説明

帯電部材、電子写真装置および電子写真装置用プロセスカートリッジ

【課題】被帯電体の汚染が殆ど発生せず、かつ自身の表面の耐汚染性にも優れた帯電部材を提供する。
【解決手段】電子写真装置内に配置され、電圧が印加された状態で被帯電体面の帯電処理を行う、導電性弾性体層を備える帯電部材において、該導電性弾性体層は架橋されたゴム成分を含み、かつ、導電性弾性体層の表皮部が、該ゴム成分と共に分子内に少なくともポリエステルおよび/またはポリスチレンを成分として有し、さらにSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサン架橋物を、好ましくは相互貫入網目構造を形成して、含むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置等に用いられる帯電部材、更に詳述すれば電子写真装置等の装置内で、被帯電体を帯電する帯電部材、被帯電体上に形成されたトナー画像を転写紙に転写する転写部材、被帯電体上に形成された静電潜像をトナー画像として顕像化する現像部材等に用いられる帯電部材、それを用いた電子写真装置、プロセスカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置(複写機、光プリンター等)、静電記録装置等の画像形成装置の電子写真感光体、誘電体等の被帯電体を帯電処理する手段として、電圧を印加した帯電部材を被帯電体に近接または接触させて被帯電体面を帯電処理する接触帯電が知られている。
【0003】
接触帯電は、コロナ帯電と比較して、帯電部材に印加する電圧を低くすることができ、オゾン発生量を抑えることができる等の長所を有している。このような接触帯電用の帯電部材には、被帯電体の均一性、感光体等の被帯電体表面のピンホール・傷等に起因するリークを防止するために、表面の導電性が低いことが要求される。また、このような帯電部材は、被帯電体に対して所定の圧力で押圧して均一なニップを得るために、低硬度であることが要求される。この様な要求に対し、金属等の導電性芯金上に、カーボンブラックやグラファイト、酸化チタン、酸化銀等の金属酸化物、Cu、Ag等の金属粉、更にはこれらを粒子表面に被覆処理して導電化した粒子等の導電性粒子をゴムに混合分散した導電性弾性体層を有するゴムローラや、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)やエピクロルヒドリン系共重合体のような極性ポリマーを含む導電性弾性体層を有するゴムローラ等の帯電部材が提案されている。
【0004】
しかしながら、導電性弾性体層を構成するゴム組成物には、ベースポリマーを合成する際に投入する反応開始剤の残留物やその際に発生する副生成物、ベースポリマーの低分子成分、ゴム部材成形時に添加される加硫剤や軟化剤、可塑剤および導電性制御のための導電剤等の成分が含まれている。そのため、このような帯電部材を被帯電体に押圧したまま、高温高湿下に長時間放置すると、帯電部材と被帯電体とが融着したり、帯電部材の導電性弾性体層中の低分子成分が滲出したりして被帯電体を汚染し、被帯電体表面にソルベントクラックを生じさせ、電子写真画像の品位を低下させてしまうことがあった。
【0005】
一方、帯電部材は、繰り返し使用による表面への現像剤等の付着によって汚染され、この汚れが蓄積し、帯電不良や異常帯電による縦すじ等の画像欠陥が発生してしまうことがある。
【0006】
このような課題に対し、ゴム層からの低分子成分の染み出しを抑える層や、非接着性樹脂からなる層を導電性弾性体層の表面に設けたいわゆる多層構造の帯電部材が提案されている。しかし、各々の技術課題に応じて層を付加していくことはコスト的に不利であり、また多層構造の帯電部材においては、帯電部材本来の機能である被帯電体の良好な帯電性能を維持することは容易なことではなかった。
【0007】
導電性弾性体層からの低分子成分の染み出しによる有機感光体の汚染防止に対して、多層構造を採ることなしに解決を図った例として、イオン導電剤を含有するエピクロルヒドリンおよびエチレンオキサイドの共重合体を主体とするゴムからなる弾性層を有する導電性ローラをイソシアネート含有化合物を含む処理液に浸漬して加熱して、弾性層表面を硬化処理するによって、感光体への汚染を無くす技術が開示されている(特許文献1)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この技術に係る導電性ロールには、確かに有機感光体への汚染防止に有効であったものの、未だ十分とは言えないレベルであった。また、特許文献1では、導電性ロール自体の表面汚染に対しては何らの考慮もなされていない。
【特許文献1】特開平10−45953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、被帯電体の汚染が殆ど発生せず、かつ自身の表面の耐汚染性にも優れた帯電部材を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の課題は、高品位な電子写真画像を安定して形成することのできる電子写真装置、およびそれに用いるプロセスカートリッジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討し、導電性弾性体層表面に特定の加工を施したならば、良好な帯電特性、優れた耐汚染性の帯電部材となることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は下記構成を有する。
【0012】
[1]電子写真装置内に配置され、電圧が印加された状態で被帯電体面の帯電処理を行う、導電性弾性体層を備える帯電部材において、該導電性弾性体層は架橋されたゴム成分を含み、かつ、導電性弾性体層の表皮部が、該ゴム成分と共に分子内に少なくともポリエステルおよび/またはポリスチレンを成分として有し、さらにSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサン架橋物を含むことを特徴とする帯電部材。
【0013】
[2]導電性弾性体層の表皮部において、ゴム成分とシロキサン架橋物が、相互貫入高分子網目(IPN)構造を形成している上記[1]の帯電部材。
【0014】
[3]上記の帯電部材を具備していることを特徴とする電子写真装置。
【0015】
[4]電子写真感光体および該電子写真感光体を帯電する帯電部材が一体に保持され、電子写真装置本体に着脱自在に構成されているプロセスカートリッジにおいて、該帯電部材が上記の帯電部材であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の帯電部材は、導電性弾性体層から被帯電体への低分子成分の移行を極めて有効に抑制されていると共に、表面への現像剤等の付着が抑えられているので、従来のこれらに対する対策であった、所謂多層構造が不要となっている。これにより、本帯電部材は製造コストが低減され、また多層構造とすることによる帯電部材に帯電性能の複雑な調整が不要となる。
【0017】
さらに、本発明によれば、信頼性の向上した帯電部材を具備することから、高品位な画像を安定して与える電子写真装置およびそれに用い得るプロセスカートリッジが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る帯電部材は、電子写真装置内に配置され、電圧が印加された状態で被帯電体面の帯電処理を行う、架橋されたゴム成分を含有している導電性弾性体層を備える帯電部材であって、導電性弾性体層表皮部に、該ゴム成分と分子内にポリエステルおよび/またはポリスチレンの成分を有し、かつSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサンの架橋物とが混在している点に特徴を有している。
【0020】
図1は、本発明に係る帯電部材の断面図を示す。
【0021】
図1中、2cは円筒形状の導電性基体からなる芯金で、その外周には、その表皮部(表面および表面より僅か内部)2aが改質された、架橋されたゴム成分を含む導電弾性体層2bを具備している。すなわち、導電弾性体層2bは、その表皮部2a少なくともその表面より内側が、導電性弾性体層を形成する導電性を付与され架橋されたゴム成分と、分子内にポリエステルおよび/またはポリスチレンの成分を有し、かつSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサン架橋物とが混在している。なお、表皮部2aが上記組成になっている限り、表皮部2aの最表面が分子内にポリエステルおよび/またはポリスチレンの成分を有し、かつSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサン架橋物のみからなっていてもかまわない。
【0022】
このような構造は、架橋されたゴム成分を含有している導電性弾性体層の表面に、末端に加水分解性を有する反応基を有するシロキサンを接触せしめ、含浸させた後、該シロキサンを該導電性弾性体層中にて加水分解反応させることによって得ることができるものである。このようにすることにより、多層構造を採用することなしに、導電性弾性体層からの低分子成分の浸出が極めて有効に抑えられる。すなわち、該シロキサンは加水分解反応によって、3次元架橋構造を有し、表皮部2aでは、ゴム成分の架橋構造と、このシロキサン反応物の架橋構造とが互いに入り込んだ非常に緻密な構造、いわゆる、相互貫入網目構造IPN(Interpenetrating polymer network)が形成され、導電性弾性体層2bの内部から低分子成分が浸出するのを防止している。
【0023】
[ゴム成分]
導電性弾性体層2bに含まれるゴム成分として、一般的なものでよく、ジエン系ゴムおよびその水添物(例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化NR、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR(高シスBRおよび低シスBR))、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム(M−EPM))、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、含ハロゲンゴム(例えば、Br−IIR、Cl−IIR、イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、エピクロルヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM))、アルキルエーテルゴム、シリコーンゴム(例えば、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)等が挙げられる。これらに配合剤を添加した後、加熱等の手段によって加硫ゴムを得る。
【0024】
導電性を得るには、原料ゴムにカーボンブラック、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタンのような導電性粒子を混入した電子導電系ゴムやアクリロニトリルブタジエンゴムやエピクロルヒドリンゴムのような自身導電性を有するイオン導電系ゴムを用いてもよいし、必要であればイオン導電系ゴムにアルカリ金属の過塩素酸塩、長鎖アルキルスルホン酸塩およびテトラアルキル4級アンモニウム塩等のイオン導電剤を混入してもよい。しかし、ブリードやブルームの点でイオン導電剤は用いない方が好ましい。また、導電性の制御のし易さから、イオン導電系ゴムを用いることが好ましく、更に加工性の点でアクリロニトリルブタジエンゴムやエピクロルヒドリンゴムまたはアルキルエーテルゴムを使用するのが好ましい。
【0025】
[分子内にポリエステルおよび/またはポリスチレンの成分を有し、かつ末端に加水分解性の反応基を有するシロキサン]
末端に加水分解性の反応基を有するシロキサンは、ポリエステルおよび/またはポリスチレンとシロキサンとの共重合体で、シロキサン末端に加水分解性の反応基を有するものである。なお、このポリシロキサンはポリエステル、ポリスチレンの成分は少なくともいずれか1つが含まれることが必要であるが、本発明では、ポリエステルあるいはポリエステルのみを含むシロキサンを必要性能に応じて混合して使用することも可能である。
【0026】
ポリエステルは、酸成分、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドテカンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸等、グリコール成分、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等からなるポリエステルである。
【0027】
また、ポリスチレンとして、ポリスチレン;ポリ(p−、m−またはo−)メチルスチレン、ポリ(2,4−、2,5−、3,4−または3,5−)ジメチルスチレン、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)等のポリ(アルキルスチレン);ポリ(p−、m−またはo−)クロロスチレン、ポリ(p−、m−またはo−)ブロモスチレン、ポリ(p−、m−またはo−)フルオロスチレン、ポリ(o−メチル−p−フルオロスチレン)等のポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(p−、m−、またはo−クロロメチルスチレン)等のポリハロゲン化置換アルキルスチレン;ポリ(p−、m−またはo−)メトキシスチレン、ポリ(p−、m−またはo−)エトキシスチレン等のポリアルコキシスチレン;ポリ(p−、m−またはo−)カルボキシメチルスチレン等のポリカルボキシアルキルスチレン;ポリ(p−ビニルベンジルプロピルエーテル)等のポリアルキルエーテルスチレン;ポリ(p−トリメチルシリルスチレン)等のポリアルキルシリルスチレン;更にはポリ(ビニルベンジルジメトキシホスファイド)等が挙げられる。
【0028】
シロキサンと(ポリエステルおよび/またはポリスチレン)との比率は、構成単位を基準としてモル比で、100:0超60:40以下が好ましく、特に80:20以上70:30以下が好ましい。ポリエステルおよび/またはポリスチレンの成分が必要以上に多いと、帯電部材の耐久汚れがひどくなる傾向にある。
【0029】
また、加水分解性の反応基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、プロペノキシ基等のエノキシ基、アセトキシ基等のアシロキシ基、ブタノキシム基等のケトオキシム基、アミノ基、アミド基、アミノキシム基、アルケニルオキシ基等が例示できる。このような加水分解性の反応基を末端に有する化合物は反応させることで、架橋構造を有するポリマーが得られるものである。
【0030】
上記シロキサンとして限定されるものではないが、分子内にポリスチレンの成分を有し、末端に加水分解性のアセトキシ基を有するシロキサンとして、HO[CH2CH(C65)]m[SiO(CH32nSiCH3(OCOCH32(m:n=3:7)、重量平均分子量(MW)=138000)が、分子内にポリスチレンの成分を有し、末端に加水分解性のメトキシ基を有するシロキサンとして、HO[CH2CH(C65)]m[SiO(CH32nSiCH3(OCH32(m:n=3:7、重量平均分子量(MW)=125000)が、また、分子内にポリエステルの成分を有し、末端に加水分解性のブタノキシム基を有するシロキサンとして、HOCH2CH2[OCO(C64)COOCH2CH2m[SiO(CH32nSi(CH3)(ONC(CH3)C252(m:n=3:7、重量平均分子量(MW)=96000)が例示できる。ここで、「m:n」はモル比を表し、重合度を示すものではない。
【0031】
また、上記末端に加水分解性の反応基を有するシロキサンの分子量は、日本ウォーターズ株式会社製のGPC装置を用い、検出器は同社製の示差屈折率検出器「Waters410」(商品名)とし、カラムに東ソー株式会社製の分析用カラムTSKgel GMHXL〔2本〕+G2500HXL〔1本〕(商品名)を用いて、テトラヒドロフラン溶媒、23℃の条件で測定できる。また、分子量校正は単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のTSK標準ポリスチレン(商品名:ポリスチレンスタンダード))を用いる。
【0032】
さらに、処理前の帯電部材の製造は特に限定されないが、例えば、次のように作られる。
【0033】
所定の配合量に調整した原料ゴムと導電剤を含む各種配合剤をバンバリーミキサーや加圧式ニーダーといった密閉型混合機を使用した混合方法や、オープンロールのような開放型の混合機を用いて混練し未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物をベント式ゴム押出機、例えば、EM技研株式会社製のφ50mmベント押出機(L/D=16)によってチューブ状に押出し、加硫缶を用いた加圧水蒸気により160℃で30分間の一次加硫を行い、ゴムチューブを得る。なお、チューブの大きさとしては、導電部材としたときの外径、用いる芯金の太さ等を勘案し、適宜決めればよく、例えば、外径15mm、内径5.5mmとすることができる。次いで、所要の長さ、例えば、250mmに切断し、導電弾性層用ゴムチューブを得る。
【0034】
次に、少なくとも表面が導電性である芯金、例えば、表面にニッケルメッキした直径6mm、長さ256mmの鋼製円柱にその中央部232mmにわたり導電性加硫接着剤を塗布したものに、前述のゴムチューブを圧入し、熱風炉にて160℃で2時間の二次加硫と接着処理を行う。
【0035】
この加硫後のローラのゴム両端部を突っ切り、ゴム部分の長さを所定の長さ、例えば、232mmとした後、ゴム部分を回転砥石で研磨して芯金上に導電性弾性体層を設けた未処理のローラ状の帯電部材が得られる。なお、この際、例えば両端部を直径8.40mmとし、中央部を直径8.5mmとするクラウン形状とすることも好ましい。
【0036】
なお、少なくとも表面が導電性である芯金を円筒状管型に入れ、上記の導電性弾性体層用未加硫ゴム組成物原料を金型のキャビティ内に挿入し、キャビティ内で一次加硫し、金型から取り出した後に二次加硫し、必要により表面を研磨して、芯金上に導電性弾性体層を設けた未処理のローラ状の帯電部材とすることも可能である。
【0037】
[導電性弾性体層の改質処理方法]
本発明に係る改質された導電性弾性体層を形成する方法としては、上記シロキサン化合物を、他の成分と共に含む塗料とし、該塗料を導電性弾性体層の表面に接触せしめ、導電性弾性体層中にシロキサン化合物を含浸させる。次いで、該導電性弾性体層を乾燥および加熱処理する。この一連の処理により、導電性弾性体層表皮部に含浸したシロキサン化合物の加水分解性の反応基が弾性層内部の水分や空気中の水分により加水分解反応を起こし、Si−O−Si結合を有する3次元架橋ポリマーを形成する。その結果、導電性弾性体層の表皮部において、導電性弾性体層の主たる構成成分である架橋したゴム成分と該ポリマーとが混在してなる構造、更に言えばIPN構造を形成する。
【0038】
該塗料の導電性弾性体層表面への接触は、ロールコーター塗工、ディップ塗工、リング塗工等の塗工手段を用いることができる。ここで使用する有機溶媒は塗料成分が溶解するものなら特に限定されるものではないが、処理のし易さ、乾燥の容易さ等の点から酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン等が好ましく、またこれらの混合溶媒を用いてもよい。塗料濃度は導電性弾性体表面から均一に含浸させることを考慮すると、10質量%以下が好ましく、特に5質量%以下が好ましい。なお、薄いほど浸透性が上がるが、本発明の効果を得るには0.1質量%以上が好ましく、特に1質量%以上が好ましい。
【0039】
導電性弾性体層に該塗料を含浸させた後、乾燥および加熱処理する。この乾燥工程は含浸に使用し、導電性弾性体層に付着している有機溶媒を除去する目的で行い、特に制限はないが、通常、風乾で15分間以上行う。さらに、加熱処理は使用する塗料の反応温度によって異なるが、例えば、電気炉で15分間以上行えば充分である。
【0040】
なお、該塗料は、導電性弾性体層の最表面から深さが、該導電性弾性体層の全厚さの1%以内、特に0.1%までが改質処理されるように含浸させることが、導電性弾性体層内部からの低分子成分の浸出防止という観点から好ましいものである。なお、本発明における「表皮部」なる文言の定義は、上記の記載から自ら明らかである。
【0041】
本発明に係る帯電部材は、このような構成に限定されるものでなく、本発明の主旨を外れない限り、例えば、導電性基体と導電性弾性体層との間に帯電部材としての硬度や抵抗値の調整のための機能層を介在させてもよく、導電性弾性体層が必要な機能を有する多層であっても構わない。このような多層構成の帯電部材であっても、該帯電部材の最表面部(表皮部)において、前記シロキサンの反応物およびゴム成分が混在している必要があり、より具体的には、該帯電部材の最表面から深さが、導電性基体の表面から該帯電部材の最表面までの全厚さの1%以内、特に0.1%までの領域が、該導電性弾性体層中のゴム成分と前記シロキサン反応物との双方を含むように改質処理されていることが好ましい。
【0042】
また、導電性弾性体層への塗料の含浸の過程において、一部の塗料が導電性弾性体層表面に残留し、その結果として、導電性弾性体層の表面に前記シロキサン化合物の反応物からなる薄層を有する構成の帯電部材が得られることもある。このような帯電部材であっても、その表皮部において前記シロキサン反応物と前記ゴム成分が混在していれば、本発明の帯電部材である。このような場合にも、該帯電部材の最表面から深さが、全導電性弾性体層厚さの1%以内、特に0.1%までの領域が、該導電性弾性体層中のゴム成分と前記シロキサン反応物との双方を含むようなものであることが好ましい。
【0043】
[電子写真装置]
図2に、本発明の帯電部材を用いた電子写真装置の一例を示す概略横断面図を示す。
【0044】
図2において、1は被帯電体としての像担持体であり、アルミニウム等の導電性基体1bとその外周面に形成した光導電層1aを基本構成とするドラム型の電子写真感光体である。軸1dを中心に図面上の矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動させる。
【0045】
2は、この感光体1に接して該感光体の光導電層表面を所定の極性・電位に一様に一次帯電処理する帯電部材であり、この帯電部材は均一な導電性が要求されている。ここではローラタイプのもの、すなわち帯電ローラである。帯電ローラは芯金2cとその外周に形成した導電性弾性体層2bからなり、更に導電性弾性体層の表皮部2aが上記したように編成されている。芯金2cの両端部を不図示の押圧手段で感光体1の回転駆動に伴い従動駆動する。
【0046】
電源3から摺擦端子3aを経て芯金2cの所定の直流(DC)バイアス、あるいは直流+交流(AC+DC)バイアスが印加され、回転する感光体1の周面が所定の極性・電位に接触帯電される。帯電部材2で均一に帯電処理を受けた感光体1の面は、次いで露光手段10により目的画像情報の露光(レーザービーム走査露光、原稿画像のスリット露光等)を受け、その周面に画像情報に対応する静電潜像が形成される。
【0047】
次いで、静電潜像は現像手段11によりトナー画像として順次に可視画像化されていく。そして、このトナー画像は、転写手段12により不図示の給紙手段部から感光体1の回転と周期取りされて適正なタイミングをもって感光体1と転写手段12との間の転写部へ搬送された転写材14の面に順次転写されていく。
【0048】
本例の転写手段12は、転写ローラであり、電源3’から転写材14の裏からトナーと逆極性の帯電を行うことにより、感光体1の面側のトナー画像が転写材14の表面側に転写される。
【0049】
トナー画像の転写を受けた転写材14は感光体1の面から分離され、不図示の像定着手段へ搬送されて像定着を受け、画像形成物として出力される。あるいは、裏面にも像形成するものでは転写部への再搬送手段へ搬送される。像転写後の感光体1の面はクリーニング手段13で転写残りトナー等の付着汚染物の除去を受けて洗浄面化され、必要により不図示の除電手段により除電され、繰り返して作像に供される。
【0050】
帯電部材2は、ここで示したローラタイプ以外にも、ブレードタイプ、ブロックタイプ、ベルトタイプ等の形態に構成することもできる。ローラタイプの帯電部材2は、感光体1に従動駆動されてもよいし、非回転のものとしてもよいし、感光体1の面移動方向に順方向または逆方向に一定の周速度をもって積極的に回転駆動させるようにしてもよい。
【0051】
また、電子写真装置としては、感光体、現像手段、クリーニング手段等の構成要素のうち、複数のものをプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを装置本体、例えば、複写機やレーザービームプリンター等に対して着脱自在に構成してもよい。例えば、現像手段、クリーニング手段の少なくとも1つを感光体および帯電手段と共に一体に構成してカートリッジ化し、装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジとし、画像形成装置本体のレール等の案内手段を用いて着脱自在の構成にしてもよい。
【0052】
また光像露光は、電子写真装置を複写機プリンターとして使用する場合には、原稿からの反射光や透過光、あるいは、原稿を読み取り信号化し、この信号によりレーザービーム走査、LEDアレイの駆動、液晶シャッターアレイの駆動等により行われる。
【0053】
光導電層は、導電性基体の上に設けられている。導電性基体としては、基体自身が導電性を持つ、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレススチール、ニッケル等の金属を用いることができ、そのほかアルミニウム、アルミニウム合金、酸化インジウム−酸化錫合金等の真空蒸着によって被覆形成された層を有するプラスチック、ガラス等も用いることができる。導電性基体と光導電層との間に、バリアー機能と接着機能をもつ下引き層を設けることもできる。
【0054】
下引き層は、カゼイン、ポリビニルアルコール、ニトロセルロース、エチレン−アクリル酸コポリマー、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、共重合ナイロン等)、ポリウレタン、ゼラチン、酸化アルミニウム等によって形成することができる。下引き層の膜厚は、5μm以下、特に0.5〜3μmが好ましい。下引き層はその機能を発揮するためには、その電気抵抗値が1×107Ω・cm以上であること好ましい。
【0055】
光導電層は、有機または無機の光導電物質を必要に応じてバインダー樹脂と共に塗工することによって形成でき、また蒸着によって形成することもできる。光導電層の形態としては、電荷発生層と電荷輸送層の機能分離型積層構造が好ましい。
【0056】
電荷発生層は、アゾ染料、フタロシアニン顔料、キノン顔料等の電荷発生材料を蒸着あるいは適当な溶媒に必要によりバインダー樹脂と共に溶解して塗工することによって形成できる。電荷発生層の膜厚は、0.01〜30μm、特に0.05〜2μmが好ましい。
【0057】
電荷輸送層は、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、オキサゾール化合物、トリアリールアミン化合物等の電荷輸送材料を成膜性のあるバインダー樹脂に含ませて形成することができる。電荷輸送層の膜厚は、5〜50μmが好ましく、特には10〜30μmが好ましい。なお、紫外線等による老化防止や耐摩耗性向上のために感光層の上に保護層を設けてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。原則として「部」は「質量部」を表す。
【0059】
参考例1(表面処理原料用帯電ローラの製造)
エピクロルヒドリンゴム「エピクロマーCG102」(商品名、ダイソー株式会社製)
100部、酸化亜鉛「亜鉛華2種」(商品名、正同化学工業株式会社製)5部、ステアリン酸亜鉛「SZ−2000」(商品名、堺化学工業株式会社製)1部、カーボンブラック「Thermax N990」(商品名、Cancarb社製)5部、炭酸カルシウム「シルバーW」(商品名、白石工業株式会社製)30部および老化防止剤「ノクラックNS−5」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)1部に、加硫促進剤としてジベンゾチアジルスルフィド「ノクセラーDM−P」(商品名、大内新興化学工業株式会社製)1部とテトラメチルチウラムモノスルフィド「ノクセラーTS」大内新興化学工業株式会社製)1部およびイオウ(鶴見化学工業株式会社製)1.2部を加え、オープンロールで混練した。
【0060】
次いで、この混練物を押出機によりチューブ状に押出し成形して、生ゴムのチューブを製造した。押出し後のチューブは形崩れもなく、連続成形においてもダイスウエルは安定であり、寸法変動はなかった。
【0061】
このチューブを蒸気加硫により160℃で30分間一次加硫し、更に電気炉により160℃で2時間二次加硫し、導電性弾性体層をチューブ状で得た。このチューブ状導電性弾性体層に、接着剤「メタロックU−20」(商品名、株式会社東洋化学研究所製)を塗布したステンレス製棒(芯金)を圧入して芯金の周囲に導電性弾性体層を有する原料用帯電ローラを得た。なお、この原料用帯電ローラの抵抗値は、2.98×106Ωであった。
【0062】
実施例で使用した末端に加水分解性の反応基を有するシロキサンの分子量は、日本ウォーターズ株式会社製のGPC装置を用い、検出器は同社製の示差屈折率検出器「Waters410」(商品名)とし、カラムに東ソー株式会社製の分析用カラムTSKgel GMHXL〔2本〕+G2500HXL〔1本〕(商品名)を用いて、テトラヒドロフラン溶媒、23℃の条件で測定した。なお、分子量校正は単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のTSK標準ポリスチレン(商品名))を用いた。
【0063】
実施例1
分子内にポリスチレンの成分を有し、かつ末端に加水分解性のアセトキシ基を有するシロキサン(HO[CH2CH(C65)]m[SiO(CH32nSiCH3(OCOCH32、m:n=3:7(モル比)、重量平均分子量(MW)=138000)を、酢酸ブチル/トルエン/キシレン(質量比25/1/1)混合溶媒に固形分量約2質量%になるように溶解し、この溶液中に参考例1で作製した原料用帯電ローラを60秒間浸漬した。その後30分間風乾した後、電気炉中20℃で30分間熱処理して、表皮部にシロキサン含浸した帯電ローラを得た。得られた帯電ローラを15℃/10%RHに24時間静置後に下記により測定した電気抵抗値は、3.29×106Ωであった。
【0064】
また、得られた帯電ローラを、キヤノン株式会社製の電子写真装置「LBP5500」(商品名)の帯電ローラとして組み込み、15℃/10%RHの環境下でハーフトーン画像を出力し、目視でその品質を評価したところ極めて高品位であった。さらに、連続1万枚の通紙テストを行ったが、帯電ローラの汚れに基づく画像不良も発生しなかった。
【0065】
一方、得られた帯電ローラ(新品)を、上記電子写真装置の感光体(有機化合物系光導電層を有する)に、総圧力1kgの加重で圧接して、40℃/95%RHで2週間放置し、感光体の光導電層の状況を調べたが、表面の汚染やクラックの発生は見られなかった。また、下記確認方法により、IPN構造が確認できた。
【0066】
(帯電ローラの電気抵抗値測定)
図3に、測定方法の概要を示す。すなわち、アルミニウムドラム31に弾性ローラ2を芯金2cの導電性弾性体層2bからはみ出ている部分に各々500gの加重をかけ、アルミニウムドラム31を回転させながら、アルミニウムドラム31と芯金2cの間に直流電源2kVを印加し、電圧印加ラインに流れる電流量を電流計32により測定して、求めた。なお、33は印加電源である。
【0067】
(IPN構造の確認法)
表面処理した帯電部材を25℃のヘキサン中に12時間浸漬した後、6時間風乾する。この帯電部材表面から数百μmの厚みで表面を削りとった試料を熱分解GC/MSで分析し、ジメチルシロキサンの検出をもってIPN構造を確認する。なお熱分解GC/MSはキューリー点590℃のパイロホイルを用い、熱分解装置としてJPS330(商品名、日本分析工業株式会社製)、GC/MS装置としてTRACE2000/VOYGER(商品名、Thermo electron社製)を用いた。
【0068】
実施例2
分子内にポリスチレンの成分を有し、かつ末端に加水分解性のメトキシ基を有するシロキサン(HO[CH2CH(C65)]m[SiO(CH32nSiCH3(OCH32、m:n=3:7(モル比)、重量平均分子量(MW)=125000)を用いる他は、実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。得られた帯電ローラの抵抗値は、3.34×106Ωであり、ハーフトーン画像出力および1万枚通紙テストも良好であり、また、40℃/95%RHの環境下で圧接による感光体の光導電層の表面汚染やクラック発生もなかった。さらに、上記確認方法により、IPN構造が確認できた。
【0069】
実施例3
分子内にポリエステルの成分を有し、かつ末端に加水分解性のブタノキシム基を有するシロキサン(HOCH2CH2[OCO(C64)COOCH2CH2]m[SiO(CH32]nSi(CH3)(ONC(CH3)C252、m:n=3:7(モル比)、重量平均分子量(MW)=96000)を用いる他は、実施例1と同様に帯電ローラを作製し、評価した。得られた帯電ローラの抵抗値は、3.10×106Ωであり、ハーフトーン画像出力および1万枚通紙テストも良好であり、また、40℃/95%RHの環境下で圧接による感光体の光導電層の表面汚染やクラック発生もなかった。さらに、上記確認方法により、IPN構造が確認できた
【0070】
比較例1
参考例1で作製した原料用帯電ローラを何も処理をせずに、実施例1と同様の評価をした。ハーフトーン画像には帯電不均一による横すじが発生し、連続通紙テストでは1千枚の通紙時点で帯電ローラ汚れによる画像不良が発生した。また、40℃/95%RHの環境下で圧接による感光体の光導電層の表面汚染やクラック発生が確認された。
【0071】
比較例2
シロキサン化合物の溶液に替えて、MDI「ミリオネートMT」(商品名、日本ポリウレタン工業株式会社製)の10%酢酸エチル溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして帯電ロールを作製し、40℃/95%RHの環境下で圧接して2週間置いたところ、感光体の光導電層に導電性弾性体層からの浸出物に起因するクラックが発生した。なお、この帯電ローラの電気抵抗値は、3.65×106Ωであった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の帯電部材の一例の断面図である。
【図2】本発明の帯電部材を用いた電子写真装置の概略構成図である。
【図3】帯電ローラの電気抵抗値測定の概要を示した図である。
【符号の説明】
【0073】
1 感光ドラム
1a 光導電層
1b 導電性基体層
1d 軸
2 帯電部材(帯電ローラ)
2a 表皮部
2b 導電性弾性体層
2c 芯金
3 電源(帯電部材用)
3a 摺擦端子
3’ 電源(転写手段用)
10 露光手段
11 現像手段
12 転写手段
13 クリーニング手段
14 転写材
31 アルミニウムドラム
32 電流計
33 印加電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置内に配置され、電圧が印加された状態で被帯電体面の帯電処理を行う、導電性弾性体層を備える帯電部材において、
該導電性弾性体層は架橋されたゴム成分を含み、かつ、導電性弾性体層の表皮部が、該ゴム成分と共に分子内に少なくともポリエステルおよび/またはポリスチレンを成分として有し、さらにSi−O結合で表される架橋点を持つシロキサン架橋物を含む
ことを特徴とする帯電部材
【請求項2】
導電性弾性体の表皮部において、ゴム成分とシロキサン架橋物が、相互貫入高分子網目(IPN)構造を形成している請求項1に記載の帯電部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の帯電部材を具備していることを特徴とする電子写真装置。
【請求項4】
電子写真感光体および該電子写真感光体を帯電する帯電部材が一体に保持され、電子写真装置本体に着脱自在に構成されているプロセスカートリッジにおいて、該帯電部材が請求項1または2に記載の帯電部材であることを特徴とするプロセスカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−350097(P2006−350097A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177819(P2005−177819)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】