説明

帯域通過信号の時間シフトを求める方法及び装置

2つの信号間の時間シフトを求めるための装置が論述される。この装置は、各チャネルが対応する周波数(F0、F1、…、FK)に関連付けられる複数のチャネルを含む。各チャネルは、そのチャネルに対応する周波数において第1の変調信号によって2つの信号の一方を変調すると共に、そのチャネルに対応する周波数において第2の変調信号によって2つの信号の上記一方を変調して、被変調信号の対を生成し、第1の変調信号及び第2の変調信号は、同位相でもなく逆位相でもない固定された位相関係を有する、第1の変調手段(DT1…DTK)と、そのチャネルに対応する周波数において2つの信号の他方を変調して、被変調信号を生成する、第2の変調手段(DR0、DR1、…、DRK)と、第2の変調手段によって出力された被変調信号と、第1の変調手段によって出力された被変調信号の対との相互相関をそれぞれ求めて、相互相関関数の対を生成する手段(XC0、XS0;XC1、XS1;XCK、XSK)とを備える。複数のチャネルから出力される複数の相互相関関数は結合されて、合成相互相関関数が生成される(AVC、AVS、PTH)。時間シフトは合成相互相関関数から抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互相関関数の圧縮バージョン(compacted version)を利用することによって、帯域通過信号とその時間シフトされたレプリカとの間の時間シフトを求めるための方法及び装置に関する。この方法は、他を除外するものではないが特に、物体の検出及び測距のタスクを実行するシステムにおける時間遅延の測定に適用可能である。
【背景技術】
【0002】
多くの計測システムは、帯域通過信号という特定の形態の信号を利用する。帯域通過信号とは、低域周波数fL及び高域周波数fHという2つの特定の周波数によって定められる一定の周波数帯域の外側において、周波数スペクトルが実質的にゼロになる信号である。帯域通過信号は、その中央帯域(又は中心)周波数fC=(fH+fL)/2に対する信号帯域幅(fH−fL)の比として定義されるその比帯域幅の値に応じて、狭帯域、広帯域、又は超広帯域として分類することができる。狭帯域信号は小さな(例えば、1パーセントの)比帯域幅を有するが、超広帯域信号は0.25を超える比帯域幅によって特徴付けられる。通例、帯域通過信号が狭帯域でも超広帯域でもないとき、それらの帯域通過信号は広帯域信号と呼ばれる。
【0003】
帯域通過信号を活用する1つの重要な用途は、自動車におけるマイクロ波センサを用いた障害物の検出及び測距の用途である。図1は、マイクロ波自動車レーダの簡略化したブロック図である。
【0004】
波形ジェネレータWGTによって供給された適切な波形MWは、マイクロ波発振器OSCによって生成された搬送波F0を変調するために、変調器MODにおいて使用される。変調器MODの出力信号STは、増幅器/ドライバDRVで増幅され、適切に変調された形態SSで送信素子TELに印加される。その結果、マイクロ波インターロゲート信号が障害物OBJに向けて送信される。この送信信号は、連続的なものとすることもできるし、追加のパルス内変調が施されたパルス列若しくはパルス内変調が施されないパルス列の形態とすることもできる。
【0005】
障害物OBJから反射された信号は、受信素子RELによって捕捉され、変調された形態RRで増幅され、信号調節ユニットSCUにおいて適切に成形される。ユニットSCUの出力信号SRは、発振器OSCによって生成された搬送波F0によって同様に駆動されるダウンコンバータDCRにおいてベースバンドへ変換される。
【0006】
受信信号のベースバンドバージョンBRは、適切な相関器CORにおいて、変調波形MWと併せて処理される。当業者には既知であるように、信号BRとMWとの間の相互相関関数REを使用して、送信マイクロ波信号と反射マイクロ波信号との間の時間遅延を求めることができる。したがって、障害物までの距離を求めることができる。
【0007】
より具体的には、時間遅延は、得られた相互相関関数REの時間領域におけるピークの位置から求められる。反射信号が送信信号の形態を保持していれば、相互相関関数はその信号の自己相関関数と同じ形状を有する。当業者には既知であるように、インターロゲート信号が占有する帯域幅が広くなると、相関ピークの幅は狭くなる。したがって、時間遅延の測定の精度を改善するためには、広帯域信号が用いられる。
【0008】
図1における信号STとSRのような送信帯域通過信号と反射帯域通過信号との間の相互相関関数の形状を解析すると、相互相関関数の形状は、搬送波周波数におけるマイクロ波パルスの形態をとり、このパルスの包絡線は、ベースバンドにおいて求められる相互相関関数を複製することが示される。
【0009】
図2aは、送信帯域通過信号の電力スペクトル密度を示す。このスペクトルは、搬送波周波数fCにおいて帯域幅2Bを占有する。図2bは、ベースバンドへ変換されたこの信号のスペクトルを示す。図2cは、この帯域通過信号の相関関数を示し、図2dは、この帯域通過信号のベースバンドバージョンの相関関数を示す。相関包絡線内で観測される搬送波周波数fCのサイクル数は、比fC/Bに比例する。
【0010】
帯域通過信号とそのベースバンドバージョンのそれぞれの相関関数の形状の詳細な解析は、S. Sugasawa著:「Time Difference Measurement of Ultrasonic Pulses Using Cross-Correlation Function between Analytic Signals. Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 41 (2002) pp. 3299-3307」に示されている。
【0011】
この解析によって、ベースバンド相関関数のピークは放物線(1−γB2τ2)によって近似できるのに対して、帯域通過相関関数のピークは別の放物線[1−γ(fC2+B2)τ2]によって近似できることが示される。ここで、γは定数である。図から分かるように、帯域通過相関は、ベースバンド相関関数が示すよりもはるかに鋭いピークを常に示す。実際、比fC/Bの大きな値については、ピークの鋭さに対する信号帯域幅Bの寄与は無視することができ、ピークは主として搬送波周波数fCの値によって決まる。したがって、この潜在的に役立つ特性を何とかして活用することに関心が持たれる。しかしながら、帯域通過相関関数を時間遅延の測定のタスクに直接適用する試みは、以下の2つの主な理由から失敗するであろう。
【0012】
− 相関包絡線内に搬送波の多くのサイクルがあるとき、最も大きな値を有するものを見つけることは、事実上不可能である。
− 搬送波サイクル数が比較的少なく、さらに個々のサイクルがはっきりと認識できるとき、搬送波の未知の位相が、包絡線の最大値(正確な遅延を示す)と搬送波の最大値との間に未知のオフセットをもたらす。この現象によって、時間遅延の測定は非常に不正確なものとなる。
【0013】
もちろん、第1の場合でも搬送波の位相は未知であるが、搬送波のピークの「密度」が高いためにそれほど問題にはならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、帯域通過相関関数の特徴的な構造を十分に活用することによって、帯域通過信号とその時間シフトされたレプリカとの間の時間シフトを求めるための方法及び装置を提供することが望ましい。
【0015】
本発明の態様は、添付の特許請求の範囲に明確に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
ここで、添付図面を参照して本発明のさまざまな実施形態を述べることにする。
【0017】
【図1】マイクロ波自動車レーダの簡略化したブロック図である。
【図2】a)は、帯域通過信号の電力スペクトル密度を示す図である。b)は、ダウンコンバートの結果として帯域通過信号から得られたベースバンド信号の電力スペクトル密度を示す図である。c)は、帯域通過信号の自己相関関数を示す図である。d)は、ダウンコンバートの結果として帯域通過信号から得られたベースバンド信号の自己相関関数を示す図である。
【図3】搬送波周波数fCにおける帯域通過信号を使用して、ベースバンドバージョンと、中間周波数fkに位置するK個の周波数シフトされたレプリカとを生成する概念を模式的に示す図である。
【図4a】ベースバンド(k=0)及び9つの異なる中間周波数において得られる同相相互相関関数及び直交相互相関関数の例を示す図である。
【図4b】ベースバンド(k=0)及び9つの異なる中間周波数において得られる同相相互相関関数及び直交相互相関関数の例を示す図の続きである。
【図5】すべての重みakが等しいときに、9つの異なる中間周波数について得られる周期的櫛型関数DK(τ)の形状を示す図である。
【図6】重みakが本発明に従って構成されたときに、9つの異なる中間周波数について得られる周期的櫛型関数DK(τ)の形状を示す図である。
【図7】位相角θの任意に選択された6つの値について、2つの成分RR(τ)及びRI(τ)、並びに、圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|を示す図である。
【図8】相互相関包絡線RE(τ)と、等しい重みについて得られる圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|とを示す図である。
【図9】制御パラメータpの3つの値0.05、0.2、及び0.4について、K=9のパスカル窓の形状を示す図である。
【図10】種々のパスカル窓において得られる圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|を示す図である。
【図11】相互相関包絡線RE(τ)と、制御パラメータp=0.05及びp=0.4におけるパスカル窓において得られるその2つの圧縮バージョンとを示す図である。
【図12】図11のすべての相互相関関数を2乗したものを示す図である。
【図13】本発明に従って構成された相関圧縮システムCCRの機能ブロック図である。
【図14】本発明に従って構成された相関圧縮システムCCRを組み込むように修正されたマイクロ波自動車レーダのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
搬送波周波数(すなわち、中心周波数)fCを有する帯域通過信号s(t)が、未知の量Δだけ遅延し、時間遅延したレプリカs(t−Δ)が生成されるものと仮定する。信号s(t)は、対象となる或る障害物に向けて送信される無線周波数(RF)帯域通過信号又はマイクロ波帯域通過信号とすることができ、信号s(t−Δ)は、障害物によって反射されて戻ってくるものとみなすことができる。よく知られているように、障害物までの距離は、送信信号が受ける遅延Δから求めることができる。
【0019】
例えば、送信信号s(t)は、変調波形によって適切に振幅変調及び/又は周波数変調された搬送波周波数fCの正弦搬送波の形態を有することができる。当業者にはよく知られているように、このような変調を搬送波に与えると、搬送波の電力が拡散される。このとき、当初は周波数fCに集中していた電力は、周波数fCを中心とした周波数帯域B0内に分散される。その結果、変調プロセスは、コヒーレント搬送波の1次余弦自己相関関数cos2πfCτを、時間の経過により減衰する包絡線R(τ)を有する別の余弦関数R(τ)cos2πfCτに変換する。包絡線R(τ)の形状は電力スペクトル分布の形状に依存し、包絡線の時間幅及び範囲は周波数帯域B0の増加と共に減少する。
【0020】
元の送信信号s(t)とその遅延レプリカs(t−Δ)の両方が、未知の遅延Δの値を求めるその後の処理に利用可能であると仮定する。本発明の別の態様によれば、遅延信号s(t−Δ)は、ベースバンド及び所定のK個の中間周波数f1,f2,…,fk,…,fKへダウンコンバートされる。その結果、信号s(t−Δ)についての以下に示す(K+1)個の表現が得られる。
【0021】
【数1】

【0022】
送信信号s(t)もベースバンド及び同じK個の中間周波数f1,f2,…,fk,…,fKへダウンコンバートされる。しかしながら、この場合には、信号s(t)についての2つの直交成分が生成される。したがって、送信信号をダウンコンバートした結果、以下に示す2(K+1)個の表現が得られる。
【0023】
【数2】

【0024】
ここで、xk(t)及びyk(t)のそれぞれは、いわゆる中間周波数fkにおいて得られた同相成分(in-phase component)及び直交成分(quadrature component)である(明らかに、x0(t)及びy0(t)はベースバンド成分である)。或いはまた、信号s(t)についてのこれら2(K+1)個の表現は、(K+1)個の複素表現とみなすこともできる。適切に選ばれた中間周波数において信号の直交成分を生成する技法としては、多くの種々の技法が知られている。
【0025】
必須ではないが、或る適切に選ばれた基本周波数f1の連続した高調波である中間周波数、すなわち、
【0026】
【数3】

【0027】
を利用することが便利である。
【0028】
本発明のさらなる態様によれば、ベースバンド及びK個の中間周波数において、2(K+1)個の相関器を含むバンクを利用して、1次信号s(t)についての(K+1)個の各複素表現と、遅延信号s(t−Δ)についての対応する各表現との間の相互相関関数が求められる。
【0029】
図3は、開示される本概念を概略的に示す。搬送波周波数fCにおける帯域通過信号s(t)を使用して、そのベースバンドバージョンを生成すると共に、中間周波数fkに位置するK個の周波数シフトされたレプリカを生成する。このような操作は、搬送波周波数fCを中心として有限の周波数帯域を占有する帯域通過信号を、信号の帯域幅が使用される中間周波数のうちで最大のもの、すなわちfKにまで(ほぼ)拡張された概念上のベースバンド「信号」への変換とみなすことができる。したがって、時間遅延を求める目的で帯域通過信号の帯域幅を拡張するには、この手法を使用することが有利である。1次送信信号s(t)は、それ自体は有用な情報を全く含まず、その特徴は効率的な電力送信を得ると共に、時間遅延の測定を容易にするように選択されることに留意されたい。
【0030】
図3は、遅延信号s(t−Δ)が受ける同様の帯域幅拡張も示す。結果として生じる2つの信号s(t)及びs(t−Δ)のスペクトルにおける特定の「タイル」構造は、対応する「タイル」(スペクトルレプリカ)によって表される信号成分を相互相関させるのに活用することができる。そして、得られた複数の相互相関関数を適切に結合して、明白な鋭いピークを有する「圧縮された(compacted)」関数を得ることができ、時間遅延の測定を容易にすることができる。
【0031】
ダウンコンバート及び相互相関の操作を組み合わせて実行した結果として、相互相関関数の以下のセットが得られる。
− ベースバンドにおいて、
【0032】
【数4】

【0033】
− K個の中間周波数fk、k=1,2,…,Kのそれぞれにおいて、
【0034】
【数5】

【0035】
上記数式におけるθは、中心周波数fCにおける位相遅延に起因すると共に、対象となる物体による送信信号s(t)の反射の位相にも起因して生じる未知の位相角である。
【0036】
関数RE(τ−Δ)は、上記すべての相互相関関数:Ck(τ)、Sk(τ)、k=0,1,…,Kの包絡線である。以下に示すように、この包絡線は2つのベースバンド相互相関関数から求めることができる。
【0037】
【数6】

【0038】
E(τ−Δ)の時間領域におけるピークの位置は、信号s(t)のいわゆる群遅延Δに対応し、従来から時間遅延の測定に使用されている。
【0039】
以下では、余弦項を含む相互相関関数Ck(τ)、k=0,1,…,Kを同相相互相関関数(in phase cross-correlation function)と呼ぶと都合が良い。同様に、正弦項を含む相互相関関数Sk(τ)は、直交相互相関関数(quadrature cross-correlation function)と呼ばれる。
【0040】
例示のために、かつ、本発明の理解を容易にするために、ベースバンド(k=0)及び9つの異なる中間周波数kf1、k=1,2,…,9において得られる同相相互相関関数及び直交相互相関関数の例を図4に示す。未知の位相角θの値はπ/3に設定されている。ここでは、遅延Δは0に設定されている。また、相対時間τは、包絡線RE(τ)が時間区間(−1,1)に及ぶように正規化され、基本周波数f1の周期は2に等しい。図から分かるように、いずれの中間周波数fkにおいても、それぞれの相互相関関数Ck(τ)、Sk(τ)の最大値の位置と、その包絡線RE(τ)の最大値の位置とは一致しない。これは、観測不可能で且つ一般に未知の位相角θの存在によるものである。
【0041】
本発明のさらなる態様によれば、すべての同相相互相関関数Ck(τ)は、適切な重みakで平均化されて、圧縮相互相関関数(compacted cross-correlation function)RC(τ)の実数成分RR(τ)が生成される。
【0042】
【数7】

【0043】
ここで、重みakは、それらの重みの合計が1に等しくなるように正規化されている。したがって、
【0044】
【数8】

【0045】
となる。重みakの最適な選択は、この後で詳細に論じられる。
【0046】
同様に、すべての直交相互相関関数Sk(τ)も、同じ所定の重みakで平均化されて、圧縮相互相関関数RC(τ)の虚数成分RI(τ)が生成される。
【0047】
【数9】

【0048】
本発明に従って構成された圧縮相互相関関数RC(τ)は、成分RR(τ)とRI(τ)を含む複素関数であり、したがって、
【0049】
【数10】

【0050】
となる。
【0051】
したがって、圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|は
【0052】
【数11】

【0053】
によって求めることができる。
【0054】
大きさ|RC(τ)|が
【0055】
【数12】

【0056】
の形になることは容易に示すことができる。
【0057】
上記数式は、次のように解釈することができる。圧縮相互相関関数RC(τ)の観測される大きさ|RC(τ)|は、相互相関包絡線RE(τ)による周期的櫛型関数DK(τ)
【0058】
【数13】

【0059】
の時間「ゲーティング(gating)」の結果である。
【0060】
したがって、圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|のピークは、相互相関包絡線RE(τ)のピークと一致し、未知の遅延Δを求めるのに使用することができる。圧縮相互相関関数|RC(τ)|のピークは、相互相関包絡線RE(τ)のピークよりも大幅に狭くすることができるため、時間遅延測定の精度は、従来の時間遅延測定の技法よりも向上する。
【0061】
さらに、圧縮相互相関関数RC(τ)の観測される大きさ|RC(τ)|は、未知の位相角θに依存しない。したがって、例えば送信パスの微細な変動、ドップラー効果、或いは周波数変動に起因する位相θの変化は、時間遅延の測定に悪影響を与えない。圧縮相互相関関数RC(τ)におけるこの特有の特性によって、未知の位相角θを取り扱う問題は解決される。
【0062】
本発明に従って構成された圧縮相互相関関数RC(τ)の上記2つの特性(明白な鋭いピーク及び位相からの独立性)によって、開示される本技法は、従来技術の技法よりも優れたものとなる。
【0063】
すべての重みak、k=0,1,…,Kが同じ値であり、1/(K+1)に等しい場合には、周期的櫛型関数DK(τ)は、以下のような閉じた式で表すことができる。
【0064】
【数14】

【0065】
上記数式は、相互相関包絡線RE(τ)において指定された圧縮を達成するのに必要な中間周波数の個数Kを求めるのに使用することができる。
【0066】
図5は、基本周波数f1の周期が2に設定され、すべての重みakが等しいときに、9つの異なる中間周波数kf1、k=1,2,…,9について得られる周期的櫛型関数DK(τ)の形状を示す。この形状は、複数の特徴的なサイドローブを呈する。櫛型関数DK(τ)の形状は、未知の位相角θの値に関係なく不変であることを指摘しておく。
【0067】
比較のために、以降でより詳細に説明する本発明のさらに別の態様に従って重みakが構成されたときの周期的櫛型関数DK(τ)の形状を図6に示す。このとき、図から分かるように、櫛型DK(τ)は、目に見えるサイドローブをもたない単峰性の「歯」(unimodal ‘teeth’)を備える。
【0068】
本発明に従って構成された圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさが未知の位相角θに依存しないことを示すために、位相角θの任意に選択された6つの値について、2つの成分RR(τ)とRI(τ)、及び、関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|を図7に示す。図から分かるように、成分RR(τ)とRI(τ)の形状は大きく変化するが、大きさの形状は位相角θによる影響を受けていない。図7に示す圧縮相互相関関数は、図4に示した形状を有する10対の相互相関関数を処理することによって得られたものである。平均化に使用された重みakは、図6に示した櫛型DK(τ)を生成するのに使用されたものと同じである。
【0069】
図8は、等しい重みについて得られた圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|を示す。比較のために、相互相関包絡線RE(τ)も示されている。図から分かるように、圧縮相互相関関数の大きさ|RC(τ)|は、図5に示した櫛型関数DK(τ)のサイドローブに由来する特徴的なサイドローブを呈する。
【0070】
いくつかの実際の用途では、圧縮相互相関関数の大きさ|RC(τ)|に現れるサイドローブは、相互相関ピークを位置特定する際に不確定性をもたらさない限り、許容することができる。しかしながら、対象となる遅延信号s(t−Δ)が雑音や他の干渉によって破損されるときには、相互相関ピークを広げるという不可避な犠牲を払ってでも、サイドローブを抑制することが好ましい。
【0071】
したがって、単一の「制御」パラメータを変化させることによって、重みの配分を一様なもの(狭い応答を生成するすべて等しい重み)から一様でないものに次第に変換し、その結果、応答がサイドローブを有しない単峰性となるように重みakを構成するための方法を開発することが役に立つ。
【0072】
本発明の別の態様によれば、重みakは、以下の方法で2項係数(すなわち、パスカルの三角形の行の要素)から求められる。初めに、重みakの個数(K+1)が指定されると、1次係数Akを以下のように求める。
【0073】
【数15】

【0074】
ここで、pは区間(0,1)から選択される値を取る制御パラメータである。p=0のとき、すべての重み(A0を除く)は等しい。(正確な演算のために、係数A0は常に、それぞれの2項係数がp乗されたものの2分の1に等しい)。次に、以下のように、1次係数Akを正規化することによって、重みakが得られる。
【0075】
【数16】

【0076】
信号処理において、解析される波形を修正するのに使用される係数のセットは、窓(window)と呼ばれる。したがって、本発明に従って構成された重みのセット{ak}は、重みがパスカルの三角形の適切な要素から得られたものであるため、(1パラメータ)パスカル窓と呼ばれる。
【0077】
図9は、制御パラメータpの3つの異なる値0.05、0.2、及び0.4について、k=0,1,…,9におけるパスカル窓の形状を示したものである。図10は、それぞれのパスカル窓に対応する圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|を示したものである。図から分かるように、p=0.4のとき、関数|RC(τ)|は、明らかに滑らかな傾斜を有する単峰性である。p=0.2のとき、この関数は依然として単峰性であるが、傾斜はいくつかの小さな起伏効果を呈する。最後に、p=0.05のとき、小さなサイドローブが現れているため、この関数はもはや単峰性ではない。しかしながら、予想されたように、大きさ|RC(τ)|の幅は制御パラメータpの値が大きいほど広くなる。したがって、パラメータpの値は、干渉の予想レベル及び意図した用途の他の態様を考慮に入れて、賢明な方法で選択されるべきである。
【0078】
当業者に知られている他の窓も利用できることを指摘しておく。さらに、数値最適化を行うことによって、一組の特定の基準を満たす窓を設計することもできることを指摘しておく。しかしながら、本発明に従って構成されたパスカル窓は、設計が容易であり、開示された方法を使用する時間遅延の測定によく適しているように思われる。
【0079】
周期的櫛型関数DK(τ)は、その櫛型関数DK(τ)の唯一の主ピークが「捕捉」されるように、相互相関包絡線RE(τ)によって「ゲーティング」されるべきである。したがって、基本周波数f1等の使用される最小周波数の周期は、好ましくは、相互相関包絡線RE(τ)の時間範囲、すなわち台(support)に等しくあるべきである。一般に、圧縮相互相関関数|RC(τ)|の幅は、使用されるすべての中間周波数における最大のもの、すなわちfKに反比例する。
【0080】
時間遅延の測定の改善を示すために、相互相関包絡線RE(τ)と、その2つの圧縮バージョンとを図11に示す。ここで、2つの圧縮バージョンは、ベースバンドに9つの中間周波数を加えたものを利用して、制御パラメータの2つの異なる値、p=0.05及びp=0.4を有するパスカル窓を適用することによって得られたものである。基礎となる関数RE(τ)の幅は、(2分の1の高さの)4.5倍(p=0.05)及び3倍(p=0.4)に削減されている。明らかに、このような削減によってピーク位置の局所性は大幅に改善され、したがって、時間遅延の測定はより正確になる。
【0081】
圧縮相互相関関数RC(τ)の大きさ|RC(τ)|の代わりに、大きさの2乗である
【0082】
【数17】

【0083】
を使用することによって、演算が簡単になると共に、関数のピークがより明白になる。したがって、時間遅延の測定がさらに改善される。比較のために、図11のすべての相互相関関数を2乗した結果を図12に示す。
【0084】
開示される技法は、送信信号の帯域幅を増加させることなく、改善された時間遅延計測を提供する。逆に言えば、より狭帯域の信号を送信して、必要とされる精度を得ることができる。この特性は、マルチユーザ環境或いは高密度信号環境を対象としたシステムを構成するときに特に有利である。
【0085】
図13は、本発明に従って構成された相関圧縮システムCCRの機能ブロック図である。このシステムは、
− 多重周波数ジェネレータBLF、
− (K+1)個の直交ダウンコンバータDT0、DT1、…、DTKのバンク、
− (K+1)個のダウンコンバータDR0、DR1、…、DRKのバンク、
− 相関器の2つのバンク、第1のバンクは(K+1)個の相関器XC0、XC1、…、XCKを備え、第2のバンクは相関器XS0、XS1、…、XSKを備える、
− 2つの平均化回路AVC及びAVS、
− (ピタゴラス)関数結合器PTH、
− 制御ブロックCTB、
を備える。
【0086】
システムの主要部は、(K+1)個の同一のチャネルを含むものとみなすことができる。各チャネルは、異なる中間周波数fkにおいてではあるが、同じ機能及び動作を実行する。したがって、一例として、チャネル1の動作をより詳細に説明することにする。このチャネルは、回路DT1、XC1、XS1、及びDR1から成る。
【0087】
送信信号s(t)等の基準信号STは、直交ダウンコンバータDT1の一方の入力に印加される。直交ダウンコンバータDT1の他方の入力は、多重周波数ジェネレータBLFによって供給される正弦波信号F1によって駆動される。正弦波信号F1の周波数は、必要とされる所定の中間周波数f1を得るように選択される。ダウンコンバータDT1は、入力信号STの周波数f1における2つの直交バージョンI1及びQ1を生成する。
【0088】
受信信号s(t−Δ)等の遅延信号SRは、ダウンコンバータDR1の一方の入力に印加される。ダウンコンバータDR1の他方の入力は、多重周波数ジェネレータBLFによって供給される正弦波信号F1によって駆動される。正弦波信号F1の周波数は、必要とされる所定の中間周波数f1を得るように選択される。ダウンコンバータDR1は、入力信号SRの周波数f1におけるバージョンR1を生成する。
【0089】
直交ダウンコンバータDT1によって生成された信号I1及びQ1と、ダウンコンバータDR1によって生成された信号R1は、すべて同じ中心周波数f1を有する。信号I1及びR1が相関器XC1で処理されて、相互相関関数C1が得られる。同様に、信号Q1及びR1が相関器XS1で処理されて、相互相関関数S1が得られる。
【0090】
(K+1)個のすべてのチャネルは並列に動作しているため、これらのチャネルは、(K+1)個の同相相互相関関数C0、C1、…、CK、及び(K+1)個の直交相互相関関数S0、S1、…、SKを併せて生成する。得られたすべての同相相互相関関数は、平均化回路AVCにおいて適切な重みで平均化される。同様に、得られたすべての直交相互相関関数も、平均化回路AVSにおいて適切な重みで平均化される。
【0091】
関数結合器PTHは、平均化回路AVC及びAVSによってそれぞれ供給された平均RR及びRIを利用して、圧縮相互相関関数を表す出力信号RCを生成する。圧縮相互相関関数のピークの位置は、2つの入力信号STとSRとの間の未知の遅延Δを示す。そして、適切な外部プロセッサがこの遅延の値を求めるために、出力RCを使用することができる。
【0092】
また、相関圧縮システムCCRは、システムの正確な動作に必要な適切なタイミング及び同期信号を供給する制御ブロックCTBも備える。制御信号TCは、(K+1)個の相関器XC0、XC1、…、XCKのバンクに印加される。それに対して、制御信号TSは、(K+1)個の相関器XS0、XS1、…、XSKのバンクに印加される。また、2つの平均化回路AVC及びAVSは、ブロックCTBから制御信号TAを受け取る。制御ブロックCTBは、自律的に動作してもよいし、或いは入力CCに現れる外部信号によって制御されてもよい。
【0093】
当業者には既知であるように、上記の機能及び動作のうちのいくつか、さらにはすべてを、汎用プロセッサ又は特注プロセッサによってディジタルに実装することができる。しかしながら、ギガヘルツ領域では、依然として、必要な動作をアナログハードウェアで少なくとも部分的に実装するのがより便利である。
【0094】
当業者には既知であるように、相互相関処理は適切に構成されたマッチドフィルタによって実行することもできる。しかしながら、一般に、マッチドフィルタリングは、継続時間が有限であり形状が既知の信号に使用される。したがって、マッチドフィルタリングは連続信号には適しておらず、特に、非決定論的信号又は非決定論的変調がなされた信号には適していない。
【0095】
図14は、図1に示した従来技術のシステムを修正した機能ブロック図である。図から分かるように、ダウンコンバータDCRと相関器CORは、本発明に従って構成された相関圧縮システムCCRに置き換えられている。従来技術のシステムと比較すると、修正されたシステムは、求める時間遅延の改善された推定値を提供する。
【0096】
本発明の好ましい実施形態の上記説明は、例示及び説明の目的で提示されたものである。この説明は、網羅的であることも、開示される正確な形態に本発明を限定することも意図するものではない。上記説明に鑑みると、予想される特定の使用に適したさまざまな実施形態で本発明を利用するために、多くの変更、修正、及び変形が当業者に可能であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの信号間の時間シフトを求めるための装置であって、
各チャネルが対応する周波数に関連付けられる複数のチャネルであって、
チャネルに対応する周波数において第1の変調信号によって前記2つの信号の一方を変調すると共に、チャネルに対応する周波数において第2の変調信号によって前記2つの信号の前記一方を変調して、被変調信号の対を生成し、前記第1の変調信号及び前記第2の変調信号は、同位相でもなく逆位相でもない(out of phase and out of anti-phase)固定された位相関係を有する、第1の変調手段、
チャネルに対応する周波数において前記2つの信号の他方を変調して、被変調信号を生成する、第2の変調手段、並びに
さまざまな時間シフトにおいて、前記第2の変調手段によって出力された前記被変調信号と、前記第1の変調手段によって出力された前記被変調信号の対とを比較して、比較関数の対を生成する、比較手段、
を有する、複数のチャネルと、
前記複数のチャネルからの前記複数の比較関数を結合して合成比較関数を生成する、結合手段と、
前記合成比較関数から時間シフトを抽出する、抽出手段と、
を備える、2つの信号間の時間シフトを求めるための装置。
【請求項2】
前記結合手段によって、前記合成比較関数のエネルギーが前記複数のチャネルにおいて生成された前記複数の比較関数のエネルギーと比較して時間領域において集中化されるように、前記複数のチャネルに対応する各周波数が配置される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記チャネルのそれぞれは、すべてのチャネルにおいて実質的に同じタイミングの主ピークの大きさと、すべてのチャネルにおいてそれぞれ異なるタイミングの副ピークとを有する複素関数に対応する比較関数の対を生成するように動作可能であり、
それによって、前記結合手段が前記複数の比較関数の対を結合すると、前記主ピークの大きさは、前記副ピークの大きさと比較して増強される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記比較手段は、少なくとも1つの相互相関器を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の変調信号及び前記第2の変調信号は、互いの位相が直交(in phase quadrature with each other)している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記チャネルのそれぞれは、該チャネルに対応する周波数のローカル発振器を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
すべての変調動作がコヒーレントである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記結合手段は、
前記チャネルのそれぞれから前記比較関数の対の一方を受け取って、該受け取った比較関数に対して加算演算を実行する、第1の加算手段と、
前記チャネルのそれぞれから前記比較関数の対の他方を受け取って、該受け取った比較関数に対して加算演算を実行する、第2の加算手段と、
前記第1の加算手段の出力及び前記第2の加算手段の出力を2乗して、その結果に対して加算演算を実行して前記合成比較関数を生成するように動作可能である、関数結合器と、
を備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の加算手段及び前記第2の加算手段の少なくとも一方は、重み係数のセットに従って重み付け加算を実行するように動作可能である、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記重み係数のセットは、p乗された2項係数を含み、pは0から1までである、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
ベースバンドに関連付けられる前記重み係数は、対応する2項係数の2分の1である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
pの値を変化させるように動作可能な制御手段をさらに備える、請求項10又は11に記載の装置。
【請求項13】
前記抽出手段は、前記合成比較関数の最大ピークのタイミングを求めるように動作可能である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記2つの信号は帯域通過信号である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
2つの信号間のシフトを求める方法であって、
複数の周波数のそれぞれについて、前記2つの信号が該周波数に変換されたバージョン間の複素相互相関を実行することと、
そのようにして導出された複数の複素相互相関関数を結合することによって、前記シフトを示す位置においてピークを有する合成相互相関関数を導出することと
含む、2つの信号間のシフトを求める方法。
【請求項16】
2つの信号間のシフトを求める方法であって、
複数の周波数のそれぞれについて、
前記2つの信号が該周波数に変換されたバージョンの第1の成分を比較することによって、第1の比較関数を導出することと、
前記2つの信号の前記バージョンの第2の成分を比較することによって、第2の比較関数を導出することと、
前記複数の比較関数を結合して、前記シフトを示す位置においてピークを有する合成比較関数を導出することと、
を含み、
前記第2の成分は、前記第1の成分と同位相でもなく逆位相でもない(out of phase or antiphase)、2つの信号間のシフトを求める方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−539465(P2010−539465A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524567(P2010−524567)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003093
【国際公開番号】WO2009/034335
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(501253316)ミツビシ・エレクトリック・アールアンドディー・センター・ヨーロッパ・ビーヴィ (77)
【氏名又は名称原語表記】MITSUBISHI ELECTRIC R&D CENTRE EUROPE B.V.
【住所又は居所原語表記】20 Frederick Sanger Road, The Surrey Research Park, Guildford, Surrey GU2 5YD, Great Britain
【Fターム(参考)】