説明

工場、プラント等における生産設備機器等の運転状態監視システム

【課題】 聴音による診断を容易かつ効率的に実行できるようにした監視診断システムを提供することを課題としている。
【解決手段】 生産設備機器等の回転部に設けた振動検出センサーと、該センサーの出力データから診断用データを生成する第2処理回路と、指定したゾーン毎にまとめて伝送データを生成するデータ処理回路と、前記伝送データをネットワークの条件に適合したデータに変換する変換回路と、各ゾーンと中央監視室を結ぶネットワークと、該ネットワークから伝送データを受信する受信装置と、中央監視室内に設置された監視診断装置とを具備し、該診断装置は少なくとも、前記センサーの振動波の聴音による診断を可能にする聴音発生装置を備えたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工場、プラント等における生産設備機器等の運転状態を監視する監視システムの技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場、プラント等は大規模化し生産設備機器等も大型化してきたため、監視員が工場やプラントを巡回して運転状態を監視することが困難になってきた。そこで、中央監視室に監視装置を設けて一括監視するシステムが採用されるに至っている。このような監視システムとしては、例えば、特許文献1、2に示すように、監視対象からの音響をマイクロフォン等の音響センサで検出し、音響信号から周波数スペクトル等を求めてその分析結果から異常判断を行うシステムが構築されていた。しかし、生産設備機器等は大型化しただけでなく、複雑にもなっているために、種々の雑音が入り混じって音響センサに検出されるため、ノイズの除去を完全に行うことが困難であった。従って、故障判断にも誤りが生じていた。
【特許文献1】公開特許公報、特開平9−166483号、機器監視方法及びその装置
【特許文献2】公開特許公報、特開2002−323371号、音響診断装置及び音響診断方法
【0003】
また、別の診断方法として、軸受け部分に振動センサを設けて、振動波形を計算機で解析して故障診断を行う方法も提案されてきた。例えば、これらの公知例としては特許文献3、特許文献4等がある。
【特許文献3】公開特許公報、第昭51−136465号、軸受状態判定装置
【特許文献4】公開特許公報、第昭54−104883号、軸受異常検出装置
【0004】
特許文献4に記載されている技術は、軸受けの状態を監視するための技術であって、軸受けに振動センサーを設けて、信号センサーからの電気信号を周波数領域に変換し、周波数領域を数種の周波数帯域に分割し、各周波数帯域における信号のバンドパワーと全周波数帯域の信号のパワー比を求め、この比から軸受けの異常を検出するものである。この技術による方法では人間の聴音による異常診断のように微妙な細かな診断を行うのが困難であるという課題が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上に説明したように、マイクロフォンで音響を検出する従来装置はノイズの除去対策に困難が伴うという欠点があった。また、計算機による解析によって生産設備機器等の運転状態を監視する監視システムでは、システムが大規模になるだけでなく、今まで培われてきた聴音による診断が無用になってしまうという問題があった。しかし、熟練者による聴音による診断は微妙な異変も聞き取り、優れた診断法の1つである。そこで、本願発明は常時監視する簡易な装置を設けると共に異常又はその予兆を感知した場合は聴音による診断を容易かつ効率的に実行できるようにすると共にその正確度を増すために種々の解析も可能にした監視診断システムを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】

上記課題を解決するために本発明は以下の手段を採用している。即ち、
請求項1記載の発明は、工場、プラント等における生産設備機器等の運転状態を監視する監視システムにおいて、生産設備機器等の回転部に設けた振動検出センサーと、該センサーの出力データから監視用データを生成する第1処理回路と該センサーの出力データから診断用データを生成する第2処理回路とからなるデータ生成回路と、生成されたデータを指定したゾーン毎にまとめて伝送データを生成する伝送データ処理回路と、伝送データをネットワークの条件に適合したデータに変換する変換回路と、ネットワークと、該ネットワークから伝送データを受信する受信装置と、中央監視室内に設置された監視診断装置とを具備し、前記監視診断装置は該受信装置からの伝送データに基づいて前記生産設備機器等の異常発生又は異常発生の予兆を常時監視する監視装置と、異常等の原因を診断する診断装置とを備え、更に、該診断装置は少なくとも、その機器等に関する前記センサーの振動波の聴音による診断を可能にする聴音発生装置を備えたことを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1の発明において、前記振動検出センサーは、回転部の軸受けに設けられ、振動波のアナログ信号を出力することを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記第1処理回路は、前記振動検出センサーの出力を増幅するプリアンプと、増幅されたアナログ信号を処理して該振動波の実効値、ピーク値、速度、加速度、又は、これらのデータを組み合わせたデータを生成する生成回路と、該生成回路の1又は複数のアナログ信号に基づきデジタル信号を出力するIOユニット回路とを具備していることを特徴としている。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記第2処理回路は、前記プリアンプで増幅したアナログ信号の中から指定されたセンサーに対応するプリアンプからの信号を選択し、選択されたアナログ信号デジタル信号に変換して、IP回線用データとして出力することを特徴としている。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1〜請求項4に記載の発明において、前記監視用のデジタルデータは小ビット数のデータで表現し、前記診断用のデジタルデータは多ビット数のデータで表現したことを特徴としている。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項1〜請求項5に記載の発明において、前記診断装置は、更に、指定された前記各センサーの振動波の周波数と音圧との関係を示すスペクトル表示、周波数と加速度レベルとの関係を示すパワースペクトル表示も可能にしたことを特徴としている。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記スペクトル表示は、1/3オクターブのスペクトル表示、又は、サウンドスペクトログラム表示であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願発明に依れば、熟練者の経験を生かした振動波形の聴音による診断が容易かつ正確に行えるという効果が得られる。また、請求項6,7に依れば振動波形のスペクトル表示も可能であるので診断の信頼性を一層向上させることができる効果も得られる。請求項5に依れば、多数のセンサーが設けられた場合でも監視及び診断が迅速に行えるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明を実施した実施形態の全体構成の概略図を示す。図2は機械室10の詳細図を示し、図3は中央監視装置30の詳細図を示す。図1において、この実施形態では各ゾーンとして機械室ごとに処理を行うケースについて説明する。複数の機械室10,10・・と中央監視装置30はネットワーク20で接続されている。各機械室10には監視対象である生産設備機器(図示省略)が設置され、該生産設備機器の回転部に設けられている各軸受け(図示省略)に振動計測センサー11が装着されている。振動計測センサー11としては、例えば加速度センサーを利用する。加速度センサー11で計測されたアナログ出力は、まず、プリアンプ12で増幅され、増幅されたアナログ信号出力がデータ生成回路13に入力される。生成回路13で処理された信号はデジタル信号としてデータ処理回路14に入力される。データ処理回路14は複数のデータを時分割による多重化処理し、フレームを作成する。各フレームのデータは変換回路15によって送信データとしてネットワーク20に出力される。ネットワーク20はIPネットワークを利用する。一方、中央監視室35に配置された中央監視装置30の受信装置16はネットワーク20からデータを受信して、中央制御装置31に出力する。中央制御装置31には監視装置32及び診断装置33が接続されており、生産設備機器の監視及び故障診断を行う。
【0015】
次に、データ生成回路13の内容を詳細に説明する。 図2において、プリアンプ12で増幅されたアナログ信号は一部が信号処理回路(第1処理回路)21に送出される。信号処理回路21は入力されたアナログ信号(振動波形信号)を処理して、実効値、ピーク値、加速度値等のアナログ信号(特性波形信号)を生成する。生成されたこれらの特性波形信号は入出力ユニット(I/Oユニット)22に入力され、実効値、ピーク値、加速度値等をデジタル信号(例えば、低ビット数のデジタル信号)として出力される。入出力ユニット(I/Oユニット)22から出力されたデジタルデータは多重化処理回路(データ処理回路)14によって送信データのフレームとして構成される。パケット化回路(変換回路)15は送信データのフレームをプロトコル(通信規約)に合わせてIPパケットを作成し、IPネットワーク20に送出する。
【0016】
また、プリアンプ12で増幅されたアナログ信号は第2処理回路23に入力される。この回路23では、まず、読み出し指令信号(RS)によって指定されたゾーン番号及びセンサー番号のアナログ信号が選択回路24によって選択され、マルチプレクサー25に入力される。マルチプレクサー25は順番に入力されたアナログ信号をA/D変換回路26によりデジタル信号(例えば高ビットのデジタル信号)に変換する。変換されたデジタル信号はパケット化回路27により規格に合わせて回線20に出力される。これにより、固体伝達音が中央監視装置30において、正しく再現され、聴音による診断を正しく行うことが可能になる。
【0017】
なお、読み出し指令信号(RS)として1個のセンサー番号のみを指定できるようにしてもよいし、複数個のセンサー番号を同時に指定できるようにしてもよい。複数個のセンサー番号を同時に指定できるようにした場合は指定されたセンサー番号の振動波形信号を多重化して中央監視装置30に送信され、中央制御装置31によってデコードされ、指定されたセンサー番号の中から適宜切換え又は選択して、所定のゾーン番号における所望のセンサー番号の振動波形信号を取り出して固体伝達音を聞くことができる。この場合は、切換え又は選択が中央監視室内で行えるので円滑な操作、診断が可能になる。また、1個のセンサー番号のみを指定できるようにした場合は、ゾーン番号並びにセンサー番号の指定を適宜繰り返して指定する。この場合は機器等の構成が単純になる。
【0018】
図3において、中央監視装置30は中央制御装置31、監視装置32、診断装置33、入力装置34、メモリ40から構成されている。監視装置32には監視用表示装置36、警報用ブザー37が接続されている。また、診断装置33には分析した波形等を表示する診断用の表示装置38と聴音発生用のスピーカ39が設けられている。受信装置16はネットワーク20から中央監視室36宛に送られたパッケージデータを受領し、監視用データを監視装置32に出力し、診断用データをメモリ40に記憶すると共に診断装置33に出力する。監視装置32は、例えば図4に示すように、受信した実効値、ピーク値、加速度などのデータを機械室番号、センサー番号と共に表示装置32に表示する。また、それらのデータの閾値と比較して正常、注意、異常と判定する。注意又は異常の場合は警報を表示し、ブザー37を鳴らす。なお、閾値データは軸受けの固定状態、軸受けの直径、平均回転速度等の要因を勘案して実験的又は経験値に基づいて決定され、予めメモリ40に記録しておく。なお、判定は正常と異常だけにしてもよい。また、閾値データは適宜修正可能にしてもよい。
【0019】
「注意」或いは「異常」と判定されたセンサーは手動又は自動的に機械室番号とセンサー番号が指定され、ネットワーク20(又は、他の専用回路)を介して選択回路24(図3)に読出指令信号(RS)が与えられる。これによって、診断用データがパケット化回路27からネットワーク20、受信装置16、中央制御装置31を経由して診断装置33に送信される。診断装置33は聴音用スピーカ39を鳴らし、更に、必要に応じて診断装置33により解析した振動波形のスペクトルが診断用の表示装置38に表示する。監視員は聴音用スピーカ39からの鳴音や、さらにはスペクトル波形から故障の診断を行う。スピーカ39からの鳴音は、加速度センサー11の出力信号は人間の可聴域(数Hz〜10,000Hz)に合致するので、聴診器で聞く音とほぼ同じ音になり、機器の異常判断が可能になる。さらに、これらのデータはメモリ40に記録されているので何回も再現可能である。
【0020】
図5は振動波形のスペクトル表示の1例を示す。図5(A)は音圧と周波数の関係の時間変化を示し、図5(B)はパワーのレベルと周波数の関係の時間変化を示す。これらのグラフが聴音と同時に表示可能になるので診断がより正確になる。また、振動波形のスペクトル表示は図6に示すように、ある時刻或いはある時間のスペクトル表示としてもよい。図6(A)は音圧と周波数の関係を示すスペクトル表示、図6(B)は周波数を1/3オクターブずつ変化させた場合のスペクトル表示である。図6(C)は周波数とパワーのレベルの関係を示すパワースペクトルである。
【0021】
以上に説明したように、本実施形態の発明に依れば、運転時の回転部の振動をノイズの少ない固体伝達音に近い聴音として中央監視室で簡便に聞くことができ、又正常な機器の音や過去の異常時の音などを呼び出して比較して聞くことができるので正確な故障判断が可能になるという効果が得られる。また、監視データは少ビット数のデータで表現し、診断データを多ビット数のデータで表現すれば、多くのセンサーを設けている場合でも効率的な監視及び診断が可能になるという効果が得られる。
【0022】
以上、この発明の実施形態、実施例を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれる。例えば、マルチプレクサー24をA/D変換回路25の後に設けた場合も本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施した実施形態の概略図を示す。
【図2】本実施形態の各機械室における構成ブロック図を示す。
【図3】本実施形態の中央監視室における構成ブロック図を示す。
【図4】監視装置の表示例を示す。
【図5】(A)、(B)は診断装置の表示例を示す。
【図6】(A)〜(C)は診断装置の別の表示例を示す。
【符号の説明】
【0024】
11 振動計測センサー
12 プリアンプ
13 データ生成回路
14 多重化処理回路(データ処理回路)
15 パケット化回路(変換回路)
16 受信装置
20 ネットワーク
21 信号処理回路(第1処理回路)
22 入出力ユニット(I/Oユニット)
23 第2処理回路
24 選択回路
25 マルチプレクサ−
26 A/D変換回路
27 パケット化回路
30 中央監視装置
31 中央制御装置
32 監視装置
33 診断装置
36 監視用表示装置
38 診断用表示装置
39 聴音発生用スピーカ
40 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工場、プラント等における生産設備機器等の運転状態を監視する監視システムにおいて、生産設備機器等の回転部に設けた振動検出センサーと、該センサーの出力データから監視用データを生成する第1処理回路と該センサーの出力データから診断用データを生成する第2処理回路とからなるデータ生成回路と、生成された前記データを指定したゾーン毎にまとめて伝送データを生成するデータ処理回路と、前記伝送データをネットワークの条件に適合したデータに変換する変換回路と、各ゾーンと中央監視室を結ぶネットワークと、該ネットワークから伝送データを受信する受信装置と、中央監視室内に設置された監視診断装置とを具備し、前記監視診断装置は該受信装置からの伝送データに基づいて前記生産設備機器等の異常発生又は異常発生の予兆を常時監視する監視装置と、異常等の原因を診断する診断装置とを備え、更に、該診断装置は少なくとも、その機器等に関する前記センサーの振動波の聴音による診断を可能にする聴音発生装置を備えたことを特徴とする生産設備機器等の監視システム。
【請求項2】
前記振動検出センサーは、回転部の軸受けに設けられ、振動波のアナログ信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の生産設備機器等の監視システム。
【請求項3】
前記第1処理回路は、前記振動検出センサーの出力を増幅するプリアンプと、増幅されたアナログ信号を処理して該振動波の実効値、ピーク値、速度、加速度、又は、これらのデータを組み合わせたデータを生成する生成回路と、該生成回路の1又は複数のアナログ信号に基づきデジタル信号を出力するIOユニット回路とを具備することを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の生産設備機器等の監視システム。
【請求項4】
前記第2処理回路は、前記プリアンプで増幅したアナログ信号の中から指定されたセンサーに対応するプリアンプからの信号を選択し、選択されたアナログ信号をデジタル信号に変換して、IP回線用データとして出力することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の生産設備機器等の監視システム。
【請求項5】
前記監視用のデジタルデータは小ビット数のデータで表現し、前記診断用のデジタルデータは多ビット数のデータで表現したことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の生産設備機器等の監視システム。
【請求項6】
前記診断装置は、更に、指定された前記各センサーの振動波の周波数と音圧との関係を示すスペクトル表示、周波数と加速度レベルとの関係を示すパワースペクトル表示も可能にしたことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1に記載の生産設備機器等の監視システム。
【請求項7】
前記スペクトル表示は、1/3オクターブのスペクトル表示、又は、サウンドスペクトログラム表示であることを特徴とする請求項6に記載の生産設備機器等の監視システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−303866(P2007−303866A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130282(P2006−130282)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(000001834)三機工業株式会社 (316)
【Fターム(参考)】