説明

希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法

【課題】還元拡散反応により、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法を提供。
【解決手段】酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、スラリーのpH値が2〜5の範囲に維持されるように1mol/L以下の希酸を添加しつつ希土類酸化物を所定量投入して溶解させ、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を添加してpH>7.0で希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させた原料混合粉末を製造する第一の工程、得られた原料混合粉末を水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、窒化処理する第四の工程、窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法に関し、より詳しくは、湿式混合した原料粉を還元拡散反応し、逆軸の核の発生を抑制すると共に、発熱による粒成長を抑制して、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm−Fe−N磁石で代表される希土類−遷移金属−窒素系磁石は、高性能かつ安価な磁石として知られており、このSm−Fe−N系磁石粉末は、SmFe17であればx=3の組成で構成されることによって最大の飽和磁化を示すとされている(非特許文献1参照)。
この希土類−遷移金属−窒素系磁石は、従来、FeとSm金属を用いて高周波炉、アーク炉などにより希土類―鉄合金を作製する溶解法や、FeあるいはFe、Sm等とCaを混合加熱処理により希土類―鉄合金を作製する還元拡散法によって得られた希土類―鉄母合金を窒化することで製造されている。このようにして得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、保磁力の発生機構がニュークリエーション型であることから、次の工程において平均粒子径が数μmから5μm程度になるまで微粉砕処理される。
【0003】
ここで、溶解法では原料粉末の1500℃以上での溶解、粉砕、組成均一化のための熱処理が必要である(特許文献3参照)。ところが、溶解法は、工程が極めて煩雑であるとともに、各工程間において一旦大気中に曝されるために酸化により不純物が生成し、湿式処理後に窒化を行うが、湿式処理時に表面が酸化しているため窒化が均一に進行できなくなり、磁気特性のうち飽和磁化、保磁力、角形性が低下し、結果として最大エネルギー積が低くなってしまうという問題がある。また、原料として必要とされる希土類金属が非常に高価であるという理由から、安価な希土類酸化物粉末を原料として利用できる還元拡散法に比べてコスト的に不利であると考えられている。
【0004】
一方、還元拡散法では、通常出発原料に数十μmの鉄粉末を用い、希土類金属もしくは希土類酸化物とアルカリ土類金属を混合した後、還元熱処理を行うことで母合金を作製するが、最終的な窒化処理の後で数μmに機械粉砕するため、逆軸の核となり得る破断面の突起や結晶歪みが発生し、磁気特性を低下させるという問題がある。
この問題の解決法として、出発原料となる粉末の粒子径を小さくすることにより、母合金を粉砕せずに磁石粉末を得る方法が提案されているが、例えば特許文献1のように原料粉の混合を乾式で行う場合、粒子径や比重による影響が大きく、混合が不均一になりやすいという問題点がある。
【0005】
また、特許文献2のように湿式による混合方法も提案されているが、均一な混合ができる代わりに希土類酸化物の一部が水中に溶解・再析出し、微細なサブミクロンの希土類水酸化物となり、その後の水素還元熱処理時に希土類鉄複合酸化物が生成して、アルカリ土類金属による還元熱処理を行う際に大きなテルミット発熱を生じて局部的な粒成長を引き起こすことがある。これは、工業用に利用される微細な酸化鉄は、一般に、塩酸によるFeの溶解および苛性ソーダ等での中和による析出・焙焼によって製造されるため、粉末が酸性を示し、水中に酸化鉄と希土類酸化物を分散させると、希土類酸化物は水にもわずかに溶けるがそれ以上に酸に溶けることに起因する。
【0006】
さらに、特許文献3のようにSmとFeの共沈水酸化物を製造する方法も提案されているが、使用する希土類塩が高価であるほか、析出物が水酸化物のため水素還元熱処理時に多くの希土類鉄複合酸化物が生成するため、上述と同じ現象が起こる。
【0007】
上記したように、磁気特性を低下させる逆軸の核の発生や粒成長を引き起こさずに、低コストで優れた磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が製造できる方法の確立が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−310807号公報
【特許文献2】特開2003−297660号公報
【特許文献3】特許3698538号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Iriyama IEEE TRANSAACTIONS ON MAGNETICS,VOL.28,No.5(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、湿式混合した原料粉を還元拡散反応し、逆軸の核の発生を抑制すると共に、局部的な発熱による粒成長を抑制して、安価で高特性の磁石粉末を安定的に生産できる希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、かかる従来の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、希土類−遷移金属−窒素磁石粉末を高性能化するためには、特定な条件で原料粉末を水溶媒および希酸と湿式混合し、この湿式混合時に希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させることにより、還元拡散処理時に希土類鉄複合酸化物が特定量だけ生成することで、局部的な発熱が抑制され、粒成長による粗大粒子が非常に少ない希土類−鉄系母合金を得ることができ、これにより極めて優れた磁気特性が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、磁石原料となる平均粒子径が2μm以下の酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、次に、このスラリーのpH値が2〜5の範囲に維持されるように1mol/L以下の希酸を添加しつつ希土類酸化物を所定量投入して溶解させ、その後、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を添加してpHが7.0を超えるようにすることで希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させた原料混合粉末を製造する第一の工程、得られた原料混合粉末を水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1300℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、第一の工程において、希酸が塩酸、硝酸のいずれかであることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、第一の工程において、第1工程におけるアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が、水中でアルカリ性を示す水酸化物、酸化物、窒化物もしくはこれらの複合化合物であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、第一の工程において、混合粉末の乾燥温度が300℃以下であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、第二の工程において、混合粉末が500〜800℃で、1〜8時間かけて水素熱処理されることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、第三の工程において、アルカリ土類金属の添加量が、第2工程までで還元されていない原料粉末中の酸素量を還元するのに必要な量を1当量としたとき、1.1〜3.0当量であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、第三の工程において、さらに、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま、引き続き300℃以下に冷却することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、第五の工程において、湿式処理及び解砕して得られる粉末は、長軸粒子径が4μmを越える1次粒子が累積個数百分率で5%未満であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、希土類としてSmを含み、その含有量が磁石粉末全体に対して23.2〜23.6重量%であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法によれば、原料粉の混合工程において、水溶媒を用い、磁石原料となる酸化鉄粉末を水中に分散させ、このスラリーのpHが2〜5の範囲に維持されるように特定濃度の希酸を添加しつつ希土類酸化物粉末を所定量投入溶解させ、その後、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を添加してスラリーをアルカリ性とすることで希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させた原料混合粉末を製造するため、この原料混合粉末を元に水素還元によって生成されるSmFeOの存在率を大幅に増やし30重量%以上40重量%以下にすることにより、次工程での還元拡散処理後の発熱の均一化および局所的な粒成長を抑制し、さらに次工程での粉砕強度の低減に依る逆軸の核の発生および結晶歪み防止が可能となる。
さらに次の還元拡散処理工程で、局部的な発熱が抑制され、希土類−鉄系母合金の粗大粒子の発生が抑制され、その結果、粉砕強度の低減に依る逆軸の核の発生および結晶歪み防止が可能となる。
また、次の工程で希土類−鉄母合金を窒化処理・湿式処理するに当たり、還元拡散処理を終了してから窒化処理に入るまでの雰囲気及び温度を制御すれば、粒子表面が酸化されるのを抑制し、窒化効率を低下させないで窒化処理することができるから、高性能な希土類−遷移金属−窒素磁石粉末を製造できる。
また、希土類−鉄系母合金を湿式処理後に窒化するのではなく、窒化処理後に湿式処理するので、非磁性相が低減でき、湿式処理時にオキシ水酸化鉄が主相の周りに付着して窒化時に該オキシ水酸化鉄がα−Feとなって析出することはないので、飽和磁化、保磁力が高まり減磁曲線の角形性が良好な、α−Fe比率が小さい希土類−遷移金属−窒素磁石粉末を得ることができる。これにより製造コストも安価になることから、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法について、詳しく説明する。
【0016】
本発明の製造方法は、磁石原料となる平均粒子径が2μm以下の酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、次に、このスラリーのpH値が2〜5の範囲に維持されるように1mol/L以下の希酸を添加しつつ希土類酸化物を所定量投入して溶解させ、その後、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を添加してpHが7.0を超えるようにすることで希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させた原料混合粉末を製造する第一の工程、得られた原料混合粉末を水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1300℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法からなる。
以下に各工程順に、詳細に説明する。
【0017】
1.第一の工程:原料粉末の調製
まず、磁石原料となる酸化鉄と希土類酸化物の粉末を混合する。
【0018】
磁石原料となる酸化鉄粉末としては、Feのほか、FeOやFeも使用できる。粒子径は、レーザー回折型粒径分布測定による平均粒子径(D50値)で2μm以下であることが必要で、1μm以下がより好ましい。これは、平均粒子径が2μmを超えると後に生成される希土類―鉄母合金がその粒子径以上となるため、大きな粒子ができやすく保磁力が低下するほか、窒化処理の際に粒子内の窒化不足が起きる要因となるためである。
希土類酸化物粉末としては、特に制限されないが、Sm、Gd、Tb、Ceから選ばれる少なくとも1種類の元素が好ましい。Smが含まれるものは、本発明の効果を顕著に発揮させることが可能になるので特に好ましい。Smが含まれる場合、高い保磁力を得るためにはSmを希土類元素全体の60重量%以上、好ましくは90重量%以上にすることが高い保磁力を得るために望ましい。希土類酸化物粉末の粒子径は、固相内拡散がしやすく、不均一な拡散が起こらないように、前記酸化鉄粉末の粒子径より小さいことが好ましい。
【0019】
原料粉末の混合方法としては、以下の手順で行うことができる。まず、ステンレス容器に酸化鉄粉末と純水を投入しスラリー化した後、1mol/L以下の希酸を使用してpHを2〜5の範囲に保持する。ここに希土類酸化物を投入しつつ、pHを2〜5の範囲に保持するように希酸を添加し、投入した希土類酸化物を全てスラリー中に溶解させる。
このとき用いる希酸は、塩酸もしくは硝酸が好ましい。また酸の濃度が1mol/Lを超えたものを使用すると、分散するまでに局所的に高濃度の酸性浴となるため酸化鉄の一部も溶解を起こし、組成比のズレが生じるほか、粒子径や形状を決める酸化鉄が溶けることで粉体性状を大きく変えてしまい形状制御が出来なくなる。
また、pHを2〜5に保持することが好ましいが、これはpHを低くしすぎると中和に多量のアルカリ塩を必要とし、酸化鉄表面に析出し難くなるためであり、pHが高すぎると希土類酸化物が溶解しにくいほか変曲点近くのためpH制御が困難となるためである。次に希土類塩が溶解したスラリー中に再び希土類塩を析出させるため、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を使用し、pHをアルカリ性に移行させ、その後洗浄、掛水、ろ過、乾燥する。
この時使用するアルカリ金属塩は、Li、Na、Kの少なくとも1種以上からなる水酸化物や酸化物、窒化物、またはこれらの複合化合物が安価で好ましい。またアルカリ土類金属についても、Mg、Caの少なくとも1種以上からなる水酸化物や酸化物、窒化物、またはこれらの複合化合物が安価で好ましい。以上の手順で得られた粉末は、酸化鉄粉末の表面に希土類水酸化物が析出した粒子である。
【0020】
その後、湿式混合したスラリーは、真空ろ過やフィルタープレス、遠心分離などのろ過方法でろ過し、乾燥して、第一の工程に係る処理物を得る。
また、乾燥も通常の乾燥方法でよく、例えば定置乾燥、流動乾燥、気流乾燥、攪拌乾燥、真空乾燥、振動乾燥などの方法を用いて乾燥することができる。乾燥温度は、複合酸化物の生成を防止するために、300℃以下が好ましい。
【0021】
2.第二の工程:得られた原料混合粉末の水素熱処理
本発明における第二の工程は、第一の工程で得られた原料混合粉末を水素気流中にて熱処理し、酸化鉄のみを還元する工程である。
【0022】
この熱処理は、酸化鉄のみを還元するものであるから、500〜800℃の温度範囲であり、500〜700℃が好ましい。500℃を下回ると、還元が不十分となり酸化鉄が残りやすくなるほか、還元後の結晶が不安定なため、大気に触れるとすぐに酸化して再び酸化鉄に戻ることがあり、また、800℃を超えると、還元はされるが高温のため出発原料の粒子径から粒成長によって大きくなってしまい、次工程の希土類―鉄系母合金を得る時点で、最終製品の保磁力を低下させるほどまで粒子径が粗大化することがある。熱処理は、1〜8時間、好ましくは2〜6時間行うようにする。
【0023】
また、このとき得られる粉末は、鉄粉末、希土類酸化物のほかに鉄希土類複合酸化物が含まれるが、この鉄希土類複合酸化物の存在比率は30重量%以上40%重量以下であることが好ましい。この範囲であれば、次の還元拡散において起こるテルミット発熱が全体に均一となり、局部的な発熱が発生せず、粒度分布のブロードな角形性に不利な粉末が出来ることがない。これまで前記特許文献2のように、希土類酸化物の一部が水中に溶解・再析出し、微細なサブミクロンの希土類水酸化物となり、その後の水素還元熱処理時に希土類鉄複合酸化物が生成して、アルカリ土類金属による還元熱処理を行う際に大きなテルミット発熱を生じて局部的な粒成長を引き起こすとされていた。本発明では、第二の工程で、30〜40%重量もの多量の鉄希土類複合酸化物が生成するにも係らず、最終的に磁気特性に優れる磁石粉末が得られており、この理由は、生成した多量の鉄希土類複合酸化物が、偏在せず均一に分散しているために、還元拡散において全体に均一なテルミット発熱を起こさせるのではないかと考えられる。
【0024】
3.第三の工程:還元拡散処理
次に、第二の工程で得られた粉末にアルカリ土類金属を所定量添加し混合して、不活性ガス雰囲気中で、所定の温度で熱処理し、その雰囲気のまま冷却する還元拡散法で、ThZn17型結晶構造を有する希土類―鉄系母合金を製造する。
本発明の還元拡散法においては、前記したように希土類酸化物粉末と他の金属粉末、Caなどの還元剤との混合物を不活性ガス雰囲気中、例えば900〜1300℃で加熱した後、反応生成物を湿式処理して副生したCaOおよび残留Caなどの還元剤成分を除去して、直接合金粉末を得るようにする。
【0025】
本発明では、第二の工程で得られた鉄粉末と希土類酸化物、あるいはこれに希土類鉄複合酸化物が存在する混合粉末と、アルカリ土類金属の還元剤とを反応容器に投入し、熱処理する。これによって、希土類酸化物と他の酸化物原料とを還元するとともに、還元された希土類元素などの金属元素を鉄粉末中に拡散させて、ThZn17型結晶構造を有する希土類―鉄系母合金を生成させる。
ここで、反応容器に投入する粉末は、それぞれの粉体特性によって分離しないように均一に混合する必要がある。混合方法としては、例えばリボンブレンダー、タンブラー、S字ブレンダー、V字ブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、振動ミル、アトライターなどが使用できる。
還元剤であるアルカリ土類金属としては、取り扱いの安全性とコストの点で、目開き4.00mm以下に分級した粒状金属カルシウムもしくは金属マグネシウムが好ましい。アルカリ土類金属の添加量は、第2工程までで還元されていない原料粉末中の酸素量を還元するのに必要な量を1当量としたとき、1.1〜3.0当量であり、1.3〜2.0当量であることが好ましい。この範囲であれば、原料粉末を十分に還元することができる。
原料粉末や還元剤とともに、後に第五の工程の湿式処理工程において、反応生成物の崩壊を促進させる添加物を混合することも効果的である。崩壊促進剤としては、塩化カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩や酸化物を用いることができ、原料粉末などと同時に均一に混合する。ここで不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウムから選ばれた1種類以上が用いられる。
【0026】
本発明においては、第三の工程の還元拡散では、熱処理温度を900〜1180℃の範囲とすることが重要である。900℃未満では、鉄粉末に対して希土類元素の拡散が不均一となり、最終的に得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の保磁力や角形性が低下するほか、拡散に要する時間が非常に長くなり、生産性が低下する。また、1180℃を超えると、生成する希土類―鉄系母合金が粒成長を起こすため、均一に窒化することが困難になり、最終的に得られる磁石粉末の飽和磁化と角形性、保磁力が低下する場合がある。また、高価な希土類金属であるSmの蒸発量も非常に多くなり、過剰な量が必要となり高コストにもなる。900〜1180℃ではこのような現象が起きないほか、1次粒子が小さくブドウ状に焼結した状態で得られる2次粒子体の粒子同士の焼結が弱く、窒化処理後の解砕のときに結晶歪みを起こしにくい利点もある。
【0027】
ここで、還元拡散反応で得られる生成物は、例えば、還元剤として金属カルシウムを用いた場合には、ThZn17型結晶構造を有する希土類−鉄系母合金と酸化カルシウム、未反応の余剰の金属カルシウムなどからなる塊状の混合物である。さらに粒状金属カルシウムを原料粉末に混合して還元拡散反応させた場合には、次工程での処理が容易な多孔質の塊状混合物となる。
なお、本発明では、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま変えずに、引き続き、300℃以下、好ましくは50〜280℃、より好ましくは100〜250℃に冷却する。
冷却後の温度が300°Cを越えていると、窒化の際に反応生成物との窒化反応が急激に進んでしまい、α−Fe相を増加させてしまうことがあるので、300°Cよりも低い温度まで冷却するのが望ましい。すなわち、300°Cを越える温度では、反応生成物が活性であるために合金が急激に窒化されて、ThZn17型結晶構造を有する金属間化合物がFeリッチ相とSmNとに分解するものと推測される。
【0028】
冷却後に、多孔質の塊状混合物である反応生成物を湿式処理しないで、雰囲気ガスを不活性ガスから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスに変えて、次の窒化工程に移る。
このとき反応生成物が大気中に曝されると、反応生成物中の活性な希土類−鉄系母合金粉末が酸化されて反応性が失われ、結果として窒化の度合いをばらつかせるので、大気(酸素)に曝されることのないように窒化工程に持ち込むことが重要である。
【0029】
4.第四の工程:窒化処理
窒化工程では、まず第三の工程の最終段階で冷却後、雰囲気ガスの不活性ガスを排出してから、少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、雰囲気ガスを完全に置換した後に昇温し、反応生成物を所定温度で熱処理する。
【0030】
窒化ガスとしては、少なくともアンモニアと水素とを含有していることが必要であり、反応をコントロールするためにアルゴン、窒素、ヘリウムなどを混合することができる。
全気流圧力に対するアンモニアの比(アンモニア分圧)は、0.2〜0.6、好ましくは0.3〜0.5となるようにする。この範囲であれば、長時間かけずに希土類−鉄系母合金の窒化が十分に進み、良好な磁石粉末の飽和磁化と保磁力を得るために必要な、希土類−鉄系母合金中の窒素量を3.3〜3.7重量%とすることができる。
【0031】
アンモニアと水素とを含有する混合気流を窒化温度である350〜500°C、好ましくは400〜480°Cで供給して、希土類−鉄系母合金を窒化熱処理することが重要である。熱処理温度が350°C未満であると、反応生成物中の希土類−鉄系母合金に3.3〜3.7重量%の窒素を導入するのに長時間を要するので工業的優位性がなくなる。一方、500°Cを超えると、例えば希土類がサマリウムの場合、主相であるSmFe17相が分解してα−Feが生成するので、最終的に得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の減磁曲線の角形性が低下するので好ましくない。なお、冷却温度から窒化温度までは、毎分4〜10℃の速度で比較的急速に昇温することが生産効率を高める上で望ましい。
窒化処理の保持時間は、窒化温度にもよるが、100〜300分、好ましくは、140〜250分とする。100分未満では、窒化が不十分になり、一方、300分を超えると窒化が進みすぎるので好ましくない。
【0032】
本発明においては、窒化処理に引き続いて、さらに水素ガス、または窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス中で合金粉末を熱処理することができる。2段階以上で合金粉末を熱処理してもよい。特に好ましいのは、水素ガスで熱処理した後に、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスで熱処理をすることである。
これにより、磁石粉末を構成する個々の結晶セル内の窒素分布をさらに均一化することができ、角形性を向上させることができる。熱処理の保持時間は、30〜200分、好ましくは60〜250分が良い。
【0033】
5.第五の工程:湿式処理・解砕
この工程では、窒化後の処理生成物を湿式処理して、そこに含まれている還元剤成分の副生成物(カルシウムを還元剤とする場合、酸化カルシウムや窒化カルシウムなど)を希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末から分離除去し、その後解砕する。
【0034】
本発明で、窒化終了後の磁石粉末に対して湿式処理を行うのは、前述したとおり、窒化する前に、反応生成物を湿式処理すると、この湿式処理過程で希土類−鉄系母合金表面が酸化されて窒化の度合いをばらつかせるからである。
また、窒化後に処理生成物を長期間大気中に放置すると、カルシウムなどの還元剤成分の酸化物が生成し除去しにくくなるか、磁石粉末の表面の酸化によって、窒化が不均一になり主相の比率の低下とニュークリエーションの核の生成によって角形性が低下するため、できる限り早く処理を進めるのが好ましい。
【0035】
湿式処理は、まず第四の工程で得られた生成物を水中に投入し、デカンテーション−注水−デカンテーションを繰り返し行い、還元剤の副生成物から生成した水酸化物(Ca(OH)など)の多くを除去する。さらに必要に応じて、残留する水酸化物(Ca(OH)など)を除去するために、酢酸および/または塩酸を用いて酸洗浄する。このときの水溶液の水素イオン濃度は、pH4〜7の範囲で実施するとよい。還元拡散時に過剰に投入した希土類金属(Sm)の影響で、主相の周りに磁気特性の飽和磁化を低下させる非磁性相が存在している場合があるから、希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末として良好な磁石特性を得るために、希土類がサマリウムの場合にはSm量が磁石粉末全量に対し23.2〜23.6重量%になるように酸洗を行うことが好ましい。
上記酸洗浄処理の終了後には、例えば水洗し、アルコールあるいはアセトン等の有機溶媒で脱水し、不活性ガス雰囲気中または真空中で乾燥することで希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末を得ることができる。
【0036】
得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末は、粒子径が小さい多数の粒子が集って、ブドウ状に焼結した2次粒子と、単独の1次粒子の2種類から構成されている。このような磁石粗粉末を溶媒とともにビーズミル、媒体撹拌ミル等の粉砕機に入れ、2次粒子からなる希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末の焼結部が外れる程度に解砕し、その後ろ過、乾燥する。
【0037】
本発明で希土類−遷移金属−窒素系磁石粗粉末を解砕するには、粉砕装置が使用される。粉砕装置としては、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕できる粉砕装置であれば、特に限定されない。その中でも、粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で優れた、媒体撹拌ミルまたはビーズミルが好ましい。これらを用いた湿式粉砕方式によることが好適であるが、一次粒子が壊れるほどの強い粉砕は避けることが重要である。
解砕に用いる溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等が使用できるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。解砕後、最後に所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過、乾燥して、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得ることができる。
【0038】
6.得られる磁石粉末
上記の本発明の製造方法により得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、特有な粒子形状と粒度分布を有しており、優れた磁気特性を発揮するものである。
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、粒子表面形状、断面を走査型電子顕微鏡(SEM:カールツァイス社、ULTRA55)で観察し、平均粒子径をSympatec社製レーザー回折型粒径分布測定装置で測定すると、長軸粒子径が4μmを越える一次粒子の存在割合は累積個数百分率で5%以下になっている。長軸粒子径が4μmを越える一次粒子の存在割合は、累積個数百分率で3%以下であるとより好ましい。長軸粒子径が4μmを超えるような一次粒子が増えると、断面を確認した際に窒化不足を起こしている粒子が存在している様子が観察される。本発明では、飽和磁化、角形性、保磁力を低下させる要因にもなる大きい粒子が少ないという特徴がある。
磁石粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて測定される。具体的には、1600A/mの配向磁界をかけてステアリン酸中で希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定する。磁石合金粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて測定すると、飽和磁化:4πIm(T)は、1.40以上、保磁力:iHc(kA/m)は、870以上、角形性:Hk(kA/m)は、410以上となる。そして、上記製造条件を最適化することで、飽和磁化:4πIm(T)は、1.45以上、保磁力:iHc(kA/m)は、890以上、角形性:Hk(kA/m)は、420以上とすることもできる。なお、Hkは、減磁曲線の角形性を表し、第二象限において、磁化4πIが残留磁化4πIrの90%の値を取るときの減磁界の大きさである。
なお、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末として良好な磁石特性を得るために、第五の工程における湿式処理後の希土類の含有量が、解砕後もそのまま維持されることが好ましく、希土類がサマリウムの場合にはSm量が磁石粉末全量に対し23.2〜23.6重量%であることが好ましい。
【実施例】
【0039】
次に実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。本発明により得られる水素熱処理物中の成分割合、還元拡散の際の発熱挙動、および得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の粒子形状と粒度分布、磁気特性は次の方法で測定し評価した。
【0040】
(1)水素熱処理物の成分比率
XRDによる粉末X線回折装置を用いて、測定したデータをもとに化合物の同定を行い、それら化合物の存在比率についてリートベルト解析を使用し、半定量値を算出することで、各化合物成分の存在比率を求めた。
(2)発熱挙動
Ca金属による還元拡散の際、R熱電対を反応容器内にセットし、発熱反応の大きさ(発熱量)や最大発熱温度を計測し求めた。
(3)粒子形状
湿式処理及び解砕処理して得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の粒子表面形状、断面を走査型電子顕微鏡(SEM:カールツァイス社、ULTRA55)で観察した。
(4)粒度分布
平均粒子径は、Sympatec社製レーザー回折型粒径分布測定装置:ヘロス・ロードスにて測定した。一次粒子の長軸径は、SEM像から1次粒子の粒径を1000倍で撮影した写真を2倍に拡大して、最小メモリ1mmの定規で長さを測定し、粒子の累積個数百分率を求めた。
【0041】
(5)磁気特性
磁石粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて、1600A/mの配向磁界をかけてステアリン酸中で希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定した。
磁石粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて、飽和磁化:4πIm(T)、保磁力:iHc(kA/m)、角形性:Hk(kA/m)を測定した。Hkは、減磁曲線の角形性を表し、第二象限において、磁化4πIが残留磁化4πIrの90%の値を取るときの減磁界の大きさである。
(6)粉末組成
磁石粉末の粉末組成について、Sm,N,Oについて下記の分析法により、分析した。
Sm: ICP発光分光分析法
N : 不活性ガス−インパルス加熱融解−熱伝導度法(LECO法)
O : 不活性ガス−インパルス加熱融解−赤外吸収法(LECO法)
【0042】
(実施例1)
磁石原料粉末として、平均粒子径が1.2μmに調整した酸化鉄Fe粉末(高純度化学社製)100.0gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウムSm粉末(関東化学)31.8gを秤量し、次に、1Lのポリ容器中にて秤量した酸化鉄を純水200gに分散させスラリー化した。このときpHは7.2を示すことから攪拌中のスラリーに0.5mol/L希塩酸を滴下し、pH=2となるように制御を行いながら、酸化サマリウムを徐々に全量投入した。投入後酸化サマリウムが全て溶けるまで約1時間攪拌した後、pH=8になるまで酸化カルシウムを添加した。
その後、ポリ容器からスラリーを排出し、水洗、掛水、濾過した後定置式真空乾燥器にて100℃設定で24時間乾燥した。
乾燥した混合粉末100.0gを箱型雰囲気炉にて水素を25ml/(min・g)流し、昇温速度5℃/minで600℃まで加熱して4時間保持した後、室温まで冷却し、内部を空気に置換して水素還元物を回収した。
このときの水素還元物の一部をXRDにて同定を行い、リートベルト解析でその存在比率を半定量値として算出した。このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=57.8:3.8:38.4(重量%)であった。
この水素還元物16gに粒度4メッシュ(タイラーメッシュ)以下の金属カルシウム粒(和光純薬製)3.6gを、コンデショニングミキサー(MX−201:シンキー製)で30秒間混合した。
これをステンレススチール反応容器に挿入し、容器内をロータリーポンプで真空引きしてArガス置換した後、Arガスを流しながら950℃まで昇温し、8時間保持後250℃まで炉内でArガスを流通しながら冷却した。次に、Arガスをアンモニア分圧が0.33のアンモニア−水素混合ガスに切り替えて昇温し、450℃で200分保持し、その後、同温度で水素ガスに切り替えて30分保持し、さらに窒素ガスに切り替えて30分保持し冷却した。
取り出した多孔質塊状の反応生成物を直ちに純水中に投入したところ、崩壊してスラリーが得られた。このスラリーから、Ca(OH)懸濁物をデカンテーションによって分離し、純水を注水後に1分間攪拌し、次いでデカンテーションを行う操作を5回繰り返し、合金粉末スラリーを得た。
得られた合金粉末スラリーを攪拌しながら希酢酸を滴下し、pH5.0に7分間保持した。合金粉末をろ過後、エタノールで数回掛水洗浄し、35℃で真空乾燥することによって、1次粒子および1次粒子同士が焼結したブドウ状の2次粒子からなるSm−Fe−N磁石粉末を得た。
この粉末組成は、Sm:23.4重量%、N:3.35重量%、O:0.12重量%、残部Feだった。
この合金粉末をエタノール中で振動式ミル(マルチミル:ナルミ技研製)を用い、SUJ2ボール5/32インチ、振動数 30Hz、30分間エタノール中で解砕し、常温真空乾燥した。
得られた磁石粉末の磁気特性を、合金粉末の磁気特性は、日本ボンド磁石工業協会、ボンド磁石試験方法ガイドブック、BM−2002、BM−2005に準じて、1600A/mの配向磁界をかけてステアリン酸中で希土類−鉄−窒素系磁石粉末を配向させ試料を作製し、4000kA/mの磁界で着磁して測定した。磁石合金粉末の比重を7.67g/cmとし、反磁場補正をせずに最大磁界1200kA/mの振動試料型磁力計を用いて、飽和磁化:4πIm(T)、保磁力:iHc(kA/m)、角形性:Hk(kA/m)を測定した。
分析組成とThZn17型結晶構造の格子定数から算出された粉末のX線密度は7.67g/cmで、この値で飽和磁化(4πIm)を換算した。iHcは保磁力である。またHkは、減磁曲線の角形性を表し、第二象限において、磁化4πIが4πIrの90%の値を取るときの減磁界の大きさである。結果を表1に示すが、高特性の磁気特性が得られた。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、2.0%であった。
【0043】
(実施例2)
実施例1の条件において、pH=2から5に変えて、酸化サマリウムが溶けるまで待つ時間を約5時間と変えた以外は実施例1と同様にして行い、水素熱処理を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=60.0:9.3:30.7(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.31重量%、O:0.15重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示すが、高特性の磁気特性が得られた。さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、4.2%であった。
【0044】
(実施例3)
実施例1の条件において、希塩酸を希硝酸に変えた以外は実施例1と同様にして行い水素熱処理を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=57.8:3.9:38.3(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm:23.5重量%、N:3.36重量%、O:0.14重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示すが、高特性の磁気特性が得られた。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、2.3%であった。
【0045】
(実施例4)
実施例1の条件において、スラリー液を中和するための酸化カルシウムを水酸化ナトリウム(関東化学)に変えた以外は同様にして行い、水素還元を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=57.8:3.9:38.3(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm:23.2重量%、N:3.33重量%、O:0.14重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示すが、高特性の磁気特性が得られた。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、2.6%であった。
【0046】
(比較例1)
実施例1の条件の磁石原料粉末として、平均粒子径が0.7μmに調整した酸化鉄Fe粉末(和光純薬)100.0gと、粒径が0.1〜10μmの粉末が全体の96%を占める酸化サマリウムSm粉末(関東化学)31.8gを秤量し、次に1Lのポリ容器中にて秤量した酸化鉄を純水200gに分散させスラリー化した。このときpHは2.3であるがここにさらに酸化サマリウムを投入し、攪拌を行い(投入終了時のpH=8.2)、ろ過、乾燥を行った。以降は実施例1と同様にして水素還元を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=64.3:20.1:15.6(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子、さらには大きい一次粒子体が観察された。この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.31重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示す。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、9.3%であった。
【0047】
(比較例2)
実施例1の条件の初期粉末混合時に湿式混合をせず、徳寿工作所製ジュリアミキサーによる乾式混合に変えた以外は同様にして水素還元を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=67.4:28.1:4.5(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm23.4重量%、N3.36重量%、O0.14重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示す。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、3.4%であった。
【0048】
(比較例3)
実施例1の条件において、希塩酸を多量に加えるようにして、pHを2から1に変えた以外は同様にして行い、水素還元を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=62.7:16.3:21.0(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm:23.3重量%、N:3.31重量%、O:0.16重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示す。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、6.7%であった。
【0049】
(比較例4)
実施例2の条件において、希塩酸を少量にして、pHを5から6に変えた以外は同様にして行い、水素還元を行ったところ、このときの存在比率は、α―Fe:Sm:SmFeO=65.8:23.9:10.3(重量%)であった。その後還元拡散、窒化処理、湿式処理を行い、Sm−Fe−N粗粉末を得た。得られた粉末は、1次粒子および1次粒子同士が焼結した、ブドウ状の2次粒子が観察された。
この粉末組成は、Sm:23.2重量%、N:3.32重量%、O:0.13重量%、残部Feだった。実施例1と同様に解砕後サンプリングして磁気特性を求めた。結果を表1に示す。
さらに、解砕した磁石粉末から長軸径4μmを超える一次粒子の存在割合を累積個数百分率によって算出した結果、10.3%であった。
【0050】
【表1】

【0051】
「評価」
表1に示した結果より、実施例1〜3では、水中に酸化鉄を分散させたスラリーのpH値が2〜5の範囲であるので、SmFeO生成量は、通常より大量の30重量%以上40重量%となり、その結果粗大粒子の存在比率の低い、磁気特性の優れた粉を得ることが可能となっている。
また、比較例1は、水中に酸化鉄粉末を分散させた酸性スラリーに直接希土類酸化物を投入するように変更しているが、SmFeOは生成するものの粗大粒子量の増加および磁気特性全般の低下が確認された。これは純水に対し酸化鉄を分散させたところpH=2.3を示す酸性のスラリーであり、ここにSmを投入・分散させると、pHは中性を超えアルカリ性(pH=8.2)に達するがSmは全量溶解せず微結晶の水酸化サマリウムと溶解しなかった酸化サマリウムの混合物としてスラリー中に存在することとなる。これを水素還元するとSmFeOが生成されるがその大半は微結晶の水酸化サマリウムからであり、結果としてSmFeO生成量は15.6%と低く、テルミット発熱の均一性が失われ、局部的な粒成長から粒度分布がブロードとなり磁気特性の低下を引き起こしたといえる。
比較例2は、乾式混合による処理をしているが、このとき大気雰囲気で行ったためやや水分の影響からSmFeOが存在しているが、実施例と粗大粒子の割合は近い値にある。これはSmFeOが実施例と異なりほとんど存在していないためテルミット発熱が非常に小さく、局部的な粒成長が起こりにくかったためである。しかしながら、乾式混合による混合効果は不十分なためSmとFeとの距離が離れているため、未反応のSm微粉の存在や、均一な拡散が行われずミクロな視野では生成物の組成がばらついてしまうことから、磁気特性全般に悪影響を与えたものと考えられる。
比較例3、4では本発明のpHの範囲外を実施したが、pH=1に制御した場合は、最後にアルカリ性にする際に酸化カルシウムを多量添加するため酸化鉄の粒子表面への水酸化サマリウムの析出を阻害する傾向を示し、水酸化サマリウムの独立した粒子の部分が多く見られるようになる。このためSmFeOはpH=2の制御よりも減少し、粗大粒子も多く、磁気特性も低下する傾向を示す。またpH=6に制御した場合は、Smの溶解がほとんど進行しないほか、変曲点付近のためpHの制御が非常に難しく、pH=5の時と同じ時間保持攪拌したが、溶解はあまり進行しておらず、むしろ比較例1の方がSmFeOの生成量は多くなる傾向を示した。そのため比較例1ほどSmFeOが多くないことから均一性はより失われる方向へ進み、逆に粗大粒子は多く、磁気特性も低い結果となったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石原料となる平均粒子径が2μm以下の酸化鉄粉末を水溶媒でスラリー化し、次に、このスラリーのpH値が2〜5の範囲に維持されるように1mol/L以下の希酸を添加しつつ希土類酸化物を所定量投入して溶解させ、その後、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩を添加してpHが7.0を超えるようにすることで希土類水酸化物を酸化鉄表面に析出させた原料混合粉末を製造する第一の工程、得られた原料混合粉末を水素熱処理する第二の工程、水素熱処理された混合粉末に還元剤成分としてアルカリ土類金属を所定量添加し、混合して、不活性ガス雰囲気中で、900〜1300℃の温度で熱処理した後、同雰囲気中で冷却することにより希土類−鉄系母合金を得る第三の工程、引き続き、得られた希土類−鉄系母合金に少なくともアンモニアと水素とを含有する混合ガスを導入し、この気流中で所定の温度で熱処理することにより窒化処理する第四の工程、次に得られた窒化処理物を湿式処理し、還元剤成分の副生成物を分離除去し、その後、得られた粗粉末を解砕する第五の工程からなる希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
第一の工程において、希酸が塩酸、硝酸のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
第一の工程において、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩が、水中でアルカリ性を示す水酸化物、酸化物、窒化物もしくはこれらの複合化合物であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
第一の工程において、混合粉末の乾燥温度が300℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
第二の工程において、混合粉末が500〜800℃で、1〜8時間かけて水素熱処理されることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
第三の工程において、アルカリ土類金属の添加量が、第二の工程までで還元されていない原料粉末中の酸素量を還元するのに必要な量を1当量としたとき、1.1〜3.0当量であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
第三の工程において、さらに、還元拡散反応後の反応生成物に対して、雰囲気ガスを不活性ガスとしたまま、引き続き300℃以下に冷却することを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項8】
第五の工程において、湿式処理及び解砕して得られる粉末は、長軸粒子径が4μmを越える1次粒子が累積個数百分率で5%未満であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項9】
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、希土類としてSmを含み、その含有量が磁石粉末全体に対して23.2〜23.6重量%であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。

【公開番号】特開2010−270382(P2010−270382A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125386(P2009−125386)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】