説明

廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法及び回収したポリカーボネート樹脂を成形して得られる光学成形品

【課題】ポリカーボネート樹脂を基板材料とした、未使用又は使用済みの回収光ディスク又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法、及び回収したポリカーボネート樹脂を成形して得られる高品質の光学成形品を提供すること。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕し、得られた粉砕処理物を化学処理する工程を有するポリカーボネート樹脂の回収方法であって、前記化学処理工程で得られた化学処理物に対して、下記工程〔I〕及び〔II〕を行うことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂の回収方法。
工程〔I〕:(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程。
工程〔II〕:金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法及び回収したポリカーボネート樹脂を成形して得られる光学成形品に関する。さらに詳しくは、ポリカーボネート樹脂を基板材料とした、未使用又は使用済みの回収光ディスク又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法、及び回収したポリカーボネート樹脂を成形して得られる高品質の光学成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクは、高密度記録が可能なことから、音楽、画像、情報の記録等に大量に用いられている。このような背景の下、昨今の環境問題に配慮して、光ディスクのリサイクルが提唱されている。
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)は、光学材料や電気電子分野等に幅広く使われるが、一般的には筐体等の用途に限定して再利用されている。これは、回収時の不純物混入や、この不純物に起因する加水分解による分子量低下が起こるため、光学材料から同等製品への再利用が困難なためである。特に光ディスクの場合、光ディスクに金属膜が付着していたり潤滑剤が混入していたりするため、そこからPC樹脂を分離するには厳しい条件下での洗浄剥離処理が必要であり、PC樹脂の分子量低下を防ぎながら実施することは困難である。しかしながら、光ディスクから、筐体等ではなく、光ディスクそのものを再生する技術開発への要望が高まってきている。
CDやDVDの基板等に使用されているPC樹脂を、再度、光学製品に活用する方法としては、ディスク基板を化学処理し、記録膜や保護膜等を除去する方法(特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−276349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法によっても、PC樹脂中の異物を低減することが可能であるが、さらに、こうして得られるPC樹脂中のわずかな量の異物の除去も行い、PC樹脂の再利用により得られる光ディスクを安定的に連続してより高品質なものとする方法の開発が求められている。
PC樹脂を超臨界状態でのBPA等のモノマー原料にまで分解することも提唱されているが、再びPC樹脂を重合する必要のない、環境負荷が少なく、且つコストを抑えたリサイクルシステムの構築が求められている。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ポリカーボネート樹脂を基板材料とした、未使用又は使用済みの回収光ディスク又は製造工程で不良品となった廃棄光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法、及び回収したポリカーボネート樹脂を成形して得られる高品質の光学成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題について鋭意検討を行った結果、化学処理工程後に特定の物理処理工程を設けることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[9]に関する。
[1]ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕し、得られた粉砕処理物を化学処理する工程を有するポリカーボネート樹脂の回収方法であって、前記化学処理工程で得られた化学処理物に対して、下記工程〔I〕及び〔II〕を行うことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂の回収方法。
工程〔I〕:(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程。
工程〔II〕:金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
[2]前記工程〔I〕において、工程(a)の後に工程(b)を有する、上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
[3]化学処理物を連続的に工程〔I〕へ供給し、工程〔I〕及び工程〔II〕をそれぞれ連続的に実施する、上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
[4]工程(a)で用いる磁石の磁束密度が10,000〜12,000ガウスである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
[5]工程(b)で用いる光学カメラがCCDカメラであり、着色異物の選定がベルトコンベア上の処理物に対して行われる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
[6]粉砕工程において得られた粉砕処理物の平均粒径が3〜30mmである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の回収方法により得られた回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm(質量比)以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm(質量比)以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm(質量比)以下である、前記回収ポリカーボネート樹脂。
[8]上記[7]に記載の回収ポリカーボネート樹脂(A−1)5〜100質量%及びバージン光学用ポリカーボネート樹脂(A−2)95〜0質量%を配合してなる、光学用ポリカーボネート樹脂。
[9]上記[8]に記載の光学用ポリカーボネート樹脂を成形して得られる光学成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、公知のリサイクル方法により得られるポリカーボネート樹脂中のわずかな量の異物の除去も行うことができ、PC樹脂の再利用により得られる光ディスクを、常時、安定して高品質なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の工程全体の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明の工程〔I〕の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の工程〔I〕中の工程(b)の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の工程〔II〕で使用する金属異物検知器の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の工程〔II〕で使用する金属異物検知器の原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕し(粉砕処理工程と称する)、得られた粉砕処理物を化学処理する(化学処理工程と称する)工程を有するポリカーボネート樹脂の回収方法であって、前記化学処理工程で得られた化学処理物に対して、下記工程〔I〕及び〔II〕を行うことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂の回収方法である。
工程〔I〕:(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程。
工程〔II〕:金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
以下、各工程について順に説明する。
【0010】
[粉砕処理工程]
廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕する工程である。
粉砕する方法に特に制限はなく、廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクの粉砕に用いられる公知の粉砕機、例えば一軸粉砕機、二軸粉砕機、三軸粉砕機、重粉砕機等を利用できる。
粉砕された粉砕処理物の平均粒径は、後の工程にて異物を効率良く除去する観点から、好ましくは3〜30mm、より好ましくは10〜20mm、さらに好ましくは10〜15mmである。
【0011】
[化学処理工程]
前記粉砕処理工程で得られた粉砕処理物を化学処理することにより、粉砕処理物中の異物(PC樹脂ではないもので、主に記録膜又は色素膜由来の金属であるアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)を除去する工程である。
廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクには、そのポリカーボネート基板表面に反射層、保護層、記録層、印刷層等の異質層が設けられており、これらの異質層は、光学用ディスク原料として再生利用する際に異物となるので、該異物を化学処理により除去する。化学処理の方法に特に制限はないが、特許文献1の工程(c)中に記載の化学処理を用いることが好ましい。該化学処理の好ましい方法について、以下に説明する。
【0012】
化学処理としては、異物除去の効率の観点から、界面活性剤により洗浄した後、アルカリ処理を行なう方法が好ましい。粉砕工程で得られた粉砕処理物を界面活性剤により洗浄することにより、粉砕時の付着異物を除去することができる。
(界面活性剤による洗浄)
界面活性剤には、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤があるが、本発明においては、ノニオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤が好ましい。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコールエーテル系界面活性剤が好ましく、特に、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテル、アルキルフェノールのポリエチレングリコールエーテル等が好ましい。また、アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
粉砕処理物を、界面活性剤を用いて洗浄する場合、異物除去の効果の観点から、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用するのが好ましい。
洗浄方法としては、界面活性剤を含有する水中に粉砕処理物を入れ、攪拌する方法が好ましい。この場合、水中の界面活性剤の濃度は、異物除去の効果及び経済性の観点から、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
界面活性剤による洗浄の際の温度は、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは50〜140℃、より好ましくは70〜110℃、さらに好ましくは80〜100℃である。
界面活性剤を用いた洗浄は、界面活性剤の種類や洗浄温度を変えるなどして、2回以上行なってもよい。界面活性剤による洗浄の時間は、処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及び経済性の観点から、通常、1回の処理当たり30〜100分が好ましく、40〜80分がより好ましく、2回以上処理する場合では、前記同様の観点から、合計40〜100分が好ましい。
【0013】
(アルカリ処理)
アルカリ処理には、アルカリ化合物の水溶液(以下、アルカリ水溶液と称することがある。)を用いることが好ましい。アルカリ化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩等が挙げられる。
アルカリ水溶液のpHは、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは10〜12である。また、アルカリ水溶液の濃度としては、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.3〜10質量%である。アルカリ水溶液による洗浄の際の温度は、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは100〜140℃、より好ましくは105〜130℃である。
アルカリ処理は、異物をより多く除去するために、濃度の異なるアルカリ水溶液を用いたり、処理の際の温度を変えるなどして、2回以上行なってもよい。
アルカリ処理の処理時間は、処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及び経済性の観点から、通常、1回の処理当たり10〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましく、2回以上処理する場合では、合計20〜100分が好ましく、合計20〜70分がより好ましい。
【0014】
(界面活性剤及び過酸化物による洗浄)
さらに、化学処理としては、前記アルカリ処理の後、アルカリ水溶液中に除去されたが粉砕処理物に再付着した色素や微小異物を除去する観点から、界面活性剤と過酸化物の混合水溶液(以下、単に混合水溶液と称する)中で、粉砕処理物を洗浄することが好ましい。
界面活性剤としては、前記と同様のものを使用することができ、混合水溶液中の界面活性剤の濃度は、異物除去の効果及び経済性の観点から、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。
過酸化物としては、−O−O−結合を有する酸化物や多価原子価を持つ金属の過酸化物が挙げられ、過酸化水素及びその塩;オゾン;過硫酸及びその塩などが好ましい。混合水溶液のpHは、洗浄処理の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは2〜5である。混合水溶液中の過酸化物の濃度は、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜3質量%である。
また、上記混合水溶液で洗浄する際の温度は、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、好ましくは65〜95℃、より好ましくは80〜90℃である。処理時間については処理温度によっても異なるが、異物除去の効果及びPC樹脂の劣化防止の観点から、通常、1回の処理当たり、好ましくは15〜60分である。
【0015】
(水洗及び乾燥工程)
上記化学処理の後は、得られた化学処理物に付着した洗浄液を洗い流すため、十分に水洗することが好ましい。
また、水洗した後、化学処理物を十分に乾燥することが好ましい。乾燥する方法としては、自然乾燥や減圧乾燥でもよいが、加温して乾燥することが好ましい。加温して乾燥する場合、その温度は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは70〜90℃である。乾燥する時間に特に制限はないが、加温して乾燥する場合には、好ましくは1〜10時間、より好ましくは3〜7時間である。
【0016】
[工程〔I〕]
工程〔I〕は、化学処理工程を経て得られた化学処理物に対して、(a)磁石を用いることにより磁性金属異物(主に、鉄)を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程である。
(工程(a))
工程(a)で用いる磁石としては、好ましくは10,000ガウス以上であり、磁性金属異物除去の効果及び磁石の費用の観点から、より好ましくは10,000〜20,000ガウス、より好ましくは10,000〜15,000ガウス、さらに好ましくは11,000〜13,000ガウスである。磁石は、1つでもよいが、磁性金属異物除去の効果の観点から、2つ又は3つ以上使用することが好ましい。また、磁石の大きさや形状に特に制限はないが、磁性金属異物除去の効果の観点から、化学処理物を供給するシューター等の幅方向の長さの好ましくは110%以上(より好ましくは120%以上)の長さを有する棒状(円柱、四角柱等の柱体)のものが好ましい。
磁石によって化学処理物中の磁性金属異物を除去する方法に特に制限はないが、例えば、好ましくは5〜15kg/分、より好ましくは6〜12kg/分、更に好ましくは8〜10kg/分で化学処理物を搬送し、図2に示すように、該化学処理物から好ましくは0.3〜2.5cm、より好ましくは0.3〜1.5cm、更に好ましくは0.3〜0.8cm離れた位置に磁石を固定する方法が挙げられる。
なお、磁性金属異物は主に鉄であるが、鉄以外のコバルト、ニッケル等の磁性金属異物が含まれる場合は、これらの磁性金属異物も同時に除去することができる。
【0017】
(工程(b))
工程(b)は、工程(a)の前に実施してもよいし、後に実施してもよいが、図2に示すように前記工程(a)の後に行うと、工程(a)で磁石についた金属異物を取り除く作業中に混入する異物の除去を工程(b)で併せて行うことができるため、好ましい。また、工程(b)は工程(a)の前後で実施してもよい。
図2に示すように、工程(a)を経た化学処理物をベルトコンベアにより移送し、ベルトコンベアの端にて該化学処理物を飛ばし、図3に示すように、飛ばされた化学処理物を光学カメラの前を通過させることにより工程(b)を実施することが好ましい。ベルトコンベアによる化学処理物の移動速度は、化学処理物をベルトコンベアから十分に飛ばす観点及び光学カメラによる着色異物の検知精度の観点から、好ましくは50〜150m/分、より好ましくは80〜120m/分である。
工程(b)で使用する光学カメラとしては、CCDカメラが好ましい。光学カメラは、着色異物除去の効率の観点から、2つ又は3つ以上使用することが好ましく、図3に示すように、少なくとも2つの光学カメラを、飛ばされた化学処理物の上下を挟み込むように設置することがより好ましい。
図3に示すように、飛ばされた化学処理物は光学カメラで検査され、コントロールユニットによって着色異物と判断された化学処理物は、イジェクターから吹き付けられる空気流(着色異物を十分に除去する観点及び正常な化学処理物の除去を抑制する観点から、好ましくは風圧0.2〜0.6MPa、より好ましくは0.3〜0.5MPa)によって吹き飛ばして除去される。この際、着色異物の周囲にある化学処理物も併せて除去され得る。
工程(b)を実施するには、例えば3CCDカメラ色彩選別機等の3CCDカメラ異物選別機を用いることが簡便であり好ましい。
ここで、図3について簡単に説明する。ベルトコンベア(8)により移送された化学処理物は、ベルトコンベア(8)から飛ばされ、3CCDカメラ用照明で照らされながらバックパネル(11)越しにCCDカメラに映されて検査される。コントロールユニット(10)にて着色異物か否かが判断され、着色異物と判断された場合には、イジェクター(12)により空気流で吹き飛ばされ、除去物取り出し口(14)へ落とされる。一方、着色異物と判断されなかった化学処理物は、製品取り出し口(13)から取り出される。
【0018】
工程〔I〕で得られたポリカーボネート樹脂中の異物は、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下、鉄の含有量が1ppm以下、その他の金属であって、光ディスクの記録膜又は色素膜由来の金属(例えばアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)の含有量が0.1ppm以下にまで低減されていることが好ましいが、現実的には、工程〔I〕のみでは必ずしも前記条件を満たさないことがある。そこで、本発明では、極めて純度の高いポリカーボネート樹脂を得るために、後述する工程〔II〕も行う。
なお、本明細書において、「ppm」は、特に断りのない限り、質量比を表す。
【0019】
[工程〔II〕]
工程〔II〕は、金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程である。工程〔II〕では、工程〔I〕までに除去し損ねたわずかな金属異物を取り除くことが可能であるため、工程〔I〕の後に行うことが好ましい。
工程〔II〕では、図4に示すように、工程〔I〕で得られたポリカーボネート樹脂を搬送ベルトで金属異物検知器へ搬送し、連続的に金属異物の有無を検知することが好ましい。金属異物は、好ましくは磁力線によって検出される。図5に示すように、磁性金属の場合は、金属異物検知器の通過時に金属が磁化し、磁力線が金属にひきつけられることにより検出され、一方、非磁性金属の場合は、金属異物検知器の通過時にうず電流が発生し、磁力線が熱エネルギーとして消費されることによって検出される。
金属異物検知器は、ポリカーボネート樹脂中に0.1ppm以上含有する金属異物を検知できるものであることが好ましい。
なお、金属異物の検知精度及び処理速度の観点から、搬送ベルトの搬送速度は、金属異物の検知精度の観点から、好ましくは40〜100m/分、より好ましくは50〜80m/分であり、搬送ベルト上のポリカーボネート樹脂の量は、好ましくは0.05〜0.3kg/m、より好ましくは0.1〜0.2kg/mである。
金属異物検知器により金属異物を検知した場合、検知した金属異物周辺(検知箇所を中心として、好ましくは前後100cm以内、より好ましくは前後50cm以内。)のポリカーボネート樹脂を一緒に除去(例えば廃棄)する。製造工程上、金属異物周辺のみを除去することが困難な場合には、金属異物が検知されたポリカーボネート樹脂を含む製品袋を除去(例えば廃棄)してもよい。
工程〔II〕を実施するには、例えば「スーパーメポリIII」(アンリツ株式会社製)等の金属異物検出器を用いることが簡便であり好ましい。
【0020】
化学処理物を連続的に工程〔I〕へ供給し、工程〔I〕及び工程〔II〕をそれぞれ連続的に実施すると、ポリカーボネート樹脂の回収を連続的に実施することができ、工業的に好ましい。
工程〔I〕及び〔II〕を経て得られたポリカーボネート樹脂中の異物は、ナトリウムの含有量が0.5ppm以下(好ましくは0.2ppm以下)、鉄の含有量が1ppm以下、その他の金属であって、光ディスクの記録膜又は色素膜由来の金属(例えばアルミニウム、テルル、アンチモン、銅等)の含有量が0.1ppm以下にまで低減されている。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂からは、常時、安定して高品質な光学成形品を得ることができるため、一般の光学ディスク用ポリカーボネート樹脂と同等に使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた回収ポリカーボネート樹脂中の金属異物の含有量は、以下の方法によって測定した。また、回収ポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性を、以下の方法によって評価した。
【0022】
(金属異物の含有量の測定方法)
各例で得られた回収ポリカーボネート樹脂のサンプル10gをプラチナ坩堝に計り取り、電気炉で炭化処理後、800℃に昇温して完全に灰化させた。
その後、塩酸に溶解し、金属類(Na、Fe、Al、Te、Sb、Cu)の残存量をICP(Inductively Coupled Plasma)分析(装置:「IRIS Advantage」(JARRELL ASH社製))により測定した。
なお、Na、Feの含有量がいずれも0.2ppm以下であり、かつAl、Te、Sb、Cuの含有量がいずれも0.1ppm未満の回収ポリカーボネート樹脂を「良品」、そうでないものを「不良品」とした。
(滞留熱安定性の評価方法−YIの測定−)
回収PC−1〜回収PC−4(良品及び不良品)を用いて、以下の条件で、成形機内滞留熱安定性の評価を行った。
成形機:「EC40N」(東芝機械株式会社製)
シリンダー温度:320℃、金型温度:80℃、
滞留時間:0、5、10、15、20分
安定して成形品が取れるようになった後、6ショット目から上記の滞留時間で滞留させた成形プレート(80×40×3mm)の色相を日本電色工業株式会社製の「SZ−Σ90」を用い、JIS K7105に準拠して、YI(イエローインデックス)を測定し、その変化量を滞留熱安定性の評価の指標とした。YIの変化量が少ないほど、滞留熱安定性に優れることを示す。
また、参考として、MD1500(光ディスク用ポリカーボネート樹脂、台化出光石油化学社製)の滞留熱安定性の評価を行った。
【0023】
<実施例1>粉砕処理工程及び化学処理工程
(粉砕処理工程)
光ディスク製造装置から回収され製品規格外となったポリカーボネート基板に異質層としてアルミニウムが蒸着されている円盤状の光ディスクを、ロータリー式の粉砕機にてスクリーン直径16mmにセットして粉砕した。粉砕物の平均粒径は12mmであった。
(界面活性剤による洗浄工程)
次いで、界面活性剤として、ポリオキシエチレンジスルホン化フェニルエーテル(「エマルゲン(登録商標)A−500」、花王株式会社製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む混合水溶液中において、90℃で60分間撹拌した。
(アルカリ処理工程)
続いて、3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、120℃で30分間撹拌処理した。さらに5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、120℃で30分間撹拌した。
(界面活性剤及び過酸化物による洗浄工程)
続いて、ポリオキシエチレンジスルホン化フェニルエーテル(「エマルゲン(登録商標)A−500」、花王株式会社製)1質量%及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量%を含む混合水溶液中に過酸化水素0.58質量%相当量を混合した混合水溶液中において、90℃で30分間撹拌した。
(水洗及び乾燥工程)
その後、水洗で十分洗浄した後、80℃で5時間乾燥させた。
【0024】
(工程〔I〕−工程(a))
図2に示すように、乾燥した化学処理物を、速度9kg/分でシューターにて移送し、シューターから0.5cm離れたところに、シューターの幅方向の長さより長い12,000ガウスの磁石2本を15cm間隔で設置することにより、磁性金属異物が含まれている化学処理物を磁石に付着させて除去した。
(工程〔I〕−工程(b))
次いで、上記工程(a)で得られた化学処理物をベルトコンベアにより100m/分で搬送し、図3に示す仕組みの3CCDカメラ色彩選別機を用いて、化学処理物中の着色異物を検知し、イジェクターにより風圧0.4MPaで吹き飛ばして除去した。
(工程〔II〕)
図4に示すような金属異物検出器「スーパメポリIII」(アンリツ株式会社製)を用いた。搬送速度60m/分で動く搬送ベルト上に、工程〔I〕で得られたポリカーボネート樹脂が0.15kg/mとなるように乗せて搬送し、金属異物を検出されたポリカーボネート樹脂が含まれる製品袋は廃棄し、純度の高い回収ポリカーボネート樹脂(以下、回収PC−1と称する)を得た。該回収PC−1を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0025】
<比較例1>
実施例1において、工程〔I〕及び〔II〕をいずれも行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(以下、回収PC−2と称する)を得た。該回収PC−2を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0026】
<比較例2>
実施例1において、工程〔I〕を行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(以下、回収PC−3と称する)を得た。該回収PC−3を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0027】
<比較例3>
実施例1において、工程〔II〕を行わなかったこと以外は同様にして、回収ポリカーボネート樹脂(以下、回収PC−4と称する)を得た。該回収PC−4を10サンプル用意し、それらの金属異物の含有量を測定した結果を表1に示す。また、YIの測定結果を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
表1及び表2より、本発明の方法に従って回収したポリカーボネート樹脂は、常に、ナトリウム及び鉄の含有量がいずれも0.2ppmであり、かつアルミニウム、テルル、アンチモン、銅の含有量が、いずれも0.1ppm未満となっており、非常に純度が高く、成形機内における滞留によって黄変し難い、つまり滞留熱安定性に優れていることがわかる。
一方、比較例1〜3で得られた回収ポリカーボネート樹脂は、サンプルの1/4が、ナトリウムや鉄の含有量がそれぞれ1.7ppm以上であり、アルミニウム、テルル、アンチモン、銅の含有量が、いずれも0.2ppm以上であることから、純度の低い回収ポリカーボネート樹脂が混入しており、該ポリカーボネート樹脂は滞留熱安定性に乏しいことがわかる。
ゆえに、本発明は比較例1〜3の方法に比べ、長期的に安定して高品質の回収ポリカーボネート樹脂を提供し続けることができ、工業的に非常に有用であるといえる。
【0031】
また、以下の試験例で製造したCD−ROMの耐久性を、以下の方法に従って測定した。
(耐久性)
−電気特性の測定−
ピットのないミラー部分とI11ピットの信号強度比であるI11min(=I11/ITop Reflectiveの最小値)を求め、電気特性を評価した。なお、CD−ROMの規格値は、I11minが0.6以上である。
−BLERの測定−
また、無作為に抽出した5枚のCD−ROMのBLER(ブロックエラーレート)の平均値と最大値を求めた。なお、CD−ROMの規格値は、BLERが220以下である。
−耐久性の評価−
80℃、湿度85%の環境下で168時間保持した後のCD−ROMに対して、上記電気特性及び上記BLERを測定した。電気特性及びBLERの変化量が小さいほど、耐久性に優れることを示す。
なお、上記電気特性及びBLERのCD−ROM規格値をクリアし、且つ耐久性の評価をクリアしたものをON品、1つでもNGの項目があったものをOFF品とした。
【0032】
<試験例>
実施例1、比較例1〜3で得た回収PC−1〜PC−4(良品及び不良品)を50質量%と、MD1500(光ディスク用ポリカーボネート樹脂、台化出光石油化学社製)を50質量%混合して均一化したものをペレット状に加工し、それぞれ回収PC−1’〜回収PC−4’を得た。
回収PC−1’〜回収PC−4’を用いて、成形機「SD40ER」(住友重機工業株式会社製、条件:シリンダー温度350℃、射出圧力167MPa、射出時間2.5秒、冷却時間2.2秒)でCD−ROMを成形し、それぞれCD−ROM−1〜CD−ROM−4を得た。
該CD−ROM−1〜CD−ROM−4にAl膜及びUV保護膜をコーティングし、電気特性及びBLER(ブロックエラーレート)の測定、並びに耐久性の評価を行った。
なお、参考のため、MD1500のみから成形して得られたCD−ROM(CD−ROM−0と称する)に、Al膜及びUV保護膜をコーティングし、同様の測定及び評価を行った。
【0033】
【表3】

【0034】
表3より、本発明の方法により回収したポリカーボネート樹脂を用いて製造したCD−ROMは、常に耐久性が高いものが得られることがわかる。一方、比較例1〜3で得た回収ポリカーボネート樹脂を用いて製造したCD−ROMでは、耐久性の低いものが混じっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクからのポリカーボネート樹脂の回収方法として有用であり、回収したポリカーボネート樹脂を成形することにより、光学成形品(特に光ディスク)として利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 正常な化学処理物
2 異物が混入した化学処理物
3 磁石
4 シューター
4’ ベルトコンベア
5 カラーカメラ
6 カラーカメラ用照明
7 ガラス
8 ベルトコンベア
9 エアーブロー/エアーカーテン
10 コントロールユニット
11 バックパネル
12 イジェクター
13 製品取り出し口
14 除去物取り出し口
15 投受光器(フォトセンサ)
16 搬送ベルト
17 コンベア
18 指示器
19 検出ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂基板を有する廃棄光ディスク及び/又は回収光ディスクを粉砕し、得られた粉砕処理物を化学処理する工程を有するポリカーボネート樹脂の回収方法であって、前記化学処理工程で得られた化学処理物に対して、下記工程〔I〕及び〔II〕を行うことを特徴とする、ポリカーボネート樹脂の回収方法。
工程〔I〕:(a)磁石を用いることにより磁性金属異物を除去する工程及び(b)光学カメラを用いることにより、着色異物を選定し、該着色異物を除去する工程を有する工程。
工程〔II〕:金属異物検知器を用いることにより、金属異物の有無を検知し、金属異物を有する樹脂を除去する工程。
【請求項2】
前記工程〔I〕において、工程(a)の後に工程(b)を有する、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
【請求項3】
化学処理物を連続的に工程〔I〕へ供給し、工程〔I〕及び工程〔II〕をそれぞれ連続的に実施する、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
【請求項4】
工程(a)で用いる磁石の磁束密度が10,000〜12,000ガウスである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
【請求項5】
工程(b)で用いる光学カメラがCCDカメラであり、着色異物の選定がベルトコンベア上の処理物に対して行われる、請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
【請求項6】
粉砕工程において得られた粉砕処理物の平均粒径が3〜30mmである、請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂の回収方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の回収方法により得られた回収ポリカーボネート樹脂であって、ナトリウムの含有量が0.5ppm(質量比)以下であり、かつ、鉄の含有量が1ppm(質量比)以下であり、その他の金属であって記録膜又は色素膜由来の金属の含有量がいずれも0.1ppm(質量比)以下である、前記回収ポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
請求項7に記載の回収ポリカーボネート樹脂(A−1)5〜100質量%及びバージン光学用ポリカーボネート樹脂(A−2)95〜0質量%を配合してなる、光学用ポリカーボネート樹脂。
【請求項9】
請求項8に記載の光学用ポリカーボネート樹脂を成形して得られる光学成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131507(P2011−131507A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293364(P2009−293364)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(591056938)パナック工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】