説明

布材

【課題】布材に設けられる導電線材の本数を増やしてセンサ能力を高めても、ヒータ能力の低下を抑えられるようにする。
【解決手段】通電により発熱可能な複数本の導電線材を備え、各導電線材が切替手段20によりヒータとして機能するヒータモードと、乗員の着座を検出する検出用電極として機能するセンサモードと、に切り替え可能となっている布材10である。上記複数本の導電線材は、布材10の特定の面方向に並んで互いに並列回路を構成するように電気的に接続されており、通電によりヒータとして機能可能な所定の抵抗値を備える第1の導電線材11に、第1の導電線材11よりも抵抗値の高い第2の導電線材12を並列に追加して設けて電気的に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布材に関する。詳しくは、通電により発熱可能な複数本の導電線材を備え、各導電線材に繋がれた切替手段により、各導電線材が発熱してヒータとして機能するヒータモードと、乗員の着座を検出する検出用電極として機能するセンサモードと、に切り替え可能となっている布材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートのシート内に通電により発熱可能なシートヒータが設けられたものが知られている(特許文献1参照)。このシートヒータは、ヒータ機能を果たす導電線材が、スイッチの切り替えにより、乗員の着座を検知する電極(センサ)としても機能するように構成されている。また、特許文献2には、上記のようなヒータ機能を果たす導電線材が、布材の内部に複数本織り込まれて設けられた構成が開示されている。具体的には、各導電線材は、布材の内部に特定の面内方向に並んで設けられており、互いに並列回路を構成するように電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−24087号公報
【特許文献2】特開2007−227384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献2に記載の布材を特許文献1に記載の車両用シートの着座面を構成する表皮材として適用する構成を考えた場合、導電線材の本数を増やして着座検知の精度を高めるようにすると、ヒータとして使用する際に全体の電流量が不必要に増大し、消費電力の無駄を招くこととなる。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、布材に設けられる導電線材の本数を増やしてセンサとして使用する際の検出精度を高めても、ヒータとして使用する際の消費電力を極力抑えられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明は、通電により発熱可能な複数本の導電線材を備え、各導電線材に繋がれた切替手段により、各導電線材が発熱してヒータとして機能するヒータモードと、乗員の着座を検出する検出用電極として機能するセンサモードと、に切り替え可能となっている布材である。複数本の導電線材は、布材の特定の面方向に並んで設けられて、互いに並列回路を構成するように電気的に接続されている。通電によりヒータとして機能可能な所定の抵抗値を備える第1の導電線材に、第1の導電線材よりも抵抗値の高い第2の導電線材を並列に追加して設けて電気的に接続した。
【0006】
この第1の発明によれば、第1の導電線材に第2の導電線材を追加することで、布材に配設される導電線材の本数が増やされて、各導電線材が乗員の着座を検出する検出用電極として機能する際の検出精度が高められる。上記第2の導電線材は、第1の導電線材よりも抵抗値が高いため、第1の導電線材に対して並列回路を構成するように電気的に接続されることにより、第2の導電線材には電流が流れにくいことから、第1の導電線材を追加する構成と比べて、消費電力を小さく抑えることができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、所定の抵抗値を備える第1の導電線材が、布材の特定の面方向に所定間隔を空けて複数本設けられ、これら所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材の間に、抵抗値の高い第2の導電線材が設けられた配置となっているものである。
【0008】
この第2の発明によれば、所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材の間に第2の導電線材を設ける構成とすることで、上記所定間隔を広げても、この所定間隔内で着座の検出精度を高めることができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第2の発明において、所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材の間に、抵抗値の高い第2の導電線材が複数本設けられた配置となっているものである。
【0010】
この第3の発明によれば、所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材の間に第2の導電線材を複数本設ける構成とすることにより、上記所定間隔を広げても、この所定間隔内で着座の検出精度を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の布材が適用された車両用シートの斜視図である。
【図2】布材の一部透視平面図である。
【図3】通電手段の回路ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の布材10の構成について、図1〜図3を用いて説明する。本実施例の布材10は、図1〜図2に示すように、車両用シート1のシートクッション2の着座面を構成する表皮材として構成されている。この布材10は、その内部に、通電により発熱可能な複数本の導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)が埋設されており、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)を通電させて発熱させることにより、ヒータとして機能させられるようになっている。上記各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)は、図3において後述する切替手段20により、上記発熱によってヒータとして機能するヒータモードと、乗員の着座を検出する検出用電極として機能するセンサモードと、に切り替えられるようになっている。
【0014】
ここで、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)は、図2に示すように、それぞれ、布材10の内部において、シート幅方向LRに向かって真っ直ぐに延びるように配設されており、それぞれ、シート前後方向FRに所定間隔毎に複数本並べられて設けられている。第1の導電線材11は、金属製又は合金製の導電糸を複数本束状に撚り合わせて構成したものであり、互いにシート前後方向FRに所定間隔を空けて複数本並べられて設けられている。
【0015】
これら第1の導電線材11は、通電によりヒータとして機能可能な所定の抵抗値を備えて構成されており、そのシート前後方向FRに空けられる所定間隔は、着座者の尻部や大腿部など身体部位毎にそれぞれ適した温熱感を与えられるように、その広狭の間隔が適宜設定されている。例えば、第1の導電線材11を配設するシート前後方向FRの間隔を狭めることにより、発熱部位がシート前後方向FRに密となって、着座者の身体部位に与える温熱感を高めることができる。また、第1の導電線材11を配設するシート前後方向FRの間隔を広げることにより、発熱部位がシート前後方向FRに疎となって、着座者の身体部位に与える温熱感を低くすることができる。
【0016】
第2の導電線材12は、炭素繊維のフィラメント(導電糸)を複数本束状に撚り合わせて構成したものであり、上記第1の導電線材11の配置間に複数本ずつ(本実施例では2本ずつ)介在するように設けられている。これら第2の導電線材12は、上記のように第1の導電線材11と異なる材料により形成されていることで、第1の導電線材11よりも抵抗値が10倍程度高くなるように設定されており、後述するように、第1の導電線材11と共に並列回路を構成するように電気的に接続されることで、主として第1の導電線材11に電流が多く流されるようになっている。
【0017】
布材10は、ポリエチレンテレフタレート(PET)の仮撚加工糸を織って構成したものである。なお、布材10は、この他にも、各種の絶縁繊維から成る線材によって作製される織物、編物、不織布又は組紐(組物)によって構成したものであってもよい。上記絶縁繊維としては、植物系又は動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維、或いはこれらの混紡繊維から成るものが挙げられる。
【0018】
上記導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)は、布材10を織り込んで作製する際に、布材10の線材が織り込まれる所定間隔毎に打ち込まれることで、布材10の内部に埋設されている。なお、導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)は、布材10の裏面に貼り付けられて設けられるものであってもよい。上記布材10の裏面には、図示しないパッド材及び裏基布が設けられている。布材10は、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)に電気的につなげられた通電手段13によって、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)を通電させて発熱させることによりヒータとして機能するのであるが、本実施例では、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)に繋がれた切替手段20によって、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)を乗員の着座を検出する検出用電極として機能させるように切り替えられるようになっている。
【0019】
以下、上記各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)をヒータモードとセンサモードとに切り替える構成について説明する。ここで、各導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)は、図2に示すように、その両端部(両端部11A,12A)が、布材10の各縁部からそれぞれシート外側に露出した状態とされており、各側の露出した端部11A,12Aに跨るように、導電性の電源ケーブル13Aがそれぞれ電気的に接続された状態となって設けられていると共に、更にこれら接続部に跨るように、導電性を有する帯状の接続テープ13Cが各側の導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)の露出した端部11A,12Aにそれぞれ部分部分に溶着されて電気的に接続された状態となって設けられている。これにより、各側の導電線材(第1の導電線材11,第2の導電線材12)の端部11A,12Aと電源ケーブル13Aとが、接続テープ13Cによって良好に接続された状態となっている。
【0020】
上記電源ケーブル13Aは、図3に示すように、その高電位側の端部が、スイッチ13B1を介して直流電源PSの正極端に接続されており、低電位側の端部が、スイッチ13B2を介して直流電源PSの負極端に接続されている。上記各スイッチ13B1,13B2は、切替手段20によって、電源ケーブル13Aと直流電源PSとの接続を一斉に遮断したり一斉に接続したりするように切り替えられるようになっている。切替手段20は、後述する着座検出ユニット30のマイクロコンピュータのデータサンプリングと同期して、各スイッチ13B1,13B2のオン/オフの切り替えを行うように制御されるようになっている。
【0021】
上記電源ケーブル13Aと直流電源PSとの接続により、図2に示すように、第1の導電線材11と第2の導電線材12とが、互いに並列回路を構成するように電気的に接続されている。これにより、各導電線材(第1の導電線材11と第2の導電線材12)を、比較的低い電圧によって通電させて発熱させられるようになっている。詳しくは、第2の導電線材12は、第1の導電線材11よりも抵抗値が10倍程度高く、電流が流れにくくなっている。したがって、本実施例のように、着座者の尻部や大腿部に適切な温熱感を与えられるように第1の導電線材11を所定間隔を置いて複数本配設したものに対し、第2の導電線材12を更に複数本増設した構成としても、第1の導電線材11を増設する構成と比べて、全体としての電流量が増大しにくく、消費電力に無駄が生じにくくなっている。
【0022】
上記各導電線材(第1の導電線材11と第2の導電線材12)は、図3に示すように、電源ケーブル13Aに繋がれた着座検出ユニット30により、乗員の着座を検出する検出用電極としても機能するようになっている。具体的には、各導電線材(第1の導電線材11と第2の導電線材12)は、切替手段20により各スイッチ13B1,13B2がオフ状態に切り替えられて浮遊電位状態とされることで、乗員の着座によるインピーダンス変化(電位変化)が着座検出ユニット30のマイクロコンピュータによりデータサンプリングされて、着座の有無が判定されるようになっている。
【0023】
着座検出ユニット30は、図示しないコンデンサ、帯域フィルタ、検波・平滑回路、増幅回路、A/Dコンバータ、マイクロコンピュータを有する回路により構成されている。帯域フィルタは、図示しない交流電源が出力する所定周波数値を通過させる共振フィルタとして構成され、帯域フィルタから抽出された交流電圧成分は、検波・平滑回路で検波、平滑され、増幅回路にて所定の振幅に増大された後、A/Dコンバータでデジタル信号に変換されてマイクロコンピュータに読み込まれる。マイクロコンピュータは、読み込んだ上記デジタル信号の大きさが所定しきい値より小さくなった場合に乗員着座と判定する。なお、上記各導電線材(第1の導電線材11と第2の導電線材12)を検出用電極として、乗員の着座を検出する着座検出ユニット30の構成は、特開2008−24087号公報等の文献に開示された公知のものであるため、その詳細な説明については省略することとする。
【0024】
このように、本実施例の布材10によれば、ヒータとして機能可能な所定の抵抗値を備える第1の導電線材11を、着座者の尻部や大腿部に適切な温熱感を与えられるようにその必要な本数を所定間隔を空けて設け、この所定間隔を空けた間に第2の導電線材12を複数本追加して設けることにより、布材10に配設される導電線材の本数が増やされて、各導電線材が乗員の着座を検出する検出用電極として機能する際の検出精度を高めることができる。また、上記所定本数の第1の導電線材11と、これよりも抵抗値が10倍程度高い第2の導電線材12と、を互いに並列回路を構成するように電気的に接続することにより、第2の導電線材12には電流が流れにくいことから、第1の導電線材11を追加する構成と比べて、消費電力を小さく抑えることができる。したがって、布材10に配設される導電線材の本数を増やしてセンサ精度を高めても、ヒータとして使用する際の消費電力を極力抑えられるようにすることができる。また、所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材11の配置間に第2の導電線材12を複数本(本実施例では2本)設ける構成としたことにより、第1の導電線材11の配置間隔を広げても、この所定間隔内で着座の検出精度を高めることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態を一つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施できるものである。上記実施例では、布材10を車両用シート1のシートクッション2の表皮材として用いたものを例示したが、シートバック3等の着座者が着座時に接触する部位の表皮材を構成するものとして用いてもよい。また、布材に設けられる導電線材は、通電によりヒータとして機能可能な所定本数(1本又は2本以上)の第1の導電線材に、第1の導電線材よりも抵抗値の高い第2の導電線材を少なくとも1本並列に追加して設けた構成となっていればよく、その配される本数は特に限定されない。また、導電線材を配する方向も、布材の特定の面方向に並んで配されていれば良く、例えば、上記実施例において、各導電線材が布材のシート前後方向に延びるように配されていてもよい。また、上記実施例では、第1の導電線材と第2の導電線材とで材質を変えることによって抵抗値の高低をつけたものを例示したが、長さや太さを変えることで抵抗値の高低をつけるようにしてもよい。また、上記実施例では、所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材11の間に第2の導電線材12を配設して電気的に接続した構成を例示したが、第2の導電線材は必ずしも第1の導電線材の間に設けられている必要はなく、第1の導電線材の間から外れた箇所に設けられていても良い。
【符号の説明】
【0026】
1 車両用シート
2 シートクッション
3 シートバック
10 布材
11 第1の導電線材
11A 端部
12 第2の導電線材
12A 端部
13 通電手段
13A 電源ケーブル
13B1,13B2 スイッチ
13C 接続テープ
20 切替手段
30 着座検出ユニット
LR シート幅方向
FR シート前後方向
PS 直流電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱可能な複数本の導電線材を備え、当該各導電線材に繋がれた切替手段により、当該各導電線材が発熱してヒータとして機能するヒータモードと、乗員の着座を検出する検出用電極として機能するセンサモードと、に切り替え可能となっている布材であって、
前記複数本の導電線材は、前記布材の特定の面方向に並んで設けられて互いに並列回路を構成するように電気的に接続されており、通電によりヒータとして機能可能な所定の抵抗値を備える第1の導電線材に、該第1の導電線材よりも抵抗値の高い第2の導電線材を並列に追加して設けて電気的に接続したことを特徴とする布材。
【請求項2】
請求項1に記載の布材であって、
前記所定の抵抗値を備える第1の導電線材が前記布材の特定の面方向に所定間隔を空けて複数本設けられ、当該所定間隔を空けて並ぶ第1の導電線材の間に前記抵抗値の高い第2の導電線材が設けられた配置となっていることを特徴とする布材。
【請求項3】
請求項2に記載の布材であって、
前記所定間隔を空けて並ぶ前記第1の導電線材の間に前記抵抗値の高い第2の導電線材が複数本設けられた配置となっていることを特徴とする布材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−239973(P2011−239973A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115065(P2010−115065)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】