説明

幹細胞因子の産生・放出の抑制による掻痒、肌荒れ、敏感肌及び美白用薬剤

【課題】本発明は皮膚掻痒、肌荒れや敏感肌を改善する、又は美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法及びかかる有効成分を含む各種薬剤の提供を課題とする。
【解決手段】幹細胞因子(SCF)の産生及び/又は放出を抑制することにより皮膚掻痒、肌荒れや敏感肌を改善する、又は美白効果を発揮する生薬有効成分を含んで成る、SCF産生及び/又は抑制皮膚外用剤の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は幹細胞因子(以下「SCF」)の産生及び/又は放出を抑制することにより皮膚掻痒、肌荒れや敏感肌を改善する、又は美白効果を発揮する有効成分のスクリーニング方法、並びにかかる有効成分を含む掻痒、肌荒れ、敏感肌及び/又は美白用薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮膚掻痒、肌荒れ、敏感肌の改善効果や美白効果を有するものとして種々の治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が使用されている。皮膚掻痒、肌荒れ、敏感肌の改善効果を発揮する従来の薬剤や化粧料等においては、有効成分として消炎剤やアミノ酸、多糖、脂質等のほか、抗炎症作用、あるいは高い保湿作用を有する各種動植物エキスが皮膚の痒み、炎症、角質層の水分の消失を防ぐ能力に優れているために用いられてきた。また、美白効果を発揮する従来の薬剤や化粧料等においては、有効成分としてL−アスコルビン酸、グルタチオン、コウジ酸、システイン、ハイドロキノン、胎盤抽出物等がメラニンの生成を抑制してしみ、そばかす等を防ぐのに優れているために用いられてきた。しかしながら、いずれにおいてもその効果は必ずしも十分ではなく、より優れた薬剤の開発が所望されている。
【0003】
SCF(別名:kit ligand [KL]又はmast cell growth factor[MCF])がしみ部位等において発現が亢進していること、紫外線照射によりSCFの発現が亢進することは知られている(L. H. Kligman et al., Photochem. Photobiol. Vol.63, No.2 (1996) pp.123-127)。SCFは角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等において産生されるタンパク質である。SCFの作用としては、未分化造血幹細胞の増殖、生殖細胞の分化促進、肥満細胞の増殖促進、色素細胞の増殖促進作用等がある(Bio Science 用語ライブラリー サイトイカイン・増殖因子 羊土社(1995) 宮園浩平、菅村和夫編)。SCFには膜結合型(SCF−2)と、タンパク質分解酵素の作用により切断された膜から遊離する分泌型(SCF−1)があることが知られている。SCF−2は角化細胞などに結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合して色素細胞の増殖を活性化し、またSCF−1はその切断部位において切断されて細胞膜から遊離し、色素細胞や肥満細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を活性化し、また肥満細胞の増殖活性化及び脱顆粒化をもたらす(T. Kunisada et al., J. Exp. Med., Vol.187, No.10, (1998) pp.1565-1573)。SCFの異常産生は色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、しみ、そばかす、くすみ等の原因となる。また、肥満細胞の異常増殖、異常脱顆粒化にもつながり、ヒスタミン、セロトニン、LTB4等のケミカルメディエーターの遊離を亢進させ(J. Grabbe et el., Arch Dermatol Res (1984) 287:78-84)、掻痒、肌荒れ、敏感肌等の原因となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、このような掻痒、肌荒れ、敏感肌、しみ、そばかす等の直接的な原因と考えられるSCFの産生、放出を効果的に抑制できれば、従来にない全く新たな、且つ一段と有効な掻痒、肌荒れ、敏感肌及び/又は美白用薬剤の提供に結びつくと考えられる。しかしながら、従来技術において、このようなSCF産生、放出の抑制活性をもつ物質又は生薬も、そのような物質又は生薬の効果的なスクリーニグ方法も知られていない。T. Kunisada et al(前掲)はトランスジェニックマウスを利用した動物実験により肥満細胞及び色素細胞に対するSCFの作用を検討している。しかしながら、そのような動物実験の利用は時間及び費用がかさむため、多種多様な生薬、薬剤のスクリーニングには適さず、より簡便且つ廉価にSCF産生、放出の抑制活性をもつ有効成分又は生薬をスクリーニングできる方法が所望されていた。
【0005】
驚くべきことに、本発明者は、ヒト表皮角化細胞に乾燥等の刺激を与えることでSCFの産生又は遊離を促進させることができることを見出し、その結果SCFの産生及び/又は放出を効果的に抑制することができる有効成分を効率的にスクリーニングすることに成功した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、第一の態様において、SCFの産生及び/又は放出を抑制することにより掻痒、肌荒れもしくは敏感肌の改善効果又は美白効果を発揮する有効成分をスクリーニングする方法であって、SCFを発現する細胞を被験成分と接触させ、当該細胞が産生及び/又は放出するSCFの量を測定してSCFの産生及び/又は放出量を減少させる被験成分を前記有効成分として選定する方法の際、当該SCF発現細胞に刺激を与えてSCFの産生及び/又は放出を促進させることを特徴とする方法を提供する。
一の観点において、前記刺激は乾燥刺激、紫外線照射刺激又は薬剤刺激、好ましくは乾燥刺激である。
別の観点において、前記スクリーニング方法は、前記SCF発現細胞を前記被験成分と接触させ、次いで当該細胞に刺激を与え、しかる後に当該細胞が産生及び/又は放出するSCFの量を測定して前記有効成分を選定する方法である。
【0007】
第二の態様において、本発明はバラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキスから成る群から選ばれる1又は複数を含んで成る、SCF産生及び/又は抑制皮膚外用剤を提供する。
【0008】
第三の態様において、本発明はSCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を掻痒改善有効成分として含有する掻痒用皮膚外用剤を提供する。
一の観点において、前記掻痒改善有効成分は、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、チョウジエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、ボウフウエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ショウブ根エキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス及びオトギリソウエキスから成る群から選ばれる1又は複数である。
【0009】
第四の態様において、本発明はSCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を肌荒れ防止有効成分として含有する肌荒れ防止用皮膚外用剤を提供する。
一の観点において、前記肌荒れ防止有効成分はサンザシエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、オノニスエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、カギカズラ、サボンソウエキス及びアルテアエキスから成る群から選ばれる1又は複数である。
【0010】
第五の態様において、本発明はSCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を敏感肌改善有効成分として含有する敏感肌用皮膚外用剤を提供する。
一の観点において、前記敏感肌改善有効成分はバラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、クロレラエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキスから成る群から選ばれる1又は複数である。
【0011】
第六の態様において、本発明はSCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を美白有効成分として含有する美白用皮膚外用剤を提供する。
一の観点において、前記美白有効成分はバラエキスローズ水、オノニスエキス、アセンヤクエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、サボンソウエキス、クロレラエキス及びユーカリエキスから成る群から選ばれる1又は複数である。
【0012】
第七の態様において、本発明はSCFの産生及び/又は放出を抑制することにより掻痒、肌荒れもしくは敏感肌の改善効果又は美白効果を発揮する有効成分をヒト又は哺乳動物の表皮に塗布することを含んで成る、掻痒、肌荒れもしくは敏感肌の改善又は美白方法を提供する。
【0013】
第八の態様において、本発明は紫外線刺激により角化細胞内又は細胞膜上に発現するSCFを抑制する成分を含有する薬剤を提供する。
一の観点において、前記成分はバラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス及びヨモギエキスから成る群から選ばれる1又は複数である。
別の観点において、前記成分はアズキ末、アルニカエキス、オノニスエキス又はアンソッコウエキスである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従って、SCFの産生・放出を生薬を効率的にスクリーニングすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。
【0016】
本願発明は、SCFの産生及び/又は放出を抑制することにより掻痒、肌荒れもしくは敏感肌の改善効果又は美白効果を発揮する有効成分をスクリーニングする方法を提供する。このスクリーニング方法は、SCFを発現する細胞を被験成分と接触させ、当該細胞が産生及び/又は放出するSCFの量を測定してSCFの産生及び/又は放出量を減少させる被験成分を前記有効成分として選定することを含んで成るが、その際、当該SCF発現細胞に刺激を与えてSCFの産生及び/又は放出を促進させることを特徴とする。
【0017】
本発明者はヒト角化細胞のような皮膚細胞に乾燥等の刺激を与えると細胞のSCFの産生及び/又は放出が促進されることを見出した。従って、細胞にこのような刺激を与えることで、掻痒、肌荒れ、敏感肌やしみ、そばかす等の発症に結びつくSCFの異常発現を細胞に対し誘導させることができる。このことを利用し、本発明者はSCFの産生及び/又は放出を抑制する被験成分を細胞に作用させる際、SCFの産生及び/又は放出を促進させる刺激を与えておくことでSCFの発現を亢進させ、SCFの産生及び/又は放出を効果的に抑制できる有効成分を効率的にスクリーニングすることに成功した。このような刺激としては、乾燥刺激の他、紫外線照射刺激、熱刺激(加熱及び冷却)、薬剤刺激(例えば、フォルスコリン、テオフィリン)、浸透圧刺激、酸化刺激等のストレスが挙げられる。
【0018】
本発明に係るスクリーニング方法における細胞の刺激は、細胞に被験成分を作用させる前、同時、又は後であってよい。好ましくは、細胞に被験成分を作用させた後に細胞に刺激を与える。
【0019】
詳しくは、当該スクリーニング方法は、例えば下記のようにして実施することができる。
(1) SCF産生細胞を適当な培養液を用いて培養する(例えば、約25〜37℃、好ましくは約37℃にて数時間〜数日、好ましくは約72時間)。
(2) 被験成分を適当な細胞培養液により所定の濃度(例えば0.0001%-0.01%)に希釈する。
(3) (1)の細胞培養液を上記希釈被験成分と交換し、インキュベーションする(例えば、約25〜37℃、好ましくは約37℃にて数時間〜数日、好ましくは約24時間)。その際、任意的に、コントロールとして、上記被験成分を含まない媒体を同様に作用させた細胞も用意しておく。
(4) 次に、上記被験成分の作用された細胞に刺激を与える。刺激が乾燥刺激の場合、上記細胞培養液の上清液を除去し、乾燥条件下でインキュベーションする。その際、任意的に、コントロールとして、上記刺激を与えない細胞も用意しておく。
(5) 上記刺激を与えた細胞に培地を添加し、インキュベーションする(例えば、約25〜37℃、好ましくは約37℃にて約30分〜4時間、好ましくは約2時間)。
(6) 上記細胞の上清液を回収し、SCFの量を測定し、SCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を選定する。
【0020】
SCFの産生・放出量の抑制は、媒体のみを添加した場合を100%として、被験成分を加えたときにSCF産生量が25%程度の低下したときをもって、抑制とする。ただし、顕著な細胞毒性(例えば、75%程度までの呼吸活性の低下等)の起きない濃度範囲で被験成分を添加するものとする。
【0021】
使用するSCF産生細胞としては、例えばヒト又はその他の哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギ、等に由来する角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞等であってよい。好ましくは、ヒト角化細胞を使用する。
【0022】
上述の通り、刺激には、乾燥刺激、紫外線照射刺激、熱刺激(加熱及び冷却)、薬剤刺激(例えば、フォルスコリン、テオフィリン)、浸透圧刺激、酸化刺激等のストレスが挙げられる。乾燥刺激の場合、例えば細胞をCO2インキュベーター内でCO2約1〜5%、湿度約0〜100%、温度25〜37℃の雰囲気下で培地を除去して適当な時間、例えば約15分〜6時間、好ましくは約1時間放置することで細胞に乾燥刺激を与えてよい。紫外線照射刺激の場合、例えば細胞に約290〜320nm、10〜60 mJ/cm2で紫外線照射することで細胞に刺激を与えてよい。熱刺激の場合、例えば細胞をCO2インキュベーター内でCO2約1〜5%、湿度約0〜100%、温度4〜25℃又は37〜42℃で適当な時間、例えば約5分〜6時間、好ましくは約1時間放置することで細胞に刺激を与えてよい。
【0023】
本発明のスクリーニング方法は好ましくはin vitroで行なわれるが、in vivoで実施することもできる。
【0024】
SCFの測定
本発明において、SCF発現細胞が産生及び/又は放出するSCFの測定は、好ましくは細胞がその培養液の中に放出するSCF又は破砕した細胞や細胞の膜画分に含まれるSCFを定性又は定量測定することにより実施する。測定するSCFは、細胞膜から遊離して細胞培養液に放出される分泌型(SCF−1)でも、細胞の膜画分に含まれる膜結合型(SCF−2)でもよい。SCFの測定は当業界周知の方法、例えば、免疫測定方法、例えば酵素ラベルを利用するELISA法、放射性ラベルを利用するRIA法、抗体と抗原との反応で生ずる濁りの吸光度の変化から抗原量を定量する免疫比濁法、抗原と抗体感作ラテックスビーズもしくは抗体感作赤血球との反応によって生ずる凝集反応の度合いから抗原量を測定するラテックス凝集法や赤血球凝集法等、様々な方法が挙げられる。免疫測定法の方式には競合法やサンドイッチ法が挙げられる。他に、電気泳動法、等電点電気泳動法、クロマトグラフィー法、例えばゲル濾過クロマトグラフィー法、イオン交換クロマトグラフィー法、逆相クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法、ウェスタンブロット法、等により実施することができる。本発明において、好ましくはSCFの測定はELISAにより実施する。
【0025】
上記免疫測定方法において使用するSFCに特異的な抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。モノクローナル抗体が特に好ましい。モノクローナル抗体やポリクローナル抗体の作成は当業者に周知である。
【0026】
本発明者は本発明に係るスクリーニング方法に従い、以下の生薬がSCF産生細胞由来のSCFの量を減少させることができることを見出した:
バラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、アルニカエキス、ボタンエキス、ボダイジュ、クロレラエキス、ローマカミツレエキス、紅茶エキス、ユーカリエキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス、オトギリソウエキス、ヨモギエキス。かかる生薬の詳細については、日本汎用化粧品原料集第4版(薬事日報)を参照されたい。
【0027】
上記生薬エキスは、常法により原料植物から抽出されたもので、抽出法には制限されず、例えば、チョウジエキスであれば、日本薬局方チョウジを乾燥し、細切したもの10kgに、50 v/v % のエタノール(化粧品原料基準、無水エタノール及び同精製水にて調製)を加えて24時間浸漬し、圧搾分離してエキスを得ることにより獲得できる。
【0028】
本発明における掻痒、肌荒れ、敏感肌は、細胞により放出されたSCFが肥満細胞のSCFレセプターに結合することで誘導されたものをいう。掻痒とは広義における皮膚、頭皮の痒みを意味し、例えば乾燥、アトピー性皮膚炎、老人性乾皮症による掻痒等が挙げられる。肌荒れとは広義における肌の劣化した状態を意味し、掻痒による掻破やアトピー性皮膚炎の悪化劣化の結果引き起こされる肌荒れ、乾燥による肌荒れ等が挙げられる。敏感肌とは、被刺激性が亢進した状態の肌を意味し、外界からの非特異的な物理化学的刺激、例えば掻破、温熱、発汗、日光、衣服、付着物等、また精神的ストレス刺激に対して過敏に反応する肌の状態を指す。
本発明における美白効果とは、日焼け、乾燥その他の原因により細胞により放出されたSCFが色素細胞のSCFレセプターに結合することで誘導されるメラニンの過剰生産により引き起こされるしみ、そばかす、くすみ等を改善することを意味する。
【0029】
本発明の掻痒、肌荒れ、敏感肌及び美白用薬剤は、通常、上記SCF産生・放出抑制有効成分を水やエタノール等の水性溶媒に含有させて用いられる。本発明のSCF生産・放出抑制成分の配合量は特に限定されないが、固形分換算で0.00001〜0.01重量%、特に0.0001〜0.005重量%程度の範囲が好ましい。尚、本発明に係る薬剤を入浴剤として調製する場合、使用時に通常100〜1000倍程度に希釈されるので、配合はそれを加味した高濃度で処方されるのが好ましい。上記水性溶媒としては、低級アルコールが好ましく、低級アルコールの含有量は、本発明の薬剤中に、20〜80重量%、さらに好ましくは40〜60重量%である。
【0030】
また、本発明の掻痒、肌荒れ、敏感肌及び美白用薬剤には、上記必須成分以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、その他の美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0031】
その他、薬剤の用途に合わせ、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノイン酸、レチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0032】
本発明の掻痒、肌荒れ、敏感肌及び美白用薬剤は、その用途に合わせ、例えば化粧料、医薬品、医薬部外品等の外用剤、例えば化粧水、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤、軟膏、ヘアーローション、ヘアートニック、ヘアーリキッド、シャンプー、リンス、養毛・育毛剤等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【実施例】
【0033】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
実験例1
乾燥刺激により角化細胞膜から放出されるSCFの測定と抑制薬剤のスクリーニング
市販のヒト表皮角化細胞(新生児;Cryo NHEK-Neo,三光純薬)を、市販の無血清培地(Defined Keratinocyte-SFM,GIBCO社)を用いて培養した。12穴マイクロプレートに1x105 cells/mLで細胞をまいて、コンフルエントになるまで約37℃で約72時間培養した。
水またはエタノールで抽出した図1及び2に示す各生薬エキスを2% w/v となるように70%エタノールに溶解した。
培養液中に終濃度が0.005% w/vとなるように被験生薬エキスを加え、37℃で24時間インキュベートした。コントロールとして、エタノール(EtOH)のみを加えたものもインキュベートした。最後の2時間は細胞の活性を検討するため、即ち被験生薬エキスの細胞障害作用による影響を調べるため、 alamarBlue TM(バイオソース・インターナショナル)を10%となるように添加し、上清の蛍光強度(excitation 560nm, emission 590nm)を測定した。
乾燥刺激として、上清を完全に除去したのちCO2インキュベータ内に1時間放置した。
次いで培地を添加し、その2時間後に上清を回収した。上清中SCF量を市販のELISA法による測定キット(R&D Systems社)で定量した。
乾燥刺激を加えなかったものを対照として、被験生薬エキスのSCF量抑制作用を評価した。
同時に被験生薬エキスの持つ細胞傷害性をalamarBlue TMの還元量を指標に評価した。
【0035】
その結果を図1及び2に示す。図1及び2の(a)は各生薬エキスを添加した場合のalamarBlue TMの還元量を示し、(b)は各生薬エキスを添加し、乾燥刺激を与えた細胞の培地中の遊離SCFの量から、各生薬エキスを添加し、乾燥刺激を与えなかった細胞の培地中の遊離SCFを差し引いた値を示す。図1及び2の結果から明らかな通り、各種生薬エキスはエタノールと比較して培養液中のSCFの量を有意に減少させ、従ってSCFの産生及び/又は放出を効果的に抑制できることがわかった。
【0036】
実験例2
各種刺激による角化細胞膜上でのSCFの発現の亢進
10cmプレートに150万個の角化細胞を播種し、72時間培養した後に、(1)培地をPBS(-)に交換し、UVBを20mJ/cm2で照射し直ちにPBS(-)を培地に交換するか、(2)フォルスコリンを添加する又は(3)テオフォリンを添加して、細胞に刺激を与えた。24時間培養後細胞を回収し、50mMリン酸緩衝液(pH7.8)+プロテアーゼ阻害剤溶液200μlに細胞を拡散した後、超音波破砕機により30秒5回4℃で細胞を破砕した。これを10,000g、20分、4℃で遠心分離し、上清を更に100,000g、60分4℃で遠心分離した。得られたペレットを25mMリン酸緩衝液(pH6.8)+0.1%Triton-X100溶液100μlに溶かして、膜画分タンパク抽出液とした。この溶液のタンパク量を定法により測定し、さらにSCF量を測定して、SCF量/タンパク量の値を得た。
【0037】
その結果を図3及び4に示す。図の結果から明らかな通り、細胞に紫外線刺激、又はフォルスコリンやテオフィリン等の薬剤刺激を与えると、細胞内又は細胞膜上でのSCFの発現が亢進されることが明らかとなった。
【0038】
実験例3
紫外線刺激により角化細胞膜上に発現するSCFの測定と抑制薬剤のスクリーニング
10cmプレートに150万個の角化細胞を播種し、72時間培養した後に、培地をPBS(-)に交換、UVBを20mJ/cm2で照射し、直ちにPBS(-)を培地に交換する。そこにスクリーニング対象生薬を添加し、24時間培養後細胞を回収し、50mMリン酸緩衝液(pH7.8)+プロテアーゼ阻害剤溶液200μlに細胞を拡散した後、超音波破砕機により30秒5回4℃で細胞を破砕した。これを10,000g、20分、4℃で遠心分離し、上清を更に100,000g、60分4℃で遠心分離した。得られたペレットを25mMリン酸緩衝液(pH6.8)+0.1%Triton-X100溶液100μlに溶かして、膜画分タンパク抽出液とした。この溶液のタンパク量を定法により測定し、さらにSCF量を測定して、SCF量/タンパク量の値を得た。この値について、対象薬剤添加群のうち、溶媒のみを添加した群と比べて25%以下に低下せしめる候補生薬を、上記抑制薬剤とする。
【0039】
その結果を図5に示す。図5の結果から明らかな通り、各種生薬エキスで処理された細胞は、紫外線照射のみで処理した細胞と比較してSCFの発現が有意に抑制されたことがわかった。
【0040】
以下に、種々の剤型の本発明による生薬エキス含有薬剤の処方例を列挙する。
実施例1
ボディー用クリーム
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
メチルポリシロキサン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 13
オクタメチルシクロテトラシロキサン 12
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体 1
エタノール 2
イソプロパノール 1
グリセリン 3
ジプロピレングリコール 5
ポリエチレングリコール6000 5
メタリン酸ナトリウム 0.05
DL-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸
ジエステルカリウム 0.1
酢酸DL-α-トコフェロール 0.1
カフェイン 0.1
ウイキョウエキス 0.1
ハマメリスエキス 0.1
人参エキス 0.1
ソウジュツエキス末 0.005
L−メントール 適量
パラオキシ安息香酸エステル 適量
エデト酸3ナトリウム 0.05
ジモルホリノピリダジン 0.01
トリメトキシ桂皮酸メチルビス(トリメチルシロキシ)
シリルイソペンチル 0.1
黄酸化鉄 適量
チタン酸コバルト 適量
ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトライト 1.5
ポリビニルアルコール 0.1
ヒドロキシエチルセルロース 0.1
精製水 残余
トリメチルシロキシケイ酸 2
香料 適量
【0041】
実施例2
乳液
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
メチルポリシロキサン 2
ベヘニルアルコール 1
キシリトール 1
バチルアルコール 0.5
グリセリン 5
1,3−ブチレングリコール 7
エリスリトール 2
硬化油 3
スクワラン 6
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 2
イソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル 1
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン 1
アンソウッコウエキス 0.001
水酸化カリウム 適量
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
フェノキシエタノール 適量
カルボキシビニルポリマー 0.11
精製水 残余
【0042】
実施例3
化粧水
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
グリセリン 2
1,3−ブチレングリコール 4
エリスリトール 1
ポリオキシエチレンメチルグルコシド 1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.5
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
フェノキシエタノール 0.25
N−ヤシ油脂肪酸アシルL−アルギニンエチル・DL−
ピロリドンカルボン酸 0.1
カギカズラ 0.0001
精製水 残余
【0043】
実施例4
美白化粧水
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
エチルアルコール 10
ジプロピレングリコール 1
ポリエチレングリコール1000 1
ポリオキシエチレンメチルグルコシド 1
ホホバ油 0.01
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.2
ジイソステアリン酸ポリグリセリル 0.15
N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム 0.1
クエン酸 0.04
クエン酸ナトリウム 0.18
水酸化カリウム 0.4
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
塩酸アルギニン 0.1
L−アスコルビン酸 2−グルコシド 2
黄金エキス 0.1
雪ノ下エキス 0.1
パラベン 0.12
踊子草エキス 0.1
ジブチルヒドロキシトルエン 0.01
エデト酸3ナトリウム 0.05
パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル 0.01
サボンソウエキス 0.005
精製水 残余
ミネラル水 3
香料 適量
【0044】
実施例5
トリートメント マスク
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
エタノール 10
1,3−ブチレングリコール 6
ポリエチレングリコール4000 2
オリーブ油 1
マカデミアナッツ油 1
ヒドロキシステアリン酸フィトステリル 0.05
乳酸 0.05
乳酸ナトリウム液(50%) 0.2
L−アスコルビン酸硫酸エステル2ナトリウム 0.1
DL-α-トコフェロール 2−L−アスコルビン酸リン酸
ジエステルカリウム 0.1
ビタミンEアセテート 0.1
魚コラーゲン 0.1
コンドロイチン硫酸トリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エステル 0.1
カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2
ポリビニルアルコール 12.5
トラネキサム酸 1
ビャクジュツエキス末 0.001
精製水 残余
香料 適量
【0045】
実施例6
美白エッセンス
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
ワセリン 2
メチルポリシロキサン 2
エチルアルコール 5
ベヘニルアルコール 0.5
バチルアルコール 0.2
グリセリン 7
1,3−ブチレングリコール 5
ポリエチレングリコール20000 0.5
ホホバ油 3
スクワラン 2
ヒドロキシステアリン酸コレステリル 0.5
テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット 1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1
水酸化カリウム 0.1
ピロ亜硫酸ナトリウム 0.01
ヘキサメタリン酸ナトリウム 0.05
グリチルレチン酸ステアリル 0.1
パントテニルエチルエーテル 0.1
アルブチン 7
酢酸トコフェロール 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
ユーカリエキス 0.001
パラオキシ安息香酸エステル 適量
エデト酸3ナトリウム 0.05
4−t−ブチル−4'−メトキシジベンゾイルメタン 0.1
ジパラメトキシ桂皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル 0.1
黄酸化鉄 適量
キサンタンガム 0.1
カルボキシビニルポリマー 0.2
精製水 残余
【0046】
実施例7
掻痒用入浴剤
配合量(重量部)
────────────────────────────────────
流動パラフィン 35
ポリエチレングリコール 20
スクワラン 5
2−エチルヘキサン酸セチル 5
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 5
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.2
グリシン 0.5
ヒアルロン酸ナトリウム 0.3
フェノキシエタノール 0.5
パリエタリアエキス 1
精製水 残余
香料 適量
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】乾燥刺激を与えた細胞に対する各種生薬エキスによるSCFの抑制。
【図2】乾燥刺激を与えた細胞に対する各種生薬エキスによるSCFの抑制。
【図3】紫外線刺激による細胞のSCF発現の亢進。
【図4】薬剤刺激による細胞のSCF発現の亢進。
【図5】紫外線刺激を与えた細胞に対する各種生薬エキスによるSCFの抑制。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敏感肌改善有効成分として、バラエキスローズ水、チャエキス、ホップエキス、サンザシエキス、アズキ末、シラカバエキス、ケイヒエキス、チョウジエキス、クロレラエキス、紅茶エキス、ソウジュツエキス末、ビャクジュツエキス末、ウーロン茶エキス末、オノニスエキス、アセンヤクエキス、ブドウ葉エキス、ボウフウエキス、クワエキス、パリエタリアエキス、アンソッコウエキス、ステビアエキス、ヒノキ、ショウブ根エキス、ダイズエキス、カギカズラ、サボンソウエキス、アルテアエキス及びヨモギエキスから成る群から選ばれる1又は複数のSCFの産生及び/又は放出を抑制する成分を含んで成る、敏感肌用皮膚外用剤。
【請求項2】
請求項1に規定するSCFの産生及び/又は放出を抑制することにより掻痒、肌荒れ又は敏感肌の改善効果を発揮する有効成分をヒト又は哺乳動物の表皮に塗布することを含んで成る、敏感肌の改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102378(P2009−102378A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−460(P2009−460)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【分割の表示】特願2005−308987(P2005−308987)の分割
【原出願日】平成13年12月27日(2001.12.27)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】