説明

希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法、得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、及びそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石

【課題】還元拡散法によって、磁気特性を下げることなく、水素ガスを使用せずまたは使用量を低減して還元物を崩壊させて希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を安価に安全にかつ安定的に生産できる製造方法および、それを用いたボンド磁石用組成物、並びに各種機器を小型化、高特性化しうるボンド磁石を提供する。
【解決手段】還元拡散法により、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物とし、次いで、得られた還元物を崩壊させる工程おいて、水または水と水素ガスを用いて崩壊することを特徴とする下記式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法を提供する。
Fe(100−x−y−z) ・・・(1)
(式(1)中、Rは希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法、得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、及びそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石に関し、より詳しくは、還元拡散法による希土類−遷移金属合金の還元拡散反応生成物(以下、還元物ということがある)を安価で安全に崩壊させて、取り扱いが容易な粒径の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を安定的に生産できる製造方法、及びそれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のさまざまな電気機器類、例えば携帯電話やデジタルカメラ、デジタルビデオなどほとんどの家電製品などは小型化、軽量化、高性能化が要求され、その要求は高まるばかりである。このような小型化、軽量化を実現するためには、永久磁石の小型化、高特性化が重要な課題の一つとなっている。さらに一方ではコスト競争も激しさを増すばかりであり、磁石に要求される事項としは、軽量化、高等性化、さらには価格(安価)が挙げられる。
【0003】
磁石業界において、価格面では従来から使われているフェライト磁石が最も有利であるとされているが、最大エネルギー積(BH)maxが15〜20kJ・m−3(数MGOe)と非常に低く、軽量化、高特性化の要求には到底応えきれない。特性面ではフェライトなどの低特性磁石に比較して数10倍の磁気特性を有する希土類磁石が知られているが、希土類磁石の需要も上記背景のもと伸びており、1993年にはフェライト磁石を抜いて使用量が最も多い磁石となっている。
このうちNd−Fe−B系焼結磁石は、440kJ・m−3(55MGOe)を超える最大エネルギー積(BH)maxを有し、希土類磁石の中でも最も需要が高い磁石の一つである。さらに、理論上、磁石粉末の磁気特性ではNd−Fe−B系磁石に並ぶ磁石として、菱面体晶系、六方晶系、正方晶系、又は単斜晶系の結晶構造を有する金属間化合物に窒素を導入した希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が、特に永久磁石材料として優れた磁気特性を有することから注目され、需要を伸ばしている。
例えば、R−Fe−N(R:Y、Th、及び全てのランタノイド元素からなる群の中から選ばれた1種または2種以上)で表される永久磁石(特許文献1参照)、また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H(R:イットリウムを含む希土類元素のうちの少なくとも1種)で表される磁気異方性材料が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、菱面体晶系、六方晶系、又は正方晶系の結晶構造を有するThZn17型、TbCu型、又はThMn12型金属間化合物に窒素等を含有させた希土類磁石材料が知られ、これらの磁石材料の磁気特性等を改善するために、種々の添加物を用いることも検討されている。
例えば、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Pd、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、In、C、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、塩化物、硝酸塩のうち少なくとも1種)で表される磁石粉末が知られている(特許文献3参照)。
また、六方晶系あるいは菱面体晶系の結晶構造を有するR−Fe−N−H−O−M(R:Yを含む希土類元素のうちの少なくとも1種;M:Mg、Ti、Zr、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Biの元素、及びこれらの元素並びにRの酸化物、フッ化物、炭化物、窒化物、水素化物のうち少なくとも1種)で表される磁性材料が知られている(特許文献4参照)。
【0005】
これらの希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の多くは、保磁力発生機構がニュークリエーションタイプであるため、平均粒径1〜10μmの微細な粉末として使用される。この理由は、平均粒径が10μmを超えると、必要な保磁力が得られず、ボンド磁石にしたときその表面が粗くなって磁石粉末の脱落が起こりやすくなってしまうためである。ただし、平均粒径が1μm未満では、磁石粉末の酸化による発熱やそれに伴う発火、さらにThZn17型結晶構造を有する主相の分解による磁気特性の低下が起こるため好ましくないとされている。
このような希土類−遷移金属−窒素系磁性材料は、数μm〜数10μmを超える平均粒径を有する希土類−遷移金属系の母合金粉末を製造した後、窒素原子を導入するため、窒素やアンモニア、又はこれらと水素との混合ガス雰囲気中で200〜700℃に加熱する窒化処理を行い、次いで、上記所定の粒度に微粉化して製造されている。
【0006】
上記ニュークリエーションタイプの磁石よりさらに耐熱性に優れる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末としてアモルファス相と微結晶の二層からなるピニングタイプのR−Fe−M−N磁石がある。例えば、一般式RαFe(100−α−β−γ)Mnβγで表され(R:希土類元素のうち少なくとも一種、α、β、γは原子%で3≦α≦20、0.5≦β≦25、17≦γ≦25を満たす)、その主成分が少なくともFe、Mn、及びNを成分とする菱面体晶または六方晶の結晶を有した相であるとともに、平均粒径が10μm以上である磁石材料が知られている(特許文献5)。
さらにMn量を少なくするためM元素を入れた一般式:RFe(100−a−b−c−d)Mn(式中、Rは希土類元素から選ばれる一種以上、MはNi、Cu、Co、Cr及びVの群から選ばれる一種以上、a、b、c及びdは原子%であり、a、b、c及びdは、3≦a≦20、0.01≦b<0.5、0.01≦c≦25、及び17≦d≦25を満たす)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石材料が知られている(特許文献6)。
また、還元拡散法では、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤からなる混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理し還元、拡散反応を起こさせる。その後、還元拡散反応生成物は非常に硬く取り扱いずらいため、場合により崩壊させ粉状または小さな塊状にする。例えば、還元物を密閉容器に装入し、密閉容器内を減圧して雰囲気ガスを排出し、水素を充填させて大気圧よりも0.01〜0.11MPa高い圧力とし合金を自己発熱させ、合金が実質的に発熱しなくなるまで水素で大気圧より高くなるように加圧を続けることにより崩壊させ、さらにその崩壊物から還元剤を取り除くために湿式処理し、続いて窒化、微粉砕を行い磁石粉末とする(特許文献7)。
【0007】
上記希土類−遷移金属−窒素系磁性材料の原料として用いられる希土類−遷移金属系母合金粉末は、溶解鋳造法、液体急冷法、還元拡散法等により製造される。
溶解鋳造法では、溶かした合金が固まる際、温度分布ができ組成ずれを起こしてしまい、また溶解鋳造法、液体急冷法では、原料として使用する希土類金属が高価であるため経済的ではない。
一方、還元拡散法では、高価とされる希土類金属を使わずに安価な希土類酸化物を利用できるため、コスト面で有利である。ただし、還元拡散後の還元物は一般的に非常に硬く、通常機械的に粉砕、または水素処理を行い崩壊させる。機械的な粉砕では砕け方にばらつきがあり特性に大きく左右されたり、収率が下がってしまうなどの問題がある。水素処理をする場合は、還元物の水素吸蔵による発熱によって水素雰囲気中で数100℃になり危険をともなううえ、水素代やそのための設備投資にも非常にコストがかかる。
さらに詳しく還元拡散法について述べる。希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び還元剤からなる混合物を非酸化性雰囲気下で加熱処理し希土類酸化物を還元剤で還元し、遷移金属中に拡散される。その後、炉冷し該還元物を取り出す。該還元物は非常に硬く取り扱いずらいため、一般的に粉砕または崩壊させ粉状または小さな塊状にする。例えば、還元物を密閉容器に装入し、密閉容器内を減圧して雰囲気ガスを排出し、水素を充填させて大気圧よりも0.01〜0.11MPa高い圧力とし合金を自己発熱させ、合金が実質的に発熱しなくなるまで水素で大気圧より高くなるように加圧を続けることにより崩壊させる(特許文献7)。さらにその崩壊物から還元剤を取り除くために湿式処理し、希土類−遷移金属合金粉末を得る。続いて窒素元素を含むガスを流しながら、数100℃で窒化を行う。得られた希土類−遷移金属−窒素系合金粉末を場合により、解砕または微粉砕をすることにより磁石粉末が出来上がる。
【0008】
溶解鋳造法、液体急冷法などは、原料に高価な希土類金属を用いるため価格を低く抑えることは難しく、それに比較して、還元拡散法は原料に安価な希土類酸化物を使うため有利とされている。しかし、安価な製造方法である還元拡散法においても、上記のような水素処理工程を加えることによりコストアップにつながっている。それは還元物を水素処理するためには水素ガスを多量に使用するためであり、また、爆発性のガスを用いるため危険性も伴う。さらには還元物が水素ガスを吸う際、気温や還元物温度により水素の吸収量が大きく変化し、これにより崩壊性、収率が変わって品質が安定しないなどの問題が生じることもある。このため、コストを低減できるだけでなく安全面にも配慮して水素の使用量を抑えることが望ましく、さらには品質安定性を向上して還元物を崩壊させる工程を確立することは重要な課題となっている。
【特許文献1】特開昭60−131949号公報
【特許文献2】特開平2−57663号公報
【特許文献3】特開平6−279915号公報
【特許文献4】特開平3−153852号公報
【特許文献5】特開平8−55712号広報
【特許文献6】特開2005−42156号広報
【特許文献7】特開2004−204285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、還元拡散法によって磁気特性を下げることなく、水、または、水と水素ガスを用いて、水素ガス使用量を低減して還元物を崩壊させて希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を安価に安全にかつ安定的に生産できる製造方法および、それを用いたボンド磁石用組成物、並びに安価で小型、高特性かつ高耐熱性のボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ね、希土類−遷移金属系母合金粉末を還元拡散法により製造する方法において、還元拡散後の還元物を収容した密閉容器に水、または水と水素ガスを供給することにより還元物と水が反応し水素が発生し、この発生した水素が還元物の母合金に吸収されて膨張していく過程で還元物に歪が生じ、同時に母合金同士を溶着させていた還元剤を酸化するので、還元物が容易に崩壊することを見出し、この方法によれば安全かつ低コストで磁気特性を下げることなく希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造できることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物を得て、次いで、該反応生成物を崩壊させて、得られた平均粒径が5〜50μmである希土類−遷移金属合金粉末を窒化処理することにより、下記の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、前記還元拡散反応生成物の表面に水または水と水素ガスを供給して、該反応生成物に含まれる過剰な還元剤、及び、希土類−遷移金属系母合金粉末表面と反応させ、発生する水素またはこれと供給した水素ガスを希土類−遷移金属系母合金に吸収させ、水素を吸収しながら合金相が膨張し還元拡散反応生成物に歪を生じさせること、及び、該反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金同士を溶着させている還元剤を酸化物にすることによって、還元拡散反応生成物を崩壊させることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
Fe(100−x−y−z) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、還元拡散反応生成物を崩壊させる際、水の供給量が該反応生成物1kgあたり5〜500mlであることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明は、第1の発明において、還元拡散反応生成物を崩壊させる際、水素の供給量が該反応生成物1kgあたり40L以下であることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、水のみを還元拡散反応生成物に供給する場合、供給後に7〜15時間放置することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、水と水素ガスを還元拡散反応生成物に供給する場合、水素を供給した後、7〜10時間放置することを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、得られた希土類−遷移金属−窒素合金の粗粉末が、さらに微粉砕または解砕されることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法が提供される。
【0013】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6の発明のいずれかの発明に係り、前記の製造方法によって得られ、平均粒径が1〜30μmである希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明に係り、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物が提供される。
さらに、本発明の第9の発明によれば、第8の発明に係り、ボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法によれば、還元拡散後の還元物を収容した密閉容器に水、または、水と水素ガスを供給することにより還元物と水を反応させ、発生した水素で還元物を崩壊させることにより、水素ガスを全く使用しないか、または従来よりも使用量を削減して希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の原料として用いられる希土類−遷移金属系母合金粉末を得ることができる。
これにより得られた希土類−遷移金属系母合金を窒化処理すれば、従来と同等以上の磁気特性を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を安価に安全にかつ安定的に製造できる。さらに、得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に樹脂バインダーを配合したボンド磁石用組成物を用いれば、価格を抑えながら各種機器を小型化、高特性化でき、近年のニーズに応え得る希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石を得ることができ、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法、得られる希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末、及びこれを用いたボンド磁石用組成物、並びにボンド磁石について、以下に詳細に説明する。
【0016】
1.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法は、遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物を得て、次いで、該反応生成物を崩壊させて、得られた平均粒径が5〜50μmである希土類−遷移金属合金粉末を窒化処理することにより、一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、前記還元拡散反応生成物の表面に水または水と水素ガスを供給して、該反応生成物に含まれる過剰な還元剤、及び、希土類−遷移金属系母合金粉末表面と反応させ、発生する水素またはこれと供給した水素ガスを希土類−遷移金属系母合金に吸収させ、水素を吸収しながら合金相が膨張し還元拡散反応生成物に歪を生じさせること、及び、該反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金同士を溶着させている還元剤を酸化物にすることによって、還元拡散反応生成物を崩壊させることを特徴とする。
Fe(100−x−y−z) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
【0017】
(希土類元素)
本発明において、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、希土類元素、遷移金属元素、及び窒素から構成されている。希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を構成する主要成分の希土類元素(R)は、磁気異方性を発現させ、保磁力を発生させる上で本質的な役割を果たす元素である。
希土類元素としては、Yを含むランタノイド元素のいずれか1種または2種以上であり、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの中でも、Sm及び/又はNdが好ましい。また、これらとEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbの群から選ばれる少なくとも1種の元素とを組み合わせれば、磁気特性を高めることができる。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の希土類元素は、4〜18原子%、好ましくは5〜15原子%であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上、混入が避けられない元素、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが含まれていても差し支えない。
【0018】
(遷移金属元素)
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を構成する主要な遷移金属元素としては、鉄(Fe成分)が挙げられ、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の必須成分である。
Fe成分は、強磁性を担う基本元素であり、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末としたとき、34〜81原子%、好ましくは60〜75原子%含有する必要がある。Fe成分が、34原子%より少ないと磁化が低くなり好ましくない。81原子%を超えると希土類元素の割合が少なくなり過ぎ、高い保磁力が得られず好ましくない。Fe成分の組成範囲が60〜75原子%であれば、保磁力と磁化のバランスのとれた材料となり特に好ましい。
【0019】
(添加元素M)
Mは、Mn、Cu、Co、Cr、Ti、Ni、Zr、Hfの少なくとも一種以上を示す元素であり、粗い合金粉末で高い保磁力を出すために必須である。好ましいMは、Mn、Cu、Cr、Tiであり、特にMnが好ましい。
以下、一例としてSm−Fe−Mn−N系磁石を取り上げ説明する。M元素を添加しSm(FeM)17の割合よりも過剰に窒素を入れることにより、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、粒子内部でM元素のはたらきにより部分的にアモルファス化し、その中に数〜数100nmの結晶が微細に混在した状態になる。このような微結晶構造になると非磁性であるアモルファス部が粒子内の各微結晶間の磁気的な結合を切り、低保磁力の強磁性層に表面を覆われた場合と異なり、粗い粉末であっても高い保磁力が得られる。さらに上記微結晶部は飽和磁化の高いSmFe17に近い強磁性相となっているため、Sm−Fe−Mn−N系磁石粉末は粗い合金粉末であっても高い飽和磁化、保磁力が得られる。
M量は0.3〜23原子%が好ましい。Mが0.3原子%より少ないと結晶性のある部分を残さずに大部分がアモルファス化してしまい磁気特性が低くなってしまう。23原子%より多いと非磁性相の割合が多くなりすぎ、磁化が低くなってしまう。
添加元素Mの効果は、Mn以外を用いた他のRFe(100−x−y−z) で示される磁石においても同様に発揮される。
【0020】
(窒素)
窒素は、本発明で得られた希土類−遷移金属系母合金を窒化して、磁石化するために必要な元素であり、15〜25原子%、好ましくは18〜22原子%含有する必要がある。ピニングタイプの磁石の場合、窒素が15原子%未満ではアモルファス相が少なすぎ微結晶構造にならず保磁力が高まらず、25原子%を超えてしまうと非磁性と考えられるアモルファス相が多くなり磁化が下がってしまう。窒素が18〜22原子%であれば、アモルファス相が多くなるすぎない範囲で微結晶化が進み特に好ましい。
本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法は、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金を含む還元物とし、次いで、この還元物に水または水と水素ガスを供給して崩壊させた後、該還元物を湿式処理し還元剤を除去し、窒素含有雰囲気中で加熱処理して、希土類−遷移金属系母合金の窒化物とする工程を含んでいる。本発明では、得られた窒化物を必要により微粉砕又は解砕して所定の粒径を有する希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を製造する工程を含むことができる。
【0021】
(希土類−遷移金属合金粉末の製造)
本発明では、還元拡散法により、希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合した後、非酸化性雰囲気中で加熱焼成して、希土類−遷移金属系母合金を含む還元物とする。
さらに詳しくは、還元拡散法では、特定量の希土類酸化物粉末、遷移金属粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を出発原料として用いて、下記に詳述すると同様な条件で加熱焼成して製造する。
【0022】
(希土類酸化物)
希土類酸化物は、前記希土類元素、すなわち、例えば、Y、La、Ce、Pr、Nd、およびSmの群から選ばれる少なくとも1種以上の元素の酸化物である。
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の希土類元素は、前記のとおり、4〜18原子%であることが必要である。4原子%よりも少なければ、合金中に軟磁性相であるα−Feが多く存在するようになり高い保磁力が得にくくなり、18原子%を超えると主相となる合金相の体積が減少してしまい飽和磁化が低下するため好ましくない。
希土類元素の中では、特に、Smが好ましく、Smが希土類元素の50原子%以上含むと高い保磁力を持つ材料が得られる。希土類酸化物原料粉末の平均粒径は、10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。
希土類酸化物は、目標組成より2〜20%程度多く入れることが好ましい。これは希土類の投入量が少ないと還元剤を除去する際の湿式処理時に希土類成分がより多く溶けてしまうため目標組成以下となって希土類が不足し軟磁性相が出現してしまい保磁力を下げてしまうからである。一方、希土類成分が上記範囲より多すぎると非磁性相が多くなり磁化が下がってしまうため好ましくない。
【0023】
(遷移金属粉末)
遷移金属粉末としては、鉄、コバルト、或いはニッケルなどが挙げられるが、磁気特性上、鉄が好ましい。鉄は、希土類−遷移金属系合金粉末の必須成分であるが、磁気特性を損なうことなく温度特性や耐食性を改善する目的で、その一部をCoまたはNiの一種以上で置換してもよい。原料として用いる遷移金属の粒度分布は、目標製品の粒度に近い分布のものを用いることができるが、例えば、平均粒径は10〜50μmであることが好ましい。
【0024】
(添加元素Mの粉末)
Mは、Mn、Cu、Co、Cr、Ti、Ni、Zr、Hfの少なくとも一種以上を示す元素が挙げられる。原料として用いる添加元素Mの粉末の粒度分布は、目標製品の粒度より細かい方が好ましく、例えば、平均粒径は10μm以下であることが好ましい。投入量は、希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の添加元素Mが、前記のとおり、0.3〜23原子%となるようにすることが必要である。
【0025】
(還元剤)
還元剤は、希土類酸化物を還元する機能を有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。例えばLi及び/又はCa、あるいはこれらの元素とNa、K、Mg、Sr又はBaから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
これら還元剤は、その投入量と粉体性状、希土類酸化物の粉体性状、各種原料粉末の混合状態、還元拡散反応の温度と時間を注意深く制御して使用することが望ましい。なお、上記還元剤の中では、取り扱いの安全性とコストの点から、金属Li又はCaが好ましく、特にCaが好ましい。
【0026】
還元剤の投入量は、該希土類酸化物を還元するに足る反応当量よりも過剰とする必要がある。還元剤を当量より過剰にしないと容器内の残存酸素や水分により還元剤が酸化し、希土類酸化物を十分還元できなくなり磁石粉末特性を低下させてしまう。また、得られた還元物に水を供給した際に、十分な水素を発生させることによって還元物を崩壊させることができる量であることが望ましい。
【0027】
上記各原料の混合方法は、特に限定されないが、Sブレンダー、Vブレンダー、各種ミキサー等を用いて行うことができる。例えば、各原料を所定の量、秤量し、Vブレンダーで1時間混合すれば良い。
次に、得られた混合物を反応容器に入れる。上記混合物を反応容器に移す際には、希土類酸化物などは平均粒径が数μmと細かいため粉が飛散しやすい。飛散を防止するためにカバー等を取り付けることが好ましく、これにより合金粉に組成ずれを起こすことが抑制できる。
また、容器内における混合物の状態に特に制限はないが、還元物全体に水がかかり易いような状態にしておくことが望ましい。特に、容器に入れた還元前の混合物に事前に棒状治具等で穴を開けておくことが好ましい。穴の大きさ、深さ、個数などは混合物の量などによっても異なり具体的に規定しにくいが、例えば直径3〜10mmの棒状治具を容器の底に届くようにほぼ等間隔に設置し、混合物に穴が数箇所から10箇所程度開くようにすることが好ましい。これにより、焼成後の還元物に水の流路となる穴ができ、水との接触面積が大きくなって、還元物を崩壊しやすくなる。その後、上記混合物を投入した反応容器を還元拡散炉に入れ、酸素が実質的に存在しない非酸化性雰囲気とする。
【0028】
(還元拡散条件)
上記の原料である遷移金属粉末、希土類酸化物粉末、希土類酸化物を還元する還元剤を配合し、この混合物を非酸化性雰囲気中において、上記還元剤が溶融状態になる温度まで昇温保持し加熱焼成する。
加熱温度は、Caの融点が838℃、沸点が1480℃であるため、この温度範囲内であれば還元剤は溶解するが、蒸気にはならずに処理することができる。加熱温度は1000〜1250℃とすることが好ましい。これにより、上記希土類酸化物が希土類元素に還元されるとともに、該希土類元素が遷移金属合金粉中に拡散され、希土類−遷移金属系母合金が合成される。得られる還元物は、反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金同士を還元剤が溶着させ、還元前の投入原料の形状をほぼ保ちながら還元後収縮した状態の形状となる。希土類−遷移金属系母合金を生成後は、反応容器内を室温まで冷却し取り出す。
【0029】
(還元物への水、または、水と水素ガスの供給による崩壊処理)
こうして得られる還元物は非常に硬いうえ、反応容器に溶着しており取り扱いずらい。そこで、還元物を水に投入して崩壊させる前に、水中での崩壊性を改善するために、還元物へ水、または、水と水素ガスを供給することが必要である。
【0030】
一例として還元物への水と水素ガスの供給は以下のように行う。まず、上記希土類−遷移金属系母合金の還元物を真空引きできる密閉式のステンレス製容器に入れ、該容器を0.001MPa以下まで真空引きし、リークチェックを行う。その後、アルゴンガスを0.14MPaまで封入し、加圧でのリークチェックを行う。その後、0.001MPa以下まで真空引きし容器内の還元物に直接かかるように純水を供給する。水の供給方法は、水が還元物に満遍なく直接かかるような方法であれば特に制限されず、例えば、水をミスト状にして散布したり、スチームとして噴出させたり、あるいは、金網の上に載せた還元物に散水して金網の底部から回収した水を循環して使用したりする方法などがある。水温は特に限定されず、常温でも温水、熱水でもよいが、水素を効果的に発生させるには50℃以上の温水、熱水が好ましい。この時、水素ガスを加える。この場合、水素はスチームと混合して最初から還元物に供給してもよいし、一旦、純水のみを還元物に供給して、還元物をある程度崩壊させてから水素を供給しても良い。外部から供給される水素の使用量を節約するためには、例えば純水のみを還元物に供給して3〜5時間放置し、還元物をある程度崩壊させてから、水素を供給し容器内圧が0.1〜0.2MPaとなるようにして作用させることが好ましい。
【0031】
容器内では水と過剰還元剤、希土類−遷移金属系母合金が反応し、発熱しながら水素が発生する。発生した水素と供給した水素ガスは水素吸蔵合金である希土類−遷移金属系母合金に吸収され、希土類リッチ相と主相の膨張率の違い、還元剤の酸化、母合金の表面酸化等により還元物が崩壊する。
水の供給量は、還元物1kgあたり5〜500ml、好ましくは10〜400ml、より好ましくは30〜300mlとする。過剰に水を供給したとしても粉末の特性やその他の物性値を下げることはないが、還元物1kgあたり500ml/kgを超えて水を供給しても反応する過剰還元剤などがなくなり意味がないだけでなく、水分が多いと、還元物が水浸しの状態となり取り出しなどの作業性が悪くなることがある。一方、水の供給量が5ml/kg未満では水素発生量が少なすぎて還元物が実質的に崩壊しない。
また、水素の供給量は、還元物1kgあたり40L以下、好ましくは3〜30Lである。水素の供給量が還元物1kgあたり3L未満では還元物を十分に崩壊できない場合があり、一方、40Lを超える水素量は経済的ではない。
【0032】
水と還元剤の反応熱、さらには還元物の水素吸収による発熱により容器内の温度は上がるが、この発熱が実質的に収まり、放熱により容器内温度が40℃以下になったら還元物を取り出す。
このようにして出来た還元物はすでに過剰還元剤が酸化物になり、希土類−遷移金属合金粉末も表面の酸化が進んでおり、取り出し時に発火する危険性がなく安全に取り扱えるうえ、次工程で水へ投入する際、還元物が水と反応し水素を発生することがなくなるため、安全に処理を行うことができる。さらに還元物を溶着させている過剰還元剤が酸化しているため、水素のみで処理していた従来の場合より還元物が粉状であり非常に取扱いしやすいという長所もある。還元物へ水を供給して発生する水素と供給水素ガスによる崩壊処理を行わずに、いきなり水中へ投入すると、還元物の塊が残り、篩収率が悪く、特性低下にも繋がってしまう。
【0033】
(水中への投入)
次いで、水の供給により崩壊した還元物を水中に投入(水砕)し、デカンテーションにより洗浄し、次いで酸洗、固液分離、乾燥を行い、希土類−遷移金属系母合金粉末を得る。
水砕では、例えば、得られた粉状還元物を、還元物1kgあたり約1リットルの水の割合で水中に投入し、1〜3時間攪拌し還元物を崩壊させ、スラリー化させる。得られたスラリーは、粗い篩を通し水洗槽に移入する。このときスラリー溶液のpHは11〜12程度であり、還元物はほとんど崩壊しており、篩上に残るロス分は非常に少なくなり、上記のように還元物に水を供給し、過剰還元剤を酸化させていると、この段階で水と反応し水素を発生することなく安全に作業できる。
【0034】
(水洗、デカンテーション、酸洗)
この後、デカンテーションを5〜10回程度繰り返す。デカンテーション条件は、例えば、前記スラリー溶液に注水し、攪拌1分、静置分離2分、排水を1回とすることが好ましい。その後、スラリーのpHが5〜6になるように酢酸を添加し、酸洗を行うことで固液分離し、固相分を乾燥して希土類−遷移金属系母合金粉末を得る。還元剤として用いたCaは非磁性であり、希土類−遷移金属系母合金粉末の粒界や粒子表面にCaが存在すると磁気特性を下げるので、できるだけ除去することが好ましい。
【0035】
(窒化処理)
希土類−遷移金属系母合金粉末を窒化処理するには、予め窒素ガス又はアンモニア、あるいはアンモニア−水素混合ガスのいずれかを含む含窒素雰囲気とした後、特定の温度で加熱を行う。
窒化処理は、該希土類−遷移金属系母合金粉末を含窒素雰囲気中で、例えば、200〜700℃、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃に加熱する方法が採られる。200℃未満では母合金の窒化速度が遅く、700℃を超える温度では窒化鉄などを生成してしまうので好ましくない。
また、窒化反応を行う反応装置は、特に限定されず、横型、縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉式反応炉などが挙げられる。何れの装置においても、本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を調製することが可能であるが、特に窒素組成分布の揃った粉体を得るためにはキルンのような回転式反応炉を用いるのが好ましい。
【0036】
窒化を効率よく行うためには、通常100μm程度以下の希土類−遷移金属系母合金粉末粒子を用いることが好ましい。粒子の大きさは特に制限されないが、凝集・融着部を実質的に含まない平均粒径10〜50μmの粉末であればなお好ましい。このため、希土類−遷移金属系母合金粉末の凝集・融着部をなくすために、必要により解砕しておくことが好ましく、粒径の大きな希土類−遷移金属系合金粉末をさらに微粉化(解砕を含む)して製造してもよい。粒径が10μmよりも細かいと発火し易く取り扱いが難しくなる。また、粒径が50μmよりも粗いと粒子内を均一に窒化することが行いずらくなり、磁気特性が低くなってしまう。
希土類−遷移金属系母合金粉末を粉砕、解砕する方法は、特に制限されず、例えば、湿式粉砕法ではボールミル粉砕や媒体攪拌型ミル粉砕等を、乾式粉砕法では不活性ガスによるジェットミル粉砕等を用いることができる。これらの中でも、粉末の凝集を少なくできるジェットミル粉砕が特に好ましい。
また、希土類−遷移金属系母合金粉末の凝集をさらに少なくするため、例えば、ジェットミル粉砕では、不活性ガス中に5容積%以下の酸素を導入することで微粉化することができる。また、ボールミル粉砕や媒体攪拌ミル粉砕等では、小径の粉砕ボール、あるいはステンレス鋼等ではなくジルコニア等の低比重のセラミックス粉砕ボールを用いることによって微粉化することができる。
【0037】
(窒化処理前の熱処理)
なお、上記希土類−遷移金属系母合金粉末の粒径が粗大である場合に、粉砕処理を行い得られた母合金粉末には、粉砕により生じた結晶の歪みが残留し、次の窒化工程においてα−Fe等の軟磁性相が発生する原因となる場合がある。α−Fe等の軟磁性相が発生すると保磁力や角型性が低下するため、磁気特性を向上させるには、粉砕により得られた母合金微粉末を、窒化処理に先立って、アルゴン、ヘリウム、真空等の非酸化性かつ非窒化性雰囲気中、600℃以下で熱処理し、結晶の歪みを除去しておくことが好ましい。
特に、窒化処理と同時に400〜600℃で熱処理を行うと処理コストを下げられるためメリットが大きい。窒化処理と同時の場合は、熱処理温度が400℃未満であると、残留する結晶の歪みを除去する効果が十分でなく、一方、600℃を超えると、窒化鉄などを生成してしまうので好ましくない。
【0038】
(水素アニール、アルゴンアニール)
なお、上記のように、アンモニア−水素混合ガス中で窒化した後の合金粉中には水素が高含有量で残留している場合があり、水素残留量が多いままでは磁気特性が低下するため、必要によって十分に水素を除去しておく必要がある。また、窒素が多すぎると、磁化や保磁力が下がってしまうので、必要によって十分に窒素を除去しておく必要がある。
そのため上記窒化処理の終了後、水素アニール、アルゴンアニールをすることが好ましい。例えば、水素アニールを0.5〜2時間、アルゴンアニールを0.3〜1時間行い、アルゴンを流した状態で室温まで自然または強制冷却をすればよい。
水素アニールは、希土類−遷移金属−窒素系合金主相に過剰に入った窒素を抜きだす効果があり、また、アルゴンアニールは希土類−遷移金属−窒素系合金主相に過剰に入った水素を抜く効果がある。これにより該合金粉末の過剰な窒素、水素が抜け、理論上、最も磁気特性の高い組成に近づかせることができる。
【0039】
(解砕又は微粉砕)
解砕または微粉砕を行うことにより、焼結した粉末同士をばらばらにして、さらに高い特性を得ることができる。解砕、微粉砕を行う方法は特に限定されないが、例えば湿式粉砕機、乾式粉砕機、ジェットミル、アトライターなどが挙げられる。アトライターは適当な粉砕溶媒を選択することにより合金粉末を安価に微粉砕できるので好ましい装置といえる。この際、微粉末を乾燥する必要があるが、真空中で乾燥すれば短時間で効率的に乾燥できるので好ましい。
【0040】
2.希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末
このようにして得られる本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、次の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系合金からなるニュークリエーションタイプの磁石粉末である。
Fe(100−x−y−z) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
この希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の平均粒径は、磁気特性上、1〜30μmであることが好ましい。
【0041】
(磁石粉末の表面処理)
得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、空気中、温度や湿度の高い雰囲気中に置かれると錆びたり劣化したりして磁気特性が低下する場合があるため、燐酸や有機燐酸エステル系化合物、亜鉛などの金属粉末、シリルイソシアネート系化合物、シリケート系化合物、あるいはチタネート系、アルミニウム系、シラン系など各種カップリング剤によって表面処理することが望ましい。
例えば、希土類−鉄−マンガン−窒素系磁石粉末に亜鉛粉末とカップリング剤を加えたものを、有機溶媒を媒液として湿式粉砕することができる。磁石粉末の粉砕時に亜鉛粉末及びカップリング剤が存在すると、粉砕された磁石粉末表面にカップリング剤及び亜鉛粉末がコ−ティングされ、粒子同士の付着が防止されて粉砕速度が早くなる。また、亜鉛粉末がコ−ティングされることにより、磁石粉末表面近傍の変質層が磁気的に無害なものになるため、高磁気特性が得られる。また、表面処理剤として有機燐酸エステル系化合物あるいはシリルイソシアネート系化合物を用いる場合、被覆または塗布手段は特に限定されないが、例えば、まず処理剤を磁性粉100重量部に対して約5〜10重量部の溶媒に溶解した後、磁性粉と充分に混合撹拌し、24時間以上真空または減圧乾燥することにより行うことができる。この時、溶媒としては、アルコール類、ケトン類、低級炭化水素類、芳香族類、またはこれらの混合系有機溶媒等が用いられる。
【0042】
3.ボンド磁石用組成物
本発明のボンド磁石用組成物は、上記製造方法により得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合したものである。すなわち、前記した本発明の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、バインダー成分として熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを配合し、混合することにより、優れた特性を有するボンド磁石用組成物となる。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、4−6ナイロン、12ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ふっ素樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトンなどを用いることができる。
また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、キシレン樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、熱硬化型シリコーン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型フッ素樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂などを用いることができる。
さらに、バインダー成分の種類にもよるが、重合禁止剤、低収縮化剤、反応性樹脂、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、変性剤、増粘剤、滑剤、カップリング剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、無機充填剤や顔料などを添加することができる。
本発明のボンド磁石用組成物を調製する際に用いられる混合機としては、特に制限がなく、リボンミキサー、V型ミキサー、ロータリーミキサー、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、ナウターミキサー、タンブラー等が挙げられる。また、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ウェットミル、ジェットミル、ハンマーミル、カッターミル等を用いることができる。各成分を粉砕しながら混合する方法も有効である。
【0044】
4.ボンド磁石
本発明のボンド磁石は、上記ボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石である。すなわち、上記希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を含むボンド磁石用組成物は、混練後、下記の要領で成形してボンド磁石とすることができる。
【0045】
上記熱硬化性樹脂を配合したボンド磁石用組成物を用いる場合は、圧縮成形または射出成形によることが好ましい。圧縮成形の場合は、得られるボンド磁石全重量に対する樹脂量としては1〜5重量%、射出成形では、樹脂粘度の調整や金型の温度等の最適条件を選択する必要があるが、7〜15重量%が好ましい。
圧縮成形する場合は、前記混合比で、例えば、混合機(例えば、井上製作所(製))で混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用い、金型に800kA/m(10kOe)以上の磁界を印加しながら、4ton/cmの圧力でプレス成形する。
また、射出成形の場合では、前記混合比で加熱加圧ニーダー装置を用いて混合し、金型に磁界を印加するための電磁石を具備したプレス装置を用いて成形する。組成物を、例えば、30〜80℃の成形温度に加温したシリンダー中で溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形して、樹脂の硬化温度まで加熱し、一定時間保持して硬化させる。
【0046】
一方、熱可塑性樹脂を配合したボンド磁石用組成物を用いる場合は、射出成形によることが好ましく、樹脂量としては5〜20重量%が好ましい。熱可塑性樹脂を配合したボンド磁石用組成物は、溶融温度、例えば210℃以上に加温したシリンダー中で組成物を溶融し、800kA/m(10kOe)以上の磁界が印加された金型中に射出成形し、冷却後、固化した成形物を取り出せば良い。
【実施例】
【0047】
次に実施例、比較例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
<磁気特性評価>
希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末試料の磁気特性は、次のように測定した。まず、パラフィンを詰めたサンプルケースを準備し、それに磁石粉末を詰め、その後、加熱配向、冷却固化を行い、振動試料型磁力計(VSM)(東英工業(株)製)を用い、ヒステリシスループを描かせた(最大印加磁場1190kA/m(15kOe))。
射出成形ボンド磁石に関しては、cioffi型自記磁束計(東英工業(株)製)を用いて磁気特性を測定した。
<平均粒径の測定>
磁石粉末の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計(Sympatec社製)を用いて測定した。
【0049】
(実施例1〜3、比較例1〜3)
次に示す製造方法でSm−Fe−Mn−N合金磁石粉末を作製した。まず、出発原料として、Fe粉(純度99.0原子%以上)、Mn(純度99.0原子%以上)、Sm(99.0原子%以上)を準備した。上記原料に還元剤としてSm、Mnを十分に還元できるように過剰量のCa(純度99.3%以上)を加え、混合機で1時間混合した。得られた混合物を反応容器に入れ水が浸透しやすくなるように穴を等間隔に開けた後、さらに還元拡散容器に移した後、電気炉(還元拡散炉)に装入し、アルゴン置換した後、アルゴン流量0.5〜1L/分として、1200℃で8時間保持し、Sm、Mnを還元しFe中に拡散させSm−Fe−Mn合金の還元物を製造した。
実施例1では還元物10kgを真空引きできるステンレス製容器に入れ、0.001MPaまで真空引きしたのち、還元物に直接かかるように純水を230cc/kg(還元物1kgに対し純水230g)入れ、還元物を水と反応させ12時間放置した。
実施例2では還元物10kgを真空引きできるステンレス製容器に入れ、0.001MPaまで真空引きしたのち、還元物に直接かかるように純水を52cc/kg入れ、還元物を水と反応させ4時間放置し、その後、容器内圧が0.11〜0.14MPaになるように水素ガスを流し(水素量8L/kg)、8時間水素崩壊させた。
比較例1では還元拡散条件を1300℃−12時間とし、水、水素ガスによる崩壊処理を行わなかった。
比較例2では実施例1と同様の還元拡散条件で行い、水での崩壊処理を行わず、真空引き次いでアルゴン置換ののち、さらに真空引きを行い、容器内圧が0.11〜0.14MPaになるように水素ガスを流し、12時間水素崩壊させた。
その後、実施例1、2、比較例1、2の還元物それぞれ1kg対し水が10L入っている水槽に入れ、10分攪拌後、上澄みを抜き、この作業を10回繰り返してCaを除去し、酢酸を用いて酸洗処理を行った。その後、アルコールでデカンテーションし、真空中100℃、5時間乾燥し、Sm−Fe−Mn母合金粉を得た。
次に、得られた母合金粉末を、アンモニア−水素混合ガス中、480℃で8時間窒化処理、その後、水素アニール、窒素アニールを行い、Sm−Fe−Mn−N粗粉を製造した。
さらに実施例1で得られた磁石粗粉(試料)1kgをアトライター(三井鉱山(株)製)で、アルコールを溶媒として用い、200rpm、30分粉砕を行った。その後ろ過し、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)で攪拌しながら真空加熱乾燥を行い、Sm−Fe−Mn−N粉砕粉を製造し、実施例3とした。
実施例1〜3、比較例1、2のSm−Fe−Mn−N粗粉、Sm−Fe−Mn−N粉砕粉の平均粒径を表1、Sm−Fe−Mn−N組成、磁気特性を表2に示す。
実施例1、2は、比較例1、2に比較し粉末特性が同等以上であり、実施例3は、さらに特性が高いことが分かる。このように実施例によれば、水素ガスを使用せずまたは使用量を削減して、安全かつ安価に高特性のSm−Fe−Mn−N粗粉・粉砕粉を製造できる。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
(実施例4〜6、比較例3、4)
上記実施例1〜3、比較例1、2で製造したSm−Fe−Mn−N粗粉・粉砕粉をそれぞれ91.0重量%採り、これに熱可塑性樹脂12ナイロン(PA12(宇部興産(株)製)を9.0重量%の割合で混合し、ボンド磁石用組成物を調製した。
次に、このボンド磁石用組成物をナカタニ混練機(ナカタニ製)で190℃−1パス、その後、シリンダー温度210℃、成形圧力1tonでφ20×13mmの形状に射出成形した。実施例4〜6、比較例3、4で組成物を射出成形した成形体を各々成形体1〜5とした。
得られた射出成形ボンド磁石の磁気特性を表3に示す。実施例4、5の成形体1,2は、比較例3、4の成形体4,5に比較すると磁気特性が同等以上であり、実施例6の成形体3は、さらに特性が高いことが分かる。
【0053】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属合金粉末、希土類酸化物粉末、及び該希土類酸化物を還元するための還元剤を混合し、この混合物を非酸化性雰囲気中で加熱焼成して希土類−遷移金属系母合金からなる還元拡散反応生成物を得て、次いで、該反応生成物を崩壊させて、得られた平均粒径が5〜50μmである希土類−遷移金属合金粉末を窒化処理することにより、下記の一般式(1)で表される希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末を得る製造方法において、
前記還元拡散反応生成物の表面に水または水と水素ガスを供給して、該反応生成物に含まれる過剰な還元剤、及び、希土類−遷移金属系母合金粉末表面と反応させ、発生する水素またはこれと供給した水素ガスを希土類−遷移金属系母合金に吸収させ、水素を吸収しながら合金相が膨張し還元拡散反応生成物に歪を生じさせること、及び、該反応生成物中の希土類−遷移金属系母合金同士を溶着させている還元剤を酸化物にすることによって、還元拡散反応生成物を崩壊させることを特徴とする希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
Fe(100−x−y−z) ・・・(1)
(式(1)中、Rは1種または2種以上の希土類元素、MはCu、Mn、Co、Cr、Ti、NiおよびZrからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素を示し、また、x、y、zは原子%で、4≦x≦18、0.3≦y≦23、15≦z≦25を満たす。)
【請求項2】
還元拡散反応生成物を崩壊させる際、水の供給量が該反応生成物1kgあたり5〜500mlであることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
還元拡散反応生成物を崩壊させる際、水素の供給量が該反応生成物1kgあたり40L以下であることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
水のみを還元拡散反応生成物に供給する場合、供給後に7〜15時間放置することを特徴とする請求項1〜3に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
水と水素ガスを還元拡散反応生成物に供給する場合、水素を供給した後、7〜10時間放置することを特徴とする請求項1〜3に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
得られた希土類−遷移金属−窒素合金の粗粉末が、さらに微粉砕または解砕されることを特徴とする請求項1に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られ、平均粒径が1〜30μmである希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末。
【請求項8】
請求項7に記載の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末に、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれかを樹脂バインダーとして配合してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石用組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のボンド磁石用組成物を圧縮成形又は射出成形してなる希土類−遷移金属−窒素系ボンド磁石。

【公開番号】特開2009−197296(P2009−197296A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42410(P2008−42410)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】