説明

差し迫った制御不安定性の検出

【課題】対象物に刺激を与えるシステムにおいて、差し迫った制御不安定性を検出してこれを回避する方法を提供する。
【解決手段】システム110は、刺激エフェクター120により対象物100に刺激が与えられている間にセンサー130により対象物の発振を示すシステムパラメータを表すパラメータ信号OSCを測定する。制御装置140はパラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、制御不安定性を回避する信号CSを刺激エフェクター120に与える。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
制御システムにおいて、「不安定性」という語は一般に、連続して増加する振幅を有する発振の存在を指す。ただし、ここで用いられているように、「不安定性」という語は、システムの少なくとも1つの発振モードの望ましくない振幅の存在を指す。この望ましくない振幅は、断続的、一定または連続して増加していてもよい。
【0002】
発振は、さまざまな原因から生じる可能性がある。発振は、閉ループまたは開ループシステムにおいてモードがその固有振動数で励起される共振の結果として生じてもよい。その結果が、線形不安定性である。
【0003】
発振は、コントローラの刺激周波数が関連はしていないが、電力を供給する、負減衰を有する自由振動の結果として生じてもよい。その結果が、自励振動である。
【0004】
対象物に刺激を与える制御システムにおいて、発振は、摩擦やバックラッシュのような非線形性により引き起こされることがある。その結果が、リミットサイクル発振である。線形不安定性により引き起こされる発振と異なり、リミットサイクル発振は、飽和しており、振幅が増加しない。リミットサイクル発振している制御ループ付近の全体位相遅れは、ちょうど360度であり、かつ、ループ利得は、1である。
【0005】
単一チャネルを有する制御システムにおいて、リミットサイクルまたはその他の発振に起因する不安定性の始まりを見極めるのは困難である。当初の不安定性を引き起こしたチャネルを突き止めることが困難であるため、複数チャネルを有する制御システムでは、上記見極めは一層困難である。そのうえ、1つの不安定チャネルが原因となり、おびただしいチャネルが不安定となりうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
望ましくない振幅を有するリミットサイクル発振およびその他の発振により引き起こされる不安定性を迅速に検出および制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここでのある側面にしたがって、対象物に刺激を与えるシステムにおいて、差し迫った制御不安定性を検出する。該システムは、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すシステムパラメータを表すパラメータ信号を提供する。その方法は、パラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることを含む。
【0008】
ここでの別の側面にしたがって、方法は、エフェクターを用いて、対象物に刺激を与え、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを表す信号を生成し、パラメータ信号の複数の種々の周波数帯の各々における支配的なトーンの最大振幅を監視し、そのままではば特定の周波数において発振モードをトリガーする傾向にあるであろう制御パラメータを選択的に調整することを含む。
【0009】
ここでの別の側面にしたがって、システムは、対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、パラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じるための制御装置とを含む。
【0010】
ここでの別の側面にしたがって、システムは、対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、特定の周波数における発振モードをトリガーする傾向にある調整可能なパラメータを有する第1制御装置とを含む。該システムは、センサーに応答して、測定されたパラメータの複数の周波数帯の各々における支配的なトーンの最大振幅を求め、特定の周波数におけるこれらの発振モードをトリガーしないようにこれらのパラメータを自動的に調整するための第2制御装置をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、対象物に刺激を与えるシステムを示す。
【図2】図2は、制御システムにおける不安定性を示す。
【図3】図3は、制御システムにおける不安定性を示す。
【図4】図4は、対象物に刺激を与えるシステムにおいて差し迫った制御不安定性を検出する方法を示す。
【図5】図5は、リミットサイクル発振に起因する制御不安定性を検出および回避する方法を示す。
【図6】図6は、比例積分微分制御装置を示す。
【図7】図7は、モデル規範形適応制御装置を示す。
【図8】図8は、フライス盤を示す。
【図9】図9は、航空機の翼用動水力システムを示す。
【図10】図10は、差し迫った制御不安定性を検出するための制御装置のハードウェア実施構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
対象物100に刺激を与えるためのエフェクター120を含むシステム110を示す図1を参照する。刺激は、圧力、力、位置、温度、速度またはその他、もしくは、複数の刺激の組み合わせとすることが可能である。例えば、刺激エフェクター120は、少なくとも1つのアクチュエーターを含んでいてもよい。
【0013】
センサー130は、対象物100の発振運動を示すフィードバックまたは別のパラメータを監視する。センサー130は、パラメータ信号OSCを生成する。ある実施形態において、信号OSCは、閉ループシステムに対するフィードバックであってもよい。他の実施形態において、信号OSCは、発振(例えば、圧力信号が実際のフィードバックであった場合の圧力制御システムにおける振動)について監視される別のパラメータを表してもよい。
【0014】
システム110は、刺激エフェクター120を制御するための制御装置140をさらに含む。制御装置140は、開ループまたは閉ループとすることが可能であり、パラメータ信号OSCに応答して刺激を制御する制御信号CSを生成する。
【0015】
システム110の動作中、外部刺激もまた対象物100に与えられてもよい。例えば、対象物100の上方を流れている空気は、空気力学的な力を対象物100に印加してもよい。これらの外部刺激は、刺激エフェクター120により与えられるものではない。
【0016】
システム110は、単純または複雑にすることが可能である。単純なシステムは、開ループ制御による単一チャネルを含んでもよい。航空機翼アクチュエーターシステムなどの複雑なシステムは、閉ループ制御による複数のチャネルを有していてもよい。
【0017】
図2および図3は、対象物100に経時的に印加される正弦波力の単一サイクルの時間領域表現および周波数領域表現である。周波数領域表現は、2.5Hzにおいて印加されるより高い振幅成分310を示している。このより高い振幅成分310は、動作条件に対応している。
【0018】
周波数領域表現はまた、約80Hzにおけるより低い振幅成分320を示している。矢印330は、あるスペクトル域にわたって成分320が変動する(例えば、±10Hz)ことを示している。この変動は、システムの共振周波数を変化させる油圧アクチュエーターの位置ストロークなどのパラメータの変化の結果として生じることがある。
【0019】
このより低い振幅成分320は、共振である可能性がある。その振幅が十分に高ければ、共振は、不安定性の始まりを示すことがある。
【0020】
ただし、この特定の例については、より低い振幅成分320は、リミットサイクル発振に起因する不安定性を表している。リミットサイクル発振は、典型的には正弦波である。しかしながら、リミットサイクル発振は、非正弦波とすることも可能である。例えば、静止およびクーロン摩擦に起因する不安定性は、周波数の低下とともに特徴的に三角形のリミットサイクル発振を生じる。臨界速度未満で移動するとき、発振波形は、鋸歯状となる。バックラッシュの非線形性により、幾分方形波のような形状のリミットサイクル発振が引き起こされる可能性がある。
【0021】
場合によっては、リミットサイクル発振は、不規則な周波数成分を有することがあり、かつ、複数の高調波を有する方形波に見えることがある。これらの波形における高調波のエネルギー寄与は、基本波より大きいこともある。
【0022】
ここで、望ましくない振幅を有するリミットサイクル発振およびその他の発振に起因する制御不安定性を検出および回避するための、制御装置140において実施される方法を示す図4をさらに参照する。ブロック410において、パラメータ信号OSCを生成する。パラメータ信号OSCは、対象物100に刺激が与えられている際の対象物100の発振を示すパラメータを表している。
【0023】
ブロック420において、制御装置140は、パラメータ信号OSCの選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視する。最大振幅が指定された期間にわたって持続する(例えば、閾値を超過する)場合、差し迫った制御不安定性が想定される。
【0024】
振幅は、あるスペクトル域にわたって持続する可能性がある。したがって、特定の周波数ではなくスペクトル帯を監視する。
【0025】
いくつかの実施形態において、支配的なトーンは、対象物100およびシステム110の先験的知識により求めることができる。例えば、支配的なトーンは、システム110の駆動周波数の倍数であってもよい。駆動周波数は、誤差(すなわち、コマンドとフィードバックとの差異)の関数として監視してもよい。
【0026】
他の実施形態において、支配的なトーンは、パラメータ信号OSCの周波数領域表現を解析することにより見出してもよい。一例として、パラメータ信号OSCがFFTを実行することにより解析されるとき、第1列を周波数、第2列を対応する周波数に対する振幅とするある行列を構築できる。図3の表現について、例えば、10lbsを超える振幅を求めて該行列を検索した場合、1つの振幅が2.5Hzにおいて見出され(270lbs)、かつ、別の振幅が80Hzにおいて見出される(50lbs)だろう。システム110は、2.5Hzにおいて駆動されているので、その周波数/振幅は無視されるだろう。
【0027】
ブロック430において、指定された期間にわたって最大振幅が閾値を超過する場合、差し迫った制御不安定性を回避する措置を講じる。措置の例として、限定はされないが、システム110をシャットダウンすること、操作者の介入に対する警告を発すること、および、不安定性を回避するために制御装置140の利得を変動させることが挙げられる。利得を変動させることの一例として、駆動周波数を監視し、誤差限界を超過した場合、制御装置140の比例利得を下げる。これは、例えば、システム110がその共振周波数またはその近傍で駆動されねばならないときに有益であろう。
【0028】
図4の方法は、リミットサイクル発振などの制御不安定性の回避に対する迅速かつ単純な取り組み方を提供する。スペクトルピークの相関は必要ない。位相情報の解析は必要ない。特定の振幅値を下回る発振は無視される。最大振幅および対応する周波数成分のみを監視して、制御不安定性が差し迫っているか否かを判定する。トリガー発振が検出されることがあり、1サイクルのみの発振後に所望の措置が呼び出されることがある。
【0029】
図4の方法は、対象周波数とほぼ等しいか、これよりわずかに小さいか、わずかに大きい有界スペクトル領域において発振を検出しうる。該方法はまた、発振が有界スペクトル領域に存在しないか否かを検出する。例えば、制御装置140は、発振が有界スペクトル領域に存在しているデフォルト条件を有する。望ましくない環境要因またはその他の要因により、この発振の周波数が境界領域の外へ移動し、制御装置140により特定されている適切な措置をトリガーすることがある。
【0030】
正弦波の発振に対しては、支配的なトーンのみの検出が適している。しかしながら、ここでの方法は、そのように限定されてはいない。ここでの方法は、高調波を有する発振信号上の不安定性も検出できる。支配的なトーンのエネルギーに加えてこのトーンの高調波を監視することにより、非正弦波リミットサイクル発振に起因する差し迫った制御不安定性を検出および回避することができる。あるシステムにおいて、基本波周波数の発振は、小さい振幅であるかもしれないが、高調波に有害なエネルギーが存在するかもしれない。制御装置140は、スペクトル全体にわたってエネルギー含量を評価することができる。一例としては、寄与が基本波周波数の奇数調波である方形波型の波形を結果として生じるリミットサイクル発振であろう。制御装置140は、スペクトル域全体にわたってピークを見出し、高調波であると突き止め、振幅をまとめて合計を得てもよい。
【0031】
ここでの方法は、リミットサイクル発振に限定されない。該方法はまた、共振励起および負減衰を有する発振(自励振動)に起因する差し迫った不安定性を検出することもできる。
【0032】
ここでの方法は、バッチ処理および熱処理のような遅いシステムに適用してもよい。ここでの方法は、航行のようなより速いシステム、ならびに、油圧および電気力ならびに位置アクチュエーターのようなさらに速いシステムに適用してもよい。これらのより速いシステムの例として、産業用および医療用機械類およびロボット工学、自動車および航空機臨床試験、ならびに、操縦装置が挙げられる。
【0033】
ここで、測定されたパラメータ上で検出された発振に起因する制御不安定性を検出および回避する方法の一実施形態を示す図5を参照する。ブロック510において、評価中のシステムは、対象物に刺激を与える。刺激は、制御信号に応答して与えられてもよく、または、刺激は、フライス盤上の回転数および送り動作といった間接的なエネルギー入力であってもよい。
【0034】
ブロック520において、センサー信号および取得を行い、対象物の発振運動の時間領域データを生成する。該データは、デジタルまたはアナログモードで取得可能である。この時間領域データは、定期的に更新される。
【0035】
ブロック530において、時間領域データを周波数領域表現に変換する。高速フーリエ変換(FFT)、ゼロ交差/時間間隔/最大振幅、最適化Goertzelフィルタリングまたは周波数‐電圧変換のような変換方法を用いてもよい。
【0036】
支配的なトーンが先験的に分かっている場合、Goertzelフィルタリングのような方法がFFTよりも有利である。FFTとは異なり、Goertzelフィルタリングは、サンプルサイズが2のべき乗であることを必要とせず、目的とする周波数のみについて検索可能である。
【0037】
支配的なトーンが先験的に分かっていない場合、時間領域データは、FFTを介して周波数領域に変換することができる。各セルの値は、種々の周波数における振幅となる。FFTは、データが取得される度に実行してもよい。支配的な周波数は、時間と共に変化する。さらに、支配的な周波数は、独立した要因によっては断続的に見えるかもしれない。これらが理由で、たいていの物理的システムでは、時間領域データの後続のセットの各々において全周波数が検索されることがある。スペクトル帯は境界が明瞭であるかもしれない一方、支配的なトーンは該帯内で変動する。
【0038】
いくつかのシステムについて、周波数領域変換は、まとめて省くことが可能である。例えば、発振は、通過帯域およびそのピーク値における発振のAC結合ゼロ交差を求めることにより時間領域において直接計算することができる。
【0039】
ブロック540において、最大振幅および対応する周波数(すなわち、最大振幅における周波数)を見出す。ブロック550において、極限について最大振幅および対応する周波数を評価する。
【0040】
最大振幅が閾値を超過しない場合(ブロック560)、時間領域データの新たなセットを処理する(ブロック520からブロック550)。最大振幅が閾値を超過し、対応する周波数がスペクトル帯内にある場合、持続性についてデータを評価する(ブロック570)。持続性基準がまだ満たされていない場合(ブロック580)、時間領域データの新たなセットを処理する(ブロック520からブロック550)。
【0041】
持続性基準が満たされた場合(ブロック580)、許容できない発振イベントを検出し、かつ/または、差し迫った不安定性を想定する。したがって、発振の振幅を低減する措置を講じる。図5の例において、制御利得を調整する(ブロック590)。望ましくない発振を非常に迅速に検出するので、システムをシャットダウンせねばならなくなる前に利得を調整する十分な時間がある。
【0042】
利得調整は、動作の「単発の」または「再トリガー可能な」または「連続した」モードであってもよい。回避措置が利得低減を伴う場合、単発モードでは、利得は、不安定性が生じる際に低減されるが、システムが安定している際には増加しない。再トリガー可能モードでは、利得は、システムが安定動作を達成したとき増加させ、(ヒステリシスを暗示する)不安定性の始まりの際に低減させることができる。
【0043】
連続モードでは、測定したパラメータの支配的なトーン(例えば、油圧を制御する際の試験片の振動)を監視し、かつ、このパラメータの振幅の関数として利得を調整する。利得は、最大限度および最小限度を有していてもよい。利得は、利得余裕が維持されるように常に変動させてもよい(図6参照)。この連続モードにより、システムは、たとえシステムパラメータ(プラント)が変化しても最大応答で動作可能である。
【0044】
ここでの方法のいくつかの実施形態において、システムの動作中に単一のスペクトル帯しか監視できないことがある。他の実施形態において、複数のスペクトル帯を同時に監視してもよい。スペクトルの種々の部分を解析して、種々の制御パラメータを調整してもよい。特定の周波数において発振モードをトリガーする傾向にある、利得調整、挿入レベル、強制要因などのような調整可能なパラメータを有するいかなる制御装置も、選択性周波数領域検出の利益を享受する可能性がある。例えば、比例積分微分(PID)制御装置またはモデル規範形適応制御装置において、複数帯域を同時に解析してもよい。
【0045】
ここで、ここでの方法に従って利得を調整する単純化されたPID制御装置を示す図6を参照する。過剰な比例積分微分利得は、種々のシステムにおいて異なった影響を有することがあるが、この単純化された制御装置では、積分器利得を増大させることにより、低い周波数発振が生じ、過剰な比例利得により、比較的中間の周波数発振が生じ、過剰な微分利得により、より高い周波数モードが励起されることとなる。
【0046】
動作中、加算接合器610において測定されたパラメータOSCからコマンドまたはその他の参照信号(CMD)を減算して、誤差信号(ERR)を作成する。ブロック620およびブロック630において、測定されたパラメータOSCはまた、周波数領域表現に変換され、周波数成分および大きさについて解析される。
【0047】
ブロック640は、スケジューリングのためのスペクトル基準を判定する。周波数ピークが微分利得調整のためのスペクトル基準(高周波成分)内にあれば、微分利得を自動的に調整する。この調整は、利得スケジュール641において速度を選択し、誤差信号に選択した速度を掛けることにより行ってもよい(ブロック642)。こうして低減されるのは、パラメータ信号の高周波成分の長引くピークである。
【0048】
周波数ピークが積分利得調整のためのスペクトル基準(低周波成分)内にあれば、積分利得および寄与率を自動的に調整する。この調整は、スケジュール644から利得項を選択し、蓄積された誤差に利得項を掛けることにより行ってもよい(ブロック646)。図示はしていないが、誤差積分関数から寄与されうる全コマンド信号の割合もまた、この同じ方法により調整してもよい。こうして低減されるのは、パラメータ信号の低周波成分の長引くピークである。
【0049】
周波数ピークが比例利得調整のためのスペクトル基準(中間成分)内にあれば、比例利得を自動的に調整する。例えば、利得に対する比例調整は、リアルタイムでの(スペクトル基準内の)フィードバック信号発振の絶対値に基づいている(ブロック648〜649)。
【0050】
調整された成分は、接合器650において合計され、増幅器660において増幅される。増幅器660の出力は、制御信号(CS)を生成し、該制御信号が刺激エフェクターに供給される。
【0051】
比例、積分および微分利得は、利得余裕および位相余裕がゼロに低減されると、スペクトルの種々の領域の励起を生じることが多い。一例として、動作周波数は、約5Hzの過剰な積分利得に起因する不安定性を有してDCから1Hzであってもよい一方、過剰な比例利得により、12Hz領域における発振が生じてもよく、かつ、微分利得により、40Hz領域における発振が生じてもよい。
【0052】
ここで、モデル規範形適応制御装置710に関するここでの方法を示す図7を参照する(典型的な実施構成が示されている)。モデル規範形適応制御装置710の一実施構成は、「多重入力最小積分制御合成」(MIMICS)として知られている。制御装置710へのインタフェースは、設定または調整可能なパラメータを含む。これらパラメータは、収束係数720、折れ点周波数730および利得ロック/出力ゼロ化740を含む。折れ点周波数730を用いて、プラント712の最も支配的な成分に相当するモデル711を導き出す。収束係数720は、一旦、適応ブロック713がオンになるとフィードバックがコマンド信号を実現すべき速度を示す。利得制御740は、オンまたはオフとなっている。
【0053】
ここでの方法に従って動作している制御装置750は、収束、折れ点周波数および利得制御720、730および740を制御することによりモデル規範形適応制御装置710と接続して機能する。収束が高く設定されすぎている場合、発振が起こる。制御装置750は、これら発振を検出し、収束速度を低減することができる。
【0054】
制御装置750はまた、いくつかの利得KおよびKuの調整を引き起こすことができる。これらの利得KおよびKuは、新たな収束値で学習段階が再開するようにゼロに設定してもよい。図7の制御装置710において、利得KおよびKuは、適応ブロック713により制御されるが、利得ロック/出力ゼロ化740を介して制御装置750により再度ゼロ化またはロックされることも可能である。
【0055】
ここでの制御装置のいくつかの実施形態は、補正フィルターを用いて、特定の帯域における位相シフトまたは減衰を調整することができる。不安定性は、位相余裕が低い(例えば、フィードバック位相がコマンドから−180度に近づく)ときに起こりうる。位相調整は、単発でも、再トリガー可能でも、連続していてもよい。連続した位相調整において、位相は、位相余裕が維持されるように常に変動可能であることにより、システムパラメータ(プラント)が変化することがあっても最大応答で動作する。対照的に、従来のシステムは、補償を統計的に設定している。
【0056】
ここでの方法は、「バングバング」コントローラとともに用いてもよい。バングバングコントローラのヒステリシスが小さすぎる場合、より高い周波数のオーバーシュートおよびアンダーシュートが常に起こるだろう。ここでの方法は、ヒステリシス設定の増大に用いてもよい。
【0057】
ここでの方法は、単純な単一チャネルシステムに適用してもよい。そのようなシステムの1つは、フライス盤の単一軸である。
【0058】
部品805を機械加工するためのフライス盤800を示す図8を参照する。フライス盤800は、部品805を支持するための台810と、電源820と、切削工具830と、切削工具モーター840と、切削工具830の回転速度を制御するための第1開ループ制御装置850とを含む。フライス盤800は、(送りモーター870を介して)台810の並進速度を制御するための第2開ループ制御装置860をさらに含み、これにより、切削工具830内への部品805の送り動作を制御する。センサー880は、部品805の発振を測定する。センサー880は、部品805が機械加工されているときに部品805の振動を測定する、例えば、加速度計であってもよい。
【0059】
温度、同伴空気、アクチュエーター位置などは、油圧および空気制御におけるパラメータに影響を与える可能性がある。部品805の大きさおよび切削工具830の位置は、部品805が機械加工されているときの機械加工作業のパラメータに影響を与える可能性がある。送り動作および回転数は、開ループで実行中であってもよく、部品805は、その共振点において発振し始めることにより、チャタリングを引き起こすことがある。
【0060】
フライス盤800は、ここでの方法に従ってセンサー880の出力を解析するためのここでの制御装置890をさらに含む。制御装置890は、差し迫った制御不安定性を検出し、あらゆる不安定性を回避する対策を講じる。例えば、制御装置890は、切削工具モーター840および送りモーター870への電力を適切に調整してもよい。たとえフライス盤800は不安定にはならなくとも、部品805の発振を用いて、切削工具830および切削工具モーター840に対する開ループコマンドを制御することができる。
【0061】
ここでの方法は、複数のチャネルを有するシステムにとってとりわけ有利である。一例は、臨床試験における航空機の航空機制御表面上の力を制御するためのシステムである。
【0062】
ここで、航空機翼910の制御表面に対する動水力システム900を示す図9を参照する。システム900は、例えば、設計エンベロープに基づいた動作または最大値をシミュレートする航空機制御力の疲労試験を行うために用いてもよい。システム900は、複数のチャネルを含んでおり、各チャネルは、力アクチュエーター920とここでの方法を実行する制御装置(図示せず)とを含んでいる。疲労試験中、力アクチュエーター920は、翼910の一部に負荷をかける。例えば、30台の独立した力アクチュエーター920は、翼910に同時に力を印加することができる。
【0063】
(矢印930により表される)アクチュエーターのストロークは、翼910に力が印加されるにつれて変動する。周波数モードは、ストロークの変化とともにスペクトル位置および振幅が変化する。動水力システム900は、有限利得余裕を有するので、あるチャネルが不安定になり、その他のチャネルをも不安定にさせる可能性がある。結果として、望ましくない力発振が生じうる。
【0064】
力センサー950は、各チャネルからの翼910に対する動的および静的な力を測定する。翼910は、ストロングバック940、または、航空機胴体のようなその他の構造部材に取り付けられていてもよい。力アクチュエーター920は、地上基準またはその他の反動的なリンク機構に反して動く。
【0065】
テストサイクル周波数は約1Hzとすることができる。本実施例において、油圧共振周波数は、翼910の質量および油圧油の剛性と関連付けられている。発振は、10Hzから200Hzまでの共通の油圧システムにおいて起こると考えられる。周波数掃引または解析により、数多くの周波数において予想発振モードが明らかになってもよい。これらの共振は、発振し、不安定性を引き起こす傾向についてはさまざまである。
【0066】
全チャネルは、同時に機能する。各制御装置は、他のチャネルが駆動され発振する前に、自動的に応答し、かつ、不安定なチャネルに対する利得を即座に低減することができる。
【0067】
力制御システム900は、高価な試験機材の損傷を回避することにより費用の節約が可能である。試験の費用は、サイクル速度を高めることにより削減可能である。周波数帯内で利得を制御する能力により、より遅い試験周波数が、他のモードの発振を監視しつつ実行することが可能となる。
【0068】
ここで、図10を参照する。ここでの制御装置は、いかなる特定の実施構成にも限定されない。例えば、制御装置1010は、マイクロプロセッサによるものであってもよい。マイクロプロセッサによる制御装置1010は、プロセッサ1020と、記憶装置1030と、記憶装置1030に保存されているデータ1040とを含む。実行時、データ1040は、プロセッサ1020にここでの方法を行わせる。
【0069】
本願は、以下の実施形態を開示している。
1. 対象物に刺激を与えるシステムにおいて差し迫った制御不安定性を検出する方法であって、前記システムは、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを表す信号を提供し、前記方法は、
パラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視することと、
最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることと
を含む方法。
2. 最大振幅および対応する周波数成分のみを監視し、制御不安定性が差し迫っているか否かの判定に用いる、実施形態1に記載の方法。
3. 支配的なトーンが、システムの駆動周波数の倍数である、実施形態1に記載の方法。
4. 駆動周波数における発振を無視する、実施形態3に記載の方法。
5. 支配的なトーンのピークのエネルギーと支配的なトーンの高調波とを総計し、総計を閾値と比較することにより、制御不安定性が差し迫っているか否かを判定する、実施形態1に記載の方法。
6. 対策を講じることが、システムをシャットダウンすることを含む、実施形態1に記載の方法。
7. 対策を講じることが、制御装置の利得を調整することを含む、実施形態1に記載の方法。
8. 種々のスペクトル帯を同時に解析し、そのままではば特定の周波数において発振モードをトリガーする傾向にあるであろう制御パラメータを選択的に調整することをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
9. 制御装置が比例積分微分(PID)制御装置であり、制御信号の高周波成分の長引くピークに応答して制御装置の微分利得を自動的に調整し、制御信号の低周波成分の長引くピークに応答して積分利得および寄与率を自動的に調整し、中間の周波数成分に応答して比例利得を調整する、実施形態8に記載の方法。
10. 比例利得に対する調整が、リアルタイムでの制御信号発振の絶対値に基づいている、実施形態9に記載の方法。
11. 制御装置が、収束速度を含むパラメータを有するモデル規範形適応制御装置であり、差し迫った不安定性が検出される場合、収束速度を低減する、実施形態8に記載の方法。
12. 制御装置が、特定のスペクトル帯域における位相シフトを調整する補正フィルターを用いる、実施形態8に記載の方法。
13. 対策を講じることが、部品の機械加工中に不安定性を回避するために切削工具および供給モーターに対する電力を制御することを含む、実施形態1に記載の方法。
14. 複数の力アクチュエーターにより対象物の種々の領域に力を印加し、パラメータ信号を種々の領域に対して生成し、かつ、対応するパラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることにより、各アクチュエーターを独立して制御する、実施形態1に記載の方法。
15. 対象物が、制御表面を有する航空機翼であり、力アクチュエーターが、試験中に翼に力を印加し、問題となっているアクチュエーターに対して対策を講じることが、他のアクチュエーターが駆動されて発振する前に制御利得を低減することを含む、実施形態14に記載の方法。
16. エフェクターを用いて、対象物に刺激を与えることと、
対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを表す信号を生成することと、
パラメータ信号の複数の種々の周波数帯の各々における支配的なトーンの最大振幅を監視することと、
そのままではば特定の周波数において発振モードをトリガーする傾向にあるであろう制御パラメータを選択的に調整することと
を含む方法。
17. 対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、
対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、
パラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じるための制御装置と
を含むシステム。
18. エフェクターおよび制御装置が複数のチャネルを含み、各チャネルが力アクチュエーターおよびアクチュエーター制御装置を含み、チャネルにより対象物の種々の領域に力が印加され、パラメータ信号が種々の領域に対して生成され、対応するパラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって閾値を超過する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることにより、各チャネルが独立して制御される、実施形態17に記載のシステム。
19. 対象物が、航空機翼または制御表面であり、力アクチュエーターが、試験中に翼または制御表面の種々の領域に対して動作し、他のチャネルが駆動されて発振する前に問題となっているチャネルのアクチュエーター制御において利得を低減する、実施形態18に記載のシステム。
20. 対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、
対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、
特定の周波数における発振モードをトリガーする傾向にある調整可能なパラメータを有する第1制御装置と、
センサーに応答して、測定されたパラメータの複数の周波数帯の各々における支配的なトーンの最大振幅を求め、特定の周波数におけるこれらの発振モードをトリガーしないようにこれらのパラメータを自動的に調整するための第2制御装置と
を含むシステム。
【符号の説明】
【0070】
100 対象物
110 システム
120 エフェクター
130 センサー
140 制御装置
710 モデル規範形適応制御装置
720 収束係数
730 折れ点周波数
740 利得ロック/出力ゼロ化
750 制御装置
800 フライス盤
805 部品
810 台
820 電源
830 切削工具
840 切削工具モーター
850 第1開ループ制御装置
860 第2開ループ制御装置
870 送りモーター
880 センサー
890 制御装置
900 動水力システム
910 航空機翼
920 力アクチュエーター
940 ストロングバック
950 力センサー
1010 制御装置
1020 プロセッサ
1030 記憶装置
1040 データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に刺激を与えるシステムにおいて差し迫った制御不安定性を検出する方法であって、対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを表す信号を提供し、
パラメータ信号の選択された周波数帯において支配的なトーンの最大振幅を監視することと、
最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることと
を含む方法。
【請求項2】
最大振幅および対応する周波数成分のみを監視し、制御不安定性が差し迫っているか否かの判定に用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
支配的なトーンのピークのエネルギーと支配的なトーンの高調波とを総計し、この総計を閾値と比較することにより、制御不安定性が差し迫っているか否かを判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
種々のスペクトル帯を同時に解析し、そのままでは特定の周波数において発振モードをトリガーする傾向にあるであろう制御パラメータを選択的に調整することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
制御が比例積分微分(PID)制御であり、制御信号の高周波成分の長引くピークに応答して制御の微分利得を自動的に調整し、制御信号の低周波成分の長引くピークに応答して積分利得および寄与率を自動的に調整し、中間の周波数成分に応答して比例利得を調整する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
比例利得に対する調整が、リアルタイムでの制御信号発振の絶対値に基づいている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
制御が、収束速度を含むパラメータを有するモデル規範形適応制御であり、差し迫った不安定性が検出される場合、収束速度を低減する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
複数の力アクチュエーターにより対象物の種々の領域に力を印加し、パラメータ信号を種々の領域に対して生成し、かつ、対応するパラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じることにより、各アクチュエーターを独立して制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
対象物が、制御表面を有する航空機翼であり、力アクチュエーターが、試験中に翼に力を印加し、かつ、問題となっているアクチュエーターに対して対策を講じることが、他のアクチュエーターが駆動されて発振する前に制御利得を低減することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、
対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、
パラメータ信号の選択された周波数帯における支配的なトーンの最大振幅を監視し、最大振幅が指定された期間にわたって持続する場合、差し迫った制御不安定性を回避する対策を講じるための制御装置と
を含むシステム。
【請求項11】
対象物に刺激を与えるためのエフェクターと、
対象物に刺激が与えられている間に対象物の発振を示すパラメータを測定するためのセンサーと、
特定の周波数における発振モードをトリガーする傾向にある調整可能なパラメータを有する第1制御装置と、
センサーに応答して、測定されたパラメータの複数の周波数帯の各々における支配的なトーンの最大振幅を求め、特定の周波数におけるこれらの発振モードをトリガーしないように、これらのパラメータを自動的に調整するための第2制御装置と
を含むシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−233885(P2012−233885A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−94491(P2012−94491)
【出願日】平成24年4月18日(2012.4.18)
【出願人】(500520743)ザ・ボーイング・カンパニー (773)
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
【Fターム(参考)】