説明

廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室及び燃焼方法

【課題】廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室において、可燃性ガスの燃焼性を低下させることなく燃焼室内温度の高温化を効率的に抑制し、クリンカの生成や内壁の耐火物の損傷を抑制できるようにすること。
【解決手段】廃棄物をガス化、溶融するガス化溶融炉1で発生する可燃性ガスを燃焼用空気とともにメインバーナ部2aから導入して燃焼させる廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室2において、メインバーナ部2aと対向する位置に、メインバーナ部2aから吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧する水噴霧装置10a,10bを設けた。さらに、メインバーナ部2a近傍における燃焼室内温度を測定する温度計11を設けるとともに、この温度計11で測定した燃焼室内温度が所定範囲内となるように水の噴霧量を制御する制御装置12を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
廃棄物をガス化、溶融するガス化溶融炉で発生する可燃性ガスを燃焼させる廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室及びその燃焼室における可燃性ガスの燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃棄物ガス化溶融設備においては、廃棄物をガス化溶融炉でガス化、溶融し、ガス化により生成した可燃性ガスを燃焼室に導入して燃焼させる。次いで、燃焼後の高温の燃焼排ガスをボイラに送って熱回収を行い、さらに熱回収後の燃焼排ガスを排ガス処理装置で無害化し煙突より排出する。
【0003】
このようなガス化溶融設備の燃焼室においては、可燃性ガスを燃焼させるために、可燃性ガスを燃焼用空気とともにメインバーナ部から導入するようにしており、これにより、可燃性ガスが燃焼用空気中の酸素と反応して燃焼する。
【0004】
ところが、近年、生活様式の変化で廃棄物ガス化溶融設備に持ち込まれる廃棄物の質が高カロリー化し、それに伴い、ガス化溶融炉で生成する可燃性ガスも高カロリー化し、燃焼室内の温度が高温化する傾向にある。この燃焼室内温度が約1050℃を超え、その温度が継続すると可燃性ガス中に含まれる灰分が軟化しクリンカとして燃焼室の内壁に付着するという問題が生じる。また、燃焼室においては、メインバーナ部から火炎が吹き出すように発生するので、可燃性ガスが高カロリー化すると火炎の勢いも増し、とくにメインバーナ部と対向する燃焼室内壁の耐火物の損傷が激しくなるという問題もある。
【0005】
これに対して、特許文献1には、流動床式の焼却炉において、未燃ガスを燃焼させるための二次空気を吹き込む二次空気吹き込み口に水噴霧ノズルを設け、未燃ガスの燃焼熱の一部を水の蒸発潜熱として消費することにより、炉内温度の高温化を抑制する技術が開示されている。
【0006】
しかし、単に二次空気吹き込み口から水を噴霧するだけでは、噴霧された水が、二次空気吹き込み口からの二次空気の吹き込みによって発生する火炎と上手く混合されず、冷却効果が十分に発揮されずに局所的に高温になってクリンカが生成することがある。また、二次空気吹き込み口からの二次空気の吹き込みによって発生する火炎の流れが、二次空気の流れによって二次空気吹き込み口と対向する焼却炉内壁に直接当たりその内壁の耐火物の損傷が激しくなるという問題がある。さらに、未燃ガスの着火点に水が噴霧されることになるので、着火性が悪化し、未燃ガスの燃焼性が低下するという問題もある。
【0007】
また、特許文献1の技術では、二次空気吹き込み口より上流の燃焼排ガスの酸素濃度を検出して二次空気量を増減し、その増減量に応じて二次空気吹き込み口における噴霧水量を増減することにより、炉内温度を所定温度以下に保つようにしているが、炉内温度の増減と燃焼排ガスの酸素濃度の増減との間に時間差が生じるため、実際に炉内温度を常に所定温度以下に保つことは困難である。
【0008】
以上のように、特許文献1の技術は、クリンカの生成等、炉内温度(燃焼室内温度)の高温化に伴い発生する諸問題に対する対策としては十分ではない。
【特許文献1】特開平5−118523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室において、可燃性ガスの燃焼性を低下させることなく燃焼室内温度の高温化を効率的に抑制し、クリンカの生成や内壁の耐火物の損傷を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、廃棄物をガス化、溶融するガス化溶融炉で発生する可燃性ガスを燃焼用空気とともにメインバーナ部から導入して燃焼させる廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室において、メインバーナ部と対向する位置に、メインバーナ部から吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧する水噴霧ノズルを設けたことを特徴とするものである。
【0011】
このように、本発明ではメインバーナ部と対向する位置から、メインバーナ部から吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧するので、火炎の流れと噴霧水の流れが対向流となり火炎と噴霧水が良く混合されるので、高温となるメインバーナ部近傍の燃焼室内温度を効率的に下げることができる。また、噴霧水がメインバーナ部から吹き出す火炎に正面から衝突するので、火炎の流れの勢いが弱められ、メインバーナ部と対向する燃焼室内壁に到達しなくなり、燃焼室内壁の耐火物の損傷を軽減できる。さらに、燃焼室に導入される可燃性ガスはメインバーナ部で着火し、その着火点は水が噴霧される位置とは異なるので、着火性が悪化して燃焼性が低下することもない。
【0012】
本発明においては、メインバーナ部近傍における燃焼室内温度を測定する温度計を設けるとともに、この温度計で測定した燃焼室内温度が所定範囲内となるように水の噴霧量を制御する制御装置を設けることが好ましい。このように、最も高温となるメインバーナ部近傍における燃焼室内温度を直接的に測定し、これを指標として水の噴霧量を制御することにより、燃焼室内温度の制御性が向上するとともに、クリンカの生成に繋がるような燃焼室内温度の高温化を確実に防止できる。
【0013】
また、本発明において、水噴霧ノズルは、燃焼室に冷却用ガスを吹き込むために設けられているガス吹込ノズルの中に配置することができる。
【0014】
そして、本発明においては、燃焼室の出口近傍におけるガス温度を測定する温度計を設けるとともに、この温度計で測定したガス温度が所定範囲内となるように、ガス吹込ノズルから吹き込む冷却用ガス量を制御する制御装置を設けることが好ましい。このように、燃焼室の出口近傍におけるガス温度を所定範囲内に維持することで、その後のボイラにおける熱回収を安定して行うことができる。
【0015】
この冷却用ガスとしては、燃焼室より下流側の煙道から取り出した燃焼排ガスを使用することが好ましい。より好ましくは、燃焼室を出て、熱回収、冷却、除塵後の燃焼排ガスを使用する。このように冷却用ガスとして燃焼用排ガスを使用することで、新たに空気等の冷却用ガスを吹き込む必要がなくなる。すなわち、燃焼排ガスは、煙道から取り出されるので、これを燃焼室内に吹き込んでも煙突排ガス量の増加に繋がらず、また、空気よりも酸素濃度が低いので、冷却用ガスとして好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室において、メインバーナ部と対向する位置から、メインバーナ部から吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧することにより、可燃性ガスの燃焼性を低下させることなく燃焼室内温度の高温化を効率的に抑制し、クリンカの生成や内壁の耐火物の損傷を抑制できる。
【0017】
また、メインバーナ部近傍における燃焼室内温度を指標として、この燃焼室内温度が所定範囲内となるように水の噴霧量を制御することにより、燃焼室内温度の制御性が向上するとともに、クリンカの生成に繋がるような燃焼室内温度の高温化を確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室を示す構成図である。
【0020】
図1の廃棄物ガス化溶融設備では、廃棄物をシャフト炉式のガス化溶融炉1でカス化、溶融し、ガス化により生成した可燃性ガスを燃焼用ガスとともにメインバーナ部2aから燃焼室2に導入して燃焼させる。次いで、燃焼後の高温の燃焼排ガスをボイラ3に送って熱回収を行い、熱回収後の燃焼排ガスを減温塔4に送って水を噴霧することにより冷却し、集塵機5に送って燃焼排ガス中のダスト類を除塵する。その後、再加熱器6で燃焼排ガスを再加熱し、触媒反応塔7に送って燃焼排ガス中のダイオキシン類を無害化し煙突8より排出する。なお、上述した燃焼室2以降の燃焼排ガスの流れを形成するために、図1では、集塵機5と再加熱器6との間に誘引通風機9を配置している。
【0021】
このような基本構成において、本発明では、燃焼室2のメインバーナ部2aと対向する位置に、メインバーナ部2aから吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧する水噴霧ノズル10a,10bを設けている。
【0022】
図2は、水噴霧ノズル10a,10b部分の詳細構成を示すとともに、水噴霧ノズル10a,10bからの水の噴霧状況を概念的に示す説明図である。水噴霧ノズル10a,10bは、燃焼室2内に冷却用ガスを吹き込むために設けられているガス吹込ノズル10c,10d内に配置されており、噴霧用ガスを使用して水を噴霧する。具体的には、上段の水噴霧ノズル10aからはメインバーナ部2aから吹き出す火炎Fの頂部F1に向けて水を噴霧し、下段の水噴霧ノズル10bからはメインバーナ部2aから吹き出す火炎Fの下面部F2に向けて水を噴霧する。
【0023】
これらの水噴霧ノズル10a,10bにおいては、その先端のノズルチップ10a−1,10b−1の保護のため、水噴霧を行っていないときでも例えば燃焼室2内の温度が100℃以上であれば、噴霧用ガスを流してノズルチップ10a−1,10b−1を冷却するようにしている。しかし、水噴霧ノズル10a,10bは、メインバーナ部2a近傍の壁部の温度が1000℃前後という非常に過酷な状態で使用されるため、噴霧用ガスによる冷却だけでなく、それ以上の冷却を行うことが好ましい。そこで、本実施例では、上述のとおり水噴霧ノズル10a,10bをガス吹込ノズル10c,10d内に配置し、ガス吹込ノズル10c,10dに流す冷却用ガスも利用してノズルチップ10a−1,10b−1を冷却するようにしている。
【0024】
本実施例では、この冷却用ガスとして燃焼室2より下流側の煙道から取り出した燃焼排ガス、具体的には誘引通風機9の下流側の煙道から取り出した燃焼排ガスを使用している。すなわち、誘引通風機9の下流側の煙道から取り出した燃焼排ガスを、送風機19を介して冷却用ガス供給配管17によってガス吹込ノズル10c,10dに供給するようにしている。なお、冷却用ガス供給配管17から水噴霧ノズル10a,10bへのバイパス管を設け、水噴霧ノズル10a,10bから水噴霧を行っていないときに流す冷却用ガスとして燃焼排ガスを使用するようにしてもよい。
【0025】
また、図1に示す燃焼室2には、メインバーナ部2a近傍における燃焼室内温度として、メインバーナ部2aと対向する位置の燃焼室2の壁面温度を測定する放射温度計11を設け、この放射温度計11で測定した壁面温度が所定範囲内(950〜1050℃程度)となるように水の噴霧量を制御するようにしている。具体的には、放射温度計11で測定した壁面温度に応じて、制御装置12によって噴霧水供給配管13に設けている流量調節弁14の開度を調節して水噴霧ノズル10a,10bからの噴霧水量を制御する。
【0026】
図3にその制御結果の一例を示す。この例では、放射温度計11で測定した前記の壁面温度が950〜1050℃の目標範囲内になるように、その測定した壁面温度に応じて噴霧水量を変化させた。なお、水の噴霧は、放射温度計11で測定した壁面温度が1020℃以上かつ、後述するガス温度計15で測定した燃焼室2の出口近傍のガス温度が895℃以上となったときに開始し、放射温度計11で測定した壁面温度が980℃以下、又はガス温度計15で測定した燃焼室2の出口近傍のガス温度が880℃以下となったときに停止するようにした。その結果、図3に示すようにメインバーナ部2a近傍の燃焼室内温度(壁面温度)はほぼ目標範囲に収まり、クリンカの生成もほとんど見られなかった。
【0027】
また、図1に示す燃焼室2には、その出口近傍におけるガス温度を測定するガス温度計15を設け、このガス温度計15で測定したガス温度が所定範囲内(900〜925℃程度)となるように前記の冷却用ガス量を制御するようにしている。具体的には、ガス温度計15で測定したガス温度に応じて、制御装置16によって冷却用ガス供給配管17に設けている流量調節弁18の開度を調節してガス吹込ノズル10a,10bに供給する冷却用ガス量を制御する。
【0028】
図4にその制御結果の一例を示す。この例では、ガス温度計15で測定した燃焼室2の出口近傍のガス温度が900〜925℃の目標範囲内に収まるようにするため、その測定したガス温度が910℃になるようにPID制御で冷却用ガス量を変化させた。その結果、図4に示すように燃焼室2の出口近傍のガス温度はほぼ目標範囲に収まり、ボイラ3による熱回収を安定して行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室を示す構成図である。
【図2】図1における水噴霧ノズル部分の詳細構成を示すとともに、水噴霧ノズルからの水の噴霧状況を概念的に示す説明図である。
【図3】水噴霧ノズルからの噴霧水量の制御結果の一例を示す。
【図4】冷却用ガス量の制御結果の一例を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 ガス化溶融炉
2 燃焼室
2a メインバーナ部
3 ボイラ
4 減温塔
5 集塵機
6 再加熱器
7 触媒反応塔
8 煙突
9 誘引通風機
10a,10b 水噴霧ノズル
10a−1,10b−1 ノズルチップ
10c,10d ガス吹込ノズル
11 放射温度計
12 制御装置
13 噴霧水供給配管
14 流量調節弁
15 ガス温度計
16 制御装置
17 冷却用ガス供給配管
18 流量調節弁
19 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物をガス化、溶融するガス化溶融炉で発生する可燃性ガスを燃焼用空気とともにメインバーナ部から導入して燃焼させる廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室において、メインバーナ部と対向する位置に、メインバーナ部から吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧する水噴霧ノズルを設けたことを特徴とする廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室。
【請求項2】
メインバーナ部近傍における燃焼室内温度を測定する温度計を設けるとともに、この温度計で測定した燃焼室内温度が所定範囲内となるように水の噴霧量を制御する制御装置を設けた請求項1に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室。
【請求項3】
水噴霧ノズルが、燃焼室内に冷却用ガスを吹き込むガス吹込ノズル内に配置されている請求項1又は2に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室。
【請求項4】
燃焼室の出口近傍におけるガス温度を測定する温度計を設けるとともに、この温度計で測定したガス温度が所定範囲内となるように、ガス吹込ノズルから吹き込む冷却用ガス量を制御する制御装置を設けた請求項3に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室。
【請求項5】
前記冷却用ガスとして、燃焼室より下流側の煙道から取り出した燃焼排ガスを使用する請求項3又は4に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室。
【請求項6】
廃棄物をガス化、溶融するガス化溶融炉で発生する可燃性ガスを燃焼用空気とともにメインバーナ部から導入して燃焼させる燃焼室において、メインバーナ部と対向する位置から、メインバーナ部から吹き出す火炎の頂部及び下面部に向けて水を噴霧することを特徴とする廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室における燃焼方法。
【請求項7】
メインバーナ部近傍における燃焼室内温度を測定し、この燃焼室内温度が所定範囲内となるように水の噴霧量を制御する請求項6に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室における燃焼方法。
【請求項8】
水を噴霧する水噴霧ノズルを、燃焼室内に冷却用ガスを吹き込むガス吹込ノズル内に配置し、さらに燃焼室の出口近傍におけるガス温度を測定し、このガス温度が所定範囲内となるように、ガス吹込ノズルから吹き込む冷却用ガス量を制御する請求項6又は7に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室における燃焼方法。
【請求項9】
前記冷却用ガスとして、燃焼室より下流側の煙道から取り出した燃焼排ガスを使用する請求項8に記載の廃棄物ガス化溶融設備の燃焼室における燃焼方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−19852(P2009−19852A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184741(P2007−184741)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】