説明

差圧式流量計およびこれを用いた流量測定方法

【課題】非電気伝導性かつ高融点の溶融塩の流量を、安定して測定可能な差圧式流量計およびこれを用いた流量測定方法およびを提供する。
【解決手段】差圧式流量計1は、主配管2内に設けられた絞り部3と、主配管2の側面の、溶融塩の流動方向に対して絞り部3の上流側および下流側のそれぞれに設けられた圧力孔4に接続された圧力検知配管5と、圧力検知配管5に接続され、圧力検知配管5のそれぞれにかかる圧力の差を検知する圧力検知器6とを備え、圧力検知配管5にかかる圧力の差に基づいて、主配管2内を流動する溶融塩の流量を測定するものであり、圧力孔4を開閉可能な開閉機構8を有する。これを用いて流量を測定する場合、溶融塩が流動を開始する時点において圧力孔4を閉止し、溶融塩の流量を測定する際には圧力孔4を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内に流れる高温の溶融塩の流量を安定して測定可能な差圧式流量計およびこれを用いた流量測定方法に関し、さらに詳しくは、圧力検知配管への溶融塩の過度の流入を抑制できる差圧式流量計およびこれを用いた流量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道の給水、排水設備をはじめ、産業の多くの分野でポンプを用いた液体の移送が行われている。移送される液体は、多くの場合は水や油などであり、且つその温度は常温(外気温)、高くても100℃を下回ることが多く、その流量はさまざまな流量計を用いて測定されている。また、溶融金属や溶融塩など、高温の液体が移送されることもあり、その場合には流量検知手段の耐熱性等の問題から、使用できる流量計が限られる。
【0003】
移送される高温の液体が溶融金属の場合には、電気抵抗率が10-6〜10-7Ωcmのオーダーであり、電気伝導性を有するため、電磁流量計を用いることができる。また、移送される液体にセンサーを浸漬して流量を測定する渦流量計も用いることができると考えられる。
【0004】
高温の溶融塩を移送する例としては、特許文献1に記載のCa還元によるTiの製造方法が挙げられる。この方法は、融点が780℃と高温の溶融CaCl2に溶解した金属CaにTiCl4を反応させてTi粒を生成させる還元工程と、生成したTi粒を溶融CaCl2から分離する分離工程と、Ti粒の生成にともなってCa濃度が低下した溶融CaCl2を電気分解することにより溶融CaCl2中のCa濃度を高める電解工程とを含む。そして、この方法では、電解工程で生成したCaを還元工程でTiCl4の還元に用いるため、還元剤としての金属Caを循環利用して、操業を連続的に行うことができる。
【0005】
特許文献1に記載の方法では、金属Caが溶解した溶融CaCl2が、各工程の間を移送される。そして、例えば還元工程における、溶融CaCl2中へのTiCl4の供給量のように、各工程では、移送される溶融CaCl2の量にしたがって操業状態を調整するため、各工程間での溶融CaCl2の流量の測定は非常に重要である。
【0006】
上述のように、移送される高温の液体が溶融金属の場合には、流量の測定に電磁流量計を用いることができる。しかし、溶融CaCl2等の溶融塩は電気抵抗率が10-1Ωcmのオーダーであり、電気伝導性を有しないため、流量の測定に電磁流量計を用いることができない。また、上述の金属Caが溶解した溶融CaCl2の場合には、金属Caが電気伝導性を有するものの、溶融CaCl2中において、電磁流量計で流量を測定できるほどの含有量ではない。
【0007】
また、渦流量計は、液体に浸漬するセンサーの保護具がセラミックス製であり、溶融塩が、金属Caが溶解した溶融CaCl2の場合には、金属Caによって当該保護具が侵食されるため、使用することができない。
【0008】
本発明者らは、溶融塩の流量の測定について検討した結果、差圧式流量計を用いることに想到した。差圧式流量計は、配管に絞り部を設けて絞り部の上流側および下流側の圧力差に基づいて流量を測定するため、構造が比較的簡単であり、金属Caによって侵食されない材質を用いて構成することができる。差圧式流量計の一例として、絞り機構としてオリフィス板を用いた、特許文献2に記載のオリフィス流量計が挙げられる。
【0009】
しかし、本発明者らが、溶融CaCl2の流量の測定に、差圧式流量計を用いたところ、絞り機構の上流側および下流側に設けられた2個の圧力検知配管が、侵入した溶融CaCl2の凝固物によって閉塞し、流量の測定を行うことができなかった。圧力検知配管をCaCl2の融点以上に保持すれば溶融塩の凝固を防ぐことができるものの、約800℃の高温にしなければならず、実際にこのような加熱をしながら流量測定を実施するのは困難である。
【0010】
特許文献3においても、セラミック等からなり、金属Caが溶解した溶融CaCl2でも流量測定できると考えられるオリフィス流量計が開示されている。このオリフィス流量計は、円筒形の容器の内部に、外壁に上下方向にオリフィス孔が複数設けられた円筒形のオリフィス管が配置されている。
【0011】
前記容器の底面に設けられた流体導入孔から導入された流体が、流量が少ないときには下側のオリフィス孔から流れ出し、流量が多くなると下側およびその直上のオリフィス孔からも流れ出すようになり、液面の高さとオリフィス孔の高さとの差、すなわち水頭差に基づいて流量の測定を行うことができる。したがって、このオリフィス流量計は、絞り機構の上流側および下流側の差圧から流量測定するものではなく、オリフィス管内に流体が完全に満ちた状態での流量を測定することができない。そのため、ポンプを用いる等、配管内を液体が満ちた状態で移送する場合には使用することができない。
【0012】
【特許文献1】特開2007−63585号公報
【特許文献2】特開昭61−270616号公報
【特許文献3】特開平4−116422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の通り、金属Caが溶解した溶融CaCl2が配管内に満ちた状態で移送される場合には、従来の技術ではその流量を測定することができなかった。しかし、本発明者らは、差圧式流量計の欠点を解決すれば、この溶融塩の流量を測定できる可能性があると考えた。
【0014】
そこで、本発明は、差圧式流量計を用いて、配管内に満ちた状態で流れる、金属Caを含有するCaCl2等の高温の溶融塩の流量を安定して測定可能とする方法、およびそのような差圧式流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、溶融塩が流れる主配管に配置された差圧式流量計の圧力検知配管が、溶融塩の凝固物によって閉塞する理由および状況について検討した。その結果、主配管が空の状態で流体の注入を開始した直後は、主配管内および圧力検知配管内での圧力変動が大きく、ゲージ圧で最大1.5気圧の圧力が加わるため、圧力検知配管の深部まで溶融塩が入り込み、そのまま凝固することがわかった。
【0016】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、その要旨は、下記(1)の流量測定方法、下記(2)の差圧式流量計および下記(3)のTiの製造方法にある。
【0017】
(1)溶融塩が流動可能な主配管に設けられた絞り部と、前記主配管の側面の、前記溶融塩の流動方向に対して前記絞り部の上流側および下流側のそれぞれに設けられた圧力孔に接続された圧力検知配管と、前記圧力検知配管に接続され、前記圧力検知配管のそれぞれにかかる圧力の差を検知する圧力検知器とを備え、前記圧力検知配管にかかる圧力の差に基づいて、前記主配管内を流動する溶融塩の流量を測定する差圧式流量計を用いた流量測定方法であって、前記圧力孔を開閉可能な開閉手段を用いて、前記溶融塩が流動を開始する時点において前記圧力孔を閉止し、前記溶融塩の流量を測定する際には前記圧力孔を開放することを特徴とする流量測定方法。
【0018】
(2)溶融塩が流動可能な主配管に設けられた絞り部と、前記主配管の側面の、前記溶融塩の流動方向に対して前記絞り部の上流側および下流側のそれぞれに設けられた圧力孔に接続された圧力検知配管と、前記圧力検知配管に接続され、前記圧力検知配管のそれぞれにかかる圧力の差を検知する圧力検知器とを備え、前記圧力検知配管にかかる圧力の差に基づいて、前記主配管内を流動する溶融塩の流量を測定する差圧式流量計であって、前記圧力孔の開閉機構を備えることを特徴とする差圧式流量計。
【0019】
(3)CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中のCaによってTiCl4を還元させて前記溶融塩中にTi粒を発生させる還元工程と、前記溶融塩中に生成されたTi粒を前記溶融塩から分離する分離工程と、Ti粒の生成にともなってCa濃度が低下した溶融塩を電解することによりCa濃度を高める電解工程とを含み、電解工程でCa濃度が高められた溶融塩を還元工程でTiCl4の還元に用いるTiの製造方法であって、電解工程から還元工程へ移送される溶融塩の流量の測定に前記(1)に記載の流量測定方法を使用し、電解工程から供給される溶融塩中のCa濃度および、前記差圧式流量計を用いて測定した前記溶融塩の流量に基づいて、還元工程におけるTiCl4の供給量を決定することを特徴とするTiの製造方法。
【0020】
前記(1)に記載の流量測定方法および前記(2)に記載の差圧式流量計において、前記圧力孔の開閉手段または開閉機構として、前記圧力検知配管内に配置された棒状の閉止部材を用いることができ、前記閉止部材を前記圧力検知配管内を進退可能とすることにより、容易に前記圧力孔を開閉することができる。そして、前記閉止部材の外径が、本体部では前記圧力孔の内径より大きく、前記圧力孔側の端部に移行するにしたがって漸次小さくなっており、先端部では前記圧力孔の内径よりも小さくすることにより、前記圧力孔を強固に閉止することができる。
【0021】
また、不活性ガスによって、前記圧力検知配管内に、前記主配管を流れる溶融塩の圧力よりも高い圧力を加えることを可能とし、前記主配管における前記溶融塩の流量を測定していない状態、つまり、前記開閉手段により前記圧力孔が閉止された状態において、前記圧力検知配管内の前記圧力孔と前記圧力検知器との間に、前記主配管を流れる溶融塩に起因する圧力よりも高い圧力を加えることが望ましい。これにより、前記開閉手段による前記圧力孔の閉止が不十分であっても、前記溶融塩が前記圧力検知配管内に侵入するのを抑制することができる。不活性ガスとしては、He、Ar、Ne等の希ガスや、N2ガスを用いることができる。ただし、主配管を流れる溶融塩がTi粒を含む場合には、Ti粒が窒化されるおそれがあるため、希ガスを用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の流量測定方法および差圧式流量計によれば、溶融塩の圧力検知配管の深部への侵入および侵入した溶融塩の凝固物による圧力検知配管の閉塞を抑制することができるため、圧力検知配管に侵入した場合に凝固しやすい高融点の溶融塩でも流量を安定して測定することが可能となる。そして、流量計が差圧式であるので、電気伝導性を有しない溶融塩でも流量を測定することができる。
【0023】
また、本発明のTiの製造方法によれば、電解工程から供給される溶融塩の流量の変動を逐次検知しながら、溶融塩とともに供給されるCaの供給量の変動に対応して、還元工程において適切な量のTiCl4を供給することができるため、原料の無駄を減少させ、効率良く金属Tiを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
最初に、前記(1)に記載の本発明の流量測定方法および(2)に記載の本発明の差圧式流量計について説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態にかかる流量測定方法に用いる差圧式流量計の構成例を示す図である。図1に示すように、溶融塩が流動可能な主配管2の途中に、絞り部3を構成するオリフィス3aが配置されており、主配管2の周面の、溶融塩の流動方向に対して絞り部3の上流側および下流側にはそれぞれ圧力孔4a、4bが設けられている。図1の主配管2内に記された矢印は、溶融塩の流通方向を示す。絞り部3は、ベンチュリやVコーンによって構成されるものであってもよい。
【0026】
圧力孔4a、4bには、それぞれ圧力検知配管5a、5bが接続されており、圧力検知配管5a、5bの周面には圧力検知器6が枝管7を介して接続されている。以下、圧力孔4aおよび4bをまとめて圧力孔4とも表し、圧力検知配管5aおよび5bをまとめて圧力検知配管5とも表すこととする。
【0027】
差圧式流量計1は、これらの絞り部3、圧力孔4、圧力検知配管5および圧力検知器6を備えるものであり、圧力検知器6で検知した圧力検知配管5aおよび5bにかかる圧力の差に基づいて、主配管2内を流通する溶融塩の流量を算出することができる。
【0028】
本実施形態にかかる差圧式流量計1は、圧力孔4に開閉機構8が設けられており、圧力孔4の開閉が可能である。本実施形態において、開閉機構8は、圧力検知配管5aおよび5bの内部に進退可能に配置された棒状の閉止部材9を備え、閉止部材9の端部を圧力孔4に接触させることにより圧力孔4を閉止する。閉止部材9の進退は、手動により行ってもよいし、モーター等を利用して自動的に行ってもよい。圧力検知配管5の圧力孔4とは反対側の端部には、閉止部材9が摺動可能なOリング等の封止部材10が設けられており、主配管2の内部に溶融塩が満ちた状態では、閉止部材9が進退しても圧力検知配管5内の気密が保持される。
【0029】
開閉機構8は、閉止部材9の外径を、本体部では圧力孔4の内径よりも大きく、圧力孔4側の端部に移行するにしたがって漸次小さくなり、先端部では圧力孔4の内径よりも小さくするとともに、圧力孔4の内径を、主配管2の外側から内側に移行するにしたがって漸次小さくすることにより、閉止部材9の先端の周面と圧力孔4の内面とを摺り合うように接触させ、圧力孔4を強固に閉止することができる。
【0030】
さらに、圧力検知配管5の内径を、本体部では一定とし、圧力孔4側の端部に移行するにしたがって漸次小さくし、先端部では圧力孔4の内径と一致させることにより、圧力検知配管5の内部における閉止部材9の占める部分の割合を高め、圧力検知配管5内に侵入する溶融塩を減少させることができる。
【0031】
このような閉止部材9、圧力孔4および圧力検知配管5の形状の例としては、図1に示すようなテーパー状が挙げられる。圧力孔4および圧力検知配管5よりも閉止部材9のテーパー角を小さく構成すると、圧力孔4の内面と閉止部材9の先端周面との接触面積を増大させることができ、圧力孔4の閉止を強固にできるのでより好ましい。
【0032】
また、圧力検知配管5の内径を一定とし、圧力孔4の内径を圧力検知配管5の内径よりも小さくしてもよい。この場合には、閉止部材9の外径を、圧力孔4の内径よりも大きくすることにより、圧力孔4を閉止することができる。さらに、閉止部材9の外径を、本体部では圧力孔4の内径よりも大きく、圧力孔4側の端部に移行するにしたがって漸次小さくし、先端部では圧力孔4の内径よりも小さくして、閉止部材9の先端部を圧力孔4の内部に挿入可能とすることにより、圧力孔4をより強固に閉止することができる。
【0033】
このように、開閉機構8を設け、圧力孔4を開閉可能とすることにより、溶融塩の流動開始直後における、圧力検知配管5内の圧力変動が大きいときに、圧力検知配管5の深部まで溶融塩が侵入して凝固し、圧力検知配管5が閉塞して流量の測定ができなくなることを、容易に防止することが可能となる。
【0034】
また、本実施形態にかかる差圧式流量計1は、圧力検知配管5内にArガスを供給することができる。Arガスは、図1に示すように、圧力検知配管5と圧力検知器6とを接続する枝管7の途中に接続されたガス供給管11から供給され、圧力検知配管5には封止部材10が設けられているため、圧力検知配管5および枝管7の内部を加圧することができる。圧力孔4を閉止した状態での圧力検知配管5内部では、空間の大部分を閉止部材9が占めているので、Arの供給量がわずかであっても十分に加圧することができる。
【0035】
圧力検知配管5および枝管7の内部を加圧することにより、圧力孔4と開閉機構8の閉止部材9とに歪みが発生する等で隙間が生じた場合であっても、圧力検知配管5内への溶融塩の侵入を抑制することができる。
【0036】
図2は、本実施形態にかかる差圧式流量計の他の構成例を示す図である。図2に示すように、圧力検知配管5は、端部を主配管2の周面に設けた挿入孔12から一定の長さ挿入した状態で配置してもよい。この場合には、圧力検知配管5の先端に設けた孔が圧力孔4として機能する。
【0037】
前記(2)の本発明にかかる流量測定方法について説明する。本発明にかかる流量測定方法では、上記構成の差圧式流量計を用いることができる。
【0038】
主配管2が空の状態で溶融塩の注入を開始した後、主配管2内を溶融塩が満たし、安定した流動状態となると、差圧式流量計を用いて溶融塩の流量の測定が可能な状態となる。本発明にかかる流量測定方法では、少なくとも、主配管2が空の状態から、主配管2内を溶融塩が満たして安定した流動状態となるまでの間は、開閉機構8を用いて圧力孔4を閉止する。そして、溶融塩が安定した流動状態となった後、圧力孔4を開放し、圧力検知配管5に、流動する溶融塩に起因する圧力が加わる状態にして、差圧式流量計1を用いて溶融塩の流量を測定する。
【0039】
このように、主配管2内の圧力が大きく変動する溶融塩の流動開始時において、圧力孔4を閉止することによって、圧力検知配管5の深部まで溶融塩が侵入することおよび侵入した溶融塩の凝固物によって圧力検知配管5が閉塞するのを抑制することができる。そのため、差圧式流量計を用いて溶融塩の流量を確実に測定することができる。
【0040】
また、圧力孔4を閉止している間、圧力検知配管5内をArガスによって加圧してもよい。これにより、圧力孔4と開閉機構8の閉止部材9との間に歪みが発生する等の理由で隙間が生じた場合であっても、圧力検知配管5内への溶融塩の侵入および溶融塩の凝固物による圧力検知配管5の閉塞を抑制することができ、差圧式流量計を用いてさらに確実に溶融塩の流量を測定することができる。
【0041】
前記(3)の本発明にかかるTiの製造方法について説明する。本発明にかかるTiの製造方法は、上述の流量測定方法を用いて行うことができる。
【0042】
図3は、前掲の特許文献1に記載されるTiの製造方法を実施する際の工程例を示す図である。同図には、還元工程と分離工程と電解工程とが含まれたTiの製造工程が記載されている。
【0043】
還元工程は、CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩Y1中のCaに、TiCl4を反応させて溶融塩Y1中にTi粒を生成させる工程である。分離工程は、還元工程から移送された、Ti粒を含む溶融塩Y2からTi粒を分離する工程である。分離工程で分離されたTi粒は、Tiインゴット20として回収される。そして、電解工程は、分離工程から移送された、Ti粒の生成にともなってCa濃度が低下した溶融塩Y3を電気分解することにより、Ca濃度を高める工程である。
【0044】
電解工程でCa濃度が高められた溶融塩Y1は、還元工程に移送される。このように、このTi製造工程においては、溶融CaCl2を工程間で移送し、工程全体で循環させている。工程間は、配管により接続され、この配管による溶融CaCl2の移送にはポンプが用いられる。
【0045】
なお、電解工程では、特許文献2に記載される電解槽17が組み込まれている。すなわち、この電解槽17は、一方向に長い電解槽容器17aと、電解槽容器17aの長手方向に沿って配置されたアノード18およびカソード19を有しており、溶融塩Y3をカソード19の表面近傍で一方向(この例では、上方から下方)に流しつつ、電気分解してCa濃度が高められた溶融塩Y1を得ることができる。
【0046】
還元工程へ移送される溶融塩Y1、分離工程へ移送される溶融塩Y2、および電解工程へ移送される溶融塩Y3は、含有量の変動はあるものの、いずれも金属Caを含有する溶融CaCl2であり、その流量の測定には、金属Caに対する耐久性を有しない流量計は用いることができない。そのため、本実施形態において、移送される溶融塩Y1、Y2およびY3の流量の測定には、金属Caに対する耐久性を有する材質を用いて構成することのできる、本発明にかかる差圧式流量計および流量測定方法を好適に用いることができる。そして、測定した溶融塩の流量に基づいて、各工程での操業を効率良く制御することができる。
【0047】
前記図3に示す製造方法では、溶融塩Y1、Y2およびY3のうち、少なくとも電解工程から還元工程に供給される溶融塩Y1の流量を、本発明にかかる差圧式流量計および流量測定方法を用いて測定する。これにより、測定した溶融塩Y1の流量と別途測定する溶融塩中のCa濃度から、溶融塩Y1とともに還元工程に供給される金属Ca量に応じてTiCl4の供給量を適切に決定できるため、効率良くTi粒を生成させ、Tiインゴットを製造することができる。
【実施例】
【0048】
本発明の差圧式流量計および流量測定方法の効果を確認するため、下記の流量測定実験を行い、その結果を評価した。
【0049】
1.実験条件
図1に示す圧力孔の開閉機構を有する差圧式流量計を備えた主配管に、溶融CaCl2を流動させて実験を行った。空の状態の主配管に溶融CaCl2を注入し、溶融CaCl2が主配管を満たし、安定した流動状態となった状態で流量を測定した後、溶融CaCl2の注入を停止するまでを1回の測定とし、各条件において10回ずつ測定した。
【0050】
本発明例1では、空の状態の主配管に溶融CaCl2の注入を開始する時点から流量を測定する直前まで、開閉機構によって圧力孔を閉止し、Arによる圧力検知配管内の加圧は行わなかった。本発明例2では、空の状態の主配管に溶融CaCl2の注入を開始する時点から流量を測定する直前まで閉止部材によって圧力孔を閉止するとともに、Arによる圧力検知配管内の加圧も行った。
【0051】
比較例は、圧力孔の開閉機構を有しない差圧流量計を用いて主配管内の溶融CaCl2の流量を測定した。Arによる圧力検知配管内の加圧は行わなかった。
【0052】
2.実験結果
上記条件で行った溶融CaCl2の流量の測定について、表1に示すように圧力検知配管の溶融塩の凝固物による閉塞回数を指標として評価を行った。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、比較例では、10回の流量測定のうち、10回とも圧力検知配管が溶融塩の凝固物によって閉塞し、溶融CaCl2の流量を測定することができなかった。一方、本発明例1では、圧力孔を閉止することにより、圧力検知配管の閉塞回数を10回中2回と大幅に低減することができ、安定して溶融CaCl2の流量を測定することができた。本発明2では、圧力孔の閉止に加えてArガスによる加圧を行ったため、圧力検知配管の閉塞を完全に防止することができ、確実に溶融CaCl2の流量を測定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の流量測定方法によれば、溶融塩の圧力検知配管の深部への侵入および侵入した溶融塩の凝固物による圧力検知配管の閉塞を抑制することができるため、圧力検知配管に侵入した場合に凝固しやすい高融点の溶融塩でも流量を安定して測定することが可能となる。そして、本発明の差圧式流量計は差圧式であるので、電気伝導性を有しない溶融塩でも流量を測定することができる。
【0056】
また、本発明のTiの製造方法によれば、電解工程から供給される溶融塩の流量の変動を逐次検知しながら、溶融塩とともに供給されるCaの供給量の変動に対応して、還元工程において適切な量のTiCl4を供給することができるため、原料の無駄を減少させ、効率良く金属Tiを製造することができる。したがって、本発明は高温の溶融塩を用いて行われる金属の精錬等の分野において有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態にかかる差圧式流量計の構成例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる差圧式流量計の他の構成例を示す図である。
【図3】特許文献1に記載されるTiの製造方法を実施する際の工程例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 差圧式流量計
2 主配管
3 絞り部
3a オリフィス
4(a、b) 圧力孔
5(a、b) 圧力検知配管
6 圧力検知器
7 枝管
8 開閉機構
9 閉止部材
10 封止部材
11 ガス供給管
12 挿入孔
17 電解槽
17a 電解槽容器
18 アノード
19 カソード
20 Tiインゴット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩が流動可能な主配管に設けられた絞り部と、前記主配管の側面の、前記溶融塩の流動方向に対して前記絞り部の上流側および下流側のそれぞれに設けられた圧力孔に接続された圧力検知配管と、前記圧力検知配管に接続され、前記圧力検知配管のそれぞれにかかる圧力の差を検知する圧力検知器とを備え、前記圧力検知配管にかかる圧力の差に基づいて、前記主配管内を流動する溶融塩の流量を測定する差圧式流量計を用いた流量測定方法であって、
前記圧力孔を開閉可能な開閉手段を用いて、前記溶融塩が流動を開始する時点において前記圧力孔を閉止し、前記溶融塩の流量を測定する際には前記圧力孔を開放することを特徴とする流量測定方法。
【請求項2】
前記圧力孔の開閉手段として、前記圧力検知配管内に配置された棒状の閉止部材を用いることを特徴とする請求項1に記載の流量測定方法。
【請求項3】
前記閉止部材が前記圧力検知配管内を進退可能であることを特徴とする請求項2に記載の流量測定方法。
【請求項4】
前記閉止部材の外径が、本体部では前記圧力孔の内径より大きく、前記圧力孔側の端部に移行するにしたがって漸次小さくなっており、先端部では前記圧力孔の内径よりも小さいことを特徴とする請求項4に記載の流量測定方法。
【請求項5】
前記主配管における前記溶融塩の流量を測定していない状態において、不活性ガスによって、前記圧力検知配管内の前記圧力孔と前記圧力検知器との間に、前記主配管を流れる溶融塩の圧力よりも高い圧力を加えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の流量測定方法。
【請求項6】
溶融塩が流動可能な主配管に設けられた絞り部と、前記主配管の側面の、前記溶融塩の流動方向に対して前記絞り部の上流側および下流側のそれぞれに設けられた圧力孔に接続された圧力検知配管と、前記圧力検知配管に接続され、前記圧力検知配管のそれぞれにかかる圧力の差を検知する圧力検知器とを備え、前記圧力検知配管にかかる圧力の差に基づいて、前記主配管内を流動する溶融塩の流量を測定する差圧式流量計であって、
前記圧力孔の開閉機構を備えることを特徴とする差圧式流量計。
【請求項7】
前記圧力孔の開閉機構が、前記圧力検知配管内に配置された棒状の閉止部材からなることを特徴とする請求項6に記載の差圧式流量計。
【請求項8】
前記閉止部材が前記圧力検知配管内を進退可能であることを特徴とする請求項7に記載の差圧式流量計。
【請求項9】
前記閉止部材の外径が、本体部では前記圧力孔の内径より大きく、前記圧力孔側の端部に移行するにしたがって漸次小さくなっており、先端部では前記圧力孔の内径よりも小さいことを特徴とする請求項7または8に記載の差圧式流量計。
【請求項10】
不活性ガスによって、前記圧力検知配管内の前記圧力孔と前記圧力検知器との間に、前記主配管を流れる溶融塩に起因する圧力よりも高い圧力を加えることが可能であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の差圧式流量計。
【請求項11】
CaCl2を含み且つCaが溶解した溶融塩中のCaによってTiCl4を還元させて前記溶融塩中にTi粒を発生させる還元工程と、前記溶融塩中に生成されたTi粒を前記溶融塩から分離する分離工程と、Ti粒の生成にともなってCa濃度が低下した溶融塩を電解することによりCa濃度を高める電解工程とを含み、電解工程でCa濃度が高められた溶融塩を還元工程でTiCl4の還元に用いるTiの製造方法であって、
電解工程から還元工程へ移送される溶融塩の流量の測定に請求項1〜5のいずれかに記載の流量測定方法を使用し、電解工程から供給される溶融塩中のCa濃度および、前記差圧式流量計を用いて測定した前記溶融塩の流量に基づいて、還元工程におけるTiCl4の供給量を決定することを特徴とするTiの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−117297(P2010−117297A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291926(P2008−291926)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(397064944)株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ (133)
【Fターム(参考)】