説明

平型導体用電気コネクタ

【課題】ハウジングへの組込み方向の異なる二種の端子を有していながらも、カム部の位置誤差を極力小さく抑制できる平型導体用電気コネクタを提供することを課題とする。
【解決手段】平型導体用電気コネクタにおいて、第二端子30はカムとの当接部位38Aが位置規制部18Bの下縁と同じ位置かこれよりも下方に位置し、第一端子20の当接部位28Aが、第二端子30の当接部位38Aよりも上方向に位置し、可動部材3の第一カム部55と第二カム部56が共通軸線まわりに回動して第一端子と第二端子のそれぞれの上腕部と下腕部に当接する上カム縁55B;56Bと下カム縁55A;56Aとを有し、第一カム部55と第二カム部56のそれぞれの下カム縁55A;56Aは、可動部材3の閉位置への回動の際に下腕部と摺接する摺接範囲における任意の同一角度位置におけるカム半径長さ同士の差が一定して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平型導体用電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
端子が前後方向に延びる上腕部と下腕部とを有し、両者が連結部で連結された横H字状をなしているコネクタが特許文献1に開示されている。この特許文献1では、端子は二種から成っていて、共に横H字状をなし、一種の端子は前方からハウジングへそして他種の端子は後方からハウジングへ組み込まれている。この組込み方向の違いから、回路基板への接続のための接続部をも含めて細部では相違しているが、横H字状をなしている点で両種の端子は基本的に同様の形状である。ハウジングへ組み込まれた状態で、両種の端子の後部側で上腕部と下腕部との間に、接続対象物たるFPCが挿入され、両種の端子の前部側で上腕部と下腕部の間でそれぞれの端子に対応して位置するカム部を有する可動部材(操作部材)を操作することで、カム部が両種の端子の上腕部の前部をもち上げ、梃子の原理で、上腕部が連結部の位置を支点として該上腕部の後部を下方へ弾性変位させる。この端子の後部がその弾性変形により平型導体を下方へ圧して、端子の下腕部の後部との接続を確実にする。
【0003】
このような特許文献1にあっては、可動部材のカム部は、可動部材の操作時に下方からの反力を得て、この反力により該カム部の上縁が両種の端子のいずれに対しても端子の上腕部の前部と直接接触してこれを上方にもち上げる。これに対し、該カムの下縁は、一種の端子に対してはその端子の下腕部を直接圧して上方への反力を得るが、他種の端子に対しては、該他種の端子の下腕部を保持するハウジングを圧して反力を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4279823号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にあっては、可動部材のカム部は、一種の端子に対応して位置するカム部はこの端子のみに当接するが、他種の端子に対応して位置するカム部は上縁で端子にそして下縁でハウジングに当接する。したがって、他種の端子に対応して位置するカム部は、異なる二部材によって上下方向で支持されて位置が決まる。一般に、部材には、製造誤差そして組立誤差を伴う。したがって、このカム部には、上記二部材についての誤差が加重した位置誤差をもつ可能性がある。これは、端子の上腕部前部のもち上げ量についての誤差を大きくし、その結果、上腕部後部での弾性変位量の誤差を大きくしてしまう。この弾性変位量の誤差は、平型導体と端子との接圧について、一種と他種の端子とでは、接圧の差を生ずることにつながる。これは端子と平型導体との接続状態について信頼性を低下させることとなる。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、ハウジングへの組込み方向の異なる二種の端子を有していながらも、可動部材のカム部が、両種の端子について、端子のみと当接することで、カム部の位置誤差を極力小さく抑制することのできる平型導体用電気コネクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る平型導体用電気コネクタは、金属板の平坦な板面を維持して作られていて前後方向に延びる上腕部と下腕部とが前後方向中間部で連結部により連結されている複数の端子と、該端子を該端子の板面に直角な方向で配列して保持する端子溝及び後方に向け開口せる平型導体のための受入開口部が形成されたハウジングと、該受入開口部への平型導体の挿入を可能とする開位置と挿入後の平型導体を上記上腕部で圧する閉位置の間を移動可能な可動部材とを有し、複数の端子は上記端子溝に対し前方側から装着されている第一端子と後方側から装着されている第二端子との二種の端子を有し、少なくとも第二端子が装着される上記端子溝に島状の位置規制部が設けられ、可動部材が開位置にある状態で平型導体が上記受入開口部に挿入され、可動部材が閉位置に移動する際に、該可動部材に形成されているカム部が第一端子と第二端子のそれぞれの上腕部の前部を上方へもち上げて該上腕部の後部を下方へ弾性変位させることにより平型導体を下方へ圧する。
【0008】
かかる平型導体用電気コネクタにおいて、本発明では、第二端子の下腕部は連結部よりも前方部分が上記位置規制部に対応して位置していると共に、カムとの当接部位が上下方向にて該位置規制部の下縁と同じ位置かこれよりも下方に位置しており、
該第一端子の下腕部は連結部よりも前方部分に形成されるカム部との当接部位が、上下方向にて、上記第二端子の当接部位よりも上方向に位置し、可動部材のカム部は端子配列方向で第一端子と第二端子に対応する位置に第一カム部と第二カム部とをそれぞれ有していて、第一カム部と第二カム部が共通軸線まわりに回動して第一端子と第二端子のそれぞれの上腕部と下腕部の前方部分に当接する上カム縁と下カム縁とを有し、上記第一カム部と第二カム部のそれぞれの下カム縁は、可動部材の開位置から閉位置への回動の際に下腕部と摺接する摺接範囲における任意の同一角度位置におけるカム半径長さ同士の差が一定して形成されていることを特徴としている。
【0009】
このような構成の本発明によるコネクタでは、ハウジングに対し、第一端子は前方からそして第二端子は後方からそれぞれ対応する端子溝へ装着される。第二端子用の端子溝には島状の位置規制部が設けられており、該第二端子の上腕部と下腕部を連結する連結部は、前後方向にて、上記位置規制部よりも後方に位置するようになり、すなわち下腕部が連結部よりも前方部分が位置規制部に対応して位置するようになる。この前方部分の上縁に形成されたカムとの当接部位は上記位置規制部の下縁と同じかこれよりも下方に位置する。それ故に、第二端子は、後方からの装着時に、その当接部位を形成している下腕部の前方部分に対して上記位置規制部が障害とならずに、この後方からの第二端子の装着を可能とする。これに対し、第一端子は前方から装着されるので、対応した位置規制部の有無に係らず、第一端子のカムとの当接部位置は上記第二端子の当接部位よりも上方に位置しても一向に構わない。
【0010】
可動部材は、第一端子と第二端子にそれぞれ対応する第一カム部と第二カム部とを有し、両カム部は共通軸線まわりに回動する。したがって、第一カム部と第二カム部の軸線から第一端子と第二端子のそれぞれの当接部位までの距離は、第一端子に対し第二端子では大きくなる。本発明では、この距離の差をもって、第一カム部と第二カム部はそれらの下カム縁でのカム半径の差としたので、摺接範囲では、回動中、上記上カム縁はもとより下カム縁も端子と直接接触するようになる。したがって、カム部の位置に関して、可動部材とハウジング間での製造そして組立誤差を小さくでき、平型導体と端子との間の接圧について二種の端子でのバラツキがなくなり、接触が安定する。
【0011】
これに加えて、本発明では、上述の状況下で、上記カムの軸線を上方に位置させることが可能となり、可動部材の操作部の長さを小さくしても、可動部材が開位置にある状態で、該操作部のハウジング外への上方に向けた突出量を、可動部材の操作性を良好とする大きさに確保しつつも、閉位置でのコネクタの前後方向でのハウジング外への突出量が大きくならず、この閉位置、すなわちコネクタの使用状態での小型化を図れる。
【0012】
本発明において、可動部材は、第一カム部と第二カム部のそれぞれの下カム縁が円弧で形成されているようにすることができる。この場合、第一カム部と第二カム部の下カム縁は、カム半径差をもった同心円の一部として形成されることとなる。本発明では、上記カム半径を有している限り、円弧以外の他の曲線によっても、第一カム部と第二カム部を形成することが可能である。
【0013】
本発明において、端子の下腕部は、第一端子では第一カム部の摺接範囲における下カム縁に沿った凹弯曲部を有し、第二端子では前後方向に延びる直状部を有しているようにすることができる。このように形成された上記凹弯曲部そして直状部が対応する第一カム部そして第二カム部の下カム縁をそれぞれ支持する。このような第一端子での凹弯曲部はカムの抜けを防止し、また第二端子の直状部は第二端子の後方からの挿入を可能とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上のように、前方からそして後方からハウジングへ装着される二種の端子について、平型導体を圧するための可動部材のカム部と当接する当接部位を上記装着を許容するように、高さに差をつけることにしたので、上記カム部を端子のみで支持することが可能となり、その結果、製造誤差そして組立誤差を最小限に留めることができ、端子の平型導体への押圧力にバラツキがなくなり、端子と平型導体との間の接続信頼性が高まることとなった。これに加えて、本発明では、上記カムの軸線を上方に位置させることが可能となり、可動部材の操作部の長さを小さくしても、可動部材が開位置にある状態で、該操作部のハウジング外への上方に向けた突出量を、可動部材の操作性を良好とする大きさに確保しつつも、閉位置でのコネクタの前後方向でのハウジング外への突出量が大きくならず、この閉位置、すなわちコネクタの使用状態での小型化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態としてのコネクタの全体についての外観を示す斜視図である。
【図2】図1コネクタについて、可動部材が開位置における断面図であり、(A)は第一端子、(B)は第二端子そして(C)が金具の位置における図である。
【図3】図1コネクタについて、可動部材が閉位置における断面図であり、(A)は第一端子、(B)は第二端子そして(C)が金具の位置における図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面にもとづき、本発明の一実施形態を説明する。
【0017】
図1において、符号1は本実施形態のコネクタであり、Fがこのコネクタ1に接続される平型導体である。
【0018】
平型導体Fは、その前端部(図にて右上縁部)に上記コネクタ1との接続部分を有し、後方に長く延びているが、図では接続部分のすぐ後方位置までの部分が示されていて、それより後方は図示が省略されている。上記平型導体Fは、本実施形態では、前端部上面の被覆が除去されて接続回路部F1が露呈して接続部分をなしている。この接続部分は、コネクタとの接続時の強度向上のため下面に補強シートF2が施されている。
【0019】
かかる平型導体Fの接続部分には、その幅方向両側縁に切欠部によって被係止部F3が形成されている。この切欠き状の被係止部F3には後述の金具の爪状の係止部が進入して係止して、平型導体Fの抜け防止に寄与する。
【0020】
上記平型導体Fの接続部分における接続回路部F1は、上記幅方向に配列された複数の配線部のそれぞれに形成されたパッドF4が設けられていて、該パッドF4は交互に前後して千鳥状に配置されている。
【0021】
一方コネクタ1は、コネクタ本体2と、該コネクタ本体2により可動に支持されている可動部材3から成っている。
【0022】
コネクタ本体2は、電気絶縁材から作られたハウジング10と、金属板から作られていてハウジング10により保持されている第一端子20及び第二端子30の二種の端子と、これらの端子と同様に金属板から作られていて、ハウジング10により保持されている金具40とを有している。
【0023】
ハウジング10は、上記平型導体Fの幅方向に長く、比較的高さ寸法の小さい略直方体外形を有しており、前後方向に貫通する二種のスリット状の第一端子溝11と第二端子溝12が上記幅方向で交互に形成されている。二種の該第一端子溝11と第二端子溝12には、それぞれ、第一端子20と第二端子30が対応して挿入され保持されており、上記幅方向で端子の配列範囲を形成している。該端子の配列範囲の外側には、金具40を保持させるための金具溝13が端子溝11,12と同様なスリット状に、前後方向に貫通して形成されている。
【0024】
上記第一端子20、第二端子30そして金具40が金属板の平坦な板面を維持して作られている関係上、これらを挿入保持する第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13も、端子配列方向における溝幅が第一端子20、第二端子30そして金具40の板厚にほぼ等しく作られており、図2(A),(B)そして(C)において、紙面に直角な方向を上記溝幅としている。
【0025】
第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13は、それぞれ図2(A),(B)そして(C)に見られるように、ハウジング10の上壁14と底壁15との間で前後方向(図にて右方そして左方)に貫通形成されている。これらの第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13は、それらの後部同士が高さ方向中央位置で、図2の紙面に対して直角方向に延びる連通溝で連通されていて、この連通溝が後方に開口する受入開口部16を形成し、この受入開口部16に平型導体Fの接続部分の導入を可能としている。かくして、第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13は、それらの後部域が上記受入開口部16によって上下に分離形成され、第一端子上部溝11Aと第一端子下部溝11B、第二端子上部溝12Aと第二端子下部溝12B、さらに、金具上部溝13Aと金具下部溝13Bを有するようになる。
【0026】
上記第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13は、それらの前部でも連通している。すなわち、これらの第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13の前部は、上記ハウジング10の底壁15よりも上方に形成された開放空間17により連通されている。したがって、この前部にて上壁14は切り欠かれていて、この開放空間17が可動部材3の配設そして回動を可能としている。上記上壁14は、端子配列方向にて、両端側の金具溝13の位置で、図2(C)にも見られるように、後部でも切欠部分を有していて、ここでの金具40の対応部分の上方への十分な変位を可能としている。
【0027】
上記第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13には、前後方向にて、前部の上記開放空間17と後部の受入開口部16との間に位置する部分に、上下方向で上壁14と底壁15との間で島状に形成された位置規制部18A,18Bそして18Cがそれぞれ設けられていて、各溝の対向内面同士を連結している。上記第二端子溝12と金具溝13に設けられた位置規制部18B,18Cは、互いに前後方向で同位置にあるが、第一端子溝11に設けられた位置規制部18Aよりも前方に位置している。
【0028】
端子配列方向で、上記第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13に対応する底壁15の部分には、後述する第一端子20、第二端子30、そして金具40の固定のための固定部が形成されている。第一端子溝11における固定部19Aは底壁15の前端部がテーパ部をなして形成され、第二端子溝12と金具溝13における固定部19B,19Cは底壁15の後端部がテーパ部をなして形成されている。
【0029】
上記第一端子溝11、第二端子溝12そして金具溝13へそれぞれ挿入されて保持される第一端子20、第二端子30そして金具40は、いずれも、金属板の平坦な板面を維持したまま作られていて略横H字状をなしており、それぞれ、上腕部21;31;41そして下腕部22;32;42を有し、両者は前後方向の中間部に位置する連結部23;33;43で連結されている。第一端子20の連結部23は対応の上記位置規制部18Aよりも前方に位置し、第二端子30と金具40の連結部33;43は、いずれも、対応の位置規制部18B;18Cよりも後方に位置している。
【0030】
第一端子20は、図2(A)に見られるように、上腕部21がハウジング10の前端近くまで延びているが後方には中間部位置にまでしか延びていない。この上腕部21は連結部23よりも前方が受圧腕部24をなし、後方の可撓腕部25から傾斜部を経て上方に位置している。上記受圧腕部24にはその下縁に受圧凹部24Aが形成され、可撓腕部25の後端には下方に向け突出する押圧突部25Aが設けられている。このような上腕部21は、後述の可動部材3から上記受圧凹部24Aが上方への力を受けると、梃子の原理で、連結部23の位置を支点として上記可撓腕部25が下方に向け撓んで傾斜するようになっている。
【0031】
上記第一端子20の下腕部22は、前後方向にて後部が上記上腕部21の可撓腕部25とほぼ同じ位置まで延びているが、前部が上記上腕部21の受圧腕部24よりも前方へ延びその前端がハウジング外に突出している。この下腕部22は連結部23の位置に対して前後して前固定腕部26と後固定腕部27を有している。前固定腕部26は、その前後方向中間部で上方に隆起しているカム支持部28と、前方へ向けハウジング外へ突出している接続部29とを有している。
【0032】
上記カム支持部28は、上縁がハウジング10の島状の位置規制部18Aの下縁よりも上方位置にまで及んでおり、略L字状の上縁でカム当接部位28Aを形成している。該カム当接部位28Aは、前後方向に延びる直縁部分28A−1と角部に形成された円弧状部分28A−2とを有している。該円弧状部分28A−2は、上下方向にて上記直縁部分28A−1よりも若干没している。
【0033】
上記接続部29は、ハウジング10の底壁15の底面より若干下方に位置する下縁を有するように下方に屈曲して延びており、該下縁が回路基板との対応回路面と接面して半田接続を可能としている。この接続部29にはその後縁側に切込溝状の被固定部29Aが形成されていて、該被固定部29Aが既述のハウジング10の底壁15に形成されたテーパ状の固定部19Aへ圧入されて、第一端子20のハウジング10への固定の一役を担っている。
【0034】
上記第一端子20の下腕部22の後固定腕部27は、連結部23の位置から後方に延び上腕部21の押圧突部25Aに対応する位置にまで及んでいる。この後固定腕部27の後端には、上記押圧突部25Aに対向して上方へ突出する接触部27Aが設けられている。さらに、上記後固定腕部27には、前後方向にて上記ハウジング10の位置規制部18Aに対応する位置に、上方へ突出する係止突部27Bが形成されている。
【0035】
このように形成された第一端子20は第一端子溝11へ前方から後方に向けて挿入される。所定位置まで挿入されると、下腕部22の後固定腕部27がハウジング10の底壁15と島状の位置規制部18Aの間を貫通し、後固定腕部27に形成された係止突部27Bが上記位置規制部18Aの下縁に喰い込むと共に、前固定腕部26の被固定部29Aがハウジング10の底壁15の固定部19Aに嵌まり込むことにより固定されて、上記第一端子20の抜けが防止される。
【0036】
第二端子30は、図2(B)に見られるように、上腕部31が前方にハウジング10の前端近くまでそして後方には後端位置にまで延びている。この上腕部31は連結部33よりも前方が受圧腕部34をなし後方が可撓腕部35をなしている。上記受圧腕部34にはその下縁に受圧凹部34Aが形成され、可撓腕部35の後端には下方に向け突出する押圧突部35Aが設けられている。このような上腕部31は、後述の可動部材から上記受圧凹部34Aが上方への力を受けると、梃子の原理で、連結部33の位置を支点として上記可撓腕部35が下方に向け撓んで傾斜するようになっている。
【0037】
上記第二端子30の下腕部32は、前後方向にて前部が上記上腕部31の受圧腕部34とほぼ同じ位置まで延びているが、後部が上記上腕部31の可撓腕部35よりも後方へ延びその後端がハウジング外に突出している。この下腕部32は連結部33の位置に対して前後して前固定腕部36と後固定腕部37を有している。前固定腕部36は、その前部に設けられたカム支持部38を有している。
【0038】
上記前固定腕部36のカム支持部38は、上縁がハウジング10の島状の位置規制部18Bの下縁と同じかそれよりも下方に位置しており、直状縁をなすカム当接部位38Aを形成している。
【0039】
上記前固定腕部36には、前後方向にて、上記カム当接部位38Aと連結部33との間で、上記ハウジング10の位置規制部18Bに対応する位置に、上方へ突出する係止突部36Bが形成されている。
【0040】
上記第二端子30では、上述のごとく、該接続部39は、前後方向で第一端子20とは反対側となる後端部に設けられている。
【0041】
後固定腕部37の後端でハウジング外に突出して設けられた上記接続部39は、ハウジング10の底壁15の底面より若干下方に位置する下縁を有するように下方に屈曲して延びており、該下縁が回路基板との対応回路面と接面して半田接続を可能としている。この接続部39にはその前縁側に切込溝状の被固定部39Aが形成されていて、該被固定部39Aが既述のハウジング10のテーパ状の固定部19Bへ圧入されて第二端子30のハウジング10への固定の一役を担っている。
【0042】
上記第二端子30の下腕部32の後固定腕部37には、上記接続部39より若干前方となる押圧突部35Aに対応する位置に上記押圧突部35Aに対向して上方へ突出する接触部37Aが設けられている。
【0043】
このように形成された第二端子30は、第二端子溝12へ後方から前方に向けて挿入される。所定位置まで挿入されると、下腕部32の前固定腕部36がハウジング10の底壁15と島状の位置規制部18Bの間を貫通し、前固定腕部36に形成された係止突部36Bが上記位置規制部18Bの下縁に喰い込むと共に、後固定腕部37の被固定部39Aがハウジング10の底壁15の固定部19Bに嵌まり込むことにより固定されて、上記第二端子30の抜けが防止される。
【0044】
金具40は、図2(C)に見られるように、第二端子30に類似する形に作られている。第二端子30と比較した場合、相違点は、上腕部41の後端における係止部45Aが第二端子30の押圧突部35Aと同様の形をしているが、より大きく形成されていること、下腕部42の後端に第二端子30の接触部37Aに相当する部位を有していないことである。他は、第二端子30と同様であるので、第二端子30の符号に「10」を加えて、「40」台の符号とすることにより、その説明を省略する。
【0045】
金具40の上記係止部45Aは、大きな鉤状をなして下方へ突出し、前縁が前後方向に対してほぼ直角をなし、後縁が下端に向け斜縁をなしている。該係止部45Aが形成されている上腕部41の可撓腕部45は、後方に向け若干上方に傾いており、挿入される平型導体Fの先端により押圧される上記係止部45Aがさらに上方へ傾くように弾性撓みを生じて、平型導体Fの所定位置までのさらなる挿入を可能としている。ハウジング10の上壁14の既述の後部における切欠部分は、可撓腕部45の上方へのこの弾性撓みを許容している。
【0046】
このように、ハウジング10に対して第一端子20、第二端子30そして金具40が保持されて成るコネクタ本体2には、可動部材3が可動に、本実施形態においては、回動可能に支持されている。
【0047】
この可動部材3は、図1に見られるように、ハウジング10のほぼ全幅にわたり延びる部材としてハウジング10と同様の電気絶縁材で作られている。
【0048】
上記可動部材3は、図2に見られる開位置と図3に見られる閉位置の間を回動可能に支持されている。図2において、可動部材3の回動軸線は該可動部材3の下半部に位置していて、該下半部はハウジング10の前部に形成された開放空間17に収まっている。図2にて、該開放空間17外にあって、ハウジング10の上壁14よりも上方に突出している上半部は、使用者が該可動部材3を回動操作するための操作部51となっている。
【0049】
上記可動部材3の図2における下半部には、可動部材3の幅方向(端子配列方向)で、第一端子20、第二端子30そして金具40に対応する位置に、第一端子20、第二端子30そして金具40のそれぞれの上腕部21;31;41の前部の進入を許容するスリット状の第一溝部52、第二溝部53そして第三溝部54が前後に貫通して形成されている。したがって、これらの第一溝部52、第二溝部53そして第三溝部54の溝幅(紙面に直角方向での溝内面同士幅)は、上記第一端子20、第二端子30そして金具40のそれぞれの板厚よりも若干大きい寸法となっている。上記第一溝部52、第二溝部53そして第三溝部54には、溝内面同士を連結する第一カム部55、第二カム部56そして第三カム部57がそれぞれ設けられている。
【0050】
第一端子20に対応する第一溝部52に設けられた第一カム部55は、図2(A)に見られるごとく、開位置における可動部材3の上記第一溝部52の下部に位置しており、横長な長円断面を有している。該第一カム部55の回動中心Xは、上記長円断面の右側の円弧部の曲率中心上にあって、既述した可動部材3の回動軸線の延長線上に位置している。したがって、上記回動中心Xを一端とし上記円弧部の任意点を他端とする直線がカム半径となる。かくして、該第一カム部55の左右両側の円弧部のうち、回動中心Xが存在する右側の円弧部が下カム縁55Aを、そして左側の円弧部が上カム縁55Bを形成する。下カム縁55Aはカム当接部位28Aと摺接する摺接範囲を形成する。上記上カム縁55Bは、上記第一カム部55が回動中心Xを中心に図3の閉位置まで回動したときには、第一端子20の上腕部21の受圧腕部24をその受圧凹部24Aで上方に圧して弾性変位させるのに十分なだけ下カム縁55Aとの距離をもっている。上記下カム縁55Aは、図2(A)に見られる開位置においてはカム当接部位28Aの没入した円弧状部分28A−2との間に若干の隙間をもっているが、閉位置への回動につれて該円弧状部分28A−2に収まり回動中心Xの位置を安定させている。
【0051】
第二端子30に対応する第二溝部53に設けられた第二カム部56は、図2(B)に見られるごとく、右側に大円弧の下カム縁56Aそして左側に小円弧の上カム縁56Bをもつ略扇型をなしており、回動中心Xは第一カム部55と一致した位置にあり、カム当接部位38Aと摺接する摺接範囲を形成する上記下カム縁56Aの円弧の曲率中心をなしている。上記回動中心Xに対して、カム支持部38のカム当接部位38Aは第一端子20のカム支持部28のカム当接部位28Aの直縁部分28A−1よりも下方に位置しているので、上記カム当接部位38Aに接する下カム縁56Aのカム半径は第一カム部55のカム半径よりも大きく、どの角度位置でも第一カム部55に対して一定のカム半径差を有している。上記第二カム部56の上カム縁56Bは、第一カム部55の上カム縁55Bと同様に、上記第二カム部56が回動中心Xを中心に図3の閉位置まで回動したときには、第二端子30の上腕部の受圧腕部34をその受圧凹部34Aで上方に圧して弾性変位させるのに十分なだけ下カム縁56Aとの距離をもっている。
【0052】
金具40に対応する第三溝部54に設けられた第三カム部57は、図2(C)に見られるごとく、第二溝部53に位置する上述の第二カム部56とほぼ同様に作られており、右側に大円弧の下カム縁57Aそして左側に小円弧の上カム縁57Bをもつ略扇型をなしており、回動中心Xは第一カム部55そして第二カム部56の回動中心と一致した位置にあり、カム当接部位48Aと摺接する摺接範囲を形成する上記下カム縁57Aの円弧の曲率中心をなしている。この回動中心Xに対して、カム支持部48のカム当接部位48Aは、第二カム部56と同様に、第一端子20のカム支持部28のカム当接部位28Aの直縁部分28A−1よりも下方に位置しているので、上記カム当接部位48Aに接する下カム縁57Aのカム半径は第一カム部55のカム半径よりも大きく、どの角度位置でも一定のカム半径差を有している。上記第三カム部57の上カム縁57Bは、第一カム部55の上カム縁55Bと同様に、上記第三カム部57が回動中心Xを中心に図3の閉位置まで回動したときには、金具40の上腕部の受圧腕部44をその受圧凹部44Aで上方に圧して弾性変位させるのに十分なだけ下カム縁57Aとの距離をもっている。
【0053】
このような構成の本実施形態のコネクタは、次の要領で使用されそして機能する。
【0054】
先ず、コネクタ1を回路基板(図示せず)上の所定位置に配し、第一端子の接続部29、第二端子の接続部39へ金具の半田固定部49を回路基板の対応部と半田接続すると共に固定する。
【0055】
このように回路基板に取り付けられたコネクタ1について、可動部材3を図2に見られるように開位置にもたらし、ハウジング10の受入開口部16を後方に向け開口した状態とし、平型導体Fの挿入を可能状態とする。
【0056】
次に、平型導体Fの接続部分を上記受入開口部16内へ前方へ向け挿入する。第一端子20は上腕部21の押圧突部25Aと下腕部22の接触部27Aとの間、第二端子30は上腕部31の押圧突部35Aと下腕部32の接触部37Aとの間がいずれも平型導体Fの上記接続部分の厚みよりも若干広い間隔となっているので、該平型導体Fの接続部分は容易に挿入される。しかし、上記金具40に関しては、該金具40の上腕部41の係止部45Aと下腕部42との間が上記平型導体Fの接続部分の厚みよりも狭い間隔となっているので、平型導体Fはその前端で、上記係止部45Aをもち上げて所定位置まで前進し、平型導体Fの切欠き状の被係止部F3へ上記係止部45Aが入り込み、これにより平型導体Fは、その抜けが防止される。
【0057】
次に、図3に見られるごとく、可動部材3を閉位置まで回動させる。この回動により、可動部材3の第一カム部55、第二カム部56そして第三カム部57は、回動中心Xを中心に回動して、それらの下カム縁55A;56A;57Aが対応する第一端子20、第二端子30そして金具40の当接部位28A;38A;48A上を摺接すると共に、上カム縁55B;56B;57Aが対応する第一端子20、第二端子30そして金具40の受圧凹部24A;34A;44Aを上方に圧する。その結果、第一端子20、第二端子30そして金具40は、それらの上腕部21;31;41の受圧腕部24;34;44がもち上がり、梃子の原理により、可撓腕部25;35;45が下方に撓み、押圧突部25A;35Aが平型導体Fの上面を下方に圧し、また係止部45Aがさらに下方に変位してその位置を維持する。したがって、平型導体Fは所定の接圧をもって、第一端子20そして第二端子30の接触部27A;37Aと接触して電気的に接続がなされ、金具40の係止部45Aにより被係止部F3にて確実に抜けが防止される。
【0058】
本発明では、このようにハウジング10に対して第一端子20が前方からそして第二端子30が後方から組み込まれるコネクタであっても、対応する第一カム部55そして第二カム部56の下カム縁55Aと56Aとを一定半径差をもって設定したので、第一カム部55そして第二カム56は、常時、第一端子20そして第二端子30とそれぞれ直接接触するので、ハウジングを介することによる製造誤差そして組立誤差をなくすことができ、上腕部21;31の変位量の端子同士間でのバラツキがきわめて小さくなり、したがって端子と平型導体との接圧が安定する。また、本発明では、第一端子20では第一カム部55との当接部位28Aが上方に位置し、第二端子30では第二カム部のカム半径が大きく設定されるので、カムの回動中心が上方に位置することができ、可動部材3の操作部51の長さを小さくしても、可動部材が開位置にある状態で、該操作部のハウジング外への上方に向けた突出量を、可動部材の操作性を良好とする大きさに確保しつつも、閉位置でのコネクタの前後方向でのハウジング外への突出量が大きくならず、この閉位置、すなわちコネクタの使用状態での小型化を図れる。
【0059】
本実施形態では、第一カム部55は、図2(A)における開位置状態で、第一端子20の当接部位28Aの円弧状部分28A−2の上端よりも若干下方位置から上方部分となる上方部55Cが下カム縁55A上の円よりも没するように切り込まれていることが好ましい。こうすることにより、第一カム部55が閉位置へ向け回動開始するときに、上記上方部55Cは上記円弧状部分28A−2の上端角部28A−3に引掛かることなく該円弧状部分28A−2の範囲へ円滑に移動できる。
【0060】
本発明では、第一カム部と第二カム部の下カム縁が円弧状に作られていたが、任意の角度におけるカム半径差が一定であれば、他の曲線であってもよい。さらには、下カム縁は、その範囲全体として円弧状あるいは他の曲線を包絡線としていれば良く、該範囲の一部で切り欠かれていてもよい。
【0061】
また、本発明では、平型導体の上面に接続回路部が形成されている場合に対応する際には、第一及び第二端子は下腕部に接触部を有している必要はなく、上腕部の押圧部が接触部を兼ねていて上記接続回路部と接触するようにすることもできる。さらには、下腕部に接触部を有する端子と、上腕部の押圧部が接触部を兼ねている端子とを混合して、いわゆる上下両接点又は、千鳥配置とすることも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 コネクタ 30 第二端子
3 可動部材 31 上腕部
10 ハウジング 32 下腕部
16 受入開口部 33 連結部
18A 位置規制部 38A 当接部位
20 第一端子 55 第一カム部
21 上腕部 55A 下カム縁
22 下腕部 55B 上カム縁
23 連結部 56 第二カム部
28A 当接部位 56A 下カム縁
56B 上カム縁
F 平型導体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の平坦な板面を維持して作られていて前後方向に延びる上腕部と下腕部とが前後方向中間部で連結部により連結されている複数の端子と、該端子を該端子の板面に直角な方向で配列して保持する端子溝及び後方に向け開口せる平型導体のための受入開口部が形成されたハウジングと、該受入開口部への平型導体の挿入を可能とする開位置と挿入後の平型導体を上記上腕部で圧する閉位置の間を移動可能な可動部材とを有し、複数の端子は上記端子溝に対し前方側から装着されている第一端子と後方側から装着されている第二端子との二種の端子を有し、少なくとも第二端子が装着される上記端子溝に島状の位置規制部が設けられ、可動部材が開位置にある状態で平型導体が上記受入開口部に挿入され、可動部材が閉位置に移動する際に、該可動部材に形成されているカム部が第一端子と第二端子のそれぞれの上腕部の前部を上方へもち上げて該上腕部の後部を下方へ弾性変位させることにより平型導体を下方へ圧する平型導体用電気コネクタにおいて、
第二端子の下腕部は連結部よりも前方部分が上記位置規制部に対応して位置していると共に、カムとの当接部位が上下方向にて該位置規制部の下縁と同じ位置かこれよりも下方に位置しており、
該第一端子の下腕部は連結部よりも前方部分に形成されるカム部との当接部位が、上下方向にて、上記第二端子の当接部位よりも上方向に位置し、可動部材のカム部は端子配列方向で第一端子と第二端子に対応する位置に第一カム部と第二カム部とをそれぞれ有していて、第一カム部と第二カム部が共通軸線まわりに回動して第一端子と第二端子のそれぞれの上腕部と下腕部の前方部分に当接する上カム縁と下カム縁とを有し、上記第一カム部と第二カム部のそれぞれの下カム縁は、可動部材の開位置から閉位置への回動の際に下腕部と摺接する摺接範囲における任意の同一角度位置におけるカム半径長さ同士の差が一定して形成されていることを特徴とする平型導体用電気コネクタ。
【請求項2】
可動部材は、第一カム部と第二カム部のそれぞれの下カム縁が円弧で形成されていることとする請求項1に記載の平型導体用電気コネクタ。
【請求項3】
端子の下腕部は、第一端子では第一カム部の摺接範囲における下カム縁に沿った凹弯曲部を有し、第二端子では前後方向に延びる直状部を有していることとする請求項1又は請求項2に記載の平型導体用電気コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−253630(P2011−253630A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124765(P2010−124765)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(390005049)ヒロセ電機株式会社 (383)
【Fターム(参考)】