説明

常温硬化型樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 本発明は、造膜助剤を全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,2℃程度でも成膜し得ると共に、高温ブロッキング性及び耐水性に優れた塗膜を形成し得るエマルジョンを提供することを目的とする。
【解決手段】 ダイアセトンアクリルアミドを含有するエチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合してなる、ポリマー全体のガラス転移温度:[全]Tgの10〜30℃で多段重合ポリマーエマルジョンと、ヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化型樹脂組成物及びその製造方法に関するものであり、詳しくは低温造膜性に優れると共に、ブロッキング性にも優れる塗膜を形成し得る多段重合ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン性不飽和単量体を水性媒体中で乳化重合して得られるエマルジョン樹脂は、各種コーティング剤、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤、インキ用等各種工業用途にて実用化されており、幅広く利用されている。中でもエマルジョン型塗料は、溶剤系塗料と比べて安全性、コスト面で優位性が高いことから、広く用いられている。
しかし、エマルジョン型塗料は造膜性が悪いことから、一般的に高沸点有機溶剤が造膜助剤として用いられており、水性塗料でありながら、有機溶剤が塗料中に2〜15重量%程度含まれているのが現状である。かかる状況下、環境保護の観点から有機溶剤を含まないエマルジョン型塗料が望まれている。
【0003】
この要求を満足するための第一段階として、造膜助剤非含有でも造膜するエマルジョン型樹脂の開発が不可欠である。エマルジョン型樹脂を軟質化することにより、造膜助剤を含有しなくとも造膜させることができる。
しかし、エマルジョン型樹脂を軟質化すると形成される塗膜のブロッキング性が悪くなり、汚染性も悪化する。
そこで、造膜助剤を含まずに、低温造膜性及びブロッキング性に優れる塗膜を形成し得るエマルジョン型塗料の開発が望まれた。
【0004】
このような課題に対し、種々の方策が提案された(特許文献1〜3)。
特許文献1:特開平11−343464号公報には、異なるガラス転移温度(以下、Tgと略す)を示す水性エマルジョンと水溶化された樹脂とを混合してなる水性塗料組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2:特開2001−11105号公報には、高酸価、低Tgのエチレン性不飽和単量体を水性媒体中で乳化重合してなる重合体の存在下に、低酸価、高Tgのエチレン性不飽和単量体を重合する重合体水性分散液の製造方法が記載されている。特許文献2に記載されるような方法では、比較的低温で造膜し得るエマルジョン型塗料を得ることができる。
【0006】
特許文献3:特開平6−179726号公報には高Tgのエチレン性不飽和単量体を水性媒体中で乳化重合してなる重合体の存在下に低Tgのエチレン性不飽和単量体を連鎖移動剤の存在下で重合する重合体水性分散液の製造方法が開示されている。
しかし、特許文献3に記載される方法で得られる重合体の水性分散体から形成される塗膜は、高温におけるブロッキング性が不十分である。
【特許文献1】特開平11−343464号
【特許文献2】特開2001−11105号公報
【特許文献3】特開平6−179726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、造膜助剤を全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,2℃程度でも成膜し得ると共に、高温ブロッキング性及び耐水性に優れた塗膜を形成し得るエマルジョン型の常温硬化型樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ダイアセトンアクリルアミドを含有する下記エチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合してなる多段重合ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物であって、
重合に供される全エチレン性不飽和モノマーから求められるポリマー全体のガラス転移温度:[全]Tgが10〜30℃であり、
少なくとも2つの工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、他の工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度とは異なり、
反応容器中に仕込んだエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第1のモノマーエマルジョンを重合し、第1のポリマーエマルジョン(A)を得、
次いで該第1のポリマーエマルジョン(A)の存在下に、
エチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第2工程以降のモノマーエマルジョンを順次重合してなることを特徴とする多段重合ポリマーエマルジョンに関する。
【0009】
また、本発明は、少なくともいずれかの工程において、にシランカップリング剤を含有することを特徴とする上記の常温硬化型樹脂組成物に関する。
【0010】
さらに、全工程にわたるエチレン性不飽和モノマーの全量100重量部に対して0.01〜0.20重量部の連鎖移動剤を使用することを特徴とする上記の常温硬化型樹脂組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、重合開始剤が、熱分解系であることを特徴とする上記発明の常温硬化型樹脂組成物に関する。
【0012】
さらに、本発明は、最終段階の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、最終段階よりも前の各工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められる各ポリマーの各ガラス転移温度のうち最も高い温度以上であることを特徴とする上記発明の常温硬化型樹脂組成物に関する。
【0013】
さらにまた、本発明は、ダイアセトンアクリルアミドを含有する下記エチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合してなる多段重合ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物の製造方法であって、
重合に供される全エチレン性不飽和モノマーから求められるポリマー全体のガラス転移温度:[全]Tgが10〜30℃であり、
少なくとも2つの工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、他の工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度とは異なり、
反応容器中に仕込んだエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第1のモノマーエマルジョンを重合し、第1のポリマーエマルジョン(A)を得、
次いで該第1のポリマーエマルジョン(A)に、
エチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第2工程以降のモノマーエマルジョンを順次、添加、重合することを特徴とする常温硬化型樹脂組成物の製造方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、多段重合が3段重合であり、第1のモノマーエマルジョン中のエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが−40〜0℃、前記エチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の3〜15重量%、第2工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが−40〜0℃、第2工程のエチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の30〜55重量%であり、第3工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが40〜100℃、第3工程のエチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の30〜55重量%であることを特徴とする上記常温硬化型樹脂組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、造膜助剤を全く含まないか,含んでもごく微量であるにもかかわらず,2℃程度でも成膜し得ると共に、高温ブロッキング性及び耐水性に優れた塗膜を形成し得るエマルジョンを提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の多段重合ポリマーエマルジョンは、ダイアセトンアクリルアミドを含有するエチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合してなるものであり、反応容器中に仕込んだエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第1のモノマーエマルジョンを重合し、第1のポリマーエマルジョン(A)を得、次いで該第1のポリマーエマルジョン(A)の存在下に、連鎖移動剤を使用しつつ、ダイアセトアクリルアミドとエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第2工程以降のモノマーエマルジョンを順次重合することが好ましい。
即ち、使用するモノマーの組成や量、乳化剤の種類や量等が同じであっても、反応容器中にはエチレン性不飽和モノマーを仕込まず、乳化剤と重合開始剤と水とを仕込んだり、重合開始剤と水とを仕込んだり、乳化剤と水とを仕込んだり、水のみを仕込んだりして、そこにエチレン性不飽和モノマーと乳化剤と重合開始剤と水とを含有するモノマーエマルジョンや、エチレン性不飽和モノマーと乳化剤と水とを含有するモノマーエマルジョンや、エチレン性不飽和モノマーと乳化剤との混合物や、エチレン性不飽和モノマー等を滴下し、モノマーを重合した場合、反応容器中にエチレン性不飽和モノマーを仕込んだ場合に比して、得られるエマルジョンは低温造膜性に劣ると共に、高温ブロッキング性や耐水性の著しく劣る塗膜しか形成できない。
尚、本発明において、重合開始剤は、エチレン性不飽和モノマー等と一緒に反応容器中に予め仕込んでおいてもよいし、滴下する第2段目に以降のモノマーエマルジョン中に含ませておいても良いし、あるいはエチレン性不飽和モノマーや乳化剤とは別に、反応容器中に滴下して加えてもよい。
【0017】
また、本発明の多段重合ポリマーエマルジョンは、重合に供されるダイアセトアクリルアミドと全エチレン性不飽和モノマーから求められるガラス転移温度:[全]Tgが10℃〜30℃となるようにすることも重要であり、[全]Tgが15℃〜25℃であることがより好ましい。[全]Tgが10℃未満だと、低温造膜性は優れるが高温ブロッキング性が悪くなり、他方[全]Tgが30℃を超えると高温ブロッキング性は優れるが低温造膜性が悪化する。
【0018】
さらに、本発明の多段重合ポリマーエマルジョンは、3段以上の重合工程のうち、少なくとも2つの工程の重合に供されるダイアセトアクリルアミドとエチレン性不飽和モノマーから求められるガラス転移温度Tgが、他の工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるガラス転移温度Tgとは異なることが重要である。
例えば、3段重合の場合、1段目のTg/2段目のTg/3段目のTgの組み合わせとしては、
(1)低Tg/低Tg/高Tg、
(2)高Tg/高Tg/低Tg、
(3)低Tg/高Tg/低Tg、
(4)高Tg/低Tg/低Tg、
(5)高Tg/低Tg/高Tgが挙げられる。
(1)、(3)、(4)の場合、低Tgは−40〜0℃、高Tgは40〜100℃であることが好ましく、低Tgは−30〜−10℃、高Tgは60〜90℃であることがより好ましい。
(2)、(5)の場合、低Tgは−60〜−20℃、高Tgは20〜70℃であることが好ましく、低Tgは−50〜−30℃、高Tgは30〜60℃であることがより好ましい。
また、形成される塗膜のブロッキング性の観点からは、(1)、(5)が好ましく、特に(1)が好ましい。また、(1)の場合、1〜3段の全工程を通じて重合に供されるモノマー100重量%のうち、1段目の工程に供され、低Tgポリマーを形成し得るモノマーは3〜15重量%、2〜3段目の工程に供されるモノマーは残りの85〜97重量%であることが好ましく、2〜3段目の各工程に供されるモノマーはそれぞれ30〜55重量%あることが好ましい。1段目の工程に供されるモノマーが、3重量%未満であったり15重量%を超えたりするといずれの場合も低温造膜性が悪化する傾向にある。
【0019】
尚、本発明にいうTgとは各単量体から形成され得る各ホモポリマーTg、重合に供される各単量体の重量分率から以下の式に基づいて求めることができる。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
Tg :重合体の計算Tg(絶対温度)
Wn :単量体nの重量分率(%)
Tgn:単量体nのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)
【0020】
本発明において用いられるエチレン性不飽和モノマーとしては、一般的にラジカル重合反応に用いることができるものであれば特に制限はない。一例を挙げるとすると、
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル類;
マレイン酸、フマル酸、イタコン酸の各エステル類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、第3級カルボン酸ビニル等のビニルエステル類;
スチレン、ビニルトルエンの如き芳香族ビニル化合物;
ビニルピロリドンの如き複素環式ビニル化合物;
塩化ビニル、アクリロニトリル、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルアミド;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等の如きハロゲン化ビニリデン化合物;
エチレン、プロピレン等の如きα−オレフィン類;
ブタジエンの如きジエン類等がある。
【0021】
又、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無イタコン酸、2−メタクリロイルプロピオン酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーも適宜用いることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0022】
本発明において用いられる多段重合ポリマーエマルジョンは、より具体的にはダイアセトアクリルアミドとその他のエチレン性不飽和モノマーとを0.1〜3/99.9〜97の重量比で重合することが好ましい。
【0023】
さらに本発明の多段重合エマルジョンは、少なくともいずれかの工程においてシランカップリング剤を用いることが耐水性の観点から好ましく、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤を用いることがより好ましい。このようなシランカップリング剤としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基を有するシランカップリング剤が挙げられ、低温造膜性の点からビニル基を有するシランカップリング剤が好ましい。このようなシランカップリング剤は、最終段階の重合の際に使用することが好ましい。
尚、エチレン性不飽和基を有するシランカップリング剤は、本発明にいうエチレン性不飽和モノマーには含めないものとする。
【0024】
乳化剤は、乳化重合で使用されているものであれば如何なるもので用いることができる。代表的なものをあげると、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキル硫酸塩類類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホサクシネートの塩類等のアニオン乳化剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン乳化剤などが挙げられる。勿論、これらに限定されるものではなく、乳化重合時に用いることが出来る乳化剤であれば上記骨格に限定せず、如何なるものでも用いることが出来、また、これらを複数種併用することも可能である。これら乳化剤としては、内分泌攪乱作用物質(環境ホルモン物質)に該当しないものを使用することが好ましい。形成される塗膜の耐水性等の観点より反応性乳化剤が好ましい。
【0025】
反応性乳化剤の具体例としては、ビニルスルホン酸ソーダ、アクリル酸ポリオキシエチレン硫酸アンモニウム、メタクリル酸ポリオキシエチレンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルケニルフェニル硫酸ソーダ、ナトリウムアリルアルキルスルホサクシネート、メタクリル酸ポリオキシプロピレンスルホン酸ソーダ等のアニオン系反応性乳化剤、ポリオキシエチレンアルケニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンメタクリロイルエーテル等のノニオン系反応性乳化剤などが挙げられる。
【0026】
例えば、反応性乳化剤としては、アクアロンHS−10、KH−10、 ニューフロンティアA−229E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープSE−3N、SE−5N、SE−10N、SE−20N、SE−30N〔以上、旭電化工業(株)製〕、AntoxMS−60、MS−2N、RA−1120、RA−2614〔以上、日本乳化剤(株)製〕、エレミノールJS−2、RS−30〔以上、三洋化成工業(株)製〕、ラテムルS−120A、S−180A、S−180〔以上、花王(株)製〕等のアニオン型反応性乳化剤、
アクアロンRN−20、RN−30,RN−50,ニューフロンティアN−177E〔以上、第一工業製薬(株)製〕、アデカリアソープNE−10、NE−20,NE−30、NE−40〔以上、旭電化工業(株)製〕、RMA−564,RMA−568,RMA−1114〔以上、日本乳化剤(株)製〕、NKエステルM−20G、M−40G、M−90G、M−230G〔以上、新中村化学工業(株)製〕等のノニオン型反応性乳化剤等が挙げられ、
非反応性乳化剤としては、1118S−70、エマ−ル10〔花王(株)製〕等が挙げる。これらを複数種併用することも可能である。
尚、反応性乳化剤は、本発明にいうエチレン性不飽和モノマーには含めないものとする。
【0027】
本発明において用いることが出来るラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル及びその塩酸塩、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサド,等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。また、これらラジカル開始剤と併用可能な還元剤としては、ピロ亜硫酸ソーダ、L−アスコルビン酸等が挙げられる。尚、詳細な理由は、まだ不明ではあるが、低温造膜性の観点からは、ラジカル開始剤と還元剤とを併用するレドックス系開始剤ではなく、ラジカル開始剤のみを用いる熱分解系の開始剤が好ましい。
【0028】
本発明において連鎖移動剤を使用する場合は、反応容器中に第1のポリマーエマルジョンと共に仕込んでおくのではなく、第2段目以降のモノマーエマルジョンの添加、重合の際に反応系に存在することが好ましい。第2段目以降のモノマーエマルジョンの重合の際に、連鎖移動剤が反応系に存在することによって、より低温で増膜することができる。例えば第2段目以降のモノマーエマルジョンのいずれかに連鎖移動剤を混合し、混合物を反応系に添加してもよいし、あるいは第2段目以降のモノマーエマルジョンを添加する際に、別途連鎖移動剤を反応系に添加することもできる。
本発明において用いることが出来る連鎖移動剤として、チオグリコ−ル酸、チオグリコ−ル酸オクチル、チオリンゴ酸等のチオ化合物や、メタノ−ル、エタノ−ル、イソプロパノ−ル、ブタノ−ル等の低級アルコールを挙げる事ができる。
これら連鎖移動剤は、全行程にわたって重合に供されるエチレン性不飽和モノマーの全量100重量部に対して0.01〜0.20重量部使用することが重要である。連鎖移動剤が、0.01重量部未満だと低温2℃での造膜性が得られなくなり、0.20重量部よりも多いと低温2℃以下でも造膜はするがブロッキング性の低下となる。
【0029】
本発明において用いることが出来るヒドラジド系化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどの脂肪族ジヒドラジドの他、炭酸ポリヒドラジド、脂肪族、脂環族、芳香族ビスセミカルバジド、芳香族ジカルボン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸のポリヒドラジド、芳香族炭化水素のジヒドラジド、ヒドラジン−ピリジン誘導体およびマレイン酸ジヒドラジドなどの不飽和ジカルボン酸のジヒドラジドなどが挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の部及び%はいずれも重量に基づく値である。
【0031】
実施例1
第1のモノマーエマルジョン
イオン交換水411.5部、スチレン(以後、Stと略す)10.5部、アクリル酸2−エチルヘキシル(以後、2−EHAと略す)54.8部、メタクリル酸メチル(以後、MMAと略す)11.5部、アクリル酸(以後、AAと略す)1.9部,ダイアセトアクリルアミド(以後、DAAmと略す)0.8部、アクアロンKH−10〔第一工業製薬(株)製アニオン性反応性乳化剤〕0.6部をイオン交換水2.4部に溶解させた乳化剤水溶液3部、エマルゲン1118−70をイオン交換水1.03部に0.57部を溶解させた乳化剤水溶液1.6部を混合し、モノマーエマルジョン(a)を作製した。
【0032】
第2のモノマーエマルジョン
また、イオン交換水:162.7部、St:59.6部、2−EHA:310.6部、MMA:65.3部、AA:10.6部,DAAm:4.3部、アクアロンKH−10をイオン交換水33.6部に8.4部溶解させた乳化剤水溶液42部、エマルゲン1118−70をイオン交換水14.4部に8部溶解させた乳化剤水溶液22.4部を混合し、モノマーエマルジョン(b)を作製した。
【0033】
第3のモノマーエマルジョン
更に、イオン交換水191.4部、St:221.9部、MMA:243.2部、アクアロンKH−10をイオン交換水24部に6部溶解させた乳化剤水溶液30部、エマルゲン1118−70をイオン交換水10.3部に5.7部溶解させた乳化剤水溶液16部,を混合し、モノマーエマルジョン(c)を作製した。
【0034】
開始剤水溶液
過硫酸カリウム4部をイオン交換水76部に溶解させることにより、開始剤水溶液を作製した。
【0035】
撹拌機、温度計、冷却装置を取り付けた2.5リットル反応容器にモノマーエマルジョン(a)を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を75℃に昇温した。昇温後、上記開始剤水溶液80部を反応容器内に滴下投入してモノマーエマルジョン(a)の乳化重合を開始させた。
モノマーエマルジョン(a)が反応開始して10分後、反応容器内の液温を75℃に保持しながら、モノマーエマルジョン(b)を100分間かけて滴下した。
モノマーエマルジョン(b)滴下終了30分後、反応容器内の液温を75℃に保持しながら、モノマーエマルジョン(c)を100分間かけて滴下した。
滴下終了後、さらに75℃で2時間保持した後、室温まで冷却し、25%アンモニア水を用いてpHを調整し、ヒドラジド系化合物としてアジピン酸ジヒドラジド(以後、ADHと略す)1.3部を添加して、多段重合によるポリマーエマルジョンを得た。得られたポリマーエマルジョンは、不揮発分50.1%、粘度3300mPa・s、pH7.6であった。
表1に、ポリマーエマルジョンの形成に供された各段階のモノマーから形成され得るポリマーのTg及び[全]Tgの計算値、ポリマーエマルジョンの不揮発分濃度、粘度、pH、並びに2℃における造膜性、最低造膜温度(MFT)、形成された塗膜のブロッキング性、耐水性を示す。
【0036】
実施例2
表1に示すように実施例2はDAAmを第1のモノマーエマルジョンに1.5部、第2のモノマーエマルジョンに8.5部、アンモニア水によるpH調整後にADHを2,5部添加に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーエマルジョンを作製した。
【0037】
実施例3
表1に示すように実施例3はDAAmを第1のモノマーエマルジョンに3部、第2のモノマーエマルジョンに16,8部、アンモニア水によるpH調整後にADHを5部添加に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーエマルジョンを作製した。
【0038】
実施例4
表1に示すように実施例2のモノマーエマルジョン中のDAAmを5部にし,第3のモノマ−エマルジョン中DAAmを3.5部に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマーエマルジョンを作製した。
【0039】
比較例1
第1のモノマーエマルジョン
イオン交換水411.5部、St:10.5部、2−EHA:54.8部、MMA:11.5部、AA:1.9部,アクアロンKH−10をイオン交換水2.4部に0.6部を溶解させた乳化剤水溶液3部、エマルゲン1118−70をイオン交換水1.03部に0.57部を溶解させた乳化剤水溶液1.6部を混合し、モノマーエマルジョン(a)を作製した。
【0040】
第2のモノマーエマルジョン
また、イオン交換水162.7部、St:59.6部、2−EHA:310.6部、MMA:65.3部、AA:10.6部,アクアロンKH−10をイオン交換水33.6部に8.4部溶解させた乳化剤水溶液42部、エマルゲン1118−70をイオン交換水14.4部に8部溶解させた乳化剤水溶液22.4部を混合し、モノマーエマルジョン(b)を作製した。
【0041】
開始剤水溶液
過硫酸カリウム4部をイオン交換水76部に溶解させることにより、開始剤水溶液を作製した。
【0042】
撹拌機、温度計、冷却装置を取り付けた2.5リットル反応容器にモノマーエマルジョン(a)を仕込み、窒素ガスを送入しつつ撹拌しながら反応容器内を75℃に昇温した。昇温後、上記開始剤水溶液80部を反応容器内に滴下投入してモノマーエマルジョン(a)の乳化重合を開始させた。
モノマーエマルジョン(a)が反応開始して10分後、反応容器内の液温を75℃に保持しながら、モノマーエマルジョン(b)を100分間かけて滴下した。
モノマーエマルジョン(b)滴下終了30分後、反応容器内の液温を75℃に保持しながら、モノマーエマルジョン(c)を100分間かけて滴下した。
滴下終了後、さらに75℃で2時間保持した後、室温まで冷却し、25%アンモニア水を用いてpHを調整し、多段重合によるポリマーエマルジョンを得た。得られたポリマーエマルジョンは、不揮発分50.1%、粘度3200mPa・s、pH7.8であった。
表1に、ポリマーエマルジョンの形成に供された各段階のモノマーから形成され得るポリマーのTg及び[全]Tgの計算値、ポリマーエマルジョンの不揮発分濃度、粘度、pH、並びに5℃における造膜性、最低造膜温度(MFT)、形成された塗膜のブロッキング性、耐水性を示す。
【0043】
なお、計算Tg値は、以下の計算式で算出した。
1/Tg=Σ(Wn/Tgn)
Tg :重合体の計算Tg(絶対温度)
Wn :単量体nの重量分率(%)
Tgn:単量体nのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)
【0044】
上記Tg値の算出に用いた単量体のホモポリマーのガラス転移温度(Tgn)は、以下の通りである。
スチレン(St)のホモポリマー :100.0℃
アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)のホモポリマー:−55.3℃
アクリル酸ブチル(BA)のホモポリマー :−45.2℃
メタクリル酸メチル(MMA)のホモポリマー :104.8℃
メタクリル酸(MAA)のホモポリマー :130.0℃
アクリル酸(AA)のホモポリマー :106.0℃
ダイアセトアクリルアミド(DAAm)のホモポリマー : 65.0℃
【0045】
重合安定性の評価:得られた各ポリマーエマルジョンを180メッシュ濾過布でろ過し、濾過布上に残った残滓の乾燥重量を下記の基準で評価した。
○=ポリマーエマルジョン1Kgあたり0.1g未満
△=ポリマーエマルジョン1Kgあたり0.1g以上〜1.0g未満
×=ポリマーエマルジョン1Kgあたり1.0g以上
【0046】
2℃における造膜性:得られた各ポリマーエマルジョンを、ガラス板に6MILの厚さに塗布し、2℃の環境下に16時間静置乾燥し、造膜状態を目視観察した。
○=均一な塗膜が形成できた。
△=塗膜は形成できたが、クラックが生じた。
×=塗膜は形成できず、粉々になった。
【0047】
MFT(最低造膜温度)の測定:JIS−K−6828の試験方法に準じて、得られた各ポリマーエマルジョンをガラス板に0.3mmの厚さに塗布し、これを一方の端を高温に、他の端を低温にした熱板上にのせ、均一な乾燥塗膜を形成し得る最低の温度を求めた。
【0048】
ブロッキング性の評価:得られた各ポリマーエマルジョンをガラス板上に6ミルアプリケータで塗布し、20℃で3日間乾燥させた後、40℃乾燥機中で30分乾燥した。次いで、塗膜表面に新聞紙を乗せ、0.5kg/cm2の荷重をかけ、12時間、50℃の温度環境下で放置した後の新聞紙の付着度を、以下の基準で目視判定した。
○:付着していない
△:少し付着している
×:かなり付着している
【0049】
耐水性の評価:得られた各ポリマーエマルジョンをガラス板に6MILの厚さに塗布し、20℃で6時間乾燥後40℃乾燥幾で30分乾燥し、50℃水に1時間浸漬し、塗膜の状態を目視評価した。
○=白化無し,△=かなり白化,×=全面が著しく白化
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアセトンアクリルアミドを含有する下記エチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合してなる多段重合ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物であって、
重合に供される全エチレン性不飽和モノマーから求められるポリマー全体のガラス転移温度:[全]Tgが10〜30℃であり、
少なくとも2つの工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、他の工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度とは異なり、
反応容器中に仕込んだエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第1のモノマーエマルジョンを重合し、第1のポリマーエマルジョン(A)を得、
次いで該第1のポリマーエマルジョン(A)の存在下に、
エチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第2工程以降のモノマーエマルジョンを順次重合してなることを特徴とする多段重合ポリマーエマルジョン。
【請求項2】
少なくともいずれかの工程において、エチレン性不飽和モノマー中にシランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項1記載の常温硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
全工程にわたるエチレン性不飽和モノマーの全量100重量部に対して0.01〜0.20重量部の連鎖移動剤を使用することを特徴とする請求項1又は2記載の常温硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
重合開始剤が、熱分解系であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の常温硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
最終段階の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、最終段階よりも前の各工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められる各ポリマーの各ガラス転移温度のうち最も高い温度以上であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の常温硬化型樹脂組成物。
【請求項6】
ダイアセトンアクリルアミドを含有する下記エチレン性不飽和モノマーを水性媒体中で3段階以上の工程で乳化重合する多段重合ポリマーエマルジョンとヒドラジド系化合物とを含有する常温硬化型樹脂組成物の製造方法であって、
重合に供される全エチレン性不飽和モノマーから求められるポリマー全体のガラス転移温度:[全]Tgが10〜30℃であり、
少なくとも2つの工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度が、他の工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから求められるポリマーのガラス転移温度とは異なり、
反応容器中に仕込んだエチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第1のモノマーエマルジョンを重合し、第1のポリマーエマルジョン(A)を得、
次いで該第1のポリマーエマルジョン(A)に、
エチレン性不飽和モノマー、乳化剤及び水を含有する第2工程以降のモノマーエマルジョンを順次、添加、重合することを特徴とする常温硬化型樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
多段重合が3段重合であり、第1のモノマーエマルジョン中のエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが−40〜0℃、前記エチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の3〜15重量%、第2工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが−40〜0℃、第2工程のエチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の30〜55重量%であり、第3工程の重合に供されるエチレン性不飽和モノマーから形成され得るポリマーのTgが40〜100℃、第3工程のエチレン性不飽和モノマー量が全エチレン性不飽和モノマー量の30〜55重量%であることを特徴とする請求項6記載の常温硬化型樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−45397(P2006−45397A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230301(P2004−230301)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】