説明

幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体

【課題】 高速かつ高精度な幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体を提供する。
【解決手段】 幾何光学的電波伝搬特性解析方法の前処理101において、すべての障害物に少なくとも一本の擬似光線1が衝突する放射離散角度で、送信点201から擬似光線1を放射し、電波伝搬解析処理102を行う。受信点において定められたレベル以上の主要擬似光線の本数104、及び放射方向105を記録装置103に記録する。後処理106において、記録装置103に記録された主要擬似光線の本数104、及び主要擬似光線の放射方向105を読み込み、主要擬似光線の方向105にのみ擬似光線を定められた高密度で放射し電波伝搬解析処理102を実施する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線局から送信された電波伝搬特性を計算し、その結果を出力することを可能にする幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年広く利用されている携帯電話機の様々な使用状態や電波伝搬環境に適応して指向性や偏波を制御できる携帯機用アンテナの開発を行うには、実際の伝搬環境における実効的なアンテナ性能を評価できるシステムが必要となる。このような評価システムとして、従来ランダムフィールド法などの実験的手法が用いられているが、大規模な実験装置や多大な労力が必要という課題がある。その課題に対応するために、計算機によるアンテナ特性評価方法が数多く利用されている。その評価手法の一つとして電磁波を光と同様の特性を持つ波として取り扱う幾何光学的手法を用いるものがあり、その中の代表的な手法としてレイラウンチング法がある。レイラウンチング法は、送信点から擬似光線を放射し受信点に到達する光線を探索することにより、受信点における受信強度を導出する方法であり、擬似光線の振幅が一定強度より下回った場合に計算を停止することにより計算時間を短縮する方法や(例えば、特許文献1)、送信点から送信される光線を空間で分割し、複数のパソコンで計算する方法(例えば、特許文献2)がある。一般的に従来のレイラウンチング法は、送信点から擬似光線を全方位に放射する手法が用いられている。このような従来の手法を用い、送信点から0.2°の放射離散角度で擬似光線を放射した場合、擬似光線は約64万本となり、一般的な計算機において解析に4時間程度要する。
【特許文献1】特開2001−136131号公報
【特許文献2】特開2002−232348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、送信点から放射される擬似光線の受信点までの軌跡を探索する際に、擬似光線が障害物に衝突する度にすべての障害物の中から該当障害物を導出する必要があるため、送信点から全方位に擬似光線を放射する従来のレイラウンチング法を用い、計算精度向上のため送信点からの擬似光線放射離散角度を小さくした場合、計算すべき擬似光線の本数が増大し、これに伴って計算時間も増大するという問題があった。
また、計算に複数の計算機を用いることによる計算高速化の手法は計算コストの増大という問題があった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、計算機によって実際の多重波伝搬環境におけるアンテナ性能評価を高速かつ高精度に実施することが可能である幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体を提供する。OLE_LINK4
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の幾何光学的電波伝搬特性解析方法は、送信点より複数の擬似光線を放射しこの擬似光線が受信点に到達するまでの軌跡を追跡することで所定の電波伝搬モデルにおける送受信点間の伝搬特性を算出する幾何光学的電波伝搬特性解析方法であって、
擬似光線の送信点からの放射離散角度として第1角度と、第1角度より小さい第2角度を定める方法と、
第1角度を放射離散角度として擬似光線を放射し、受信点に到達する擬似光線を探索する方法と、
受信点に到達した擬似光線の中、定められた閾値以上の強度の擬似光線の放射方向を求める方法を備え、
得られた擬似光線の方向を中心として定められた範囲に第2角度を放射離散角度として擬似光線を放射し、再び受信点に到達する擬似光線を探索することを特徴とする構成を有している。
【0006】
この構成により、伝搬特性に影響を与えるレベルが高い擬似光線の放射方向周辺にのみ擬似光線を高密度に放射することができ、高い精度の計算を従来方法と比較し、少ない処理量で実施することが可能となる。
本発明の幾何光学的電波伝搬特性解析方法は、電波伝搬モデルのそれぞれの障害物において、障害物を構成する辺の中、最も短い辺を求める方法と、最も短い辺の両端と、送信点の3点によって形成される三角形において、最も短い辺の対角の角度を求める方法と
電波伝搬モデルに含まれるすべての障害物に対して求めた角度の中で最小角度を求める方法を備え、最小角度を前記第1角度とすること特徴とする構成を有している。
【0007】
この構成により、高いレベルの主要な擬似光線を探索する際に送信点から放射された擬似光線が必ずすべての障害物に衝突し精度の高い主要な到来擬似光線の解析を行うことが可能となる。
【0008】
本発明の何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体は前記幾何光学的電波伝搬特性解析方法を実行するプログラムを記録媒体に格納し前記プログラムを、装置を用いて実行することを特徴とする構成を有している。
【0009】
この構成により、何光学的電波伝搬特性解析方法を計算機システムなどの装置により実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体において、高いレベルの主要な擬似光線の周辺の方向にのみ擬似光線を高密度に放射することにより、従来の全方位に擬似光線を放射する方法と比較して同等以上の計算精度を維持しつつ計算時間を短縮できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施例)
本発明の実施例における幾何光学的電波伝搬特性解析方法について図1から図11までを用いて説明する。
【0012】
幾何光学的電波伝搬特性解析方法は電磁波を光の性質を持つ波と仮定し、送信点から放射された擬似光線が障害物により反射、透過、または回折して受信点に到達する経路を探索することにより、受信点における受信強度を求める。
【0013】
図1は本発明の実施例における幾何光学的電波伝搬特性解析方法の処理の流れを示している。
【0014】
幾何光学的電波伝搬特性解析方法を前処理101と後処理106の2段階に分ける。また、擬似光線放射離散角度決定手段によって、特許請求の範囲における第1角度と、第1角度より値の小さい特許請求の範囲における第2角度を決定する。前処理101は、第1角度を放射離散角度として伝搬解析し、受信レベルの高い主要擬似光線の方向を求める処理と定義する。また、後処理106は、前処理101で得られた主要擬似光線放射方向105に存在する障害物の範囲に、擬似光線放射離散角度決定手段によって設定された第2角度を放射離散角度として擬似光線を放射し伝搬解析する処理と定義する。
【0015】
図2は伝搬環境モデルにおいて、送信点201と障害物(ビル)S−1〜S−Lの位置関係及びそれぞれの障害物に対する少なくとも一本の擬似光線1が衝突する放射離散角度θ1からθを示している。また、図3は送信点101と障害物S−Lとの距離Dis301と障害物S−Lの短辺Width302により擬似光線1が障害物S−Lに少なくとも一本衝突する離散角度Δθ303を求める方法を示している。さらに、(式1)は離散角度Δθ303を距離Dis301と短辺Width302によりそれぞれの放射離散角度Δθ303を求める式を示している。
【数1】

【0016】
図4から図6は本発明の実施例の幾何光学的電波伝搬解析方法のフローチャートを示しており、図4は伝搬解析処理102、図5は前処理101、図6は後処理106を示している。
【0017】
また、図7は図5の処理により記録されるデータ配置を示している。図4、図5、及び図6に示す処理を行うハードウェアは、例えば図8に示すような一般的な計算機システムを用いる。図8に示すようにこのシステムは制御装置801、制御装置801に接続された表示装置802、印刷装置803、入力装置804、記録装置805を備えている。また、脱着可能な記録媒体806を使用することができる。記録装置805、及び記録媒体806には図4、図5、及び図6に示す処理を実行するためプログラムやパラメータなどを記録することができる。
【0018】
以下において、図4、図5、及び図6を用いて本実施例の計算手順を説明する。
【0019】
図4の伝搬解析処理401において、まず、パラメータ入力402に、最大反射回数、閾値、周波数、壁面材質、放射光線数、送信点の位置、アンテナの複素指向性などのパラメータを入力装置804により入力する。壁面方程式導出403においてパラメータ入力402で入力された壁面の形状により方程式を導出し、記録装置に記録する。
【0020】
反射光線方程式導出406において、光線番号aの反射壁面を決定し、反射方程式を導出する。
【0021】
受信球導出407においては、記録装置805より読み込んだ光線番号aの光線の受信点までの距離dを導出し、受信球の半径rを(式2)より求める。
【数2】

【0022】
到達擬似光線探索408において反射光線方程式と受信点を中心とする半径rの球との交点を求めることにより受信点に到達したかを判断し、この処理をループ409により受信点の数繰り返す。そして、ループ410により次の反射点までの擬似光線と受信球の交点を求める。定められた反射回数に到達したら、ループ411により次の光線番号の処理に移行する。
【0023】
位相合成412において、受信点に到達する経路は光線ごとに異なるため、それぞれの光線には位相差や振幅差が生じる。これらの経路が異なる光線の振幅と位相差を考慮して足し合わせる。この処理を位相合成とする。電界強度導出413において位相合成された光線の電界強度を求め、記録装置805に記録する。
【0024】
ループ414において、操作者が設定した数の受信点を移動し同様の処理を行い、結果出力において各々の受信点における受信強度を記録装置805に記録する。
【0025】
前処理101を示す図5の送信点とすべての障害物の位置関係導出502において図2に示すような伝搬モデルに存在するすべての障害物の短辺と、送信点との距離を求め、求めたすべての障害物の短辺と送信点との距離を用い、図3に示すような伝搬距離Dis301とビルの短辺Width302を用いて、障害物に少なくとも一本の擬似光線が衝突する角度の最大角度θ1からθをそれぞれの障害物に対して導出する。具体的には、ビルの短辺Width304の両端の頂点304と頂点305及び送信点101の3点によって形成される3角形において、ビルの短辺Width302の対角の角度を求め、θ1からθLを求める。
【0026】
さらに、第1角度導出503において得られたθ1からθから最小の角度θfirstを導出する。このθfirstは伝搬モデルに存在するすべての障害物に必ず擬似光線が衝突する角度である。伝搬解析処理401において、この角度θfirstをパラメータとして、伝搬解析処理401を実施する。次に、主要擬似光線探索402について図11を用いて説明する。図11はある受信点に到達した擬似光線の各々の到達時間131とそれらの受信レベル132を示した図である。到達擬似光線の中から閾値133以上のレベルの擬似光線を探索し、得られた擬似光線を主要擬似光線134とする。そして、主要擬似光線の放射方向を導出403において、得られた到達擬似光線情報により主要擬似光線放射方向105を極座方形式で求める。
【0027】
ただし、極座標形式は図9に示すようにXYZ座標系において、方位角ΦはX軸からY軸に向かった角度、仰角θはZ軸からXY平面に向かった角度とし、送信点201を中心とした主要擬似光線放射方向105を導出する。
【0028】
次に図6に示す後処理106のパラメータ読み込み601において、記録装置805から前処理101で得られた擬似光線放射方向105を読み込み、後処理106のパラメータとして設定する。そして、図10に示すように主要擬似光線放射方向105とその方向に存在する障害物の送信点から見た方位角φ、仰角θの最大値・最小値、φmin1001、φmax1002、θmin1003、θmax1004を導出し、その範囲を再放射範囲1005と設定し、主要擬似光線の本数104繰り返す。再放射範囲1005において擬似光線を第2角度で放射し、伝搬解析処理401を行い、最終結果導出603において定められた高い精度の伝搬解析結果を出力する。
【0029】
このような本発明の実施例の幾何光学的電波伝搬特性解析方法によれば、電波伝搬特性解析に影響を与える主要な擬似光線の放射方向を予め解析することにより、その主要な擬似光線の方向とその周辺にのみ擬似光線を高密度で放射することができ、従来の送信点から全方向に擬似光線を放射する方法と比較して、少ない計算量で、かつ高精度で伝搬解析を実施可能となる。
【0030】
また、すべての障害物に擬似光線が衝突する角度を、伝搬モデルに存在する障害物の大きさ及び送信点との距離を用いて予め求めることにより、受信点に到達するレベルの高い主要な擬似光線の軌跡をすべて求めることが可能となり、擬似光線放射数決定手段により得られた値を用い、擬似光線を全方位に放射する従来の方法と比較して主要擬似光線放射方向の解析を高い精度で行える。
【0031】
なお、本実施の形態において説明の簡単化のため透過及び回折の計算方法は記載していないが、透過及び回折を考慮に入れた場合も同様に実施可能である。
さらに、上記実施の形態において、障害物が存在する方向を示す極座標形式を図9に示すように、方位角φはX軸からY軸に向かった角度、仰角θはZ軸からXY平面に向かった角度としていたが、方位角、及び仰角を他の軸及び平面を基準として導出した場合においても同様に実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように本発明にかかる幾何光学的電波伝搬特性解析方法および装置ならびに記録媒体は、伝搬解析に影響を与える主要な擬似光線の方向にのみ定められた密度で擬似光線を放射することにより、最小限の計算量で高い計算精度の計算を行うことができるという効果を有し、計算機による幾何光学的電波伝搬特性解析方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の幾何光学的電波伝搬解析方法の計算及びデータの流れを示すブロック図
【図2】送受信点、及び障害物の配置図
【図3】障害物に擬似光線が必ず衝突する角度の最大値を求める際の概念図
【図4】伝搬解析処理のフローチャート
【図5】前処理のフローチャート
【図6】後処理のフローチャート
【図7】前処理で記録されるデータ配置図
【図8】計算機システムの構成図
【図9】擬似光線放射方向概念図
【図10】擬似光線放射方向導出図
【図11】ある受信点における遅延プロファイル特性図
【符号の説明】
【0034】
1 擬似光線
S−1 障害物
S−2 障害物
S−L 障害物
101 前処理
102 電波伝搬解析処理
103 記録装置
104 主要擬似光線本数
105 主要擬似光線放射方向
106 後処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信点より複数の擬似光線を放射しこの擬似光線が受信点に到達するまでの軌跡を追跡することで所定の電波伝搬モデルにおける送受信点間の伝搬特性を算出する幾何光学的電波伝搬特性解析方法であって、
擬似光線の前記送信点からの放射離散角度として第1角度と、前記第1角度より小さい第2角度を定める方法と、
第1角度を放射離散角度として前記擬似光線を放射し、受信点に到達する前記擬似光線を探索する方法と、
受信点に到達した前記擬似光線の中、定められた閾値以上の強度の前記擬似光線の前記送信点からの放射方向を求める方法を備え、
得られた前記擬似光線の方向に前記第2角度を放射離散角度として前記擬似光線を放射し、再び受信点に到達する前記擬似光線を探索することを特徴とする幾何光学的電波伝搬特性解析方法。
【請求項2】
前記電波伝搬モデルのそれぞれの障害物において、前記障害物を構成する辺の中、最も短い辺を求める方法と、
前記最も短い辺の両端と、送信点の3点によって形成される三角形において、前記最も短い辺の対角の角度を求める方法と
前記電波伝搬モデルに含まれるすべての前記障害物に対して求めた前記角度の中で最小角度を求める方法を備え、
前記最小角度を前記第1角度とすることを特徴とした請求項1記載の幾何光学的電波伝搬特性解析方法。
【請求項3】
請求項1から請求項2のいずれかに記載の幾何光学的電波伝搬特性解析方法を実行するプログラム及びプログラムが格納された記録媒体。
【請求項4】
請求項1から請求項2のいずれかに記載の幾何光学的電波伝搬特性解析方法を使用する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−135844(P2006−135844A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324832(P2004−324832)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】