説明

差動歯車機構

差動歯車(10)は、はすばフェースギヤを含むサイドギヤ(14)と、サイドギヤと噛合うように形成されたはすばピニオン(16)と、はすばピニオンを収容するように形成されたピニオンハウジング(18)と、はすばピニオンを支えるように形成された第1支持部材(20)とを含んでいる。サイドギヤは、差動軸(22)上で回転する。はすばピニオンは、第1端部(24)と、第1端部に相対する第2端部(26)とを有している。ピニオンハウジングは、環状のリング部を備え、そして、半径方向外側面(28)、半径方向内側面(30)、及び、半径方向外側面から半径方向内側へ延びる空間部(32)を含んでいる。第1支持部材は、ピニオンハウジングの半径方向内側面に対して半径方向内側に配置されている。いくつかの実施形態では、差動歯車は、はすばピニオンを支えるように形成された第2支持部材(46)を含んでいる。第2支持部材は、ピニオンハウジングの半径方向外側面に対して半径方向外側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はすばフェースギヤを有する第1ギヤ、はすばフェースギヤと噛合うように形成されたはすばピニオンを有する第2ギヤ、はすばピニオンを収容するように形成されたピニオンハウジング、及び、はすばピニオンを支えるように形成された支持部材を含む差動歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
差動歯車で使用するためのはすばフェースギヤは、例えば、特許文献1及び特許文献2で示されているように、当技術の中では周知なものである。しかしながら、差動歯車へのはすばフェースギヤの結合は、例えば、ギヤの強度についての課題、許容誤差のギヤ構成要素を製造するコスト、ギヤ構成要素内でのトルクの等分配を保証する難しさ等の理由により、一般的に利用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3253483号明細書
【特許文献2】米国特許第4791832号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
はすばフェースギヤ、はすばピニオン、及び、ピニオンハウジングを有する差動歯車において、差動歯車は、ピニオンハウジング内に配置されている複数のはすばピニオンに、トルクを分配するように形成される。ピニオンハウジングは、ピニオンハウジングの半径方向外側面から半径方向内側へ延びた、少なくとも1つの空間部を有する、環状のリング部を含んでいる。各々の空間部は、ピニオンハウジングの半径方向内側面によって構成された壁により閉じられた、閉鎖空間部を含んでいる。はすばピニオンは、各閉鎖空間部内に配置される。各はすばピニオンは、ピニオンハウジング内でピニオンをガイド、或いは、案内する目的で設計された突出部を、その一端部に有している。この突出部は、はすばピニオンの縦軸に沿った方向に延びている。突出部は、その直径がはすばピニオンの直径よりも小さいものである。突出部のその小さい直径は、はすばピニオンのガイド機能に、比較的悪い影響を及ぼすものである。突出部を有しているはすばピニオンの端部は、ピニオンハウジングの半径方向内側面を定める、ピニオンハウジングの内壁に接触している。その結果、はすばピニオンの端部とピニオンハウジングとの接触面での摩擦により、熱が生じる。差動歯車の構成要素間での熱交換は、はすばピニオンと接触している範囲の、ピニオンハウジングの内壁が薄いため、不十分である。更に、ギヤ構成要素は、ギヤ構成要素の製造、差動歯車の組み立て、及び/又は、運転負荷によるギヤ構成要素の変形によって引き起こされる誤差を来たし、それら全てが不可避であることから、差動歯車のピニオン間でのトルクの不等分配を引き起こすものである。差動歯車のピニオン間でのトルクの不等分配が起こる際には、トルク性能が低くなる。更に、閉鎖空間部の使用は、ピニオンハウジングの製造をより難しくさせるものとなる。閉鎖空間部の縦軸は、それ自身がはすばピニオン上の突出部の縦軸と直線状である、はすばピニオンの縦軸と直線状になる必要があるため、ピニオンハウジングとはすばピニオンとに要求される許容誤差はとても厳しく、差動歯車の製造を更に複雑にする。
【0005】
ピニオンハウジング内でのはすばピニオンのガイドを改善することと、ピニオンハウジング内に配置されている複数のはすばピニオン間のトルク分配を最善の状態にすることは有益であり、その両方が、差動歯車のトルク性能を著しく高めることになる。はすばピニオンとピニオンハウジングとの面接触により摩擦が生じる、差動歯車の範囲内での熱交換状態を改善することも、また有益である。更に、トルク分配型差動歯車機構の大量生産に際し、はすばピニオンとピニオンハウジングとの製造精度を高めるための、商業的に実行不可能な程の高いコストが掛かる製造方法へと変更することなく、差動歯車の生産性を改善するために有益である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
本発明の差動歯車は、はすばフェースギヤを含むサイドギヤと、サイドギヤと噛合うように形成されたはすばピニオンと、はすばピニオンを収容するように形成されたピニオンハウジングと、はすばピニオンを支えるように形成された第1支持部材とを含んでいる。サイドギヤは、差動軸上で回転する。はすばピニオンは、第1端部と、第1端部に相対する第2端部とを有している。ピニオンハウジングは、環状のリング部を備え、そして、半径方向外側面、半径方向内側面、及び、半径方向外側面から半径方向内側へ延びる空間部を含んでいる。第1支持部材は、ピニオンハウジングの半径方向内側面に対して半径方向内側に配置されている。いくつかの実施形態では、差動歯車は、はすばピニオンを支えるように形成された第2支持部材を含んでいる。第2支持部材は、ピニオンハウジングの半径方向外側面に対して半径方向外側に配置されている。
【0007】
本発明の差動歯車は、はすばフェースギヤを含むサイドギヤと、サイドギヤと噛合うように形成されたはすばピニオンと、はすばピニオンを収容するように形成されたピニオンハウジングと、はすばピニオンを支えるように形成された第1支持部材と、はすばピニオンを支えるように形成された第2支持部材とを含んでいる。サイドギヤは、差動軸上で回転する。はすばピニオンは、第1端部と、第1端部に相対する第2端部とを有している。ピニオンハウジングは、環状のリング部を備え、そして、半径方向外側面、半径方向内側面、及び、半径方向外側面から半径方向内側面を通って半径方向内側へ延びることにより、第1端部と第2端部との両方で開口している空間部を含んでいる。空間部の第2端部は、第1端部の反対側に位置している。第1支持部材は、はすばピニオンの第1端部と係合し、ピニオンハウジングの半径方向内側面に対して半径方向内側に配置されている。第2支持部材は、はすばピニオンの第2端部と係合し、ピニオンハウジングの半径方向外側面に対して半径方向外側に配置されている。
【0008】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら、例を挙げて説明していくこととする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る差動歯車の側面断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る差動歯車の側面断面図である。
【図3】図3は、図2で示す差動歯車の正面断面図である。
【図4】図4は、図2で示す差動歯車の部分的な正面断面図である。
【図5】図5は、製造偏差がゼロである場合の、図4で示す差動歯車の少なくとも1つのはすばピニオンの軸方向変位量を示す模式図である。
【図6】図6は、製造偏差が少なくともいくらかある場合の、図4で示す差動歯車の少なくとも1つのはすばピニオンの軸方向変位量を示す模式図である。
【図7】図7は、図2で示す差動歯車の部分的な正面断面図である。
【図8】図8は、製造偏差がゼロである場合の、図7で示す差動歯車の少なくとも1つのはすばピニオンの軸方向変位量を示す模式図である。
【図9】図9は、いくらかの製造偏差がある場合の、図7で示す差動歯車の少なくとも1つのはすばピニオンの軸方向変位量を示す模式図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態に係る差動歯車の側面断面図である。
【図11】図11は、本発明の実施形態に係る差動歯車の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ここで、実施例が本明細書内に記述され、添付図面の中で説明されている、本発明の実施の形態について詳細に言及する。本発明が具体例と共に記述されている場合があるが、本発明をそれら具体例に限定するように意図するものではないことは理解されるであろう。これに反して、本発明は、代替となるもの、部分的に改造したもの、同等なものを含むように意図されており、それらは追加クレームによって盛り込まれることで、本発明の趣旨や範囲に含まれるものである。
【0011】
図1は、本発明の趣旨に沿って表した、差動歯車10の実施の形態を概略的に示している。差動歯車10は、本発明の実施の形態では、差動歯車筐体12、サイドギヤ14、はすばピニオン16、ピニオンハウジング18、そして、第1支持部材20により構成されている。差動歯車筐体12は、当技術では周知なものであり、サイドギヤ14、はすばピニオン16、ピニオンハウジング18、そして、第1支持部材20等の、他のあらゆる差動歯車10の構成要素を収容するために提供されるものである。
【0012】
サイドギヤ14は、はすばフェースギヤを含んでいる。従って、サイドギヤ14は、一群の螺旋歯を含んでいる。この螺旋歯の数と、サイドギヤ14の螺旋歯の側面形状は、本発明の様々な実施の形態では一様でないものである。サイドギヤ14に、機械切削工法に代えて、鍛造工法を適用すれば、サイドギヤ14の強度を著しく高めることになる。従って、サイドギヤ14を構成しているはすばフェースギヤは、強固であり、適切に支えられている。高強度のはすばフェースギヤの使用は、より高いトルクを許容し、広範囲のトルクバイアス比を提供する。サイドギヤ14は、差動軸22上で回転する。本発明のある実施形態では、第1と第2のサイドギヤ14が、ピニオンハウジング18の両面に配置される。各々のサイドギヤ14は、複数のスプラインを含む半径方向内側面を有する、環状のハブ部(図示省略)を含んでいる。この環状のハブ部は、車両の車軸(図示省略)を受けるように形成され、これにより、車軸が、スプラインによる相互結合を介して、サイドギヤ14に接続される。
【0013】
はすばピニオン16は、サイドギヤ14と噛合うように形成されている。はすばピニオン16は、第1端部24と第2端部26を有している。第2端部26は、第1端部24と相対している。はすばピニオン16は、一群の螺旋歯を含んでいる。この螺旋歯の数と、はすばピニオン16の螺旋歯の側面形状は、本発明の様々な実施の形態では一様でないものである。はすばピニオン16は、本発明の実施の形態では概ね円筒状であるが、はすばピニオン16の形状は、本発明の様々な実施の形態によって異なるものである。本発明の実施の形態によっては、複数のピニオン16が存在し得る。差動歯車10内のピニオン16の数は様々である。しかしながら、大抵は少なくとも2つのピニオン16が存在する。ピニオン16の数は、ある実施形態では3つ又は4つ程度であるが、他の実施形態では、それより多くの、或いは、少ないピニオン16が用いられている。
【0014】
ピニオンハウジング18は、はすばピニオン16を収容、かつ/又は、配置するように形成されている。詳細には、ピニオンハウジング18は、はすばピニオン16が作動するように、或いは、サイドギヤ14と噛合うように、収容、かつ/又は、配置するように形成されている。本発明の実施の形態では、ピニオンハウジング18は、多数のはすばピニオン16を収容、かつ/又は、配置するように形成されている。はすばピニオン16は、ピニオンハウジング18の円周方向に、間隔をあけて配置されている。ピニオンハウジング18は、本発明のある実施形態では、材料から一体成型(例えば、単一的、複合的、かつ/又は、一体的な構造)されるものである。本発明のある実施形態では、ピニオンハウジング18は概ねリング状である。詳細には、ピニオンハウジング18は、環状のリング部を含んでいる。ピニオンハウジング18は、半径方向外側面28と半径方向内側面30とを備えている。半径方向外側面28は、ピニオンハウジング18の円周方向に延びている。更に、ピニオンハウジング18は、空間部32を有している。本発明のある実施形態では、ピニオンハウジング18は、複数の空間部32を有している。一例としてであり、限定されるものではないが、およそ3つ又は4つの空間部32が、ピニオンハウジング18を通って延びている。しかし、3つ又は4つの空間部32について詳細に言及されているが、本発明の他の実施形態では、空間部32がより少ない、又は、多いこともあり得る。空間部32は、ピニオンハウジング18の円周方向に等角度で間隔をあけて配置されている。しかし、本説明では、空間部32を、ピニオンハウジング18の円周方向に等角度で間隔をあけて配置されている態様について説明しているが、本発明の他の実施形態では、空間部32は、互い違いとなる配置、かつ/又は、形状で、間隔をあけて配置されることもあり得る。
【0015】
空間部32は、ピニオンハウジング18の略中心から外側へと、実質上は放射状に延びる軸を有している。空間部32は、半径方向外側面28から半径方向内側へと延びている。本発明のある実施形態では、空間部32は、ピニオンハウジング18の半径方向外側面28から、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30を通って延びている。従って、空間部32は、空間部32の第1端部34と、空間部32の第2端部36との両側で開口している。空間部32の第1端部34は、空間部32の第2端部36と相対している。すなわち、閉鎖空間部ではなく、ピニオンハウジング18の全体にわたって機械加工される空間部32を用いることにより、ピニオンハウジング18の製造と空間部32の機械加工が複雑になることはない。例えば、空間部32をシングルセットアップで機械加工することにより、製造誤差の要因が排除されることになる。はすばピニオン16は、空間部32内に配置される。シングルセットアップで機械加工することにより、製造誤差の要因を排除することと同様に、はすばピニオン16の端部が突出していないことで、はすばピニオンは、空間部32内で信頼できる正確な動作を行うようになる。はすばピニオン16の正確な動作は、差動歯車10の適切な動作にとって重要なものである。はすばピニオン16の数は、ピニオンハウジング18内の空間部32の数に概ね依存するが、空間部32の数より少数のピニオン16が、本発明の実施の形態で用いられている。本発明のそれらの実施形態では、1つ又はそれ以上の空間部32が空いた状態である。ピニオン16の大きさも様々であるが、概ねピニオンハウジング18の空間部32内で動作するような大きさであることにより、ピニオン16が空間部32内で回転可能となっている。
【0016】
更に、ピニオンハウジング18は、第1の面38と第2の面40を有している。第1の面38は、第2の面40と相対している。ピニオンハウジング18は、更に、ピニオンハウジング18の環状のリング部の、第1の面38から第2の面40へと延びる、チャネル42を含んでいる。チャネル42は、空間部32と放射状に整列しているものである。更に、チャネル42の数は、大抵はピニオンハウジング18内の空間部32の数に依存するが、空間部32の数より少ない、或いは、多くのチャネル42が、本発明の実施の形態で用いられる場合もある。各々のサイドギヤ14のはすば面は、ピニオンハウジング18に面している。サイドギヤ14は、ピニオン16と協働し、或いは、噛合うように形成されている。詳細には、サイドギヤ14の螺旋歯が、ピニオン16の螺旋歯と協働し、或いは、噛合う。サイドギヤ14の螺旋歯と、ピニオン16の螺旋歯との両者が、ピニオンハウジング18内でチャネル42内へと延びている。ピニオン16とサイドギヤ14間が噛合うように形成されることで、サイドギヤ14は、それらの軸(つまり、差動軸22)上で強制的に回転するものとなる。サイドギヤ14は、ピニオン16から出力部(例えば、車両の車軸)へ、トルクを伝達するように形成されている。出力部(例えば、車軸)が、サイドギヤ14に着座し、接合されることにより、差動歯車10を搭載する自動車が動くことができる。サイドギヤ14が、出力部(例えば、車軸)を通して着座することで、異なる速度で回転する際に、ピニオン16は、それを補うようにして、ピニオンハウジング18内部で回転し、サイドギヤ14と噛合うものである。
【0017】
第1支持部材20は、はすばピニオン16を支えるように形成されている。詳細には、第1支持部材20は、はすばピニオン16が軸方向に動作することを抑えるように形成されている。図1に概略的に示されているような、本発明のある実施形態では、はすばピニオン16は、大抵は、第1支持部材20と差動歯車筐体12の内周面との間で、軸方向に対して拘束されている。ピニオンハウジング18は、はすばピニオン16上へ圧力をかけ、それらを差動軸22(例えば、サイドギヤ14の軸中心線)の周りで、かつ/又は、軸上で動かすものである。第1支持部材20は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30に対して半径方向内側に配置されている。従って、第1支持部材20は、はすばピニオン16を内部から支えるものとみなされる。第1支持部材20は、概ね円筒形の形状を有している。第1支持部材20は、図1に概略的に示されているような、本発明のある実施形態では、完全な円筒状の部位である。第1支持部材20は、本発明の他の実施形態では、中心穴を有している。第1支持部材20は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30の円周方向に広がる、外周面44を有していることで、ピニオンハウジング18の、各々の空間部32の端部34に面している。図1に概略的に示されているような、本発明のある実施形態では、差動歯車10の第1支持部材20は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30と係合している。詳細には、第1支持部材20の外周面44が、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30に係合している。換言すれば、第1支持部材20は、自身の軸上でのみ回転するように形成されており、ピニオンハウジング18に対して浮動することはできない。図1に概略的に示されている実施形態では、差動歯車10の第1支持部材20は、更にはすばピニオン16の第1端部24と係合している。詳細には、第1支持部材20の外周面44が、はすばピニオン16の第1端部24と係合している。第1支持部材20の面の広い範囲が、はすばピニオン16の第1端部24と接していることにより、差動歯車の構成要素間の熱交換が著しく改善される。
【0018】
図2に概略的に示されているような、本発明の別の実施形態において、差動歯車110は、第1支持部材120に変更されている点と、第2支持部材46が含まれている点を除いて、図1に概略的に示されている実施形態と本質的に同様なものある。図2に概略的に示されているような、本発明の実施の形態では、差動歯車110の第1支持部材120が、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30と係合しないように変更されている。しかしながら、差動歯車110の第1支持部材120は、はすばピニオン16の第1端部24とは係合するようになっている。詳細には、第1支持部材120の外周面144が、はすばピニオン16の第1端部24と係合している。この実施形態では、第1支持部材120は、ピニオンハウジング18と係合していないため、ピニオンハウジング18に対して浮動することができる。この実施形態では、全てのはすばピニオン16間での、トルクの等分配が可能となる。本発明のある実施形態では、第1支持部材120は、完全に円筒状の部位を構成している。本発明の別の実施形態では、第1支持部材120は、中心穴45を有している。中心穴45は、差動歯車110の有用性を改善するように形成されている。本明細書に記述されている差動歯車10、110、210、310には、何れも中心穴45を有する、或いは、完全に円筒状の部位である、第1支持部材20、120、220、320が用いられている。
【0019】
図2〜3に概略的に示されているような、本発明の実施の形態では、差動歯車110は、第2支持部材46を有している。第2支持部材46も、また、はすばピニオン16を支えるように形成されている。詳細には、第2支持部材46は、はすばピニオン16が軸方向に動作することを抑えるように形成されている。本発明のある実施形態では、はすばピニオン16は、大抵は、第1支持部材120と第2支持部材46との間で、軸方向に対して拘束されている。第2支持部材46は、ピニオンハウジング18の半径方向外側面28に対して半径方向外側に配置されている。従って、第2支持部材46は、はすばピニオン16を外部から支えるものとみなされる。第2支持部材46は、概ね円筒形の形状を有している。第2支持部材46は、差動歯車筐体12の半径方向内側面の円周方向に広がる、外周面48を有している。更に、第2支持部材46は、ピニオンハウジング18の半径方向外側面28の円周方向に広がる、内周面50を有していることで、ピニオンハウジング18の、各々の空間部32の端部36に面している。本発明のある実施形態では、差動歯車110の第2支持部材46は、ピニオンハウジング18の半径方向外側面28と係合していない。しかしながら、第2支持部材46は、はすばピニオン16と係合している。詳細には、第2支持部材46は、はすばピニオン16の第2端部26と係合している。この実施形態では、第2支持部材46は、ピニオンハウジング18と係合していないため、ピニオンハウジング18に対して浮動することができる。この実施形態では、全てのはすばピニオン16間での、トルクの等分配が可能となる。
【0020】
4つ、或いはそれ以上のはすばピニオン16を有する差動歯車110に関して、第1支持部材120と第2支持部材46は、可撓性材料で形成される。ある実施形態では、この可撓性材料は、弾性変形可能なものである。可撓性材料の使用により、第1及び第2支持部材120、46は、板ばねのように機能するものとなる。製造誤差に起因して、はすばピニオン16が、それらの軸方向に等しく配置されない場合がある。そのように配置されるはすばピニオン16は、より大きな荷重が作用して、第1及び第2支持部材120、46のどちらか一方、或いは、両方を弾性変形させるものとなる。第1及び第2支持部材120、46のどちらか一方、或いは、両方の弾性変形は、差動歯車110のトルク性能への、製造誤差に起因する悪影響を軽減する。第1及び第2支持部材120、46が可撓性材料で形成されている場合であっても、第1及び第2支持部材120、46の硬度及び剛性は、第1及び第2支持部材120、46上への機能的な負荷を、十分に留めておけるだけ大きいものである。しかしながら、第1及び第2支持部材120、46の硬度及び剛性は、全てのはすばピニオン16間に、実質上等しく負荷を分散するために、十分に弾性変形を許容し得るだけの小さなものである。本発明のある実施形態では、第1及び第2支持部材120、46の可撓性材料として、スチールが使用されている。本説明ではスチールについて言及したが、詳細には、本発明の他の実施形態において、他のあらゆる可撓性材料が使用できる。第1及び第2支持部材120、46への可撓性材料の使用について、4つ、或いはそれ以上のはすばピニオン16を有する差動歯車110に関して記述したが、それよりも少ないはすばピニオン16を有する、本発明の他のあらゆる実施形態についても、第1及び第2支持部材120、46のどちらか一方、或いは両方が、可撓性材料で形成される。更に、差動歯車110に関して、第1及び第2支持部材120、46へのみの可撓性材料の使用について記述したが、可撓性材料の使用は、本明細書内に記述されている、本発明の他のあらゆる実施形態の支持部材(例えば、第1支持部材20)に関して用いられるものである。
【0021】
さて、図3を参照すると、差動歯車110の正面からの断面図が概略的に示されている。図示の実施形態では、差動歯車110は、8つのはすばピニオン16を有している。8つのはすばピニオン16について詳細に説明するが、本発明の他の実施形態において、差動歯車110はそれよりも少ない、或いは、多くのピニオンを有し得るものである。はすばピニオン16は、第1支持部材120及び第2支持部材46と、連動するものである。第1支持部材120は中心線CLsup1を有し、第2支持部材46は中心線CLsup2を有している。はすばピニオン16とサイドギヤ14によって及ぼされる軸方向スラストの下で、はすばピニオン16は、差動歯車110を搭載する車両が、右旋回をするのか左旋回をするのかに応じ、半径方向外側へ(つまり、実質上半径方向外側へ向かい、はすばピニオンの軸から第2支持部材46へ)、或いは、半径方向内側へ(つまり、実質上半径方向内側へ向かい、はすばピニオンの軸から第1支持部材120へ)押されるものである。(商業的に採用できないような)製造誤差/偏差が無い理想的な場合は、全てのはすばピニオン16の軸方向変位は、その距離が略等しいものとなる。これは、第1及び第2支持部材120、46の、一様な弾性変形をもたらすことになる。しかしながら、製造誤差/偏差が有る場合は、夫々のはすばピニオン16は、実質上ははすばピニオンの軸から一定の距離だけ変位し、かつ、夫々のはすばピニオン16の軸方向変位量が異なる値となる。第1及び第2支持部材120、46が可撓性であるため、はすばピニオン16の軸方向スラストは、互いに略等しいものとなる。このようにして、全てのはすばピニオン16間での、実質上等しい負荷の分散が達成される。はすばピニオン16の軸方向スラストが、互いに略等しくなることを許容するべく、第1及び第2支持部材120、46が可撓性であり、かつ、製造偏差を吸収するように形成されている。従って、差動歯車110は、製造偏差に比較的影響を受けず、はすばピニオン16は、実質上等しい負荷分散となり、そして、差動歯車110の動力容量は、著しく増加するものとなる。
【0022】
次に、図4を参照すると、差動歯車110を搭載する車両が左旋回をする際に、はすばピニオン16は、図示のように半径方向外側へ付勢される。(商業的に採用できないような)製造誤差/偏差を持たない理想的な差動歯車とするのであれば、全てのはすばピニオン16は、図5で概略的に示されているような等変位量δの負荷の下に配置される。しかしながら、(不可避の)製造誤差/偏差が有る場合には、夫々のはすばピニオン16は、i=1〜N、Nがはすばピニオン16の総数であるとして、図6で概略的に示されているような個々の軸方向変位量δを生じることとなる。
【0023】
さて、図7を参照すると、差動歯車110を搭載する車両が右旋回をする際に、はすばピニオン16は、図示のように半径方向内側へ付勢される。(商業的に採用できないような)製造誤差/偏差を持たない理想的な差動歯車とするのであれば、全てのはすばピニオン16は、図8で概略的に示されているような等変位量Δの負荷の下に配置される。しかしながら、(不可避の)製造誤差/偏差が有る場合には、夫々のはすばピニオン16は、i=1〜N、Nがはすばピニオン16の総数であるとして、図9で概略的に示されているような個々の軸方向変位量Δを生じることとなる。
【0024】
図10で概略的に示されているような、本発明の他の実施形態では、差動歯車210は、はすばピニオン216と第1支持部材220に変更されている点を除いて、図2に概略的に示されている実施形態と本質的に同様なものある。詳細には、変更されたはすばピニオン216は、球体の一部を成す形状の第1端部224を有している。この球体の一部を成す形状の半径曲率Rsphは、差動軸22上に中心Osphを有する球体により規定される。本発明のある実施形態では、はすばピニオン216の第1端部224は、実質上凹面となっている。変更された第1支持部材220は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30の円周方向に広がる、外周面244を有していることで、第1支持部材220は、ピニオンハウジング18の、各々の空間部32の端部34に面している。第1支持部材220の外周面244も、また、球体の一部を成す形状を有している。この球体の一部を成す形状の半径曲率も、また、差動軸22上に中心Osphを有する球体により規定される。本発明のある実施形態では、第1支持部材220の外周面244は、実質上凸面となっている。他のいくつかの実施形態のように、差動歯車210の第1支持部材220は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30と係合していない。その代わりとして、第1支持部材220の外周面244が、はすばピニオン216の第1端部224と係合している。図3で概略的に示されている変更実施形態では、はすばピニオン216と、第1支持部材220とは、点接触するのではなく、面接触をしている。面接触は、はすばピニオン216と第1支持部材220との相互作用面での接触圧を、著しく減少させる。図10で概略的に示されている実施形態は、差動歯車210の製造誤差が無視できるほど小さい場合に使用され、そして、第1支持部材220の球状面と、はすばピニオン216の第1端部224の球状面とが、整列していないとしても、はすばピニオン216と第1支持部材220との相互作用面の、球面接触の支持能力に悪影響を及ぼすものではない。
【0025】
図11で概略的に示されているような、本発明の他の実施形態では、差動歯車310は、第1支持部材320に変更されている点を除いて、図10に概略的に示されている実施形態と本質的に同様なものある。変更された第1支持部材320は、ピニオンハウジング18の半径方向内側面30の円周方向に広がる、外周面344を有していることで、ピニオンハウジング18の、各々の空間部32の端部34に面している。第1支持部材320の外周面344は、球体の一部を成す形状の第1端部224を有している。しかしながら、第1支持部材320の、この球体の一部を成す形状の半径曲率Rsupは、差動軸22上に中心Osphを有する球体の半径曲率Rsphよりも小さいものである。本発明のある実施形態では、第1支持部材320の外周面344は、実質上凸面となっている。差動軸22上に中心Osphを有する球体の半径曲率Rsphと比較して、第1支持部材320がより小さい半径曲率Rsupを有することで、はすばピニオン216の端部224と第1支持部材320の外周面344との、接触面の摩擦性が改善される。摩擦状態の改善は、所謂弾性流体力学上の作用(EHD作用)によるものである。弾性流体力学上の作用から、はすばピニオン216の端部224の対向面と、第1支持部材320の外周面344とが離間されるが、相対する面の粗さによる相互作用の結果、負荷を支える面積を広くするように接触面上での弾性変形が起こることで、潤滑油の粘性抵抗により、負荷を支えることが可能となるものである。当技術の通常の手法の1つは、弾性流体力学の摩擦性の理論に従って発展させた方法で、第1支持部材320の球体の一部を成す形状の半径曲率Rsupを、差動軸22上に中心Osphを有する球体の半径曲率Rsphと比較して、適切に縮小させるように、配置及び使用するものである。
【0026】
上述した本発明の具体的な実施形態は、図の解説や説明を目的として示したものである。これらは、すべてを網羅する、或いは、本発明を明確な形式に限定することを意図したものではなく、上述した趣旨の見解で様々な変更及び変形が可能となるものである。実施形態は、本発明の本質と、その実用的な応用を説明するために選ばれ、記述されたものであり、それによって他の当業者が、本発明と、考慮された特有の使用目的に合わせた種々の変更を含む、様々な実施形態とを利用できるようにするものである。本発明について、上述した明細内容にかなり詳細に記述してきたが、本発明の様々な変更及び修正は、明細内容を読み取り、理解することにより、当業者には明確になると思われる。そのような変更及び修正の全ては、それらが追加クレームの範囲内である限り、本発明に含まれるように意図されるものである。本発明の範囲は、ここへ追加されたクレーム、及び、それらと同等のもので決定されるように意図されるものである。
【符号の説明】
【0027】
10、110、210、310:差動歯車、14:サイドギヤ、16、216:はすばピニオン、18:ピニオンハウジング、20、120、220、320:第1支持部材、22:差動軸、24、224:第1端部、26:第2端部、28:半径方向外側面、30:半径方向内側面、32:空間部、34:第1端部、36:第2端部、38:第1の面、40:第2の面、42:チャネル、44、144、244、344:外周面、45:中心穴、46:第2支持部材、Rsph:半径曲率、Osph:中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はすばフェースギヤを備え、差動軸上で回転するサイドギヤと、
前記サイドギヤと噛合うように形成され、第1端部と、該第1端部に相対する第2端部とを有するはすばピニオンと、
該はすばピニオンを収容するように形成され、環状のリング部を有するピニオンハウジングとを含む差動歯車であって、
前記ピニオンハウジングは、半径方向外側面と、半径方向内側面と、前記半径方向外側面から半径方向内側へ延びる空間部と、前記はすばピニオンを支えるように形成された第1支持部材とを含み、
該第1支持部材が、前記ピニオンハウジングの前記半径方向内側面に対して半径方向内側に配置されることを特徴とする差動歯車。
【請求項2】
前記はすばピニオンは、前記空間部に配置されることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項3】
前記ピニオンハウジングは、第1の面と、該第1の面に相対する第2の面と、前記第1の面から前記第2の面へと延びるチャネルとを含み、
該チャネルは、前記空間部と放射状に整列していることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項4】
前記空間部は、前記ピニオンハウジングの前記半径方向外側面から、前記ピニオンハウジングの前記半径方向内側面を通って延びることにより、前記空間部の第1端部と前記空間部の第2端部とで開口し、前記第2端部が、前記第1端部と相対していることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項5】
前記第1支持部材は、円筒状であることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項6】
前記第1支持部材は、前記ピニオンハウジングの前記半径方向内側面と係合していることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項7】
前記第1支持部材は、中心穴を有することを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項8】
前記第1支持部材は、前記ピニオンハウジングの前記半径方向内側面と非係合であることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項9】
前記第1支持部材は、前記はすばピニオンと係合していることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項10】
前記はすばピニオンを支えるように形成された第2支持部材を有し、該第2支持部材が、前記ピニオンハウジングの前記半径方向外側面に対して半径方向外側に配置されることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項11】
前記第2支持部材は、円筒状であることを特徴とする請求項10記載の差動歯車。
【請求項12】
前記第2支持部材は、前記ピニオンハウジングの前記半径方向外側面と非係合であることを特徴とする請求項10記載の差動歯車。
【請求項13】
前記第2支持部材は、前記はすばピニオンと係合していることを特徴とする請求項10記載の差動歯車。
【請求項14】
前記第1支持部材は、前記はすばピニオンの前記第1端部と係合し、前記第2支持部材は、前記はすばピニオンの前記第2端部と係合していることを特徴とする請求項10記載の差動歯車。
【請求項15】
前記はすばピニオンの前記第1端部と前記第2端部との少なくとも1つが、球体の一部を成す形状を有することを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項16】
前記球体の一部を成す形状の半径曲率は、前記差動軸上に中心を有する球体により規定されることを特徴とする請求項15記載の差動歯車。
【請求項17】
前記第1支持部材の外周面は、球体の一部を成す形状を有することを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項18】
前記球体の一部を成す形状の半径曲率は、前記差動軸上に中心を有する球体により規定されることを特徴とする請求項17記載の差動歯車。
【請求項19】
前記球体の一部を成す形状は、前記差動軸上に中心を有する球体の半径曲率よりも、小さい半径曲率を有することを特徴とする請求項17記載の差動歯車。
【請求項20】
前記第1支持部材は、可撓性材料で形成されることを特徴とする請求項1記載の差動歯車。
【請求項21】
前記第2支持部材は、可撓性材料で形成されることを特徴とする請求項10記載の差動歯車。
【請求項22】
はすばフェースギヤを備え、差動軸上で回転するサイドギヤと、
前記サイドギヤと噛合うように形成され、第1端部と、該第1端部に相対する第2端部とを有するはすばピニオンと、
該はすばピニオンを収容するように形成され、環状のリング部を有するピニオンハウジングとを含む差動歯車であって、
前記ピニオンハウジングは、半径方向外側面と、半径方向内側面と、
前記半径方向外側面から前記半径方向内側面を通って半径方向内側へ延びることにより、第1端部と、該第1端部と相対する第2端部とで開口している空間部と、
前記はすばピニオンを支えるように形成され、前記はすばピニオンの前記第1端部と係合し、前記ピニオンハウジングの前記半径方向内側面に対して半径方向内側に配置される第1支持部材と、
前記はすばピニオンを支えるように形成され、前記はすばピニオンの前記第2端部と係合し、前記ピニオンハウジングの前記半径方向外側面に対して半径方向外側に配置される第2支持部材とを含むことを特徴とする差動歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−530233(P2012−530233A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515574(P2012−515574)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001450
【国際公開番号】WO2010/146444
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(390033020)イートン コーポレーション (290)
【氏名又は名称原語表記】EATON CORPORATION
【Fターム(参考)】