説明

巻上機

【課題】 特別な装置を用いることなく、精度良く荷重情報を得ることのできる機能を備えた巻上機を提供する。
【解決手段】 インバータ制御部と、前記インバータ制御部に制御される巻上用インバータ部と、前記巻上用インバータ部によって駆動させられるクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行う巻上誘導電動機と、が備えられた巻上機であって、前記巻上用インバータ部には、周波数変換を行なう駆動素子部と、回生駆動スイッチと、回生抵抗と、直流母線間電圧VDCを検知する電圧モニタ部と、が備えられ、前記インバータ制御部は、前記回生抵抗の通電率に応じて荷重を算出するという構成をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊上げる荷の質量を判別する巻上機に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイスト等の巻上機は吊上げる荷の質量すなわち荷重を移動させた時間で、寿命の推測を行なっている。精度の良い寿命推測を行なう為には、精度の良い荷重情報が必要である。
【0003】
巻上機において荷重情報を得る手段として、荷重計等の装置を用いたり、モータに通電される電流を検出し荷重情報を得ている。また、ワイヤーロープの伸びを測定することにより荷重情報を得る手段もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】開昭58−220085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来の荷重計やワイヤーロープの伸びを測定し、荷重情報を得る方法では、本来巻上装置に必要のない特別な装置を用いる必要がある。また、電流により荷重情報を得る方法だと、電流値はホイスト等巻上機の個体差や、電源の電圧変動に影響を受け、ばらつきが発生するので、一概に荷重を判断する電流値を決定できず、仮に決定しても電流値は前記条件によりばらつきが発生するので精度の良い荷重情報が得られなかった。
【0006】
本発明の目的は特別な装置を用いることなく、精度良く荷重情報を得ることのできる巻上機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、例えば、インバータ制御部と、前記インバータ制御部に制御される巻上用インバータ部と、前記巻上用インバータ部によって駆動させられるクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行う巻上誘導電動機と、が備えられた巻上機であって、前記巻上用インバータ部には、周波数変換を行なう駆動素子部と、回生駆動スイッチと、回生抵抗と、直流母線間電圧VDCを検知する電圧モニタ部と、が備えられ、前記インバータ制御部は、前記回生抵抗の通電率に応じて荷重を算出するという構成をとる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、特別な装置を用いることがないので、コストの低減を図ることができる。
【0009】
また、精度の良い荷重情報が得られるので寿命推測等、荷重の情報により制御を行なう機器の精度向上が図れ、安全性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】インバータ式クレーン装置の全体構成を表す斜視図である。
【図2】インバータ式クレーン装置の制御構成を表すブロック図である。
【図3】巻上インバータ装置の構成を表すブロック図である。
【図4】インバータ式クレーン装置の巻上動作及び回生駆動信号のタイミングを表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の最良の形態について図1〜図4を参照して説明する。始めに図1、図2にて、インバータ式クレーン装置1の全体構成と動作を説明する。
【0012】
インバータ式クレーン装置1はクレーンフック2に取り付けた荷物を、ワイヤーロープ3で巻き取ることでZ、−Z方向に巻上巻下する為に、巻上誘導電動機4を備えた巻上用装置5を備え、X、−X方向に移動させる為の横行誘導電動機6を備えた横行用装置7と、横行用ガーダー8を備え、Y、−Y方向に移動させるために、走行誘導電動機9を備えた走行用装置10と走行用ガーダー11を組み合わせたものである。
【0013】
巻上誘導電動機4と横行誘導電動機6は、巻上・横行用インバータ装置12に格納された図2の巻上・横行インバータ制御部13は、入力装置14からの指示を取り込み、信号を出力することで巻上用インバータ15と横行用インバータ16を制御し、巻上用インバータ15と横行用インバータ16から必要な周波数、電圧を巻上誘導電動機4と横行誘導電動機6に加え、即座に誘導電動機用ブレーキ17を解除制御することで、クレーンフック2に取り付けられた荷物が落下することなくZ、−Z方向に移動させる。横行用装置7の場合、横行用ガーダー8に沿って巻上用装置5をX、−X方向に移動させる。
【0014】
同様に走行用装置10に取り付けてある走行誘導電動機9は入力装置14からの指示を、走行用インバータ装置18に格納された図2の走行インバータ制御部19で取り込み信号を出力することで、走行用インバータ20を制御し、走行用インバータ20から必要な周波数、電圧を走行誘導電動機9に加え、即座に誘導電動機用ブレーキ17を解除制御することで、走行用ガーダー11に沿って巻上用装置5をY、−Y方向に移動させる。
【0015】
インバータ式クレーン装置1の巻上用インバータ15の構成及び動作について図3、図4を用い説明する。
【0016】
巻上用インバータ15は主電源3相交流を直流に変換する整流部21と、整流コンデンサ22、周波数変換を行なう駆動素子部23と回生エネルギーを熱エネルギーにて消費する回生エネルギー処理部24、回生エネルギー処理部24内の回生駆動スイッチ25と回生抵抗26、直流母線間電圧VDCの変化を読取る電圧モニタ部27で構成される。
【0017】
入力装置14からの操作信号に応じ、巻上・横行インバータ制御部13が駆動素子部23に対してインバータ駆動制御信号を出力し、巻上誘導電動機4に必要な周波数、電圧を加え、ワイヤーロープ2が巻かれたドラム28を回転させ荷物を移動させる。巻下げもしくは巻上減速が行われる時、巻上誘導電動機4が発電機になり回生エネルギーが発生し、整流コンデンサ22に電荷として蓄えられ、直流母線間電圧VDCが上昇する。このまま放置すると整流コンデンサ22に過電圧が印加され、巻上用インバータ15が破損してしまうので、電圧モニタ部27が直流母線間電圧VDCを監視する電圧モニタ信号を巻上・横行インバータ制御部13に出力する。
【0018】
巻上・横行インバータ制御部13は、電圧モニタ信号を監視し回生駆動電圧まで上昇した場合、回生駆動スイッチ25を駆動する回生駆動信号を出力し、回生抵抗26にて電力消費を行なわせ直流母線間電圧VDCを降下させる。そして電圧モニタ信号が回生駆動電圧以下に降下したとき回生駆動信号を遮断する。遮断後、再び回生エネルギーが発生すれば、直流母線間電圧VDCが上昇する。
【0019】
回生エネルギーが発生する巻下げもしくは巻上減速は連続動作なので、回生駆動信号は出力・遮断を繰り返す。すなわち、図4のように回生駆動信号は1周期Δ時間のパルス信号の繰り返しとなる。
【0020】
荷重を判別する方法は、巻上用装置5の個体差や電源の電圧変動に影響を受け、ばらつきが発生する電流により荷重を判断させず、巻上用装置5の個体差や電源の電圧変動の影響を受けず、ばらつきが発生しない回生駆動信号すなわち回生抵抗26の通電率によって荷重を判断させる。ここで、巻上減速時は回生エネルギーの発生が微小なので無視することができる。
【0021】
回生抵抗26の通電率により荷重を判断するメカニズムを以下に説明する。図3のように質量M[kg]がh[m]巻下げ方向(鉛直方向)に移動すると、下記式の位置エネルギーが回生される。
【数1】

【0022】
生じた回生エネルギーE[J]は機械損を含む巻上誘導電動機4の効率損E[J]、駆動素子部23の熱損E[J]、回生抵抗26による熱消費E[J]、整流コンデンサ22の抵抗成分の熱損E[J]で消費されるので次式が得られる。
【数2】

【0023】
機械損を含む巻上誘導電動機4の効率損EM[J]は、次式で求めることができる。
【数3】

【0024】
駆動素子部23の熱損E[J]は、次式で求められる。
【数4】

【0025】
回生抵抗26による熱消費E[J]は、図2の1周期Δ当たりの消費電力をPΔとして、次式で求められる。
【数5】

【0026】
整流コンデンサ22の抵抗成分の熱損E[J]は、次式で求めることができるが微少なので、計算上は無視する。
【数6】

【0027】
(数2)に(数1)、(数5)を代入し、また(数2)のEは微小なので0として、次式のように質量Mで展開する。
【数7】

【0028】
すると、次式を得ることができる。
【数8】

【0029】
(数8)のP、P、RBR、VBR、gはあらかじめ事前に値を得られる。また、VRH、Dは巻上・横行インバータ制御部21にて読み取れるので、質量Mすなわち荷重を判断することができる。例えば、g=9.80[m/s]、VRH=0.1[m/s]、VBR=700[V]、RBR=20[Ω]、D=40[%]、P=4700[W]、P=300[W]の時の荷重は15.1[t]と判断できる。
【0030】
以上により、巻上用装置5の個体差や電源の電圧変動に影響を受けず、精度の良い荷重情報を得ることができる。
【0031】
また、特別な装置を用いることがないので、コストの低減を図れる。
【0032】
さらに、荷重だけではなく、例えば巻上誘導電動機の効率損P以外のデータが事前に存在すれば、回生抵抗通電率Dと巻下げ速度VRHを測定することで、巻上誘導電動機の効率損Pを測定できる。
【符号の説明】
【0033】
1…インバータ式クレーン装置、2…クレーンフック、3…ワイヤーロープ、4…巻上誘導電動機、5…巻上用装置、6…横行誘導電動機、7…横行用装置、8…横行用ガーダー、9…走行誘導電動機、10…走行用装置、11…走行用ガーダー、12…巻上・横行用インバータ装置、13…巻上・横行インバータ制御部、14…入力装置、15…巻上用インバータ、16…横行用インバータ、17…誘導電動機用ブレーキ、18…走行用インバータ装置、19…走行インバータ制御部、20…走行用インバータ、21…整流部、22…整流コンデンサ、23…駆動素子部、24…回生エネルギー処理部、25…回生駆動スイッチ、26…回生抵抗、27…電圧モニタ部、28…ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ制御部と、
前記インバータ制御部に制御される巻上用インバータ部と、
前記巻上用インバータ部によって駆動させられるクレーンフックの取り付けられたワイヤーロープの巻上動作及び巻下動作を行う巻上誘導電動機と、
が備えられた巻上機であって、
前記巻上用インバータ部には、
周波数変換を行なう駆動素子部と、
回生駆動スイッチと、
回生抵抗と、
直流母線間電圧VDCを検知する電圧モニタ部と、
が備えられ、
前記インバータ制御部は、前記回生抵抗の通電率に応じて荷重を算出することを特徴とする巻上機。
【請求項2】
前記インバータ制御部は、前記電圧モニタ部が検出した前記直流母線間電圧VDCが所定値以上になった場合に、前記回生駆動スイッチを駆動させて前記回生抵抗に通電させることを特徴とする請求項1に記載の巻上機。
【請求項3】
巻上及び巻下動作を行なう為の、誘導電動機とワイヤーロープを備えた巻上機において、
巻上る負荷の荷重を回生エネルギーに基づいて算出する手段を備えることを特徴とする巻上機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−105471(P2011−105471A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263473(P2009−263473)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】