説明

希突起膠細胞前駆細胞ならびに希突起膠細胞前駆細胞を得るための方法および培養するための方法

本発明は、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団、および希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法を記載する。他の方法としては、上記細胞の特徴を変化させずに長期間、希突起膠細胞前駆細胞の均質集団を維持および保存するための方法、ならびに希突起膠細胞前駆細胞を脱分化させるための方法が挙げられる。希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団または希突起膠細胞の均質集団は、CNS障害またはCNS状態を有する患者を処置するために有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国仮出願番号60/487,933(2003年7月18日)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法、および本発明の方法によって得られる細胞に関する。
【0003】
本発明はさらに、細胞の特徴を変化させずに長期間、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を維持するための方法に関する。
【0004】
本発明の希突起膠細胞前駆細胞は、(消化試薬(例えば、トリプシン)を介した)細胞解離を経時的に利用し、その後の規定の培地条件によって脱分化されて、以前の発生段階に逆戻りし得る。従って、本発明はまた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞または希突起膠細胞の分化した均質集団および脱分化した均質集団を得るための方法に関する。
【0005】
最後に、本発明は、本発明の細胞を使用して患者を処置するための方法、ならびにミエリンの減少をもたらす脱髄疾患および神経変性疾患の処置における使用のための薬物候補をスクリーニングするための方法に関する。
【背景技術】
【0006】
(発明の背景)
多くの脊椎動物ニューロンの軸策は、ミエリン鞘によって絶縁され、このミエリン鞘は、軸策が活動電位を伝導する速度を大きく増大させる。希突起膠細胞は、中枢神経系のミエリンの形成を担う。これらの希突起膠細胞は、軸策の周りにしっかりとらせん状に、その原形質膜の層の上に層を巻きつけて鞘を形成し、従って、軸策の膜を絶縁し、その結果、ほとんど電流は、その膜の向こう側には漏れない。鞘は、規則正しい間隔のランヴィエ絞輪で遮断され、そこでは、軸策におけるほとんど全てのナトリウムチャネルが、集中している。軸策の膜の鞘で覆われた部分は、優れたケーブル特性を有することから、ある結節の膜の脱分極は、ほぼ即時に次の結節へ受動的に広がる。従って、活動電位は、結節から結節へと飛び越すことによって髄鞘形成された軸策にそって伝播する。この型の伝導は、以下の2つの主な利点を有する:活動電位は、より高速に伝わり、そして代謝エネルギーは、保存される。なぜなら、活動興奮がランヴィエ絞輪で軸策の原形質膜の小さな領域に制限されるからである。
【0007】
髄鞘形成の重要性は、脱髄した疾患の多発性硬化症によって劇的に示され、ここで、中枢神経系のいくつかの領域におけるミエリン鞘は、未知の機構によって破壊される。髄鞘形成の重要性はまた、多くの神経変性疾患に強く示され、ここで、ミエリン化されたニューロンは、損傷している。これが起こった場合、神経インパルスの伝播は、非常に遅くなり、しばしば、壊滅的な神経学的な結果をともなう。
【0008】
希突起膠細胞は、末期に分化した細胞であるようであり、この分化した細胞は、インビボでさらなる細胞分裂を起こさず、その結果、インビトロで長期培養することは困難である(Verityら,J.Neurochem.,60:577,1993)。希突起膠細胞前駆細胞(これは、増殖能力および分化の潜在性を有する)は、細胞分化および髄鞘形成/脱髄/再髄鞘形成の細胞機構および分子機構がインビトロで研究され得る系を提供し、インビボでの髄鞘形成/再髄鞘形成を促進するための供給源を提供する。しかしながら、希突起膠細胞は、中枢神経系(CNS)で希突起膠細胞前駆細胞から非同調的に発生するので、希突起膠細胞はまた、表現型的に不均質な集団であり得ると考えられる(Skoffら,J.Comp.Neurol.169:313−334,1976)。実際、分離した周産期の脳から開始された培養は、本質的に、非同調性の発生的成熟度を有する不均質集団である。従って、同一の発生段階を有する第一の希突起膠細胞前駆細胞の表現型的に均質な集団を単離することは、困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、同調発生段階を有する同調的な希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団についての必要性、ならびにその同一物を得て、維持し、そして保存するための方法についての必要性が当該分野に残っている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要旨)
一局面において、本発明は、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法を提供する。この方法は、有効量の線維芽細胞増殖因子(FGF)、好ましくは塩基性FGF(bFGF)を含む培地中、かつ血小板由来増殖因子(PDGF)の実質的な非存在下で非同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の不均質集団を培養する工程を包含する。この方法は、以下の能力のうちの1つ以上によって特徴づけられ得る同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を生じる:(1)分化なしでのbFGFに応答する自己再生性増殖、(2)マイトジェンまたは血清の非存在下での希突起膠細胞の均質集団への末期分化、(3)BMP−2の存在下での2型星状膠細胞の均質集団の生成、(4)脱分化、(5)インビトロおよびインビボでの髄鞘形成の促進、(6)1型星状膠細胞に分化するための潜在力の欠如、および(7)凍結された後の融解において細胞の特徴の変化なしでの高い生存度。
【0011】
細胞の特徴の変化は、これらの細胞の特定の特徴(例えば、多能幹細胞と同じような自己再生性増殖の能力、ならびに同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の表現型的に均質な集団が、回復の際に高い生存で、かつ細胞の特徴の変化なしで保存される能力(これは、これらの細胞の特定の特徴に基づき、凍結融解処理に対する高い耐性を含む))に基づいて決定される。
【0012】
本発明はまた、単一の分化系統に制限され得る同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を含む。例えば、このような細胞は、集団全体が単一の系統(例えば、成熟希突起膠細胞または2型星状膠細胞)に分化するという点で限定され得る。
【0013】
本発明の別の局面において、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団はまた、培養にて永久に維持され得る。従って、本発明はまた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を、得て、維持し、そして培養において永久に保存する方法を提供し、この方法は、有効量のFGF、好ましくはbFGFを含む培地中、かつPDGFの実質的な非存在下で同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質集団を培養する工程を包含する。
【0014】
本発明はまた、マイトジェンを含むか、または含まない凍結培地中に希突起膠細胞前駆細胞を凍結することによって、生存可能で、凍結され、未分化で、かつ均質な希突起膠細胞前駆細胞を保存する方法を提供する。上記希突起膠細胞前駆細胞は、融解の際に、高い生存度で回復され、それらが凍結される前に有していたのと同一の表現型の特徴および発生の特徴を保持する。
【0015】
本発明の方法によって得られる希突起膠細胞前駆細胞は、マイトジェンまたは血清の非存在下で成熟希突起膠細胞の均質でかつ同調の集団を生成するために使用され得、そしてニューロンの軸策をミエリン化する能力を有し得る。本発明の方法によって得られる希突起膠細胞前駆細胞はまた、2型星状膠細胞の均質な集団を生成するために使用され得、これは、特定のマイトジェン(例えば、骨形成タンパク質2(BMP−2)およびBMP−4)の存在下で増殖する能力を欠如する。本発明の希突起膠細胞前駆細胞はさらに、1型星状膠細胞を生成しない。
【0016】
本発明はさらに、最初に単離された希突起膠細胞前駆細胞よりも発生学的に、または表現型的に初期の段階の、脱分化した希突起膠細胞前駆細胞の均質集団を得るための方法を提供する。この方法は、脱分化を促進する少なくとも1種の因子を含む培地にて、希突起膠細胞前駆細胞、または同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質集団を培養する工程を包含する。脱分化を促進する因子は、bFGF、PDGF、NT−3、または他の増殖因子のうちの1種以上であり得る。脱分化した希突起膠細胞前駆細胞(または同調発生段階を有する脱分化した希突起膠細胞前駆細胞の均質集団)は、希突起膠細胞および2型星状膠細胞に再分化し得る。
【0017】
本発明はさらに、最初に単離された希突起膠細胞前駆細胞よりも発生学的に、または表現型的に後期の段階の増殖中の希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得る方法を提供する。この方法は、より分化した段階の分化を促進する少なくとも1種の因子を含む培地にて、希突起膠細胞前駆細胞、または同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質集団を培養する工程を包含する。このより分化した段階はさらに、より分化した段階の細胞が増殖する能力によって特徴づけられる。より分化し、かつ増殖する段階を促進する因子は、低投薬量のbFGFまたは他の増殖因子であり得る。
【0018】
本発明の同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団は、希突起膠細胞前駆細胞の生物学的機能および/または分化段階に影響する化合物をスクリーニングするためのシステムを提供する。従って、本発明はさらに、化合物をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団と試験化合物とを接触させる工程、ならびにこの希突起膠細胞前駆細胞、および/または培養培地の変化を検出する工程を包含する。この変化は、上記希突起膠細胞前駆細胞の任意の特徴、および/もしくは培養培地中の任意の物質のレベルの増加または減少であり得る。この特徴は、例えば、以下における変化のうちの1つ以上であり得る:髄鞘形成、希突起膠細胞もしくは2型星状膠細胞への分化、増殖速度、細胞移動、生存度、遺伝子発現、タンパク質発現、培養培地中のタンパク質レベル、脱分化、または細胞形態。
【0019】
本発明の同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団はまた、患者の処置(例えば、細胞治療)に有用である。患者は、ミエリン鞘の変敗、またはミエリン鞘に対する損傷に起因する神経系の状態を被り得るか、または有し得る。本発明は、患者を処置する方法を提供し、この方法は、この患者に、本発明の希突起膠細胞前駆細胞の治療有効量を投与する工程を包含する。本発明の実施形態において、上記希突起膠細胞前駆細胞は、患者において所望の遺伝子の発現を指向する核酸ベクターまたは生物学的ベクターを含み得る。
【0020】
(発明の詳細な説明)
多能性神経上皮幹細胞(NSC)は、中枢神経系(CNS)の全ての細胞を生み出すと考えられている。これらの細胞は、大まかにニューロンまたはグリア細胞のいずれかに分類される。グリア細胞は、さらに星状膠細胞と希突起膠細胞に細分される。細胞特異的抗体の一団によって同定される発生マーカーの連続的発現は、別個の表現型の段階へとその系統を分ける。これらの細胞はまた、それらの増殖能、移動能、および形態の劇的な変化によって特徴付けられる。図1は、発生マーカーおよび細胞形態によって特徴付けられる異なる細胞型の模式的表現を示す。これらのマーカーのいくつかは、以下でより詳細に考察される。
【0021】
(ネスチン)
ネスチンは、神経上皮幹細胞(NSC)上に特異的に発現されるタンパク質であり、したがって、これらの細胞を、神経管内における他のより分化した細胞から区別する(Lendahlら,Cell 60:585−595,1990)。ネスチンはまた、グリア細胞前駆細胞によっても発現される。培地中では、増殖中の希突起膠細胞前駆細胞上において高レベルのネスチンが観察されているが、このタンパク質は、分化した希突起膠細胞においてはダウンレギュレートされる(Galloら,J.Neurosci.15:394−406,1995)。
【0022】
(A2B5)
モノクローナル抗体A2B5(Eisenbarthら,PNAS 76:4913−4917,1979)によって認識される抗原は、インビボにおいて、ニューロンおよびグリア細胞の両方で発現され、そして希突起膠細胞培養物において、希突起膠細胞前駆細胞の成熟を追跡するために使用される。A2B5抗原は、その細胞が成熟希突起膠細胞へと分化するのに従って、ダウンレギュレートされる。
【0023】
(O4)
モノクローナル抗体O4(Sommerら,Dev Biol 83:311−327,1981)は、希突起膠細胞成熟の、特定の前希突起膠細胞段階を標識する。細胞がモノクローナル抗体O4に結合する場合、この細胞は、O4(+)とみなされる。細胞がこのモノクローナル抗体に結合しない場合、この細胞は、O4(−)とみなされる。O4マーカーの役割は、以下でより詳細に考察される。
【0024】
(糖脂質)
希突起膠細胞およびミエリン中に、特異的糖脂質が存在する(例えば、ガラクトシルセラミド(GalC)(ガラクトセレブロシド)およびスルホガラクトシルセラミド(スルファチド))。ガラクトシルセラミドおよびスルホガラクトシルセラミドは、希突起膠細胞前駆細胞上の初期マーカーであり、培養中およびインビボにおける、成熟希突起膠細胞の表面上に存在している(Pfeifferら,Trends Cell Biol 3:191−197,1993;Raffら,Brain Res 174:283−308,1979;Zalcら,Brain Res 211:341−354,1981)。ガラクトセレブロシドを同定するために使用される主な抗体は、O1である(Sommerら,Dev Biol 83:311−327,1981)。したがって、GalCを発現する細胞は、多くの場合、O1(+)と称される。
【0025】
(ガングリオシドGD3)
インビトロにおいて、GD3は、希突起膠細胞前駆細胞上で高度に発現され、そしてGD3発現は、細胞成熟に従って消失する(Hardyら,Development 111:1061−1080,1991)。インビボにおいては、GD3はまた、他のグリア細胞型(例えば、未成熟神経外胚葉性細胞(ニューロンおよび星状膠細胞の下位集団)休止アミロイド小グリア細胞、ならびに反応性小グリア細胞)において発現される。
【0026】
(PSA−NCAM)
神経細胞接着分子の胚性ポリシアル酸化形態、PSA−NCAMの発現は、神経の構造変化(例えば、移動、軸索伸長)の調節および維持、ならびに可塑性のために重要であると考えられる(Cremerら,Int.J.Dev.Neurosci.18:213−220,2000)。PSA−NCAMの発現およびGD3発現のないことは、ともに希突起膠細胞前駆細胞が生じる前駆段階を特徴付ける(Hardyら,Development 111:1061−1080,1991;Grinspanら,J.Neurosci Res 41:540−545,1995)。
【0027】
(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびプロテオリピドタンパク質(PLP))
ミエリンの30重量%を構成するミエリンタンパク質は、ミエリンおよび希突起膠細胞の特異的成分である。主要なCNSミエリンタンパク質である、MBPおよびPLPは、低分子量タンパク質であり、全ミエリンタンパク質の約80%を構成する。したがって、MBPおよびPLPは、成熟希突起膠細胞を特徴付ける特異的マーカーである。
【0028】
(グリア線維酸性タンパク質(GFAP))
星状膠細胞は、グリアフィランメントと呼ばれる中間径フィラメントを含む。これは、GFAPのポリマーであり、そして抗GFAP抗体を用いる免疫組織化学技術によって、CNSの組織切片および培養物において容易に同定され得る。2つの異なる型のGFAP+星状膠細が存在することが知られている:1型星状膠細胞(T1A)は、線維芽細胞様の形態を有し、培養物中で増殖し、特に上皮増殖因子(EGF)に反応し、そしてA2B5抗体に結合しない;2型星状膠細胞(T2A)は、ニューロンもしくは希突起膠細胞と形態が似ており、培地中ではほとんど分裂せず、そしてA2B5抗体に結合する。2型星状膠細胞は、A2B5+、GFAP−前駆細胞から発生すると見られ、これは、培養物中で迅速にGFAPを獲得する(Raffら,J.Neurosci.3:1289−1300,1983)。上記2つの型の星状膠細胞は、培養中に1つの型から他の型に変換しない(同著)。
【0029】
多くの特徴が、希突起膠細胞と星状膠細胞とを区別する。特に、希突起膠細胞は、大きさがより小さく、より高い密度の細胞質および核を有し、細胞質において中間径フィラメント(原線維)およびグリコーゲンを欠き、そしてより多くの微小管を有する(Petersら,The Fine Structure of the Nervous System:the Neuron and the Supporting Cells.Oxford,UK:Oxford Univ.Press,1991に概説される)。希突起膠細胞は、多くの細胞伸長部もしくは突起を有し得、その各々は、軸索一帯に接触して、この軸索一帯を繰り返し包み、その後、この多重螺旋膜を形成するミエリンを圧縮する。同じ軸索上で隣接するミエリンセグメントは、異なる希突起膠細胞に属し、そして全てのミエリン単位は、ランヴィエ絞輪の近くで終結する(Bungeら,J.Cell Biol.12:448−459,1962;Bunge,Physiol Rev 48:197−210,1968)。
【0030】
これらのミエリン形成細胞への最終成熟前に、希突起膠細胞は、特定の特異的細胞表面レセプターの発現、および個々の増殖因子への応答によって定義される多くの発生段階を経る。最もよく定義された希突起膠細胞前駆細胞は、A2B5(+)O4(−)希突起膠細胞2型星状膠細胞(O−2A)前駆細胞である(Nobleら,Glia 15:222−230,1995;Raff,Science 243:1450−1455,1989;Miller,Trends Neurosci 19:92−96,1996;Richardsonら,Semin.Neurosci.2:445−454,1990)。O−2A前駆細胞は、インビボで希突起膠細胞および2型星状膠細胞へと分化し得、しかし1型星状膠細胞へは分化し得ない。したがって、O−2A前駆細胞は、両能性であるとみなされている。O−2A前駆細胞は、インビボにおいて、増殖因子の存在下で、自己再生もしくは自己増殖を起こすように誘導され得る。例えば、血小板由来増殖因子(PDGF)の存在下での増殖は、希突起膠細胞の自己再生および産生の両方に関連する(Richardsonら,Cell 53:309−319,1988;Raffら,Nature 333:562−565,1988;Nobleら,Nature 333:560−562,1988)、一方、PDGFおよび塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の両方の存在下における増殖は、分化することのない継続的な自己再生を刺激する(Boglerら,PNAS 87:6368−6372,1990)。特に、O−2A前駆細胞が、唯一の外因性増殖因子として添加されたbFGFを含む培地中で培養される場合、O−2A細胞は、早発性の希突起膠細胞分化を起こす(同著)。O−2A前駆細胞はまた、10%ウシ胎仔血清で処置される場合、2型星状膠細胞への分化を誘導される(Raffら,Nature 303:390−396,1983)。
【0031】
形態学的に、O−2A前駆細胞は、一般的に双極である(2つの主要な細胞伸長部を有する)。O−2A前駆細胞が成熟するに従って、それらは、多極になり、運動性が低下するが、しかしまだモノクローナル抗体O4に反応する増殖性細胞である。これに、一過性の発生段階pre−GalCが続く。これらの後O−2A細胞であるが、前希突起膠細胞であるものは、集合的に、A2B5(+)O4(+)O1(−)細胞と呼ばれてきた。最終分化の開始(すなわち、未成熟希突起膠細胞段階)は、モノクローナル抗体O1に対して反応性であるガラクトシルセラミド(GalC)の合成および表面への移送によって同定される。特徴的な1日もしくは2日の遅れの後、成熟希突起膠細胞は、最終マーカー(例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびプロテオリピドタンパク質(PLP))の調節性発現、ならびにミエリン膜の合成とともに発生する。O−2A前駆細胞およびそれらのより分化した希突起膠細胞前駆細胞についてのほとんどの研究は、齧歯類から単離されて、研究されているが、双極O−2A細胞、多極A2B5(+)O4(+)細胞、および成熟O1(+)希突起膠細胞は、ヒト胎児脳からも同定されている(Rivkinら,Ann Neurol 38:92−101,1995)。
【0032】
より最近では、他の希突起膠細胞前駆細胞が同定されている。グリア制限前駆細胞(glial restricted precursor)(GRP)と称される三分化能性(tripotential)前駆細胞が、ラット脊髄から単離されており、そして両能性O−2A前駆細胞とは異なることが見出されている(Raoら,PNAS 95:3996−4001,1998;Raoら,Dev Biol 188:48−63,1997)。O−2A前駆細胞と同様に、GRPはA2B5(+)免疫応答性細胞であり、かつニューロン前駆細胞へもニューロンへも分化することはできない。O−2A細胞と異なり、GRPは、希突起膠細胞および星状膠細胞の両方の型(1型(A2B5(−)GFAP(+))および2型(A2B5(+)GFAP(+))へと分化し得る。さらに、新たに単離されたGRPは、O−2A細胞と異なり、PDGFに対して反応性でない。PDGFに反応するGRP細胞の能力は、しかし、bFGFおよびPDGFを含有する培地中での増殖の数日後、獲得され得る。形態学的には、GRP細胞は、単極性もしくは双極性である。GRP細胞が、PDGFおよび甲状腺ホルモン(TH)の存在下で増殖する場合、O−2A前駆細胞を産生し得(Gregoriら,J Neurosci 22:248−256,2002)、したがって最も初期に同定されるグリア制限細胞を構成し得ることが最近実証された。
【0033】
グリア前駆細胞の別のクラス、オリゴスフェア(oligosphere)と称される)が同定されている。オリゴスフェアは、A2B5免疫応答性細胞を含むと考えられている浮遊細胞凝集体である(Avellana−Adalidら,J Neurosci Res 1:558−570,1996)。オリゴスフェアは、元はラット新生仔脳から単離された(Avellana−Adalidら,J Neurosci Res 1:558−570,1996)が、その後成体ラット(Zhangら,PNAS 96:4089−4094,1999)、イヌ(Zhangら,J Neurosci Res 54:181−190,1998)、および胚性幹細胞(Brustleら,Science 285:754−756,1999;Mujtabaら,Dev Biol 214:113−127,1999;Liuら,PNAS 97:6126−5131,2000)からも単離されている。オリゴスフェアは、培養中に分裂し、未分化細胞の浮遊性の球(sphere)として増殖し得る。オリゴスフェアは、分離および付着によって分化するように誘導され得る。分化の際に、オリゴスフェアは、希突起膠細胞および星状膠細胞を産生する(同著)。これらの星状膠細胞の表現型は特徴付けられていないが、これらは、1型星状膠細胞であると推測されるs(Leeら,Glia 30:105−121,2000)。したがって、このことは、オリゴスフェアおよびO−2A前駆細胞が別個の細胞であることを示唆する。
【0034】
神経細胞より先に眼を向けると、胚性幹(ES)細胞は、哺乳動物に存在する最も初期の全能性細胞であり、神経上皮幹細胞の供給源としても働き得、神経上皮幹細胞は、次いで、ニューロン、希突起膠細胞および星状膠細胞を産生し得る。実際、ES細胞を外傷により損傷した脊髄に移植すると、移植されたES細胞が生存し、そして星状膠細胞、希突起膠細胞およびニューロンへと分化したことが示された(McDonaldら,Nature Med.5:1410−1412,1999)。他は、ES細胞からオリゴスフェアを単離し、そのオリゴスフェアを、ミエリン欠乏性変異マウスの脊髄へと移植した。宿主細胞へ移動すると見られるES由来のオリゴスフェアは、ミエリンを生じ、宿主の軸索を有髄化する(Liuら,PNAS 97:6126−6131,2000)。しかし、胚性組織の使用は、論争の的となりつつある。
【0035】
希突起膠細胞前駆細胞の希突起膠細胞の発生は、高度に調節された、また比較的規定されていない種々の環境因子に関わるプロセスである。実際、グリア制限細胞(グリア芽細胞)へと分化し、グリア芽細胞に関して、さらに希突起膠細胞もしくは星状膠細胞へと分化する多能性細胞の能力は、種々の増殖因子および転写因子によって媒介されるように見える。インビボおよびインビトロで重要とみなされる多くの分子は、以下に概説される:Collariniら,J Cell Sci(Suppl)15:117−123,1991;McMorrisら,Brain Pathol 6:313−329,1996;Leeら,Glia 30:105−121,2000;Baumannら,PhysiolRev 81:871−927,2001。これらの分子としては、血小板由来増殖因子(PDGF),塩基性FGF(bFGF)、インシュリン様増殖因子I(IGF−I)、ニューロトロフィン−3(NT−3)、グリア細胞増殖因子(GGFもしくはニューレグリン)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、インターロイキン−6(IL−6)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、IL−2、トリヨードチロニン(T3)、レチノイン酸(RA)、cAMP、増殖調節癌遺伝子−α(GRO−α)および種々のホルモンが挙げられるが、これらに限定されない。これらのいくつかは、以下でより詳細に考察される。
【0036】
(血小板由来増殖因子(PDGF))
PDGFは、グリア細胞の増殖および希突起膠細胞への分化の両方のために重要な増殖因子として同定されており、星状膠細胞およびニューロンによって、発生の間に産生される。PDGFは同様に、発生の間に重要な役割を果たす。なぜなら、PDGF−Aヌル(null)マウスは、初期希突起膠細胞の生成の、完全な欠乏ではないが、大幅な減少を示したからである(Fruttigerら,Development 126:457−467,1999)。しかし、PDGFレセプターα(PDGFR−α)は、多能性神経上皮細胞でも、新たに単離されたGRP細胞でも観察されなかった(Raoら,PNAS 95:3996−4001,1998)。したがって、PDGFは、発生の初期段階よりもむしろ、多能性神経上皮細胞がより制限されたグリア前駆細胞を産生する後期段階で作用するのであろう。
【0037】
インビトロにおいて、PDGFは、O−2A細胞の増殖および運動性を増強し(McKinnonら,Glia 7:245−254,1993;Nobleら,Nature 333:560−562,1988;Raffら,Nature 333:562−565,1988;Richardsonら,Cell 53:309−319,1988)、そしてインビボにおいて新たに産生した希突起膠細胞のための生存因子として役立ち得る(Barresら,Cell 70:31−46,1993)。PDGFおよび他の環境シグナルの非存在下において、前駆細胞は、未成熟で分裂を停止し、専ら、希突起膠細胞へと分化する(Templeら,Nature 313:223−225,1985;Raffら,Nature 333:562−565,1988)。しかしPDGFの存在下でさえ、O−2A前駆細胞は、細胞の内因性時限(timing)機構が、それらの分裂を停止させ、希突起膠細胞へ分化させる前に限られた回数分裂するのみである(Raffら,Nature 333:562−565,1988)。
【0038】
(塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFもしくはFGF−2))
bFGFは、培養物中で発生する希突起膠細胞の増殖を刺激し(Ecclestonら,Brain Res 210:315−318,1984;Sanetoら,PNAS 82:3509−3515,1985;Besnardら,Neurosci Lett 73:287−292,1987;Besnardら,Int J Dev Neurosci 7:401−409,1989;Beharら,J Neurosci Res 21:168−180,1988)、そしてまた、分裂回数もしくは分裂期間において制限された増殖能で、希突起膠細胞前駆細胞増殖を刺激する一方で、希突起膠細胞への分化を防止する(McKinnonら,Ann N.Y.Acad Sci 638:378−386,1991;McKinnonら,Glia 7:245−254,1993;Qianら,Neuron 18:81−93,1997)。bFGFは、PDGF−αの発現をアップレギュレートすること、そしてそれによって、希突起膠細胞前駆細胞もしくは前希突起膠細胞がPDGFに応答し得る発生期間を延長することによって作用する(McKinnonら,Neuron 5:603−614,1990)。実際、O−2A細胞が、bFGFのみに曝された場合、希突起膠細胞への早期分化を起こすが、自己再生性希突起膠細胞前駆細胞となるように誘導されないことが示されている。O−2A細胞は、bFGFとPDGFとの組み合わせに曝された場合、継続的自己再生を起こすように誘導される(Boglerら,PNAS 87:6368−6372,1990)。同様に、三分化能性グリア前駆細胞は、bFGFおよびPDGFの存在下で、自己再生を起こすように誘導される(Raoら,PNAS 95:3996−4001,1998)。
【0039】
(ニューロトロフィン−3(NT−3))
NT−3は、神経成長因子ファミリーのメンバーであり、高レベルのインスリン、PDGFまたは他の組み合わせとともに添加される場合のみ、希突起膠細胞前駆細胞の増殖を刺激するようである(Barde,Nature 367:371−375,1994;Barresら,Neuron 12:935−942,1994)。NT−3はまた、インビトロで希突起膠細胞生存を促進する(Barde,Nature 367:371−375,1994;Barresら,Cell 70:31−46,1992)。
【0040】
(毛様体神経栄養因子(CNTF))
CNTFは、造血サイトカインファミリーのメンバーに構造的にかつ機能的に類似したサイトカインである。CNTFでのグリア前駆細胞の処置は、希突起膠細胞の出現を誘導し得る(Mayerら,Development 120:143−153,1994;Barresら,Mol Cell Neurosci 8:146−156,1996,Lachyankarら,Exp Neurol 144:350−360,1997)。研究により、CNTFが、希突起膠細胞分化を刺激するために、PDGFの存在を要することが示唆される(Engelら,Glia 16:16−26,1996;Fruttigerら,Development 126:457−467,1999)。
【0041】
CNTFが、O−2A前駆細胞から2型星状膠細胞の生成を刺激し得るという証拠もまた存在する。しかし、CNTFは、2型星状膠細胞の発達を誘導するには、それ自体では不十分である。実際に、細胞外マトリクスと関連した分子は、おそらくウシ胎仔血清(これは、インビトロで2型星状膠細胞分化を誘導することが以前に示されている(Raffら,Nature 303:390−396,1983;Templeら,Nature 313:223−225,1985))の効果(Lillienら,J Cell Biol 111:635−644,1990)を模倣することによって、CNTFと、協働する。
【0042】
(トリヨードサイロニン(T3))
甲状腺ホルモンであるT3は、希突起膠細胞前駆細胞の増殖を維持し、それらの成熟希突起膠細胞への分化を刺激することができる(Barresら,Development 120:1097−1108,1994;Ibarrolaら,Dev Biol 180:1−21,1996;Baasら,Glia 19:324−332,1997)。
【0043】
増殖調節性癌遺伝子α(growth−regulated oncogene−alpha)(GRO−α))
GRO−αは、希突起膠細胞前駆細胞の増殖を促進することもまた示されたサイトカインである(Robinsonら,J Neurosci 18:10457−10463,1998)。
【0044】
(レチノイン酸およびcAMP)
cAMPおよびレチノイン酸は、希突起膠細胞前駆細胞の分化を調節するようである(Raibleら,Dev Biol 133:437−446,1993;Nollら,Development 120:649−660,1994)。
【0045】
(グリア増殖因子(GGFまたはニューレグリン))
GGFは、希突起膠細胞前駆細胞の増殖および生存を刺激することが示された別の増殖因子である(Canollら,Neuron 17:229−243,1996)。
【0046】
興味深いことに、より分化した細胞が、より分化していない細胞へといくらか逆戻りすることが観察されており、このことは、CNSの特定の細胞が、いくらかの柔軟性を有することを示唆している。例えば、Canollらは、表現型O1(+)MBP(+)を有する成熟希突起膠細胞をGGF(グリア増殖因子)で処置することにより、成熟マーカーであるO1およびMBPを発現する細胞数が減少したことを観察した(Canollら,Mol.Cell Neurosci.13:79−94,1999)。この表現型の逆戻りはまた、細胞形態の変化、中間フィラメントタンパク質であるネスチンの再発現、およびアクチン細胞骨格の再構築により特徴づけられる。塩基性FGFはまた、培養物中の成熟希突起膠細胞の数を減少させることが示された(Fressinaudら,J.Neurosci.Res.40:285−293,1995;Hoffmanら,Glia 14:33−42,1995;Grinspanら,J.Neurosci.Res.46:456−464,1996)。しかし、全て示されたのは、成熟希突起膠細胞の逆戻りであって、希突起膠細胞前駆細胞の逆戻りは示されておらず、脱分化した細胞の均質な集団を達成できなかった。さらに、ある証拠は、bFGFが、成熟希突起膠細胞のアポトーシス細胞死を誘発し得ることを示唆する(Muirら,J.Neurosci.Res.44:1−11,1996)。別の研究により、2型星状膠細胞が、周産期の希突起膠細胞前駆細胞の双極性形態特徴を有する細胞に戻り得ることが実証された(Kondoら,Science 289:1754−1757,2000)。GardおよびPfeifferは、O4(+)O1(−)前駆細胞が、PDGFの存在下でA2B5(+)O4(−)表現型に一過性に逆戻りし得ることを観察した。しかし、逆戻りした表現型は、維持され得ない。なぜならこれらの細胞は、O4(+)O1(−)表現型に迅速に再分化し、その後すぐに、O1(+)希突起膠細胞へと分化したからである(Gardら,Dev.Biol.159:618−630,1993)。
【0047】
これらの種々の研究において具現化された作業にも拘わらず、それらの発生段階において同期である、自己再生性希突起膠細胞前駆細胞の表現型的に均質な集団を得、維持し、そして保存するための方法は報告されていなかった。それらの自己再生能力、増殖能力、希突起膠細胞へと末期まで分化する能力、および発生段階が同時であるという表現型的均質性が原因で、これらの細胞は、種々のCNS障害および状態の処置のため、およびこの障害および状態を(インビトロおよびインビボの両方で)研究するために有用であり、本発明は、これらの細胞を提供する。
【0048】
本発明をさらに記載する前に、本発明は、記載される特定の実施形態に限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的に過ぎず、限定することは意図しないこともまた理解されるべきである。なぜなら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。
【0049】
ある値の範囲が提供される場合、間にある値は、本発明の中に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、独立してそのより小さな範囲に含まれ得、そして任意のその示された範囲における具体的に排除された境界を前提として、やはり、本発明の中に包含される。示された範囲がその境界の一方または両方を含む場合、その含まれる境界のいずれかまたは両方を除く範囲は、やはり本発明に含まれる。
【0050】
別段規定されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料に類似または等価な、任意の方法および材料がまた、本発明の実施または試験において使用され得るものの、特定の方法および材料がここで記載される。本明細書において言及される全ての刊行物は、その刊行物が引用されていることに関連した方法および/または材料を開示および記載するために、本明細書に参考として援用される。
【0051】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「or」、および「the」は、文脈が逆のことを明示しない限り、複数の参照物をも含むことに注意すべきである。
【0052】
さらに、別段記載されない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される、成分の量、反応条件などを表す全ての数値は、全ての場合において語句「約」によって修飾されていると理解されるべきである。従って、そうでないと示さない限り、本明細書および特許請求の範囲において示される数値パラメーターは、近似値であり、本発明によって得ようとする望ましい特徴に依存して変動し得る。
【0053】
本発明の広い範囲を記載している数値範囲およびパラメーターが近似値であるにも拘わらず、具体的実施例に示されている数値範囲は、可能な限り正確に報告されている。しかし、任意の数値は、それぞれの試験測定値において見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を、本質的に含む。
【0054】
本明細書で使用される場合、「表現型的に均質な集団」および「同調発生段階」とは、実質的に同じ表現型および発生段階を示す細胞の集団をいう。このような均質な集団は、実質的に同じ細胞を約90%超、あるいは実質的に同じ細胞を少なくとも約92%、94%、96%、98%、99%、99.9%または100%を含み得る。
【0055】
「希突起膠細胞前駆細胞(precursor cell)」または「希突起膠細胞前駆細胞(progenitor cell)」は、成熟希突起膠細胞に未だ分化しておらず、かつ希突起膠細胞に分化する潜在能力がある細胞を記載するために本明細書で使用される。本発明の一実施形態において、この希突起膠細胞前駆細胞は、2型星状膠細胞に分化する潜在能力を有し得る。別の実施形態において、本発明の希突起膠細胞前駆細胞(precursor)は、1型星状膠細胞に分化しない。なお別の実施形態において、この希突起膠細胞前駆細胞は、以下の表現型によって特徴づけられ得る:A2B5(+)O4(−)O1(−);A2B5(+)O4(+)O1(−);またはA2B5(+)O4(+)O1(+)。A2B5、O4、およびO1は、それぞれ、抗体A2B5、O4、およびO1と反応性であるタンパク質の表面マーカー発現をいう。
【0056】
同様に、発生段階における均質性または同時発生性(synchronicity)は、細胞が、より分化した細胞を産生するために要する時間量によって決定され得る。例えば、希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団は、希突起膠細胞の均質な集団に分化するように誘導され得る。希突起膠細胞前駆細胞の不均質な集団は、異なる時間内に希突起膠細胞の表現型的に不均質な集団に、または別の細胞表現型(例えば、2型星状膠細胞)に分化するように誘導され得る。その集団が、同時発生性の希突起膠細胞前駆細胞を含む場合、さらなる発生段階を有する、希突起膠細胞または希突起膠細胞前駆細胞が、類似の時間内に産生し得る。その集団が、発生的に非同時性(または非同時性(unsynchronized))の希突起膠細胞前駆細胞を含む場合、希突起膠細胞は、種々の期間において産生し得る。
【0057】
本発明の希突起膠細胞前駆細胞が得られ得る組織または細胞は、任意の胎児、若年または成体の神経組織(海馬、小脳、脊髄、皮質、線条、基底前脳(basal forebrain)、腹側中脳、青斑(locus ceruleus)および視床下部に由来する組織を含む)であり得る。本発明の希突起膠細胞前駆細胞はまた、胚性幹細胞から得られ得る。さらに、組織または細胞は、任意の哺乳動物種(齧歯類、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウサギなどが挙げられる)から得られ得る。
【0058】
希突起膠細胞前駆細胞を含む細胞の不均質な集団は、上記の供給源のいずれか1つから、当該分野で公知の方法のいずれかによって、得られ得る。例えば、Gardらは、種々の発生段階におけるA2B5(+)O4(+)O1(−)前駆細胞が、得られ得るイムノパニング法(Gardら,Neuroprotocols 2:209−218,1993)を記載する。このイムノパニング法は、A2B5(+)O4(−)前駆細胞を得るために改変され得る。McCarthyらはまた、星状膠グリア細胞または希突起膠グリア細胞(oligodenroglial cell)培養物を得るための細胞培養法を記載した(McCarthyら,J.Cell Biol.85:890−902,1980)。当該分野で公知の他の方法もまた使用され得る。
【0059】
本発明は、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法を提供する。この方法は、非同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の不均質な集団を、有効量の線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む培地中で、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団が得られるまで培養する工程を包含する。このFGFは、FGF1、FGF2、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8b、FGF9、FGF10およびFGF17から選択される、FGFファミリーのメンバーであり得る。好ましいファミリーメンバーとしては、FGF2、FGF4、FGF6、FGF8b、FGF9、およびFGF17が挙げられる。最も好ましいのは、FGF2であり、塩基性FGF(bFGF)としても公知である。「有効量のFGF」とは、同調発生段階を誘導するために有効な、かつ細胞の生存、自己再生性、および/または増殖を支援する、FGFファミリーメンバーの量をいう。
【0060】
一実施形態において、その培養培地は、約0.1ng/mlと約40ng/mlとの間の濃度のFGFを含み得る。好ましくは、FGFの濃度は、少なくとも約0.1ng/ml、1ng/ml、2.5ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、25ng/ml、30ng/mlまたは40ng/mlである。本発明の一実施形態において、この培養培地中のFGF濃度は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlであり得る。別の実施形態において、このFGF濃度は、約1〜約10ng/mlであり得る。なお別の実施形態において、このFGF濃度は、約2.5〜約7.5ng/mlであり得る。好ましくは、このFGF濃度は、約5ng/mlである。好ましくは、この培養培地で使用されるFGFは、bFGFである。bFGFが使用される同じ濃度が、他のFGFファミリーメンバーがbFGFの代わりに使用されるか、またはbFGFに追加して使用される場合にも、使用され得る。
【0061】
本発明の一実施形態において、この培養培地は、血小板由来増殖因子(PDGF)の実質的非存在下で、有効量のFGFを含む。本発明の好ましい実施形態において、この培養培地は、血小板由来増殖因子(PDGF)の実質的非存在下で、有効量のbFGFを含む。上記で説明されているように、「有効量のFGF」とは、同調発生段階を誘導するために有効であり、かつ細胞の生存、自己再生性、および/または増殖を支援するに十分である、FGFの量をいう。
【0062】
「PDGFの実質的非存在」とは、培養培地中にPDGFがないことをいう。好ましくは、培養培地中に約0.1ng/ml未満のPDGFが存在する。より好ましくは、培養培地中に約0.01ng/ml未満のPDGFが存在する。最も好ましくは、培養培地中に約0.001ng/ml未満のPDGFが存在する。PDGFは、培養細胞によって内因的に産生され得、よって、培養培地から完璧にPDGFがなくなることは、不可能であり得ることが理解される。従って、本発明の一実施形態において、この培養培地は、有効量のbFGF、ならびに生存、自己再生性および/または増殖に対して何ら影響を有さない微量のPDGFを含み得る。あるいは、この培養培地は、培養細胞による内因性PDGFの産生を刺激し得る、有効量のbFGFを含み得る。
【0063】
本発明の一実施形態において、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法は、PDGFの実質的非存在下で、有効量のbFGFを含む培地中、希突起膠細胞前駆細胞を含む細胞の不均質な集団を培養する前に、1回以上の培養工程を含み得る。例えば、イムノパニング法によって得られるA2B5(+)O4(−)細胞は、最初に、PDGFおよびbFGF、ならびに任意の他の増殖因子を含む培地中で培養され得る。その細胞が、PDGFの実質的非存在でbFGFを含む培地に切り替えられる場合、その細胞は、表現型的におよび/または発生的に非同時性であるという点で、なお一般的に、不均質である。
【0064】
本発明の方法に従って得られた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団は、以下の特徴のうちの1つ以上を有し得る。例えば、その細胞は、観察可能な分化がなく、培地中に添加されるPDGFなしで、bFGFに応答して、増殖し得るか、または自己再生性である。希突起膠細胞前駆細胞に関する用語「増殖する」および「自己再生性」の使用は、得られる細胞の表現型が変化せずに連続して細胞分裂する能力を有する細胞に言及する。実際に、以下の実施例に示されるように、bFGF単独に応答して、分化せずに無限に増殖することができる、同調発生段階を有する細胞の、独特の自己再生性の表現型的に均質な集団が、単離された。本発明の細胞は、1年を超える期間にわたって連続して培養された。従って、本明細書で使用される場合、長期培養において細胞が増殖する能力への言及は、少なくとも1年にわたって培養することをいう。
【0065】
別の例として、得られる希突起膠細胞前駆細胞は均質であるので、それらは、希突起膠細胞または2型星状膠細胞の均質な集団を産生し得る。本発明の希突起膠細胞前駆細胞は、当該分野で公知の任意の方法により、希突起膠細胞を産生するように誘導され得、その方法は、例えば、外因的に添加された増殖因子を含まない無血清培地または毛様体神経栄養因子(CNTF)および/もしくは甲状腺ホルモンT3(3,3’,5’−トリヨードチロニン)を含有する培地で、細胞を培養することによる。CNTFが使用される場合、好ましい濃度範囲は、約1ng/ml〜約20ng/mlである。甲状腺ホルモンT3が使用される場合、好ましい濃度範囲は、約1μg/ml〜約30μg/mlである。本発明の希突起膠細胞前駆細胞は、骨形成タンパク質2(BMP−2)、BMP−4または10%のウシ胎仔血清を含有する培地中で細胞を培養することにより2型星状膠細胞を産生するように誘導され得る。BMP−2またはBMP−4が使用される場合、好ましい濃度範囲は、約1ng/ml〜約20ng/mlである。希突起膠細胞前駆細胞の分化を誘導する他の方法は、当該分野で公知である。
【0066】
また、本発明の方法により得られる希突起膠細胞前駆細胞は、均質であるので、このような細胞の集団は、実質的に、単一の分化系統に制限され得る。つまり、集団の全てまたは実質的に全ての希突起膠細胞前駆細胞は、希突起膠細胞または2型星状膠細胞への分化に制限され得る。本明細書中で使用される場合、「実質的に制限された」は、集団の希突起膠細胞前駆細胞の約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%以上が、同一の成熟細胞型に分化することを意味する。
【0067】
本発明の同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団はまた、表現型の変化も発生段階の変化も伴なわずに、高生存度で凍結融解され得る。本明細書中で使用される場合、高生存度および高度の生存は、凍結融解後に約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%または約99%の生存度より高いことを意味する。細胞は、bFGFを含むか、もしくは含まない培養培地または緩衝液中で凍結され得る。融解の際に、細胞は、その均質性および希突起膠細胞前駆細胞としての状態を維持する。その培地はまた、凍結防止剤(例えば、5〜10%のDMSOまたはグリセロール)を含有する。
【0068】
本発明の希突起膠細胞前駆細胞はまた、増殖因子(例えば、bFGF)が実質的に存在しない、本明細書中で教示される培養培地中で、凍結され、凍結状態で維持され得る。当業者は、当該分野で公知の他の細胞凍結緩衝液も、本発明の細胞に対する受容可能なレベルの生存度を生じることを理解する。
【0069】
本発明の同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団はまた、ミエリンを産生し得る。髄鞘形成は、本発明の希突起膠細胞前駆細胞を、中枢神経系から得たニューロンと共培養することにより誘導され得、このニューロンとしては、海馬、小脳、脊髄、皮質、線条、基底前脳、腹側中脳、青斑、および視床下部から得られたニューロン、または末梢神経系から得られたニューロン(脊髄神経節(DRG)由来のニューロンを含む)が挙げられる。
【0070】
同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団はまた、実質的に同一の表現型および発生段階で、培養中で、無制限に維持され得る。従って、本発明はまた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を培養中で維持する方法に関する。この方法は、有効量のFGFを含有する培地で、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団を培養する工程を包含する。この培養培地は、約0.1ng/mlと約40ng/mlとの間の濃度でFGFを含有し得る。好ましくは、FGFの濃度は、少なくとも約0.1ng/ml、約1ng/ml、約2.5ng/ml、約5ng/ml、約10ng/ml、約15ng/ml、約25ng/ml、約30ng/mlまたは約40ng/mlである。本発明の一実施形態において、培養培地中のFGF濃度は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlであり得る。別の実施形態において、FGF濃度は、約1ng/ml〜約10ng/mlであり得る。なお別の実施形態において、FGF濃度は、約2.5ng/ml〜約7.5ng/mlであり得る。好ましくは、FGF濃度は、約5ng/mlである。好ましくは、培養培地中で使用されるFGFは、bFGFである。他のFGFファミリーのメンバーが、bFGFの代わりに、またはそれに加えて使用される場合、bFGFが使用されるのと同じ濃度が、使用され得る。
【0071】
本発明はまた、希突起膠細胞前駆細胞を発生的または表現型的により早い段階に脱分化する方法に関する。例えば、A2B5(+)O4(+)O1(+)前駆細胞は、A2B5(+)O4(+)O1(−)前駆細胞に分化し得、それは次に、表現型A2B5(+)O4(−)を有するO−2A様細胞に分化し得る。このA2B5(+)O4(−)前駆細胞は、希突起膠細胞および2型星状膠細胞に分化し得るが、これは、さらにグリア制限前駆細胞様細胞に分化し得、これは、希突起膠細胞、1型星状膠細胞および2型星状膠細胞に分化する能力を有し得る。この方法は、脱分化を促進する少なくとも一種の因子を含有する培地で、希突起膠細胞前駆細胞を培養する工程を包含する。分化を促進する因子としては、一種以上のbFGF、PDGF、ニュートロフィン−3(NT−3)または他の増殖因子が挙げられ得る。
【0072】
A2B5(+)O4(+)O1(+)前駆細胞が、A2B5(+)O4(+)O1(−)前駆細胞に分化する場合、bFGFのみが、好ましくは約0.1ng/ml〜約40ng/mlの濃度で使用される。
【0073】
A2B5(+)O4(+)O1(+)前駆細胞が、A2B5(+)O4(−)O1(−)前駆細胞に分化する場合、bFGFは、約0.1ng/ml〜約40ng/mlの濃度で使用され、好ましくは、増殖培地中に、PDGFおよびNT−3を含む。PDGFが含まれる場合、PDGFの濃度は、好ましくは、約1ng/ml〜約50ng/mlである。NT−3が含まれる場合、NT−3の濃度は、好ましくは、約1ng/ml〜約10ng/mlである。
【0074】
A2B5(+)O4(+)O1(−)前駆細胞が、A2B5(+)O4(−)前駆細胞に分化する場合、PDGFのみが、好ましくは、約1ng/ml〜約50ng/mlの濃度で使用され得る。好ましくは、bFGFおよびNT−3が、培養培地中に含まれる。bFGFが含まれる場合、bFGFの濃度は、好ましくは、約0.1ng/ml〜約40ng/mlである。NT−3が含まれる場合、NT−3の濃度は、好ましくは、約1ng/ml〜約10ng/mlである。
【0075】
本発明の方法は、脱分化した希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団を産生し得る。従って、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団は、脱分化を促進する上記因子の少なくとも一種を含有する培地で培養され得る。脱分化した希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団は、脱分化を促進する少なくとも一種の因子を含有する同一の培地中で実質的に同一の表現型および発生の状態を維持し得る。
【0076】
本発明の脱分化した希突起膠細胞前駆細胞は、天然に見出される性質と類似する性質を保有してもしなくてもよい。例えば、本発明の脱分化した希突起膠細胞前駆細胞は、表現型的に、O−2A前駆細胞に類似し得、これは、表現型A2B5(+)O4(−)および両極性の形態を有する。さらに、脱分化した希突起膠細胞前駆細胞は、希突起膠細胞および2型星状膠細胞の両方に分化し得るという点で、O−2A前駆細胞と同様に、二分化性であり得る。他方で、本発明の脱分化した希突起膠細胞前駆細胞は、O−2A前駆細胞とは異なるように増殖因子に応答し得る。例えば、O−A2前駆細胞は一般的に、2型星状膠細胞を産生することにより骨形成タンパク質(BMP)2または骨形成タンパク質(BMP)4および毛様体神経栄養因子(CNTF)に応答することが公知である。本発明の脱分化した希突起膠細胞前駆細胞は、2型星状膠細胞を産生することによりBMPに応答し得るが、CNTFには応答し得ない。
【0077】
本発明の希突起膠細胞前駆細胞はさらに、希突起膠細胞前駆細胞の生物学的機能および分化状態に作用する化合物をスクリーニングする方法に関する。この方法は、本発明の希突起膠細胞前駆細胞を試験化合物と接触させる工程、ならびに希突起膠細胞前駆細胞および/または培養培地の変化を検出する工程を包含する。この変化は、希突起膠細胞前駆細胞の任意の特徴(例えば、髄鞘形成、希突起膠細胞または星状膠細胞への分化、表面マーカー発現、増殖の特徴(例えば、増殖速度、細胞移動、生存度、表面マーカー発現、タンパク質の放出、脱分化または細胞形態))の増加または減少であり得る。他の特徴もまた、変化したと検出され得る。
【0078】
試験化合物は、任意の化学物質、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは核酸(DNAまたはRNA)であり得る。試験化合物は、天然に存在し得るか、または、当該分野で公知の方法に従って、合成され得る。例えば、試験化合物は、神経伝達物質、ホルモンまたは他の神経刺激性の化合物を模倣する化合物であり得る。この試験化合物はまた、抗体であり得る。本発明の一実施形態において、本発明の方法は、髄鞘形成に作用する化合物をスクリーニングするために使用される。
【0079】
ミエリン産生細胞の増殖および生存を促進する薬剤は、種々の治療目的に有用であり得る。ミエリン産生細胞により産生されたミエリン鞘の変質またはそのミエリン鞘に対する損傷から生じる神経系の疾患および状態は、多数存在する。ミエリンは、ミエリンに対する直接的な損傷に起因する一次事象として、または軸索およびニューロンに対する損傷の結果としての二次事象として失われ得る。一次事象としては、神経変性性疾患(例えば、多発性硬化症(MS)、ヒト免疫欠損MS関連ミエロパシー、横断ミエロパシー/横断脊髄炎、進行性多病巣性白質脳症、橋中央ミエリン溶解およびミエリン鞘に対する病変(二次事象について、以下に記載するような)が挙げられる。二次事象としては、脳もしくは脊髄における身体的な外傷、虚血性疾患、悪性疾患、感染性疾患(例えば、HIV、ライム病、結核、梅毒またはヘルペス)、変性性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンティングトン病、ALS、視神経炎、感染後脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィ、副腎脊髄神経障害)、精神分裂病、栄養性疾患/障害(例えば、葉酸およびビタミンB12欠乏症、ヴェルニッケ病)、全身性疾患(例えば、糖尿病、全身性エリテマトーデス、癌腫)、ならびに毒性物質(例えば、アルコール、鉛、エチジウムブロマイド);ならびに、医原性プロセス(例えば、薬物相互作用、放射線処置または神経外科術)により引き起こされる軸索またはニューロンに対する広範な種の病変が挙げられる。
【0080】
本発明の希突起膠細胞前駆細胞は、インビボで投与される場合、安全であり、宿主組織に移動し、ミエリンを産生し、宿主の軸索を有髄化し得る。さらに、本発明の希突起膠細胞前駆細胞から産生された希突起膠細胞はまた、ミエリンを産生し、宿主の軸索を有髄化し得る。従って、本発明は、患者に治療有効量の本発明の希突起膠細胞前駆細胞または希突起膠細胞を投与する工程を包含する、患者を処置する方法または患者の利益になる方法を提供する。本明細書中で使用される場合、「治療的に有効」とは、障害の症状を低減するのに十分である希突起膠細胞前駆細胞の量、または患者の有髄化を維持するか、もしくは増加するのに十分である量をいう。当業者は、本発明の希突起膠細胞前駆細胞の治療的有効量が、処置される状態および患者の特徴に基づいて異なることを理解する。
【0081】
本明細書中で、患者は、希突起膠細胞前駆細胞または希突起膠細胞を用いた処置の必要な任意のヒトまたは非ヒト動物として、またはヒトおよび非ヒト動物を含む、処置が有益であり得る任意の被験体として定義される。このような処置されるべき非ヒト動物は、全ての家畜化された脊椎動物および野生の脊椎動物を包含する。本発明の一実施形態において、投与されるべき希突起膠細胞前駆細胞または希突起膠細胞は、処置を受ける種と同じ種から入手され得る。哺乳動物種の例としては、齧歯類、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウサギなどが挙げられる。
【0082】
処置に使用される希突起膠細胞前駆細胞もしくは希突起膠細胞はまた、患者に所望の遺伝子を発現させるのに十分な量の核酸ベクターもしくは生物学的ベクターを含み得る。従来の組換え核酸ベクターの構築および発現は、当該分野で周知であって、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第1〜3巻(第2版、1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Pressに含まれる技術が挙げられる。このような核酸ベクターは、生物学的ベクター(例えば、ウイルスおよび細菌、好ましくは、弱化ウイルス、弱化細菌、弱化寄生虫および弱化ウイルス様粒子を含む非病原性微生物または弱化微生物)に含まれ得る。
【0083】
核酸ベクターまたは生物学的ベクターは、エキソビボの遺伝子治療プロトコルにより細胞に導入され得、そのプロトコルは、患者から細胞または組織を切除する工程、核酸ベクターまたは生物学的ベクターを、切除した細胞または組織に導入する工程、およびその細胞または組織を患者に再移植する工程を包含する(例えば、Knoellら、Am.J.Health Syst.Pharm.55:899〜904、1998;Raymonら、Exp.Neurol.144:82〜91、1997;Culverら、Hum.Gene Ther.1:399〜410、1990;Kasidら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87:473〜477、1990を参照のこと)。核酸ベクターまたは生物学的ベクターは、例えば、リン酸カルシウム仲介トランスフェクションにより切除した細胞または組織に導入され得る(Wiglerら、Cell 14:725、1978;CorsaroおよびPearson Somatic Cell Genetics 7:603、1981;GrahamおよびVan der Eb. Virology 52:456、1973)。核酸およびベクターを宿主細胞に導入するための他の技術(例えば、エレクトロポレーション(Neumannら、EMBO J.1:841〜845、1982))も使用され得る。
【0084】
核酸ベクターまたは生物学的ベクターを含む細胞の投与は、患者に欠損しているか、もしくは機能性でない所望の遺伝子の発現を提供し得る。このような遺伝子の例としては、ドーパミン、GABA、アドレナリン、ノルアドレナリン、セロトニン、グルタメート、アセチルコリンおよび他の神経ペプチドに応答するレセプターをコードする遺伝子、ならびに、ドーパミン、GABA、アドレナリン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、γ−アミノ酪酸、セロトニン、L−DOPAおよび他の神経ペプチドをコードする遺伝子が挙げられる。細胞はまた、増殖因子(例えば、神経成長因子(NGF)、bFGF、PDGFまたはCNTF)を産生するように操作され得る。別の実施形態において、核酸ベクターまたは生物学的ベクターは、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードし得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、所定の遺伝子の「センス」鎖またはコーディング鎖に相補的である小さい核酸である。従って、それらは、特異的かつ安定に、遺伝子のRNA転写産物とハイブリダイズし得、それにより、RNA翻訳を阻害し、従って下流の事象を阻害する。アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、当該分野で公知である。例えば、Holtら、Mol.Cell Biol.8:963〜973、1988は、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、癌遺伝子c−mycのRNA転写産物と特異的にハイブリダイズし、培養したHL60白血病細胞に添加された場合、増殖を阻害し、分化を誘導することを示した。同様に、Anfossiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:3379〜3383、1989は、c−myb癌遺伝子のRNA転写産物と特異的にハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドが、ヒト骨髄性白血病細胞株の増殖を阻害することを示した。脳腫瘍のいくつかは、癌遺伝子(例えば、sis、myc、srcおよびn−myc)を発現することが公知である。従って、本発明の細胞は、sis、myc、srcまたはn−mycを標的とし、阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドを産生するように操作され得る。しかし、上記の遺伝子の一覧は、網羅的であることを意図しない。患者における発現に有用である他の遺伝子が、当業者によって決定され得る。
【0085】
本発明の細胞は、大脳内移植によって、投与され得る。移植としては、中枢神経系内もしくは心室空洞内への細胞の直接的な投与、または宿主の脳の表面への硬膜下投与が挙げられ得る。特定の手順は、マイクロシリンジの針の挿入を可能にするように、穴を穿孔する工程、および硬膜を穿刺する工程を包含し得る。あるいは、本発明の細胞は、脊髄内にくも膜下腔内注射され得る。移植のためのこのような方法は、当業者に公知であり、そして例えば、Neural Grafting in the Mammalian CNS,Bjorklund and Stenevi編(1985)に記載されている。実際に、培養物中で増殖されたラット希突起膠細胞前駆細胞が、動物に戻して移植され、そしてレシピエントの神経線維を移動させ、移植し、分化させ、そしてミエリン化することが示された(Espinosa de los Monterosら、Dev.Neurosci.14:98−104,1992)。
【0086】
本発明の細胞はまた、他の薬剤(例えば、増殖因子、ガングリオシド、抗生物質、神経伝達物質、神経ホルモン、毒素、神経突起促進分子、代謝拮抗物質、およびこれらの分子の前駆体(例えば、ドパミン、L−DOPAの前駆体))と同時に投与され得る。他の薬剤は、当業者によって決定され得る。
【0087】
本発明は、以下の実施例によって説明される。これらの実施例は、いかなる方法でも、限定することを意図されない。
【実施例】
【0088】
(実施例1:ラット希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団の精製)
A2B5(+)O4(−)細胞またはA2B5(+)O4(+)細胞を、最初に、ラット胚脊髄(E14−E19)から、ペトリ皿を使用する連続的な剥離方法または免疫パニング方法(Gardら、Neuroprotocols 2:209−218,1993、およびMcCarthyら、J.Cell Biol.85:890−902,1980に記載される)によって得た。次いで、これらの細胞を、0.001%のポリ−L−オルニチン(Sigma)で予めコーティングされた10cmの培養皿(Falcon)上で、約20,000〜50,000細胞/cmの密度で、培地A(DMEM/N2(Gibco);25ng/ml PDGF(R&D);15ng/ml bFGF(R&D);5ng/ml NT−3(R&D);0.05%ウシ血清(Sigma))中で培養した。培地Aを、2日ごとに交換し、そしてbFGFを、毎日補充した。
【0089】
約1週間後、これらのプレートがコンフルエント未満になったときに、これらの細胞を、培地B(0.125%トリプシン;0.26mM EDTA;Ca(−)Mg(−)ハンクス液緩衝化生理食塩水溶液(Gibco))で、37℃で20分間トリプシン処理した。これらのトリプシン処理された細胞を、培地C(DMEM/B27(Gibco);10μM 3,3’,5’−トリヨードサイロニン(3,3’,5’−triiodothronine)(T3)(Sigma);10ng/ml bFGF)中に、約1週間再プレートした。
【0090】
培地C中でのこの1週間のインキュベーションの間に、これらの細胞は、双極性の形態(A2B5(+)O4(−))から多極性の形態(これは、A2B5(+)O4(+)細胞に特徴的である)へと変化し始めた。これらの細胞の事実上全てが、太陽様の多極性形態を得たら、細胞を、培地Bでトリプシン処理し、そして培地D(DMEM/B27;15〜30ng/ml bFGF)中に再プレートした。これらの細胞を、ほぼ毎週、トリプシン処理し、そして再プレートした。培地D中での継代培養の最初の期間の間に、これらの細胞のうちのいくらかは、2型星状膠細胞を産生し、このことは、この細胞の最初の集団が、依然として、発生的に不均質であることを示す。増殖中のA2B5(+)O4(+)細胞は、次の工程においてさえも誘導されたが、これらの非自己再生性細胞は、希突起膠細胞または他の表現型の細胞に分化し、そして制限された増殖回数後に、1ヶ月の期間以内に死滅する。その後、培地D中で、いくらかの自己再生性A2B5(+)O4(+)希突起膠細胞前駆細胞が産生され、そして増殖し始めた。引き続く継代培養を、培地D中で、1年より長期間繰り返した。
【0091】
培地D中での継代培養の約2ヵ月後に、2型星状膠細胞は、もはや出現せず、そして99.99%を超える(10の独立した研究において、99.993〜99.999%の範囲の)、自己再生性の表現型的に均質なO4(+)O1(−)希突起膠細胞前駆細胞を含む集団が樹立された。細胞を、リン酸生理食塩水緩衝液中4%パラホルムアルデヒド中で固定し、そして抗O4抗体(Chemicon)および抗O1抗体(Chemicon)で染色することによって、計数した。細胞を、顕微鏡下で、1ウェルあたり8つのランダムな視野において計数した。これらの細胞を培養物中に連続的に維持すると、これらの細胞は、増殖し続け、そして表現型変化も分化も起こさずに、培地D中で、1年をはるかに超えて維持され得る(図2)。実際に、これらの細胞は、50回より多く継代培養され、そして450日より長く維持された。これらの細胞は、以下の実施例においてさらに実証されるような、独特の特徴を示した。
【0092】
樹立されたラットA2B5(+)O4(+)O1(−)希突起膠細胞前駆細胞株を、ブダペスト条約の規定に従って、American Type Culture Collection,10801 University Blvd.,Manassas,Virginia 20110−2209に、2004年6月21日に寄託し、そして受託番号PTA 6093を割り当てられた。
【0093】
(実施例2:ヒト希突起膠細胞前駆細胞の均質な集団の精製)
A2B5(+)O4(−)細胞またはA2B5(+)O4(+)細胞を、最初に、ヒト胎児脳組織および脊髄(9〜10週)から、免疫パニング方法および/または実施例1に記載されるような培養方法によって得た。次いで、これらの細胞を、0.001%のポリ−L−オルニチンおよび0.01%ラミニンで予めコーティングされた10cmの培養皿(Falcon)上で、約20,000〜50,000細胞/cmの密度で、培地A(DMEM/N2(Gibco);25ng/ml PDGF;5ng/ml NT−3)中で培養した。培地Aを、毎日交換した。
【0094】
約1週間後、これらのプレートがコンフルエント未満になったときに、これらの細胞を、培地B(0.125%トリプシン;0.26mM EDTA;Ca(−)Mg(−)ハンクス液緩衝化生理食塩水溶液(Gibco))で、37℃で20分間トリプシン処理した。これらのトリプシン処理された細胞を、培地C(DMEM/B27(Gibco);10μM 3,3’,5’−トリヨードサイロニン(3,3’,5’−triiodothronine)(T3);10ng/ml bFGF)中に、約1ヶ月再プレートした。
【0095】
培地C中でのこの1ヶ月のインキュベーションの間に、これらの細胞は、双極性の形態(A2B5(+)O4(−))から多極性の形態(これは、A2B5(+)O4(+)細胞に特徴的である)へと変化し始めた。これらの細胞の事実上全てが、太陽様の多極性形態を得、そして増殖中のコロニーがbFGFに応答して生じたら、マイクロシリンダーを使用して、細胞のコロニーを、培地Bでトリプシン処理し、そして培地D(DMEM/B27;15〜30ng/ml bFGF)中に再プレートした。これらの細胞を、ほぼ毎週、トリプシン処理し、そして再プレートし、そして継代培養を、培地D中で無期限に繰り返した。培地D中での継代培養の最初の期間の間に、これらの細胞のうちのいくらかは、2型星状膠細胞を産生し、このことは、この細胞の最初の集団が、依然として、発生的に不均質であることを示す。増殖中のA2B5(+)O4(+)細胞は、次の工程においてさえも誘導されたが、これらの非自己再生性細胞は、希突起膠細胞または他の表現型の細胞に分化し、そして制限された増殖回数後に、1ヶ月の期間以内に死滅する。その後、培地D中で、いくらかの自己再生性A2B5(+)O4(+)希突起膠細胞前駆細胞が産生され、そして増殖し始めた。引き続く継代培養を、培地D中で、1年より長期間繰り返した。
【0096】
培地D中での継代培養の約1ヵ月後に、2型星状膠細胞は、もはや出現せず、そして99.99%よりも均質なO4(+)O1(−)希突起膠細胞前駆細胞の集団が樹立された(図3)。ヒト希突起膠細胞前駆細胞は、ラット由来の希突起膠細胞前駆細胞と類似の特徴を示した。
【0097】
(実施例3:希突起膠細胞前駆細胞は、凍結融解され得る)
実施例1および2に従ってそれぞれ得られたラット希突起膠細胞前駆細胞およびヒト希突起膠細胞前駆細胞を、15ng/ml bFGFを補充したかまたは補充していないDMEM/B27培地中5〜10% DMSO中で凍結させた。これらの細胞を融解し、そして培地D中で培養すると、これらの細胞は、平均で90%の生存度を回復し、5つの独立した試験において、最大範囲は、97〜99%の生存度であった。さらに、これらの細胞は、それらの物理的特徴においても機能的特徴においても(例えば、均質性、形態、増殖能力、分化能力、および脱分化能力)、いかなる明白な変化も示さなかった。これらの細胞は、培地D中で培養した場合、それらの均質性を維持し、そして分化せずに増殖を続けた。
【0098】
実施例1および2に従って得られた希突起膠細胞前駆細胞はまた、本明細書中で教示される培養培地中で、増殖因子または補充物(例えば、bFGF補充物もしくはB27補充物)の実質的な非存在下で、凍結され得、そして凍結状態で維持され得る。このような細胞はまた、融解および培養の際に、高度な生存度を有する(結果は示さない)。当業者は、当該分野において公知の他の細胞凍結緩衝液が、同様に、本発明の細胞について利用可能なレベルの生存度を生じる。
【0099】
(実施例4:希突起膠細胞前駆細胞は、増殖するO4(+)O1(+)前駆細胞に誘導され得る)
実施例1および2に従ってそれぞれ得られた、ラット希突起膠細胞前駆細胞およびヒト希突起膠細胞前駆細胞は、5ng/ml CNTF(R&D)および0.5ng/ml bFGF(R&D)を補充したDMEM/B27(Gibco)中で培養される場合、O4(+)O1(+)細胞に、ほぼ100%の効率で誘導された。図4は、これらの細胞が、Cy3共役抗O4抗体で染色することによってO4(+)であり、そしてCy3共役抗O1抗体で染色することによってO(+)であることを示す。15μg/ml BrdU取り込みの20時間後の、抗BrdU抗体および抗O1抗体での二重染色によって決定される場合、O4(+)O1(+)細胞の約98%が、希突起膠細胞に完全に成熟することなく分化し続けた。従って、本発明の方法はまた、増殖中のO4(+)O1(+)前駆細胞の均質な集団を提供し得る。
【0100】
(実施例5:希突起膠細胞前駆細胞は、希突起膠細胞に分化し得る)
実施例1および2に従ってそれぞれ得られたラット希突起膠細胞前駆細胞およびヒト希突起膠細胞前駆細胞はまた、希突起膠細胞に分化し得る。これらの細胞を、無血清馴化培地(N2を補充したDMEM)(Gibco)中で培養した。1週間後、これらの細胞の事実上全てが、O1およびミエリン塩基性タンパク質(MBP)(Chamicon)(これは、成熟希突起膠細胞で発現されるマーカーである)を発現した(図5A、5B、および5C)。従って、実施例1および2においてそれぞれ得られたラット希突起膠細胞前駆細胞およびヒト希突起膠細胞前駆細胞が、全て、それらの発生段階において同調すると仮定すると、得られた希突起膠細胞前駆細胞は、約100%の効率で、希突起膠細胞に誘導され得る。
【0101】
(実施例6:希突起膠細胞前駆細胞は、星状膠細胞に分化し得る)
実施例1に従って得られたラット希突起膠細胞前駆細胞は、2型星状膠細胞に分化し得る。実施例1に従って得られた細胞を、10ng/ml骨形成タンパク質2(BMP−2)またはBMP−4(R&D)を補充したDMEM/N2(Gibco)中で培養すると、これらの細胞の事実上全てが、表面マーカーグリア線維酸性タンパク質(GFAP)およびA2B5(これらは一緒に、2型星状膠細胞に特徴的である)を発現する細胞に分化した(図6Aおよび6B)。このことは、さらに、実施例1において得られた希突起膠細胞前駆細胞が、全て、それらの発生段階において同調することを証明する。
【0102】
(実施例7:希突起膠細胞前駆細胞は、分化し得る)
本発明者らは、驚くべきことに、実施例4に従って得られたO4(+)O1(+)前駆細胞が、双極性の形態を有する、O−2A様細胞(O4(−)O1(−))への分化を誘導され得ることを見出した。これらの分化した細胞は、両能性であり、そして希突起膠細胞と2型星状膠細胞(T2A)との両方に再分化し得た。
【0103】
実施例4に従って得られたO4(+)O1(+)前駆細胞を、最初に、20ng/mlのBMP−2またはBMP−4を補充したDMEM/N2中で2週間培養したが、これらの前駆細胞は、Cy3共役抗GFAP抗体(Sigma)による染色の欠如によって示されるように、いずれのGFAP(+)−星状膠細胞も与えなかった(図7A)。次いで、これらの細胞をトリプシン処理し、そして15ng/mlのbFGFを補充したDMEM/N2中で継代培養した。これらの細胞をCy3共役抗O4抗体で染色されるが、Cy3共役抗O1抗体では染色されないことによって示されるように、これらの細胞の事実上全てが、1週間後に、O4(+)O1(−)細胞に復帰変異した(図7B)。次いで、この培地を、25ng/mlのPDGF、15ng/mlのbFGF,および5ng/mlのNT3を補充したDMEM/N2に交換し、そして培養し、そして約1週間で、これらの細胞の事実上全てが、双極性の形態を有するO4(−)O1(−)細胞に復帰変異した(図7C)。これらのO4(−)O1(−)細胞が、再分化する両能能力を依然として保有することを確認するために、これらのO4(−)O1(−)細胞を、希突起膠細胞または2型星状膠細胞を通常産生する条件下に置いた。これらのO4(−)O1(−)細胞を、実施例5に従う無血清馴化培地(N2を補充したDMEM)中で培養すると、これらの細胞のほぼ100%が、MBPを発現する成熟希突起膠細胞に分化した。これらのO4(−)O1(−)細胞を、10ng/mlの骨形成タンパク質2(BMP−2)、10ng/mlのBMP−4、または10%ウシ胎仔血清(FBS)を含む培地中で培養すると、これらのO4(−)O1(−)細胞は、Cy3共役抗GFAPでの染色によって示されるように、ほぼ100%の効率で、2型星状膠細胞を産生した(図7D)。このことは、BMPに非応答性であり、そして希突起膠細胞のみに分化するO4(+)O1(+)前駆細胞とは対照的である。従って、分化したO4(−)O1(−)細胞は、これらが両能性であり、希突起膠細胞および2型星状膠細胞を産生し得る点で、O−2A細胞と類似である。
【0104】
しかし、分化したO4(−)O1(−)細胞は、O−2A細胞とは異なった。なぜなら、これらの細胞は、O4表面マーカーを欠いたのみでなく、少なくとも1つの環境因子に対して異なって応答したからである。例えば、O−2A細胞は、CNTFに応答し、そして2型星状膠細胞に分化することが公知である。対照的に、本発明の分化したO4(−)O1(−)細胞は、CNTFに対して非応答性であった。従って、得られたO4(−)O1(−)細胞は、O−2A前駆細胞とは異なる、希突起膠細胞前駆細胞の新たに特徴付けられた集団であり得る。
【0105】
(実施例8:希突起膠細胞は、ミエリン化し得る)
ヒトDRGニューロン(9〜10週)を単離し、そして10ng/mlのCNTFおよび10ng/mlのNGFを補充したDMEM/B27中で、1週間培養した。実施例1に従って得られた希突起膠細胞前駆細胞を、1:2のニューロン:希突起膠細胞前駆細胞の比で添加し、そしてさらに2週間共培養した。これらの共培養した細胞を、リン酸生理食塩水緩衝液中4%のパラホルムアルデヒドで固定し、次いで、ミエリンを検出するためのCy3共役抗O1抗体、および軸索を検出するためのFITC共役抗神経線維200kD抗体(Sigma)で二重染色した。希突起膠細胞前駆細胞の99%より多くが、成熟希突起膠細胞に分化し、そしていくらかが、ヒトDRGニューロンの軸索の周りにミエリン化された(図8A〜8C)。対照的に、いずれの希突起膠細胞前駆細胞とも共培養されていない、コントロールDRG培養物は、いずれのO1(+)希突起膠細胞も産生せず、そしてDRGはミエリン化されなかった(結果は示さない)。
【0106】
本明細書は、本明細書中に引用される参考文献の教示を考慮して、最も完全に理解され、これらの参考文献の全ては、その全体が、本明細書中に参考として援用される。本明細書中の実施形態は、本発明の実施形態の説明を提供し、そして本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。当業者は、他の多くの実施形態が、本願発明によって包含されること、ならびに本明細書および実施例は、例示のみとみなされ、本発明の真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲に示されていることが意図されることを、認識する。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】図1は、発生マーカーおよび細胞形態によって特徴づけられる中枢神経系(CNS)の種々の細胞型の図式表示である。
【図2】図2は、ラット希突起膠細胞前駆細胞の均質かつ発生学的に同調の集団の位相差写真である。
【図3】図3は、ヒト希突起膠細胞前駆細胞の均質かつ発生学的に同調の集団の位相差写真である。
【図4】図4は、Cy3結合体化抗O4抗体またはCy3結合体化抗O1抗体で免疫細胞化学的に染色したO4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞の位相差写真および蛍光画像を示す。
【図5A】図5Aは、希突起膠細胞の写真である。図5Aおよび図5Bは、それぞれ、ラット希突起膠細胞およびヒト希突起膠細胞の位相差写真である。図5Cは、位相差におけるヒト希突起膠細胞ならびにCy3結合体化抗O1抗体およびFITC結合体化抗MBP抗体で二重染色した同一の希突起膠細胞を示す。
【図5B】図5Aは、希突起膠細胞の写真である。図5Aおよび図5Bは、それぞれ、ラット希突起膠細胞およびヒト希突起膠細胞の位相差写真である。図5Cは、位相差におけるヒト希突起膠細胞ならびにCy3結合体化抗O1抗体およびFITC結合体化抗MBP抗体で二重染色した同一の希突起膠細胞を示す。
【図5C】図5Aは、希突起膠細胞の写真である。図5Aおよび図5Bは、それぞれ、ラット希突起膠細胞およびヒト希突起膠細胞の位相差写真である。図5Cは、位相差におけるヒト希突起膠細胞ならびにCy3結合体化抗O1抗体およびFITC結合体化抗MBP抗体で二重染色した同一の希突起膠細胞を示す。
【図6】図6Aおよび図6Bは、2型星状膠細胞に分化したラット希突起膠細胞前駆細胞の写真である。図6Aは、2型星状膠細胞の位相差写真であり、そして図6Bは、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)の発現を示す同一細胞の蛍光画像である。
【図7A】図7A〜7Dは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞から生じる細胞の写真である。図7Aは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた細胞の蛍光画像を示す。図7Bは、O4(+)O1(+)前駆細胞から脱分化したO4(+)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、Cy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Cは、O4(+)O1(−)前駆細胞から脱分化したO4(−)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、およびCy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Dは、脱分化したO4(−)O1(−)前駆細胞から生じた2型星状膠細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた2型星状膠細胞の蛍光画像を示す。
【図7B】図7A〜7Dは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞から生じる細胞の写真である。図7Aは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた細胞の蛍光画像を示す。図7Bは、O4(+)O1(+)前駆細胞から脱分化したO4(+)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、Cy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Cは、O4(+)O1(−)前駆細胞から脱分化したO4(−)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、およびCy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Dは、脱分化したO4(−)O1(−)前駆細胞から生じた2型星状膠細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた2型星状膠細胞の蛍光画像を示す。
【図7C】図7A〜7Dは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞から生じる細胞の写真である。図7Aは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた細胞の蛍光画像を示す。図7Bは、O4(+)O1(+)前駆細胞から脱分化したO4(+)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、Cy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Cは、O4(+)O1(−)前駆細胞から脱分化したO4(−)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、およびCy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Dは、脱分化したO4(−)O1(−)前駆細胞から生じた2型星状膠細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた2型星状膠細胞の蛍光画像を示す。
【図7D】図7A〜7Dは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞から生じる細胞の写真である。図7Aは、O4(+)O1(+)希突起膠細胞前駆細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた細胞の蛍光画像を示す。図7Bは、O4(+)O1(+)前駆細胞から脱分化したO4(+)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、Cy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Cは、O4(+)O1(−)前駆細胞から脱分化したO4(−)O1(−)細胞の位相差写真(上のパネル)、ならびにCy3結合体化抗O4抗体と接触させた細胞の蛍光画像(左下のパネル)、およびCy3結合体化抗O1抗体と接触させた細胞の蛍光画像(右下のパネル)を示す。図7Dは、脱分化したO4(−)O1(−)前駆細胞から生じた2型星状膠細胞の位相差写真、およびCy3結合体化抗GFAPと接触させた2型星状膠細胞の蛍光画像を示す。
【図8A】図8A〜8Cは、成熟希突起膠細胞に分化し、そしてヒト脊髄神経節(DRG)ニューロンの軸策の軸策の周りの髄鞘形成を示すラット希突起膠細胞前駆細胞の写真である。図8Aは、DRGとの分化した細胞の位相差写真であり;図8Bは、ニューロンを検出するFITC結合体化抗神経糸200kD抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像であり;そして図8Cは、希突起膠細胞を検出するためのCy3結合体化抗O1抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像である。
【図8B】図8A〜8Cは、成熟希突起膠細胞に分化し、そしてヒト脊髄神経節(DRG)ニューロンの軸策の軸策の周りの髄鞘形成を示すラット希突起膠細胞前駆細胞の写真である。図8Aは、DRGとの分化した細胞の位相差写真であり;図8Bは、ニューロンを検出するFITC結合体化抗神経糸200kD抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像であり;そして図8Cは、希突起膠細胞を検出するためのCy3結合体化抗O1抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像である。
【図8C】図8A〜8Cは、成熟希突起膠細胞に分化し、そしてヒト脊髄神経節(DRG)ニューロンの軸策の軸策の周りの髄鞘形成を示すラット希突起膠細胞前駆細胞の写真である。図8Aは、DRGとの分化した細胞の位相差写真であり;図8Bは、ニューロンを検出するFITC結合体化抗神経糸200kD抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像であり;そして図8Cは、希突起膠細胞を検出するためのCy3結合体化抗O1抗体で免疫細胞化学的に染色した同一細胞の蛍光画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得るための方法であって、該方法は、同調発生段階を誘導するために有効な量の線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む培地中で非同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の不均質集団を培養する工程を包含し、該培養は、血小板由来増殖因子(PDGF)の実質的な非存在下で実行され、それによって、該同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を得る、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の均質集団は、該表現型の変化を防止するために有効な量の線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む培地中かつPDGFの実質的な非存在下で少なくとも約1年間、表現型を変化することなく培養可能である希突起膠細胞前駆細胞を含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の不均質集団の細胞は、分化プロセスにおいて異なる発生速度を有するか、分化すると異なる表現型の細胞を産生るか、または環境の培養条件に対して異なって応答する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団の細胞は、分化プロセスにおいて同一の発生速度を有するか、分化すると同一の表現型の細胞を産生するか、または環境的培養条件に対して同一様式で応答する、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の非同調集団は、希突起膠細胞前駆細胞のうちの少なくとも2つの集団を含み、該集団は、各々が異なる発生段階を有し、該発生段階は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階およびA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階からなる群より選択される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の同調集団は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階またはA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の集団である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、希突起膠細胞系統に制限される、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、前記FGFは、FGF1、FGF2(塩基性FGFまたはbFGF)、FGF4、FGF6、FGF8b、FGF9およびFGF17からなる群より選択される、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記FGFは、bFGFである、方法。
【請求項10】
請求項1または9に記載の方法であって、前記FGFの量は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlである、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記FGFの量は、約1ng/ml〜約10ng/mlである、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記FGFの量は、約5ng/mlである、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.1ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.01ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.001ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の不均質集団は、齧歯動物、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジおよびウサギからなる群より選択される哺乳動物から得られる、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の不均質集団は、海馬、小脳、脊髄、皮質、線条、前脳基底核、腹側中脳、青斑、および視床下部からなる群より選択されるメンバーから単離される、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、
(i)希突起膠細胞の均質集団を産生する能力;
(ii)2型星状膠細胞の均質集団を産生する能力;
(iii)脱分化する能力;および
(iV)1型星状膠細胞へと分化する能力の欠如、
から選択される少なくとも1つの特徴を有する、方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法によって得られる、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって得られる、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団であって、該希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、希突起膠細胞系統に制限される、集団。
【請求項21】
分化した希突起膠細胞の均質集団を得るための方法であって、該方法は、培地中で同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を培養する工程を包含し、該培地は、(a)いかなるマイトジェンも含まない培地、(b)該希突起膠細胞前駆細胞の分化を誘導するために十分な量の毛様体神経栄養因子(CNTF)を含む培地、(c)該突起膠細胞前駆細胞の分化を誘導するために十分な量の3,3’,5’,−トリヨードサイロニン(T3)を含む培地、ならびに(d)該突起膠細胞前駆細胞の分化を誘導するために十分な量の、毛様体神経栄養因子(CNTF)および3,3’,5’,−トリヨードサイロニン(T3)を含む培地からなる群より選択される、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、前記CNTFの量は、約1ng/ml〜約20ng/mlである、方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法であって、前記T3の量は、約1μg/ml〜約30μg/mlである、方法。
【請求項24】
培養中に希突起膠細胞前駆細胞の未分化集団を維持するための方法であって、該方法は、
未分化の発生段階を維持するために有効な量の線維芽細胞増殖因子(FGF)を含む培地中で希突起膠細胞前駆細胞の未分化集団を培養する工程
を包含し、該培養は、血小板由来増殖因子(PDGF)の実質的な非存在下で実行され、それによって、培養中に希突起膠細胞前駆細胞の未分化集団を維持する、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、前記FGFは、FGF1、FGF2(塩基性FGFまたはbFGF)、FGF4、FGF6、FGF8b、FGF9およびFGF17からなる群より選択される、方法。
【請求項26】
請求項24に記載の方法であって、前記FGFは、bFGFである、方法。
【請求項27】
請求項24または26に記載の方法であって、前記FGFの量は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlである、方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、前記FGFの量は、約1ng/ml〜約10ng/mlである、方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法であって、前記FGFの量は、約5ng/mlである、方法。
【請求項30】
請求項24に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.1ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項31】
請求項24に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.01ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項32】
請求項24に記載の方法であって、前記PDGFの実質的な非存在とは、0.001ng/ml未満のPDGFの量である、方法。
【請求項33】
同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を脱分化させるための方法であって、該方法は、
脱分化を促進するために有効な量の少なくとも1種の増殖因子を含む培地中で、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団を培養する工程
を包含する、方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、A2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階を有し、前記少なくとも1種の増殖因子は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlの量のbFGFである、方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階を有し、前記少なくとも1種の増殖因子は、約1ng/ml〜約50ng/mlの量のPDGFである、方法。
【請求項36】
請求項34に記載の方法であって、前記培地は、約1ng/ml〜約50ng/mlの量のPDGFおよび約1ng/ml〜約10ng/mlの量のニュートロフィン−3をさらに含む、方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法であって、前記培地は、約0.1ng/ml〜約40ng/mlの量のbFGFおよび約1ng/ml〜約10ng/mlの量のニュートロフィン−3をさらに含む、方法。
【請求項38】
請求項33に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階またはA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質集団である、方法。
【請求項39】
請求項33に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階またはA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の均質集団へと分化する、方法。
【請求項40】
請求項33に記載の方法であって、前記分化した希突起膠細胞前駆細胞は、希突起膠細胞または2型星状膠細胞へと分化し得る、方法。
【請求項41】
請求項33に記載の方法であって、該方法は、
前記培養工程の間に、消化試薬を使用した細胞解離によって少なくとも1回、前記希突起膠細胞前駆細胞を移す工程
をさらに包含する、方法。
【請求項42】
請求項33に記載の分化方法によって得られる、分化した希突起膠細胞前駆細胞の集団。
【請求項43】
2型星状膠細胞への分化を誘導するために有効な量の骨形成タンパク質2(BMP−2)またはBMP−4を用いた処理に応答するが、いかなる量の毛様体神経栄養因子(CNTF)を用いた処理にも応答しない、2型星状膠細胞へと分化する同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団。
【請求項44】
2型星状膠細胞への分化を誘導するために有効な量の、骨形成タンパク質2(BMP−2)またはBMP−4を用いた処理に応答するが、任意の量の毛様体神経栄養因子(CNTF)を用いた処理には応答しない2型星状膠細胞に分化する希突起膠細胞前駆細胞の脱分化した均質集団。
【請求項45】
請求項43または44に記載の方法であって、前記BMP−2およびBMP−4の量は、約1ng/ml〜約20ng/mlである、方法。
【請求項46】
希突起膠細胞前駆細胞の均質集団、希突起膠細胞の集団、または2型星状膠細胞の集団の生物学的機能に影響を及ぼす化合物をスクリーニングするための方法であって、該方法は、
(a)請求項1に記載の方法によって得られた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団、または請求項1に記載の方法によって得られた該均質集団から分化した希突起膠細胞の集団、または請求項1に記載の方法によって得られた該均質集団から分化した2型星状膠細胞の集団と、試験化合物とを接触させる工程;および
(b)該希突起膠細胞前駆細胞、該希突起膠細胞または該2型星状膠細胞の、生物学的機能における変化を検出する工程
を包含する、方法。
【請求項47】
請求項46に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞の均質集団は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階の希突起膠細胞前駆細胞、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階の希突起膠細胞前駆細胞、およびA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階の希突起膠細胞前駆細胞からなる群より選択される集団である、方法。
【請求項48】
請求項46に記載の方法であって、前記変化は、髄鞘形成、希突起膠細胞または2型星状膠細胞への分化、増殖速度、細胞移動、生存度、遺伝子発現、タンパク質発現、培養培地中のタンパク質レベル、脱分化、増殖特徴、および細胞形態からなる群より選択される特徴のうちの少なくとも1つにおける増加または低下である、方法。
【請求項49】
中枢神経系に影響を及ぼす疾患または状態に罹患している患者を処置するための方法であって、該方法は、
請求項1に記載の方法によって得られた、同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の自己再生性の表現型的に均質な集団の治療上有効量を、該患者に投与する工程
を包含する、方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法であって、前記希突起膠細胞前駆細胞は、前記患者に投与する前に、分化しているか、または脱分化している、方法。
【請求項51】
請求項49に記載の方法であって、前記疾患または状態は、脱髄疾患または神経変性疾患である、方法。
【請求項52】
請求項51に記載の方法であって、前記脱髄疾患は、脊髄損傷(SCI)、多発性硬化症(MS)、ヒト免疫欠損MS関連ミエロパシー、横断ミエロパシー/横断脊髄炎、進行性多病巣性白質脳障害、およびミエリン鞘への橋中央ミエリン溶解損傷からなる群より選択される、方法。
【請求項53】
請求項51に記載の方法であって、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、アルツハイマー型老年痴呆(SDAT)、パーキンソン病、ハンティングトン病、虚血、失明、および有髄ニューロン損傷に起因する神経変性疾患からなる群より選択される、方法。
【請求項54】
ATCC受託番号PTA 6093を有するラットA2B5(+)O4(+)O1(−)自己再生性希突起膠細胞前駆細胞の実質的に純粋な培養物。
【請求項55】
同調発生段階を有する希突起膠細胞前駆細胞の実質的に純粋な自己再生性均質集団。
【請求項56】
請求項55に記載の希突起膠細胞前駆細胞であって、前記同調発生段階は、A2B5(+)O4(−)O1(−)である、希突起膠細胞前駆細胞。
【請求項57】
請求項55に記載の希突起膠細胞前駆細胞であって、前記同調発生段階は、A2B5(+)O4(+)O1(−)である、希突起膠細胞前駆細胞。
【請求項58】
請求項55に記載の希突起膠細胞前駆細胞であって、前記同調発生段階は、A2B5(+)O4(+)O1(+)である、希突起膠細胞前駆細胞。
【請求項59】
請求項55に記載の希突起膠細胞前駆細胞であって、前記同調発生段階は、bFGF依存性である、希突起膠細胞前駆細胞。
【請求項60】
少なくとも2つの異なる同調発生段階からなる希突起膠細胞前駆細胞の実質的に純粋な、自己再生性均質集団の混合物であって、該発生段階は、A2B5(+)O4(−)O1(−)発生段階、A2B5(+)O4(+)O1(−)発生段階、およびA2B5(+)O4(+)O1(+)発生段階からなる群より選択される、混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【公表番号】特表2007−530001(P2007−530001A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520045(P2006−520045)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/IB2004/002670
【国際公開番号】WO2005/007797
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】