説明

帯電ロール

【課題】電気抵抗変動が抑制され、安定した電気抵抗特性を示す帯電ロールを提供する。
【解決手段】軸体1と、その外周に形成された導電性弾性体層2と、上記導電性弾性体層2の外周に形成された抵抗調整層3と、上記抵抗調整層3の外周に形成された保護層4とを備え、上記抵抗調整層3が、下記の(A)〜(C)を必須成分とする半導電性ゴム組成物によって形成されている。
(A)ゴム材料。
(B)粒子表面にシリカが固定され、さらにその外周がシランカップリング剤でコーティングされた電子導電性粒子。
(C)絶縁性粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機,プリンター,ファクシミリ等の電子写真装置に用いられる帯電ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真複写機による複写は、軸中心に回転する感光ドラムに、原稿像を静電潜像として形成し、これにトナーを付着させてトナー像を形成した後、このトナー像を複写紙に転写することにより行われるようになっている。なお、上記静電潜像は、予め感光ドラム表面を帯電させ、この帯電部分に対して原稿像を、光学系を介して投射し、光の当たった部分の帯電を打ち消すことにより形成される。そして、上記静電潜像の形成に先立って感光ドラム表面を帯電させる方式としては、近年、帯電ロールを感光ドラム表面に直接接触させる方式(接触帯電方式)が多く採用されている。
【0003】
上記接触帯電方式に用いられる帯電ロールとしては、例えば、軸体の外周に、導電剤を含む特殊な発泡体からなる最内層と、中間層と、最外層とが、この順で形成されたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、軸体の外周に、導電性弾性体層と、抵抗調整層と、保護層とを備えた帯電ロールにおいて、上記抵抗調整層を、(A)ゴム材料と、(B)シリカが表面に固定された電子導電性粒子と、(C)絶縁性粒子とを必須成分とする半導電性ゴム組成物で形成したもの(例えば、特許文献2参照)が提案されており、特に、上記抵抗調整層に、シランカップリング剤を配合すると、より優れた電気抵抗特性が得られることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−75600公報
【特許文献2】特開2004−151498公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2の帯電ロールにおいて、上記抵抗調整層にシランカップリング剤を配合したものは、優れた電気抵抗特性を示しうるが、製造条件や加工履歴によっては、抵抗調整層の抵抗が大きく変動し、帯電ロールの電気抵抗特性がかえって不安定になり画像不良等を招くおそれがあることが判明した。そこで、このような電気抵抗変動を抑制し、安定した電気抵抗特性を示す帯電ロールを提供することが強く望まれている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、電気抵抗変動が抑制され、安定した電気抵抗特性を示す帯電ロールの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、軸体と、その外周に形成された導電性弾性体層と、上記導電性弾性体層の外周に形成された抵抗調整層と、上記抵抗調整層の外周に形成された保護層とを備えた帯電ロールであって、上記抵抗調整層が、下記の(A)〜(C)を必須成分とする半導電性ゴム組成物によって形成されている帯電ロールを第1の要旨とする。
(A)ゴム材料。
(B)粒子表面にシリカが固定され、さらにその外周がシランカップリング剤でコーティングされた電子導電性粒子。
(C)絶縁性粒子。
【0008】
また、本発明は、そのなかでも、特に、上記電子導電性粒子が、カーボンブラック、金属粉末、導電性金属酸化物、グラファイトおよびカーボン繊維からなる群から選択される少なくとも一つである帯電ロールを第2の要旨とする。
【0009】
さらに、本発明は、それらのなかでも、特に、上記(C)の絶縁性粒子が、シランカップリング剤でコーティングされたものである帯電ロールを第3の要旨とし、そのなかでも、特に、上記シランカップリング剤が、テトラスルフィドシランである帯電ロールを第4の要旨とする。
【0010】
すなわち、本発明者らは、前記課題を解決すべく、抵抗調整層用材料を中心に鋭意研究を重ねた。その結果、ゴム材料と、シリカが表面に固定された電子導電性粒子と、絶縁性粒子とを必須成分とする半導電性ゴム組成物に、単に、シランカップリング剤を配合するのではなく、上記シリカ固定電子導電性粒子の外周を、予めシランカップリング剤でコーティングしたものを用いると、マトリクス成分であるゴム材料と、電子導電性粒子表面のシリカとが、シランカップリング剤を介して化学結合によって固定されるため、混練や押出等の加工履歴による電子導電性粒子の移動が制限され、電気抵抗変動が抑制されることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の帯電ロールは、軸体と、その外周に形成された導電性弾性体層と、上記導電性弾性体層の外周に形成された抵抗調整層と、上記抵抗調整層の外周に形成された保護層とを備え、上記抵抗調整層が、ゴム材料(A成分)と、外周がシランカップリング剤でコーティングされた、シリカ固定電子導電性粒子(B成分)と、絶縁性粒子(C成分)とを必須成分とする半導電性ゴム組成物によって形成されている。このため、マトリクス成分であるゴム材料と、電子導電性粒子表面のシリカとが、シリカの上にコーティングされたシランカップリング剤を介して、化学結合によってしっかりと固定され、混練や押出等の加工履歴による電子導電性粒子の移動が制限されたものとなる。したがって、従来は、どうしても加工履歴によって電子導電性粒子が移動し凝集して電気抵抗にばらつきが生じていたのに対し、本発明の帯電ロールは、電気抵抗変動が抑制され、電気抵抗特性がきわめて安定したものとなる。また、ピンホールリークによる画像の滲み等を防止することができ、良好な画像を得ることができる。
【0012】
なお、上記(B)に用いられる電子導電性粒子として、カーボンブラック、金属粉末、導電性金属酸化物、グラファイトおよびカーボン繊維からなる群から選択される少なくとも一つを用いると、特に、電子導電性粒子の分散性と導電性に優れたものとなる。
【0013】
また、上記(C)の絶縁性粒子として、シランカップリング剤でコーティングされたものを用いると、さらに電気抵抗変動が抑制され、より電気抵抗特性が安定したものとなる。
【0014】
そして、上記シランカップリング剤として、テトラスルフィドシランを用いると、とりわけ、ゴム材料とシリカ固定電子導電性粒子とを強固に固定することができるため、電気抵抗特性をさらに安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0016】
図1は、本発明の帯電ロールの一実施の形態を示している。この帯電ロールは、軸体1の外周面に沿って導電性弾性体層2が形成され、上記導電性弾性体層2の外周面に抵抗調整層3が形成され、さらに上記抵抗調整層3の外周面に保護層4が形成された構成になっている。
【0017】
上記軸体1としては、特に限定されるものではなく、例えば、金属製の中実体からなる芯金や、内部を中空にくり抜いた金属製の円筒体等が用いられる。そして、その金属材料としては、ステンレス、アルミニウム、鉄にメッキを施したもの等があげられる。
【0018】
上記軸体1の外周面に形成される導電性弾性体層2用材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリノルボルネンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)等があげられ、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、チタン酸カリウム、酸化鉄、c−TiO2 、c−ZnO、c−SnO2 、イオン導電剤(四級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤等)等の従来公知の導電剤が、上記材料中に適宜添加される。さらに、必要に応じて、発泡剤、架橋剤、架橋促進剤、オイル等を適宜添加してもよい。
【0019】
なお、上記導電性弾性体層2用材料は、通常、それによって形成される導電性弾性体層2の体積抵抗率が、およそ101 〜106 Ω・cmの範囲内となるよう、適宜調製される。
【0020】
上記導電性弾性体層2の外周面に形成される抵抗調整層3用材料としては、下記の(A)〜(C)を必須成分とする特殊な半導電性ゴム組成物が用いられる。
(A)ゴム材料。
(B)粒子表面にシリカが固定され、さらにその外周がシランカップリング剤でコーティングされた電子導電性粒子。
(C)絶縁性粒子。
【0021】
まず、(A)成分であるゴム材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0022】
つぎに、上記(B)成分である、粒子表面にシリカが固定され、さらにその外周がシランカップリング剤でコーティングされた電子導電性粒子(処理済電子導電性粒子)は、所定の処理により電子導電性粒子の表面にシリカを固定し、さらに、その外周を、シランカップリング剤でコーティングしたものである。
【0023】
上記(B)成分に用いる電子導電性粒子としては、特に限定されるものではなく、例えば、FEF,SRF,ケッチェンブラック,アセチレンブラック等のカーボンブラックや、金属粉末、C−TiO2 ,C−ZnO等の導電性金属酸化物、グラファイト、カーボン繊維等があげられる。そして、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。そして、これらの電子導電性粒子は、およそ1×101 Ω・cm以下の体積抵抗値を示し、かつ、およそ120μm以下の平均粒子径を示すものが好適に用いられる。
【0024】
上記電子導電性粒子の表面にシリカを固定する方法としては、例えば、つぎのような方法をあげることができる。すなわち、まず、カーボンブラック等の電子導電性粒子を水中に分散させ、分散剤(例えば、メタノール、各種界面活性剤)を添加して均一なスラリーとする。つぎに、このスラリーをpH6以上、好ましくはpH10〜11に調節し、温度70℃以上、好ましくは85〜95℃に保ちながら、けい酸ナトリウムを加水分解させ、電子導電性粒子表面に無定形シリカを付着または沈着させる。これによって、粒子表面にシリカが固定された電子導電性粒子を得ることができる。
【0025】
なお、上記シリカ固定電子導電性粒子におけるシリカ(Si)の固定量は、シリカ固定電子導電性粒子全体に対するシリカの含有量が1〜15重量%の範囲内となるよう設定することが好ましく、特に好ましくは3〜10重量%の範囲内である。すなわち、上記シリカ量が1重量%未満であると、その外周にシランカップリング剤をコーティングした状態において、マトリクス成分であるゴム材料との親和性が少なくなる傾向がみられ、逆に15重量%を超えると、導電性への効果が減少する傾向がみられるからである。
【0026】
また、上記シリカ固定電子導電性粒子の平均粒径は、0.01〜0.8μmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.02〜0.5μmの範囲内である。すなわち、上記範囲を外れると、電子導電性粒子の分散性が悪くなるおそれがあるからである。
【0027】
そして、上記シリカ固定電子導電性粒子の外周を、さらにシランカップリング剤でコーティングする方法としては、例えば、つぎのような方法をあげることができる。すなわち、まず、上記シリカ固定電子導電性粒子と、シランカップリング剤と、低沸点溶剤(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等)とを適宜の割合で配合し、ヘンシェルミキサー等で撹拌する。そして、シリカ固定電子導電性粒子の外周に、均一にシランカップリング剤を付着させた状態で乾燥することにより、(B)成分の処理済電子導電性粒子を得ることができる。
【0028】
上記シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランといったメルカプタン系のシランカップリング剤や、テトラスルフィドシラン,ジスルフィドシランといったポリスルフィド系のシランカップリング剤等が、好ましく用いられる。そして、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、ゴム材料や絶縁性粒子やシリカに対する結合性に優れる点で、テトラスルフィドシランが、特に好ましく用いられる。
【0029】
また、上記シランカップリング剤のコーティング量は、シリカ固定電子導電性粒子100重量部(以下、「部」と略す)に対し、3〜8部に設定することが好適である。すなわち、シランカップリング剤のコーティング量が、上記の範囲よりも少ないと、シリカとゴム材料とを固定する効果が不充分となるおそれがあり、逆に、上記の範囲よりも多いと、苛酷条件で保管した場合、過剰なシランカップリング剤が表面にブリードするおそれがあるからである。
【0030】
そして、上記(B)成分の配合割合は、前記(A)成分であるゴム材料100部に対し、30〜100部の範囲に設定することが、所望の半導電特性を得る上で好ましく、より好ましくは40〜70部の範囲である。
【0031】
また、前記(C)成分である絶縁性粒子としては、その体積抵抗値が、およそ1×1010Ω・cm以上であり、かつ、その平均粒子径が、およそ0.01〜40μmの範囲内にあるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ、クレー等があげられる。そして、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
そして、上記(C)成分の配合割合は、上記(A)のゴム材料100部に対し、10〜100部の範囲に設定することが、抵抗調整層3において、電子導電性粒子を均一に分散する上で好ましく、より好ましくは30〜70部の範囲である。
【0033】
なお、上記(C)成分である絶縁性粒子の一部もしくは全部を、前記(B)成分と同様、シランカップリング剤でコーティングした絶縁性粒子で置き換えることができる。その場合、シランカップリング剤の種類、コーティング方法は、(B)成分の場合と同様である。ただし、上記(C)成分である絶縁性粒子のコーティングに用いるシランカップリング剤と、(B)成分に用いるシランカップリング剤の種類は、必ずしも同一にする必要はなく、それぞれ別々に、シランカップリング剤によるコーティングを行うことができる。もちろん、両者を、同一のシランカップリング剤を用いて一工程で同時にコーティングすると、処理工程が簡単となり、好ましい。
【0034】
そして、上記抵抗調整層3用材料には、上記(A)〜(C)の各成分に加え、加硫剤、加硫促進剤、帯電防止剤、亜鉛華,ステアリン酸といった各種助剤等を、必要に応じて配合してもよい。
【0035】
また、導電性付与のために、上記(B)成分とともに、シリカ処理していない通常の電子導電性粒子を併用しても差し支えない。
【0036】
そして、これらの各成分を混練することによって得られる抵抗調整層3用材料は、それにより形成される抵抗調整層3の体積抵抗率が、およそ105 〜1011Ω・cmの半導電領域内となるよう、適宜調製される。
【0037】
つぎに、上記抵抗調整層3の外周面に形成される保護層4用材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、N−メトキシメチル化ナイロン等のポリアミド系樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂,シリコーン樹脂等があげられ、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。また、導電性付与のため、カーボンブラック等の従来公知の導電剤が、上記材料中に適宜添加される。
【0038】
なお、上記保護層4用材料は、それにより形成される導電性弾性体層2の体積抵抗率が、およそ107 〜1013Ω・cmの範囲内となるよう、適宜調製される。
【0039】
本発明の帯電ロールは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、まず、前記導電性弾性体層2用の各成分をニーダーやロール等の混練機を用いて混練し、導電性弾性体層2用材料を調製する。また、前記抵抗調整層3用の各成分を、バンバリーミキサーまたはニーダーにより混練したあと、ロールを用いて混練し、抵抗調整層3用材料(コンパウンド)を調製する。さらに、前記保護層4用材料をMEK等の有機溶剤に溶解し、サンドミル等で分散することにより、保護層4用材料(コーティング液)を作製する。
【0040】
ついで、軸体1の外周面に接着剤を塗布し、この表面に、上記導電性弾性体層2用材料および抵抗調整層3用材料を、押出機を用いて共押出成形する。そして、これを金型内で同時架橋を行い、軸体1の外周面に導電性弾性体層2が形成され、この導電性弾性体層2の外周面に抵抗調整層3が形成されてなるロールを作製する。さらに、上記抵抗調整層3の外周面に、上記保護層4用材料であるコーティング液を、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等により塗布し、乾燥した後、所定の条件で加熱架橋を行い、所定厚みの保護層4を形成する。このようにして、導電性弾性体層2の外周面に抵抗調整層3が形成され、さらにその外周面に保護層4が形成された三層構造の帯電ロール(図1参照)を作製することができる。
【0041】
また、本発明の帯電ロールは、つぎのようにして作製してもよい。すなわち、まず、軸体1をセットした金型内に導電性弾性体層2用材料を充填し、これを加熱架橋させ、軸体1の外周面にあらかじめ導電性弾性体層2を形成する。ついで、上記導電性弾性体層2の表面に、溶剤に溶解した抵抗調整層3用材料(コーティング液)を、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等により塗布し、乾燥した後、所定の条件で加熱架橋を行うことにより、導電性弾性体層2の外周面に抵抗調整層3を形成する。つぎに、上記抵抗調整層3の外周面に、上記保護層4用材料であるコーティング液を、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等により塗布し、乾燥した後、所定の条件で加熱架橋を行い、所定厚みの保護層4を形成する。このようにして、導電性弾性体層2の外周面に抵抗調整層3が形成され、さらにその外周面に保護層4が形成された三層構造の帯電ロール(図1参照)を作製することもできる。
【0042】
このようにして得られる本発明の帯電ロールは、上記抵抗調整層3が、ゴム材料(A成分)と、外周がシランカップリング剤でコーティングされたシリカ固定電子導電性粒子(B成分)と、絶縁性粒子(C成分)とを必須成分とする特殊な半導電性ゴム組成物によって形成されているため、マトリクス成分であるゴム材料と、電子導電性粒子表面のシリカとが、外周にコーティングされたシランカップリング剤を介して、化学結合によってしっかりと固定され、混練や押出等の加工履歴による電子導電性粒子の移動が制限されたものとなる。したがって、本発明の帯電ロールは、電気抵抗変動が抑制され、電気抵抗特性がきわめて安定したものとなる。また、ピンホールリークによる画像の滲み等を防止することができ、良好な画像を得ることができる。
【0043】
ちなみに、シランカップリング剤としてテトラスルフィドシランを用いた場合における、ゴム材料とシリカとの反応機構を、図2に模式的に示す。まず、図2(a)に、電子導電性粒子表面に固定されたシリカの化学式と、シランカップリング剤であるテトラスルフィドシランの化学式を示す。そして、シリカ固定電子導電性粒子の表面にシランカップリング剤をコーティングした状態を、図2(b)に示す。5は電子導電性粒子である。この状態では、シリカとシランカップリング剤とが化学結合し、各電子導電性粒子5が、シリカとシランカップリング剤とを介して固定されていることがわかる。
【0044】
この状態で、(A)成分であるゴム粒子や(C)成分である絶縁粒子とともに混練され加硫された状態を、図2(c)に示す。これにより、各電子導電性粒子5が、シリカとシランカップリング剤とを介して、ゴム粒子の分子鎖に固定され、その動きが規制されていることがわかる。
【0045】
なお、本発明の帯電ロールにおいて、各層2〜4の厚みは、特に限定はないが、上記導電性弾性体層2の厚みは、通常、1〜10mmの範囲内に設定され、好ましくは2〜4mmの範囲内であり、上記抵抗調整層3の厚みは、通常、10〜1000μmの範囲内に設定され、好ましくは20〜700μmの範囲内である。また、上記保護層4の厚みは、1〜50μmの範囲内に設定するのが好ましく、特に好ましくは3〜30μmの範囲内である。
【0046】
また、先に述べたように、上記導電性弾性体層2の体積抵抗率は、通常、101 〜106 Ω・cmの範囲内に設定され、上記抵抗調整層3の体積抵抗率は、通常、105 〜1011Ω・cmの範囲内に設定され、上記保護層4の体積抵抗率は、通常、107 〜1013Ω・cmの範囲内に設定される。
【0047】
なお、本発明の帯電ロールは、図1に示す三層構造に限定されるものではなく、例えば、上記導電性弾性体層2と抵抗調整層3との間に、軟化剤移行防止層や接着剤層等を、必要に応じ設けることにより、四層以上の層構造としても差し支えない。
【実施例】
【0048】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0049】
〔実施例1〕
〔導電性弾性体層用材料の調製〕
EPDM(三井化学社製、EPT4045)100部と、カーボンブラック(ケッチェンブラックEC)20部と、酸化亜鉛5部と、ステアリン酸1部と、プロセスオイル(出光石油化学社製、ダイアナプロセスPW380)30部と、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(発泡剤)15部と、硫黄1部と、ジベンゾチアゾールジスルフィド(架橋促進剤)2部と、テトラメチルチウラムモノサルファイド(架橋促進剤)1部とを配合して、ロールを用いて混練して、導電性弾性体層用材料を調製した。
【0050】
〔処理済カーボンブラックの作製〕
(1)カーボンブラック表面へのシリカ固定
カーボンブラック(三菱化学社製、MA100)を500部計り取り、メタノールと水の混合溶液〔メタノール:水=1:9(重量比)〕1000部で湿潤させ、さらに4000部の水を加えスチールボールを充填したアトライターで均一で粘稠なスラリーになるまで充分に分散させた。つぎに、スラリーを篩を通してスチールボールと分離し、水10,000部に相当する容量まで希釈した。そして、スラリーを90℃に加熱した後、水酸化ナトリウム溶液の添加により、pHを10.0に調節した。つぎに、下記の2種類の溶液(イ)および(ロ)を、別個に調製した。
(イ)3号けい酸ナトリウム溶液167部を、水1000部に相当する容量まで水で希釈したもの。
(ロ)2.50%硫酸溶液1000部。
【0051】
その後、上記pHを10.0に調節したスラリーに、(イ)の希釈けい酸ナトリウム溶液50部を30秒以内で加え、スラリーのpHを11.0に調節した。このpHに保ったまま10分間攪拌を続けた後、(ロ)の硫酸溶液50部を30秒以内で加え、スラリーのpHを8.5に調節した。この添加方法を20回繰り返し、(イ)、(ロ)の両液を添加し終えた。さらに1時間攪拌を続け、希硫酸を加えpHを6.5〜7.0に調節した。スラリーを濾過し、可溶性塩がなくなるまで洗浄し乾燥することにより、シリカ固定カーボンブラック(Si含有量10重量%)を作製した。
【0052】
(2)シリカ固定カーボンブラックへのシランカップリング剤コーティング
上記シリカ固定カーボンブラック100部に対し、シランカップリング剤であるテトラスルフィドシラン(日本ユニカー社製、A−1289)6.48部、低沸点溶剤であるアセトンを40部配合し、ヘンシェルミキサーにより撹拌し、乾燥することにより、外周がテトラスルフィドシランでコーティングされたシリカ固定カーボンブラック(処理済カーボンブラック)を得た。
【0053】
〔抵抗調整層用材料の調製〕
NBR(日本ゼオン社製、ニポールDN3335)100部と、上記処理済カーボンブラック45部と、シリカ(日本シリカ社製、ニプシールER)20部と、マイカ(レプコ社製、レプコマイカM−XF)30部とを、ニーダーにより混練した後、さらに、ロールを用いて混練し、抵抗調整層用材料(コンパウンド)を調製した。
【0054】
〔保護層用材料の調製〕
フッ素変性アクリレート樹脂(大日本インキ社製、ディフェンサTR230K)50部と、フッ素化オレフィン系樹脂(アトフィナジャパン社製、カイナーSL)50部と、導電性酸化チタン(石原テクノ社製、タイペークET−300W)100部とを、MEK200部に溶解し、これらをサンドミルを用いて分散して、保護層用材料を調製した。
【0055】
〔帯電ロールの作製〕
直径6mmの金属製シャフトからなる芯金を用意し、この外周面に接着剤を塗布した後、この表面に、上記導電性弾性体層用材料および抵抗調整層用材料を、押出機を用いて共押出成形した。そして、これを金型内で同時架橋、発泡を行い、芯金の外周面に導電性弾性体層(厚み2.5mm)が形成され、この導電性弾性体層の外周面に抵抗調整層(厚み500μm)が形成されてなるロールを作製した。続いて、上記抵抗調整層の外周面に、上記保護層用材料をロールコーティング法により塗布し、乾燥した後、150℃×60分の条件で加熱架橋を行い、保護層(厚み6μm)を形成し、これにより、目的とする三層構造の帯電ロールを得た。
【0056】
〔実施例2〜6、比較例1〜3〕
後記の表1〜表3に示すように、抵抗調整層用材料を変えた。それ以外は、上記実施例1と同様にして、5種類の実施例品と、3種類の比較例品とを得た。
【0057】
上記実施例1〜6、比較例1〜3の各帯電ロールについて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表1〜表3に併せて示す。
【0058】
〔周方向抵抗バラツキ〕
周方向抵抗バラツキは、図3に示すような装置を用いて、金属ロール電極法によりロール電気抵抗を測定することにより算出した。すなわち、まず、ステンレス製の金属ロール10上に、試料である帯電ロール11を接触させ、帯電ロール11の両端を、それぞれ荷重500g(4.9N)で押圧し、この状態で帯電ロール11の一端に、交流電圧:300Hz 500Vpp、直流電圧:−200Vの電圧を印加した。そして、その状態で、上記帯電ロール11を回転させ、帯電ロール11における電気抵抗の直流成分を測定し、そのデータをもとに、下記の式(1)に従い、周方向抵抗バラツキ(X)を算出した。
【0059】
【数1】

【0060】
なお、上記式(1)において、Rmaxはロール電気抵抗の最大値であり、Rminはロール電気抵抗の最小値であり、Raはロール電気抵抗の平均値である。そして、上記Xが、60%以下のものを◎、60%を超え70%以下のものを○、70%を超え80%以下のものを△、80%を超えるものを×として評価した。
【0061】
〔画像滲み〕
各帯電ロールを市販のレーザープリンター(日本ヒューレットパッカード社製、レーザージェット4L)に組み込み、その一方で、上記レーザープリンターにおける感光ドラム表面上に、針等で直径:0.2mmのピンホールを設けた。そして、15℃×10%RH環境下において、白画像を出力し、上記感光ドラム上のピンホールによって形成される画像の評価を行なった。そして、上記ピンホールに対する、実際に出力される画像上の滲み直径の比率を求め、画像滲みの評価を行った。すなわち、上記比率が1.4未満であるものを◎、1.4以上1.8未満であるものを○、1.8以上2.2未満であるものを△、2.2以上であるものを×として評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
上記の結果から、実施例品は、その抵抗調整層中の電子導電性粒子(シランカップリング剤によってコーティングされたシリカ固定電子導電性粒子)の分散性が優れ、電気抵抗のバラツキが小さく、滲みの殆どない良好な複写画像が得られることがわかる。特に、実施例1品は、抵抗調整層用材料として、電子導電性粒子表面に固定されるシリカ量、その外周にコーティングされるシランカップリング剤量、そして、ゴム材料に対する(B)成分の配合割合の全てが適正に設定されているため、シランカップリング剤およびシリカを介してなされるゴム材料と電子導電性粒子の固定が強固になっており、電気抵抗特性が非常に安定していることがわかる。また、実施例6品は、(C)成分の絶縁性粒子として、(B)成分と同様、シランカップリング剤をコーティングしたものを用いているため、さらに安定した電気抵抗特性を示すことがわかる。
【0066】
これに対して、比較例1〜3品は、実施例品に比べ、その抵抗調整層中の電子導電性粒子の分散性が悪く、電気抵抗のバラツキがみられることがわかり、製品特性もあまり安定していない。さらに、複写画像における画像滲みも若干みられ、本発明で求められるレベルに達していないことがわかる。
【0067】
なお、実施例1の抵抗調整層用材料と、比較例3の抵抗調整層用材料のそれぞれについて、練り時間による抵抗変動を、下記の方法にしたがって測定した。その結果を図4に示す。
【0068】
〔練り時間による抵抗変動〕
抵抗調整層用材料(コンパウンド)調整時のロール混練時間を変更して(7分、9分、11分)、実施例1、比較例3のそれぞれについて3種類の帯電ロールを作製した。そして、各帯電ロールの抵抗(Ω)を測定した。
【0069】
図4の結果から、実施例1に用いた抵抗調整層用材料は、練り時間を長くしても、抵抗変動が少なく、加工履歴にかかわらず、電気抵抗特性が安定していることがわかる。
【0070】
また、実施例1の帯電ロールと、比較例3の帯電ロールを、それぞれ2500本量産し、直流電流値のバラツキ(%)の程度を度数分布グラフにしたものを、図5および図6に示す。これらの結果から、実施例1の帯電ロールは、バラツキの分布幅が狭く、しかもその値が小さい領域で分布しているため、量産しても製品の品質にバラツキが生じにくいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の帯電ロールの一例を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、いずれも本発明の抵抗調整層における構造の特長を模式的に説明する説明図である。
【図3】帯電ロールの電気抵抗の測定方法を示す説明図である。
【図4】抵抗調整層用材料の練り時間と抵抗変動の関係を示す線図である。
【図5】実施例1品の直流電流値のバラツキを示す度数分布グラフである。
【図6】比較例3品の直流電流値のバラツキを示す度数分布グラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 軸体
2 導電性弾性体層
3 抵抗調整層
4 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、その外周に形成された導電性弾性体層と、上記導電性弾性体層の外周に形成された抵抗調整層と、上記抵抗調整層の外周に形成された保護層とを備えた帯電ロールであって、上記抵抗調整層が、下記の(A)〜(C)を必須成分とする半導電性ゴム組成物によって形成されていることを特徴とする帯電ロール。
(A)ゴム材料。
(B)粒子表面にシリカが固定され、さらにその外周がシランカップリング剤でコーティングされた電子導電性粒子。
(C)絶縁性粒子。
【請求項2】
上記電子導電性粒子が、カーボンブラック、金属粉末、導電性金属酸化物、グラファイトおよびカーボン繊維からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1記載の帯電ロール。
【請求項3】
上記(C)の絶縁性粒子が、シランカップリング剤でコーティングされたものである請求項1または2記載の帯電ロール。
【請求項4】
上記シランカップリング剤が、テトラスルフィドシランである請求項1〜3のいずれか一項に記載の帯電ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−178752(P2007−178752A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377536(P2005−377536)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】