説明

巻上機、巻上機の電源切り換え方法

【課題】インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止という機能を維持しながら簡単な構成で巻下運転中の巻上下用電動機の回生電力の多くを商用交流電源側に返すことができる巻上機、及び巻上機の電源切り換え方法を提供する。
【解決手段】制御装置13は、巻下運転時に加速巻下運転から高速巻下運転に移行する時及び高速巻下運転から減速巻下運転に移行するとき、インバータ11をその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器17で検出した位相検出信号S1とインバータ11からの位相信号S5により、インバータ11の出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機12の電源を電源切換器(電磁開閉器18、19)を介してインバータ11から商用交流電源10又は商用交流電源10からインバータ11に切り換える切換機能を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上下用電動機がインバータからの駆動電力で駆動される電気ロープホイストや電気チェーンブロック等の巻上機、及び巻上機の電源切り換え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のようにインバータを備え、巻上下用電動機を駆動をインバータの出力で行うようにした巻上機では、巻下運転時に巻上下用電動機が回生エネルギー(回生電力)を発生する。この回生エネルギーを処理して巻上下用電動機に回生制動をかける方法として、回生電力(回生電流)を制動抵抗器に通電し、熱エネルギーに変える方法が従来より行われている。この方法は制動抵抗器から発生する多量の熱の対策が必要で、巻上下用電動機の容量が大きい場合、巻上下運転が高頻度で行われると、大きい制動抵抗器が必要となる上、発生する熱を効果的に放熱する等の熱対策が難しいという問題がある。
【0003】
上記制動抵抗器を用いない方法として、回生コンバータを設け、巻下運転時に巻上下用電動機で発生する回生電力を回生コンバータで電源周波数の電力に変換し、電源側に返す方法もある。この方法は、制動抵抗が必要ないし、省エネルギーともなる。しかしながら、回生コンバータの形状寸法が大きい上、且つコストが高い(インバータの2倍以上)という問題がある。
【0004】
また、特許文献1に示すように、巻上機の下降運転時に巻上下用電動機をインバータ側に接続し、インバータにより回転駆動し、回転速度が商用交流電源の周波数に相当する定格速度になると、巻上下用電動機を商用交流電源側に接続し、商用交流電源により巻上下用電動機を回転駆動するようにしたものもある。
【特許文献1】特開2000−175472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記引用文献1に記載の巻上機は、制動抵抗が必要なく、発熱対策も必要なく、コストも安価にでき、巻下運転時に巻上下用電動機が発生する回生電力を商用交流電源側に返すことができるという利点があるが、インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止できないという問題がある。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、インバータが備える機能を利用して、インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止という機能を維持しながら簡単な構成、方法で巻下運転中の巻上下用電動機の回生電力の多くを商用交流電源側に返すことができる巻上機、及び巻上機の電源切り換え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時にインバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する制御装置を備えた巻上機において、電源切換器と、商用交流電源の位相を検出する位相検出器を備え、インバータはその出力の位相を示す位相信号を出力する機能を備え、制御装置は、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介してインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介して商用交流電源からインバータに切り換える切換機能を備えたことを特徴とする。
【0008】
上記のように制御装置の切換機能により、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介してインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数が商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相信号とインバータからの位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を電源切換器を介して前記商用交流電源からインバータに切り換えることにより、極めて簡単な構成で高速巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源側に返すことができる。
【0009】
また、本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する巻上機の電源切り換え方法において、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータをその出力周波数を商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、商用交流電源の位相を位相検出器で検出し、該位相検出信号とインバータからのその出力の位相を示す位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数を商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相検出信号とインバータから位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換えることを特徴とする。
【0010】
上記巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータをその出力周波数を商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、商用交流電源の位相を位相検出器で検出し、該位相検出信号とインバータからのその出力の位相を示す位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータをその出力周波数を商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、位相検出器で検出した位相検出信号とインバータから位相信号とにより、インバータ出力と商用交流電源とが同期した時点で、巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換えることにより、極めて簡単な方法で高速巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源側に返すことができる。
【0011】
また、本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時にインバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する制御装置を備えた巻上機において、電源切換器と、商用交流電源の電力位相を検出する位相検出器と備え、インバータは、位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を商用交流電源に同期させ、同期が完了したら制御装置に同期完了信号を出力する機能を備え、制御装置は、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換える切換機能を備えたことを特徴とする。
【0012】
上記のように制御装置の切換機能により、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換えることにより、極めて簡単な構成で高速巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源側に返すことができる。
【0013】
また、本発明は、商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時にインバータ出力により巻下運転開始から商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する巻上機の電源切り換え方法において、インバータは、商用交流電源の位相を検出する位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を商用交流電源位相に同期させ、同期が完了したら制御装置に同期完了信号を出力する機能を備えており、巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換えることを特徴とする。
【0014】
上記のように巻下運転時に加速巻下運転を経て高速巻下運転になったらインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータから商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から減速巻下運転に移行する際には、インバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源を商用交流電源からインバータに切り換えるより、極めて簡単な構成で高速巻下運転時に巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源側に返すことができる。
【0015】
電動の巻上機において、巻下運転時に巻上下用電動機が発電からの回生電力(電流)を制動抵抗器に通電して熱に変換しないで、巻上下用電動機に回生制動を作用させるためには、回生電力を商用電源に返すと制動抵抗器が不必要或いは小さい制動抵抗器で済む。そのためには、巻上下用電動機の電源をインバータから商用電源へ、商用電源からインバータ出力に切り換える必要がある。このとき、インバータ出力と商用電源の位相を合わせないで切り換えた場合、上下用電動機に衝撃が発生する。例えばインバータ出力の位相と商用電源の位相が180°ずれた状態で、切り換えた場合、巻上下用電動機に大きな衝撃が発生する、そこで上記のようにインバータ出力の位相と商用電源の位相が合った時点で切り換えることにより、巻上下用電動機になんら衝撃を与えることなく、切り換えることができるのである。
【0016】
また、インバータは周波数変換装置なので、自ら作り出す出力電圧の位相情報を外部に出力することはインバータの付随的機能として容易なことであるし、また、他の系統の電圧の位相に自ら作り出す出力電圧の位相を合わせ、同期完了と同時に同期完了信号も出力することもインバータの付随的機能として容易なことである。本発明は、上記インバータが備えた付随的機能を利用し、インバータ出力の周波数を商用電源の周波数より若干ずらして運転し、その電圧出力の位相を示す位相信号と、位相検出器で検出された商用電源の電圧の位相とから、両者が同期した時点で巻上下用電動機の電源を、インバータ出力から商用電源へ又は商用電源からインバータ出力へ切り換えるか、或いはインバータからの同期完了信号を受けて巻上下用電動機の電源をインバータ出力から商用電源へ又は商用電源からインバータ出力へ切り換えかえるので、極めて簡単に切り換えができるのである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、インバータ駆動の巻上機の特徴である緩停止という機能を維持しながら、高速巻下運転中に巻上下用電動機が発電する回生電力を商用交流電源側に返すことができるから、省エネルギーであると同時に、小さい容量の制動抵抗器で済み、且つ電源切換時に巻上下用電動機に衝撃を与えない巻上機、及び巻上機の電源切り換え方法を提供するができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る巻上機のシステム構成を示す図である。図示するように、本巻上機は、商用交流電源10、インバータ11、巻上下用電動機(誘導電動機)12、制御装置13を備えている。14は操作ボックスで、該操作ボックス14に巻上用押ボタンスイッチ15と、巻下用押ボタンスイッチ16を備えている。また、巻上用押ボタンスイッチ15は、低速巻上用の1段目スイッチ15aと高速巻上用の2段目スイッチ15bを備え、巻下用押ボタンスイッチ16は、低速巻下用の1段目スイッチ16aと高速巻下用の2段目スイッチ16bを備えている。
【0019】
巻上用押ボタンスイッチ15の1段目スイッチ15a、2段目のスイッチ15bを操作することにより、その信号は制御装置13に入力され、巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16a、2段目スイッチ16bを操作することにより、その信号は制御装置13に入力されるようになっている。17は商用交流電源10のR相・S相間の電圧位相を検出する位相検出器であり、その位相検出信号S1は制御装置13に入力されるようになっている。18、19は電源切換用の電磁開閉器で、電磁開閉器18は巻上下用電動機12を接点18aを介してインバータ11側に接続する電磁開閉器、電磁開閉器19は巻上下用電動機12を接点19aを介して商用交流電源10に接続する電磁開閉器である。
【0020】
20は巻上下用電動機12を拘束する機械式ブレーキであり、インバータ11の出力のV相に接続されたダイオードスタック21からの直流電流が通電するとブレーキ20は開放され、電磁開閉器22の接点22aが閉じ、ブレーキ20への直流電流が遮断されると、ブレーキ20が作動し、制動力が作用するようになっている。なお、電磁開閉器22は制御装置13により制御される。また、23はインバータ11に接続された制動抵抗器である。24は荷重吊り用フック(図示せず)が上限に達したら巻上運転を停止させる上限スイッチ、25は荷重吊り用フックが下限に達したら巻下運転を停止させる下限スイッチであり、制御装置13に接続されている。制御装置13からインバータ11は正転(巻上)指令信号S2、逆転(巻下)指令信号S3、高速指令信号S4が出力され、インバータ11から制御装置13には後に詳述するインバータの出力の位相を示す位相信号S5が出力される。
【0021】
上記構成の巻上機において、操作ボックス14の巻上用押ボタンスイッチ15の操作により低速巻上用の1段目スイッチ15aが閉じると制御装置13は巻上信号の入力と判断し、インバータ11に正転(巻上)指令信号S2を出力し、続いて高速巻上用の2段目スイッチ15bが閉じると高速信号の入力と判断し、インバータ11に高速指令信号S4を出力する。また、巻下用押ボタンスイッチ16の操作により低速巻下用の1段目スイッチ16aが閉じると制御装置13は巻下信号の入力と判断し、インバータ11に逆転(巻下)指令信号S3を出力し、続いて高速巻下用の2段目スイッチ16bが閉じると高速信号の入力と判断し、インバータ11に高速指令信号S4を出力する。
【0022】
巻上用押ボタンスイッチ15の1段目スイッチ15aを閉じることにより、インバータ11に正転(巻上)指令信号S2が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に正転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が所定の加速度で低速巻上運転速度まで加速される。ここで2段目スイッチ15bを閉じることにより、高速指令信号S4が入力されると巻上下用電動機12は更に所定の加速度で商用交流電源周波数での高速巻上運転速度まで加速される。高速巻上運転速度で所定の巻上位置近傍に達した、2段目スイッチ15bを開き低速巻上運転速度で所定の巻上位置で巻き上げ、ここで1段目スイッチ15aを開くことにより所定の巻上位置に停止する。
【0023】
上記所定の巻上位置から巻下げる場合は、巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aを閉じることにより、インバータ11に逆転(巻下)指令信号S3が入力されるとインバータ11から巻上下用電動機12に逆転位相順の電力が供給され、巻上下用電動機12が所定の加速度で低速巻下運転速度まで加速される。ここで2段目スイッチ16bを閉じることにより、高速指令信号S4が入力されると巻上下用電動機12は更に所定の加速度で商用交流電源周波数での高速巻下運転速度まで加速される。高速巻下運転速度で所定の巻下位置近傍に達したら、2段目スイッチ16bを開き低速巻下運転速度で所定の巻下位置で巻き下げ、ここで1段目スイッチ16aを開くことにより停止する。
【0024】
インバータ11は後述するように、その出力の位相を示す位相信号S5を出力する機能を有し、該位相信号S5が制御装置13に入力されるようになっている。上記巻下運転において、巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bを閉じ、高速巻下運転速度に達したら、インバータ11はその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量(例えば周波数差2Hz)ずらして運転する。制御装置13はインバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10の位相とインバータ11の出力の位相が同期した瞬間に電磁開閉器18を不動作として、電磁開閉器19を動作させる。これにより、電磁開閉18の接点18aが開き、電磁開閉器19の接点19aが閉じて、巻上下用電動機12の電源がインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換える。
【0025】
上記商用交流電源10に切り換え所定の巻下位置近傍に達したら、2段目スイッチ16bを開くことにより、制御装置13からの高速指令信号S4が遮断され逆転(巻下)指令信号S3となる。これにより、インバータ11はその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量(例えば周波数差2Hz)ずらして運転する。そして制御装置13はインバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10の位相とインバータ11の出力の位相が同期した瞬間に電磁開閉器18を動作させ、電磁開閉器19を不動作にする。これにより、電磁開閉器18の接点18aが閉じ、電磁開閉器19の接点19aが開き、巻上下用電動機12の電源が商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換える。
【0026】
図2は上記巻下運転時の切換タイミングを示す図である。時刻t1で巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aのONにより、逆転指令信号S3が出力され、所定の加速度で加速され、時刻t2で低速巻下速度に達する。時刻t3で巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bのONにより、高速指令信号S4が出力され、所定の加速度で加速され、時刻t4で高速巻下運転速度に達する。ここでインバータ11をその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量ずらして運転し、インバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10とインバータ11の出力が同期した時刻t5に巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換え(電磁開閉器18の接点18aをOFF、電磁開閉器19の接点19aをON)、交流電源周波数で巻上下用電動機12の巻下運転を行う。
【0027】
巻下所定位置に近傍の時刻t6で巻下用押ボタンスイッチ16の2段目スイッチ16bをOFFとすることにより、インバータ11をその出力周波数が商用交流電源10の周波数より所定量ずらして運転し、インバータ11からの位相信号S5と位相検出器17で検出された位相検出信号S1とにより、商用交流電源10とインバータ11の出力が同期した時刻t7に巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換え(電磁開閉器19の接点19aをOFF、電磁開閉器18の接点18aをON)、時刻t8からインバータ11の出力周波数を所定減速度で低減させ、時刻t9で低速巻下減速に達する。その所定の巻き下げ位置に達した時刻t10で巻下用押ボタンスイッチ16の1段目スイッチ16aのOFFすることにより、逆転指令信号S3を停止して、巻上下用電動機12を停止する。
【0028】
上記のように巻上下用電動機12の電源を高速巻下運転速度に達した後の時刻t5でインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換え、商用交流電源10の周波数速度で高速巻下運転を行い、時刻t7で巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換えることにより、時刻t5〜時刻t7までの高速巻下運転で巻上下用電動機12が発電した回生電力を商用交流電源10に返すことになる。そしてインバータ11に接続される制動抵抗器23で熱に変換する回生電力は商用交流電源10による高速巻下運転の両側の斜線を施した部分で済むから、制動抵抗器23の容量を大幅に削減できる(小さい制動抵抗器で済む)と共に、省エネルギーとなる。
【0029】
図3はインバータ11のU相出力と該インバータ11から出力されるインバータ出力の位相を示す位相信号S5の波形例を示す図である。図示するように、(a)に示すインバータ11のU相出力の波形に対して、(b)に示すようなU相出力の位相を示す位相信号S5が出力される。このような位相信号S5を出力することは、インバータ11が周波数変換装置なので、自ら作り出す出力電圧の位相情報として外部に出力することであり、インバータの機能(インバータの付随的機能)として容易なことである。制御装置13でインバータ11からの上記位相信号S5と位相検出器17で検出された商用交流電源10の位相検出信号S1と比較し、両者が一致した時点(同期した時点)で巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に或いは商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換える。
【0030】
図4は上記巻下運転時の巻上下用電動機12の電源をインバータ11の出力から商用交流電源10に切換時の商用交流電源R相の電圧波形、インバータのU、V、W相の電圧波形、負荷電流波形例を示す図である。ここでは商用交流電源周波数とインバータ11の周波数差を2Hzとして、両電源が同期した瞬間にインバータ11の出力から商用交流電源10に切り換えている。切換時間(巻上下用電動機12がインバータ11及び商用交流電源10のいずれにも接続されていない時間)ΔT≒12.8msで、巻上下用電動機12に衝撃を与えることなく、切り換えることができることを確認した。
【0031】
図5は上記巻下運転時の巻上下用電動機12の電源を商用交流電源10からインバータ11の出力に切換時の商用交流電源R相の電圧波形、インバータのU、V、W相の電圧波形、負荷電流波形例を示す図である。ここでは商用交流電源周波数とインバータ11の周波数差を2Hzとして、両電源が同期した瞬間に商用交流電源10からインバータ11の出力に切り換えている。切換時間ΔT≒13.8msで、巻上下用電動機12に衝撃を与えることなく、切り換えることができることを確認した。
【0032】
図6は50Hz系と60Hz系の同期点周期表を示す図である。図はA系周波数をXとし、B系周波数Yとして、A系B系とも同期点よりスタートした場合の1サイクル後の時間差(波形のズレ時間)は、
(1/X)−(1/Y)=T1
となり、この時間差T1により再度、同期点になるまでの時間(同期点の周期)T2を、
T2={(1/X)/T1}×(1/X)
として算出した同期点周期表を示す表である。A系、B系の周波数差が多い程、同期点の周期は短くなる。A系とB系の周波数差を最大2Hzとした場合で位相検出器17の検出条件で周波数差±2Hzとなるので、同基点の周期は0.52(sec)となる。これは電源が理想状態での場合であるから、検出途中で電圧、周波数変動により時間T2が長くなる場合がある。
【0033】
図7は本発明に係る巻上機の他のシステム構成を示す図である。同図において、図1と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示すのでその説明は省略する。本巻上機が図1に示す巻上機と異なる点は、位相検出器17が商用交流電源10の位相を検出しその位相検出信号S1をインバータ11に送り、該インバータ11は巻下運転時に巻上下用電動機12の電源をインバータ11から商用交流電源10或いは商用交流電源10からインバータ11に切り換える際に、インバータ11の出力位相を商用交流電源10の位相に同期するように運転する。そして同期が完了した時点でインバータ11から制御装置13に同期完了信号S6を出力する。このような同期完了信号S6を出力することも、インバータが周波数変換装置なので、自ら作り出す出力電圧の位相を他の系統の電圧の位相に同期させ、同期完了と同時に同期完了信号S6を出力することも、インバータの機能(インバータの付随的機能)として容易なことである。
【0034】
制御装置13は上記同期完了信号S6を受けて、巻上下用電動機12の電源をインバータ11から商用交流電源10にする時は、電磁開閉器18を不動作としてその接点18aを開き、電磁開閉器19を動作しその接点19aを閉じる。また、商用交流電源10からインバータ11にする時は、電磁開閉器18を動作させその接点18aを閉じ、電磁開閉器19を不動作としてその接点19aを開く。このように、インバータ10に位相検出器17による商用交流電源10の位相検出信号S1を受けて、その出力位相を商用交流電源10に同期させ、同期完了信号S6を制御装置13に出力する機能を設けるだけで、商用交流電源10での高速巻下運転時に巻上下用電動機12で発電する回生電力を商用交流電源10に返すことができるから、制動抵抗器23で熱として消費しなければならない回生エネルギーが少なくなり、制動抵抗器23の容量を大幅に削減できると共に、省エネルギーとなる。
【0035】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状や材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る巻上機のシステム構成例を示す図である。
【図2】本発明に係る巻上機の巻下運転時の切換タイミングを示す図である。
【図3】本発明に係る巻上機の巻下運転時のインバータから出力される位相信号を示す図である。
【図4】本発明に係る巻上機の巻下運転時のインバータから商用交流電源に切換時の波形を示す図である。
【図5】本発明に係る巻上機の巻下運転時の商用交流電源からインバータバータに切換時の波形を示す図である。
【図6】50Hz系と60Hz系の同期点周期表を示す図である。
【図7】本発明に係る巻上機の他のシステム構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10 商用交流電源
11 インバータ
12 巻上下用電動機
13 制御装置
14 操作ボックス
15 巻上用押ボタンスイッチ
16 巻下用押ボタンスイッチ
17 位相検出器
18 電磁開閉器
19 電磁開閉器
20 ブレーキ
21 ダイオードスタック
22 電磁開閉器
23 制動抵抗器
24 上限スイッチ
25 下限スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する制御装置を備えた巻上機において、
電源切換器と、前記商用交流電源の位相を検出する位相検出器を備え、
前記インバータはその出力の位相を示す位相信号を出力する機能を備え、
前記制御装置は、巻下運転時に前記加速巻下運転を経て前記高速巻下運転になったら前記インバータをその出力周波数が前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、前記位相検出器で検出した位相信号と前記インバータからの位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記巻上下用電動機の電源を前記電源切換器を介して前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータをその出力周波数が前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、前記位相検出器で検出した位相信号と前記インバータからの位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記巻上下用電動機の電源を前記電源切換器を介して前記商用交流電源から前記インバータに切り換える切換機能を備えたことを特徴とする巻上機。
【請求項2】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する巻上機の電源切り換え方法において、
前記巻下運転時に前記加速巻下運転を経て前記高速巻下運転になったら前記インバータをその出力周波数を前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、前記商用交流電源の位相を位相検出器で検出し、該位相検出信号と前記インバータからのその出力の位相を示す位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記巻上下用電動機の電源を前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータをその出力周波数を前記商用交流電源周波数より所定量ずらした状態で運転すると共に、前記位相検出器で検出した位相検出信号と前記インバータから位相信号とにより、前記インバータ出力と前記商用交流電源とが同期した時点で、前記巻上下用電動機の電源を前記商用交流電源から前記インバータに切り換えることを特徴とする巻上機の電源切り換え方法。
【請求項3】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する制御装置を備えた巻上機において、
電源切換器と、前記商用交流電源の電力位相を検出する位相検出器と備え、
前記インバータは、前記位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を前記商用交流電源に同期させ、同期が完了したら前記制御装置に同期完了信号を出力する機能を備え、
前記制御装置は、巻下運転時に前記加速巻下運転を経て前記高速巻下運転になったら前記インバータからの同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータからの同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記商用交流電源から前記インバータに切り換える切換機能を備えたことを特徴とする巻上機。
【請求項4】
商用交流電源、インバータ、巻上下用電動機を備え、巻下運転時に前記インバータ出力により巻下運転開始から前記商用交流電源周波数の高速巻下運転まで所定加速度で加速する加速巻下運転を行い、該高速巻下運転から巻下運転停止まで所定減速度で減速する減速巻下運転する巻上機の電源切り換え方法において、
前記インバータは、前記商用交流電源の位相を検出する前記位相検出器で検出された検出位相信号を受けて、その出力を前記商用交流電源位相に同期させ、同期が完了したら前記制御装置に同期完了信号を出力する機能を備えており、
前記巻下運転時に前記加速巻下運転を経て前記高速巻下運転になったら前記インバータからの前記同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記インバータから前記商用交流電源に切り換え、該高速巻下運転から前記減速巻下運転に移行する際には、前記インバータからの同期完了信号を受けて前記巻上下用電動機の電源を前記商用交流電源から前記インバータに切り換えることを特徴とする巻上機の電源切り換え方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−183107(P2009−183107A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21363(P2008−21363)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】