説明

帯電防止耐摩耗性被覆物品を提供する、カーボンナノチューブをベースとした硬化性コーティング組成物

本発明は、硬化により耐摩耗性、透過性、帯電防止性を有するコーティングを提供し、カーボンナノチューブと、少なくとも1種のエポキシシラン化合物(好ましくはエポキシアルコキシシラン)を備えるバインダーと、任意で、非導電性酸化物のナノ粒子などのフィラーおよび/またはテトラエトキシシランなどの追加バインダー成分とを備える、硬化性組成物に関する。本発明は、さらに、基材を備え、この基材から順に、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングと、当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を上述した硬化性組成物で直接被覆することにより形成された帯電防止コーティングとを備える光学物品に関する。得られた光学物品は、帯電防止特性、透過率が約91〜92%の高い光透過性、低ヘイズ、および、改良された耐磨耗性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な帯電防止耐摩耗性コーティングを準備するための硬化性組成物、この硬化性組成物で覆われた帯電防止性および耐摩耗性を示す物品(特に、眼鏡に用いられる光学用および眼科用レンズ)、および、この物品を準備するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実質的に絶縁材料からなる光学物品は、特に、乾燥条件下でその表面を布または合成繊維片(例えば、ポリエステル繊維)で擦ることにより磨かれた場合に、静電気を帯びる傾向にあることが知られている(摩擦電気)。光学物品の表面に存在する電荷は、電荷が光学物品にとどまる限り、光学物品の近傍(2〜3センチメートル)に位置する質量の非常に小さな物(一般的には、塵などの小さなサイズの粒子)を求引および固定できる静電場を生成する。
【0003】
粒子の求引を低減または抑制するためには、静電場の強度を低減すること、すなわち、物品の表面に存在する静電荷の数を低減することが必要である。これは、例えば、電荷の高い移動性を誘発する材料の層を光学物品に導入することにより、電荷に移動性を付与することによって、実行されてもよい。高い移動性を誘発する材料は、導電材料である。したがって、高い伝導度を有する材料は、電荷をより速く消失させる。
【0004】
当技術分野においては、光学物品の表面で、機能性コーティングの積層に、少なくとも一の導電層(帯電防止層と呼ばれる)が導入されることにより、光学物品が帯電防止特性を獲得することが知られている。たとえ、帯電防止コーティングが、帯電防止性を有さない二つの層または二つの基材に挟まれているとしても、積層中におけるそのような層の存在は、光学物品に、帯電防止特性を与える。
【0005】
帯電防止性というのは、多量の静電気を、保有および/または生成しない特性を意味する。物品は、その表面の一つが適当な布によって擦られた後に、塵や微粒子を求引または固定しない場合には、通常、好ましい帯電防止特性を有するとみなされる。それは、蓄積された静電気を素早く放散することができる。
【0006】
布による摩擦または他の静電気生成方法(コロナにより付与された電荷)によって生成した静電荷を排出するというガラスの能力は、電荷放散に必要な時間(電荷減衰時間)を測定することによって定量化できる。帯電防止ガラスが略100〜200ミリ秒程度の放電時間を有する一方で、静電ガラスは略数十秒程度(ときおり数分)の放電時間を有する。摩擦された静電ガラスは、放電に必要な時間の限り、周囲の塵を求引しうる。
【0007】
当技術分野においては、高い光透過性(つまり、可視光透過率が少なくとも90%)を有する導電性の無機または有機の層を準備するための物質としては、限られた数のものだけが知られている。光透過性の帯電防止コーティングとして知られたものは、真空蒸着された金属または金属酸化物のフィルム(例えば、インジウムがドープされたスズ酸化物(ITO)、アンチモンがドープされたスズ酸化物(ATO)、五酸化バナジウムなどの随意でドープされた(半)導電性金属酸化物をベースとしたフィルム);スピンコートされた、または、自己組織化した導電性ポリマーフィルム;スピンコートされた、または、押出成形されたカーボンナノチューブをベースとした複合フィルム;を含む。
【0008】
ITOは、光透過性を有する導電性の薄いコーティングを提供する業界標準の帯電防止剤であるが、そのITOの性能は、プラスティックに塗工された場合に、劣る。これらのコーティングは、曲げやその他の応力を生じさせる条件において、壊れやすく、かつ、容易にダメージを受ける。導電性ポリマーは、ITOコーティングの代替物として最も研究されたものの代表であるが、ITOの光学的および電気的パフォーマンスには未だに匹敵せず、特殊な適用状況下で熱環境安定性の問題に苦しむことがある。
【0009】
近年、カーボンナノチューブ(CNT)をポリマーマトリクス中に分散させることによって得られたナノ複合材料は、様々な適用状況下で、多くの有望な電気的および機械的特性をもたらしてきた。しかしながら、それらは、未だ初期段階にあり、ポリマー系における担持量が低いなど多くの課題がある。
【0010】
高分子樹脂、および、導電性カーボン繊維/ナノチューブもしくはカーボン繊維/ナノチューブと非導電性フィラーとを併用したものを備える、カーボンナノチューブをベースとした帯電防止高分子組成物として、多くのものが研究されてきた。利用される導電性フィラー系の量は、高分子樹脂が有する衝撃および曲げモジュラスなどの固有の特性を好ましく保持しながら、所望される導電性(表面および体積伝導率または抵抗率)によって決定される。CNTをベースとした高分子複合材料は、電磁遮蔽、パッケージングにおける静電気放散または帯電防止用途、電子部品、電子部品のハウジング、および、自動車ハウジングに適用されうる。
【0011】
特許文献1には、全固形分に対して、CNT0.1質量%、アンチモンがドープされた酸化スズの導電性ナノ粒子19.9質量%、および、テトラエトキシシラン加水分解物80質量%(SiO2として)を含有するコーティング組成物から得られた透明な導電性フィルムによって覆われたガラス基材が、開示されている。350℃の高温焼成後、結果として生じるコーティングは、200nmの厚さであり、92%の全光線透過率と共に3.10Ω/□の表面抵抗率を有し、1.9%のヘイズ値を有する。残りのコーティングも、2%を超える高いヘイズ値を示す。耐摩耗性は調査されていなかった。
【0012】
特許文献2には、可視領域での光透過性の高い保持を得るため、ポリイミドやポリ(メタクリル酸メチル)などの有機ポリマーマトリクスにCNTを効果的に分散する方法が開示されている。最終的な透過率および相対的光透過性は、いまだ90%未満である。特許文献3には、多孔質膜上に配置された光透過性および導電性を有するCNTをベースとしたフィルムを、単層カーボンナノチューブおよび界面活性剤もしく表面安定化ポリマーを備えた当該膜の分散液をろ過することによって、得る方法が開示されている。しかしながら、そのようなCNTをベースとしたフィルムを、湾曲表面上に高品質を伴って製造することは難しく、眼科用レンズ業への適用を制限する。
【0013】
特許文献4には、透明な基材上にポリマーバインダーを最初に塗工し、このバインダーに浸透するCNT層を次に塗工する、または、基材上をCNT層で最初に覆い、CNTネットワークに拡散するポリマーバインダーを次に塗工する、もしくは、サンドウィッチ構造を形成するために両方を併用することによって得られる、柔軟性を有する透明な、カーボンナノチューブをベースとした複合フィルムが記載されている。ポリマーバインダーとしては、シリコーン;有機ケイ素ポリマー;フッ化シリコーン;ならびに、熱硬化性シラン、フッ化シラン、および、金属アルコキシドなどの無機有機ハイブリッド化合物;を含む熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂が挙げられる。CNT層を有するフィルムは、550nmの波長で約90〜92%の光透過性を示し、磨耗処理後のシート抵抗において小さな変化示すが、CNT分散液中のバインダーまたは界面活性剤が存在しないため、CNT層は、スプレー法の後に、潜在的な高ヘイズを示し、これは、調査されていない。
【0014】
特許文献5には、CNTを含む導電性材料を備えた撥水剤組成物を使用して、薄いフィルムを被覆させる真空蒸着法が記載されている。蒸発される溶液は、多量(一般的には約8質量%)のCNTを備えている。この特許出願の目的は、撥水帯電防止フィルムを形成することである。耐摩耗性は、上述した技術の特有な目的ではない。
【0015】
上述した導電性または帯電防止コーティングは、望ましい性能を示していたが、方法、透明性、または、ヘイズ値が制限され、特殊な適用、とりわけ、眼科用レンズへの適用が妨げられていた。加えて、耐摩耗性を向上させるとして報告された帯電防止コーティングは、無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5908585号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/158323号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/197546号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/209392号明細書
【特許文献5】特開2007−155802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、帯電防止性および耐摩耗性を物品(特に、透明、かつ、低ヘイズの物品)に付与することができ、かつ、現在のCNTをベースとした組成物に関連する問題および不利益を克服できる、新規な硬化性コーティング組成物を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、帯電防止特性を与え、それと同時に、低ヘイズならびに優れた耐摩耗性および/または耐スクラッチ性を有する、導電性コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した目的を達成するため、基材を備え、この基材から順に、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングと、当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を硬化性組成物( a)カーボンナノチューブと、b)式(I)の化合物またはその加水分解物を少なくとも1種備えるバインダーと、を備える)で直接被覆することにより形成された帯電防止コーティングとを備える光学物品が提供される。
n′Si(X)4−n′−m (I)
(式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合する一価の有機基を示し、Yは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合し、かつ、少なくとも1つのエポキシ基を含有する一価の有機基を示し、Xは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、mおよびn′は、mが1または2であって、m+n′=1または2となる整数である。)
【0020】
本発明の一実施形態は、硬化することで、耐摩耗性、透明性、帯電防止性を有するコーティングを提供する硬化性組成物を対象とし、a)カーボンナノチューブと、b)式(I)の化合物またはその加水分解物を少なくとも1種備えるバインダーと、を備える。
n′Si(X)4−n′−m (I)
(式中、R,Y,X,mおよびn′は上述したとおりである。)
【0021】
本発明の一実施形態においては、バインダーは、さらに、式(II)の化合物またはその加水分解物を、少なくとも1種備える。
Si(Z)4−n (II)
(式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、一価のアルキル基を示し、Zは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、nは、0または1であるが、ただし、nが0の場合にはZは全て水素原子を示さない。)
【0022】
本発明の帯電防止コーティングは、別の積層においても使用されることができ、たとえ他の機能性コーティング(特に、誘電体から作られる反射防止コーティング)が当該コーティングを被覆していたとしても、光学物品に帯電防止特性を提供しうる。
【0023】
本発明は、さらに、基材を備える光学物品を提供すること、基材の表面上に耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングを塗工すること、ならびに、当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を上述した硬化性組成物で被覆して当該硬化性組成物を硬化させること、を備える、耐摩耗性が改良された透明な帯電防止光学物品を準備する方法に関する。
【0024】
本発明における他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例が、本発明の具体的な実施形態を示すものであるけれども、例として与えられるものに過ぎないことは理解されるべきである。というのも、本発明の精神と範囲の中での変形および改良は、この詳細な説明から当業者にとって明らかであるからである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「備える(comprise)」(および「備えている」などの文法上の変形)、「有する(have)」(および「有している」などの文法上の変形)、「含有する(contain)」(および「含有している」などの文法上の変形)、「含む(include)」(および「含んでいる」などの文法上の変形)は、オープンエンド形式の連結動詞である。それらの動詞は、記載された特徴、整数、工程、構成要素、または、それらの群の存在を特定するために使用されるが、他の特徴、整数、工程、構成要素、または、それらの群の存在や追加を排除しない。その結果、1以上の工程または要素を「備える」、「有する」、「含有する」、「含む」方法または方法の中の工程は、それらの工程または要素の1以上を所有するが、それらの工程または要素の1以上のみを所有することに限定されない。
【0026】
特に指定がない限り、本明細書で用いられる成分、範囲、反応条件などの数量に言及するすべての数または表現は、用語「約」を用いていることによって、すべての例において変更されるものとして理解されるものとする。
【0027】
光学物品が1または2以上の表面コーティングを備える場合、「光学物品上を、コーティングまたは層で被覆する」という用語は、光学物品の最外面のコーティング、つまり、外気に最も近いコーティングの上を、コーティングまたは層で被覆することを意味する。
【0028】
レンズの側面「上」にあるコーティングとは、(a)その側面を覆って配置され、(b)その側面に接触している必要がなく(つまり、1以上の中間層が、その側面と当該コーティングとの間に配置されていてもよい)、(c)その側面を全面的に覆っている必要がないコーティングとして定義される。
【0029】
コーティング「B」の「上を直接」被覆したコーティング「A」とは、(a)コーティング「A」および「B」が最終光学物品において互いに接触していること(つまり、これらの間に中間層が配置されていなくてよい);および、(b)コーティング「A」が、スピンコート、浸漬被覆、真空蒸着などのあらゆる被覆方法が用いられて被覆し、コーティング「B」を全面的に覆っている必要がないこと、を意味する。
【0030】
本発明によって準備される光学物品は、透明な光学物品であり、好ましくはレンズまたはレンズブランクであり、より好ましくは眼科用のレンズまたはレンズブランクである。
【0031】
光学物品は、凸状の主面側(前面)、凹状の主面側(裏面)、またはその両側が、本発明の、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性のコーティング/帯電防止性のコーティングの積層によって覆われてもよい。
【0032】
本明細書中、「レンズ」という用語は、各種の自然素材の1つまたは複数のコーティングによって覆われてもよいレンズ基材を備える、有機または無機ガラスレンズを意味する。
【0033】
レンズ基材は、無機ガラスまたは有機ガラス、好ましくは有機ガラスで形成されてよい。有機ガラスは、ポリカーボネートおよび熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性材料;または、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)ポリマーおよびコポリマー(特にPPG Industries社のCR39(登録商標))、熱硬化性ポリウレタン、ポリチオウレタン、ポリエポキシド、ポリエピスルフィド、ポリ(メタ)アクリレート、コポリマーをベースとした基材などの熱硬化性(架橋)材料;でありうる。コポリマーをベースとした基材は、これらのコポリマー、および、これらの混合物のみならず、(メタ)アクリル酸ポリマー、ならびに、ビスフェノールAおよびポリチオ(メタ)アクリレートに由来するコポリマーを含有する基材などである。レンズ基材として好ましい材料は、ポリカーボネートおよびジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)コポリマーであり、特に、ポリカーボネートから作製された基材である。
【0034】
本明細書にて使用される基材を備える光学物品は、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング、ならびに、帯電防止コーティングがその上に蓄えられた担体であってもよい。これらのコーティングは、後に、担体から例えば光学レンズの基材上に移動される。本発明の方法に従って覆われていてもよい担体は、任意で、少なくとも1つの機能性コーティングを持っていてもよい。言うまでもなく、これらのコーティングは、レンズ基材上のコーティング積層にて所望される順序とは逆の順序で、担体の表面上に塗工される。
【0035】
耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングで被覆されるであろう物品の表面は、任意で、接着性の改善を目的とした前処理工程に曝されてもよく、例えば、高周波放電プラズマ処理、グロー放電プラズマ処理、コロナ処理、電子ビーム処理、イオンビーム処理、酸または塩基処理などが挙げられる。
【0036】
本発明の耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングは、裸基材、または、基材が表面コーティングで覆われている場合には最外面のコーティング層の上を、被覆してもよい。本発明によれば、光学物品は、各種のコーティング層で覆われた基材を備えてもよい。各種のコーティング層は、耐衝撃性コーティング(耐衝撃性プライマー)、偏光コーティング、フォトクロミックコーティング、染色コーティング、または、これらのコーティングのいくつか、から選ばれるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明で使用される耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングは、最終光学物品の耐磨耗性および/または耐スクラッチ性を、耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングのない同じ光学物品と比較して、改善するコーティングとして定義される。本発明によれば、いかなる公知の光学的な耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティング組成物は、本明細書にて使用されてもよい。好ましくは、耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングは、(メタ)アクリレートをベースとしたコーティング、および、ケイ素含有コーティングである。
【0038】
(メタ)アクリレートをベースとしたコーティングは、一般的に、UV硬化性である。(メタ)アクリレートという用語は、メタクリレートまたはアクリレートのいずれかを意味する。(メタ)アクリレートをベースとした硬化性コーティング組成物の主成分は、一官能性(メタ)アクリレート、および、二官能性(メタ)アクリレート、三官能性(メタ)アクリレート、四官能性(メタ)アクリレート、五官能性(メタ)アクリレート、六官能性(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレートから選択されてもよい。
【0039】
(メタ)アクリレートをベースとしたコーティング組成物の主成分として使用してよいモノマーの例としては次のものが挙げられる:
一官能性(メタ)アクリレート:アリル メタクリレート、2−エトキシエチル アクリレート、2−エトキシエチル メタクリレート、カプロラクトン アクリレート、イソボルニル メタクリレート、ラウリル メタクリレート、ポリプロピレン グリコール モノメタクリレート
二官能性(メタ)アクリレート:1,4−ブタンジオール ジアクリレート、1,4−ブタンジオール ジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオール ジアクリレート、1,6−ヘキサンジオール ジメタクリレート、エトキシル化ビスフェノールA ジアクリレート、ポリエチレングリコール ジアクリレートなどのポリエチレングリコール ジ(メタ)アクリレート、テトラエチレン グリコール ジアクリレート、ポリエチレン グリコール ジメタクリレート、ポリエチレン グリコール ジアクリレート、テトラエチレン グリコール ジアクリレート、トリプロピレン グリコール ジアクリレート、ネオペンチル グリコール ジアクリレート、テトラエチレン グリコール ジメタクリレート、ジエチレン グリコール ジアクリレート
三官能性(メタ)アクリレート:トリメチロールプロパン トリメタクリレート、トリメチロールプロパン トリアクリレート、ペンタエリトリトール トリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパン トリアクリレート、トリメチロールプロパン トリメタクリレート
四〜六官能性(メタ)アクリレート:ジペンタエリトリトール ペンタアクリレート、 ペンタエリトリトール テトラアクリレート、エトキシル化ペンタエリトリトール テトラアクリレート、ペンタアクリレート エステル
【0040】
ケイ素含有耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングは、シランまたはその加水分解物を含有する前駆体組成物を硬化することにより得られてよい、ゾル−ゲルコーティングであるのが好ましい。使用されてよいケイ素をベースとしたゾル−ゲルコーティング組成物は、光学応用に適したコーティングを形成するように処理された、溶媒、シランおよび/またはオルガノシラン、任意の界面活性剤、ならびに、任意の触媒の均一混合物である。本明細書にて使用される「均一」という用語は、一様または類似の構造を有する形態を示し、当業者に知られた通常の意味も与えられる。
【0041】
好ましい耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングは、エポキシトリアルコキシシランをベースとしたハードコーティングであり、より好ましくは、γ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシランをベースとしたハードコーティングである。
【0042】
耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングとして特に好ましい硬化性組成物は、界面活性剤、エポキシトリアルコキシシランおよびジアルキルジアルコキシシランの加水分解物、コロイド状の無機フィラー、触媒量のアルミニウムをベースとした硬化触媒を備え、その残余は、実質的に、耐磨耗性および/または耐スクラッチ性組成物の調製に一般的に使用される溶媒からなる。このような耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティング組成物において使用されてよい一般的な成分は、仏国特許出願公開第2702486号明細書に開示されており、それは本明細書に援用されている。ケイ素をベースとした耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティング組成物として特に好ましいものは、主成分としてγ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン(GLYMO)およびジメチル− ジエトキシシラン(DMDES)の加水分解物、コロイド状のシリカ、触媒量のアルミニウムアセチルアセトネートを備える組成物である。
【0043】
耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングの厚さは、少なくとも1μmであるのが好ましく、少なくとも1.5μmであるのがより好ましく、少なくとも2μmであるのがさらに好ましく、少なくとも3μmであるのがとりわけ好ましく、また、10μm未満であるの好ましく、5μm未満であるのがより好ましい。耐衝撃性プライマーコーティングによって既に覆われた基材上を、耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングで、被覆するのが好ましい。
【0044】
本発明で使用されてもよい耐衝撃性コーティングは、最終光学物品の耐衝撃性を改善するために一般的に使用されるコーティングであれば、いかなるものでもよい。このコーティングは、一般的に、最終光学製品の基材上にある耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティングの接着性を増強する。耐衝撃性プライマーコーティングは、最終光学物品の耐衝撃性を、耐衝撃性プライマーコーティングのない同じ光学物品と比較して、改善するコーティングとして定義される。
【0045】
一般的な耐衝撃性プライマーコーティングは、(メタ)アクリル酸をベースとしたコーティングおよびポリウレタンをベースとしたコーティングであり、特に、ポリ(メタ)アクリル酸ラテックス、ポリウレタンラテックス、または、ポリエステルラテックスなどのラテックス組成物から作製されるコーティングである。
【0046】
上述した耐磨耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上に直接塗工された本発明の硬化性組成物は、硬化することで、帯電防止特性および耐摩耗性を有する機能的な透明コーティングを提供する。本特許出願においては、それを「帯電防止組成物」と呼ぶことがある。
【0047】
当該硬化性組成物は、CNT、ならびに、式(I)の化合物またはその加水分解物を少なくとも1種備えるバインダーを備える。
n′Si(X)4−n′−m (I)
式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合する一価の有機基を示し、Yは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合し、かつ、少なくとも1つのエポキシ基を含有する一価の有機基を示し、Xは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、mおよびn′は、mが1または2であって、m+n′=1または2であるような整数である。
【0048】
Xは、独立して、限定されることなく、H、アルコキシ基−O−R(式中、Rは、好ましくは、直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルコキシアルキル基、好ましくは、C〜Cのアルキル基を示す。)、アシロキシ基−O−C(O)R(式中、Rは、好ましくはアルキル基を示し、より好ましくはC〜Cのアルキル基を示し、さらに好ましくはメチル基またはエチル基を示す。)、ClおよびBrなどのハロゲン基、任意で1個または2個の官能基(アルキル基またはシラン基(例えば、NHSiMe基)など)で置換されたアミノ基、イソプロペノキシ基などのアルキレノキシ基、トリアルキルシロキシ基(例えば、トリメチルシロキシ基)を示してもよい。
【0049】
Xは、好ましくは、アルコキシ基であり、特に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、または、ブトキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基またはエトキシ基である。この場合、式(I)の化合物は、アルコキシシランである。
【0050】
整数nおよびmは、式(I)の化合物の3つの群:式 RYSi(X)の化合物、式 YSi(X)の化合物、式 YSi(X)の化合物、を定義する。これらの化合物のなかでは、エポキシシランを有する式 YSi(X)の化合物が好ましい。
【0051】
Si−C結合を介してケイ素原子に結合する一価のRは、有機基である。この基は、限定されず、飽和または不飽和の炭化水素基、好ましくはC〜C10の基、より好ましくはC〜Cの基、例えば、アルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基などのC〜Cのアルキル基)、アミノアルキル基、ビニル基などのアルケニル基、C〜C10のアリール基(例えば、任意で置換されたフェニル基、特に、1個以上のC〜Cのアルキル基で置換されたフェニル基)、ベンジル基、(メタ)アクリロキシアルキル基、フッ素化またはペルフルオロ化された、上述した炭化水素基に相当する基(例えば、フルオロアルキル基、ペルフルオロアルキル基、(ポリ)フルオロ基、ペルフルオロ アルコキシ[(ポリ)アルキルオキシ]アルキル基)であってもよい。
【0052】
Rはフッ素を含有しないことが好ましく、式(I)の化合物がフッ素を含有しないことがより好ましい。最も好ましいRは、アルキル基であり、特に、C〜Cのアルキル基であり、理想的にはメチル基である。
【0053】
Si−C結合を介してケイ素原始に結合する一価のYは、有機基である。というのも、これらは、少なくとも1個のエポキシ官能基、好ましくは、1個のエポキシ官能基を含有しているからである。エポキシ官能基とは、炭素含有鎖または環状炭素含有系に備えられている2個の隣接炭素原子または非隣接炭素原子に酸素原子が直接結合している原子団を意味する。エポキシ官能基のなかでは、オキシラン官能基、つまり、飽和三員環エーテル基が好ましい。
【0054】
式(I)のエポキシシラン化合物は、高架橋マトリクスを提供する。より好ましいエポキシシランは、Si原子と、あるレベルの柔軟性を与えるエポキシ官能基との間の有機的結合を有する。
【0055】
より好ましいYは、式(III)および(IV)の基である。
【0056】
【化1】

【0057】
式中、Rは、アルキル基、好ましくはメチル基または水素原子であり、理想的には水素原子であり、aおよびcは、1〜6の整数であり、bは、0,1または2である。
【0058】
式(III)を有する好ましい基は、γ−グリシドキシプロピル基(R=H、a=3、b=0)であり、好ましい式(IV)の(3,4−エポキシシクロヘキシル)アルキル基は、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基(c=1)である。γ−グリシドキシエトキシプロピル基(R=H、a=3、b=1)も用いられよい。
【0059】
好ましい式(I)のエポキシシランは、エポキシアルコキシシランであり、最も好ましいのは、1個のY基および3個のアルコキシX基を有するものである。特に、好ましいエポキシトリアルコキシシランは、式(V)および(VI)のものである。
【0060】
【化2】

【0061】
式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基であり、メチル基またはエチル基が好ましく、a、bおよびcは、上述したものなどである。
【0062】
そのようなエポキシシランの例としては、グリシドキシ メチル トリメトキシシラン, グリシドキシ メチル トリエトキシシラン, グリシドキシ メチル トリプロポキシシラン, α- グリシドキシ エチル トリメトキシシラン, α-グリシドキシ エチル トリエトキシシラン, β-グリシドキシ エチル トリメトキシシラン, β-グリシドキシ エチル トリエトキシシラン, β-グリシドキシ エチル トリプロポキシシラン, α- グリシドキシ プロピル トリメトキシシラン, α-グリシドキシ プロピル トリエトキシシラン, α-グリシドキシ プロピル トリプロポキシシラン, β-グリシドキシ プロピル トリメトキシシラン, β-グリシドキシ プロピル トリエトキシシラン, β- グリシドキシ プロピル トリプロポキシシラン, γ-グリシドキシ プロピル トリメトキシシラン, γ-グリシドキシ プロピル トリエトキシシラン, γ-グリシドキシ プロピル トリプロポキシシラン, 2-(3,4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリメトキシシラン, 2-(3,4-エポキシシクロヘキシル) エチルトリエトキシシランが含まれるが、これらに限定されない。他の有用なエポキシトリアルコキシシランは、米国特許第4294950号明細書、米国特許第4211823号明細書、米国特許第5015523号明細書、欧州特許第0614957号明細書、および、国際公開第94/10230号に記載され、本明細書に援用されている。これらのシランのなかでも、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)が好ましい。
【0063】
1個のY基と2個のX基とを有する式(I)のエポキシシランの好ましいものとしては、γ-グリシドキシプロピル-メチル-ジメトキシシラン, γ- グリシドキシプロピル ビス(トリメチルシロキシ) メチルシラン, γ-グリシドキシプロピル-メチル-ジエトキシシラン, γ- グリシドキシプロピル-メチル-ジイソプロペノキシシラン, および、γ-グリシドキシエトキシプロピル-メチル- ジメトキシシランなどのエポキシジアルコキシシランが含まれるが、これらに限定されない。エポキシジアルコキシが用いられる場合、これらは、上述したものなどのエポキシトリアルコキシシランと併用されるのが好ましく、当該エポキシトリアルコキシシランよりも少量用いられるのが好ましい。
【0064】
本発明の一実施形態において、帯電防止組成物のバインダーは、さらに、少なくとも式(II)の化合物またはその加水分解物を、少なくとも1種備える。
Si(Z)4−n (II)
式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、一価のアルキル基を示し、Zは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、nは、0,1,または2であり、好ましくは0または1である。ただし、n=0の場合は、Zが全て水素原子を示すことはなく、全て水素原子を示さないことが好ましい。
【0065】
式(II)の化合物またはその加水分解物は、本発明の硬化性組成物から得られるコーティングの架橋を改善するために用いてもよく、その結果、硬さおよび耐摩耗性を高める。
【0066】
式(II)のシランは、加水分解によってOH基となる、ケイ素原子に直接結合した3〜4個のZ基と、ケイ素原子に結合した、1個または2個の1価の有機R基とを有する。注目すべきは、式(II)の化合物の初期においては、SiOH結合が存在してもよいことであり、この場合、加水分解物とみなされる。加水分解物は、シロキサン塩を包含する。
【0067】
Zは、独立して、Xとして既に記載した加水分解性基から選ばれる加水分解性基を示す。好ましくは、Zは、同一でも異なっていてもよい加水分解性基である。
【0068】
最も好ましいRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基などのC〜Cのアルキル基であり、好ましくは、メチル基である。
【0069】
最も好ましい式(II)の化合物は、式Si(Z)を有するものである。そのような化合物の例としては、テトラエトキシシランSi(OC(TEOS)、テトラメトキシシランSi(OCH(TMOS)、 テトラ(n-プロポキシ)シラン、 テトラ(i-プロポキシ)シラン、 テトラ(n- ブトキシ)シラン、 テトラ(sec-ブトキシ)シラン、または、テトラ(t-ブトキシ)シランなどのテトラアルコキシシランが挙げられ、好ましくはTEOSである。
【0070】
式(II)の化合物は、式RSi(Z)の化合物、例えば、メチルトリエトキシシラン(MTEOS)から選んでもよい。
【0071】
硬化性帯電防止組成物に存在するシランは、一部または全部が加水分解されていてもよく、全部が加水分解されていることが好ましい。加水分解物は、公知の手法、例えば、仏国特許発明第2702486号明細書および米国特許第4211823号明細書に記載されたものなどにより準備されうる。塩酸または酢酸などの加水分解触媒は、縮合反応よりも加水分解反応を促進するために用いられてよい。
【0072】
バインダーは、式(I)および(II)の化合物を含むがフィラーを含まず、通常、帯電防止コーティング組成物に備えられて、その量は、帯電防止組成物の全質量に対して、1〜20質量%であり、2〜15質量%であるのが好ましい。帯電防止組成物が、ナノ粒子などのフィラーを含有しない場合には、帯電防止組成物の全質量に対して、5〜15質量%のバインダーを含有するのが好ましい。
【0073】
式(I)の化合物の量は、帯電防止組成物の全質量に対して、通常、1〜10質量%であり、2〜8質量%であるのが好ましい。(式(I)の化合物の理論乾燥抽出物質量)/(組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率は、好ましくは20〜100%であり、より好ましくは25〜80%であり、さらに好ましくは30〜70%である。
【0074】
式(II)の化合物が存在する場合、それらは、帯電防止組成物の全質量に対して、通常、1〜10質量%であり、2〜8質量%であるのが好ましい。式(II)の化合物が存在する場合、(式(II)の化合物の理論乾燥抽出物質量)/(組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率は、好ましくは15〜60%であり、より好ましくは20〜55%であり、さらに好ましくは25〜50%である。
【0075】
いくつかの実施形態においては、帯電防止組成物は、式(II)の化合物を含有しない。好ましくは、帯電防止組成物は、フィラーが当該組成物中に存在する場合に、式(II)の化合物を含有しない。
【0076】
好ましい実施形態において、帯電防止組成物は、フッ素化化合物を含有しない。ただし、極少量(一般的には、液体のコーティング組成物中に0.5質量%未満)使用される通常の界面活性剤を除く。
【0077】
帯電防止組成物に含有されるカーボンナノチューブ(CNT)は、多数の六角形で形成されたシートが巻き上げられたものと考えられうる、単層または多層で成長した管状構造を示し、このシートは、各炭素原子が3つの隣接炭素原子と結合して形成される。本発明で用いられるカーボンナノチューブの直径は、約0.5nmから10nm未満であるのが好ましい。カーボンナノチューブは、チューブの軸およびチューブの直径に対する六角形状炭素原子格子に方向に応じて、金属に似た導電体または半導体として機能しうる。本発明の範囲内においては、CNTという用語は、単層カーボンナノチューブ、および、二層カーボンナノチューブなどの多層カーボンナノチューブの両方を指定する。CNTは、好ましくは、単層カーボンナノチューブである。
【0078】
市販品として入手できるCNTを使用する場合には、その形成において利用される大きな触媒粒子を除去するために、精製することが好ましい。
【0079】
全域で単一の光学密度を示す光透過性フィルムを形成するためにCNTを本硬化性組成物に導入する場合においては、当業者に知られた方法に従って実行されうる。一般的に、CNT分散液は、CNTを、懸濁したCNTにとって十分な濃度の安定剤を含有する溶媒に入れることで準備される。溶媒は、水、アルコール、または、水とアルコールとの混合物などの極性溶媒であるのが好ましい。分散液におけるCNT濃度は、好ましくは1質量%未満であり、高い光透過性および低ヘイズを有する好ましい単一分散CNTコーティングが獲得できる。CNT分散液は、通常、ホモジナイザーによって機械的に10分〜1時間混合され、次いで、10〜30分間の超音波処理がなされる。高せん断混合と超音波処理との併用は、単一の混合器具を使用して得られたものよりも、高品質の分散液を与える。CNTが分散した溶液は、その後、通常、遠心分離されるか、または、1日以上静置されて沈殿される。CNTの塊または束は、好ましくは、均一の分散液が得られるように除去され、CNTが0.001〜0.02質量%の分散液が得られる。
【0080】
CNT分散液を用意するために使用されてよい安定剤は、特に限定されず、合成または天然に存在する界面活性剤を備えることができ、それは、限定されず、硫酸ドデシルナトリウム(SDS);Nonidet P−40(NP−40)、または、TRITON X−100(登録商標)、TRITON X−305(登録商標)、TRITON X−405(登録商標)などのTriton(登録商標)界面活性剤(ダウケミカル社製)などのオクチルフェノールエチレンオキシド凝縮液(オクチル-フェノキシポリエトキシエタノール化合物);ポロキサマー(例えば、合成洗剤のPluronic(登録商標)シリーズ、および、HO(CO)(CO)(CO)H(aのbに対する比が80〜27であり、分子量が7680〜9510である)として定義されるPoloxamer 188(登録商標));臭化および塩化アンモニウム(例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルアンモニウムブロミド、および、ドデシルピリミジウムクロリド);ポリオキシエチレンソルビトールエステル(例えば、TWEEN(登録商標)および合成洗剤のEMASOL(登録商標)シリーズ);ならびに、シクロデキストリンなどの天然に存在する乳化剤;を含む。
【0081】
カーボンナノチューブの安定した水分散液の製造は、米国特許第6878361号明細書により詳細に記載されている。
【0082】
通常、組成物において使用されるCNTの量は、帯電防止組成物の全質量に対して、0.002〜0.015質量%であり、0.004〜0.012質量%であるのが好ましい。カーボンナノチューブの質量/バインダーの質量として定義される質量比は、好ましくは、0.00025〜0.01であり、より好ましくは0.0005〜0.008であり、さらに好ましくは0.0008〜0.006であり、理想的には0.0008〜0.0045である。
【0083】
バインダーの質量は、組成物中のバインダーの理論乾燥抽出物質量を意味する。
【0084】
カーボンナノチューブの質量/帯電防止組成物の理論乾燥抽出物質量の比は、0.0002〜0.008であるのが好ましく、0.0005〜0.005であるのがより好ましい。
【0085】
「組成物中の成分の理論乾燥抽出物質量」とは、組成物中の成分の理論固形分質量、つまり、組成物の理論乾燥抽出物質量に対する質量寄与を意味する。
【0086】
組成物の理論乾燥抽出物質量は、各成分の理論乾燥抽出物質量の合計として定義される。本明細書において、式(I)または(II)の化合物の理論乾燥抽出物質量は、Rn′Si(O)(4−n′−m)/2、または、RSi(O)(4−n)/2というユニットでの計算値を意味するものとし、式中の、R、Y、n、n′およびmは、既に定義したものである。
【0087】
いくつかの実施形態において、帯電防止組成物は、硬化したコーティングの硬度および/または屈折率を増大させるため、フィラー、通常は、ナノ粒子(またはナノ結晶)を備える。ナノ粒子は、有機または無機であってよい。それらの混合物も使用できる。無機ナノ粒子(特に、金属または半金属の酸化物、窒化物、フッ化物、それらの混合物)を用いるのが好ましい。
【0088】
「ナノ粒子」とは、その直径(または最長寸)が1μm未満、好ましくは150nm未満、より好ましくは100nm未満の粒子を意味する。本発明においては、フィラーまたはナノ粒子の直径は、好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは5〜50nmである。
【0089】
適切な無機ナノ粒子としては、例えば、酸化アルミニウムAl、酸化ケイ素SiO、酸化ジルコニウムZrO、酸化チタンTiO、酸化アンチモンSb、酸化タンタルTa、酸化亜鉛、酸化スズSnO、酸化インジウム、酸化セリウム、Si、MgF、または、それらの混合物のナノ粒子が挙げられる。
【0090】
混合酸化物の粒子または複合粒子(例えば、コア/シェル構造を有するもの)を使用することも可能である。異なるタイプのナノ粒子を使用することは、ヘテロ構造のナノ粒子層を作製することを許容する。
【0091】
ナノ粒子は、好ましくは、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化ジルコニウム、または、酸化ケイ素SiOであり、SiOナノ粒子がより好ましい。無機フィラーは、コロイド形態(つまり、微粒子が、水、アルコール、ケトン、エステル、または、それらの混合物などの分散媒、好ましくはアルコールに分散された形態)で使用されるのが好ましい。
【0092】
フィラーが存在する場合、それらの量は、通常、帯電防止組成物の全質量に対して、0.5〜10質量%であり、好ましくは1〜8質量%である。フィラーが存在する場合、(フィラーの理論乾燥抽出物質量)/(組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率は、好ましくは25〜80%であり、より好ましくは30〜75%であり、さらに好ましくは40〜70%である。フィラーの理論乾燥抽出物質量は、通常、固体のフィラーの質量と同じである。
【0093】
いくつかの実施形態において、帯電防止組成物は、ナノ粒子等のいかなるフィラーも備えない。帯電防止組成物は、組成物中に式(II)の化合物が存在する場合には、いかなるフィラーも備えないことが好ましい。
【0094】
硬さおよび/または耐摩耗性と同時に導電性を示す組成物の準備における困難の1つは、光学分野(特に眼科分野)で使用できる小径粒子を有する均質な分散液を得ること、すなわち、この分野での使用が阻まれないレベルのヘイズを示すことである。これは、フィラーが、実質的に、CNTと凝集していないに違いないことを意味する。
【0095】
帯電防止組成物は、硬化工程を加速させる目的で、触媒量の少なくとも1種の硬化触媒を、任意で備える。硬化触媒の例は、紫外線または熱に曝されることでフリーラジカルを生成する光開始剤であり、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物、キノン、ニトロソ化合物、ハロゲン化アシル、ヒドラゾン、メルカプト化合物、ピリリウム化合物、イミダゾール、クロロトリアジン、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ジケトン、フェノン、および、これらの混合物等である。
【0096】
帯電防止組成物は、アセチルアセトン酸アルミニウム;その加水分解物;亜鉛、チタン、ジルコニウム、スズ、または、マグネシウムなどの金属のカルボン酸;等の硬化触媒を備えてもよい。飽和もしくは不飽和の多官能性酸、または、酸無水物などの縮合触媒(特に、マレイン酸、イタコン酸、トリメリット酸、または、トリメリット酸無水物)は、使用されてもよい。硬化および/または縮合触媒の多数の例が、「Chemistry and Technology of the Epoxy Resins」B.Ellis(編集)Chapman Hall,New York,1993、および、「Epoxy Resins Chemistry and Technology」第2版、C.A.May(編集),Marcel Dekker,New York,1988に与えられている。
【0097】
通常、本発明において使用される上述した触媒の量は、硬化性帯電防止組成物の全質量に対して、0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0098】
本発明の帯電防止組成物は、重合性組成物で従来使用される各種添加剤を従来の割合で含有してよい。これらの添加剤は、酸化防止剤などの安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、黄変防止剤、接着促進剤、染料、フォトクロミック剤、顔料、レオロジー調整剤、滑剤、架橋剤、光安定剤、香料、脱臭剤、および、追加の界面活性剤を含む。
【0099】
帯電防止組成物の残余は、実質的に、水または水混和性アルコール(つまり、メタノール、エタノール、2−ブタノール、または、水と水混和性アルコールとの混合物)から選ばれてよい溶剤からなる。
【0100】
組成物の理論乾燥抽出物質量/本発明の組成物の総質量の比は、通常、30%未満であり、好ましくは1〜20%であり、より好ましくは1.5〜15%であり、さらに好ましくは2〜10%である。
【0101】
本発明のコーティング組成物は、追加の導電性化合物を加える必要がないように、十分な電気導電を獲得することを許容する。
【0102】
好ましい実施形態では、本発明の帯電防止組成物は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリセレノフェン、ポリエチレン−イミン、ポリ(アリルアミン)、または、ポリビニルフェニレンなどの限定されない導電性ポリマーを含有しない。
【0103】
他の好ましい実施形態では、本発明の帯電防止組成物が備える導電性フィラー(通常、ITO、ATO、アンチモン酸亜鉛(ZnSb)、アンチモン酸インジウム(InSbO)、または、SrTiOなどの酸化物である)は、帯電防止組成物の全質量に対して、1質量%未満であり、好ましくは0.5質量%未満であり、さらに好ましくは0%である。本発明の意味においては、SiO、Al、ZrO、SnO、および、それらの混合物などの酸化物は、導電性酸化物(フィラー)とみなされない。
【0104】
本発明の帯電防止組成物が準備されたならば、液体塗装技術で使用される任意の方法(例えば、スプレー塗装、スピン塗装、流し塗り、ハケ塗り、浸漬塗装、または、ロール塗装など)によって、この組成物で、上述した耐摩耗性および/または耐スクラッチ性のコーティング上を被覆する。スピン塗装および浸漬塗装が好ましい方法である。組成物は、所望の厚さを得るために、一連の連続層または薄膜として、基材上に塗工されうる。その後、帯電防止組成物は、公知の方法にしたがって硬化される。
【0105】
最終的な光学物品においては、本発明の帯電防止コーティングの厚さは、好ましくは50nm〜2μmであり、より好ましくは100nm〜1.5μmであり、さらに好ましくは100nm〜1μmである。
【0106】
反射防止コーティングおよび/または防汚トップコートなどの他のコーティングを、帯電防止コーティング上に塗工することができる。偏光コーティング、フォトクロミックコーティング、染色コーティング、または、接着層(例えば、接着性ポリウレタン層)などの他のコーティングを、当該帯電防止コーティング上に塗工してもよい。
【0107】
本発明によって得られる物品についてより詳細に記載する。
【0108】
本発明は、500ミリ秒以下、好ましくは200ミリ秒以下、より好ましくは150ミリ秒以下の電荷減衰時間を有する光学物品を提供する。
【0109】
本発明によって提供される光学物品の表面抵抗率は、1012Ω/□以下であり、好ましくは5.1011Ω/□以下であり、さらに好ましくは1011Ω/□以下であり、通常は、10Ω/□以上である。
【0110】
通常、物品は、その表面抵抗率が1012Ω/□以下である場合に、帯電防止特性を示すとみなされる。光学物品の表面抵抗率とは、上述した耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングと帯電防止コーティングとの両方によってその主面が覆われた光学物品の表面で測定された表面抵抗率を意味する。
【0111】
最終光学物品は、可視領域(または、より短い波長領域)の光を吸収しないことが好ましい。これは、本明細書においては、「本発明の耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングならびに帯電防止コーティングによって一面が覆われている場合には、光学物品は、両コーティングにより、好ましくは1%以下、より好ましくは1%未満の可視領域蛍光吸収、および/または、好ましくは90%超、より好ましくは91%超、さらに好ましくは92%超の相対可視光透過率Tv(またはτv)を有する」ことを意味する。両方の特徴は、同時に満たされ、かつ、コーティングの厚さを慎重に調整することで到達されることが好ましい。
【0112】
本明細書においては、Tvは、NF EN 1836規格で定義された意味を有し、380〜780nmの波長領域に相当する。
【0113】
別の実施形態においては、光学物品は、着色されてよく、可視領域の光を吸収してもよい。
【0114】
本発明によって準備される最終光学物品は、低ヘイズ特性を有することが好ましい。ヘイズは、入射軸の角度から2.5°超散乱した透過光を測定したものである。ヘイズ値が小さくなるに従い、混濁度が低くなる。本光学物品のヘイズ値は、好ましくは0.8%未満であり、より好ましくは0.5%未満であり、さらに好ましくは0.3%未満であり、とりわけ好ましくは0.2%未満である。
【0115】
本発明の光学物品は、本発明の帯電防止耐摩耗性コーティングを備えない基材と比較して、耐摩耗性を向上させた。
【0116】
本発明のいかなる実施形態であっても、本発明の帯電防止耐摩耗性コーティングは、他の帯電防止コーティング系と比較して、多くの有利性(ほとんどの基材(特にプラスチック基材)に対する優れた接着性を備えた適用性、および、高い導電性を含む)を示す。
【0117】
本発明は、さらに、基材を備える光学物品を提供すること、基材の表面上に耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングを塗工すること、ならびに、当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を、上述した硬化性組成物で被覆して当該硬化性組成物を硬化させること、を備える、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性帯電防止光学物品を準備する方法に関する。
【0118】
本発明の光学物品は、環境への負担が小さい溶剤(アルコールまたは水/アルコール混合溶剤)を使用して、簡単かつ低温(100℃以下)で処理されうる。本方法は、柔軟性を有し、他の機能性コーティングを基材上に導入することを許容する。これは、米国特許出願公開第2005/209392号明細書に開示された方法(帯電防止コーティングを形成するために2工程を必要とする方法)よりも、便利である。
【0119】
本発明は、帯電防止レンズを準備する眼科分野だけでなく、写真フィルム、エレクトロニクスまたは食品の包装、および、画像材料の分野における一般的な帯電防止目的でも、使用されうる。
【0120】
次に、以下に示す実施例を参照して、本発明をより詳細に記載する。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ提供され、本発明の精神と範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0121】
1.試験方法
以下に示す試験手順は、本発明の光学物品を評価するために使用された。各系のための3つのサンプルが測定のために準備され、報告データは、3つのデータの平均で計算された。
【0122】
a)電荷減衰時間
本特許出願においては、あらかじめ9000ボルトのコロナ放電に曝された光学物品の電荷減衰時間は、JCI 155v5 Charge Decay Test Unit(John Chubb Instrumentation社製)を用いて、25.4℃、相対湿度50%で測定された。
【0123】
このUnitは、National Standardsに準拠したBritish Standard and Calibration voltage measurements and resistor and capacitor valuesで特定された方法に合わせて、JCI 176 Charge Measuring Sample Support、JCI 191 Cotrolled Humidity Test Chamber、JCI 192 Dry Air Supply Unit、および、Calibration of voltage sensitivity and decay time measurement performance of JCI 155を用いてセットアップされた。
【0124】
b)表面抵抗率
本発明のコーティングによって覆われた光学物品の表面抵抗率は、可変ジオプターを持つ湾曲レンズ基材のための修正された同心リングプローブ Model 863 (2.5″)、および、100Vが加えられた、Electro−Tech Systems社製の6487 Laboratory Digital Resistance/Current Meterを使用して、23℃および相対湿度55%で測定された。
【0125】
c)乾燥接着性試験
コーティングの乾燥接着性は、コーティングに対してカミソリ刃で、1群目の5本線を1mm間隔で刻み入れ、次いで、1群に対して直角に2群目の5本線を1mm間隔で刻み入れて、25個の正方形を備えるクロスハッチパターンを形成することにより、ASTM D3359−93に従って、クロスハッチ接着性試験を使用して測定された。溝形成中に生じたゴミを除去するためにクロスハッチパターンを気流で吹き払った後、透明なセロファンテープ(3M SCOTCH(登録商標)n°600)がクロスハッチパターンに貼り付けられ、しっかりと押圧され、その後、コーティング表面に対して垂直方向に、急速にコーティングから引き離される。未使用テープの貼付および除去は、その後、2回追加して繰り返される。接着性は以下のように評価される(0は最も良好な接着性、1〜4は中位の接着性、5は最も劣悪な接着性)。
【0126】
【表1】

【0127】
d)耐摩耗性の決定(「ISTM Bayer試験」または「Bayerアルミナ」)
Bayer耐摩耗性試験は、湾曲/レンズ表面の耐摩耗性を決定するために使用される標準的な試験である。Bayer値の決定は、ASTM F735−81規格(Standard Test Method for Abrasion Resistance of Transparent Plastics and Coatings Using Oscillating Sand Method)に準拠して行われた。
【0128】
この試験を通じて、被覆レンズおよび無被覆レンズ(類似の曲率、直径、厚さ、および、ジオプターを有する参考レンズ)は、振動研磨用砂箱(Specialty Ceramic Grains(旧Norton Materials)によって供給された約500gの酸化アルミニウムZF152412)に、2分間に300サイクルの摩耗のため、曝された。各測定には未使用の砂だけが使用された。
【0129】
参考および被覆サンプルの両方のヘイズHは、Haze Guard Plusメーターによって、ASTM D1003−00に準拠して、試験が行われる前および後に、測定された。結果は、被覆レンズに対する参考レンズの計算比(Bayer値=Hstandard/Hsample)として示される。Bayer値は、コーティングの性能の測定単位であり、高い値は高い耐摩耗性を意味する。
【0130】
e)ヘイズ値、Tv、および、厚さ
最終光学物品のヘイズ値は、ASTM D1003−00(本明細書に援用されている)の方法に準拠して、光透過率を活用したBYK−Gardner社製のHaze−Guard Plusヘイズメーター(色差計)によって測定された。本出願における「ヘイズ」値への全言及は、この規格による。機器は、最初に、製造者の指示に従って調整された。次に、サンプルが調整前メーターの透過光ビーム上に配置され、ヘイズ値が3つの異なる試料位置から測定され、平均値が求められた。Tvは、同じ装置を使用して測定された。
【0131】
フィルムの厚さは、75W Xenon Light Sourceと共にM−44(商標)、EC−270、および、LPS−400が装備されている、J.A.Woollam Co.Inc.製のエリプソメーター(厚さ<1μm)によって、または、Metricon Corporation社製のMetricon Model 2010 Prism Coupler 装置(厚さ>1μm)を用いて評価された。
【0132】
2.実験の詳細
a)帯電防止コーティング組成物を準備するための一般的手順
5gの界面活性剤Triton X−305(登録商標)が、495gの脱イオン水に溶解され、続いて、300gのCNTパウダー(Purified HiPco)が導入された。ホモジナイザーが使用されてCNT分散液が20分間混合され、20kHzで動作される高出力音響ホーン(500−watt)が15分間の超音波処理のために使用された。分散液は、2日間沈殿させられ、沈殿物の除去後においては約0.01質量%のCNTを含有していた。それは、沈殿または凝集なしで、1ヶ月を超えて安定であった。
【0133】
コーティング溶液は、GLYMO、TEOS(存在する場合)、HCl、および、SiOもしくはSnOのナノ粒子水分散液(存在する場合)を、メタノール中で12時間かくはん混合し、次いで、2−ブタノール、Al(AcAc)、界面活性剤(FC−430)、および、上述したCNT分散液を分散させることにより準備された。
【0134】
CNTパウダーは、Carbon Nanotechnologies,Inc.から購入され(灰分15質量%未満の精製カーボンナノチューブを備える)、HiPco法(High Pressure catalytic decomposition of Carbon monOxide)により成長され、レーザーアブレーションから準備された。Triton X−305(登録商標)は、Dow Chemical Corporationから購入された。SnOナノ粒子水分散液(SN15ES、15質量%のナノ粒子、直径10〜15nm)は、NYACOL Nanotechnologies,Inc.から購入された。SiOナノ粒子水分散液(NH−1530,2540,4030、30または40質量%のナノ粒子、直径15,25または40nm)は、Silco International Inc.から購入された。FC−430界面活性剤は、3Mから購入された。
【0135】
b)被覆光学物品の準備
実施例で使用される光学物品は、ORMA(登録商標)基材(CR−39(登録商標)ジエチレングリコールビス(炭酸アリル)モノマーを重合することによって得られる)、または、ポリカーボネート基材を備えるAirwear(登録商標)ESSILOR製造レンズのいずれかを備えている円形レンズ(平面または−2.00で、直径68mm)であった。
【0136】
実施例1′〜5′および6〜12においては、ORMA(登録商標)レンズは、その凸側が、ポリエステル部分を備えるポリウレタンラテックスに基づく耐衝撃性プライマーコーティングでスピンコートされ、75℃で15分間硬化された(BAXENDEN CHEMICALS社から購入し、適切な粘度を得るために希釈したWitcobond(登録商標)234であり、1500rpmで10〜15秒間の条件でスピンコートした。)。16分間の冷却後、プライマーコーティングは、GLYMO(224質量部)、DMDES(120質量部)、0.1N HCl(80.5質量部)、コロイド状SiO(718質量部、メタノール中に30質量%のナノ粒子を含有する)、硬化触媒としてのAl(AcAc)(15質量部)、界面活性剤(0.1質量部、EFKA(登録商標)3034、Ciba Specialty Chemicals社製)、および、エチルセルソルブ(44質量部)を備える組成物を75℃で15分間硬化させることによって得られたポリシロキサン型の耐磨耗性および耐スクラッチ性コーティング(「ハードコート」;厚さ:1.8μm)で被覆された。組成物は、135℃で25分間速く硬化されて冷却される。被覆したハードコートの表面は、その後、コロナ処理され、帯電防止組成物によって500/1000rpmでスピンコートされた。また、このとき、80℃での5分間プレ硬化、および、100℃での3時間ポスト硬化がなされた。
【0137】
実施例1〜5においては、Airwear(登録商標)レンズ(既に、GLYMOをベースとした耐摩耗性および耐スクラッチ性コーティング(〜5ミクロン)が提供され、プライマーコーティングは提供されていない)は、直接、コロナ処理され、同条件で帯電防止コーティングで被覆された。
【0138】
比較例C1においては、Airwear(登録商標)レンズ上に帯電防止コーティングは形成されなかった。比較例C2においては、被覆されたORMA(登録商標)レンズ上に帯電防止コーティングは形成されず、実施例1′〜5′および6〜12と同じ耐衝撃性プライマーならびに耐摩耗性および耐スクラッチ性コーティングのみを含有していた。
【0139】
c)コーティング形成の詳細
実施例で使用されたコーティング形成は、第1表および第2表に記載する。各表中の数値は、質量パーセントである。
【0140】
【表2】

【0141】
【表3】

【0142】
d)コーティングの特性および性能
帯電防止コーティングの厚さ、および、準備された光学物品の性能試験データを、第3表および第4表にまとめる。
【0143】
【表4】

【0144】
【表5】

【0145】
第3表および第4表から分かるように、本発明によって覆われた光学物品は、帯電防止特性(表面抵抗率<5.1011Ω/□、および、短い減衰時間(<150ms))、透過率が約91〜92%の高い光透過性、低ヘイズ(<0.5%)、優れた耐摩耗性(ISTM Bayerがほとんど>5)を示し、下層のコーティングに対する優れた接着性(クロスハッチテスト0)を含む。2層の耐摩耗性コーティング/帯電防止コーティングが、1層の耐摩耗性コーティングよりも良好な耐摩耗性を提供することに注目することは、特に重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カーボンナノチューブと、
b)式(I)の化合物またはその加水分解物を少なくとも1種備えるバインダーと、
を備え、硬化することで、耐摩耗性、透明性、低ヘイズ、帯電防止性を有するコーティングを提供する、硬化性組成物。
n′Si(X)4−n′−m (I)
(式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合する一価の有機基を示し、Yは、同一であっても異なっていてもよく、炭素原子を介してケイ素原子に結合し、かつ、少なくとも1つのエポキシ基を含有する一価の有機基を示し、Xは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、mおよびn′は、mが1または2であって、m+n′=1または2となる整数である。)
【請求項2】
式(I)のYが、式(III)および(IV)の基から選ばれる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【化1】


(式中、Rは、アルキル基、好ましくはメチル基または水素原子であり、理想的には水素原子であり、aおよびcは、1〜6の整数であり、bは、0,1,または、2である。)
【請求項3】
式(I)の化合物が、式(V)または(VI)のエポキシトリアルコキシシランから選ばれる、請求項1に記載の硬化性組成物。
【化2】


(式中、Rは、炭素数1〜6のアルキル基であり、aおよびcは、1〜6の整数であり、bは、0,1,または2である。)
【請求項4】
前記バインダーが、さらに、式(II)の化合物またはその加水分解物を、少なくとも1種備える、請求項1に記載の硬化性組成物。
Si(Z)4−n (II)
(式中、Rは、同一であっても異なっていてもよく、一価のアルキル基を示し、Zは、同一であっても異なっていてもよく、加水分解基または水素原子を示し、nは、0,1,または2であり、好ましくは0または1である。)
【請求項5】
さらに、フィラー、好ましくは、ナノ粒子を備える、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記ナノ粒子の直径が、2〜100nmであり、好ましくは2〜50nmであり、より好ましくは5〜50nmである、請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記ナノ粒子が、Al、TiO、SiO、ZrO、Sb、Ta、SnO、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化セリウム、Si、MgF、および、これらの混合物から選ばれる、請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
(前記フィラーの理論乾燥抽出物質量)/(前記組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率が、25〜80%であり、好ましくは30〜75%であり、より好ましくは40〜70%である、請求項5に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
(式(I)の化合物の理論乾燥抽出物質量)/(前記組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率が、20〜100%であり、好ましくは25〜80%であり、より好ましくは30〜70%である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
(式(II)の化合物の理論乾燥抽出物質量)/(前記組成物の理論乾燥抽出物質量)の比率が、15〜60%であり、好ましくは20〜55%であり、より好ましくは25〜50%である、請求項4に記載の硬化性組成物。
【請求項11】
(前記カーボンナノチューブの質量)/(前記バインダーの理論乾燥抽出物質量)の比率が、0.00025〜0.01であり、0.0005〜0.008であるのが好ましく、0.0008〜0.006であるのがより好ましく、0.0008〜0.0045であるのがさらに好ましい、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブの量は、前記組成物の全質量に対して、0.002〜0.015質量%、好ましくは0.004〜0.012質量%である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
前記組成物の全質量に対して1質量%未満、好ましくは0.5質量%未満、より好ましくは0質量%の導電性フィラーを備える、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項14】
基材を備え、前記基材から順に、
耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングと、
当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を、請求項1〜13のいずれかに記載の硬化性組成物で直接被覆することにより形成された帯電防止コーティングと、
を備える光学物品。
【請求項15】
前記帯電防止コーティングの厚さが、50nm〜2μmであり、好ましくは100nm〜1.5μmであり、より好ましくは100nm〜1μmである、請求項14に記載の光学物品。
【請求項16】
前記耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングが、(メタ)アクリレートをベースとしたコーティング、および、ケイ素含有コーティングから選ばれ、好ましくはエポキシトリアルコキシシランをベースとしたコーティングから選ばれる、請求項14に記載の光学物品。
【請求項17】
前記耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングの厚さが、少なくとも1μmであり、好ましくは少なくとも1.5μmであり、より好ましくは少なくとも2μmであり、さらに好ましくは少なくとも3μmである、請求項14に記載の光学物品。
【請求項18】
レンズまたはレンズブランク、好ましくは眼科用のレンズまたはレンズブランクであるとしてさらに定義される、請求項14に記載の光学物品。
【請求項19】
500ミリ秒以下、好ましくは200ミリ秒以下、より好ましくは150ミリ秒以下の電荷減衰時間を有するとして、さらに定義される、請求項14に記載の光学物品。
【請求項20】
90%超、好ましくは91%超、より好ましくは92%超の相対可視光透過率Tvを有するとしてさらに定義される、請求項14に記載の光学物品。
【請求項21】
基材を備える光学物品を提供すること、
前記基材の表面上に、耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティングを塗工すること、ならびに、
当該耐摩耗性および/または耐スクラッチ性コーティング上を、請求項1〜13のいずれかに記載の硬化性組成物で被覆し、当該硬化性組成物を硬化させること、
を備える、請求項14〜20のいずれかに記載の光学物品を準備する方法。

【公表番号】特表2011−508039(P2011−508039A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540125(P2010−540125)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068257
【国際公開番号】WO2009/083562
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】