説明

廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置

【課題】再生固形燃料の発熱量を大きく低下させることなく、しかも、容器内雰囲気を加熱すべく高性能又は大形の加熱装置を反応容器自体に設けることなく、有機塩素を含む混合廃棄物を加熱して該廃棄物を効果的に破砕し且つ脱塩する。
【解決手段】廃棄物と、廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物とを反応器内に導入し、2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気を反応器内に供給して反応器内の温度を飽和水蒸気の温度に保持する。この状態で廃棄物及び化合物を混合・攪拌して、混合廃棄物を熱分解するとともに、有機塩素及び金属元素の反応により無機塩を生成する。反応器内の水蒸気によって反応器外に導出するとともに、反応器内に残留し且つ前記無機塩を含む固形分を再生固形燃料として反応器外に導出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合廃棄物の廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置に関するものであり、より詳細には、水蒸気による加熱処理によって混合廃棄物を再生燃料化する際に、廃棄物中の有機塩素を無機塩素に転換して無害化する廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生ゴミ、食品廃棄物、農業廃棄物、林産廃棄物、医療系廃棄物等の混合廃棄物を加熱容器内に収容して加熱・攪拌し、水熱反応によって廃棄物を減容し、微細化し又は微粉化する水熱方式の廃棄物処理装置が知られている(特開2003−306825号公報)。
【0003】
このような混合廃棄物を容器内に収容し、高温・高圧の水蒸気によって廃棄物を数十分間加熱(蒸煮)した後、容器内圧力を瞬間的に開放し、水の断熱膨張のエネルギーによって固体成分を粉砕(爆砕)する水蒸気爆砕(蒸煮爆砕)方式の廃棄物処理装置が知られている(特開2003−47409号公報、特許第3613567号公報)。
【0004】
また、混合廃棄物を水中処理する処理容器を使用し、容器内の圧力及び温度を高温・高圧に保持した状態で熱水及び廃棄物を攪拌する廃棄物燃料化装置が、特開2007−112880号等に記載されている。この方式の燃料化装置は、1.55MPa、200℃以上の高温・高圧水によって廃棄物を溶融し且つ加水分解するように構成される。
【0005】
PVC(ポリ塩化ビニル)等のプラスチック類を含む混合廃棄物の焼却処理又は固形燃料化等の技術が環境負荷軽減等の見地より近年殊に注目されている。PVC(ポリ塩化ビニル)等を含む混合廃棄物の燃焼時に発生する塩化水素(HCl)は、燃焼・焼却設備の腐食等の問題を生じさせるばかりでなく、燃焼・焼却装置の運転条件によっては、ダイオキシン副生等の問題を更に生じさせることが懸念される。このため、特開平2000−344934号公報に記載される如く、廃棄物を300℃以上に加熱して溶融し、廃プラスチック類の熱分解により塩化水素を気化・分離する脱塩化水素処理(脱塩処理また脱塩素処理)が実施され、或いは、特開平7−305825号公報に記載される如く、カルシウム化合物を廃棄物とともに燃焼炉内に投入し、廃棄物の焼却時に発生する塩化水素をカルシウム化合物と反応せしめて無害化する脱塩処理が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−306825号公報
【特許文献2】特開2003−47409号公報
【特許文献3】特許第3613567号公報
【特許文献4】特開2007−112880号公報
【特許文献5】特開平2000−344934号公報
【特許文献6】特開平7−305825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高温・高圧水又は飽和水蒸気による混合廃棄物の加水分解、容器内圧力の急激な減圧による含水廃棄物の爆砕、或いは、加水分解及び爆砕の両作用により、廃棄物の無害化、微粉砕及び乾燥を図る従来の廃棄物処理装置(特許文献1〜3)によれば、比較的高い発熱量を有する再生固形燃料を製造し、これを任意の燃焼装置等に供給し得るかもしれない。
【0008】
しかし、廃棄物の水熱処理、蒸煮処理又は蒸煮・爆砕処理によって再生固形燃料を製造する従来の廃棄物処理装置においては、通常は、200℃、1.6MPa以下の温度・圧力の高温・高圧水又は飽和水蒸気が使用されていたことから、ポリ塩化ビニル(PVC)等の廃プラスチック類を含む混合廃棄物を再生燃料化しようとすると、廃棄物中の有機塩素が固形燃料中に残留してしまう。このため、再生固形燃料をセメントキルン等の燃焼炉に燃料として供給した場合、塩化水素が炉内に発生して炉の閉塞、炉体の腐食等の問題が生じる。
【0009】
これに対し、処理容器内の圧力及び温度を1.55MPa、200℃以上に保持し、高温・高圧の熱水によって廃棄物を加水分解するように構成された上記燃料化装置(特許文献4)によれば、混合廃棄物中のポリ塩化ビニル等を熱分解して塩化水素を気化させ、塩化水素を水蒸気とともに系外に排出することが可能であろうと考えられる。
【0010】
しかし、このような高温・高圧状態に処理容器内雰囲気を維持するには、容器内の混合廃棄物及び水を加熱し且つ高温高圧状態に保持すべく多量の熱を容器内に供給しなければならず、このため、処理容器は、容器内雰囲気を加熱する高性能且つ大形の加熱装置を要するとともに、この種の加熱装置を作動すべく多量の電力又は燃料を加熱装置に供給する必要が生じる。また、250℃を超える温度に容器内雰囲気を加熱した場合、廃棄物中の塩素のみならず、廃棄物に含まれる有用な有機物も同様に熱分解・気化してしまうので、水蒸気とともに容器外に排出される有機物濃度が増加する傾向があり、これは、容器内に残留する再生固形燃料の発熱量を大きく低下させる要因となる。
【0011】
また、ポリ塩化ビニル等の廃プラスチック類を含む混合廃棄物を300℃以上の高温に加熱・溶融して塩化水素を気化・分離する脱塩方法(特許文献5)は、塩化水素を除去する有効な手段であるかもしれないが、廃棄物を加熱・溶融する比較的大規模且つ高性能の加熱・溶融装置を要する。しかも、生活系廃棄物等の如く、多くの混合廃棄物には特定困難な種々の物質が混在することから、このような混合廃棄物を単一の加熱・溶融装置によって一様に加熱・溶融することは、現実には極めて困難である。
【0012】
更に、カルシウム化合物を廃棄物とともに燃焼炉内に投入する脱塩方法(特許文献6)は、廃棄物焼却時に高温炉内雰囲気で発生する塩化水素を無害化するためのものであるにすぎず、これは、廃棄物焼却前の前処理過程、或いは、廃棄物の再生燃料化の過程において廃棄物を脱塩するための技術に対して適用し得る方法ではない。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、再生固形燃料の発熱量を大きく低下させることなく、しかも、容器内雰囲気を加熱すべく高性能又は大形の加熱装置を反応容器自体に設けることなく、有機塩素を含む混合廃棄物を加熱して該廃棄物を効果的に破砕し且つ脱塩することができる混合廃棄物の脱塩処理装置及び脱塩処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成すべく、有機塩素を含む混合廃棄物を高温・高圧の容器内領域で熱分解させて脱塩する廃棄物脱塩方法において、
前記廃棄物と、該廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物とを反応器内に導入し、
2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気を前記反応器内に供給して該反応器内の温度を前記飽和水蒸気の温度に保持した状態で、前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌して、前記混合廃棄物を熱分解するとともに、前記有機塩素及び前記金属元素を反応せしめて無機塩を生成し、
前記反応器内の水蒸気を反応器外に導出するとともに、前記反応器内に残留し且つ前記無機塩を含む固形分を再生固形燃料として反応器外に導出することを特徴とする廃棄物脱塩方法を提供する。
【0015】
本発明は又、有機塩素を含む混合廃棄物を高温・高圧の容器内領域で熱分解させて脱塩する廃棄物脱塩装置において、
前記廃棄物が導入される反応器と、
前記廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物を前記反応器内に導入する無機塩生成剤供給装置と、
2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気を前記反応器内に供給する水蒸気供給装置と、
前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌する攪拌装置とを有し、
前記水蒸気供給装置によって前記反応器内に前記飽和水蒸気を充填して該反応器内の温度を前記飽和水蒸気の温度に保持した状態で、前記攪拌装置を作動して前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌するようにしたことを特徴とする廃棄物脱塩装置を提供する。
【0016】
本発明の上記構成によれば、2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気が反応器内に供給され、反応器内の温度は、飽和水蒸気の温度に所定時間保持される。圧力2.0〜3.0MPaの飽和水蒸気の温度は、約212〜233℃であり、従って、反応器内の温度は、約212〜233℃の範囲内の所定温度に所定時間保持される。
【0017】
反応器内の飽和水蒸気は、廃棄物と接触して凝縮する。廃棄物は、水蒸気が保有する多大な潜熱を受熱して熱分解し、或いは、加水分解される。廃棄物は、主として飽和水蒸気の潜熱によって加熱されるので、容器内雰囲気を加熱する高性能又は大形の加熱装置を反応容器自体に設ける必要は生じない。
【0018】
反応器内の温度は、飽和水蒸気の温度、即ち、約212〜233℃の範囲内の所定温度に制御されるが、この温度域においては、ポリ塩化ビニル(PVC)等の有機塩素化合物の熱分解反応が進行する一方、炭化水素又は炭素化合物の熱分解反応はほとんど進行しないことが判明している。即ち、混合廃棄物中の有機塩素のみが塩化水素として離脱するのに対し、混合廃棄物中の有機化合物及び炭化水素の熱分解はさほど進行しない。このため、混合廃棄物が保有する可燃分は気化又は液化によって固形分からほとんど流出せず、従って、比較的高い発熱量の固形分が反応器内に残留する。
【0019】
本発明者は、このような混合廃棄物の水熱処理について各種実験を実施したが、その実験過程において、以下の事実に遭遇した。
【0020】
(1)塩基又は塩基性化合物の含有量が比較的少ない医療系廃棄物等の混合廃棄物を水熱処理する場合には、反応器内で気化した塩化水素の多くは水蒸気によって効果的に反応器外に排出し得る。
【0021】
(2)水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の塩基又は塩基性化合物を比較的多量に含む混合廃棄物を水熱処理すると、熱分解によって廃棄物から離脱する塩化水素が廃棄物中の金属元素化合物と反応し、比較的多量の無機塩を生成する結果、廃棄物中の塩素を所望の如く水蒸気側に移行させることが困難な状況が生じ易い。
【0022】
本発明者は、このような実験結果に鑑み、廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物を積極的に反応器内に投入し、この化合物を上記温度条件の飽和水蒸気の存在下に廃棄物と一緒に混合・攪拌する構成を上記の如く採用したものである。
【0023】
このような化合物の金属元素は、熱分解により離脱した塩化水素と反応して廃棄物中に無機塩を生成し、無機塩として廃棄物中に残留する。本発明において、「脱塩」は、このようにして有機化合物中の塩素(有機塩素)を無機塩の塩素(無機塩素)に転換すること(即ち、有機塩素を無機塩素化する脱有機塩素処理を行うこと)を意味する。無機塩を含む再生固形燃料は、燃焼用燃料として加熱炉、ボイラー等の燃焼装置に供給され、ガス化燃料としてガス化炉又は熱分解炉に供給され、或いは、油化原料として油化装置に供給されるが、一旦無機化した塩素は、極めて高温(1400℃以上)の燃焼雰囲気において燃焼させない限り、燃焼排ガス中に放出されず、実質的にその全てが焼却残渣として燃焼灰中に残留し、或いは、油化残渣として熱分解釜等に残留する。従って、本発明に従って有機塩素を無機塩素化することにより、従来実施されていた脱塩処理の効果と実質的に同じ効果が得られる。
【0024】
なお、本願明細書においては、「有機塩素」は、水に溶けない非可溶性の有機化合物中の塩素として定義され、「無機塩素」は、水に溶ける可溶性の無機塩中の塩素として定義される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置によれば、再生固形燃料の発熱量を大きく低下させることなく、しかも、容器内雰囲気を加熱すべく高性能又は大形の加熱装置を反応容器自体に設けることなく、有機塩素を含む混合廃棄物を加熱して該廃棄物を効果的に破砕し且つ脱塩することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施例に係る脱塩方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図2】図1に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図であり、廃棄物処理装置の作動工程が段階的に示されている。
【図3】水熱処理実験の結果として得られた水熱処理後の各試料の塩素含有率を示す線図である。
【図4】水熱処理実験の結果として得られた水熱処理後の各試料の総発熱量を示す線図である。
【図5】本発明の第2実施例に係る脱塩方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】図5に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図である。
【図7】本発明の第3実施例に係る脱塩方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】図7に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図である。
【図9】図7に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図であり、図8に示す工程に後続する工程が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましくは、上記金属元素は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、上記化合物は、これら金属元素の酸化物、水酸化物又は炭酸塩である。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、飽和水蒸気の圧力は、2.5〜3.0MPaの範囲内の所定圧力、例えば、2.8MPaに設定され、反応器内の温度は、約224〜233℃の範囲内の温度、例えば、約230℃に設定される。
【0029】
本発明の或る好適な実施形態においては、第2の反応器が更に設けられ、上記反応器(第1反応器)内の固形分は、第1反応器から第2反応器に移送され、第2反応器において乾燥処理を受ける。好ましくは、外気温相当の温度の空気又は所定温度に加熱された空気が、乾燥用空気として第1及び/又は第2反応器内に強制通風される。反応器内雰囲気は換気され、反応器内の固形分は常温空気又は加温空気の通風によって強制乾燥される。
【0030】
好ましくは、第1反応器内の温度又は圧力を検出して、第1反応器に対する飽和水蒸気の供給を制御する制御系設備が設けられる。所望により、この制御系設備は、乾燥工程において乾燥領域(容器内領域)の雰囲気(温度、湿度等)を計測する計測手段を更に有し、乾燥用機器類の運転をも制御するように構成される。
【0031】
上記所定時間(保持時間)は、少なくとも15分、好ましくは、30分以上、更に好ましくは、1時間以上の時間(例えば、90分)に設定される。
【0032】
所望により、第1反応器内の固形分は第1反応器内で加水・混合攪拌され、或いは、混合攪拌槽に導入されて加水され且つ所定時間混合攪拌され、この結果、固形分はスラリー化する。固形分中に残留した無機塩は、第1反応器内又は混合攪拌槽内において水中に溶出する。好ましくは、加水される水の重量は、反応器内の固形分1重量部に対して2〜50重量部の範囲内に設定される。固形分を含むスラリーは固液分離装置に導入され、固液分離される。水に溶出した塩は、水溶液として系外に排出される。更に好ましくは、固液分離した固形分は、第2反応器に移送され、乾燥処理を受ける。所望により、外気相当温度の空気又は所定温度に加熱された空気が乾燥空気として第2反応器に通風され、乾燥空気は、固形分を強制乾燥させる。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の第1実施例に係る脱塩方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示すブロック図である。
【0034】
廃棄物処理装置は、第1反応器、第2反応器及び排水処理装置を有する。ポリ塩化ビニル(PVC)を比較的多量に含む混合廃棄物が第1反応器内に供給されるとともに、廃棄物中の有機塩素を無機塩素に転換する無機塩生成剤として、塩化水素と反応して無機塩を生成するカルシウム、マグネシウム、ナトリウム又はカリウムの酸化物、水酸化物又は炭酸塩、例えば、生石灰(CaO)が第1反応器内に供給される。なお、前述のとおり、本明細書においては、「有機塩素」は、水に溶けない非可溶性の有機化合物中の塩素として定義され、「無機塩素」は、水に溶ける可溶性の無機塩中の塩素として定義される。
【0035】
高温・高圧の飽和水蒸気が第1反応器内に更に供給される。第1反応器は、容器内の温度及び圧力を検出する温度検出器T及び圧力検出器Pを有し、検出器T、Pは、制御装置(制御ユニット)C/Uに接続される。制御装置C/Uは、水蒸気供給源に制御信号を出力し、或いは、水蒸気供給系設備の弁類等を制御し、これにより、第1反応器に供給される水蒸気の圧力及び供給量(流量)等を制御する。
【0036】
第1反応器内の飽和水蒸気の圧力は、2.0〜3.0MPaの範囲内、好ましくは、2.5〜3.0MPaの範囲内の所定圧力、例えば、2.8MPaに設定される。圧力2.0〜3.0MPaの飽和水蒸気の温度は、約212〜233℃であり、圧力2.5〜3.0MPaの飽和水蒸気の温度は、約224〜233℃である。また、圧力2.8MPaの飽和水蒸気の温度は、約230℃である。
【0037】
本実施形態においては、2.0〜3.0MPaの範囲内(好ましくは、2.5〜3.0MPaの範囲内)の所定圧力の飽和水蒸気を供給可能な既存又は既設の水蒸気発生装置、例えば、発電設備の既設水蒸気ボイラーや、同等の他の既設水蒸気ボイラーを水蒸気供給源として好適に使用し得る。所望により、このような圧力の飽和水蒸気を供給可能な水蒸気発生装置を新たに設置しても良い。なお、3.0MPaを超える高圧の水蒸気を発生させ且つ供給する水蒸気供給設備は、耐圧性、耐久性等の観点より比較的高度又は特殊な技術を要し、水蒸気ボイラー等の機器又は装置の初期費用(購入・設置費用等)もかなり高額化するのに対し、圧力3.0MPa以下の飽和水蒸気を利用する限りにおいては、上記の如く既存又は汎用の設備を利用することが可能であり、また、仮に水蒸気供給系設備を新設する場合であっても、比較的容易に水蒸気供給系設備を新設することが可能であると考えられる。
【0038】
制御装置C/Uは、検出器T、Pの検出結果に基づいて第1反応器内の飽和水蒸気の圧力及び温度を上記圧力及び温度に所定時間保持するように水蒸気供給源に制御信号を出力し、或いは、水蒸気供給系設備を制御する。第1反応器内の圧力及び温度の保持時間は、少なくとも15分、好ましくは、30分以上、更に好ましくは、1時間以上の時間に設定される。
【0039】
生石灰(CaO)等の無機塩生成剤を添加した混合廃棄物は、第1反応器内で混合攪拌され、第1反応器内の飽和水蒸気と接触する。飽和水蒸気は凝縮し、水蒸気が保有する多大な潜熱は混合廃棄物に対して放熱される。約212〜233℃の温度域においては、ポリ塩化ビニル(PVC)の熱分解反応は進行するが、炭化水素又は炭素化合物の熱分解反応は生じないことが判明している。即ち、約212〜233℃の温度域においては、実質的に混合廃棄物中の有機塩素のみが塩化水素ガスとして気化しようとするが、混合廃棄物中の有機化合物及び炭化水素の熱分解はさほど進行せず、従って、混合廃棄物が保有する可燃分の多くは、気化又は液化によって固形分から多量に流出することなく、比較的高い発熱量の固形分が第1反応器内に残留する。
【0040】
生石灰(CaO)等の無機塩生成剤は、第1反応器内において混合廃棄物と混合する。本発明者の実験によれば、アルカリ化合物の含有量が少ない医療系廃棄物等を約212〜233℃の水蒸気によって加熱処理した場合、廃棄物中の有機塩素が相当量離脱し、塩化水素(HCl)として水蒸気に移行するが、塩化水素と反応して無機塩を生成する生石灰(CaO)等の無機塩生成剤を混合した廃棄物を約212〜233℃の水蒸気によって加熱処理した場合、カルシウム等の金属元素が塩化水素の塩素と反応して塩化カルシウム(CaCl2)等の無機塩を生成する。従って、水蒸気への塩化水素の移行は抑制される。有機塩素は無機塩素に転換され、無機塩として廃棄物中に残留する。
【0041】
制御装置C/Uは、第1反応器内の飽和水蒸気の圧力及び温度を所定時間保持した後、第1反応器の水蒸気を廃蒸気として排水処理装置に排出するように第1反応器の廃蒸気排出装置(図示せず)を制御し、廃蒸気は、排水処理装置に排出される。廃蒸気は、排水処理装置において凝縮し且つ中和処理を受け、しかる後、排水系管路(図示せず)を介して系外に排水される。
【0042】
制御装置C/Uは又、第1反応器内に残留した固形分を第2反応器に移送するように第1反応器の固形分移動装置(図示せず)を制御する。第2反応器に移動した固形分は、第2反応器において乾燥処理(又は脱水・乾燥処理)を受ける。乾燥後の固形分は、第2反応器から排出され、無機塩を含む再生固形燃料、例えば、石炭代替の固形燃料として外部施設等に出荷される。所望により、再生固形燃料の一部は、水蒸気供給源を構成する水蒸気ボイラー等(図示せず)の燃料として使用される。
【0043】
無機塩を含む再生固形燃料は、加熱炉、ボイラー等の燃焼装置に供給されて燃焼反応するが、一旦無機化した塩素は、極めて高温(1400℃以上)の燃焼雰囲気において燃焼させない限り、燃焼排ガス中に放出されず、実質的にその全てが焼却残渣として燃焼灰中に残留する。このため、炉の閉塞、炉体の腐食、有害ガス発生等の問題は解消する。即ち、上記の如く有機塩素を無機塩素化することにより、従来の脱塩処理による効果と実質的に同じ効果が得られる。また、再生固形燃料を油化原料として油化装置に供給しても良く、この場合、再生固形燃料に含まれる無機塩は、油化残渣として熱分解釜等に残留する。
【0044】
図2は、図1に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図である。図2には、廃棄物処理装置の作動工程が段階的に示されている。
【0045】
図2(A)に示す如く、第1反応器は、混合廃棄物W0を第1反応器内に導入するピストン・シリンダ式押出機又はホッパー等の廃棄物供給機を備える。第1反応器には、水蒸気供給系設備の水蒸気供給管路が接続されるとともに、生石灰(CaO)等の無機塩生成剤を第1反応器内に導入する無機塩生成剤供給装置が接続される。
【0046】
第1反応器は、容器内の水熱反応域に投入された混合廃棄物W1を強制的に攪拌する攪拌装置を備える。攪拌装置は、反応器本体に水平に支承された回転軸と、回転軸に固定され且つ回転軸から径方向に延びる攪拌羽根と、回転軸を回転駆動する電動モータMとを有し、混合廃棄物W1は、回転軸及び攪拌羽根の回転運動によって攪拌される。
【0047】
廃棄物供給機は、制御装置C/Uの制御下に混合廃棄物W0を第1反応器内に導入し、無機塩生成剤供給装置は、生石灰(CaO)等の無機塩生成剤を制御装置C/Uの制御下に第1反応器内に導入する。
【0048】
所定圧力の飽和水蒸気が、水蒸気供給管路を介して制御装置C/Uの制御下に第1反応器内の水熱反応域に供給され、飽和水蒸気は第1反応器内の水熱反応域に充満する。第1反応器内の混合廃棄物及び無機塩生成剤は攪拌装置によって混合攪拌され、混合廃棄物は飽和水蒸気と混合接触する。反応域の飽和水蒸気は混合廃棄W1の表面で凝縮して多量の潜熱を放熱する。水蒸気が保有する多大な潜熱が混合廃棄物W1に吸熱される結果、混合廃棄物W1の熱分解反応が進行し、混合廃棄物W1は微細化又は微粉化する。
【0049】
第1反応器内の圧力及び温度は、飽和水蒸気の圧力及び温度であり、前述の如く、2.0〜3.0MPa、約212〜233℃の範囲内、好ましくは、2.5〜3.0MPa、約224〜233℃の範囲内の圧力及び温度、例えば、2.8MPa、約230℃の圧力及び温度に所定時間保持される。前述の如く、このような温度条件の下で進行する熱分解反応では、混合廃棄物中の有機塩素分は塩化水素(HCl)として水蒸気に移行しようとするが、混合廃棄物中の有機塩素分は、無機塩生成剤の金属元素(Ca等)と急激に反応して無機塩を生成する。即ち、添加された無機塩生成剤は、塩化水素(HCl)の気化を抑制する。第1反応器内に生成した無機塩は、廃棄物中に固形分として残留する。
【0050】
制御装置C/Uは、第1反応器内の飽和水蒸気の圧力及び温度を所定時間保持した後、第1反応器の水蒸気を廃蒸気として排水処理装置に排出するように第1反応器の廃蒸気排出装置(図示せず)を制御し、廃蒸気は、図2(B)に示す如く、排水処理装置に排出される。廃蒸気は、排水処理装置において凝縮し且つ中和処理を受け、しかる後、排水系管路(図示せず)を介して系外に排水される。前述の如く、無機塩生成剤が塩化水素(HCl)の気化を抑制するので、水蒸気に移行する塩化水素の量がかなり減少し、この結果、排水処理装置の負荷は軽減する。従って、排水処理装置の容量及び処理性能を大幅に低減することができる。
【0051】
所望により、第1反応器内の雰囲気を換気する換気設備又は給排気設備を第1反応器に配設し、廃蒸気後の所定時期に反応域の雰囲気を換気するように第1反応器を構成しても良い。
【0052】
図2(B)に示す如く、第1反応器に残留した固形分W1'は第2反応器に移送され、第2反応器において常温通風乾燥方式の乾燥処理(又は脱水・乾燥処理)を受ける。第2反応器には、第2反応器内の固形分W2を乾燥させるための通風用給気管及び排気管が接続される。給気管及び排気管の少なくとも一方には、送風機(図示せず)が介装され、常温外気が第2反応器に強制通風される。
【0053】
図2(C)に示す如く、乾燥後の固形分W2は、微細化又は微粉化され且つ有機塩素の無機塩素化がなされた再生固形燃料として第2反応器から払い出される。他方、第1反応器内には、混合廃棄物W1が廃棄物供給機によって新たに供給されるとともに、高温・高圧の飽和水蒸気が水蒸気供給系設備によって第1反応器内に導入される。前述の如く、混合廃棄物W1は、回転軸及び攪拌羽根の回転運動によって攪拌され、混合廃棄物W1の水熱処理(有機塩素の無機塩素化処理)が第1反応器内で進行する。以下、図2(A)〜図2(C)に示す工程が反復実施される。
【0054】
本発明者等は、図1及び図2に示す廃棄物処理装置を使用して水熱処理実験を実施した。以下に説明する表1〜3には、水熱処理実験の実験結果が示されている。
【0055】
水熱処理実験において使用された無機塩生成剤(添加剤)の成分が表1に示されている。表1に示される如く、生石灰(CaO)を主成分とする添加剤が無機塩生成剤として使用された。また、水熱処理実験の供試体として、表2に示す試料1〜5が用意された。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
試料1〜5は各々、上記第1反応器に投入され、第1反応器内に供給された圧力2.4MPa、温度約220℃の飽和水蒸気の存在下に前述の水熱処理を受けた。水熱処理時間は、90分に設定された。試料4及び5は、水熱処理後、約1時間の加熱乾燥工程を経て廃棄物処理装置から取り出され、試料2及び3は、水熱処理後、乾燥工程を経ずに直ちに廃棄物処理装置から取り出された。
【0059】
試料1は、混合廃棄物中に含まれるPVC(ポリ塩化ビニル)を模擬する試料であり、建築物等の給排水衛生設備配管として市販されているPVCパイプを適当に裁断してなる試験用原料である。
【0060】
試料2は、PVCに含まれる塩素1当量と反応する生石灰の理論量(2当量)に対し、その3倍量(即ち、6当量)に相当する量の生石灰を含む添加剤を試料1に対して加え且つ混合してなる試料である。
【0061】
試料3は、PVCに含まれる塩素1当量と反応する生石灰の理論量(2当量)に対し、その2倍量(即ち、4当量)に相当する量の生石灰を含む添加剤を試料1に対して加え且つ混合してなる試料である。
【0062】
試料5は、現実の医療施設(病院)から排出された未調整の医療系廃棄物であり、試料4は、試料5の医療系廃棄物に対して適量の無機塩生成剤(添加剤)を混合してなる試料である。
【0063】
表2には、エシュカ法によって測定された試料1〜5の全塩素(有機塩素及び無機塩素)含有率(重量%)が示されている。図3は、表2に示された全塩素含有率を示す線図である。
【0064】
生石灰を添加した試料2及び3は、その全量の増大に伴って、相対的な塩素分の比率、即ち、全塩素含有率が低減している。なお、試料4及び5は現実の医療系廃棄物であり、試料4及び5における全塩素含有率の僅かな相違は、有意な数値差ではない。
【0065】
表2及び図3には、第1反応器から取り出された試料2〜5の各々に関し、その無機塩素含有率(重量%)及び有機塩素含有率(重量%)が示されている。無機塩素含有率は、試料2〜5の水洗によって水溶液中に溶出した可溶性塩素(無機塩素)の塩素量測定結果であり、有機塩素含有率は、水洗残渣に残留した非可溶性塩素(有機塩素)の塩素量測定結果である。また、表2には、有機塩素含有率及び無機塩素含有率に関し、「全塩素を100とした割合」が示されている。なお、試料1については、有機塩素含有率及び無機塩素含有率の値が表2に示されていないが、試料1に含まれる全塩素が有機塩素であると考えられる。また、表2の最右欄に示されるように、有機塩素及び無機塩素の割合の合計値は100に一致しない。これは、水熱処理後の試料の混合状態が不均一であることにより生じた測定誤差によるものである。
【0066】
表2に示されるように、水熱処理後の試料2及び3は、比較的多量の無機塩素を含む。これは、試料2及び3に含まれる有機塩素の多くが、水熱処理によって無機塩素に転換したことを意味する。また、水熱処理後の試料4及び5を対比すると、添加剤(生石灰)を加えて水熱処理した試料4では、無機塩素含有率が有機塩素含有率よりも高いのに対し、添加剤(生石灰)を添加せずに水熱処理した試料5では、逆に、無機塩素含有率が有機塩素含有率よりも低い。これは、添加剤(生石灰)を添加した状態で水熱処理を行うことにより、有機塩素を無機塩素に転換し得ることを顕著に示している。
【0067】
表3には、水熱処理後の試料1〜5に関し、各試料に含まれる水分、可燃分及び灰分の重量比と、乾燥後の各試料の総発熱量とが示されている。図4には、水熱処理後の試料1〜5に関し、乾燥状態及び未乾燥状態の総発熱量が示されている。
【0068】
【表3】

【0069】
試料4及び5の医療系廃棄物は、いずれも、水熱処理後に高い発熱量を有する。試料4を試料5と対比すると、試料4は、添加剤(生石灰)の添加等のために可燃分の含有量が相対的に低下しているので、総発熱量も相対的に低下している。しかし、表2に示されるとおり、試料4においては多くの有機塩素が無機塩素に転換しており、試料4に対しては、有効な脱塩処理(有機塩素の無機塩素化処理)がなされている。
【0070】
試料1〜3を比較すると、比較的多量の添加剤(生石灰)を添加された試料2においては、可燃分の含有量が相対的に低下しており、その発熱量も低下している。これは、多量の添加剤(生石灰)の添加が再生燃料の発熱量の低下を招くことを意味する。即ち、添加剤(生石灰)の過剰な添加は、再生燃料の発熱量を低下させることから、添加剤(生石灰)の添加量には限界があり、無機塩生成剤の種類、成分等、混合廃棄物の種類、成分等、更には、目標とする再生燃料の発熱量等に相応して適切な添加剤(生石灰)の添加量の範囲が存在する。
【実施例2】
【0071】
図5は、本発明の第2実施例に係る混合廃棄物処理方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示すブロック図であり、図6は、図5に示す廃棄物処理装置の構造及び作動形態を概略的に示すブロックフロー図である。
【0072】
本実施例の廃棄物処理装置は、温風通風乾燥方式の強制乾燥設備を備えた単一の反容器を有する。強制乾燥設備は、外気を反応器に導入する送風機及び給気管と、反応器内の雰囲気を系外に排気する排気管とを備える。給気管には熱交換器が介装される。熱交換器には、熱交換器に熱媒体を循環させる熱媒体循環回路が接続される。熱媒体循環回路を構成する熱源として、反応器に接続した水蒸気供給源を使用し、或いは、水蒸気供給源の燃料と同一又は同等の燃料によって熱媒体流体を加熱する加熱装置等を使用することができる。このような加熱装置の燃料として、再生固形燃料の一部を使用しても良い。
【0073】
図6(A)及び図6(B)に示すように、混合廃棄物及び無機塩生成剤が反応器内に導入され、所定圧力の飽和水蒸気を反応器内に充填した状態が所定時間保持された後、水蒸気の供給が停止されるとともに、反応器内の水蒸気が廃蒸気として排水処理装置に排出される。廃蒸気中に含まれる塩化水素は、排水処理装置において除去される。図6(C)に示す如く、熱交換器によって加熱された外界雰囲気の空気が、送風機の送風圧力下に反応器内に強制通風され、反応器内の雰囲気は、強制換気される。反応器内の生成物(水熱反応後の廃棄物)は、温風通風による乾燥処理を受けた後、(塩化水素及び無機塩生成剤の反応によって生成した)無機塩を含む再生固形燃料として反応器から払い出される。
【0074】
なお、図6に示す廃棄物処理装置の他の作動工程は、図1及び図2に示す廃棄物処理装置の作動工程と実質的に同じものであるので、前述の実施例の説明を引用することにより、重複する記載を省略する。
【実施例3】
【0075】
図7は、本発明の第3実施例に係る混合廃棄物処理方法を実施するための廃棄物処理装置の全体構成を概略的に示す廃棄物処理装置のブロック図である。
【0076】
本実施例の廃棄物処理装置は、第1反応器内に残留した固形分に含まれる無機塩を溶出除去する手段として、常温(大気温度相当)の水(液相)、或いは、加温された水(液相)を第1反応器の固形分(水熱処理後の廃棄物)に加えて固形分及び水を混合攪拌する混合攪拌槽を備えるとともに、混合攪拌槽に生成した混合スラリーを脱水する固液分離装置を備える。混合攪拌装置は、固形分を水に良好に分散せしめる混合攪拌機構を備えており、固形分中の無機塩は水に溶解し、水中に拡散する。好ましくは、混合攪拌槽内に供給すべき水の重量は、固形分1重量部に対して2重量部から50重量部の範囲内に設定される。
【0077】
混合攪拌槽の混合攪拌処理によって得られた混合スラリーは、スラリー給送管等の管路を介して固液分離装置に導入される。固液分離装置として、圧搾脱水方式、加圧脱水方式又は遠心脱水方式の機械式脱水機を好適に使用し得る。固液分離装置内で分離した脱離液は、廃液管等を介して排水処理装置に排出される。固液分離によって得られた固形分は第2反応器に供給され、前述の如く乾燥処理を受けた後、再生固体燃料として第2反応器から払い出される。
【0078】
図8及び図9は、図7に示す廃棄物処理装置の構造および作動形態を概略的に示すブロックフロー図である。
【0079】
図8(A)に示す如く、第1反応器の混合廃棄物W1及び無機塩生成剤は飽和水蒸気の存在下に攪拌され、混合廃棄物W1は熱分解処理を受ける。図8(B)に示す如く、第1反応器に残留した固形分W1'は混合攪拌槽に導入され、同時に、所定量の水が混合攪拌槽内に供給される。固形分は槽内で水と混合するとともに、混合攪拌処理を受けてスラリー化する。混合攪拌槽の混合攪拌機構は槽内の撹拌翼を回転駆動し、固形分に含まれた無機塩は水に溶解して水中に拡散する。
【0080】
混合攪拌槽に生成した混合スラリーは固液分離装置に導入される。この工程が図9(A)に示されている。脱水機内で固形分から分離した脱離液は、廃液管を介して排水処理装置に排出され、脱水後の固形分W2のみが第2反応器に供給される。図9(B)に示される如く、固形分W2は、乾燥処理を受けた後、再生固形燃料として第2反応器から払い出される。他方、第1反応器内には、混合廃棄物W1及び無機塩生成剤が新たに供給されるとともに、高温・高圧の飽和水蒸気が水蒸気供給系設備によって第1反応器内に導入される。以下、図8及び図9に示す工程が反復実施される。なお、図8及び図9に示す廃棄物処理装置の他の作動工程は、図1及び図2に示す廃棄物処理装置の作動工程と実質的に同じものであるので、前述の実施例の説明を引用することにより、重複する記載を省略する。
【0081】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0082】
例えば、第1及び第3実施例では、第2反応器は、常温通風乾燥方式の乾燥処理手段を備えた構成のものであるが、地域の気象条件、環境等に応じて、温風通風乾燥方式の乾燥処理手段を第2反応器に設けても良い。
【0083】
また、固形分を乾燥させる手段として、地域の気象条件、環境等によっては、自然乾燥方式の乾燥処理手段を採用することも可能である。この場合、乾燥処理を意図した第2反応器の設置や、送風機、熱源、熱交換器等の乾燥処理用設備機器の設置を省略することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、水蒸気による加熱処理によって混合廃棄物を再生燃料化する際に、廃棄物中の有機塩素を除去する廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置に好ましく適用される。本発明の脱塩方法又は脱塩装置によれば、建築物又は建築群等から排出される生活系生ゴミ、廃プチスチック、バイオマス系廃棄物、医療系廃棄物等の廃棄物を脱塩し且つ微細化・微粉化することができる。本発明の脱塩方法又は脱塩装置によって得られた脱塩処理後の再生固形燃料は、例えば、ボイラー、燃焼炉、ガス化炉、熱分解炉、発電装置等の炉内又は燃焼設備に燃料又はガス化原料として供給され、或いは、廃プラスチック油化装置に油化原料として供給される。本発明の脱塩方法又は脱塩装置は、このように燃焼炉、燃焼設備、油化設備等に供給すべき再生燃料を粉砕し且つ脱塩するための前処理設備として位置付けられ又は把握し得る。本発明の廃棄物脱塩方法及び廃棄物脱塩装置によれば、再生固形燃料の発熱量を大きく低下させることなく、しかも、容器内雰囲気を加熱すべく高性能又は大形の加熱装置を反応容器自体に設けることなく、有機塩素を含む混合廃棄物を加熱して該廃棄物を効果的に破砕し且つ脱塩することができるので、その実用的効果は、顕著である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素を含む混合廃棄物を高温・高圧の容器内領域で熱分解させて脱塩する廃棄物脱塩方法において、
前記廃棄物と、該廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物とを反応器内に導入し、
2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気を前記反応器内に供給して該反応器内の温度を前記飽和水蒸気の温度に保持した状態で、前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌して、前記混合廃棄物を熱分解するとともに、前記有機塩素及び前記金属元素を反応せしめて無機塩を生成し、
前記反応器内の水蒸気を反応器外に導出するとともに、前記反応器内に残留し且つ前記無機塩を含む固形分を再生固形燃料として反応器外に導出することを特徴とする廃棄物脱塩方法。
【請求項2】
前記金属元素は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属元素であり、前記化合物は、前記金属元素の酸化物、水酸化物又は炭酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の廃棄物脱塩方法。
【請求項3】
前記飽和水蒸気の圧力を2.5〜3.0MPaの範囲内の所定圧力に設定し、前記反応器内の温度を該飽和水蒸気の温度に所定時間保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の廃棄物脱塩方法。
【請求項4】
前記所定時間は、30分以上の時間に設定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の廃棄物脱塩方法。
【請求項5】
前記反応器内に残留した固形分に加水して該固形分を所定時間混合攪拌し、或いは、前記反応器内の固形分を混合攪拌槽に導入して加水し且つ所定時間混合攪拌し、これにより、前記固形分に残留する無機塩を水中に溶出させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の廃棄物脱塩方法。
【請求項6】
前記固形分を前記反応器から第2反応器に移送し、第2反応器において乾燥処理することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の廃棄物脱塩方法。
【請求項7】
有機塩素を含む混合廃棄物を高温・高圧の容器内領域で熱分解させて脱塩する廃棄物脱塩装置において、
前記廃棄物が導入される反応器と、
前記廃棄物中の有機塩素と反応して無機塩を生成する金属元素の化合物を前記反応器内に導入する無機塩生成剤供給装置と、
2.0〜3.0MPaの範囲内の所定圧力を有する飽和水蒸気を前記反応器内に供給する水蒸気供給装置と、
前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌する攪拌装置とを有し、
前記水蒸気供給装置によって前記反応器内に前記飽和水蒸気を充填して該反応器内の温度を前記飽和水蒸気の温度に保持した状態で、前記攪拌装置を作動して前記廃棄物及び前記化合物を混合・攪拌するようにしたことを特徴とする廃棄物脱塩装置。
【請求項8】
前記固形分を乾燥するための第2反応器を更に有することを特徴とする請求項7に記載の廃棄物脱塩装置。
【請求項9】
前記反応器内に残留した固形分に加水して該固形分を所定時間混合攪拌して、前記固形分に残留する無機塩を水中に溶出させる混合攪拌槽を更に有することを特徴とする請求項7又は8に記載の廃棄物脱塩装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−31226(P2011−31226A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182927(P2009−182927)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(506099144)株式会社北斗興業 (3)
【Fターム(参考)】