説明

座標測定機を校正するための方法

座標測定機を校正するために既知特性の基準測定対象が用意される。基準測定対象で多数の基準測定値が記録される。基準測定値と基準測定対象の既知特性とに基づいて校正データが判定され、校正データは少なくとも1つの多項式変換に基づいて非線形測定誤差を修正するように形成された第1数の多項式係数を含む。本発明の一態様によれば、第1数の多項式係数が反復法で僅かな数の第2数に減らされ、多数の対の多項式係数が形成され、一対の多項式係数の間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、前記対の各一方の多項式係数が消去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標測定機を校正するための方法であって、
‐既知特性の基準測定対象を座標測定機の測定体積内に用意するステップと、
‐基準測定対象で多数の基準測定値を記録するステップと、
‐基準測定値と既知特性とに基づいて校正データを判定するステップとを含み、
‐校正データが、少なくとも1つの多項式変換に基づいて座標測定機の非線形測定誤差を修正するように形成された第1数の多項式係数を含むものに関する。
【0002】
本発明はさらに、測定対象用ベースと、測定対象の位置依存測定値を生成するためのセンサと、このセンサを制御し、かつ、測定値を処理するための評価兼制御ユニットと、を有する座標測定機であって、評価兼制御ユニットが既知特性の基準測定対象を頼りに校正データを判定するように形成されており、校正データが、少なくとも1つの多項式変換に基づいて座標測定機の非線形測定誤差を修正するように形成された、若干数の多項式係数を含むものに関する。
【背景技術】
【0003】
この種の方法および座標測定機は、基本的に欧州特許第1051596号明細書により公知であるが、しかしながら、この刊行物は座標測定機の構成を詳細には開示していない。
【0004】
本発明が意味する座標測定機は、測定対象に対して相対的に移動可能な1つのセンサを有する。代表的には、測定対象は測定テーブルまたは別の好適なベースに配置される。センサは測定対象に対して相対的に規定された位置に移される。引き続き測定対象の規定された測定点の空間座標は、測定体積内のセンサ位置と場合によってはセンサから提供される他の測定データを評価することによって判定することができる。このような座標測定機でもって、形状および輪郭の推移に至るまで測定対象の幾何学的寸法は、多数の測定点の空間座標を記録することによって判定することができる。それゆえに、座標測定機の代表的応用はワークの品質管理である。
【0005】
多くの事例において、座標測定機はいわゆる触覚測定センサを有する。これは、測定対象に対して相対的に移動することのできるセンサ基部を有するセンサである。センサはさらにしばしば接触ピンの態様の接触要素を有し、この接触要素で測定対象の測定点が探触される。接触要素がセンサ基部に対して相対的に移動可能であり、1測定点の探触時に接触要素は変位される。センサ内の測定要素は、センサ基部に対して相対的なこの変位を判定し、こうして高い測定精度を可能とするのに役立つ。センサ基部に対して相対的な接触要素の変位は一般にいわゆる変換行列によって、測定体積内のセンサ位置を明示する座標系に変換される。変換行列の係数は校正過程において計算され、この校正過程において既知特性の基準測定対象で基準測定値が記録される。
【0006】
冒頭に指摘した欧州特許第1051596号明細書に開示されたこのような校正法では、まず接触ピンの末端に配置される接触ボールの位置および半径が判定され、引き続き変換行列の係数が計算される。欧州特許第1051596号明細書による方法ではさらに、接触要素の変位の強さと各測定位置とに依存した測定偏差を表す誤差マップが、多数の他の基準測定値に基づいて判定される。この誤差マップはいわゆるルックアップテーブルの態様で、または選択的に多項式係数を有する多項式関数の態様で用意することができる。最後に指摘した事例において、多項式関数は、多項式関数を頼りにセンサシステムの非線形挙動を計算で線形化することによって非線形測定偏差を修正するのに役立つ。
【0007】
したがって、校正は、つまり変換行列用係数の判定だけでなく、残存する非線形測定偏差を表す好適な多項式係数の判定も含む。
【0008】
欧州特許第1051596号明細書による方法は多数の基準測定値を必要とし、それゆえに比較的時間を要する。このことは、高精度な測定を可能とするために座標測定機の動作時に校正を頻繁に繰り返さねばならないので欠点である。
【0009】
測定するセンサで座標測定機の校正を促進するために、校正を頼りに判定しなければならないパラメータまたは係数の数を最少にするのが望ましい。判定しなければならないパラメータ/係数が少なくなればなるほど、必要となる基準測定値は一層少なくなる。他方でこの最少化は、有意な測定偏差が考慮されないままとなることを生じてはならない。
【0010】
改良された校正法を追求して判明したことは、非線形性を補正するための多項式変換が一部では、基準測定値によって裏付けられていない箇所に強い測定偏差を引き起こすことがあるとのことである。換言するなら、基準測定値で裏付けられた裏付け箇所での多項式変換が、きわめて良好な補正結果を提供するとしても、多項式変換によって「新たな」非線形測定偏差が引き起こされることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第1051596号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そのことを背景に本発明の課題は、非線形システム挙動に基づいて測定誤差を一層簡単に高精度で修正することのできる座標測定機校正方法を明示することである。本発明の課題は、特に、基準測定値によって裏付けられた測定位置から離れても、正確な測定を可能とする頑健な校正方法を明示することである。本発明の課題はさらに、相応する座標測定機を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によればこれらの課題は、冒頭に指摘した種類の方法において、第1数の多項式係数が反復法で僅かな数の第2数に減らされ、多数の対の多項式係数が形成され、一対の多項式係数の間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、この対の各一方の多項式係数が消去されることによって解決される。
【0014】
本発明の他の態様によればこの課題は、冒頭に指摘した種類の座標測定機において、第1数の多項式係数を反復法で僅かな数の第2数に減らすように評価兼制御ユニットが形成されており、多数の対の多項式係数が形成され、1つの対の多項式係数の間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、この対の各一方の多項式係数が消去されることによって解決される。
【0015】
この新規な方法は、特別有利には、好適なデータ媒体に記憶され、座標測定機の評価兼制御ユニット内でプログラムコードが実行されるとき、新規な校正方法を実施するように形成されたプログラムコードを有するコンピュータプログラムの態様で実現することができる。
【0016】
この新規な校正方法はさらに、座標測定機の非線形測定誤差を補正するのに多項式変換を利用するとの考えに基づいている。しかしながら、判明したように補正の品質は、校正の枠内でいかなる多項式係数、および、いかなる数の多項式係数が判定されるのかに強く左右される。過度に多くの多項式係数がもたらす変換方程式は、基準測定値によって裏付けられた箇所では、確かに良好な補正結果を提供するのであるが、しかしながら、別の箇所では強い非線形偏差を引き起こすことのあることが判明した。このことは、特定の校正課題用に多項式係数の「最適」セットを使用することによって防止することができる。困難は、多項式係数のこの「最適」セットを見出すことにある。この新規な校正方法は、使用する多項式係数の数を反復法で最適化することによって、この困難を克服することを可能とする。その際、最初に用意される大量の多項式係数から「不必要な」多項式係数が消去される。特に、少なくとも1つの別の多項式係数とで強い統計的依存度を有する多項式係数が消去される。換言するなら、非線形測定偏差を補正するための独立成分をさして提供しない多項式係数が消去される。こうして判定された校正データは基準測定値によって裏付けられていない箇所で一層正確な測定結果を可能とし、基準測定値によって裏付けられた測定位置での精度をさして損なうことはないことが判明した。
【0017】
この新規な方法は、測定精度が校正データで損なわれることなく、非線形測定誤差を補正するための減らされたセットの多項式係数を見出すことを可能とする。多項式係数の選択と判定は自己学習式である。それゆえに、この新規な方法は異なる測定環境に自動的に適応する。その結果、校正支出が減少する。さらに、反復プロセスによって得られた知識は有利なことに、匹敵する測定条件での将来の校正課題のとき、判定すべき補正係数の数を最初から適切に減らすのに利用することができる。こうして各校正過程は将来の校正過程のための先験的知識を提供する。このことは、校正過程をさらに促進するのに利用することができる。
【0018】
この新規な方法は、多次元非線形センサユニットを有する座標測定機の簡単迅速頑健な校正を全体として提供する。それゆえに上記課題は完全に解決されている。
【0019】
本発明の一構成において、各対の多項式係数について相関値が統計的依存度の尺度として判定され、相関値がこの対の多項式係数の間の相互相関を表す。
【0020】
この構成の好ましい実施例において、各対の両方の多項式係数の間で、いわゆる相関係数が判定される。相関係数は、多項式係数の各標準偏差に正規化された特性値であり、−1と1との間とすることができる。相関係数は、一対の両方の多項式係数の間の統計的線形依存度の尺度である。しかしながら、相関係数の代わりに、数学的に相関係数と関連した別の例えば(非正規化)共分散等の変量も基本的に使用することができよう。全体的にこの構成は、各対の多項式係数の間の統計的線形依存度の分析に限定される。この構成は校正過程を簡素化し促進し、校正データの精度および頑健性に関して良好な結果を提供する。しかしながら、別の諸構成において高次の統計的依存度も基本的に使用することができる。
【0021】
他の一構成において相関値は、値の点で閾値と比較され、この閾値は0.4超、好ましくは0.6超、特別好ましくは約0.8超の相互相関を表す。
【0022】
この構成において、両方の多項式係数についての相関係数の値が前記閾値よりも大きいとき、この対の多項式係数の一方は消去される。実際的検査が示したように、対の多項式係数の一方の消去は、統計的線形依存度が前記閾値を上まわるとき所望の諸利点をもたらす。
【0023】
他の一構成において各多項式係数は多項式次数を表し、対の多項式係数のうち高い多項式次数を表す多項式係数がそれぞれ消去される。
【0024】
多項式次数は、各多項式項がいかなる累乗で多項式変換に入り込むのかを示す。この構成によれば、2つの相関多項式係数のうち高い多項式次数に割り当てられた多項式係数がそれぞれ消去される。2つの相関多項式係数がそれぞれ同じ多項式次数を表す場合、好ましい優先権なしに両方のうちの一方の多項式係数を消去することができる。それに対して多項式次数が異なる場合、高い多項式次数を有する多項式係数を消去すると、これによって校正が一層頑健となるので有利である。すなわち、校正データは一層高い精度および信頼性でもって、基準測定値で裏付けられていない測定位置についても利用することができる。
【0025】
他の一構成において校正データはさらに、基準測定値と既知特性との間の線形関係を表す変換行列の変換係数を含む。
【0026】
この構成は、測定するセンサが多次元測定値を提供する座標測定機にとって特別有利である。それに代えて、この新規な校正法は、1つの切換式プローブが利用されるだけの単純な座標測定機においても基本的に利用することができる。その場合この新規な校正は例えばプローブの移動軌道に沿った案内誤差の補正に限定することができる。しかしながら、好ましい構成において、校正はセンサ測定データを座標測定機の座標系に変換するための校正データも提供する。「測定するセンサ」を有するこのような座標測定機は通例、測定精度に対する要求が特別厳しい測定課題用に使用されるので、この新規な校正法はこのような座標測定機用にも特別良好に適している。
【0027】
他の一構成において、さらに各1つの多項式係数と1つの変換係数とで多数の対が形成され、このような対の多項式係数と変換係数との間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、この対の多項式係数が消去される。
【0028】
この構成において、測定値の線形化に役立つ多項式係数は、変換行列の係数に有意な相関が存在するときにも消去される。この構成は校正データ間のさらなる統計的依存度を消去し、それゆえに特別頑健で迅速正確な誤差補正を可能とする。
【0029】
他の一構成において第1数と第2数との間の差に依存して、座標測定機の品質判定基準を表す特性値が用意される。
【0030】
この構成は、有利な仕方で、多項式係数の最少化から生じる情報を利用する。僅かな数の第2数、もしくは第1数と第2数との間の大きな差は例えば、当該座標測定機が比較的僅かな非線形性を有するだけであり、基本的に高精度測定に適していることを示唆する。統計的に依存した多項式係数の消去後に、僅かな数の多項式係数のみが残る多次元センサについても、同じことがあてはまる。さらに、残存する多項式係数に依存して局所的測定不確かさに関する情報を個々の測定点に割り当てることができる。
【0031】
他の一構成において、消去された多項式係数は、座標測定機を表すパラメータデータと共に知識ベース内で用意される。
【0032】
パラメータデータは、特に、校正済み座標測定機および/またはセンサの特性、例えば使用する接触要素の重量および/または長さ、座標測定機の架枠構成(例えば水平腕、門、ブリッジ)等に関する情報を含む。この新規な方法に従って特定の多項式係数が消去されたなら、この情報はパラメータデータと共に将来の校正過程のための有利な先験的知識を表現することができ、モデル形成時、消去される多項式係数は場合によっては最初から省くことができる。それゆえに、この構成は座標測定機の校正時にさらなる簡素化を可能とする。
【0033】
他の一構成において、基準測定値は触覚センサを頼りに記録され、このセンサは1つのセンサ基部とこのセンサ基部に対して相対的に移動可能な1つの接触要素と若干数の測定要素とを有し、測定要素はセンサ基部に対して相対的な接触要素の相対位置を判定するように形成されており、多項式係数は測定要素の非線形特性を表す。
【0034】
測定する触覚センサを座標測定機で校正することは、従来公知の方法では特別手間である。というのも、そこでは校正時に考慮しなければならない大量の自由度が存在するからである。この新規な校正法では、原理に起因して可能な高い測定精度を損なうことなく、このような触覚測定センサの校正支出を著しく減らすことができる。それゆえに、この新規な方法を触覚測定センサにおいて応用することは、特別好ましい応用事例である。
【0035】
他の一構成において、基準測定値は非接触式に測定するセンサを頼りに記録される。これは例えば、カメラを基とする光学センサおよび/または静電容量式近接センサとすることができる。
【0036】
この新規な方法は、まずなによりも触覚測定センサを有する座標測定機の校正時の諸問題を解決するために開発されたのではあるが、別の多次元センサにおいても有利に利用することができる。判明したように、このようなセンサでも多項式係数の統計的依存度に依存して多項式係数を反復消去すると校正支出の減少と一層頑健な校正データが得られる。
【0037】
自明のことであるが、前記特徴および以下になお説明する特徴は、その都度記載した組合せにおいてだけでなく、本発明の枠から逸脱することなく別の組合せや単独でも応用することができる。
【0038】
本発明の実施例が図面に示してあり、以下の明細書で詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例による座標測定機の略図である。
【図2】新規な方法の一実施例を説明するための流れ図である。
【図3】図2による方法の第一態様を説明するための流れ図である。
【図4】図2による方法の第二態様を説明するための流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1において座標測定機が総体として符号10とされている。ここで扱われているのは、特にワークを計測するよう形成された門型構造の座標測定機である。しかしながら、本発明は、狭義の座標測定機に限定されているのでなく、例えば、好適なセンサを頼りに測定対象の多次元空間座標が判定される工作機械または別の機械においても利用することができる。それに応じて、本発明の意味において用語「座標測定機」はこのような機械も含む。
【0041】
座標測定機10がベース12を有し、このベース上に門14が配置されている。門14の上クロスビームに装着されたキャリッジ16がスピンドル18を担持している。スピンドル18の下自由端にセンサヘッド20が配置されている。センサヘッド20がここでは接触ピン22用基部を備えた触覚測定センサヘッドであり、接触ピンは基部に対して相対的に旋回可能である。符号23はここで略示しただけの測定要素であり、基部に対して相対的な接触ピン22の変位はこの測定要素を頼りに判定することができる。
【0042】
門14の脚部に配置される駆動装置24は、門14を長手方向で動かすように形成されている。この長手方向は普通y軸と称される。ベース12に対して相対的な門14の位置は、測定系26を頼りに判定することができる。この測定系26は代表的には、好適なセンサ(ここには図示せず)を頼りに走査することのできる目盛を備えたガラススケールである。
【0043】
同様にキャリッジ16が門14に対して相対的に1方向に移動可能であり、この方向は普通x軸と称される。さらにスピンドル18がキャリッジ16に対して相対的に1方向に沿って移動可能であり、この方向は普通z軸と称される。キャリッジ16およびスピンドル18の各空間位置は他の測定系28、30を頼りに判定することができる。全体としてセンサヘッド20は門14、キャリッジ16およびスピンドル18の駆動に基づいて測定体積の内部で移動させることができ、この測定体積は門14、キャリッジ16およびスピンドル18の最大移動行程によって規定されている。
【0044】
測定体積の内部で測定対象32はベース12上に配置されている。測定実行のためセンサヘッド20が測定対象32に接近させられ、接触ピン22の自由下端の接触ボールが測定対象32の希望する測定箇所に接触することになる。この接触はセンサヘッドの基部に対して相対的な接触ピンの変位に基づいて検出される。探触された測定点の空間座標は軸x、y、zに沿った各位置と接触ピン22の変位とから得られる。
【0045】
軸x、y、zに沿った座標測定機10の案内軌道は、そして接触ピン22の変位も、製造公差、温度変動、老化の影響等のゆえに変化することがある。さらに、これらの移動軸に沿った検出器の測定結果は非線形性を有することがある。それゆえに座標測定機10は測定実行前に、既知特性の基準測定対象を計測することによって校正されねばならない。基準測定値を基準測定対象の既知特性と比較することによって、実際の測定対象で引き続き測定するとき系統測定誤差を補正するのに使用される校正データは判定することができる。
【0046】
符号34は評価兼制御ユニットであり、この評価兼制御ユニットはセンサヘッド20の移動を制御し、測定要素23および測定系26、28、30の測定値を読み込んで処理する。さらに、この評価兼制御ユニット34を頼りに校正過程を実行することもできる。好ましい実施例において評価兼制御ユニット34は、1つのプロセッサ36と少なくとも2つの記憶装置38、40とを含む。記憶装置38内にコンピュータプログラムが記憶されており、好ましい一実施例においてこのコンピュータプログラムは以下で図3〜図4に基づいて説明する校正法を実行するように形成されている。記憶装置40内にはなかんずく、校正過程の途中で判定される校正データが記憶される。
【0047】
図2によれば、センサヘッドを校正するための校正法はこの場合、既知特性の基準測定対象32を測定体積の内部に配置することで始まる。基準測定対象はしばしば、冒頭で指摘した欧州特許第1051596号明細書に述べられたように、既知半径Rのボールでありまたはそれを含む。ステップ50により基準測定対象の1測定点nが探触され、ステップ52により測定要素23および測定系26、28、30の測定値S(n)が読み込まれる。ステップ54により、他の測定点nのため測定データを記録すべきであるか否かの決定が下される。場合によっては、処理が流れ線56に従ってステップ50に戻る。
【0048】
測定データの記録が終了したなら、ステップ58により多項式変換用の多項式係数PK(1…K)が判定され、これらの多項式係数を頼りに測定データS(n)が線形化される。多項式係数の数も各値もさしあたり未知である。それゆえに、例えば下記種類の多項式で開始される:
【0049】
【数1】

【0050】
式中、s1 ,s2 ,s3 は測定点nでのセンサヘッド測定要素の測定データであり、c11,c12,c13…は多項式の多項式係数を意味する。
【0051】
S’は、多項式変換後の測定要素の線形化3次元測定信号である。知識ベース60から取り出しておくことのできる先験的知識に依存して、必要でないことが知られている多項式項は、当該多項式係数をゼロに設定することによって最初から消去することができる。
【0052】
多項式係数は、目標関数を最少にすることによって計算される。好ましい実施例において、目標関数は、基準測定値と基準測定対象の既知特性との間のすべての誤差2乗の最少化である。多項式係数のこの種の計算は当業者には知られている。
【0053】
ステップ62により、計算された多項式係数PK(1…K)が引き続き選別され、ここでは、多項式次数が選別判定基準である。引き続きステップ64、66により変換行列といわゆるオフセットが測定データから判定される。変換行列に含まれた変換係数を頼りに測定要素23の(線形化された)測定データ、すなわち接触ピン22の変位が、座標軸x,y,zを有する座標測定機10の座標系に変換される。オフセットは接触ピン22の自由端の接触ボールの中心点を明示する。変換行列およびオフセットの計算は当業者にはやはり知られており、例えば冒頭に指摘した欧州特許第1051596号明細書に述べられており、その限りにおいて、ここで全範囲にわたってそれを引き合いに出す。
【0054】
引き続きステップ68により、計算した全多項式係数の間の共分散をすべて含む共分散行列が判定される。有利には共分散行列は他の全計算値についての共分散、特に変換係数についての共分散も含むことがある。
【0055】
引き続きステップ70により各2つの多項式係数PKl ,PKm で対が形成される。多項式係数PKl ,PKm は、以下で図3を基に詳しく説明するように統計的依存度を調べられる。このような対の多項式係数の統計的依存度が規定された閾値を上まわると、多項式係数の1つが消去される。好ましくは対の多項式係数のうち、ステップ62で形成された順序に従って高い多項式次数を表す多項式係数が消去される。引き続きステップ72により、他の反復ステップが有意義であるか否かの決定が下される。イエスの場合、処理は流れ線74に従ってステップ58に戻り、(残存する)多項式係数、変換係数およびオフセットが再度計算される。しかしながら、その際、事前に消去されたすべての多項式係数がゼロに設定される。すなわち、線形化用の多項式が各反復ステップで簡素化する。
【0056】
反復ステップがさしたる変化をもはや生じないと、反復サイクル74が終了する。本方法の好ましい態様では、消去された多項式係数の数が判定され、したがって、残存する多項式係数の数も判定される。ステップ78により、残存する多項式係数の数および/または消去された多項式係数の数は座標測定機10の品質判定基準の尺度として表示される。自明のことであるが、計算された係数はさらに評価兼制御ユニット34の記憶装置40に記憶され、校正データとして提供され、この校正データは後続の測定時に系統誤差を補正するのに利用することができる。
【0057】
図3は、他の流れ図に基づいて、好ましい実施例において統計的に依存した多項式係数の消去をもたらす処理ステップを示す。ステップ80により多項式係数PKl ,PKm の対P[PKl ;PKm ]が形成される。引き続きステップ82により対の多項式係数の間で相互相関k[PK;PK ]が判定される。次にステップ84により相互相関kの値が閾値と比較され、この閾値は好ましい実施例において0.8である。しかし閾値はそれよりも大きくまたは小さくしておくこともできる。閾値が大きければ大きいほど、多項式係数の間で許容される統計的依存度が一層強まる。というのも、閾値を上まわらないとき処理は流れ線86に従って処理ステップ80に戻るからである。それに対して、閾値を上まわると、この対の両方の多項式係数の一方がゼロに設定され、すなわち消去される。好ましくは、高い多項式次数を表す多項式係数が消去される。引き続き処理がステップ80に戻り、すべての対の多項式係数について相互相関と閾値との比較が行われることになる。消去された多項式係数は好ましい実施例において知識ベース60に格納され、将来の類似の校正課題のための先験的知識が用意される。
【0058】
図4は多項式係数を消去するための選択的方法を示しており、図4による方法は好ましい実施例において図3による方法を補足して使用される。図4のステップ90により対P[PK;PK ]は各1つの多項式係数PK と変換行列の1つの変換係数K とで形成される。選択的におよび/または補足的にオフセットベクトルの係数も各1つの多項式係数での対形成に利用することができる。引き続きステップ92によりこの対の相互相関が判定され、ステップ94によりやはり閾値と比較される。この対の相互相関が閾値よりも上であると、当該多項式係数PKはゼロに設定される。そうでない場合、処理は流れ線96に従って次の対へと直接分岐する。自明のことであるが、図4による代案が可能であるのは、主として変換係数および/またはオフセット係数が利用可能である場合のみである。これは典型的には、触覚測定センサ用の校正データが判定されねばならない場合である。しかしこの新規な方法は基本的に別のセンサと一緒でも、特定センサとは独自でも、座標測定機を校正するのに使用することができる。例えば、座標測定機10の移動軸X,Y,Zに沿った非線形案内誤差を修正するための校正データはこの新規な方法を頼りに判定することができる。さらにこの新規な方法は光学式または別の多次元センサを校正するのにも利用することができる。全体的にこの新規な方法は、多次元測定系のさまざまな座標軸の間に依存度が存在するあらゆる事例において利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標測定機(10)を校正するための方法であって、
‐既知特性の基準測定対象(32)を前記座標測定機(10)の測定体積内に用意するステップ(48)と、
‐前記基準測定対象(32)で多数の基準測定値を記録するステップ(52)と、
‐前記基準測定値と前記既知特性とに基づいて校正データを判定するステップ(58、64、66)とを含み、
‐前記校正データが、少なくとも1つの多項式変換に基づいて前記座標測定機(10)の非線形測定誤差を修正するように形成された第1数の多項式係数(PK)を含むものにおいて、
前記第1数の多項式係数(PK)が反復法(70、72、74)で僅かな数の第2数に減らされ、多数の対の多項式係数が形成(80)され、一対の多項式係数の間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、前記対の各一方の多項式係数が消去(88)されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
各対の多項式係数について相関値が統計的依存度の尺度として判定(82)され、前記相関値が前記対の多項式係数の間の相互相関を表すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相関値が値の点で閾値と比較(84)され、前記閾値が0.4超、好ましくは0.6超、特別好ましくは約0.8超の相互相関を表すことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各多項式係数が多項式次数を表し(62)、前記対の多項式係数のうち高い多項式次数を表す多項式係数がそれぞれ消去されることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記校正データがさらに、前記基準測定値と前記既知特性との間の線形関係を表す変換行列の変換係数を含む(64)ことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
さらに各1つの多項式係数と1つの変換係数とで多数の対が形成(92)され、対の多項式係数と変換係数との間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいときこの対の多項式係数が消去(98)されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第1数と第2数との間の差に依存して、座標測定機の品質判定基準を表す特性値が用意(78)されることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
消去された多項式係数が、座標測定機を表すパラメータデータと共に知識ベース(60)内で用意されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記基準測定値が触覚センサを頼りに記録され、前記センサが1つのセンサ基部(20)と前記センサ基部に対して相対的に移動可能な1つの接触要素(22)と若干数の測定要素(23)とを有し、前記測定要素が前記センサ基部(20)に対して相対的な前記接触要素(22)の相対位置を判定するように形成されており、前記多項式係数が前記測定要素(23)の非線形特性を表すことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基準測定値が非接触式に測定するセンサを頼りに記録されることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
測定対象(32)用ベース(12)と前記測定対象の位置依存測定値を生成するためのセンサ(20)と前記センサ(20)を制御し、かつ、前記測定値を処理するための評価兼制御ユニット(34)とを有する座標測定機であって、前記評価兼制御ユニット(34)が既知特性の基準測定対象を頼りに校正データを判定するように形成されており、前記校正データが少なくとも1つの多項式変換に基づいて前記座標測定機の非線形測定誤差を修正するように形成された若干数の多項式係数を含むものにおいて、前記評価兼制御ユニット(34)が第1数の多項式係数を反復法で僅かな数の第2数に減らす(70、72)ように形成されており、多数の対の多項式係数が形成(80)され、1つの対の多項式係数の間の統計的依存度が規定された閾値よりも大きいとき、前記対の各一方の多項式係数が消去(88)されることを特徴とする、座標測定機。
【請求項12】
座標測定機の評価兼制御ユニット内でプログラムコードが実行されるとき、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法を実施するように形成されたプログラムコードを有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−503628(P2011−503628A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534396(P2010−534396)
【出願日】平成20年11月11日(2008.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009494
【国際公開番号】WO2009/065510
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(509052067)カール ザイス インダストリエル メステクニーク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (6)
【Fターム(参考)】