度及び加速度が挙げられる。
【0022】
次に、本発明に係る数値制御装置における処理の一例を、図2に示すフローチャート及び図3〜図5に示すグラフを参照しつつ説明する。駆動軸及び工具先端点等の工具代表点の移動距離D(t)は、速度の絶対値|V(t)|を時間tについて積分した値になり、加工開始時刻をt=0とした場合(ステップS1)、次の式(1)にて表される。
【0023】
【数1】

【0024】
ここでは、例えばねじ切り加工のように、図3に示すような螺旋状の軌跡30に沿って工具先端点が移動する場合を考える。ここで、指令軌跡は同一であるが加工速度が異なる2つの加工条件で加工を行った場合の、加工開始後の時間tに対する工具先端点の移動距離及び移動速度変化を図4に示す。具体的には、グラフ32が第1の加工条件での移動距離を示し、グラフ34が第1の加工条件での移動速度を示し、グラフ36が第2の加工条件での移動距離を示し、グラフ38が第2の加工条件での移動速度を示している。図4からわかるように、第1の加工条件の加工時間は第2の加工条件の加工時間の概ね2倍である。
【0025】
図4のように時間軸基準で速度等の物理情報をグラフ表示した場合、同時刻での速度を比較することはできるが、両加工条件は加工時間(加工速度)が異なるので、同一の加工位置での比較はできない。そこで後述する処理によって時間軸基準のグラフ34及び38を、図5に示すような工具の移動距離基準のグラフ34’及び38’にそれぞれ変換することにより、同一加工位置において速度等の物理情報を加工条件別に比較できるようになる。
【0026】
図2に示すように、ステップS2では、第1の加工条件下において、時刻tにおける工具代表点の位置データP(t)を取得し、次にステップS3において、駆動軸及び工具代表点の物理データF(t)を取得する。次のステップS4では、ステップS2で取得した位置データP(t)から駆動軸及び工具代表点の積算移動距離D(t)を算出し、次のステップS5において、算出された移動距離D(t)を用いて、ステップS3で取得した時間軸基準の物理データF(t)を移動距離基準の物理データF(D(t))に変換する。次のステップS6では、得られた移動距離基準の物理データF(D(t))を距離基準データ記憶部26に記憶する。
【0027】
次のステップS7では加工条件の終了判定を行い、終了していなければステップS8を経由してステップS2〜S6の処理を繰り返す。第1の加工条件での加工が終了していれば、加工条件を第2の加工条件に変更し(ステップS9)、ステップS1〜S7と概ね同様の処理を行う。
【0028】
すなわち、加工開始時刻をt=0とし(ステップS10)、ステップS11では、第2の加工条件下において、時刻tにおける駆動軸及び工具代表点の位置データP'(t)を取得し、次にステップS12において、駆動軸及び工具代表点の物理データF'(t)を取得する。次のステップS13では、ステップS11で取得した位置データP'(t)から駆動軸及び工具代表点の積算移動距離D'(t)を算出し、次のステップS14において、算出された移動距離D'(t)を用いて、ステップS12で取得した時間軸基準の物理データF'(t)を移動距離基準の物理データF'(D'(t))に変換する。次のステップS15では、得られた移動距離基準の物理データF'(D'(t))を表示器28上に表示する。なおここで、移動距離基準の物理データF'(D'(t))を距離基準データ記憶部26に記憶してもよい。
【0029】
次のステップS16では加工条件の終了判定を行い、終了していなければステップS17を経由してステップS11〜S15の処理を繰り返す。最後にステップS18において、記憶部26に記憶された第1の加工条件の移動距離基準データF(D(t))を、第2の加工条件の移動距離基準データF'(D'(t))に重ねて(同一の座標系に)表示器28上で表示する。このようにして得られたグラフの一例が上述の図5である。
【0030】
なお加工プログラムの指令軌跡にコーナ部が含まれる場合、通常は該コーナ部において工具を減速する制御が自動的に行われるが、加工対象物が複雑な形状であるときはそれに応じて複雑な加減速制御が行われる。そのため、例えば図6に示すように、ある加工条件で加工を実施してグラフ40で示す時系列データが得られ、その加工条件を変更して加工を実施してグラフ42又は44に示す時系列データが得られた場合、加工条件を変更した後の時系列データから、変更前の加工位置に対応する物理データを特定することは困難であった。しかし図2を用いた処理により、図7に示すように、時間軸基準ではコーナ部の終了点が異なるグラフ40、42及び44を、移動距離基準のデータであるグラフ40’、42’及び44’にそれぞれ変換することにより、各位置に対応する物理データ(図示例では工具の移動速度)を容易に比較できるようになる。
【0031】
次に、異なる加工条件間での移動距離の調整について説明する。複数の同じ加工プログラムのデータを移動距離基準のデータに変換して比較する場合、各データの移動距離を合わせる必要が生じることがある。しかし、データ間の移動距離に誤差が生じた場合、比較すべき位置がずれるため、その比較が困難となる。そこで、比較するデータの加工開始点から終了点までの移動距離を、基準となるデータの移動距離に合わせて調整(拡大又は縮小)することにより、上記問題点を解決することができる。
【0032】
例えば図8に示すように、ある加工条件での加工の実施により、加工開始点50から加工終了点52まで略直線状の工具代表点の移動軌跡54が得られ、その移動距離(移動軌跡54の長さ)がD1であったとする。次に加工条件を変更して加工を実施し、加工開始点50から加工終了点52まで曲線状の工具代表点の移動軌跡56が得られ、その移動距離(移動軌跡56の長さ)がD1とは異なるD2であったとする。このような場合に、両条件で得られた時系列データをそのまま移動距離基準データに変換すると、物理データを比較すべき加工位置がずれることになる。そこで移動距離算出処理において、後の加工条件での移動距離D2にD1/D2を乗じて移動距離を調整することにより、図9に示すように、移動軌跡56上の各点はあたかも移動軌跡54上に投影したかのように表現することが可能となり、物理データの比較が容易となる。
【0033】
別の例として、例えば図10に示すように、異なる2つの加工条件によって、移動距離の異なる2つの移動軌跡60及び62が得られたとする。また図10をX−Y平面に投影したものが図11である。ここで工具代表点の軌跡60の長さD1(t)、軌跡62の長さをD2(t)とし、基準となる軌跡を軌跡60とした場合、軌跡62の移動距離にD1(t)/D2(t)を乗じることにより、図11に示すように、あたかも軌跡62の各点が軌跡60上の点に投影されたかのように表現することが可能となり、物理データの比較が容易となる。
【0034】
また図12は、軌跡60における工具代表点の距離基準の速度をグラフ64、軌跡62における工具代表点の距離基準の速度をグラフ66、軌跡62の工具代表点の移動距離にD1(t)/D2(t)を乗じて得られた距離調整後の距離基準の速度をグラフ68で表したものである。図12より、軌跡60の移動距離に合わせて軌跡62の移動距離を縮小することによって、軌跡62の移動距離を軌跡60の移動距離に合わせて重ね合わせ表示することができ(グラフ64と68)、同一位置での物理データの比較が容易になる。
【0035】
上述のように加工開始点から終了点までの距離を基準データの移動距離に合わせて調整する際に、移動距離が比較的長い場合や移動軌跡形状が複雑である場合は、所定の加工位置でのデータの重ね合わせが困難になることがある。そこで、移動距離算出処理において、基準となる加工条件での駆動軸及び工具先端点の軌跡を複数の区分に分割し、該複数の区分の各々について両加工条件での軌跡の長さを求めて移動距離の調整を行うことが有効である。より具体的には、基準となる加工条件での移動軌跡上の点から少なくとも1つの特徴点を抽出し、該特徴点と加工開始点若しくは加工終了点との間、又は複数の特徴点間の移動距離を求め、異なる加工条件での移動距離を上記基準となる加工条件での移動距離に合わせて拡大又は縮小することで、より精度よくデータを重ね合わせることが可能になる。
【0036】
図13はその具体例として、基準となる移動軌跡(例えば指令軌跡)70として3つの線分70a、70b及び70cを連結した軌跡を示す。この場合、特徴点は線分70aと70bの連結点72、及び線分70bと70cの連結点74として設定可能である。例えば特徴点は、工作機械の駆動軸の少なくとも1つの移動方向が反転する点や、加工プログラムに含まれる複数のプログラムブロック(少なくとも1つのプログラム行を含むプログラム単位)の各々の開始点(加工ブロックが切り替わる点)に応じた点として設定可能であり、図13の例では線分70aに沿った移動、線分70bに沿った移動、及び線分70cに沿った移動をそれぞれ1つのブロックとして扱うことができる。
【0037】
図13に示す基準となる移動軌跡70に対して、異なる加工条件の実行により移動軌跡76が得られ、移動軌跡76は、特徴点近傍において移動軌跡72に比べ移動距離が短くなっている(曲線状になっている)ものとする。この場合、移動軌跡70において、加工開始点78から特徴点72までの距離(線分70aの長さ)をD11とし、特徴点72と74との間の距離(線分70bの長さ)をD12とし、特徴点74から加工終了点80までの距離(線分70cの長さ)をD13とする。さらに、移動軌跡76において、加工開始点78から特徴点72に相当する特徴点72’までの移動軌跡76の長さをD21とし、特徴点72’と特徴点74に相当する特徴点74’との間の移動軌跡76の長さをD22とし、特徴点74’から加工終了点80までの移動軌跡76の長さをD23とする。ここで、移動軌跡76において、加工開始点78から特徴点72’までの移動距離にD11/D21を乗じ、特徴点72’から特徴点74’までの移動距離にD12/D22を乗じ、さらに特徴点74’から加工終了点80から特徴点72’までの移動距離にD13/D23を乗じることにより、図14に示すように、移動軌跡76の長さが3つの区間別に調整され、移動軌跡76における物理データを、基準となる移動軌跡70に加工位置を合わせた状態で比較することが可能になる。
【0038】
特徴点の抽出に関しては、駆動軸及び工具代表点の軌跡から曲率を算出し、その曲率が極大又は極小となる点を特徴点とすることも考えられる。例えば移動軌跡が丸みを備えたコーナ部を有する場合、数値制御装置では、該コーナ部で自動的に加減速を行うため、コーナ部での重ね合わせの精度を向上させることは重要である。例えば図15に示すグラフ82、84及び86は、90°のコーナ部に丸み(R)を設けた図形のバリエーションを示しており、図16は、それぞれのコーナ部での曲率ρを算出したものであり、具体的にはグラフ82、84及び86に対応する曲率をそれぞれグラフ82’、84’及び86’で示している。直線では曲率ρはゼロであるが、コーナ部で極大又は極小となる。そのため、加工条件が異なる移動軌跡を比較する場合、曲率の極大又は極小となる点、或いは曲率が一致する点を特徴点とすることで、コーナ部の重ね合わせの精度が向上する。
【0039】
図17〜図19は、加工プログラムをブロック毎に分割して特徴点を決定する他の例を示す。図17は、加工条件が異なる結果、工具代表点の移動距離が異なる2つの移動軌跡90及び92を示し、また軌跡90及び92をX−Y平面に投影したものが図18である。ここでは加工プログラムは、第1ブロック、第2ブロック及び第3ブロックからなり、移動軌跡90において、各加工ブロックの開始点90a、90b及び90cを特徴点として抽出している。すなわち図18において各特徴点間の軌跡は、各加工ブロックに対応しており、加工終了点は90dで示している(加工開始点は90aに相当)。一方、移動軌跡92において、移動軌跡90の特徴点90a、90b及び90cに対応する特徴点はそれぞれ92a、92b及び92cであり、加工終了点は92dで示している(加工開始点は92aに相当)。
【0040】
ここで、軌跡90の第1ブロック、第2ブロック及び第3ブロックの移動距離(軌跡の長さ)をそれぞれD11(t)、D12(t)及びD13(t)とし、軌跡92の第1ブロック、第2ブロック及び第3ブロックの移動距離(軌跡の長さ)をそれぞれD21(t)、D22(t)及びD23(t)とした場合、軌跡92の第1ブロック、第2ブロック及び第3ブロックの移動距離にそれぞれD11(t)/D21(t)、D12(t)/D22(t)及びD13(t)/D23(t)を乗じて移動距離を調整することにより、あたかも軌跡92上の点を軌跡90上の点に投影したかのように表現することが可能になる。
【0041】
また図19は、軌跡90における工具代表点の距離基準の速度をグラフ94、軌跡92における工具代表点の距離基準の速度をグラフ96、軌跡92の工具代表点の移動距離を上述のように調整した後の距離基準の速度をグラフ98で表したものである。図19より、軌跡90の移動距離に合わせて軌跡92の移動距離を拡大又は縮小することによって、軌跡92の移動距離を軌跡90の移動距離に合わせて重ね合わせ表示することができ(グラフ94と98)、同一位置での物理データの比較が容易になる。
【0042】
なお上述の実施形態において、各加工条件での移動距離算出の際にエンコーダ等の検出器から得られる位置データを用いる代わりに、数値制御部から得られる位置指令の情報を用いてもよい。これにより、特にフィードフォワード制御においては、データ間の移動距離の誤差を最小に抑えることができ、データの重ね合せを高い精度で行うことができる。
【0043】
本発明に係る数値制御装置によれば、加工条件の変更前後での物理データを、工具代表点の移動距離基準で表示することができるので、同一の加工位置での比較が容易となり、最適加工条件の探索や各種パラメータの調整を迅速かつ容易に行うことができるようになる。
【符号の説明】
【0044】
10 工作機械
12 駆動軸
14 数値制御装置
16 数値制御部
18 位置データ取得部
20 移動距離算出部
22 物理データ取得部
24 データ変換部
26 距離基準データ記憶部
28 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械が有する少なくとも1つの駆動軸を制御する数値制御部と、
前記駆動軸及び前記工作機械の工具の代表点の位置データを取得する位置データ取得部と、
前記駆動軸及び前記工具の代表点の物理データを取得する物理データ取得部と、
前記位置データに基づいて前記駆動軸及び前記工具の代表点の移動距離を算出する移動距離算出部と、
前記物理データ取得部が取得した前記物理データを時間軸基準のデータから移動距離基準のデータに変換するデータ変換部と、
前記移動距離基準のデータを記憶する距離基準データ記憶部と、
前記移動距離基準のデータを画面表示する表示部と、を備え、
前記表示部は、該表示部に表示された前記移動距離基準のデータに、前記距離基準データ記憶部に記憶した過去の移動距離基準のデータを少なくとも1つ以上重ねて表示する、数値制御装置。
【請求項2】
前記移動距離算出部は、前記移動距離基準のデータの移動距離を、基準となる移動距離基準のデータの移動距離に合わせて調整し、前記表示部は、前記調整された移動距離に基づいて移動距離基準のデータを表示する、請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記移動距離算出部は、基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割し、該複数の区間の移動距離に合わせて、前記基準となる加工条件と異なる加工条件での対応する区分の移動距離を調整し、前記表示部は、前記調整された移動距離に基づいて移動距離基準のデータを表示する、請求項2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記移動距離算出部は、加工プログラムに含まれる複数のプログラムブロックの各々の開始点に応じた点において、前記基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割する、請求項3に記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記移動距離算出部は、前記駆動軸及び前記工具の代表点の軌跡から曲率を算出し、該曲率が極大又は極小となる点に応じた点において、前記基準となる加工条件での前記工具の代表点の移動軌跡を複数の区分に分割する、請求項3に記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記移動距離算出部は、前記数値制御部から得られる位置指令の情報から前記駆動軸及び前記工具の代表点の移動距離を算出する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−88865(P2013−88865A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225982(P2011−225982)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】