説明

座屈拘束型軸力負担部材

【課題】鋼製で断面十字形の芯材と4本の山形鋼の拘束材を用いた座屈拘束型の軸力負担部材において、特別な部材を付加することなく、局部座屈に対して十分な拘束効果を発揮でき、芯材のエネルギー吸収能力を100%使用できるようにする。
【解決手段】断面十字形の芯材鋼板2の材軸方向の中間部に降伏部2Aを設け、両端部に構造物への取付部2Bを設け、断面十字形の降伏部2Aに4本の山形鋼の拘束材3を断面十字状に組み付け、芯材鋼板2の各片を挟む一対の拘束材3同士をスペーサー4とボルト5・ナット6で接合してなる座屈拘束型の軸力負担部材1において、拘束材3の板厚TaをTa≧0.4×Tcとし、かつ、拘束材3を組み立てるボルトのピッチpをp≦50×Tc(Tc:芯材の板厚)とすることにより、地震等の外力により芯材が伸縮変形する際、圧縮時に座屈せずに降伏変形できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に組み込まれ、芯材の降伏変形により、構造物の損傷を制御し、あるいは振動エネルギーの吸収を行う座屈拘束型の軸力負担部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
座屈拘束型の軸力負担部材は、降伏をする部分を限定し、構造物において損傷を制御する場合に使用される。また、降伏変形により構造物に入力するエネルギーの吸収を行う。例えば、建築物にブレースとして使用し、地震による建築物の振動エネルギーを吸収する。
【0003】
このような座屈拘束型の軸力負担部材は、降伏を想定する部分が引張時及び圧縮時に十分に降伏変形することができるように芯材を拘束材によって拘束し、実際には圧縮時に芯材が座屈することを防止している。
【0004】
この種の座屈拘束型の軸力負担部材は、従来から種々の形式のものが開発されており、例えば、芯材の周囲に鋼管を配し、鋼管内にコンクリートを充填したもの、小径化や軽量化を図るべく、座屈拘束材として各種形鋼を用い、鋼製の芯材を鋼材のみで座屈拘束したものなどがある。後者の鋼製の芯材と鋼製の座屈拘束材を用いたものは、鋼製の芯材を断面十字形とし、山形形状の鋼材(以下、単に山形鋼という)を芯材の四方から組み付け、山形鋼同士をボルトで接合する構造の軸力負担部材が製品化されている。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、例えば特許文献1、2がある。特許文献1の発明は、制震ブレース等に用いられる座屈補剛部材であり、角形鋼管の補剛管内に軸力材である極軟鋼の平鋼を角形鋼管の対角線に沿って挿入し、この平鋼の両端に継手板と2枚のスチフナを断面十字形となるように接続したものである。特許文献2の発明は、座屈拘束ブレースであり、平鋼板からなる芯材の軸方向両端に補強鋼板を重ね合せて増厚部を形成し、平鋼板を用いて隅肉溶接で組み立てた断面長方形状の座屈拘束材で芯材を覆い、この座屈拘束材と芯材との間にシート状の緩衝材を配置したものである。
【特許文献1】特開2000−144930号公報
【特許文献2】特開2000−27293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼製で断面十字形の芯材と4本の山形鋼の座屈拘束材を用いた座屈拘束型の軸力負担部材の各部品の寸法等の構成を決定するためには、以下の2点の検討が必要になる。即ち、
(a)図3(a)に示す全体座屈を起さないように座屈を拘束しているか、(b)板要素が図3(b)に示す局部座屈を起さないように拘束しているか、である。
【0007】
全体座屈については、オイラー座屈式又は座屈曲線などを利用して設計が可能である。局部座屈については、不明な部分が多く、一般的な設計式では、設計が不可能であるという問題がある。
【0008】
本発明は、前述のような問題の解決を図ったものであり、鋼製で断面十字形の芯材と4本の山形鋼の拘束材を用いた座屈拘束型の軸力負担部材において、特別な部材を付加することなく、局部座屈に対して十分な拘束効果を発揮することができ、芯材のエネルギー吸収能力を大幅に向上させることができる座屈拘束型の軸力負担部材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る座屈拘束型軸力負担部材は、軸力を負担する鋼製で断面十字形の芯材の各片を鋼製で断面山形の拘束材(山形鋼)で挟み、拘束材同士をボルトで接合して拘束材を芯材に組み付けることにより、芯材の座屈を拘束する座屈拘束型軸力負担部材において、芯材の板厚をTc(mm)としたとき、拘束材の板厚Ta(mm)が(1)式を満たし、かつ、拘束材を組み立てるボルトのピッチp(mm)が(2)式を満たすように構成したことを特徴とするものである。
【0010】
Ta≧0.4×Tc …(1)
p≦50×Tc …(2)
本発明は、例えば図1に示すように、断面十字形の芯材鋼板の材軸方向の中間部に降伏部を設け、両端部に構造物への取付部を設け、断面十字形の降伏部に4本の山形鋼の拘束材を断面十字状に組み付け、芯材鋼板の各片を挟む一対の山形鋼同士をスペーサーとボルト・ナットで接合してなる座屈拘束型の軸力負担部材において、芯材が局部座屈を起さない拘束材のパラメータ(寸法等)を見出したものである。なお、本発明において「山形鋼」とは、圧延山形鋼、鋼板を溶接組等により山形形状にしたもの、鋼板をプレス成形により山形形状としたもの、その他の断面山形の鋼材を含むものである。
【0011】
山形鋼拘束材の板厚Taを(1)式の右辺の下限値よりも大きくし(下限値を含む)、かつ、山形鋼拘束材の組立てボルトピッチpを(2)式の右辺の上限値よりも小さくする(上限値を含む)ことにより、地震等の外力により芯材が伸縮変形する際、圧縮時に座屈せずに降伏変形し、芯材のエネルギー吸収能力を100%使用することができる(図2、後述の表1参照)。なお、十分な安全性を考慮して拘束材を設定する場合、板厚Taを(1)式の下限値よりも十分に大きくし、かつ、ボルトピッチpを(2)式の上限値よりも十分に小さくすればよいが、極端に板厚Taを大きくし、ボルトピッチpを小さくすると、材料増や加工増で非常に不経済となる。
【0012】
本発明の請求項2に係る座屈拘束型軸力負担部材は、請求項1に記載の座屈拘束型軸力負担部材において、芯材の降伏点または耐力が80N/mm以上445N/mm以下であり、拘束材の降伏点または耐力が235N/mm以上であることを特徴とするものである。
【0013】
即ち、芯材鋼板には、建築構造用低降伏点鋼材(LY鋼)や建築構造用熱間圧延鋼材(SN鋼)を用いるのが好ましい(後述の表1参照)。規格で規定されている降伏点の下限値は、LY100で80N/mm、SN490Bで325N/mmである。LY100からSN490B以上のものまで用いることができる。山形鋼拘束材には、一般構造用圧延鋼材(SS鋼)を用いるのが好ましい。規格で規定される降伏点の下限値は、SS400で235N/mmである。SS400以上のものを用いる。
【発明の効果】
【0014】
(1) 鋼製で断面十字形の芯材と4本の山形鋼の拘束材を用いた座屈拘束型の軸力負担部材において、拘束材の板厚TaをTa≧0.4×Tcとし、かつ、拘束材を組み立てるボルトのピッチpをp≦50×Tc(Tc:芯材の板厚)とすることにより、地震等の外力により芯材が伸縮変形する際、圧縮時に座屈せずに降伏変形し、芯材のエネルギー吸収能力を100%使用することができ、エネルギー吸収効率が高く安全性に優れた座屈拘束型の軸力負担部材を得ることができる。
【0015】
(2) 特別な部材を付加することなく、拘束材の板厚やボルトピッチを設定するだけでよいため、エネルギー吸収効率が高く安全性に優れた座屈拘束型の軸力負担部材を低コストで製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。図1は、本発明の座屈拘束型軸力負担部材の一実施形態を示す断面図、分解斜視図、組立斜視図である。
【0017】
図1において、本発明の座屈拘束型軸力負担部材1は、軸力を負担する鋼製で断面十字形の芯材2と、軸力により降伏変形する芯材2を拘束して圧縮時の座屈を防止する鋼製で断面山形の4本の拘束材3と、芯材2を挟む一対の拘束材3同士をスペーサー4を介して接合するボルト5及びナット6と、芯材2と拘束材3との間に配置される緩衝材7から構成されている。
【0018】
芯材2は、所定長さの鋼板が用いられ、一枚の鋼板の両面中央にそれぞれ鋼板を垂直に溶接等で接合して断面十字状に組み立てられ、材軸方向の中央部の外径を所定長さにわたって小さくすることにより、軸力で降伏変形する降伏部2Aが形成され、両端部には柱梁等の構造部材への取付部2Bが形成される。
【0019】
拘束材3は、山形鋼(アングル材)が用いられ、断面十字形の芯材2の4つの隅部に配置され、芯材2の4つの片をそれぞれ挟むように断面十字状に組み付けられ、引張時と圧縮時に降伏変形する芯材2の降伏部2Aを拘束し、圧縮時には芯材2の降伏部2Aの座屈を防止する。
【0020】
この拘束材3は、降伏部2Aの全体と取付部2Bの一部を覆う長さとされ、狭幅の降伏部2Aの隙間をフラットバー等のスペーサー4で埋め、隣り合う一対の拘束材3同士でスペーサー4及び取付部2Bを挟み、材軸方向に所定のピッチpで配置されたボルト5及びナット6で固定する。拘束材3、スペーサー4、取付部2Bには、ボルト5が挿通されるボルト孔8が設けられている。拘束材3の一端部における取付部2B位置のボルト孔8は材軸方向に長い長孔8aとされ、芯材2の伸縮変形に対応できるようにされている。
【0021】
緩衝材7は、ゴム製等のシートが用いられ、降伏部2Aに配置される。この緩衝材7は、鋼材同士が直接接触しないようにし、また容易に変形することを利用して芯材2から拘束材3への荷重の伝達を軽減するものである。これに限らず、摩擦係数の小さい材質からなるスライディング板を用い、摩擦を低減してスライドが容易となるようにしてもよいし、また高分子系などの粘弾性体を用い、この粘弾性体の変形で振動エネルギーを吸収することもできる。
【0022】
以上のような構成の座屈拘束型軸力負担部材1を構造物の柱梁架構等に組み込み、地震等により外力が作用すると、芯材2の降伏部2Aが、4本の拘束材3をガイドとし、引張りにより材軸方向に伸び、圧縮により材軸方向に縮む。圧縮時には、4本の拘束材3により芯材2が拘束され、芯材2の座屈が防止される。
【0023】
この座屈拘束型軸力負担部材1について疲労試験を実施した結果を表1に示す。エネルギー吸収部材として使用することを主目的としているため、疲労試験を実施したものであり、芯材のエネルギー吸収能力を100%使用するためには、試験体の破壊モードは、座屈せずに芯材の破断であることが必要である。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の試験結果より、下記の(1)式または(2)式を満たさない拘束材は芯材が座屈しており、(1)式及び(2)式を同時に満足する拘束材を使用することで、安定的に芯材を拘束できることが確認できる。
Ta≧0.4×Tc …(1)
p≦50×Tc …(2)
Ta:拘束材の板厚
p :拘束材を組み立てるボルトのピッチ
Tc:芯材の板厚
このとき使用している鋼材は、芯材については、規格で規定されている降伏点の下限値で80N/mm(LY100)より325N/mm(SN490B)までである。拘束材については、規格で規定される降伏点の下限値で235N/mm(SS400)である。
【0026】
なお、十分な安全性を考慮して拘束材を設定する場合にあっては、
Ta≧0.6×Tc …(3)
p≦40×Tc …(4)
程度とすることが望ましい。
【0027】
また、本発明と無関係に、Taを厚くした場合(Ta>2×Tc)や、pを小さくした場合(P<5×Tc)にあっては、安全ではあるが、材料増や加工増を伴うため、非常に不経済な結果となる。
【0028】
図2は、表1の試験結果をグラフに表示したものである。この図2において、拘束材の板厚Taとボルトピッチpの(1)式、(2)式の条件を2つとも満足するものを白丸印で示している。これは、試験で良好な破壊性状のもの(芯材の破断で疲労試験を終了したもの)と一致している。また、拘束材の板厚Taの条件を満足しないものを黒三角印で示している。この試験体は試験中に芯材に座屈が生じている。また、ボルトピッチpの条件を満足しないものを黒四角印で示している。この試験体も試験中に芯材の座屈が生じている。
【0029】
図2において条件の境界線と比較するに当たっては、図2(a)の「TcとTaの関係」においては、白丸印と黒三角印に着目すればよく(黒四角印はボルトピッチの条件を満たさず座屈しているため除外することができる)、図2(b)の「Tcとpの関係」においては、白丸印と黒四角印に着目すればよい(黒三角印は拘束材の板厚の条件を満たさず座屈しているため除外することができる)。
【0030】
拘束材の満足する条件を図2のグラフ上の範囲で考えれば、図2(a)の「TcとTaの関係」においては、境界線(実線)よりも上側であり、かつ、図2(b)の「Tcとpの関係」においては、境界線(実線)よりも下側であることが必要であるといえる。また、それぞれのグラフでは、十分な安全性を考慮する場合の境界線を破線で表記している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る座屈拘束型軸力負担部材の一実施形態であり、(a)は断面図、(b)は分解斜視図、(c)は組立斜視図である。
【図2】本発明に係る座屈拘束型軸力負担部材の疲労試験の結果であり、(a)はTcとTaの関係を示すグラフ、(b)はTcとpの関係を示すグラフである。
【図3】座屈拘束型軸力負担部材における芯材の座屈を示す図であり、(a)は全体座屈、(b)は局部座屈である。
【符号の説明】
【0032】
1…座屈拘束型軸力負担部材
2…芯材
2A…降伏部
2B…取付部
3…拘束材(山形鋼)
4…スペーサー
5…ボルト
6…ナット
7…緩衝材
8…ボルト孔
8a…長孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸力を負担する鋼製で断面十字形の芯材の各片を鋼製で断面山形の拘束材で挟み、拘束材同士をボルトで接合して拘束材を芯材に組み付けることにより、芯材の座屈を拘束する座屈拘束型軸力負担部材において、
芯材の板厚をTcとしたとき、拘束材の板厚Taが
Ta≧0.4×Tc
であり、かつ、拘束材を組み立てるボルトのピッチpが
p≦50×Tc
であることを特徴とする座屈拘束型軸力負担部材。
【請求項2】
請求項1に記載の座屈拘束型軸力負担部材において、芯材の降伏点または耐力が80N/mm以上445N/mm以下であり、拘束材の降伏点または耐力が235N/mm以上であることを特徴とする座屈拘束型軸力負担部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−328688(P2006−328688A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150777(P2005−150777)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000182993)住金関西工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】