説明

幾何微細凹凸構造の作製方法及びセンサー

【課題】様々なパターンの幾何微細凹凸構造を簡便に作製する方法及びセンサーを提供すること。
【解決手段】基板面に対して略垂直方向に応力を加えることにより基板を延伸する延伸工程と、前記基板の延伸状態を維持したまま前記基板上に表層を形成する表層形成工程と、前記基板の延伸状態を解除することにより該基板の表面に幾何微細凹凸構造を形成する幾何微細凹凸構造形成工程と、を有する方法により、幾何微細凹凸構造を作製する。基板面に対する略垂直方向の応力の大きさによって、あるいは、基板材料、表層材料、表層形成条件等の組み合わせによって、様々なパターンの幾何微細凹凸構造を作製することができるようになる。作製した幾何微細凹凸構造を用いることにより、優れたセンサーを作製できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈現象を利用した幾何微細凹凸構造の作製方法及びセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体、集積回路、印刷用の版等の製造において、周期的な微細凹凸構造のパターニング技術が用いられている。感光性物質を塗布した材料表面に露光してパターン形成するリソグラフィーは、半導体や液晶パネルの基板作製に広く用いられているが、大規模な装置が必要であったり、コストがかかるという問題がある。より簡便な方法として、座屈現象に基づいて微細凹凸構造を形成する方法が知られている。従来知られている方法として、基板となる高分子弾性体上に、硬い薄膜を形成し、そこに側方応力を加える方法がある(特許文献1を参照)。この方法によると、凹凸構造に周期が生じ、その周期は基板と薄膜の材料の弾性率、薄膜の厚み等により制御されている。あるいは、延伸した基板の上に硬い表層を形成し、次いで基板の延伸状態を解除することで周期的な凹凸構造を形成する方法がある(特許文献2を参照)。この方法によると、基板と薄膜の材料の弾性率に加え、延伸時の延伸方向の長さと非延伸時の延伸方向の長さの比により、周期とアスペクト比が制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−201610号公報
【特許文献2】特開2009−96081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法は、半導体や液晶パネルの基板作成への応用を目的としていたため、周期的な凹凸構造が重要であり、一軸方向への応力添加あるいは延伸を行い、これを数回繰り返すことによって凹凸の模様を制御しており、できる模様はストライプかジグザグであった。
【0005】
本発明は、幾何微細凹凸構造として、従来作製可能であったストライプ、ジグザグ模様に加え、さらに複雑なしわ模様まで、様々なパターンを簡便に作製する方法を提供することを目的とする。また、該作製方法によって形成された幾何微細凹凸構造を用いたセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、以下のような本発明を完成するに至った。
【0007】
(1) 基板面に対して略垂直方向に応力を加えることにより基板を延伸する延伸工程と、
前記基板の延伸状態を維持したまま前記基板上に表層を形成する表層形成工程と、
前記基板の延伸状態を解除することにより該基板の表面に幾何微細凹凸構造を形成する幾何微細凹凸構造形成工程と、
を有することを特徴とする幾何微細凹凸構造の作製方法。
【0008】
(2) 前記表層形成工程では、酸素プラズマ処理により前記基板上に表層を形成する(1)記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【0009】
(3) 前記表層形成工程では、金属蒸着により前記基板上に表層を形成する(1)記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【0010】
(4) 前記金属蒸着の金属が銀である(3)記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【0011】
(5) (1)から(4)のいずれかで作製された幾何微細凹凸構造を用いたセンサー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基板面に対する略垂直方向の応力の大きさによって、あるいは、基板材料、表層材料、表層形成条件等の組み合わせを変えることによって、様々なパターンの幾何微細凹凸構造を作製することができるようになる。さらに、該作製方法によって形成された幾何微細凹凸構造を利用すると、優れたセンサーを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】幾何微細凹凸構造を作製するための装置の一例を示す図である。
【図2】作製した幾何微細凹凸構造のSEM観察画像を示す図である。
【図3】作製した幾何微細凹凸構造のSEM観察画像を示す図である。
【図4】作製した幾何微細凹凸構造のSEM観察画像を示す図である。
【図5】作製した幾何微細凹凸構造のSEM観察画像を示す図である。
【図6】作製した幾何微細凹凸構造に4−メルカプトピリジンを吸着させて測定したラマン散乱分析結果を示す図である。
【図7】作製した幾何微細凹凸構造にポリスチレンをスピンコーティングしたSEM観察画像を示す図である。
【図8】作製した幾何微細凹凸構造にポリスチレンをスピンコーティングしたSEM観察画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0015】
本発明の幾何微細凹凸構造の作製方法は、基板面に対して略垂直方向に応力を加えることにより基板を延伸する延伸工程と、前記基板の延伸状態を維持したまま前記基板上に表層を形成する表層形成工程と、前記基板の延伸状態を解除することにより該基板の表面に幾何微細凹凸構造を形成する幾何微細凹凸構造形成工程と、を有することを特徴とする。本発明の方法によれば、基板面に対する略垂直方向の応力を変えることにより、あるいは、基板材料、表層材料、表層形成条件等の組み合わせを変えることにより、様々なパターンの幾何微細凹凸構造を作製することができる。以下、本発明の幾何微細凹凸構造の作製方法の各工程について、詳細に説明する。
【0016】
[延伸工程]
延伸工程は、基板面に対して略垂直方向に応力を加えることにより基板を延伸する工程である。一実施形態を図1を用いて説明する。
基板14を、中心を円状にくりぬいた金属製の基板固定盤上部10と基板固定盤下部11の間に挟み、留めねじ13で固定する。これによって、その後の延伸や表層形成は、延伸部位直径Aの円で露出した部分にのみ施される。基板に略垂直方向に応力を加えるための円柱状のピン12を下方より伸張高さHだけ押し上げることにより、基板を延伸する。延伸状態を解除したときには、ピン直径Bの円の部分にジグザグ模様やしわ模様ができやすく、延伸部位直径Aの円からピン直径Bの円を除いた部分には、ストライプ模様ができやすい。
なお、ピンの先端は平らであれば特に形を限定しないが、円であれば、同心円方向に均一に延伸させることができる。
【0017】
基板に用いる材料は、延伸可能な材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ジフェニルシロキサン等のポリシロキサン系ポリマー、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素化ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメチルハイドロゲンシロキサン、これらのコポリマー、ブレンド等が挙げられる。基板に用いる材料の弾性率は、0.5〜10MPaが好ましい。
【0018】
基板の膜厚は0.3〜20mmが好ましい。0.3mmより薄いと延伸時に破れやすく、20mmより厚いと延伸状態を解除したときに幾何微細凹凸構造を形成しにくい。
【0019】
[表層形成工程]
次の表層形成工程では、前記延伸工程で行った状態を維持したまま、前記基板上に表層を形成する。表層とは、基板の一部であってもよいし、別の材料を薄膜として表面に追加して形成するものでもよい。
【0020】
表層の材料としては、前記基板に用いた材料よりも大きな弾性率を有し、延伸の解除と共に幾何微細凹凸構造を形成できる材料であれば特に限定されず、金属、セラミック、カーボン、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0021】
表層の厚みは1〜50,000nmが好ましい。単層で形成しても、複数積層させてもよい。
【0022】
表層の形成方法は、前記の厚みの表層を形成できれば特に限定されないが、酸素プラズマ、金属スパッタ、金属蒸着等が挙げられる。例えば、基板にPDMS等のポリシロキサン系ポリマーを用いれば、そのまま酸素プラズマ処理をすることにより、基板表面に新しい硬シリカ層を形成することができる。あるいは、基板上に金、銀、アルミニウム、クロム、亜鉛、白金、ニッケル等の金属や、シリカ、酸化チタニウム、酸化亜鉛、フッ化マグネシウム等のセラミックを蒸着して表層を形成してもよい。特に、基板上に銀を蒸着したものは、細かい幾何微細凹凸構造を作りやすい。
【0023】
[幾何微細凹凸構造形成工程]
表層を形成した後、延伸状態を解除する工程で、幾何微細凹凸構造が形成される。延伸状態の解除は、基板面に対し略垂直方向にかけていた応力を排除し、基板を初期状態に戻せばよい。これにより、内部応力が開放され、表面座屈現象が起こり、凹凸構造が得られる。前記図1のようにピンを下方より押し上げていた場合は、延伸工程を行う前の位置までピンを下げることにより応力が排除される。
【0024】
[幾何微細凹凸構造の利用]
前記の方法により得られた幾何微細凹凸構造は、従来の方法により得られた周期的な凹凸構造と同様に、無反射基板を作製したり、溝部分に粒子を並べて転写することにより半導体回路作成に応用したり、金属蒸着した溝の部分に検体を入れてセンサーに利用することができる。あるいは、さらに表面修飾を行えば、超撥水性基板やタンパク質忌避界面の構築等にも利用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
[試験例1]
厚さ5mmのPDMS基板を図1に示した装置の基板固定盤上部10と基板固定盤下部11との間に固定した。図1中の延伸部位直径Aは1.5cm、ピン直径Bは1mmであった。伸張高さHを1mm、2mm、3mmと変えて延伸させた後、10分間酸素プラズマ処理を行った。延伸状態を解除した後、SEMで凹凸構造を観察した。図2に結果を示す。図2において、(a)〜(c)はピン12の先端があたっていた部分を、(d)はピン12の先端から外れた部分の観察結果である。伸張高さHは(a)が1mm、(b)は2mm、(c)(d)は3mmの場合である。図2からわかるように、伸張高さHが高くなるに従って、ピン12の先端があたっていた部分にできる模様は、ジグザグ模様からしわ模様に変化した。ピン12の先端から外れた部分にできる模様は、ストライプ模様となっていた。
【0027】
[試験例2]
厚さ5mmのPDMS基板を試験例1と同様の装置に固定し、試験例1と同じピン12で、伸張高さHを1mm、3mmと変えて延伸し、その後それぞれ酸素プラズマ処理時間を1分、10秒で処理した。延伸状態を解除し、ピン12の先端があたっていた部分についてSEMで凹凸構造を観察した。図3に結果を示す。図3において、(a)は伸張高さHが1mm、酸素プラズマ処理時間が1分の場合、(b)は伸張高さHが1mm、酸素プラズマ処理時間が10秒の場合、(c)は伸張高さHが3mm、酸素プラズマ処理時間が1分の場合、(d)は伸張高さHが3mm、酸素プラズマ処理時間が10秒の場合の結果である。図3からわかるように、酸素プラズマ処理時間は模様の種類に影響を与えないが、処理時間が短い方が、模様が細かく密になった。
【0028】
[試験例3]
厚さ5mmのPDMS基板を試験例1と同様の装置に固定し、ピン直径Bが8mmであるピン12を用いて延伸した。伸張高さHを5mm、8mmと変えて延伸し、その後それぞれ10分間酸素プラズマ処理を行った。延伸状態を解除し、ピン12の先端があたっていた部分についてSEMで凹凸構造を観察した。図4に結果を示す。図4において、(a)は伸張高さHが5mmの場合、(b)は伸張高さHが8mmの場合の結果である。図4からわかるように、伸張高さHが高いほど、ピン12の先端があたっていた部分にできる模様は細かく密になった。
【0029】
[試験例4]
厚さ5mmのPDMS基板を試験例1と同様の装置に固定し、試験例1と同じピン12で延伸した。伸張高さH3mmで延伸後、金又は銀を蒸着した。延伸状態を解除し、ピン12の先端があたっていた部分について、SEMで凹凸構造を観察した。図5に結果を示す。図5において(a)は40nmの厚さに銀蒸着を行った場合、(b)は50nmの厚さに金蒸着を行った場合、を示す。同じ延伸工程を経ていても、金蒸着と銀蒸着ではピン12の先端部分のしわ模様の粗さが異なり、銀蒸着の方が模様が細かく密になった。
【0030】
次に、作製した幾何微細凹凸構造表面のラマン散乱分光分析による分子センシングを検討した。測定物質は4−メルカプトピリジンとした。図5(a)及び(b)の様子を示す表面部分を、4−メルカプトピリジン水溶液(3mmol/L)に浸漬させて自己組織化単分子膜を作製した。He−Neレーザー光(波長785nm)を30秒照射し、その後ラマン散乱光を測定した。比較として、平板ガラス上に金蒸着を施した表面についても同様に4−メルカプトピリジンを吸着させ、測定を行った。結果を図6に示す。(a)は図5(a)の表面の場合、(b)は図5(b)の表面の場合、(c)は平板ガラスに金蒸着を施した表面の場合、の結果である。(a)、(b)のように幾何微細凹凸構造を持つ表面では、特定の波数にシグナルが観測された。特に(a)の銀蒸着を施した密なしわを持つ構造では、ラマン散乱光の強度が著しく増しており、センサーとして優れた材料であることがわかった。
【0031】
[試験例5]
厚さ5mmのPDMS基板を試験例1と同様の装置に固定し、試験例1と同じピン12で延伸した。伸張高さHを1mmで延伸後、5分間酸素プラズマ処理を行った。延伸状態を解除すると、ピン先端があたっていた部分に波長1μm、振幅200nmの周期微細凹凸構造ができた。これに500nmのポリスチレン粒子を2000rpm、30秒のスピンコーティングで塗布し、SEMで観察したところ、図7に示すように、ポリスチレン粒子は、凹凸構造の溝部分に沿って配列する様子が見られた。500nmのポリスチレン粒子の代わりに、188nmのポリスチレン粒子を5000rpm、60秒スピンコーティングで塗布し、同様にSEMで観察すると、図8に示すようにポリスチレン粒子は2層になって配列していた。
【符号の説明】
【0032】
10:基板固定盤上部
11:基板固定盤下部
12:ピン
13:留めねじ
14:基板
A:延伸部位直径
B:ピン直径
H:伸張高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面に対して略垂直方向に応力を加えることにより基板を延伸する延伸工程と、
前記基板の延伸状態を維持したまま前記基板上に表層を形成する表層形成工程と、
前記基板の延伸状態を解除することにより該基板の表面に幾何微細凹凸構造を形成する幾何微細凹凸構造形成工程と、
を有することを特徴とする幾何微細凹凸構造の作製方法。
【請求項2】
前記表層形成工程では、酸素プラズマ処理により前記基板上に表層を形成する請求項1記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【請求項3】
前記表層形成工程では、金属蒸着により前記基板上に表層を形成する請求項1記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【請求項4】
前記金属蒸着の金属が銀である請求項3記載の幾何微細凹凸構造の作製方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかで作製された幾何微細凹凸構造を用いたセンサー。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35197(P2013−35197A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172524(P2011−172524)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 独立行政法人産業技術総合研究所主催「エンジニアリング・ネオバイオミメティクスII」平成23年2月25日開催 社団法人応用物理学会「2011年春季<第58回>応用物理学関係連合講演会予稿集」平成23年3月9日発行 社団法人日本化学会「日本化学会第91春季年会(2011年)講演予稿集」平成23年3月11日発行 社団法人高分子学会「第60回高分子学会年次大会予稿集」平成23年5月10日発行 社団法人日本ゴム協会「2011年年次大会研究発表講演会講演要旨」平成23年5月30日発行 ナノ学会「ナノ学会第9回大会講演予稿集」平成23年6月2日発行 社団法人繊維学会「繊維学会予稿集2011 66巻1号(年次大会)」平成23年6月8日発行 日本経済新聞社「日経産業新聞」平成23年6月9日発行
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】