説明

布帛表面仕上法と有毛布帛

【課題】大きい溶融塊を発生させることなく、布帛表面にレーザー光線を照射し、布帛表面に露出している繊維の露出部分を加熱溶融して布帛表面を平滑にし、或いは布帛表面の色調を変え、或いは表面に図柄を描出し、製造コストを割高にすることなく布帛表面を仕上げる。
【解決手段】レーザー光線発振装置から発射されて直進するレーザー光線11を揺動回転駆動される第一鏡面13において反射し、その反射されたレーザー光線を、揺動回転駆動され、その回転中心軸18の長さ方向が第一鏡面の回転中心軸16の長さ方向と90度異なる第二鏡面14において再び反射して布帛表面15に照射することとし、それら第一鏡面13と第二鏡面14を揺動して鏡面(13,14)でのレーザー光線11の反射角度を変えて布帛表面15の所要箇所へのレーザー光線11の照射位置21を合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛表面に露出している繊維の露出部分を加熱溶融して布帛表面を平滑にし、或いは布帛表面の色調を変え、或いは表面に図柄を描出する布帛表面仕上法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性繊維に成る立毛面を部分的に加圧して超音波振動を与え、熱可塑性繊維に成る立毛繊維を加熱溶融して立毛面に凹凸図柄を描出することは公知である(例えば、特許文献1と特許文献2参照)。
熱可塑性繊維に成る立毛面に感光発熱物質を印捺して近赤外線を照射し、その熱可塑性繊維に成る立毛繊維を感光発熱物質を介して加熱溶融し、もって立毛面に凹凸図柄を描出することは公知である(例えば、特許文献3と特許文献4と特許文献5参照)。
熱可塑性繊維に成る立毛布帛にレーザー光線を部分的に照射し、部分的にパイルを加熱溶融して凹部を形成し、もって立毛面に凹凸図柄を描出することは公知である(例えば、特許文献6と特許文献7と特許文献8参照)。
【0003】
【特許文献1】特公平04−001114号公報(特開昭60−162880)
【特許文献2】特公平03−025544号公報(特開昭62−104964)
【特許文献3】特公平05−071697号公報(特開昭63−309666)
【特許文献4】特開2002−371478号公報
【特許文献5】特開2002−201563号公報
【特許文献6】特開昭59−137564号公報
【特許文献7】実公平03−018552号公報(実開平2−57993)
【特許文献8】特公昭63−025108号公報(特開昭58−174676)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、加熱溶融に伴って熱可塑性繊維が熱収縮して生じる凹部と、加熱されない熱可塑性繊維の非加熱部分が相対的に構成することになる凸部との間の凹凸差によって布帛表面に図柄を描出しようとするものであり、その凹部には熱可塑性繊維が加熱溶融して固化した溶融塊が生じ、その溶融塊によって布帛表面の風合いが粗硬になる。
勿論、布帛表面にブラッシング処理を施し、或いは、布帛全体に振動を与えて揉み解すリラックス処理を施して、その溶融塊を細分する方法もある。
しかし、そのような図柄描出後に仕上処理を行えば、その分だけ布帛の製造コストが高くなり、又、布帛表面が不規則に毛羽立って疲労したかの観を呈し、それを修復するために布帛表面に整毛処理を施せば製造コストが更に高くなる。
【0005】
そこで本発明は、大きい溶融塊を発生させることなく、布帛表面にレーザー光線を照射し、布帛表面に露出している繊維の露出部分を加熱溶融して布帛表面を平坦にし、或いは布帛表面の色調を変え、或いは表面に図柄を描出し、製造コストを割高にすることなく布帛表面を仕上げることを目的とする。
【0006】
即ち、超音波振動による従来技術(特許文献1と2)では、超音波振動を熱可塑性繊維に伝える装置(ホーン)を布帛表面に圧着せざるを得ず、又、近赤外線による従来技術(特許文献3と4)では印捺糊剤によって熱可塑性繊維間が仮接合状態にあり、而も、感光発熱物質が熱可塑性繊維に直接触れているので溶融塊の大きさを制禦することは出来ないが、レーザー光線による従来技術(特許文献5と6と7)では、熱可塑性繊維の加熱手段が質量のない電磁波であって繊維間の接触を強制するものではなく、その照射箇所に揮発(蒸発)性の放熱手段を施すときは、それによって加熱温度が極く限られた細部において制禦され、その放熱手段が繊維間を分離状態に維持する剥離剤としても機能し、溶融塊が細分されるとの知見を得て本発明が完成された。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明に係る布帛表面仕上法は、熱可塑性繊維の露出している布帛表面に液体を付着させ、その液体の付着している布帛表面にレーザー光線を照射して熱可塑性繊維の表面露出部分を加熱溶融させることを第1の特徴とする。
【0008】
本発明に係る布帛表面仕上法の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、液体を布帛表面に部分的に付着させる点にある。
【0009】
本発明に係る布帛表面仕上法の第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、レーザー光線を液体の付着している布帛表面に部分的に照射して布帛表面に露出している一部の熱可塑性繊維の表面露出部分を加熱溶融させ、その加熱溶融の有無によって布帛表面に図柄を描出する点にある。
【0010】
本発明に係る布帛表面仕上法の第4の特徴は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴に加えて、液体を、その液体に対して溶解性、分散性、または、吸着性を示す親水性物質との混合組成物に調製して、布帛表面に付着させる点にある。
【0011】
本発明に係る布帛表面仕上法の第5の特徴は、上記第1、第2、第3および第4の何れかの特徴に加えて、熱可塑性繊維が、その横断面の輪郭に凹凸、または、その横断面の内部に空洞を有する異形断面繊維である点にある。
【0012】
本発明に係る布帛表面仕上法の第6の特徴は、上記第1、第2、第3、第4および第5の何れかの特徴に加えて、熱可塑性繊維が、染料と顔料と艶消剤の何れかを有する点にある。
【0013】
本発明に係る布帛表面仕上法の第7の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5および第6の何れかの特徴に加えて、布帛が、起毛毛羽層と基布層から成る起毛二層構造布帛、パイル層と基布層から成るパイル二層構造布帛、表糸と裏糸が表裏に織編分けられている二層構造布帛、表布と裏布を連結糸によって連結されて一体化している立体二層構造布帛の何れかの二層構造布帛である点にある。
【0014】
本発明に係る布帛表面仕上法の第8の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5、第6および第7の何れかの特徴に加えて、レーザー光線発振装置から発射されて直進するレーザー光線を揺動回転駆動される第一鏡面において反射し、その反射されたレーザー光線を、揺動回転駆動され、その回転中心軸の長さ方向が第一鏡面の回転中心軸の長さ方向と90度異なる第二鏡面において再び反射して布帛表面に照射することとし、それら第一鏡面と第二鏡面を揺動して鏡面でのレーザー光線の反射角度を変えて布帛表面の所要箇所へのレーザー光線の照射位置を合わせる点にある。
【0015】
本発明に係る有毛布帛は、静電植毛布帛、フエルト、起毛布帛、シェニール織物、モケット、別珍、コール天等の織パイル布帛、トリコットやダブルラッシェル等の編パイル布帛等の表面立毛層と裏面基布層との二層構造を成す有毛布帛の有毛パイル面において、毛羽パイル繊維が溶融して顆粒状の溶融塊を形成しており、その毛羽パイル繊維が溶融して窪んだ凹部が刻設されており、その毛羽パイル繊維が溶融して固化した顆粒状の溶融塊が凹部の底部よりも凹部の壁面に多く点在しており、その顆粒状の溶融塊の最大寸法が300μm以下であることを第1の特徴とする。
【0016】
本発明に係る有毛布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、凹部が長く連続して溝幅0.7mm以下の溝を形成しており、顆粒状の溶融塊が溝底よりも溝壁面に多く点在している点にある。
【発明の効果】
【0017】
液体が付着して湿潤状態にある布帛表面では、その液体が繊維の表面に薄い皮膜を形成しており、レーザー光線を受けて溶融する熱可塑性繊維の布帛表面露出部分が形成する溶融塊に触れて揮発(蒸発)するとき、その気化熱を奪って溶融塊の肥大化を妨げると共に、液体が繊維ポリマーとは異質の物質なので隣合う繊維の溶融塊と溶融塊の間に剥離剤の如く介在して、溶融塊同士が触れ合って肥大化するのを妨げる。
このため、レーザー光線の照射箇所では布帛表面露出繊維が大きい溶融塊を形成することなく加熱溶融し、布帛表面に外観上の変化を齎す。
【0018】
液体を繊維に馴染み易くし、繊維表面に液体による皮膜が形成され易くするために、液体を、その液体に対して溶解性、分散性、または、吸着性を示す親水性物質との混合組成物に調製して、液体に粘着性を付与するとよい。
【0019】
その外観上の変化は、次のように布帛表面に顕現する。
(1) 液体を布帛全面に付着し、この布帛表面全体にレーザー光線を照射するときは、表面露出繊維の形状の変化に伴って光の反射具合が変化し、光沢や色調濃淡の変化となって顕現し、布帛表面毛羽が抑えられて布帛表面が平滑に仕上がる。
(2) 液体を布帛表面に部分的に付着し、その付着箇所にレーザー光線を照射するとき、或いは、液体を布帛表面の全面に付着させてレーザー光線を部分的に照射するときは、表面露出繊維の加熱溶融の有無によって布帛表面に図柄が描出される。
【0020】
熱可塑性繊維が、その横断面の輪郭に凹凸、または、その横断面の内部に空洞を有する異形断面繊維では、その横断面に凹部や空洞となって現れる部分を溶融物が充填して表面積の少ない球形の溶融塊を形成することになるが、その溶融塊は溶融物が凹部や空洞を充填した分だけ形が小さくなり、手触りを感じさせず、表面に凹凸や空洞のある形状から表面に凹凸や空洞のない球形溶融塊へと繊維が変形して光沢が変化するので、布帛の外観を大きく変化させることが出来る。
【0021】
熱可塑性繊維が、染料、顔料、艶消剤、その他の繊維ポリマーとは異質の異質物質を有するものでは、それらが球形を成していて光の乱反射の少ない溶融塊の表面に現れるので、加熱溶融箇所が濃色になり、レーザー光線を局部的に照射するとき顕現する図柄が鮮明になる。
【0022】
布帛が、起毛毛羽層と基布層から成る起毛二層構造布帛、パイル層と基布層から成るパイル二層構造布帛、表糸と裏糸が表裏に織編分けられている二層構造布帛、表布と裏布を連結糸によって連結されて一体化している立体二層構造布帛等の二層構造布帛である場合は、その上層を構成する毛羽やパイル、表糸、或いは表布の熱可塑性繊維が大きく加熱溶融しても、下層を構成している基布や裏糸、或いは裏布によって布帛の物性強度を保つことが出来るので、その上層の熱可塑性繊維を大きく加熱溶融させて凹凸差の大きい凹部による立体的凹凸図柄を布帛表面に描出することが出来る。
【0023】
本発明によると、表面露出繊維の加熱溶融して形成される凹部において、燈したローソクから水面に垂れ落ちる蝋が水に触れて固まるように、熱可塑性繊維の溶融物が、熱可塑性繊維に付着している液体に触れ顆粒状に固まって凹部の壁面に固着し、その凹部の中央部に介在し難くなる。
このため、レーザー光線は、その凹部の中央部(底部)に介在する溶融物に遮られるようなことはなく、布帛内部に奥深く入り込み、裏面に達する程度に深い凹部を形成することが出来る。
従って、静電植毛布帛、フエルト、起毛布帛、シェニール織物、モケット、別珍、コール天等の織パイル布帛、トリコットやダブルラッシェル等の編パイル布帛等の表面立毛層と裏面基布層との二層構造を成す有毛布帛に本発明を適用し、有毛パイル面に溝が刻設する場合、その溝の向き合う溝壁面が溝底に向けて傾斜した恰好になり、その溝が概してV字形断面を成し、その溝壁面に毛羽パイル繊維が溶融した最大寸法300μm以下の顆粒状の溶融塊が点在するように有毛パイル面に溝を刻設することが出来る。
そして、そのように最大寸法300μm以下の顆粒状の溶融塊は、指先で触っても硬い異物に触れたかの如き感触を与えることはないので、立体的凹凸図柄の描出された肌触りのよい有毛布帛を得ることが出来る。
【0024】
レーザー光線を照射して貫通孔や切り込みを布帛に付けることが出来、その貫通孔や切り込みの周縁に熱可塑性繊維の溶融物が固着することになるが、本発明によると、その熱可塑性繊維の溶融物が最大寸法300μm以下の細かい顆粒状の溶融塊となるので、その貫通孔や切り込みの周縁に硬い異物(溶融物)が固着していると感じられる異物感はなく、又、貫通孔や切り込みの周縁の熱可塑性繊維が細かい顆粒状の溶融塊となって固着しているので、その貫通孔や切り込みの周縁から布帛が解れ出すようなことも起こらない。
【0025】
本発明では、レーザー光線発振装置から発射されて直進するレーザー光線を第一鏡面において反射し、その反射されたレーザー光線を第二鏡面において再び反射して布帛表面に照射することとし、それら第一鏡面と第二鏡面を揺動して鏡面でのレーザー光線の反射角度を変えて布帛表面の所要箇所へのレーザー光線の照射位置を合わせることとし、そのレーザー光線の照射位置を合わせるために発振装置や鏡面の位置を移動させないので、布帛表面の所要箇所に所要熱量のレーザー光線を正確に照射し、柄ズレを起こすことなく、所要の位置にレーザー光線によって図柄を正確に描出することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、レーザー光線発振装置を図示し、レーザー光線11は、レーザー発振装置から発射され、焦点補正レンズ12を通って第一鏡面13へと直進し、第一鏡面13と第二鏡面14で反射して布帛表面15に照射される。第一鏡面13の回転中心16は、第一鏡面13の表面に設定され、その第一鏡面の回転中心線上(16)にレーザー光線11が照射される。従って、第一鏡面13が揺動回転しても、第一鏡面上での照射位置17が変わることはない。
第二鏡面の回転中心18は、第二鏡面14の表面であり、且つ、第一鏡面13でのレーザー光線の反射光19が照射される位置に設定されている。
【0027】
第一鏡面の回転中心軸16と第二鏡面の回転中心軸18とは、90度方向を異にするので、レーザー光線の第一鏡面での反射角度が、第一鏡面の揺動回転角度αに応じて変化しても、その第一鏡面でのレーザー光線の反射光19a・19b・19c・19dは常に、第二鏡面の回転中心軸線上18において再反射され、その再反射光20a・20b・20c・20dの布帛表面15での照射位置21a・21b・21cは、第一鏡面の揺動回転角度αの変化に伴って第二鏡面の回転中心軸18に平行する直線Xの上で移動する。
一方、第二鏡面14が揺動回転するとき、第二鏡面での再反射光20a・20a’・20b’は、その回転角度βに応じて方向を変え、布帛表面15での照射位置21a・21a’・21b’は、第一鏡面の回転中心軸16に平行な直線Yの上で移動する。
【0028】
このため、第一鏡面13と第二鏡面14を揺動回転駆動すると、それらの回転角度(α・β)に応じて、布帛表面15でのレーザー光線の照射位置21を自由に移動することが出来る。
このように布帛表面での照射位置21が移動すると、焦点補正レンズ12から照射位置21に到るレーザー光線11の経路の全長が変化する。
22は、第一鏡面13の回転角度αの変位量Δαと第二鏡面14の回転角度βの変位量Δβによって、その変化する焦点補正レンズ12から照射位置21(21a・21a’・21b’・21b・21c………)に到るレーザー光線11の経路の全長を算出する距離演算素子であり、その距離演算素子22からの算出情報を受けて焦点補正レンズ12が作動し、レーザー光線の焦点が布帛表面の所要の照射位置21に合わされる。
【0029】
液体は、その付着箇所での液体のピックアップ率が70〜170%、概して110〜140%になるように布帛に付与する。
布帛表面に付着する液体としては水が推奨される。
その水に配合する溶解性を示す親水性物質としては、ポリリン酸アンモニウム、スルフアミン酸アンモニウム、スルフアミン酸グアニジン等の難燃効果を発揮する物質、および、デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチールセルロースナトリウム塩(CMC)等の糊剤が好適に使用される。
水に配合する分散性を示す親水性物質としては、界面活性剤を含むラテックスやエマルジョン樹脂が使用される。
水に配合する吸着性を示す親水性物質としては、ベントナイト、カオリン、クレー等の粘土質鉱物が使用される。
これらの親水性物質の、水への配合量は、それによって水が粘性を僅かに帯びる程度に極く僅かであってよい。
しかし、布帛に付与する液体として水を適用する場合、その水を親水性物質との混合組成物として適用しなければならないと言うことを意味するものではなく、寧ろ、親水性物質との混合組成物としてではなく、水だけを液体として布帛に適用することが望ましい。それは、本発明の実施後に親水性物質を排除する後処理の手間を省くためでもある。
親水性物質を適用して液体の粘度を調整することは、液体を布帛表面に部分的に付着させる場合に有効である。
【0030】
液体を布帛表面に部分的に付着させるためには、捺染糊の印捺に使用される捺染スクリーン、グラビアロール、スプレー等を使用すればよい。
その場合、捺染スクリーン、グラビアロール、スプレー等によって、液体の付着量を部分的に変え、或いは、液体の付着量をなだらかに変え、そうすることによってレーザー光線による熱可塑性繊維の溶融の程度を部分的に変え、或いは、なだらかに変化させ、例えば、熱可塑性繊維が溶融して生じる溝の深さを変えたりなだらかに変化させて、凹凸や起伏が変化した図柄を布帛に描出することも可能になる。
【0031】
布帛が、静電植毛布帛、フエルト、起毛布帛、シェニール織物、モケット、別珍、コール天等の織パイル布帛、トリコットやダブルラッシェル等の編パイル布帛等の表面立毛層と裏面基布層との二層構造を成す有毛布帛では、起毛毛羽やパイルによる立毛層の厚みを0.5〜2.5mmにし、レーザー光線の照射時に基布の含有する水分が立毛繊維の先端に移行し易くするとよい。
【0032】
表面露出繊維の繊度は5dtex以下、好ましくは2dtex以下にする。
熱可塑性繊維としては、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維等が使用される。
布帛表面には、これらの熱可塑性繊維の他に、レーヨン、綿、絹等の非熱可塑性繊維が混在していてもよいが、その場合、非熱可塑性繊維の混用率は30質量%以下にする。
【0033】
起毛布帛やパイル布帛等の有毛布帛は、起毛毛羽やパイルがストライプ状乃至縞状に、或いは市松模様に布帛表面に形成されているものでもよい。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
4枚筬のトリコット経編機において、84dtex/72Fのポリエステルマルチフィラメント加工糸を第1パイル糸としてフロント筬Lfに通し、45dtex/24Fのポリエステルマルチフィラメント加工糸を第2パイル糸として第2ミドル筬Lm2に通し、55dtex/24Fのポリエステルマルチフィラメント糸を地糸として第1ミドル筬Lm1に通し、55dtex/24Fのポリエステルマルチフィラメント糸を地糸としてバック筬Lbに通し、フロント筬Lfを10/45/10/45/………と操作し、第2ミドル筬Lm2を10/45/10/45/………と操作し、第1ミドル筬Lm1を10/12/10/12/………と操作し、バック筬Lbを23/10/23/10/………と操作し、ウェール方向の編密度28本/25.4mm(inch)、コース方向の編密度74本/25.4mm(inch)のトリコット経編パイル布帛を編成し、起毛工程に通して第1パイル糸Pfと第2パイル糸Pmの構成するシンカーループを起毛し、染色工程に通してトリコット経編パイル布帛を仕上げる。
次いで、トリコット経編パイル布帛を水に浸漬し、ピックアップ率を130%としてマングルによって絞液し、ピンテンターで拡布しつつエンドレスベルトの載せ、CO2 レーザー照射装置(coherent社製G−100、出力条件5〜80W、ビーム径0.5mm、ビームスポット移動速度80〜500mm/秒、発振周波数1kHz、焦点距離760mm)から発射されて直進するレーザー光線を第一鏡面において反射し、その反射されたレーザー光線を第二鏡面において再び反射し、第一鏡面と第二鏡面を揺動して布帛表面にレーザー光線を格子状に照射し、パイル繊維の先端部分を加熱溶融させて、その加熱溶融部分が概して幅0.3mmの直線となって続く格子模様の描出されたトリコット経編パイル布帛を得た。
【0035】
[実施例2]
モケット織機において、ポリエステル繊維65%とレーヨン35%との混紡20番手双糸を地経糸とし、ポリエステル繊維85%とレーヨン15%との混紡30番手双糸を地経糸とし、撚数180回/mの加撚された187dtex/168Fのポリエステルマルチフィラメント加工糸をパイル糸として織成された経糸密度142本/10cm、緯糸密度215本/10cm、パイル目付333g/m2 、パイル長2.4mmのモケットを、実施例1と同様に、水に浸漬し、ピックアップ率を130%としてマングルによって絞液し、ピンテンターで拡布しつつエンドレスベルトに載せ、CO2 レーザー照射装置(米国所在のコヒーレント社製G−100、出力条件5〜80W、ビーム径0.5mm、ビームスポット移動速度80〜500mm/秒、発振周波数1kHz、焦点距離760mm)から発射されて直進するレーザー光線を第一鏡面において反射し、その反射されたレーザー光線を第二鏡面において再び反射し、第一鏡面と第二鏡面を揺動して布帛表面にレーザー光線を格子状に照射し、パイル繊維の先端部分を加熱溶融させて、その加熱溶融部分が概して幅0.3mmの直線となって続く格子模様の描出されたトリコット経編パイル布帛を得た。
【0036】
[比較例]
実施例2において織成したモケットを、水に浸漬することなく、実施例2と同様にレーザー光線を格子状に照射して格子模様の描出されたトリコット経編パイル布帛を得た。
【0037】
[効果の確認]
実施例2と比較例において得られたモケットのレーザー光線照射箇所の断面をデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、デジタルHFマイクロスコープVh−8000)で調べ、その照射箇所を観察をした。
【0038】
実施例2のモケット23aの照射箇所は、図2に示すように、モケットの地組織28に達する程度に深い2000μm(2mm)前後の深さの概してV字形断面の溝25aを形成している。
そのパイル繊維の溶融塊26aは、図2に円で囲んで拡大して図示するように、そのV字形断面の溝25aの傾斜した溝壁面19に最大寸法200μm以下の顆粒状溶融物となって固着しており、その顆粒状溶融物は、パイル毎に纏まっており、溝25aの深さ方向(パイルの長さ方向)に細かく点在し、レーザー光線の走査方向に帯状にも線状にも連続しているとは認められなかった。
その溝25aの部分を指先で触ると、硬い異物に触れたかの如き感触は感じられなかった。
【0039】
比較例のモケット23bの照射箇所は、図3に示すように、パイル繊維24が溶融してパイル面30の下に沈み、パイル繊維の溶融塊26bが底部に溜まって概して平板な断面形状の溝底面27を形成し、深さが400μm(0.4mm)前後の概してコ字形断面の溝25bを形成している。
そのパイル繊維の溶融塊26bは、図3に円で囲んで拡大して図示するように、レーザー光線の走査方向に50μm(0.05mm)前後の隙間を間におき、平板な断面形状を成す長さが1000μm(1.00mm)前後の帯状溶融物となり、レーザー光線のビーム径(0.5mm)に応じた幅の溝底面27を形成し、レーザー光線の走査方向に線状に連続している。
その溝25bの部分を指先で触ると、硬い線状の異物に触れたような確かな感触が感じられた。
【0040】
本発明の実施例と比較例における溝25a・25bの形態の差異について考察するに、燈したローソクから水面に垂れ落ちる蝋が水に触れて固まるように、実施例におけるパイル繊維24の溶融物(26a)は、パイル繊維に付着している液体に触れ、顆粒状に固まって左右向き合う溝壁面29a、29bに分かれて固着し、そのように溶融物が向き合う左右の溝壁面29a、29bへと分離し、その左右の溝壁面29a、29bの間の部分に介在しないので、レーザー光線が溶融物(26a)に遮られることなくパイル層31に奥深く入り込み、その結果、地組織28に達する程度の深いV字形溝25aが形成されるものと考えられる。
一方、比較例では、パイル繊維の溶融物(26b)が、パイル繊維24によって格別冷却されることはなく、パイル面に垂れ落ちた蝋が平板な形状を成して固着するように、パイル面30に断面が概して平板な帯状を成して固着し、それがレーザー光線を遮るので、レーザー光線がパイル層31に奥深く入り込まず、溝底27bが平板な浅いコ字形溝25bが形成されるものと考えられる。
尚、図2と図3に円で囲んで拡大して図示する溝壁面は、それぞれ実施例2と比較例のモケットの溝壁面の顕微鏡写真を模写したものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施に使用のレーザー光線発振装置の要部拡大斜視図である。
【図2】本発明実施例の布帛のレーザー光線照射箇所の断面斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【図3】比較例の布帛のレーザー光線照射箇所の断面斜視図であり、一部を円で囲んで拡大して図示している。
【符号の説明】
【0042】
11:レーザー光線
12:焦点補正レンズ
13:第一鏡面
14:第二鏡面
15:布帛表面
16:回転中心(軸)
17:照射位置
18:回転中心(軸)
19:反射光
20:再反射光
21:照射位置
22:距離演算素子
23:モケット
24:パイル繊維
25:溝
26:溶融塊
27:溝底
28:地組織
29:溝壁面
30:パイル面
31:パイル層
X・Y:直線
α・β:回転角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性繊維の露出している布帛表面に液体を付着させ、その液体の付着している布帛表面にレーザー光線を照射して熱可塑性繊維の表面露出部分を加熱溶融させる布帛表面仕上法。
【請求項2】
液体を布帛表面に部分的に付着させる前掲請求項1に記載の布帛表面仕上法。
【請求項3】
レーザー光線を液体の付着している布帛表面に部分的に照射して布帛表面に露出している一部の熱可塑性繊維の表面露出部分を加熱溶融させ、その加熱溶融の有無によって布帛表面に図柄を描出する前掲請求項1と2の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項4】
液体を、その液体に対して溶解性、分散性、または、吸着性を示す親水性物質との混合組成物に調製して、布帛表面に付着させる前掲請求項1と2と3の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項5】
熱可塑性繊維が、その横断面の輪郭に凹凸、または、その横断面の内部に空洞を有する異形断面繊維である前掲請求項1と2と3と4の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項6】
熱可塑性繊維が、染料と顔料と艶消剤の何れかを有する前掲請求項1と2と3と4と5の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項7】
布帛が、起毛毛羽層と基布層から成る起毛二層構造布帛、パイル層と基布層から成るパイル二層構造布帛、表糸と裏糸が表裏に織編分けられている二層構造布帛、表布と裏布を連結糸によって連結されて一体化している立体二層構造布帛の何れかの二層構造布帛である前掲請求項1と2と3と4と5と6の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項8】
レーザー光線発振装置から発射されて直進するレーザー光線を揺動回転駆動される第一鏡面において反射し、その反射されたレーザー光線を、揺動回転駆動され、その回転中心軸の長さ方向が第一鏡面の回転中心軸の長さ方向と90度異なる第二鏡面において再び反射して布帛表面に照射することとし、それら第一鏡面と第二鏡面を揺動して鏡面でのレーザー光線の反射角度を変えて布帛表面の所要箇所へのレーザー光線の照射位置を合わせる前掲請求項1と2と3と4と5と6と7の何れかに記載の布帛表面仕上法。
【請求項9】
毛羽パイル繊維が溶融して顆粒状の溶融塊を形成しており、その毛羽パイル繊維が溶融して窪んだ凹部が有毛パイル面に刻設されており、その毛羽パイル繊維が溶融して固化した顆粒状の溶融塊が凹部の底部よりも凹部の壁面に多く点在しており、その顆粒状の溶融塊の最大寸法が300μm以下である有毛布帛。
【請求項10】
凹部が長く連続して溝幅0.7mm以下の溝を形成しており、顆粒状の溶融塊が溝底よりも溝壁面に多く点在している前掲請求項9に記載の有毛布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−100257(P2007−100257A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293301(P2005−293301)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物セルコン (104)
【Fターム(参考)】