説明

差厚板の製造方法及び圧延装置

【課題】圧延材の長手方向に対して非常に短ピッチで板厚が変化する差厚板を確実に製造する。
【解決手段】本発明に係る差厚板の製造方法は、長手方向に対して短ピッチで板厚が変化する差厚板を一対のワークロール2,2を備えた圧延機1にて圧延し製造する差厚板の圧延方法であって、圧延機1の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機1での圧延直前又は圧延中に圧延材Wを長手方向で加熱して、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度をΔT(x)だけ変更し、板温度を変更した圧延材Wを圧延することで差厚板を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延材の長手方向に対して短いピッチ(短ピッチ)で板厚が変化する差厚板を製造する方法、及びこの方法を採用可能な圧延装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用途向けプレス成形部品などの軽量化と剛性を得るために、長さ方向や幅方向に板厚偏差を持たせた圧延材である「差厚板」が用いられている。このような差厚板は、2枚の板を溶接して製造された溶接テーラードブランクと、圧延等により板厚差を付与した圧延テーラードブランクがある。圧延テーラードブランクであって長さ方向に板厚の異なる差厚板は、通常、圧延のロールギャップを圧延中に変更しながら製造される。
【0003】
ところで、前述したような自動車用途向けのプレス成形部品は、その大きさが比較的小さく、かかるプレス成形に供される差厚板の板厚ピッチは通常10m以下となることが多い。つまり、圧延材の長手方向に数十m〜数mの間に板厚が様々に変化する「短ピッチの差厚板」となることが多い。
このような自動車用途向けの差厚板は薄板と呼ばれるものであり、冷間圧延工程を経て製造される。この差厚板は、薄肉の部分と厚肉の部分の板厚比は大きく取られる場合が多く、プレス成形した後の形状精度の要求が高いため、元となる差厚板には非常に高い板厚精度や板平坦度が必要とされる。
【0004】
従来、このような短ピッチの差厚板を製造する場合には、ワークロールの開閉を短時間に行う技術が採用されることもあったが、斯かるワークロールの操作は難しい上に大きな圧延荷重の変動が生じることも否めず、必然的に圧延速度を遅くしないと大きな板厚差を持った差厚板の製造が困難である。
上記の状況に対応すべく、様々な技術が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1の技術では、所定の位置からの長さをトラッキングし、圧下量を変更することにより長手方向の板厚を変更し差厚板を製造している。
特許文献2は、 圧延過程の間、2つの作業ロールの間に形成された圧延ギャップに金属帯材を通しかつ圧延ギャップを圧延過程の間、目的に合わせて変化させ、金属帯材の長さに亘って異なる帯材厚さを達成する、金属帯材をフレキシブル圧延する方法において、そのつどの圧延ギャップを調節する間又はその直後に作業ローラの反り線を、調節された圧延ギャップに関連して制御して金属帯材の平坦性を達成する圧延方法を開示する。
【0006】
特許文献3には、ワークロールにカム形状の部分を複数設けると共に、このカム部を偏芯ロールとして用い、差厚を圧延材に付与する方法が開示されている。
一方、特許文献4は、長手方向に板厚が異なる鋼板を熱間圧延によって製造するに際して、長手方向に異なる板厚に圧延される予定の部分毎に定めた所定の温度分布を付与した後に、長手方向に異なる板厚の部分が形成されるように圧延することを特徴とする長手方向に板厚が異なる鋼板の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−232611号公報
【特許文献2】特開2001−79607号公報
【特許文献3】特開昭55-24733号公報
【特許文献4】特開2003−320404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
短ピッチの差厚板を精度よく高速に製造するためには、上述した従来の技術では、以下のような問題点がある。
特許文献1に開示された方法では、トラッキング精度の問題で長手方向の寸法の精度に欠け、さらに大きな差厚を製造するためにはロールギャップの昇降速度の応答性の向上が必要であるため、非常に高価な圧延設備となってしまうか、又は、生産性の低い低速での圧延を行うことになる可能性を否めない。同様に、特許文献2の技術においても、ロールギャップの昇降速度の応答性の問題を避けて通ることはできないと思われる。
【0009】
特許文献3に記載された偏芯ロールを用いる製造方法では、板寸法はロール形状により決定されるため、高速圧延でも寸法精度が低下しないという長所があるものの、広幅・硬質材の差厚板を製造することを考えると、板厚の薄い部分(圧下量大の部位)で大きな荷重が発生する可能性が大きい。それ故、例えば、圧延中にワークロールに大きなたわみが発生してしまい、所望とする板厚や十分な平坦度が得られないという問題の発生が考えられる。
【0010】
一方、特許文献4は、板厚に所定の温度分布を付与した後に、長手方向に異なる板厚が形成されるように圧延するものである。しかしながら、対象としている差厚板は船舶向けの厚板であり、特許文献4の図2などに開示されているように、圧延材(厚板)の一方端の板厚が厚肉で、他方端が薄肉であるような単純な板厚分布を有する差厚板である。それ故、本願が意図する「薄板の長手方向に対して短ピッチで板厚が変化する差厚板」を製造するに際して有益な技術を提供するものとはなっていない。特許文献4の技術を用いたとしても、非常に高い板厚精度で且つ平坦度も確保された短ピッチ差厚板を冷間圧延で製造することは困難であると思われる。
【0011】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、圧延材の長手方向に対して非常に短いピッチ(短ピッチ)で板厚が変化する差厚板を確実に製造することができる差厚板の製造方法、及びこの差厚板を製造可能な圧延機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明の差厚板の製造方法は、長手方向に対して短ピッチで板厚が変化する差厚板を一対のワークロールを備えた圧延機にて圧延し製造する差厚板の圧延方法であって、前記圧延機の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機での圧延直前又は圧延中に圧延材を加熱して、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更し、板温度を変更した圧延材を圧延することで差厚板を製造することを特徴とする。
【0013】
【数1】

【0014】
好ましくは、前記圧延機のワークロールの膨張量δR(θ)を測定すると共に、測定されたδR(θ)を式(7)へ適用することでロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し、算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を前記圧延機に適用して差厚板を製造するとよい。
【0015】
【数2】

【0016】
好ましくは、前記圧延材を加熱するために、ワークロール間に電流を流して圧延材を加熱するとよい。
好ましくは、前記圧延機の入側に加熱装置が設けられていて、この加熱装置により圧延材を加熱するとよい。
また、本発明における他の技術的手段に係る圧延装置は、一対のワークロールを備えた圧延機と、前記圧延機の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機での圧延直前又は圧延中に圧延材を加熱して、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更する板温度変更手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
【数3】

【0018】
好ましくは、前記圧延機のワークロールの膨張量δR(θ)を測定する膨張量測定手段と、前記膨張量測定手段にて測定されたδR(θ)を式(7)を適用することでロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し且つ算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を圧延機に適用するロールギャップ補正手段と、を有するとよい。
【0019】
【数4】

【0020】
好ましくは、前記板温度変更手段は、ワークロール間に電流を流すことで当該ワークロールに挟み込まれた圧延材を加熱する通電加熱装置を備えているとよい。
好ましくは、前記板温度変更手段は、前記圧延機の入側に設けられ且つ圧延材を加熱する加熱装置を備えているとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る差厚板の製造方法及び圧延装置を用いることで、圧延材の長手方向に対して非常に短ピッチで板厚が変化する差厚板を確実に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態に係る冷間圧延機の概要を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る差厚板の製造方法の手順を示したフローチャートである。
【図3】第2実施形態に係る冷間圧延機の概要を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る差厚板の製造方法の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、冷間圧延機を例示しつつ図を基に説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0024】
図1は、本発明に係る圧延装置に備えられる圧延機1(冷間圧延機)を模式的に示したものである。この圧延機1は、一対のワークロール2,2を備えており、この一対のワークロール2,2により、鋼材等の圧延材Wが矢示X方向に移動する時に圧延がなされ差厚板が製造される。
本実施形態の差厚板は、圧延材Wの長手方向(長さが数千m〜数百m)に対して非常に短いピッチ(数十m〜数m以下)で板厚が変化するものである。本明細書では、このように圧延材Wの長さに比して短い間隔で板厚が変化するような板を「短ピッチ」と呼ぶこととする。言い替えるならば、本実施形態の差厚板は、長手方向数十m〜数m以下(例えば10m以下)の間に板厚が様々に変化する帯状板のことである。
【0025】
圧延機1は、上下に一対のワークロール2,2とそれぞれのワークロール2,2をバックアップするバックアップロールを備える。冷間圧延機1のワークロール2,2は、圧下機構によりそのギャップ量が変更可能となっている。
圧延機1の入側には、ロールギャップ直下に位置する圧延材Wの板温度を測定する板温度計3aが設けられると共に、ワークロール2,2の径方向の膨張量を測定するロール表面変位計4(膨張測定手段)を備えている。板温度計3aは放射温度計でなどで構成され、ロール表面変位計4は、レーザ変位計や静電容量変位計により構成されている。
【0026】
一方、圧延機1の出側には、圧延材Wの厚さ(板厚)を計測する板厚計5が配備されていると共に、板厚を計測した部分の温度(板温度)を計測する板温度計3bが配備されている。板厚計5はX線板厚計5などで構成され、板温度計3bは放射温度計で構成されている。
この圧延機1には、前述した圧下機構を動かしワークロール2,2間のギャップ量を制御する板厚制御装置10が備えられている。板厚制御装置10はAGC制御手段11を有し、このAGC制御手段11により、圧延機1のロールギャップ量Sが制御されるようになっている。板厚制御装置10はプロコンやPLC等で構成されている。
【0027】
加えて、本実施形態の圧延機1は、ワークロール2,2間に電流を流すことで当該ワークロール2,2に挟み込まれた圧延材Wを加熱する通電加熱装置6を有している。
この通電加熱装置6の働きの詳細は後述するが、通電加熱装置6は、圧延機1の上側のワークロール2と下側のワークロール2とを電極として、両電極間に交流電流又は直流電流を印加する構成を備えている。印加された電流により、両ワークロール2,2に挟み込まれた圧延材Wの部分にジュール熱が発生し、当該部分が局所的に加熱されることとなる。なお、ワークロール2の表面部分を銅材等で形成し電気抵抗が低く抑えることで、ワークロール2での発熱を可及的に抑制することが可能となる。
【0028】
この通電加熱装置6は、板厚制御装置10内に設けられた板温度変更手段12により制御される。詳細は後述するものの、板温度変更手段12は、通電加熱装置6を制御し、圧延材Wを長手方向で局所的に加熱する機能を有している。なお、圧延材Wの温度上昇ΔTはワークロール2,2間に流す電流で制御されるが、圧延材W乃至はワークロール2,2内での熱拡散の影響もある故、正確な温度制御は、圧延機入側の板温度計3aでの計測値を基にした電流制御を行うようにしている。
【0029】
さらに、板厚制御装置10は、ロール表面変位計4にて測定されたワークロール2の膨張量(ロール膨張量δR(θ))を基に、ロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し、算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を圧延機1に適用するロールギャップ補正手段13を備えている。ここで、θはワークロール2の回転角度である。
以上述べた冷間圧延機1においては、圧延材Wは、圧延機1を通ることで冷間圧延されて、所望の板厚、板幅、板クラウンを有する製品(差厚板)へとなり、コイル巻き取り機で巻き取られ次の工程へと搬送される。
【0030】
以下、板厚制御装置10(特に、板温度変更手段12、及びロールギャップ補正手段13)での制御の詳細、言い換えれば、本発明に係る差厚板の製造方法について説明する。
本発明の板温度変更手段12は、圧延機1の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、圧延機1での圧延直前又は圧延中に、圧延材Wを長手方向で局所的に加熱又は冷却し、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更し、板温度変更後の圧延材Wを圧延することで、差厚板を製造する圧延方法を実現化するものである。
【0031】
さて、あるロールギャップ補正量ΔSが与えられた場合のゲージメータ式は、式(1)のようになる。
【0032】
【数5】

【0033】
ここで、ΔPは荷重変動であり、Mは圧延機1のミル定数、ΔSはロールギャップ補正量である。なお、圧延荷重P(T)は温度Tの時の荷重であり、変形抵抗の温度依存性や摩擦係数の温度依存性を実験的に求めることにより圧延理論の計算値から求めることができる。
このゲージメータ式を整理すると、式(2)のようになる。
【0034】
【数6】

【0035】
ところで、荷重変化ΔPをなるべく小さくすることが形状変化を引き起こさず、形状良好な差厚板を製造するための必須条件である。このため、式(3)で示される関係が必要となる。
【0036】
【数7】

【0037】
したがって、目標の板厚偏差Δhを実現するように温度制御(圧延材Wの局所加熱)を行うことを考えると、式(3)のΔTを式(1)で表されるゲージメータ式に代入すると、式(4)となる。
【0038】
【数8】

【0039】
なお、本明細書では、圧延材Wの長さに比して短い間隔で板厚が変化することを「短ピッチ」と呼ぶこととしており、この短ピッチに対応するように圧延材の長手方向で短い区間を加熱することを「局所的に加熱する」という。換言すれば、圧延材Wの長手方向(数千m〜数百m)に対して数十m〜数mの部分を、前述した通電加熱装置6により加熱することを意味し、板幅方向には略均一に加熱される。
【0040】
長手方向の板厚変化Δh(x)(板厚偏差Δh(x))が与えられた場合に、入側の温度偏差ΔT(x)およびロールギャップ補正量ΔS(x)は、式(5)で求められる。
【0041】
【数9】

【0042】
なお、式(5)で求められたロールギャップ補正量ΔS(x)を適用した際の誤差(プリセット方法での誤差)は、板厚計5の計測値と目標板厚との偏差δh(x)として算出される。算出された偏差δh(x)は、AGC制御手段11において、スミス補償AGCなどを用いたフィードバック制御を行うことにより修正するとよい。偏差δh(x)の算出にあたっては、熱間圧延等で従来技術として用いられている温度補償(板厚測定部分の温度を計測して、線膨張を加味して、板温が冷えた場合の板厚として換算する)を行うことが好ましい。
【0043】
ところで、上記したように、長手方向に板温度が変化する圧延材Wを圧延することにより、ワークロール2の温度もその周方向部分的に異なるものとなる。このようなワークロール2の温度変化はロールの径方向への膨張を引き起こし、ロールギャップΔS(x)の誤差を引き起こす。
このため、本実施形態では、膨張量測定手段であるロール表面変位計4によりロールの表面変位δR(θ)(ロール膨張量)を常に測定し、その変位量を基にロールギャップ補正量ΔS(x)を算出する。その後、算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を圧延機1に適用するようにしている。この処理はロールギャップ補正手段13にて行われる。
【0044】
具体的には、ロール表面変位計4によりロール回転角θによるロール半径当たりの膨張量δR(θ)を測定し、回転角θがロール直下に来た場合のギャップ換算(上下のロールがあるために2倍が必要)としての変化量δS(θ)=2・δR(θ)+2・δR(θ+π)を予測することになる。
以上のことから、式(6),式(7)が導かれる。
【0045】
【数10】

【0046】
まとめれば、第1実施形態に係る差厚板の製造方法においては、圧延機1の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機1での圧延直前又は圧延中に、圧延材Wを長手方向で局所的に加熱し、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更し、板温度変更後の圧延材Wを圧延することで、差厚板を製造するようにしている。
【0047】
差厚板の板厚精度をより向上させるために、圧延機1のロールの膨張量δR(θ)を測定すると共に、測定されたδR(θ)を基に、式(7)を基にロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し、算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を圧延機1に適用し、差厚板を圧延している。
次に、図2に基づき、第1実施形態に係る差厚板の製造方法の具体的な手法について述べる。
【0048】
まず、S11において、作りたい差厚板の目標板厚(目標とする板厚変化Δh(x))を決定する。ここでxは長手方向の位置である。
次に、S12において、圧延開始温度Tでの式(2)にて定義されたQ1,Q2を計算により求める。
S13において、式(6)を用いることで、圧延機入側の目標温度変動ΔT(x)を求める。
【0049】
一方、S14において、式(7)を用いることで、圧延機入側の目標温度変動ΔT(x)を求める。すなわち、ロールの回転数を検出すると共に、ロール表面変位計4により、ロール半径の膨張量δR(θ)を常に計測し(S16)、ロール回転角θに対する関数としてδR(θ)を求める。
具体的には、ある一定角θ毎のδRを測定してテーブル化し、その中間点のために折れ線関数を当てるが容易であるが、この方法に限定しない。また、上ワークロール2,2と下ワークロール2,2が別々のδRを示す場合も考えると、上下のロールで別々にδRを測定し、その平均値を採用する方が望ましい。このδR(θ)を用いて、S17にて測定した現在のロールバイト位置での回転角θより、ロールギャップΔS(x)を式(7)を基に算出する。
【0050】
S15にて、ロールギャップ補正手段13は、ロールギャップ変更量ΔS(x)を圧延機1に適用するようにし、板温度変更手段12は、圧延材Wに温度偏差ΔT(x)を付与すべく、通電加熱装置6に流す電流を制御する。この電流制御に際しては、板温度計3aの計測値がΔT(x)となるように制御を行うことが好ましい。圧延機出側での目標板厚と実績板厚の偏差は、前述した如く、AGC制御手段11におけるスミス補償AGCなどにより修正する。
【0051】
以上述べた処理を行うことで、圧延材Wの長手方向に対して短いピッチで板厚が変化する差厚板を確実に製造することができるようになる。
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態を、図を基に説明する。
図3に示す如く、第2実施形態の圧延機1(冷間圧延機)は、第1実施形態の通電加熱装置6に代えて、圧延材Wを局所的に加熱する加熱装置7を有している。
【0052】
この加熱装置7は、圧延機1より上流側へ距離Lだけ離れて設けられており、搬送される圧延材Wの直上乃至は直下、又は圧延材Wを上下に挟み込むように設けられている。加熱装置7は、電磁誘導(Induction Heating)により圧延材Wを局所的に加熱するものであり、加熱装置7に印加する電流により圧延材Wの加熱温度を正確にコントロール可能である。
【0053】
次に、図4に基づき、第2実施形態に係る差厚板の製造方法の具体的な手法について述べる。
まず、S21において、作りたい差厚板の目標板厚(目標とする板厚変化Δh(x))を決定する。ここで、xは長手方向の位置である。
次に、S22において、圧延開始温度Tでの式(2)にて定義されたQ1,Q2を計算により求める。
【0054】
S23において、式(6)を用いることで、圧延機入側の目標温度変動ΔT(x)を求める。
一方、S24において、式(7)を用いることで、圧延機入側の目標温度変動ΔT(x)を求める。すなわち、ロールの回転数を検出すると共に、ロール表面変位計4により、ロール半径の膨張量δR(θ)を常に計測し(S26)、ロール回転角θに対する関数としてδR(θ)を求める。得られたδR(θ)を用いて、S27にて測定した現在のロールバイト位置での回転角θより、ロールギャップ補正量ΔS(x)を式(7)を基に算出する。
【0055】
S25にて、ロールギャップ補正手段13は、ロールギャップ変更量ΔS(x)を圧延機1に適用するようにする。板温度変更手段12は、圧延材Wに温度偏差ΔT(x)を付与すべく、加熱装置7に流す電流を制御する。この電流制御に際しては、板温度計3aの計測値がΔT(x)となるように制御を行ったり、S28で行う処理を実施するとよい。圧延機出側での目標板厚と実績板厚の偏差は、前述した如く、AGC制御手段11におけるスミス補償AGCなどにより修正する。
【0056】
なお、S28に示す如く、圧延材Wの板温度変化ΔT(x)に関しては、加熱装置7を通った圧延材Wがワークロール2,2直下に達するまでの移送時間(むだ時間)を考慮することでより正確に求めることが可能である。
すなわち、加熱装置7からワークロール2,2直下までの距離L、通板速度v、通板中の圧延材Wの冷却速度C、熱の拡散速度Vtを予め計算しておいたり設定しておく。その場合、加熱装置7を出た圧延材W(出側温度Tc)がワークロール2,2直下に達するまでの時間はL/Vであり、その間に冷却される板温はC・L/Vである。それ故、板温度の拡散速度VtからL/V後の板温度の予測が可能であり、ΔTcからΔT(x)の予測が可能となる。この関係を用い、ワークロール2,2直下でΔT(x)となるように加熱装置7の出側温度の変化ΔTcを制御する。
【0057】
以上述べた処理を行うことで、圧延材Wの長手方向に対して非常に短いピッチで板厚が変化する差厚板を高い精度で製造することができる。圧延時の圧延荷重の極端な変化を回避することもできるため、板平坦度も所望のものとすることができる。
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0058】
例えば、圧延材Wを加熱する手段として、通電加熱装置6やIHによる加熱装置7以外を採用してもよい。レーザーによる加熱や赤外線ヒータ加熱を採用することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 圧延機(冷間圧延機)
2 ワークロール
3a 板温度計(入側)
3b 板温度計(出側)
4 ロール表面変位計
5 板厚計
6 通電加熱装置
7 加熱装置
10 板厚制御装置
11 AGC制御手段
12 板温度変更手段
13 ロールギャップ補正手段
W 圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に対して短ピッチで板厚が変化する差厚板を一対のワークロールを備えた圧延機にて圧延し製造する差厚板の製造方法であって、
前記圧延機の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機での圧延直前又は圧延中に圧延材を加熱して、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更し、
板温度を変更した圧延材を圧延することで差厚板を製造することを特徴とする差厚板の製造方法。
【数11】

【請求項2】
前記圧延機のワークロールの膨張量δR(θ)を測定すると共に、測定されたδR(θ)を式(7)へ適用することでロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し、
算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を前記圧延機に適用して差厚板を製造することを特徴とする請求項1に記載の差厚板の製造方法。
【数12】

【請求項3】
前記圧延材を加熱するために、ワークロール間に電流を流して圧延材を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の差厚板の製造方法。
【請求項4】
前記圧延機の入側に加熱装置が設けられていて、この加熱装置により圧延材を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の差厚板の製造方法。
【請求項5】
一対のワークロールを備えた圧延機と、
前記圧延機の出側での板厚変化Δh(x)を実現すべく、当該圧延機での圧延直前又は圧延中に圧延材を加熱して、板厚変化Δh(x)に対応する位置の板温度を式(6)で示されるΔT(x)だけ変更する板温度変更手段と、
を有することを特徴とする圧延装置。
【数13】

【請求項6】
前記圧延機のワークロールの膨張量δR(θ)を測定する膨張量測定手段と、
前記膨張量測定手段にて測定されたδR(θ)を式(7)を適用することでロールギャップ補正量ΔS(x)を算出し且つ算出されたロールギャップ補正量ΔS(x)を圧延機に適用するロールギャップ補正手段と、
を有することを特徴とする請求項5に記載の圧延装置。
【数14】

【請求項7】
前記板温度変更手段は、ワークロール間に電流を流すことで当該ワークロールに挟み込まれた圧延材を加熱する通電加熱装置を備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の圧延装置。
【請求項8】
前記板温度変更手段は、前記圧延機の入側に設けられ且つ圧延材を加熱する加熱装置を備えていることを特徴とする請求項5又は6に記載の圧延装置。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−240077(P2012−240077A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111483(P2011−111483)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】