説明

平面モータ装置

【課題】 スライダが脱調した時の復調に対するずれ角に対して改善を施すと共に、作業の効率化をはかった平面モータ装置を提供する。
【解決手段】 XYステージと、このXYステージ上を移動するスライダと、このスライダのXY方向への移動を制御する制御手段とを備えた平面モータ装置において、前記スライダはX,Y方向の少なくともひとつの方向に2系統で推力を発生させる推力発生手段を有し、正常時には前記2系統推力が同方向に駆動され、脱調時には一方の推力を逆方向に駆動するように構成し、XYステージ上に2個のスライダを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば超精密加工機や検査装置などの被加工物又は原盤を高速で高精度に位置決めする平面モータ装置に関し、格子プラテン上をXY軸方向にスライドするスライダの脱調からの復調を図った平面モータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
格子プラテンと、その上面をXY軸方向にスライドして位置制御されるスライダを有する平面モータ装置の構造に関する技術としては例えば下記のようなものが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−65970号公報
【0004】
図4は上記特許文献1に開示されている平面モータ装置の基本構成を示す斜視図である。図において、10は水平に固定配置された格子プラテンであり、X方向及びY方向に沿って一定ピッチで歯が形成されている。図では簡略のため一部の歯だけを示している。格子プラテンは磁性体の平坦面に格子状に溝を切ることによって形成される。
【0005】
20は、格子プラテン上面をX方向及びY方向にスライドして位置決め制御されるスライダ部であり、この上部にワーク及び位置決めの対象となるターゲット(図示せず)が搭載される。浮揚手段21は、格子プラテン10に対向する裏面にノズルが設けられていて圧縮空気を噴射させることでスライダ20を格子プラテン10上に浮揚させる。
【0006】
31及び32はスライダ部20の上部にX方向に所定距離を持って固定配置された第1のX軸センサ及び第2のX軸センサである。33は同様にスライダ部20の上部に固定配置されたY軸センサである。
【0007】
11は、格子プラテン10のX軸の一端部にX軸に直交して固定配置された所定高さを有するX軸ミラーであり、第1のX軸センサ31及び第2のX軸センサ32と対向する。12は、格子プラテン10のY軸の一端部にY軸に直交して固定配置された所定高さを有するY軸ミラーであり、Y軸センサ33と対向する。
【0008】
第1のX軸センサ31、第2のX軸センサ32及びY軸センサ33は光学的な距離測定装置であり、レーザ光をX軸ミラー11及びY軸ミラー12に照射し反射光を受光し干渉を利用して移動距離を測定することでスライダ部20のX方向及びY方向の位置を測定する。PX1及びPX2は第1のX軸センサ31及び第2のX軸センサ32によるX軸方向距離測定値、PYはY軸センサ33によるY軸方向距離測定値である。
【0009】
ブロック4はXYサーボドライバであり、座標変換手段41,第1X軸ドライバ42,第2X軸ドライバ43,Y軸ドライバ44よりなる。座標変換手段41は、測定値PX1,PX2及びPYを入力し第1X軸ドライバ42に測定座標Xを、第2X軸ドライバ43にヨーイング回転角(Z軸の回転角)θを、Y軸ドライバ44に測定座標Yを出力する。
【0010】
第1X軸ドライバ42は、測定座標Xと上位装置から与えられる目標位置信号SXの偏差を演算してスライダ20に搭載された平面モータで実現されるX1モータに駆動電流MX1を出力する。
【0011】
第2X軸ドライバ43は、ヨーイング回転角θと設定値0°との偏差を演算してスライダ20に搭載されたX2モータに駆動電流MX2を出力する。Y軸ドライバ44は、測定座標Y上位装置から与えられる目標位置信号SYの偏差を演算してスライダ20に搭載されたY1モータ及びY2モータに共通の駆動電流MYを出力する。
【0012】
図5はXYサーボドライバ4を構成する各要素の具体的構成及びスライダ20に搭載されるX1,X2モータ、Y1,Y2モータの配置を説明する機能ブロック図である。座標変換手段41の演算内容は、測定値PX1及びPX2の加算演算で測定座標Xを出力する。測定値PYはそのまま測定座標Yとして出力する。測定値PX1及びPX2の減算値より所定の関数演算でZ軸回転角即ちヨーイング角θを算出して出力する。
【0013】
第1X軸ドライバ42は、目標位置信号SXと測定座標Xとの偏差を入力するX位置速度制御手段421と、その推力指令FX1を受けてスライダ部20のX1モータ51に駆動電流MX1を出力するX1電流制御手段422よりなる。
【0014】
第2X軸ドライバ43は、ヨーイング角θと設定値0°との偏差を入力するθ位置速度制御手段とその推力指令FX2を受けてスライダ部20のX2モータ52に駆動電流MX2を出力するX2電流制御手段422よりなる。
【0015】
Y軸ドライバ44は、目標位置信号SYと測定座標Yとの偏差を入力するY位置速度制御手段441とその推力指令FYを受けてスライダ部20のY1モータ61及びY2モータ62に共通の駆動電流MYを出力するY電流制御手段422よりなる。
【0016】
X位置速度制御手段421の出力は、θ位置速度制御手段431の出力に加算されて推力指令FX2としてX2電流制御手段432に入力される。θ位置速度制御手段431の出力は、X位置速度制御手段421の出力に減算され推力指令FX1としてX1電流制御手段422に入力される。
【0017】
スライダ部20に搭載されるX1,X2,Y1,Y2モータは、中心点Qに対してX1,X2モータ及びY1,Y2モータが互いに対角となるように配置されており、X1モータ及びX2モータについては異なる駆動電流を受けるとQ点を中心にZ軸の周りに回転力を発生し、これがX軸のヨーイング抑制の操作力となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、上記図4,5に示す平面モータ装置において、スライダ20は格子プラテン10上の端部のXY方向に沿って配置されたX軸及びY軸ミラー11,12に平行にスライドするように構成されている。しかしながら、何らかの原因(例えばプラテン上に置き忘れたワークや工具などに衝突して)でスライダ20が脱調し、ミラーに対する平行度が大きくずれてしまうことがあった(正常に動作しているときの角度補正の限界は例えば100角度秒、脱調は例えば±0.3度以上のずれをいうものとする)。
なお、通常、ステッピングモータでいう脱調は電気的な入力に対して回転子の位置が異なることであるが、本発明における脱調とはスライダとプラテンの歯ピッチの相対的な位置がずれることをいう。
【0019】
図6(a,b,c)はスライダ20が脱調した場合の復調方法を示すもので、70はプラテン(図示省略)の端部に配置されたストッパである。
図6(a)に示すようにスライダ20は矢印方向に自走して図6(b)に示すようにストッパに衝突し、図6(c)に示すようにXY方向に沿って配置されたミラーに対する平行度のずれが正常に復帰する(この場合、自走可能な傾きは例えば±1.7度程度である)。
【0020】
しかしながら、このような復調方法においては図6(b)でストッパ70に衝突した際に破損の恐れがある。また、スライダ20が自走可能なずれは1.7度程度なので、例えば図6(d)に示すように1.7度を大きく超えてずれた場合は自動復帰が不可能という問題があった。
また、従来はプラテン10上で一つのスライダ20にワーク(図示省略)を取り付け、そのワークに対して超精密加工機や検査を行い、その後これを取り外して次に加工するワークを取り付けている。そのため効率が悪いという問題があった。
【0021】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたもので、スライダが脱調した時の復調に対するずれ角に対して改善を施すことを第1の目的とし、作業の効率化を図るためにスライダを同一プラテン上に2個設けると共に脱調した場合の復調の改善を図ることを第2の目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の平面モータ装置の発明は、
XYステージと、このXYステージ上を移動するスライダと、このスライダのXY方向への移動を制御する制御手段とを備えた平面モータ装置において、前記スライダはX,Y方向の少なくともひとつの方向に2系統で推力を発生させる推力発生手段を有し、正常時には前記2系統推力が同方向に駆動され、脱調時には一方の推力を逆方向に駆動するように構成したことを特徴とする。
【0023】
請求項2においては、請求項1記載の平面モータ装置において、
XYステージ上に2個のスライダを設けたことを特徴とする。
【0024】
請求項3においては、請求項2に記載の平面モータ装置において、
2個のスライダはそれぞれの作業点を有し、その作業点の位置を交換するように駆動することを特徴とする。
【0025】
請求項4においては、請求項2又は3に記載の平面モータ装置において、
2個のスライダのうち一方のスライダが脱調した場合は2つのスライダを衝突させて脱調したスライダの位置を復調させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば次のような効果がある。
請求項1に記載の発明によれば、
XYステージと、このXYステージ上を移動するスライダと、このスライダのXY方向への移動を制御する制御手段とを備えた平面モータ装置において、前記スライダはX,Y方向の少なくともひとつの方向に2系統で推力を発生させる推力発生手段を有し、正常時には前記2系統推力が同方向に駆動され、脱調時には一方の推力を逆方向に駆動するように構成したので、スライダが脱調した時に所定の角度であれば従来復調不可能であったずれに対しても対応することができる。
【0027】
請求項2,3,4に記載の発明によれば、XYステージ上に2個のスライダを設けたので、作業効率を向上させることができ、一方のスライダが脱調した場合は他のスライダを衝突させて復調させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。図1(a)は本発明に係る平面モータ装置の要部構成図、図1(b)は本発明に用いるスライダ部90のX1,X2,Y1,Y2モータのコアの配列を示す図である。図1(a,b)において、図4,5に示す従来の平面モータ装置と同一要素には同一符号を付している。
【0029】
本発明においては、XYサーボドライバ80内に従来と同様の機能を有する座標変換手段81を設け、更に脱調検出手段82及び第1X軸ドライバ42及び第2X軸ドライバ43の少なくとも一方に方向の異なる推力をステッピングモータモードで発生させるステッピングモータモード電流指令手段83を設けたものである。
【0030】
即ち、従来の座標変換手段41は第1,第2X軸ドライバ42,43に対し同一方向に流れる電流の強さを変化させる信号を発生してスライダのヨーイング角を制御するのみであった。
【0031】
本発明では図1(b)に示すように矩形状に形成されたスライダ部90に対し、中央部に配置されたY1,Y2軸系コア90c,90dを挟んで両辺にX1,X2軸系コア90a,90bが配置されている。このスライダ部90はX1,X2軸系コア90a,90bがY軸ミラー12に対して平行になるように配置される。
【0032】
そして本発明ではスライダのずれが干渉計による検出可能角度を超え、干渉計異常検出手段84およびスライダ角度検出手段85により異常が検出された時に脱調したと判断する。そしてその干渉計異常信号およびスライダ角度信号から脱調角度を判断する。さらにその値を元に復帰のための回転方向や電流の絶対値などが求められ、ステッピングモータモード電流決定手段83から第2X軸ドライバ43に信号を送信する。
【0033】
図2はスライダ90のX1,X2軸系コア90a,90bがそれぞれ逆方向に駆動され、中心点Qに対して異なる方向の力Fx1,Fx2を発生している状態を示している。実験によればスライダ90のずれが3.5度程度の脱調までは自動復帰が可能であり、従来のように自走してストッパ70で復調可能な1.7程度に比較して2倍程度のずれに対しても対応可能となる。
【0034】
図3(a)は格子プラテン10上に第1スライダ90と第2スライダ90’を配置した状態を示すもので、図では省略するがこれらのスライダはそれぞれ図1に示す構成の平面モータ装置と同様の構成となっている。そしてこれらのスライダ90,90’は格子プラテン10上を移動経路に沿って作業点Aから作業点Bに移動する。その移動の速度と経路は図示しない制御手段により制御される。
【0035】
このように、格子プラテン10上に2つのスライダを配置して作業点A,Bを移動させれば、例えば作業点Aにおいて超精密加工機や検査を行い、作業点Bにおいて次に加工するワークを取り付けるようなことが可能となり作業効率を向上させることができる。
【0036】
図3(b)はスライダが何らかの原因(例えばプラテン上に置き忘れたワークや工具などに衝突して)でスライダ90が自力では復調不可能な状態に脱調した場合の復調方法を示すものである。この場合スライダ90’は正常に機能しているものとし、スライダ90は図3(a)に示す移動経路上にあるものとする。
【0037】
この様な場合、第2スライダ90’で脱調した第1スライダ90を押すことにより復調が可能である。この場合、脱調した第2スライダ90のずれ角度が大きいと比較的に小さな力で押せるので従来のようにストッパに衝突させて復調させる場合に比較してスライダの破損を防止することができる。
【0038】
このように本発明による2つのスライダを用いれば作業効率を向上できるだけでなく自力での復調可能角度がおおきくなり、自力での復調が不可能な場合でも正常なスライダを使用することにより復調が可能となる。
【0039】
本発明の以上の説明は、説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。例えば、本実施例ではX軸系コアでY系コアを挟んだスライダを示したがこの配置は逆であってもよく、スライダの位置検出方式はスライダにミラーを搭載し格子プラテンの2辺に距離センサを備えたものであってもよい。
したがって本発明はその本質から逸脱せずに多くの変更、変形をなし得ることは当業者に明らかである。特許請求の範囲の欄の記載により定義される本発明の範囲は、その範囲内の変更、変形を包含するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る平面モータ装置の一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明に係るスライダの脱調からの復調例を示す説明図である。
【図3】スライダを2つ用いた本発明に係る平面モータ装置とスライダ復調例を示す説明図である。
【図4】従来の平面モータ装置の基本構成を示す斜視図である。
【図5】図4に示す従来の平面モータ装置の機能ブロック図である。
【図6】従来の平面モータ装置による脱調スライダの復調方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
4,80 XYサーボドライバ
10 格子プラテン
11 X軸ミラー
12 Y軸ミラー
20,90 スライダ部
21 浮揚手段
31 第1X軸センサ
32 第2X軸センサ
33 Y軸センサ
41,81 座標変換手段
42 第1X軸ドライバ
43 第2X軸ドライバ
44 Y軸ドライバ
82 脱調・脱調角度検出手段
83 ステッピングモータモード電流指令手段
84 干渉計異常検出手段
85 スライダ角度検出手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
XYステージと、このXYステージ上を移動するスライダと、このスライダのXY方向への移動を制御する制御手段とを備えた平面モータ装置において、前記スライダはX,Y方向の少なくともひとつの方向に2系統で推力を発生させる推力発生手段を有し、正常時には前記2系統推力が同方向に駆動され、脱調時には一方の推力を逆方向に駆動するように構成したことを特徴とする平面モータ装置。
【請求項2】
XYステージ上に2個のスライダを設けたことを特徴とする請求項1記載の平面モータ装置。
【請求項3】
2個のスライダはそれぞれ作業点を有し、その作業点の位置を交換するように駆動することを特徴とする請求項2に記載の平面モータ装置。
【請求項4】
2個のスライダのうち一方のスライダが脱調した場合は2つのスライダを衝突させて脱調したスライダの位置を復調させることを特徴とする請求項2又は3に記載の平面モータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−201913(P2006−201913A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11297(P2005−11297)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】